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鳥インフルエンザ診断のための遺伝子検査システムの確立

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化学生物総合管理 第4巻第1 (2008.6) 416

連絡先:〒169-0073 新宿区百人町 3-24-1 E-mail: [email protected] 受理日:2008623

【特集】

鳥インフルエンザ診断のための遺伝子検査システムの確立

Establishment of genetic diagnostic system for avian influenza in humans

貞升健志、新開敬行、長島真美、尾形和恵、吉田靖子、山田澄夫、矢野一好 東京都健康安全研究センター

Kenji SADAMASU,Takayuki SHINKAI,Mami NAGASHIMA,Kazue OGATA, Yasuko YOSHIDA,Sumio YAMADA, Kazuyoshi YANO

Tokyo Metropolitan Institute of Public Health

要旨:近年、高病原性鳥インフルエンザH5N1による鳥感染事例が日本を含む東南アジア からヨーロッパや世界の他の国々へと広がっている。300例以上のH5N1型感染鳥からヒ トへの感染事例が東アジアを中心に報告されている。鳥インフルエンザウイルスはヒトま たはブタのインフルエンザウイルスとの交雑により、人への感染力,致死力の高い新型イ ンフルエンザウイルスに最もなりうる型と考えられており、中でもH5N1は世界保健機関 によりその発生動向が注視されている。鳥インフルエンザ発生地域からの帰国者で、イン フルエンザ様症状を示した事例が都内で発生した場合には、鳥インフルエンザか否かの迅 速な判断を行うことが健康危機管理上、重要となる。しかしながら、H5N1型とヒトイン フルエンザウイルスを区別する方法がなかったため、鳥インフルエンザ、ヒトインフルエ ンザウイルスの迅速遺伝子診断を目的とし、real-time PCR法、Nested-PCR法、LAMP 法を組み合わせた鳥インフルエンザ検査システムを開発し、2005年以降6事例の鳥イン フルエンザ緊急検査(東京感染症アラート検査)検査に応用した。

キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、リアルタイムPCR、H5N1、ネスティ ドPCR

Abstract: Poultry outbreaksdue to highly pathogenic H5N1 avian influenza have been spreading from SoutheastAsia to other countries of the world including Japan. More than 300 humancases of H5N1 avian influenza virus infection as a result of infected poultry-to-human transmissionhave been reported. As a recombinant or reassortant virus between avian influenza viruses (H5, H7 and H9) and human and/or swine virus capable of efficienthuman-to-human transmission could trigger the new influenza pandemic, the H5N1 virus is being most cautiously monitored by the World Health Organization (WHO) as a possible new strain at present. If the patient who would have flu-like illness, recently returned from the H5N1 prevalent area and contacted poultry, rapid and accurate diagnosis of the patient is most important for health risk management. But appropriate diagnostic methods had not existed to diagnose H5N1 or human influenza virus. We developed “The Early Detection System for Avian Influenza” based on the real-time reverse transcriptase polymerase chain reaction (PCR), RT-nested PCR and Loop-mediated Isothermal Amplification (LAMP), and this system made it possible to detect and discriminate between avian and human

influenza rapidly. Six cases suspected avian influenza have been examined by this system from 2005.

Keywordshighly pathogenic avian influenza, Real-time PCR, H5N1, Nested-PCR

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化学生物総合管理 第4巻第1 (2008.6) 416

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社会的意義:近年、新たな感染症(新興感染症)が世界各地で突然発生し報告されている。

交通機関の発達した現代社会においては、海外で感染源と接触後、潜伏期間中に入国、そ の後発症し、さらなる感染へと拡大する場合が想定される。感染拡大を防止するためには 感染患者をできるだけ早期に隔離することにある。そのためには迅速かつ正確な検査が重 要な要素となる。

2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の事例では、ベトナム、香港や台湾でのSARS 患者発生により、当該の国々のみならず、滞在時に感染者・感染原因との接触者が帰国後 感染拡大の引き金となった。日本においても流行地域からの帰国者で、発熱、肺炎症状を 有する患者を中心に、全国各地で緊急検査が実施されたことは記憶に新しい。

本報文で論じている「鳥インフルエンザ」も同様である。本来、鳥の病気であるH5N1 型インフルエンザウイルスは、1997年以降東南アジアから世界へと広がり、ヒトにおい ても感染鳥との接触者を中心に、数多くの感染者・死亡者が報告されている。現在はまだ 種の壁がありヒトへの感染は容易ではないが、過去に大流行を起こしたインフルエンザウ イルスと同様に、ヒト型またはブタ型インフルエンザウイルスとの交雑により、新型イン フルエンザウイルスへの変貌の過程にあるといえる。

我々にできることは、鳥インフルエンザ患者の診断を迅速に行い、早期の隔離・治療に より新型ウイルスへの変化の機会を減らすことである。H5N1は2006年6月に感染症法 における指定感染症になったが、東京都においてはそれ以前より鳥インフルエンザ患者発 生国からの帰国者でインフルエンザ様症状を呈する6例の患者があり、緊急検査の必要性 があった。

我々は、正確かつ迅速に検査を実施するために、高感度な検査システムを独自に構築し、

日々改良を加えながら、そのような緊急検査に対応してきた。本報文では開発した検査シ ステムと6例の検査について概説する。

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1.緒言

オルソミクソウイルス科に属するインフルエンザウイルスはA、B、C型の三種類に分類され、

A型インフルエンザウイルスはさらにHemagglutinin (HA) 型で16種類、Neuraminidase (NA) 型で9種類に分類される (Fouchier et al, 2005)。ヒトに通常感染するA型インフルエン ザウイルスはH1N1、H3N2型であるのに対し、カモ等の水禽類にはすべての種類のA型イン フルエンザウイルスが感染する。水禽類由来のインフルエンザウイルスを鳥インフルエンザウ イルスと称し、その中でも、ニワトリ等に高致死性があるウイルスを高病原性鳥インフルエン ザウイルス、それ以外を低病原性インフルエンザウイルスとし区別している。

高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型は、1997年に香港で家禽を中心に発生し、ヒト においても18例の感染者(死者6例)が報告された。ヒト感染例で重篤な多臓器不全に至る例 が認められたことから、H5N1型インフルエンザは極めて重要な人獣共通感染症として認識さ れた。H5N1型ウイルスは、その後2003年に韓国で,2004年にはベトナム、タイ、カンボジ ア、中国、ラオス、インドネシア、マレーシアで、2005年にはロシア、カザフスタン、トルコ、

ルーマニア、2006年にはナイジェリア、エジプト、フランス、ドイツ等の国々で(厚生労働省 ホームページ、 2007)、鳥類を中心にその発生が報告されている。トルコ、アゼルバイジャン、

ベトナム、インドネシア等では、香港の事例と同様に、感染した家禽との濃厚接触者における H5N1型感染事例および死亡例が報告されている (WER, 2006)。H5N1型以外でヒトへの感染 を認めたウイルス型としては、H7型【H7N7:2003年オランダ (Holle et al, 2005)、H7N3: 2004年カナダ (WHO:EPR, 2004)、2006年イギリス (National emergency epidemiology group, 2006)】やH9型【H9N2:1999年 (Saito et al, 2001)、2003年香港】の存在が知られ る。

日本においては、1925年にH7N7型、2004年に山口、大分、京都 (今井,2004 )、2007年 に岡山、宮崎でH5N1型による高病原性鳥インフルエンザ事例の発生があり (農林水産省ホー ムページ,2007)、2005年に茨城県でH5N2型による低病原性鳥インフルエンザが家禽で発生 している。京都府や茨城県の事例では、一部の養鶏場従業員にH5型ウイルスに対する中和抗 体が検出された。

現在、H5N1型ウイルスのヒト型への明確な変異は認められていないが、鳥インフルエンザ ウイルスがヒトの体内でヒト型ウイルスと遺伝子再集合を起こした場合、さらに強毒で感染性 の強い新型インフルエンザウイルスになることが危惧されている。

鳥インフルエンザに罹った鳥類との接触歴を有するインフルエンザ様疾患患者については、

ウイルス蔓延防止の目的で、H5N1型を含む鳥インフルエンザ検査を緊急に実施する必要があ る (加瀬他,2005,水野他,2005)。東京都においては発熱等のインフルエンザ様症状があり、

高病原性鳥インフルエンザに感染している鳥との接触歴がある場合、または、高病原性鳥イン フルエンザが流行している地域へ旅行し、鳥との濃厚な接触歴を有する者を、「高病原性鳥イン フルエンザ感染疑い」と定義し、このような事例を高病原性鳥インフルエンザアラート(感染 症アラート)として、緊急検査を行うこととした。

しかしながら、今まで開発を行ってきたNested-PCR(polymerase chain reaction)法を中 心とした高感度な遺伝子検査法は、分子系統樹解析により有用なデータが得られるものの、検 査結果が得られるまでに23時間を要するため、この方法のみで緊急検査に対応することは困難 であった。そこで、Real-time (リアルタイムPCR) 法を中心に、鳥型およびヒト型インフルエ ンザウイルスの新たな検出系を開発するとともに (貞升他,2006)、市販キットである

Loop-mediated Isothermal Amplification (LAMP) 法を加え、高病原性鳥インフルエンザ検査 システムを構築するとともに、本システムをアラート事例に実際に適用した。以下、その概要 について報告する。

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2.実験方法

2-1.供試ウイルス抗原

各検査法の陽性コントロールとして、国立感染症研究所より分与された鳥インフルエンザウ イルスHA抗原:H5N1 (A/Vietnam/1194/2004)、H7N3 (A/Mallard/Nederland/12/2000)、H9N2 (A/HongKong/2108/03) および都内ヒト由来分離株H3N2 (A/Tokyo/05-221/2005)、H1N1 (A/Tokyo/04-1454/2005)、B(B/Tokyo/298/2002) を使用した。

2-2.インフルエンザウイルス遺伝子検出法 (1) LAMP 法

Loopamp RNA増幅試薬キット (RT-LAMP)、LoopampプライマーセットAvian Flu H5お よびLoopamp Avian FluH7(栄研化学)を使用し、鳥インフルエンザウイルスH5およびH7 型の検査を実施した。本法で特異的な遺伝子が検出された場合、反応チューブ内の濁度が上昇 し、検出曲線が得られる。なお、測定機器として、LA-320C(栄研化学)を使用した。

(2) 逆転写反応

リアルタイム PCR法およびNested-PCR法に使用するcDNA作成のために、抽出したRNA 溶液5μLと各検査に使用するプライマーペアとOmniscript RT Kit (QIAGEN) を用いて、37℃、

30分間反応しリアルタイムPCRおよびNested-PCR用のcDNA 10μLを作製した。

(3) リアルタイム PCR 法

鳥インフルエンザウイルスH5、H7、H9型、ヒトインフルエンザウイルスH1、H3、B型の 検出系 (新開ら,2004,Shimada et al, 2006) およびヒトインフルエンザウイルスN1,N2の 検出系を、TaqManプローブまたはTaqMan MGBプローブで設計した。それぞれの検出プラ イマーおよびプローブを表1に示した。

各プライマーおよびプローブは、各ウイルス型の遺伝子配列を基に、Primer Express 2.0 (Applied Biosystems; ABI) を用いて設計し、ABI社にて委託合成した。

反応条件は、TaqMan Universal Master Mix溶液 (ABI) に、cDNA 10μLと蛍光プローブ を加えて、【50℃(2分)、95℃(10分)】の反応後、【95℃(10秒)、57℃(1分)】の反応工程 を45サイクル繰り返した。本法で特異的な遺伝子配列が形成された場合、反応チューブ内の蛍 光強度が上昇し、判定ラインを通過した検出曲線が得られる。なお、測定機器は、ABI PRISM 7900HT (ABI) を用いて行った。

(4) Nested-PCR 法

一段階の逆転写PCR(RT-PCR)実施後に、プライマーを換えさらにPCRを行う方法である。

ヒトインフルエンザウイルスH1、H3、B型検出には、3型を同時に検出するmultiplex-PCR 法 (新開他,2004b,長島1997) を,H5型検出には国立感染症研究所の推奨するRT-PCR法 の内側に新たなプライマーを設計し、使用した (表2)。ヒトインフルエンザウイルス検出系に ついては、H1-FPAN/H1-FPBN、HN153/HN253およびIB-153/253をミックスしたプライマ ーを用いて【94℃1分、51℃2分、72℃2分】の条件で30サイクルの増幅反応を行い、その 後、これらのPCR産物を材料として、IU-153/IU-253、IFA-A153/IFA-A453およびIB-353/453 を新たなプライマーとして、同条件で30サイクルの増幅反応を行った。鳥インフルエンザウイ ルス検出系については、H5-515f-N/H5-1220R-Nプライマーで【94℃1分、53℃2分、72℃3 分】の条件で35サイクルの増幅反応を行い、H5-nest-F/H5-nest-Rプライマーを用いて、51℃ のアニーリング温度で35サイクルの増幅反応を行った。各PCR反応終了後、2%アガロースゲ

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ル電気泳動にて特異バンドを認めたものを陽性と判定した。

(5)RT-PCR 法

国立感染症研究所が推奨する高病原性鳥インフルエンザ検査法である、H5-103f/H5-1220rプ ライマーによる方法【2005年7月版】(国立感染症研究所,2005)および

H5-248-270F/H5-671-647Rプライマーによる方法【2006年6月版】(新型インフルエンザ専門 家会議,2006)を採用した。検査は、各検査マニュアルに準拠した方法で実施し、2%アガロー スゲル電気泳動にてバンドを認めたものを陽性と判定した (図4)。

2-3.各検査法の検出感度の検討

H5N1型ウイルス (A/Vietnam/1194/2004) 抗原液より抽出したRNAを10倍段階希釈した溶 液(原液、10-1~10-4倍)を作成し、LAMP法、リアルタイム PCR法、Nested-PCR法およ

びRT-PCR法の各検査法の検出感度を比較した。

2-4.塩基配列の決定

Nested-PCR法による高病原性鳥インフルエンザアラート検査において、陽性のバンドが認め

られた検体については、2.5%低融点ゲル (NuSieve GTG Agarose) にて電気泳動後、特異バン ドを切り出し・精製し、dye terminator cycle sequencing法にて塩基配列を決定し、Mega3 (Kumar et al, 2004) を用いて分子系統樹解析を行った。

2-5.患者検体からの遺伝子抽出法

2005年3、7、12月、2006年1、4、6月に、高病原性鳥インフルエンザアラートの症例定義 を満たした6例の患者について、咽頭拭い液や鼻腔拭い液等から、鳥インフルエンザウイルス 等の遺伝子検査を実施した。バイオセーフティレベル3 (BSL3) 実験室に検体を搬入し、核酸 抽出試薬キットQIAamp RNA Viral Mini kit (QIAGEN) を用いて、咽頭拭い液等の臨床材料 から、添付書の手順に従い核酸(RNA)の抽出を行い、RNA溶液を得た。陽性コントロール として用いたウイルス抗原またはウイルス株からのRNA抽出は、セパジーンRVR(三光純薬)

を使用し、RNA溶液を得た。

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表1.Real-time PCR 用プライマーおよびプローブ

表2.Nested-PCR 用プライマー

表3.H5 亜型検査用プライマー(RT-PCR)

H1-VAF F 5'- CTCTGTAGTGTCTTCACATTATAGCAGAAG-3' H1-VAR R 5'- TGATCTCTTACTTTGGGTCTTTTGG-3' H1-MGBVA P 5'- FAM-TTCACCCCAGAAATA-MGB-3'

H3-F F 5'- TCAAGCATCAGGAAGAATCACA-3' H3-R R 5'- CCGATATTCGGGATTACAGTTTG-3' H3-P P 5'- VIC-TCTCTACCAAAAGAAGCCA-MGB-3' B-F210 F 5'- CAAATCCTCAAAAGTTCACCTCATC-3' B-R277 R 5'- GCCGCCAATCTGAGAAACA-3' B-probe239T P 5'- VIC-AATGGAGTAACCACACATT-MGB-3'

NA1-681H-F F 5'- TGTCTGTGTGAACGGKTCATG-3' NA1-743H-R R 5'- GAGGCGGCCCCATTACTC-3' N1-708TP-H P 5'- FAM-CATAATGACCGATGGCC-MGB-3'

NA2-295-F F 5'- ACATTACAGGATTTGCACCTTTT-3' NA2-351-R R 5'- CACCARCGGAAAGYCGAA-3'

N2-319TP P 5'- VIC-CTAAGGACAATTCG-MGB-3' RT-H5-1607N-F F 5'- GGMAYYTAYCARATAYTGTCAVTYTAYTC-3' RT-H5-1688N-R R 5'- CCAWAARGATAGACCAGCYA-3'

Flu-H5-1639 P 5'- FAM-AGTGGCGAGTTCCCTAGCACTGGCAA-TAMRA-3' Flu-H5-1639N P 5'- FAM-AGTAGCGAGCTCCCTAGCACTGGCAAT-TAMRA-3'

RT-H5-272F F 5'- AATGTGTGAYGARTTYMTYAATGT-3' RT-H5-342R R 5'- GRYCRTTGRCTGGAYTGRYYTTCT-3' Flu-H5-298M P 5'- FAM-CGGAATGGTCTTACATAGT-MGB-3'

RT-H7-489F F 5'- AGAGATGAAATGGCTCCTGTCAA-3' RT-H7-568R R 5'- CTTTCCTTGTGTTYTTGTATGACTTAGTC-3' Flu-H7-513 P 5'- VIC-CACAGACAATGCTGCTTTCCCGCA-TAMRA-3' RT-H9-907F F 5'- GAGGGTTGTTTGGTGCCATAG-3'

RT-H9-976R R 5'- CCGTACCAGCCTGCGACTAG-3'

Flu-H9-929 P 5'- TET-TGGATTCATAGAAGGAGGTTGGCCTGG-TAMRA-3' 遺伝子

領域 亜型

インフルエンザ ウイルス

トリ型

H5

H5

プライマー, 塩基配列 プローブ名

ヒト型

H1

H3

B

N1

F:Forward, R:Reverse, P:Fluorogenic Probe N2

HA

NA

H7

H9 HA

H1-FPAN F 5'- AGGGAGCAATTGAGTTCAGTA-3' H1-FPBN R 5'- CCATTTGCCTCAAATATTATTG-3'

IU-153 F 5'- TTACAGAAATTTGCTATGGCTG-3' IU-253 R 5'- ACACTACAGAGACATAAGCATT-3' HN-153-07 F 5'- TTTTGTTGAACGCAGCAAAGC-3'

HN-253 R 5'- CTCCCGGTTTTACTATTGTCC-3' IFA-A153 F 5'- GATTATGCCTCCCTTAGGTC-3' IFA-A453-07 R 5'- TATTCCTTACTCTGGGTCTAG-3'

IB-153 F 5'- GCAAAAGCTTCAATACTCCAC-3' IB-253 R 5'- TTTGTGGTAGCCCTCCGTC-3' IB-353 F 5'- GGAACCTCAGGATCTTGCC-3' IB-453 R 5'- GGTAGCCCTCCGTCTTCTG-3' H5-515f-N F 5'- CATACCCAACAATAAAGAGA-3' H5-1220R-N R 5'- GTGTTCATTTTGTCAATRAT-3' H5-nest-F F 5'- GGAATGCCCCAAATATGTGAA-3' H5-nest-R R 5'- GTCTGCAGCGTACCCACTCC-3' H5

(202bp) HA

トリ型

塩基配列 プライマー名

ヒト型

H1 (173bp)

H3 (366bp)

B (315bp) HA

インフルエンザ

ウイルス 遺伝子領域 亜型

H5-515f-N F 5'- CATACCCAACAATAAAGAGA-3' H5-1220R-N R 5'- GTGTTCATTTTGTCAATRAT-3' H5/248-270  F 5'- GTGACGAATTCATCAATGTRCCG-3'

H5/671-647 R 5'- CTCTGGTTTAGTGTTGATGTYCCAA-3' H5

(708bp) H5 (424bp) HA

塩基配列 プライマー名

遺伝子領域 亜型

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3.結果

3-1.H5 型検査法の検出感度の比較

H5N1型ウイルス (A/Vietnam/1194/2004) 抗原希釈RNA (10~10-4溶液) を用いて、

LAMP法、リアルタイムPCR法、Nested-PCR法およびRT-PCR法の各検査法の検出感度を 比較した結果、リアルタイムPCR法では、H5型 (FAM-TAMRA) の検出系で10-3希釈まで、

H5型 (FAM-MGB) の検出系で10-4希釈まで検出することができた (図1)。一方、LAMP法 では10-2希釈まで (図2)、Nested-PCR法では10-1までしか検出できなかった。RT-PCR法 では2006年6月以降に推奨されているH5-248-270F/H5-671-647Rプライマーを使用した方法 では10-2まで検出されたが (図3)、従来のH5-103f/H5-1220rプライマーを使用した方法では 10希釈液の検出ができなかった。以上の結果から、H5型検査法では、検査法毎に検出感度が 異なり、最も検出感度が高いのがリアルタイムPCRで、次いで、LAMP法、Nested-PCR法、

RT-PCR法 (H5-248-270F/H5-671-647 Rプライマーによる方法を除く) の順に検出感度が低 くなることが明らかとなった (表4)。

図1.リアルタイム PCR 法(FAM-MGB)による H5 型インフルエンザウイルス遺伝子の検出

(10-1~10-4希釈抗原)

図2.LAMP 法による H5 型インフルエンザウイルス遺伝子の検出(10-1~10-4希釈抗原)

10-1 10-2 10-3 10-4

サイクル数→

10-1 10-2

反応時間→

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図3.RT-PCR 法による H5 型インフルエンザウイルスの検出(10-1~10-4希釈抗原)

表4.H5型ウイルスRNAを用いた各検査法の比較

3-2.高病原性鳥インフルエンザアラート事例への対応

東京都では図4に示す検査体制を構築した。すなわち、都内の医療機関で、高病原性インフ ルエンザ疑いの症例定義を満たした事例が発生した場合、医療機関から管轄の保健所に、保健 所より感染症対策課に患者情報が送られる。保健所は検体採取後、直ちに当センターに検体を 搬送する。当センターでは検体受付後、直ちに検査を開始し、検体を受け付けてから、3時間 後にLAMP法、6時間後にリアルタイム PCR法、23時間後にNested-PCR法の検査結果を感 染症対策課へ連絡する。

3-3.アラート事例の鳥およびヒトインフルエンザ検査

2005年3、7、12月、2006年1、4、6月に、高病原性鳥インフルエンザアラートの定義を 満たした6例について咽頭拭い液等の検体を採取し、鳥インフルエンザウイルス等の遺伝子検 査に供した結果 (表5)、LAMP法、リアルタイムPCR法およびNested-PCR法では、鳥イン フルエンザウイルス遺伝子は検出されなかったが、3例よりリアルタイムPCR法および

Nested-PCR法でインフルエンザウイルスH3型遺伝子が、1例からH1遺伝子が検出された。

Nested-PCR法により増幅された遺伝子産物を精製後、塩基配列を決定し、分子系統樹解析を

×1 ×10-1 ×10-2 ×10-3 ×10-4

LAMP法 (+) (+) (+) (-) (-)

Real-time PCR法

FAM-TAMRA (RT-H5-1607N-F/1688N-R)

FAM-MBG (RT-H5-272F/342R) (+) (+) (+) (+) (+)

Nested-PCR法 (+) (+) (-) (-) (-)

RT-PCR法 (H5-515f-N/H5-1220R-N) (-) (-) (-) (-) (-)

RT-PCR法 (H5-248-270/H5-671-647) (+) (+) (+) (-) (-)

(+):検出

(-):非検出

(+) (+) (+) (+) (-)

424bp

M 1 2 3 4 M

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実施した結果、検出されたH3(図5)およびH1型は当時またはその後、東京都で流行した株 と同様の位置にクラスタリングされた。

図4.高病原性鳥インフルエンザアラート時の行政対応

図5.アラート事例より検出された H3 型の分子系統解析

医療機関

インフルエンザ 簡易検査キット

判定

陰性

検体確保

・咽頭拭い液

・血液

① 届出

管轄保健所

福祉保健局 感染症対策課

報告

健康安全 研究センター

⑥ 検査結果

検査

⑤ 検査結果

(3,6,23時間)

④ 検体搬入

③ 検体提供

②情報

A / P a n a m a / 2 0 0 7 / 9 9 A / T o k y o / 3 9 / 2 0 0 1 A / T o k y o / 2 6 / 2 0 0 0

A / T o k y o / 1 1 6 / 2 0 0 2

A / z h e j ia n g / 8 / 2 0 0 2 ( H 3 N 2 ) A / M id d ie b u r g / 4 1 / 2 0 0 3

A / F u jia n / 4 1 1 / 2 0 0 2 A / T a iw a n / 1 5 2 3 / 2 0 0 3

A / T o k y o / 1 5 8 1 / 2 0 0 3 A / W y o m in g / 3 / 2 0 0 3 A / T o k y o / 3 3 6 / 2 0 0 2

A / T o k y o / 7 6 / 2 0 0 3 A / T o k y o / 3 3 0 / 2 0 0 2

A / T o k y o / 4 4 / 2 0 0 4 A / T o k y o / 1 1 / 2 0 0 3 A / T o k y o / 7 / 2 0 0 3 A / T o k y o / 1 5 6 6 / 2 0 0 3

A / T o k y o / 2 0 1 9 / 2 0 0 4

A / T o k y o / 9 8 / 2 0 0 4 A / T o k y o / 2 8 / 2 0 0 3

A / T o k y o / 0 5 - 1 5 / 2 0 0 5 A / C a lif o r n ia / 7 / 2 0 0 4

A / N e w Y o r k / 5 5 / 2 0 0 4 A / T o k y o / 0 5 - 5 9 6 2 / 2 0 0 5

A / W e llin g t o n / 1 / 2 0 0 4

A / T o k y o / 0 4 - 2 2 8 7 / 2 0 0 5 ( A le r t ) A / T o k y o / 0 4 - 2 5 0 5 / 2 0 0 5

A / T o k y o / 0 4 - 2 4 9 0 / 2 0 0 5 A / T o k y o / 1 3 3 8 / 2 0 0 4

A / T o k y o / 0 5 - 1 3 / 2 0 0 5

A / T o k y o / 0 5 - 4 6 9 6 / 2 0 0 5 (A le r t ) A / T o k y o / 0 5 - 1 1 7 8 6 / 2 0 0 5

A / T o k y o / 0 5 - 1 2 1 9 7 / 2 0 0 5 ( A le r t ) 0 .0 1

( 2 0 0 5 / 2 0 0 6 シ ー ズ ン ワ ク チ ン 株 ) ( 2 0 0 4 / 2 0 0 5 シ ー ズ ン ワ ク チ ン 株 )

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表5.高病原性鳥インフルエンザアラート事例の遺伝子検査結果

H5 H7 H1 H3 H5 H7 H9 B N1 N2 H1 H3 H5 1 2005年3月 60代 女 (-) (-) (-) (+) (-) (-) (-) (-) ND ND (-) (+) ND 2 7月 50代 男 (-) (-) (-) (+) (-) (-) (-) (-) ND ND (-) (+) ND 3 12月 30代 男 (-) (-) (-) (+) (-) (-) (-) (-) (-) (+) (-) (+) (-) 4 2006年1月 40代 男 (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) 5 4月 50代 男 (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) (-) 6 6月 30代 女 (-) (-) (+) (-) (-) (-) (-) (-) (+) (-) (+) (-) (-) LAMP法 Real-time PCR法 Nested-PCR法

事例 日時 年齢 性別

4.考察

1997年に香港で高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型によるヒト感染事例が発生して から、約10年が経過しようとしている。世界保健機関 (WHO) の報告によると、2003年以降、

H5N1型ウイルスによるヒト感染症例は335例、うち206例の死亡が確認されている (2007年 11月12現在)。

我が国において、ヒトにおける高病原性鳥インフルエンザは感染症法で四類感染症に分類さ れ (2003年11月)、初めて法的に患者報告が義務付けられた (厚生労働省,2003)。さらに2006 年6月には鳥インフルエンザH5N1型が指定感染症に定められ (厚生労働省,2006)、全国レベ ルでの防疫対策が進められている。

H5N1型インフルエンザの発生に関しては、地域的および季節的限局性はあまり認められて いない。一方で、ヒトにおけるインフルエンザは、H1N1(Aソ連)型、 H3N2 (A香港) 型お よびB型ウイルスによる流行が冬季を中心に繰り返されている (新開他,2004,2005)。しか し、2005年4月から7月に発生した沖縄県におけるインフルエンザの発生事例 (平良他,2005) に見られたように、インフルエンザは冬季にのみ限定された疾患ではなくなってきている。し たがって、海外渡航者を中心とした高病原性鳥インフルエンザ疑い事例の場合には、鳥インフ ルエンザウイルスのみならず、H1N1およびH3N2型等のヒト型インフルエンザウイルスにつ いても、類症鑑別診断として検査を同時に実施する必要がある。

各検査法の特徴として、LAMP法はRT-PCR法やリアルタイムPCR法よりも短時間で結果 が得られるが、使用するプライマーが6種類にもおよぶため、遺伝子が変異しやすいウイルス 遺伝子領域の増幅には適さない。H5型ウイルスの検出においても、ベトナム株の検出は可能で あるが、茨城株(H5N2)の検出ができなかったことが報告されている (衛生微生物技術協議会,

2005)。

リアルタイムPCR法は2種類のプライマーに1種類のプローブを用いて、標的遺伝子の検出 を迅速に行う方法である。標的遺伝子検出系の設計の自由度が大きく、プライマーおよびプロ ーブの設計も比較的容易である。今回、我々の開発したリアルタイムPCR法による検出系は、

H5型では、国から示された基準法であるH5型検出用のRT-PCR法 (2005年7月;国立感染 症研究所) よりも、1,000倍(RT-H5-1607N-F/1688N-R)から10,000倍 (RT-H5-272F/342R)、 新たな基準法 (2006年6月) よりも10倍から100倍検出感度が高いことが判明している。さ らに、H7およびH9型にも対応した系を作製した。ヒトインフルエンザウイルスについても、

H1,H (N1、N2)、B型の検出が可能で、従来のNested-PCR法よりも迅速で、かつ広範な型 の検出にも対応可能となった。

Nested-PCR法はPCR法を2回行う高感度な方法であり、陽性結果が得られた場合には、塩

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基配列を決定し分子系統樹解析に利用することが可能である (新開他,2004a,2005)。

これらの方法に加え、市販されているLAMP法 (H5、H7型) および疫学的解析に有用な Nested-PCR法 (H1、H3、B、H5型) の利点を組み合わせた検査システムを活用することによ り、高病原性鳥インフルエンザ疑い事例が、H5N1型等の鳥インフルエンザウイルス感染によ るものか、ヒト型インフルエンザウイルスによるものかを迅速かつ高感度に判別、検査するこ とが可能となった。

しかしながら、H5N1型は海外発生株における遺伝子変異 (WHO Global Influenza Program Surveillance Networlk, 2005) が報告されていることから、常にGenBank等のデータベース から最新の遺伝子配列情報を得て、リアルタイムPCRやNested-PCR法に使用するプライマ ー等の更新を図っていく必要がある。H5型以外にも、H7、H9型鳥インフルエンザウイルスや ヒトインフルエンザウイルスH1、H3、B型およびN1、N2型についても同様に更新を行って いく必要がある。

Nested-PCR法によるH1、H3、B型の検出は、リアルタイムPCR法と同程度の検出感度が 得られているにもかかわらず、H5型の検討では、リアルタイム PCR法よりも感度が低い結果 が示された。この理由として、今回検討した方法は、国の検査マニュアルに採用されていたH5 型検出RT-PCR法 (増幅領域708bp) をベースに作成したため (国立感染症研究所,2005)、増 幅領域が長く、迅速診断には向かないことが要因として考えられた。2006年6月にはRT-PCR 法による新たなH5型検査マニュアルが作成・公表されたため (新型インフルエンザ専門家会議,

2006)、2006年7月以降新たなH5型RT-PCR法を加えた方法にシステムを変更した。

当センターでは2003年に発生した重症急性呼吸器症候群 (SARS) の教訓から (新開他,

2004b)、先んじてH5N1を含む鳥インフルエンザウイルスならびに類症鑑別診断のための遺伝

子検査システムを構築し、東京感染症アラート検査 (東京都感染症対策課,2006) の実戦に応 用してきた。今後も、検査法ごと (LAMP法3時間、リアルタイムPCR法6時間、Nested-PCR 法23時間) に結果が出次第,迅速に報告していくとともに、このシステムをさらに改良してい くことが、高病原性鳥インフルエンザを含めた新たな新興感染症の実験室診断法の確立に不可 欠であると考える。

本報文は,東京都健康安全研究センター研究年報第57号(2006)に掲載された論文の内容に一 部加筆・修正したものである.

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