実 践 紹 介
59 1.はじめに
「漢字
4」のクラス共通の活動として行われている「語彙マップ」と「短作文」は,個
人だけではなく,他者との協働を意識した活動としてデザインされており,具体的な活動 の進め方は各クラス担当に一任されている。本稿では,日本語教育研究センターで
2019
年春学期に筆者が担当したクラスで行った協働での教室活動について報告する。2.「漢字 4」の授業
「漢字
4」では,中上級の漢字語彙をメタ的観点から整理して,文の中で理解し,他者
の力を借りながら自力で漢字知識を増やせるようになることなどを目標としている。使用 する教科書には,課ごとにターゲットとなる「学習漢字」が
20
字程度あり,各課のテー マ(漢字の仲間,反対語の漢字,漢語の動詞,漢語の形容詞,同音の漢字)に沿って学ん でいく。課の中の練習問題の扱いなどに関しては各教師に一任されている。教科書を扱う時間と調整しながら時間を設けて行う活動として「語彙マップ」と「短作 文」が各
3
回ある。「学習漢字」についての読みや意味,使われる場面などに関して,他 の学習者に説明することで自分の理解を見直し整理すること,さらに,他の学習者の説明 を聞くことで一人では気付きにくい様々な視点からの知識を広げていくことを目指し,こ れらの活動を行った。以下で「語彙マップ」と「短作文」それぞれについて振り返る。3.教室活動 3-1.語彙マップ
この活動の目的は,「習った漢字のことばを増やす。習った漢字がどのような場面で使 われるかを考える」である。各課の「学習漢字」から
2
つ選んで,その漢字を使った言葉 と意味などをそれぞれ5
つ以上書く。また,選んだ1
つの漢字から関連する言葉を繋げて 自分の語彙マップを作る。完成させたものを次回の授業で提出することになっている。教 師から返却された語彙マップをグループの他のメンバーに見せ,選んだ漢字からどのよう に言葉を繋げていったのかを説明する。聞き手には,説明をきちんと聞いてもらうために 早稲田日本語教育実践研究 第 8 号持寄り共有する漢字授業
―漢字 4 のクラス活動の事例から―
頓所 満枝
科目名:漢字 4
レベル:初級 1・2 /中級 3・ 4 ・5 /上級 6・7・8 履修者数:22 名
早稲田日本語教育実践研究 第 8 号/ 2020 / 59―60
60
説明を聞いた後に必ずコメントをすることをお願いした。
自分のマップに「テーマ」をつけて「今回は○○の関連で繋げてみた」とか,「○○さ んの語彙マップは,いつもアニメに関係ある言葉になる」などのコメントがされるように なり,回を重ねるごとに一人一人の個性が見えてきた。
さらに,各課のテーマに関連して漢字や熟語をグループ分けしたり,反対語や意味の対 応ペアを作ったり,同音や類義の漢字を集めたりと,教師からの「お題」に取り組んだも のをグループで共有したり,その場で一緒に取り組んでもらったりした。
3-2.短作文
この活動の目的は,習った漢字を
1
文レベルではなく,文章の中で適切に使えるように なることである。課の「学習漢字」の中から2
つ以上を使って短い作文をして,次回の授 業で提出することになっている。宿題として書いてきた短作文を3
〜4
人のグループで回 し読み,読んだら必ず短文を書いた本人にコメントをすることにした。始めは辞書の例文をそのまま写したようなものが多かったが,その中で,自分で考えて 書いたと思われる文を全体で取り上げ,このように自分の言葉で文を作ってほしいと伝え たところ,少しずつ個性豊かなオリジナルの文が増えた。教師だけでなく他の学習者の目 を意識したことで字形などにも気を配るようになることも期待した。回を追うごとに,学 習者同士の関係も変化し,それぞれの個性が滲み出る面白い内容の文になり,最終回では
8
割以上の人が学習漢字を10
個以上使って6
行の罫線いっぱいに例文を書いていた。他 の学習者が実際にどのようにターゲットの言葉を文の中で使っているのかを目の当たりに し,文の内容だけでなく文中での言葉の選択や使い方に関して確認しあうグループも見ら れた。「先生,○○さんの作文おもしろい!」と教師に声をかけてくる学習者もいた。4.実践の成果と課題
学習者同士の協働による活動を行ったことで,単調になりがちな漢字の授業に対するモ チベーションをいくらか上げることができた。また,各自の学習を持ち寄り共有したこと で新しい気づきを得たという点では,有益であったと言える。漢字を覚え語彙を増やして いくのはとても個人的な作業であるが,クラスでは,一人一人が自分なりの学習方法を見 つけ,自分に必要な漢字の語彙を自律的に増やしていくための支援の場を提供したい。
しかし一方で,漢字の授業に協働を期待していなかった学習者もいたに違いない。毎回 すべてのグループで活発なやりとりがされていたわけではなく,教師に指示されたことを 淡々とこなしているように見えるグループもあった。学習者がクラス授業に期待している ことや学習スタイルはさまざまである。今後は,そのような学習者にも興味をもって積極 的に参加してもらえるように工夫を重ねて,気づきの多い活動を探っていきたい。
(とんしょ みつえ,早稲田大学日本語教育研究センター)