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雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究

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ン : 日本語「口頭表現B‑IX」科目を事例として

著者 後藤 多恵

雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究

号 17

ページ 147‑159

発行年 2020‑03

権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター

URL http://doi.org/10.14988/pa.2020.0000000220

(2)

要 旨

 本稿は、同志社大学日本語・日本文化教育センターの日本語科目「口頭表現

B-IX」の実践をもとに、ACTFL-OPIの超級話者を目指すためのシラバス・デ

ザインの方法について論じる。本科目のシラバスにACTFL-OPIの能力基準を 活用した背景と根拠を述べ、それに基づき作成したシラバスを紹介する。さらに

ACTFL-OPIの「上級」から「超級」の能力基準に合わせて開発したタスクとプロジェ

クトワークについて詳細を述べる。

キーワード

日本語 ACTFL-OPI 超級 シラバス・デザイン タスク カリキュラム

1 はじめに

 同志社大学日本語・日本語教育センター(以下、日文センター)では、学内の留学 生を対象に 9 段階のレベルに分けた多様な日本語科目を開講している。Ⅰ〜Ⅲが初級、

Ⅳ〜Ⅴが中級、Ⅵ〜Ⅷが上級、Ⅸが超上級と設定され、開講科目はレベル毎に、「総合」

「読解」「口頭表現」「文章表現」などがある。本稿が事例として報告する「口頭表現B-Ⅸ」

は、超上級の対話型の口頭表現能力養成を目指すための科目である1

 超上級レベルは、2008 年に日文センターに開設され、(1)「より高度な日本語の運用 能力の習得を目指す」(2)「日本人学生と日本語で十分な議論ができるようになる」と いう目標が掲げられた2。最上クラスの超上級としての性格上、学生の日本語能力の上 限を設定できないことや、参照できる教材や事例も限られていたため、担当教員は手 探りで実践をスタートし、シラバスに修正を加えつつ、経験を蓄積してきた。筆者も その一人として、超上級レベルの口頭表現科目のシラバス・デザインとそのプロセス を報告したいと考える。

 以下の 2 では、本科目がACTFL-OPIの能力基準を取り入れた背景を述べる。OPI について概観したのち、OPIを取り入れることの意義を論じる。次に 3 では、ACTFL- OPIを軸に考案したシラバスについて報告する。機能的目標とタスク内容を紹介し、

ACTFL-OPI の能力基準を活用したシラバス・デザイン

―日本語「口頭表現 B-IX」科目を事例として―

Syllabus Design by Utilizing ACTFL-OPI

A Case of Oral Expression B-IX Class for Japanese Language

後藤 多恵

(3)

またそれらの実践方法について述べる。また、インタビュープロジェクトの内容と実 施方法について述べる。最後に 4 で、まとめと残された課題について述べる。

2 ACTFL-OPI を授業に取り入れた背景 2-1 ACTFL-OPI とは

 OPI(Oral Proficiency Interview)はアメリカ外国語協会(The American Council on the Teaching of foreign Languages、以下ACTFL)によって開発された汎言語的な 口頭能力測定試験で、外国語学習者の会話のタスク達成能力を、一般的な能力基準を 参照しながら対面のインタビュー方式で測定し、「ACTFL言語運用能力基準」に基づ いて判定するテストである3

 その判定尺度は、資料の表 1 に示した通り、超級、上級、中級、初級の 4 つの主要 レベルに分けられ、さらに、超級以外の 3 つの主要レベルは「上、中、下」の 3 つの 下位区分に分類され、10 段階の判定がある。また、能力判定に際しては、「タスク・機 能(遂行能力)」「場面/内容(処理能力)」「正確さ(生成能力)」「談話(構成能力)」

という側面から観察し、それらを総合的に判断して能力を判定する。その 4 つの側面 と具体的な能力記述に関しては、資料の表 2 に超級の例を示す。

2-2 ACTFL-OPI の基準を取り入れた経緯

 目標設定としてのACTFL-OPIの有効性は、萩原稚佳子が 2007 年に『日本語超級話 者へのかけはし―きちんと伝える技術と表現―』(共著)で作成した日本語学習教材に よって示された。この教材は、ACTFL-OPIの能力基準を参考に具体的なタスクを考 案する方法を示唆したという点において、上級レベル以上の口頭能力養成を担う日本 語教師に与えたインパクトは大きいと思われる。

 ACTFL-OPIの判定の際に参照される「ACTFL言語運用能力基準」を本科目のシラ バスの軸として取り入れた経緯は以下の通りである。

 日文センターのプレイスメントテストでⅨレベルに配置される学生は「上級文型 100、基礎語彙 10000 語、基礎漢字 2000 字程度をすでに習得した者」という目安4があ る。Ⅸレベルの学生は日本語能力試験N1 を高得点で合格し、授業で日本語のネイティ ブスピーカーと対等にコミュニケーションがとれるだけの日本語運用力を備えている。

また最上レベルの特徴として、学生に能力の上限はなく、時にはネイティブスピーカー とほぼ同等の口頭表現能力を有する学生もいる。このような事情から、「口頭表現B-Ⅸ」

科目は、学生の能力が一定しないこと、何をどこまで教えるべきかという限定的な目 標設定が難しいことが特徴的な問題として挙げられる。本科目のような超上級レベル の「口頭表現」科目においては、初中級の言語知識を教える科目とは異なり、具体的 な教授項目の基準も一般的な授業運営のモデルもないため、最初の授業デザインが非 常に難しいと言える。

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 この問題点を考慮して、筆者が注目したのが、ACTFL-OPIである。ACTFL-OPIは 口頭能力測定試験であると同時に、教育現場への判定のための詳細な能力記述「ACTFL 言語運用能力基準」が公開されている。萩原(2001)が述べている通り、この基準を 取り入れることで、担当教員も学生自身も現時点での能力を客観的に把握することが でき、さらに次の段階を目指すには具体的に何ができるようになればよいのか(課題 遂行)という目標が設定される5。ACTFL-OPIが第一に口頭能力測定試験であること、

第二に「ACTFL言語運用能力基準」によって 10 段階の口頭能力が詳細に記述されて いること、第三に目標言語を用いて総合的にどのようなタスク(課題)が遂行できる かというプロフィシエンシー(達成度)を重視していること、以上の利点によって、

本科目の軸として取り入れることとした。

2-3 上級から超級を目指すレベル設定の根拠

 授業シラバスを作成する際に重要となるのはレベル設定である。超上級レベルに相 当するOPIの判定レベルは「上級」と「超級」である。このOPIの上級話者および超 級話者に関して注目したい点は、第一に話題と状況と場面である。資料の表 3「上級話 者および超級話者の全体的特徴の比較」にあるように、話題について、「上級」では「個 人的、一般的な関心事」についての具体的な話題をタスクとしているが、「超級」では その範囲を「実用的な必要性から出てきた話題、および、専門的・学術的関心事まで の領域」としている。また、表 3 の(3)にあるように、「超級」は「話題を具体的に も抽象的にも論じる」ことができなければならない。状況については、上級ではフォー マルな状況に関しては限定的な会話参加でよいとされるが、超級では「インフォーマ ル/フォーマルのすべての状況での会話に十分にしかも効果的に参加」できなければ ならない。場面については、「上級」は「仕事上、あるいは学校生活を送る上で必要と される要求」つまり自分が関わる場面での要求に応えることができればよいが、「超級」

は「専門的・学術的環境において必要とされる言語的要求」を満たすことができなけ ればならない。

 これら以外に注目すべき点は、技術的な面である。「上級」は「主な時制の枠組みで、

アスペクトもうまくコントロールしながら、叙述したり、描写したりできる」能力が 要求されるのに対し、「超級」は、「うまく構成された議論を展開して意見を説明した り弁護したりできる」能力や「効果的に仮説を展開することができる」能力が要求さ れる。

 以上の点を考慮すると、超上級レベルに配置された学生は概ね「上級−上」の能力 を備えていると推定される。「口頭表現B-Ⅸ」の到達目標は「超級」ということになる が、超級話者になるには、まず「上級」のタスクが十分にできることが条件となるため、

授業シラバスは、「上級」の能力記述に即したものから取り入れ、「超級」のものに移 行していくことが望ましい。本科目で「上級」から「超級」、そしてさらによりよい超

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級話者を目指すという目標を立てたのは以上のような理由による。

3 「口頭表現 B-Ⅸ」の授業デザイン 3-1 到達目標

 前節で述べた通り、本科目の到達目標はACTFL-OPIの「超級」である。「口頭表現 B」は対話型の口頭表現能力の育成を扱うことから、具体的な機能上の目標を、萩原ほ か(2007)に倣い「(1)社会的・専門的な話題についての詳細な説明、描写などがで きること、(2)相手との関係を損なうことなく、説得力のある裏付けを伴った意見を 述べたり、相手の意見に反論したりできること、(3)相手に対する配慮を示しながら、

説得・助言・交渉などができるようになること」とした。

3-2 授業の枠組みと履修者の特徴

 本科目は半期(春学期・秋学期)毎に開講される技能別選択科目である。コースは 週 1 回 90 分の授業が 15 回実施される。履修者数は学期ごとに平均して 10 人程度である。

最上レベルの科目であるため、学部生の場合は 1 回生での履修はほとんどなく、早く てもⅧレベルを終えた後の 2 回生からの履修となる。交換留学生の場合、正式なディ スカッションやディベートを経験していない者はⅧレベルの「口頭表現B」を経てか ら履修することを勧めている。留学後すぐに本科目を履修し単位が取得できているの は、日本語が主専攻の者、日本への留学経験が複数回ある者、日本語を使用する家庭 環境で育った者など、いずれも日常的に日本語を使用している学生である。

3-3 シラバス

 表 1 は本科目の 2018 年度秋学期のシラバスである。授業の形態は二部に分かれる。

第Ⅰ部は第 1 〜 8 課の教室内活動で「日本語の技術」である。第Ⅱ部は、第 9 課のプロジェ クトワークで、学生の教室外活動を伴う授業である。まず、第Ⅰ部の「日本語の技術」は、

ACTFL-OPIの「上級」から「超級」にみられる機能上の目標を段階的に並べ、それ

らの機能を使用する状況と場面を考えタスク化したものである。各課は平均して授業 1 回から 1.5 回かけて行う。次に第Ⅱ部の「インタビュープロジェクト」は、開始から終 了まで 1 ヶ月半くらいを目安に実施する。これは学生が個別に進めるプロジェクトで、

課外活動が中心となる。

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表 1「口頭表現 B-Ⅸ」2018 年度秋学期シラバス

機能上の目標 課題の内容・状況 課題遂行の方法

詳細な説明ができる 日本語学習歴を詳しく話す クラスメートの一人とペア を組んで話す

詳細な描写ができる 好きな映画をクラスで紹介

する クラスメートに向けて発表

する 子供に対する相応しい話し

方ができる 小学校で児童に自分の国の

ことを話す 個人的に話す

クラス全体に話す 敬語が使える

相手に対する配慮を示す

公の場(対談番組)でイン タビューをする(ロールプ

レイ) 聴衆の前で対談する

敬語が使える

公の場に相応しい話し方が できる

公の場(結婚式/授賞式)

で経歴を紹介する 公的な場面を想定させ聴衆 に向けて話す

説得力のある裏付けを伴っ た意見を述べることができ 相手の意見に論理的に反論 できる

公の場で議論する クラス全体でのディスカッ ション

相 手 に 配 慮 を 示 し つ つ 説

得・助言などができる ガイドとして日本人観光客

を案内する(ロールプレイ) 観光客役の一人に話す 相 手 に 配 慮 を 示 し つ つ 謝

罪・交渉などができる

カ ス タ マ ー サ ー ビ ス セ ン ターでクレームに応対する

(ロールプレイ) お客様役と一対一で話す 敬語が使える

詳細を尋ねて記述ができる 詳細に報告できる

プロジェクトワーク テーマ「人生の先輩に話を 聞く」

自分が興味のある人に取材 をする

3-4 シラバスの詳細 3-4-1 「日本語の技術」

 先述の通り、第 1 〜 8 課の内容は「日本語の技術」である。第 1 〜 2 課のタスクは「上級」

の能力になっている叙述および描写の力をブラッシュアップすることを目的としてい る。これは、OPIインタビューの手法に倣ったもので、まずは楽にこなせるタスクを「下 限」として確認し、徐々にタスクの難度を挙げて「上限」を探るという方法である。

 第 1 課の「日本語学習歴を詳しく話す」は、ペアを組んで話すタスクのため、話者 が関係する具体的な話題かつインフォーマルな場面であるが、初回にこのタスクを行 う意義は大きい。つまり、資料 3 の(2)に示されている「上級」の叙述や描写の能力 を測ることができると同時に、自己表現の一つとして日本語教育歴を話すことで学生 同士の交流も促進される。しかし、学生のレベルによっては、これが比較的楽なタス クに終わる可能性もある。その場合は、ペアワークで相手から聞いた内容を口頭でク ラス全体に向けて報告したり、レポートとして記述したりするタスクを与えることも ある。クラス全体の日本語運用能力が高い場合、学期の早い段階でこのような公の場 で報告する活動をさせると、資料 4「超級」の話技能に記述されているような、会話 ストラテジーや談話管理ストラテジーの能力を詳細に観察することができる。またク

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ラス全員の日本語学習の経緯を把握することもできる。第 2 課の「好きな映画を詳し く話す」は荻原ほか(2007)のテキストから着想を得ている。自分の好きな映画を詳 細に語ることは、描写や叙述の力を伸ばす以外に、学生同士がお互いのことを知ると いう意味においても効果的である。このタスクについては、準備段階として映画のワ ンシーンを詳細に叙述する練習やペアで自由に映画について話す練習などを行った後、

宿題として 3 分程度の発表用スクリプトの作成と発表の練習を課す。学生はインター ネットを駆使して語彙や表現方法を調べ、構成を十分に検討した上でタスクを遂行す る。このタスクはクラス全体に向けて話すことが前提となるため、学生はフォーマル な場面で使用される日本語を意識することになる。

 第 3 〜 5 課はインフォーマルな日本語(普通体の会話)とフォーマルな日本語(敬 語の会話)の使い分けができるようになることを目的としている。この使い分けの能 力は、ACTFL-OPI能力基準では「超級」の条件になっている。第 3 課「小学校で児 童に自分の国のことを話す」は、子供に対する話し方を意識化させ、相手の年齢や場 面に応じた話し方を経験させる。このタスクでは、児童の年齢や場面を具体的に設定 する。学生は、年齢によって話しかけ方が異なることや、個人的に話す場合とクラス 全体に向けて話す場合とでは、スピーチスタイルを変えなければならないことを学ぶ。

第 4 課「公の場(対談番組)でインタビューをする」は、第 1 課のタスクを「超級」

向けにしたもので、アナウンサーとゲストになるロールプレイである。第 1 課と同じ く二人で話すという課題であるが、改まった場面となるため、聴衆を意識した敬語使 用の場面となる。対談番組のイメージがつかみにくい学生には、過去のNHK「スタジ オパーク」などの番組を紹介する。対談の話題に関しては、特に聞きたい質問が思い 浮かばない学生には、第 1 課と同様「日本語学習歴」を聞くよう助言している。第 5 課「公の場(結婚式/授賞式)で経歴を紹介する」は最もフォーマルな場での日本語 を経験するタスクである。このような敬意の高い敬語の使用場面を想定し、その言語 使用を経験することは、今後の自信につながると考える。またこれらの場面で使用さ れる日本語は、ネイティブスピーカーにとっても十分な準備が必要なものであるため、

話し方のマニュアルやモデル文が多数存在し、学生はモデルを見つけやすい。授業で は学生が各自インターネット検索でモデル文を見つけ、そこから語彙や文体などを学 び取るよう指示する。このタスクも第 2 課と同様に予め原稿を書かせる。場面設定は 学期によって変わる。結婚式の場合は、新郎新婦の人物像や出会いから結婚に至るま での経緯を学生に自由に設定させる。授賞式の場合は、ノーベル賞受賞祝賀記念パー ティーで、日本人または日本と縁のあるノーベル賞受賞者の教え子として授賞式に臨 む設定にする。準備段階としてノーベル賞受賞者のプロフィールを紹介した新聞記事 などを読ませ、さらに学生自身でも調べる課題も出す。このタスクは最もフォーマル な場面での日本語を学ぶことができ、「超級」の訓練として有効である。

 第 6 課のタスクは論理的な議論を目指すものである。機能上の目標は「説得力のあ

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る裏付けを伴った意見を述べることができる」「相手の意見に論理的に反論できる」で ある。議論のテーマについては、資料の表 4 にある「社会問題や政治問題など、自分 にとって重要な数多くの話題について、自分自身の意見を明白にし、その意見を裏付 けるために、うまく構成された議論をする」という記述を重視し、身近な社会問題を 選んでいる。また反論する力を伸ばすために、対立討論ができるテーマにしている。

これまでに取り上げたテーマの中で「幼児期からの早期英語教育」「防犯カメラによる 監視社会」「高校の制服着用」は身近な話題を抽象的な議論にまで発展させるという点 で効果的であった。これらは「超級」の能力基準にある「話題を具体的にも抽象的に も論じることができる」(資料の表 3)力を伸ばしやすいテーマであると言える。ディ スカッションの運営は、2 〜 3 人のグループで十分な意見交換をしてから、クラス全 体で議論するという方法をとっている。学生はインフォーマルな場面で考えを深めた 後、フォーマルな場面で議論の構成やスピーチスタイル、語彙や表現の選択を考慮し つつ議論することができる。これらの場面による話し方の切り替えは、第 1 回から継 続して意識づけを行っているため、第 6 課では困難なく切り替えができる。ディスカッ ションでは、対話における「反応の速さ」の訓練となるようスクリプトは準備させない。

スクリプトを持たずに議論すると学生自身の真の言語運用能力が表れるため、学生自 身に気づきを促す好機になるからである。学生にはディスカッションの後に、そのテー マについての自分の意見を書いて提出させるようにしている。

 第 7 〜 8 課は相手に配慮を示す対話をする経験をさせるタスクである。これらも荻 原ほか(2007)から着想を得ている。第 7 課「ガイドとして日本人観光客を案内する」

も第 8 課「カスタマーサービスセンターでクレームに応対する」も一対一の改まった 場面である。仕事上で必要とされる要求である点では資料 3 の(5)の通り「上級」の 課題であるが、言語的に不慣れな状況という点では「超級」の課題である。実施方法 はロールプレイで、第 7 課はツアーガイドと旅行客の役割、第 8 課はカスタマーサー ビスセンターの担当者とクレームがある顧客という役割になっている。学生にはでき る限り、各ロールプレイで両方の役割を経験させるようにしている。アルバイトをし ている学生や就職活動を控えている学生は、特に熱心に取り組む様子が見られる。こ れらのロールプレイでは、職業人として期待される対話の「型」が存在する。「型」と は、ここでは語彙の選び方や表現方法、談話構成、話し方(声の高さやスピード)な どの総体であると捉える。授業では会話モデルとしてその「型」を紹介し、なぜその ような「型」になるのかを全員で話し合う時間も設けている。このプロセスを通して、

日本的な思考が反映された対話の「型」を学ぶことができる。

3-4-2 インタビュープロジェクト

 インタビュープロジェクトは、学生がインタビュアとなって取材をし、その内容を 口頭と冊子(原稿)の両方で報告するというものである。表 1 の通り 2018 年度秋学期

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は「人生の先輩に話を聞く」をテーマにしたが、他に「地域の店の人に話を聞く」と いうテーマも選択肢として挙げている6

 本プロジェクトの発端は、ある交換留学生が「日本に留学しているのに、日本人と 話す機会がない」と授業中に悩みを打ち明けたことにある。その後、他の学生の状況 も調べたところ、十分な会話能力があるⅨレベルの学生でも、日本人と日本語で対話 をする機会が十分に得られていないことがわかった。この状況を改善するため、授業 の一環として日本人との対話を生む仕掛けをするに至った。このことは、結果的にト ムソン(2016)のいう大学の日本語教室と社会をつなぐプロジェクトの創出になった と言える。

 本プロジェクトの機能的な目標は、「敬語が使える、詳細を尋ねて記述ができる」で ある。この企画の目的は、コース前半の「日本語の技術」のタスクを通して学んだ言 語的技術を、プロジェクトを進める過程で、場面に応じて使うことができるようにな ることである。学生が主体的に進めるプロジェクトであるため、学生にとってはこれ までに学んだ様々な言語的技術を発揮する場が与えられる。

 本インタビュープロジェクトは学期初めにガイダンスを行うが、実際には学期後半 に入った段階で取り組みを開始する。まず第一に学生に個別に計画を立てさせ、誰に、

いつ、どこでインタビューするのか、また、どのように計画を進めるのかを口頭で説 明させる。この際の説明も、口頭表現の訓練の一部と捉える。本インタビュープロジェ クトを通して学生が行う活動は以下の通りである。

1)インタビューをする相手を決める 2)インタビューの依頼をする

3)授業でインタビューの進捗状況を報告する

4)担当教師からインタビュー協力依頼の文書を受け取る 5)インタビューを実施する(30 分程度)

6)インタビューの録音をもとに冊子用の原稿をまとめる(A4 で 2 〜 3 枚程度)

7)授業でインタビューの内容を口頭で報告する 8)インタビュー記事の冊子を製本する7

9)インタビュー協力者に冊子を渡し、お礼を述べる8

 本プロジェクトで学生が協力を依頼した人は、日文センターの教員、学生が履修し ている科目の教員、あるいは以前習ったことのある専門科目の教員、学生自身が住む 寮の管理人、社会人になった先輩、他大学の大学院生(自分の国の研究をしている日 本人)、学生自身が入社する予定の会社の先輩など、実に様々であった。学生にとって このような目上の人と 30 分以上日本語で対話することは簡単なことではないが、この プロジェクトの一連の流れは「超級」を目指す学生が自分の日本語を駆使し、教室の 外の世界とつながる機会を与えるものである。また一人の自立した日本語話者として

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の自信が生まれる契機にもなる。

 最後の課題としてまとめるインタビュー記事には、対話の内容に加え、「インタビュー を終えて」という短い感想を書くことになっている。これまでの本プロジェクトの冊 子に載せられた学生の感想のうち、5 人のもの(一部抜粋)を以下に紹介する。( ) 内にはインタビュー協力者の属性を記す。

「先生の経験から出されたお話は、生き生きした教育現場そのものだったし、様々な意見を 聞き、本当にいい勉強になった。また、外国人である私が母国に帰り、学生を相手にどう教 えるべきかについて、改めて考えるいい機会になった。」(日本語の教員)

「〇〇さん9の話を聞いて、すごく感動しました。自分の信じた道に進み、外国人がなかな かやれない研究に取り込んでいることにとても感心しています。私はこのインタビューを通 して、自分も大学院に進学するために、今から大学院に入るための勉強を始めたいと思うよ うになりました。〇〇さんにインタビューができてとてもよかったと思います。」(他大学の 大学院生)

「先生の話から歴史を学ぶ価値について、自分でも考えてみる機会になったと思います。現 在のことを考えれば、昔と価値観や考え方がすごく違うので、人々は様々な影響を受けなが ら生きていると考えました。普段、授業中に聞けないことをいろいろ聞くことができて嬉し かったです。」(専門科目の教員)

「初めてのインタビューだったので緊張しましたが、インタビューを振り返ってみると、し たことのないことに挑戦してみてすごく新鮮でした。そして、日本で就職している外国人の 方の事情を直接聞くことができ、自分の将来を考えるきっかけになって、すごく役にたちま した。」(社会人の先輩)

「毎日明るく、優しく包んでくれる寮母さんのことをとても尊敬していますが、普段あまり じっくり話せる時間がなく、今回のインタビューを通して深く対談することができ、嬉しい 気持ちでいっぱいです。最後に母親が亡くなった子の話を聞いている時は、私は涙が止まり ませんでした。この人にインタビューをして本当に良かったと心から思います。」(寮の管理 人)

 以上、これらの学生の声から、それぞれ密度の濃い対話を経験し、そこから多くの ことを感じ、学んだことが読み取れる。

4 おわりに

 本稿では、ACTFL-OPIの能力基準について概観し、超上級レベルの「口頭表現B」

科目にACTFL-OPIの能力基準を取り入れた背景とその意義を述べ、それを生かした 授業デザインの方法について詳述した。そのシラバスについては、各タスクの目的と 実施方法、及びインタビュープロジェクトの企画の意図と実施方法を述べ、最後に学

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生の感想を紹介した。

 超上級レベルの「口頭表現B」科目にACTFL-OPIの能力基準を取り入れる利点を まとめると、1)学生に「超級」を目指すという具体的な目標を与えることができる、2)

学生にどのスキルが不足しているかを自覚させることができる、3)「上級」と「超級」

の能力基準を参照することで、徐々に難度が上がっていく段階的なシラバスを作成す ることができる、4)能力基準に示された機能や話題・場面は具体的なタスクの作成に 有効に働く、5)具体的な課題遂行を積み上げることによって学生は自信を積み重ね、

無理なくプロジェクトワークに取り組むことができるとなる。

 本稿では「口頭表現B-Ⅸ」科目のシラバスの作成意図と運用方法について論じた。

これを基に今後は本シラバスによる学生の能力の伸びについても分析を進めていきた いと考える。

1 Ⅸレベルの日本語開講科目についての詳細は次の通りである。集中コースでは 1 日 1 コマ週 5 回開講される「総合」と、週 1 コマ開講される技能別科目「読解A」「読解B」「口

頭表現A」「口頭表現B」「文章表現」「語彙」がある。また、選択コースでは技能別科

目のみで「読解A」「読解B」「口頭表現A」「口頭表現B」「文法」「文章表現」「語彙」

がそれぞれ週 1 回開講されている。「口頭表現」科目は養成すべき能力を「独話型」と「対 話型」に分け、「口頭表現A」がスピーチや発表など一方向のパブリックスピーキング の訓練を行い、「口頭表現B」が日常会話や議論など双方向の対話の力の養成を行うこ とになっている。

2 2011 年度に超上級の対象がⅧレベルからⅨレベルに変更されたことに伴い、同科目も

「口頭表現B-Ⅷ」から「口頭表現B-Ⅸ」と名称を変えた。筆者は同科目を 2008 年か ら 2019 年度(2015 年度を除く)まで担当した。2016 年までは日本語・日本文化教育 センター生対象の 71 クラス(集中コース)と学部学生対象の 51 クラス(選択コース)

に分けられていたが、2017 年より両クラスが統合され「口頭表現B-Ⅸ 51」の名称で 開講されている。

3 牧野(2001)参照。

4 『2011 日本語・日本文化教育センター/留学生別科履修要綱・シラバス』参照。

5 萩原(2001)は「日本の大学での活用法」の中で、ACTFL-OPI授業に生かす方法として、

(1)テストとしての活用(2)到達目標としての活用(3)クラス活動の手段としての 活用の 3 点を挙げている。

6 テーマはクラス全員の話し合いにより決める。

7 印刷作業は担当教師が行うが、製本作業は学生全員で行う。

8 協力者に直接お礼を述べることも、重要な対話の訓練と捉えている。

9 名前が書かれていた部分を〇〇と表記した。

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参考文献

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牧野成一監修(1991)『ACTFL-OPI試験官養成マニュアル(1991 年改訂版)』アルク.

牧野成一(2001)「OPIの理論と日本語教育」牧野成一ほか『ACTFL-OPI入門−日本語学 習者の「話す力」を客観的に測る−』アルク,pp.8-49 .

牧野成一(2008)「OPI、米国スタンダード、CEFRとプロフィシエンシー」鎌田修他編『プ ロフィシエンシーを育てる―真の日本語能力を目指して―』凡人社,pp.18-37.

(13)

山内博之(2005)『OPIの考え方に基づいた日本語教授法―話す能力を高めるために―』ひ つじ書房.

資料 1:OPI 主要レベルの判定基準

超級(Superior) 意見の裏付けができる。仮説が立てられる。具体的な話題も抽象的な話題も

議論できる。言語的に不慣れな状況に対応できる。

上級(Advanced) 主な時制/アスペクトを使って叙述・描写ができる。複雑な状況に対応でき

る。

中級(Intermediate) 自分なりに言語が使える。よく知っている話題について簡単な質問をしたり

答えたりできる。単純な状況ややりとりに対処できる。

初級(Novice) コミュニケーションができるのは、決まり文句、暗記した語句、単語の羅列、

簡単な熟語でのみ。

出典:牧野(2001)p.16

資料 2:4 つの側面からみた超級の能力記述

総合的タスク・機能 いろいろな話題について広範囲に議論したり、意見を裏付けたり、仮説を立てたり、言語的に不慣れな状況に対応したりできる

場面/話題 場面:ほとんどのフォーマル/インフォーマルな場面

話題: 広範囲にわたる一般的興味に関する話題、およびいくつかの特別 な関心事専門領域に関する話題

正確さ 誤りがあっても、実質的には、コミュニケーションに支障をきたしたり、

母語話者を混乱させたりすることはない テキストの型 複段落

出典:鎌田修(2001)p.52

資料 3:上級および超級の全体的特徴の比較

上級 超級

(1) 個人的、一般的な関心事について具体的 に話されている場合、インフォーマルな 状況ならほとんどの場合に、フォーマル な状況ならある限られた場合に、活発に、

会話に参加することができる。

(2) 主な時制の枠組みで、アスペクトもうま くコントロールしながら、叙述したり、

描写したりできる。

(3) コミュニケーションをする上での多様な 工夫をしながら、予測していなかった複 雑な状況に効果的に対応できる。

(4) 段落の長さで、しかも内容のある連続し た談話の枠組みを使い、適切な正確さと 自信を見せながら、コミュニケーション を維持できる。

(5) 仕事上、あるいは学校生活を送る上で必 要とされる要求に応えられる。

(1) 実用的な必要性から出てきた話題、およ び専門的・学術的関心事の領域までの フォーマル/インフォーマルな状況での 会話に十分にしかも効果的に参加でき

(2) る。うまく構成された議論を展開して意見を 説明したり弁護したりできるし、複段落 の枠組みで効果的に仮説を展開すること ができる。

(3) 話題を具体的にも抽象的にも論じること ができる。

(4) 言語的に不慣れな状況に対応できる。

(5)非常に高度の言語的正確さを維持できる。

(6) 専門的・学術的環境において必要とされ る言語的要求を満たすことができる。

出典:牧野(1991)pp.92-93(下線は筆者による)

(14)

資料 4:ACTFL 言語運用能力基準―話技能「超級」

 超級レベルの話者は、正確で流暢な話し方でコミュニケーションをし、具体的・抽象的双方 の観点から、フォーマル/インフォーマルな状況でのさまざまな話題について、十分にしかも 効果的に会話に参加できる。難なく、流暢に、しかも、正確さを保ちながら、関心のある事柄 や特別な専門的分野について議論したり、複雑なことを詳細に説明したり、筋の通った長い叙 述をしたりする。社会問題や政治問題など、自分にとって重要な数多くの話題について、自分 自身の意見を明白にし、その意見を裏付けるために、うまく構成された議論をする。彼らは別 の可能性を探るために仮説を立てたり、その仮説を発展させたりすることができる。たとえ抽 象的な詳述をする場合でも、不自然に長くためらったりせず、要点をわかってもらうために、

必要に応じて複段落を展開する。そうした段落は、終始一貫しているが、その論理構成は、ま だ目標言語より母語の影響を受けている場合もある。

 超級話者は、多様な会話ストラテジーや談話管理ストラテジーを使いこなす。例えば、ター ンをとることができるし、高低アクセント・強勢アクセント・語調などのイントネーション的 要素や、適切な文構造および語彙を用いて、中心的となる主張とそれを裏付ける情報を話し分 けることができる。彼らは、基本的構文を使う場合、パターン化された誤りをすることは実質 上ほとんどない。けれども、特に、低頻度構文や、公式なスピーチや文書に多く使われるよう な複雑な文型の高頻度構文の使用では、散発的な誤りをすることもあり得る。たとえそのよう な誤りをしても、母語話者である話し相手を混乱させたり、コミュニケーションに支障を来し たりすることはない。

出典:牧野(1991)p.135

参照

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