ベンチャー実践の振り返りによる
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(2) 目次. 緒言.....................................................................................................................................2 第1節. はじめに ....................................................................................................................2. 第2節. 起業の動機とファーピース社の理念の基礎...............................................................3. 第 3 節 論文の構成 ...................................................................................................................4 第1章. 研究の目的・方法 ..................................................................................................5. 第1節. 目的 ...........................................................................................................................5. 第2節. 研究の方法.................................................................................................................6. 第2章. 先行研究 ................................................................................................................8. 第 1 節 理念型起業家の意思決定について ...............................................................................8 第 2 節 起業家のビジョンの形成プロセスについて ...............................................................10 第3章. ケーススタディ .................................................................................................... 12. 第 1 節 意思決定ケースの選択方法 ........................................................................................12 第 2 節 事業戦略の意思決定 とビジョン................................................................................12 第3節. 人材と組織に関する意思決定と ビジョン ...............................................................18. 第4節. 競合に関する意思決定と ビジョン .........................................................................22. 第4章. 考察・議論 .......................................................................................................... 25. 第5章. 結論・示唆 .......................................................................................................... 29. 参考文献 ............................................................................................................................ 30. i.
(3) 緒言. 第1節 はじめに 早稲田大学ビジネススクールを休学して、会社を設立して 2 年がたった。今振り返ると 起業を志した根本的な理由は、8 年半のサラリーマン生活では得られるはずのなかった自由 と解放、さらには、自分で社会へ何か還元できるのではないかという想い、そして自分の 将来への一抹の不安であったと思う。私の場合、人生の保守的な計算よりも、自由と解放 への渇望が上回ったので起業するに至ったのだと感じていた。 私は起業の前に 1 年半、大学院でアントレプレヌールシップを中心に学び、構築したビ ジネスプランを元に、理論を実践に移し検証すべく、ファーピース株式会社を設立した。 当初事業開始とほぼ同じくして、1,980 万円の資本調達に成功し、日経ビジネス 2009.11.9 号の『今こそ起業資本主義 立て 日本の草食ベンチャー』に、国内 1 社目で弊社が大々的 に掲載され、業界におけるブランドの構築作業はこの助けをかりてうまく進むことになる。 しかし、ビジネスプランどうり事業が進むはずもなく、弊社のビジョン達成までの果て しなき道と、日々の重要なあるいは雑多な日常の意思決定の狭間でジレンマを感じるよう になり、自分が何を基準に意思決定をしていたのか、弊社が目指すべき道はどこなのか、 わからなくなってきていた。上記のように事業を開始した瞬間に学内においても、業界内 においてもある程度上手く認知され、見かけ上は調子良く立ち上がったように周囲に錯覚 を与えていた。そのため、逆に収益がなかなか上がらない時期は、弊社はひょっとしたら このまま終わっていくのかも、何のためにこの会社を興したのか、日々の業務の中で自問 自答する日々が続いた。 そして事業開始から 1 年がたち、ようやく売上も立ち、次に何をすべきかも尐しずつ見 えてきた。そんな現段階にあって、今一度、最初に作った会社のビジョンや理念ではなく、 その原点にある起業家がもつ哲学のようなものを、 過去 1 年半の意思決定から探ることで、 弊社の本当のビジョンに近づける気がした。自分自身を理念型起業家と定義し、理念型起 業家の意思決定の本質を、もう一度、修士論文執筆というプロセスにおいて、強烈かつ客 観的に見極めたくなってきたのである。理論から起業を実践し、再び理論に立ち戻り、整 理・統合を行い自分の中でも一区切りつけたい。 本研究は 1 社の事例であり、企業成長のフェーズも限定的な初期段階ではあるが、その 個別で特殊ではあるが有意義な事例にひそむ、理念を基に起業した起業家の意思決定の本 質とビジョンがいかに形成されるのかを明らかにし、そこから何らかの解釈、あるいは発 見的な仮説が得られればと思う。. 2.
(4) 第2節 起業の動機とファーピース社の理念の基礎 ここでファーピース株式会社を紹介しておく。ファーピース社は、元来愛犬家であり小 さい頃から犬を飼っている筆者が、立ち上げたベンチャー企業である。参考として、創業 前に筆者が、 『挑戦する人を創出する』という Web サイトに取材して頂いた際の、約 1 時間 にわたるインタビュー記事の一部をそのまま抜粋することで、当時の実際の起業の動機を 替わりに述べる。真意である。 8 年間のサラリーマン生活では得られなかった自由、さらには、社会へ何か還元で きるのではないかという想いが起業を志した根本的な理由ではないかと考えます。あ とは、自分の思っていることを形として創造し、社会に対して表出して、それが社会 の役に立っているということで認められたいという、ある意味での自己顕示欲がある のではないかと思ったりします。 基本的に犬が好きなんです。小さいときから犬を飼っていて、今は 4 年前からプー ドルを飼っています。私が家に帰ると愛犬の「もか」が、猛ダッシュで出迎えてくれ てすごく癒されるんです。MBA に入る前に、 「もか」のためのビジネスで何かできない だろうかと考えたのがきっかけです。 ペットビジネスのリサーチを進めていくうちに、日本では遅れているが、欧米では 成功した事例が様々なドメインであることを知りました。そこで、自分が今回のペッ トビジネスを成功させることによって、日本のペットビジネスを欧米の水準にもって いけるのではないかと思いました。 例えば日本では、年間約 15 万頭以上の犬がシェルターで、安楽死という名のもと 抹殺されている現実ですが、ヨーロッパでは、徹底した犬の登録制度や飼い主の資格 制度等、インフラの整備によりそのようなことを防いでいます。また、ヨーロッパで はペットのしつけもよくできており、電車にもレストランにも入れます。 日本では、犬の数が年々増えてきた一方で、インフラの整備が遅れていると思いま す。そこで、ペットに必要とされているインフラを、自分たちが創ってあげればいい のではないかという考えから今回のビジネスに着目しました。初めは、獣医療業界で のビジネス展開を考えたのですが、そこに直接参入するにはハードルが高いというこ とがわかり、まずは、ネットを使って、飼い主が楽しめるビジネスから入ろうと決め ました。 欧米で既に実現されている、"楽しく、進んだドッグライフ"を、ネットとリアルの 融合により、飼い主にコンテンツとして提供することによって、日本を欧米の水準に 近づけていけるのではないかと思っています。さらに、しつけ、資格制度、共同飼育 を手がけている機関と連携して、自社のウェブサイト『doglogr』(開発名)でインフ ラ整備に貢献するサービスも展開して行こうと思っています。. 3.
(5) 初期のサービス展開において、真にビジョナリーなペット関係の企業さんと組むこ とによって自社ウェブサイトの信頼性を確保し、将来的には、ルールがなく、ペット が言葉を発しないため、暗黙に皆が触らなかった当業界の不透明なダークサイドも是 正し、風穴をあけたいと考えています。 出展:ドリームビジョン:2008.8., 「市場/事業レポート・ペット関連市場への新規参入」 『Dream Vision』, http://www.dreamvision.co.jp/b0000/b8000/b8080/0018.html,2010.12.25 閲覧. ファーピース株式会社 Vision: 動物と安心して暮らせる明日へ 理念:Furpeace は、動物・人間・社内外を問わず、心から誠実さと情熱を持ち、 創造性を 楽しみ、最高の卓越した活動を追求し続け、 社会にとって大切な場を創造します。 設立:2008 年 10 月 15 日 資本金:2,350 万円(2010 年 12 月現在) 事業内容:世界初、犬もつぶやくミニブログ『furpeace』(犬版 Twitter) ペットに関する Web サイトの企画コンサルティング・デザイン・運営・システ ム開発. 第 3 節 論文の構成 本研究は、5 つの章で構成されている。第 1 章で研究の目的・方法について触れ、本研究の リサーチ・クエスチョンおよび研究の意義を述べる。第 2 章では理論的背景について述べ る。第 3 章では、ファーピース社の重要な意思決定ケースの分析を行う。第 4 章は、先章 での分析結果を踏まえ、先行研究と本研究の比較、今後の研究課題について考察・議論し、 第 5 章では結論、将来への示唆について述べる。. 4.
(6) 第1章 研究の目的・方法. 第1節 目的 本研究の目的は、ベンチャー企業のケース分析、成功した起業家へのインタビューによ る事後的な分析ではなく、起業家の意思決定がいかに行われるのか、そして実際の起業活 動を実践する中で起業家のビジョンがいかに形成されるのか、という 2 点について、 「動物 と安心して暮らせる明日へ」というビジョンを挙げる、私の約 1 年半のファーピース株式 会社の起業経験の振り返りを通じて明らかにすることである。 なお、本研究では、起業家が考える企業の理想の姿、噛み砕いて言えば、将来的にどん な企業になって社会にどんな価値を提供したいのかを言葉で表したものを「ビジョン」と 定義する。さらに、「理念」と「ビジョン」を区別し、 「理念」を創業から事業の終焉まで 一貫して流れる創業の精神・哲学のようなものとし、ビジョンはその時代に合わせ変化し ていく、より具体的なものと考える。(グロービス 1998『MBA ビジネスプラン』,ダイヤモ ンド社) 併せて、ファーピース社の代表を、ここで、理念型起業家と定義する。理念型起業家と は、起業家が強く思っていることや人生哲学を、投影するような形で起業する起業家のこ とを指すこととする。ファーピース社の代表は、一言でいえば極めて「リベラル志向」な 起業家であり、その思いは、ファーピース社の理念である「動物・人間・社内外を問わず、 心から誠実さと情熱を持ち、 創造性を楽しみ、最高の卓越した活動を追求し続け、 社会 にとって大切な場を創造する。」という文言に明確に落とし込まれており、まさに起業家 自身の理念が投影されていると考えられる。 通常のケース分析は、全て過去の事例をもとに分析・分類・整理され、いわゆる著名なフ レームワークなども形成されている。分析により市場下で企業が直面している状況に対し 深い理解が得られる。しかし、分析によって企業が次に何をなすべきかが示されるわけで はない。不確実性が高く、自らがコントロールできない外部環境の影響を受けやすいベン チャーの起業の初期段階においてより重要になってくるのは、今、何が事実・真実かを知 り、かつ、将来何を知っておくべきかを今知ることである。先が読みきれない中、意思決 定し、次に何を行動すべきかを決めるのが起業家であるからである。そこで、次に何をな すべきかの意思決定の基準となっていたものは何かを、ファーピース社の重要な意思決定 ケースを振り返ることにより明らかにしたい。 次に、理念型起業家の意思決定が何の目的で行われるのかを問いたい。意思決定とは、 本研究で明らかにする上記の基準を基に、企業のビジョンを実現するために行われるべき. 5.
(7) であると考えるからである。しかし、全ての起業家がそのビジョンを起業初期から持って いたのか、あるいはどのようにしてそのビジョンを得たのか、もし、ビジョンを起業初期 から持っていいないとするならば、その他の何を目的として意思決定をしているのか。こ れらの問いに答えられなければ、本研究は長期的な視点においては、起業家自身が次に何 をなすべきかのヒントにはなりえない。もし、ビジョン形成のプロセスがあるとすれば、 ファーピース社のビジョンと重要な意思決定ケースの横の時間軸の中で、明らかにしたい。 本研究の最終的な目標は、起業家の意思決定がいかなる基準で行われるのか、そして実 際の起業活動を実践する中で起業家のビジョン形成のプロセスはあるのか、を多くの起業 家がそれぞれ知ることで、どのようなベンチャー企業であっても、常に、自らの意思決定 基準を客観視できるようになるとともに、ビジョンを獲得する手助けとなることが狙いで ある。. 【本研究のリサーチクエスチョン】 理念型起業家の意思決定の基準は何か? 理念型起業家が意思決定を下す際に、目的となっているビジョンの形成プロセスが並行し てあるとするならば、それは何なのか?. 第2節 研究の方法 本研究は、起業家の視点から分析を行う。起業の初期段階において、ベンチャー企業の は起業家自身が描いたビジョンと意思決定があって初めて、事業が推進していくと考える からである。なお、事例として私自身が起業、経営しているファーピース株式会社を取り 上げる。 本研究では、以下の 2 つのステップで理念型起業家の意思決定の基準とビジョン形成の プロセスを解明していく。. ① 重要な意思決定の 3 カテゴリのケース分析による、意思決定の要素の分析 理念型起業家としてファーピース社の代表を事例として、創業から現在に至る過去 1 年 半の重要な意思決定をケース分析する。具体的には、それぞれの意思決定に影響を与えた 要素が何であったのかを定性的に分析する。それぞれの意思決定は、事業戦略、人材・組 織、競合の 3 カテゴリに区分し、それぞれに横串として 1 年半の時間軸を加えることで、 これら事例の共通項も併せて探り、全ての意思決定において関与する要素、あるいは、時 間軸で見た意思決定の基準の変化、を見出す。 なお、本事例分析においては、意思決定のその瞬間あるいはその日々に、まさに使用さ れていたエクセル表や、ワードで記載された代表の日記、実際にプレゼンに使われたパワ ーポイントなどを元に、できる限り分析を行うこととする。この方法は、ファーピース社. 6.
(8) の代表と本研究の筆者が同一であるため、自身が現在から過去を単純に振り返ってしまう ことでおこる、周囲の目を気にすることによる自己洞察への無意識な抑圧や抵抗、逆に自 らの行動と感情から意味ある効果的な物語を創作してしまう、といったバイアスを避ける ためである。心理学者のダリル・ベム(1972)による、 「人は外部の観察者とまったく同様 に行動を観察し、その基底にある感情や特性を推測することによって、自分の内的状態を 推論する」という主張に従うためである。(Wilson T. D.: 2002, 『 Strangers to Ourselves: Discovering. the Adaptive Unconscious』, Belknap Press: 10). ② 理念型起業家のビジョンの形成プロセスの解明 意思決定の基準となった要素と当該企業のビジョンがどの程度関連していたのか、ある いは関連していなかったとすれば、その代替要因は何であったのについても、新しい概念 を持ち込こんで推測する。3 カテゴリの時間軸における、ビジョンの変化、ビジョンの形成 プロセスがあれば発見したい。. 7.
(9) 第2章 先行研究. 第 1 節 理念型起業家の意思決定について 大企業において Visionary な組織を構築するためのノウハウ的な研究は盛んなようだが、 理念型の起業家の理念に基づく意思決定(Decision Making)について深く掘り下げた研究は 国内外でもほぼ存在しない。しかし、新しいベンチャーの創造の過程において、起業家が 行う理念に基づく意思決定は、後の大きな成長の最初の一歩となると考えると、重要であ る可能性が高い。一方で、理念型の替わりに、起業家の、Ethical Decision Making、Moral Decision Making に関連する研究は、ここ 5~7 年ほどの間に、増えてきている。これらは純 粋な起業家(Entrepreneur)、そして、社会起業家(Social Entrepreneur)と呼ばれる人々も内 包した研究も含むが、ファーピース社の「動物と安心して暮らせる明日へ」というビジョ ンは、日本の犬の殺処分の現状から端を発したものであり、筆者自身、成長スピードの速 いベンチャーをやりながら根本的な社会問題を解決することは可能であるという考えで当 初は起業したため、それらを含む先行研究を学ぶことは適切である。そして、理念型起業 家の意思決定の基準は、起業家自身の人生哲学や道徳・哲学的価値観と深く関係している のではないかと筆者自身実感しているため、ここに議論として取り上げる。 PayneとJoyner(2006) は、北米で成功した10人の創業起業家に対して、in-depth interviews を行い、ベンチャー創造の実際の過程あるいは最中の意思決定における、以下2つのクエスチ ョンに答えようと研究を試みている。1) ベンチャー企業の創造の過程において、どのような領 域において起業家は倫理的な意思決定をするのか?2) 起業家は一般的に社会によって支持され ると同様の規格の倫理的・道徳的基準を持っているのか?あるいはその基準は違っているのか? ここでは起業家が意思決定をする領域を、以下の4つに分類し、インタビューの分析を行って いる。4つの領域とは、(1) individual entrepreneurial values-related decisions、(2) organizational. culture/employee well-being decisions、(3) customer satisfaction and quality decisions、 (4) external accountability decisions。(1)と(2)は Internal、(3)と(4)はExternalである。 インタビュー後、得られたデータを、倫理における世界的な研究である人間の尊厳につい. て理論を構築したカント(1964)と、正義に関する理論を構築したロールズ(1971)のフレーム ワークより分析を行っている。その結果、起業家が明らかに、またはそれとなく承認する という倫理的・道徳的基準は、社会の規格と比較して、法的または倫理的に認識されたも のと同様、であることが明らかになった。 一方で、研究は、社会の規格と個々の起業家の倫理的・道徳的基準(価値観)が異なる か否かにかかわらず、新しいベンチャーの成功に導くと推定される可能性のある潜在的な. 8.
(10) 倫理的・道徳的基準の領域、を下記に示唆している(表1) 。 表1. 出展:Dinah Payne, and Brenda E. Joyner: 2006, ‘Successful U.S. Entrepreneurs: Identifying Ethical Decision-making and Social Responsibility Behaviors’, Journal of Business Ethics, 65: 212: TABLE IV. 分析によると、(1) individual entrepreneurial values-related decisionsの領域においては、誠実 さ(Integrity)、正直さ(Honesty)、労働観(strong work ethic)が意思決定における3つの メインの基準となっていることがわかっており、その基準が、(2) organizational culture/employee well-being decisions、(3) customer satisfaction and quality decisions、 (4) external accountability decision のそれぞれの領域においても影響を与えつつ、意思決定を下しており、 その結果として徐々にExternalな方向であるベンチャー企業の成長に影響を与えていったの ではと当研究では結論づけている。そして研究では述べられていないが、Coding時の(1) individual entrepreneurial values-related decisionsの領域に関係するWord count(Percent of total interview data)の割合が、6.2%と他の(2)(3)(4)に比べて多かったことは興味を引く。 McVea(2009)は、起業家が高い不確実性の下で意志決定を行う際に、moral imagination をどれくらい働かせて、困難な問題解決の意思決定に取り組むかを調べた定性調査を行っ ている。比較として、同様の数の MBA の学生を対象群として比較した。調査結果は、起業 家群は MBA 学生群よりも、道徳的な想像力を行使する傾向がはるかに大きいことがわかっ た。一方、ビジネススクールの学生は、金銭的なリスクや、狭い範囲における利害関係者 の利害の枠の中で、意思決定を行う傾向があった。 先のPayneとJoynerの研究では、起業家の意思決定の基準は、社会によって支持されてい るそれとほぼ同様の規格であることが示されていた。しかしMcVeaの研究では一方、仮に起 業家とMBA学生らが、意思決定の基準として同じ道徳・倫理的な規格を持っていたとして. 9.
(11) も、意思決定の際、それを利用する大きさが違う可能性があり、起業家群の方が意思決定 において道徳・倫理的な側面から考える比重が高いのではないかということが示されてい る。. 第 2 節 起業家のビジョンの形成プロセスについて 一般的に良きビジョンを持つ経営者が経営する企業の業績は他社より優れており、起業 家のビジョンとベンチャー企業の業績の正の相関を示唆した研究も数多くある。しかし、 本研究においては、ファーピース社が設立2年、事業開始約1年の初期段階であることを考 えると、起業家のビジョンと企業の業績の相関をみた研究について議論するのは適切では ない。創業初期において、ベンチャー企業は極めてリソースの尐ない状態であり、業績の 前に、コストをかけずに他者の信頼を勝ち取り、ネットワークを拡げ外部のリソースを有 効利用していく力が、まず必須である。 そこで、ここでは、ベンチャー企業において、成功した起業家がなぜネットワーキング 構築が上手に行う傾向があるのか、「そのネットワーキングとVisionとの関係性は?」とい う点を、Vision and Relationsというフレームで捉え直した研究を取り上げる。起業家が Relations(家族、ビジネスネットワーキング、課外活動、読書などを内包する)を拡げてい く段階で、どのようにVision(ビジョン)が形成されてくるかをメタモデリングした研究で ある。 Filion L.J(1990)は、50人の起業家を解析した結果、まず、ビジョンには起業前のアイデア レベルで創造力から芽生えるEmerging Visionがあるとした。その後、それらの組み合わせに よってブラッシュアップされ実際にどの分野で主に何を価値として社会に提供するのかを、 意思決定によって決められるCentral Visionが生まれる。そしてCentral Visionに継続して影響 を与える要因であり、終始研ぎ澄まされていくSecondary Visionが他者とのRelationsの中で生 まれ、起業家の行動に、振り返り(reflection)を通じて影響を与え、Central Visionは、起業 家がそのビジネス分野で経験を積めば積むほど、明確に描けるようになるということを示 唆した(表2)。表2. 出展:Louis Jacques Filion: 1990, ‘Vision and Relations: Elements for an Entrepreneurial Metamodel’,. 10.
(12) International Small Business Journal January 1991 9: 26-40:Figure1. このビジョンの形成(development)と達成(achievement)のプロセスにおいてビジョンを より進歩させるためには、起業家に様々な角度から影響を与えるRelations(ビジネスネッ トワーキングet. al.)が、必要不可欠な要素の一つであると示唆している(表3)。そして、 Filionによるとビジョンは段階的に形成されると言っている。. 表3. 出展:Louis Jacques Filion: 1990, ‘Vision and Relations: Elements for an Entrepreneurial Metamodel’, International Small Business Journal January 1991 9: 26-40:Table2. これまで先行研究を順にみてきたが、起業家が持つ倫理・道徳的な基準は、社会の一般 的なそれとほぼ同様であるが、ビジネスにおける意思決定の際、その基準の適用する割合 が他の群と比べて大きい傾向があることがわかった。その中でも特に重要な要素として、 “誠実さ”、“正直さ”、“労働観”がある。 一方でメタモデルによると、起業家にはVision(ビジョン)の形成プロセスが存在し、そ のプロセスにおいて、起業家のRelations(ビジネスネットワーキングet. al.)がその形成に必 要不可欠な要素であることも示唆されている。 これらの先行研究は、全て海外での事例であり、かつ事後的な分析に基づいている。こ こに、本研究において、日本で、一人の理念型起業家の実際の意思決定の基準に影響を与 える要素を抽出し、それがどのようにビジョンと関係していたのか?を、実践の振り返り を通じて明らかにする学術的な意味があると考える。次章では、ファーピース社の重要な 意思決定3カテゴリをケースとしてそれらを分析する。. 11.
(13) 第3章 ケーススタディ. 第 1 節 意思決定ケースの選択方法 ファーピース社は、設立 2 年、事業開始 1 年、資本金 2,350 万円、従業員 2 名、今期第 1 四半期での売上見込み 260 万円、のまだ小規模なベンチャーである。わずか 2 年の期間で はあるが、これまで様々な意思決定を行ってきた。その中で、代表が直観的に、かつ金額 面で、極めて重大であったと思われる意思決定ケースを、事業戦略、人材・組織、競合の 3 カテゴリから取り上げて分析を行う。. 第 2 節 事業戦略の意思決定 とビジョン 設立前に早稲田大学のビジネススクールの講座において、約 2 万文字のビジネスプラン を詳細に練り上げ、それを持って 1,980 万円の資本を調達し会社を設立した。しかし、設立 から事業開始までの間に、事業内容の 3 回にわたる変更などにより、事業開始までに 1 年 を要した。本節では、事業戦略がどこから湧いてきたのか?、3 回の事業戦略の変更の意思 決定がなぜ行われたのか?、最終的になぜ現在の事業戦略に意思決定したのか?、を分析 することで、本意思決定における基準となっていたものを探り、ビジョンとの関係性も探 る。. 【事業戦略(内容)はどこから湧いてきたのか?】 ファーピース社は設立時点で、 「動物と安心して暮らせる明日へ」というビジョンがあっ たが、日本の犬の殺処分に関する部分を解決するための事業を行うわけではなかった。設 立の時点では、Web で犬の SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を作り、広 告収入を得るビジネスプランであった。会社設立 2 ケ月後の代表の日記には以下のように 記述されている。 「うちのもかは、散歩とボールが大好きなアクティブ犬で、常に全力疾走だ。トイ・プー ドルなのに、大きさはほとんど中型犬。いつもホテルへ預ける際には、中型犬料金になる (笑)。今日から実家に帰ってるが、午前中、久々にもかと公園で一緒に遊んだ。もかと一 緒に遊ぶことは、私の何よりのリフレッシュだ。来年、我々が提供するサービスは、そん な癒しの瞬間を Web を使って表現し、独特の癒しを Web でも表現したい。 」 (池田徹平:”てっぺい人の起業日記~ハワイでマイタイを一杯やる日まで~”:2008.12.29). 他者からみると、ファーピース社は、設立の時点で「動物と安心して暮らせる明日へ」 というビジョン、と実際の当時予定していたビジネスプランの事業戦略に、尐しズレがあ. 12.
(14) るように見える。それでは実際はどうであったのか? この設立の時点で、代表は「犬」×「Web」×「世界」で一番になるビジネス以外は興味 もなければやるつもりもないと当時手伝ってくれていたビジネススクールの同期に何度も 言っており、今なお社内で代表は言い続けている。 それでは、代表が揚げる「犬」×「Web」×「世界」という事業ドメインはどこから来た のかを推測するために、まず自己分析による、代表の志向性と道徳観といった個人が元来 持っている価値観的要素までさかのぼり、事業内容がどこから湧いてきたのかを明確にす る。 ファーピース(株)代表の志向性と道徳観 ① 小さい頃から犬を飼っており犬好きである、妻はさらに愛犬家である ② 前職において Web マーケティングを担当しており、Web 自体が好きである ③ 約 1 年のアメリカへの留学経験があり、極めてリベラル志向 ④ 両親へのある意味での反面教師なのか、反エスタブリッシュメント的志向 ファーピース社の代表は、今から 4 年以上前の自身がサラリーマンであった時から、土 日を使って東京のドッグカフェを足しげく回り調査を行っており、かつ、マネタイズしに くいドッグアドバイザーという犬の資格を取得している。さらには、ドッグカフェの全国 フランチャイズを展開することをビジネススクールの志望研究計画書にも記述し、カフェ での実践的調査を兼ねビジネススクール在学中に 6 ケ月間スターバックスにてアルバイト を朝 5 時半から行っている。そして、ファーピース社の事業開始後、Web の会社なのだか らすぐに「猫」で Web 横展開したらどうかと何度か誘いがあったが全く興味を示さなかっ た。つまり、かなり初期から「犬」というドメインはほぼ決まっており、犬ビジネスにお いて起業がしたく、その場所を自分の経験のある「Web」と「世界」、に求めようとしてい た、あるいは探していたことが伺える。そして、起業の瞬間においては①の志向性(犬) と、②の過去の経歴(Web)が、 「犬」×「Web」というドメインを選択した暗黙の理由と なっていたと推測される。一方で、会社設立の時点においては、明確なビジョンらしきも のは、実際には醸成されていなかった可能性が逆に示唆される。 次に③の代表が道徳観・価値観として持っているリベラルという志向は、ファーピース 社の理念である「Furpeace は、動物・人間・社内外を問わず、心から誠実さと情熱を持ち、 創造性を楽しみ、最高の卓越した活動を追求し続け、 社会にとって大切な場を創造します。」 に忠実に落とし込まれており、当時ビジネススクールで手伝って頂いていた 3 人の同期や 周辺にもその社内の雰囲気は浸透しつつあったものの、事業戦略の方へはこの段階では全 く落とし込まれていなかったのである。 そしてこれとは別に、儲かるか儲からないかを着眼点とした発想は、本ケースにおいて、 この時点ではほぼ無かったのではと思われる。. 13.
(15) 【なぜ事業戦略の 3 回にわたる変更の意思決定が行われたか?】 ファーピース社はその後、事業戦略を、犬の SNS⇒犬の携帯デコメール⇒犬の流通を サポートする Web サイト⇒犬版 Twitter と実行前の半年の間に 3 度変更している。この 半年の間の状況としては、順に、開発会社との Web サイトの要件定義開始、株主から のアドバイスにより顧客ニーズのアンケート実施、CTO の大学院卒業による離脱が起 こっている。一般的に開発会社との要件定義に入ってしまってから顧客のニーズを調査 するのは順序が逆であったが、顧客ニーズの仮説がアンケートで検証されなかったため、 開発を一旦取りやめ、その開発会社に対しては 1 銭も支払わずに不遇にしてしまってい る。(しかし、その開発会社社長は、筆者の誠実な対応を良しとしてくれたのか、現在 でも Web に関する相談をする方として関係が良好に続いており、弊社へ Web コンサル の案件を回して頂き、売上にも間接的に寄与してくださっている。) ではこの状況で、なぜ事業戦略の 3 回にわたる変更の意思決定が行われたのか、である が、振り返ると、理由は筆者の中で明確に 3 つである。 ① 代表自身が明確に「これならばいける」という絵が見えず実行前に踏みとどまった、逆 にいうと漠然とした恐怖感を払拭しきれなかった ② 最初のビジネスプランのプランニングの段階と実行の段階を、直線的に行ってしまい、 結果として、実行直前の 48 人対するフィールドアンケートで顧客ニーズの仮説が検証 されず、人財、資金面での調整も再度必要であること発覚した ③ 計画的に学生の間に起業し、薬剤師の妻による生活できる分の収入源もヘッジしていた ため、時間的にまだ半年、事業戦略を練り直す余裕があった ファーピース社の事業は、Web 制作を約半年間かけて、70%程度を外注で行うことになっ ており、当時の予定では約 1,350 万の初期 IT 投資が必要であった。ファーピース社のこれ までの 2 年間の金銭的な動きの中で最も大規模な IT 投資であり、代表は①これならばいけ る絵、と、②顧客ニーズの仮説検証、が解決されない限りは、どうしても実行の意思決定 をしたくなかった、意思決定をできなかったというのが理由である。③の余剰時間と生活 するための収入の余裕、という要因は、事業内容のプランニングの段階と実行の段階を並 行して行っていれば、本状況は避けられたわけであり、本意思決定の間接的かつ副次的な 要因であったと分析する。 結論、この 3 回の事業戦略の変更の意思決定の基準となっていたものは、①「これなら いけそう」という絵が見えて来なかったこと、②顧客ニーズの仮説がテストにおいて検証 されなかったこと、であると分析する。. 14.
(16) 【なぜ最終的に現在の事業戦略に決定する意思決定が行われたか?】 ファーピース社が現在行っている事業は犬の Twitter である。 Twitter とは、個々の ユーザーが「ツイート」と呼ばれる 140 文字の短文を Web 上に投稿し、コミュニケーショ ンをとる Web サービスである。時系列に短文が並んで表示されることからリアルタイム性 があり、その短文の短さから“ゆるい”コミュニケーション媒体とされ、マイクロブログ と呼ばれる。Web 上では、現存するサービスの中で、最もリベラルなコミュニケーションサ ービスであると言われ、人々がそれぞれの肩書、年齢、国籍に関係なく 140 文字で気軽に “ゆるい”コミュニケーションをとっている。 代表が現在の事業に意思決定した時期がどのような状態の時に、どのような発想で、ど のように決定したかを以下に記述する。 日本では 2009 年 12 月辺りから、過去の SNS に勝る勢いで爆発的に普及した Twitter で あるが、代表がこのアイデアを苦悩の末閃いた 2009 年 4 月において、アメリカでは Twitter がある程度知られてはいたものの、 日本では一部の IT ギーク以外の認知率は極めて低く「犬 の Twitter をやろうと思うんだけど・・・」とアドバイスを求めると、 「何それ?」或いは、 「犬って自分で話せないよね?」という冷ややかな反応が、皆から返ってきた時期であっ た。 先述の代表の日記にも記述があるが、彼は毎日家に帰ると愛犬の「もか」に癒されてい た。その「犬の癒し」の力を何とか Web 上で表現できないかと模索し始めていた時期であ った。「自分の愛犬が話すことができたら、愛犬は何と言うだろう?」という問いは、全て の飼い主が一度は考えることである。Web 上で、世界中の犬が犬目線で犬語で犬の気持ちを 話し始めたら、絶対に皆癒されるに違いないと思ったのである。ならば、Twitter のように Web 上で犬に犬目線で実際につぶやかせてみよう、というのが発想の起源である。無茶苦茶 な発想であるが、Web において特に日本人は自らが創り上げたキャラクターを演じる傾向が あり、アバターと呼ばれる Web 上で自分の分身となるキャラクターなども好む。その点にお いても犬版 Twitter はヒットするのではないか、犬のアイコンが犬語をつぶやくことで、 人と人のコミュニケーションにも独特の「癒し」効果が生まれるのではないかという仮説 に基づくものである。 そして、愛犬は飼い主にとって子供のような存在であるため、自分の子を他人に自慢し たいという心理と同様の心理が愛犬でも働き、Web 上に愛犬の写真を喜んでアップするとい う第二の仮説にも基づいている。しかも写真をアップする際に、人ではなく犬であるため Web 上で日本人特有の実名や写真を投稿したがらないといった傾向も回避される。 さらに、犬は人とは違って、自分の兄弟や親を知ることができない、なんて可哀想なの だろう?、と代表は当時感じており、自分の愛犬の兄弟も知りたいと思っていたが、探す 方法がなかった。では、Web 上でなんとか愛犬の兄弟をみつける仕組みをつくることはでき ないか?世界中の犬が登録してくれるならば、それも可能なはずだと真面目に考え始めた のである。そこで閃いたのが、血統書である。90%の飼い主が所有する愛犬の血統書番号を. 15.
(17) サイト登録時に入力させ、その血統書番号から親子関係の規則性を、サイトのバックエン ド(裏側)でマッチングさせるアルゴリズムを造れば、愛犬の兄弟がみつかるのだ。閃い た次の日、社の CTO に「こんなすごいことができるよ!」って、朝一で来てもらい話した 程である。この機能は、飼い主が愛犬の兄弟を知りたいと強く思っているという仮説に基 づく。 実際に、これら 3 つ仮説を検証するため、ファーピース社はその 4 ケ月後『dogxi』とい うプロトタイプのサービスを、mixi(日本最大の人の SNS)内で 2009 年 10 月に開始し、3 ケ月で約 7500 人を集め、全ての仮説は実証された。本番のサイトは、本家 Twitter が日本 で爆発的に普及し始めた 2010 年 1 月第 3 週の 1 週間後である、2 月 1 日に『furpeace』と してサービスインし、上記の 3 つの仮説が同じく実証されている。サイトのマネタイズは 未だできていないものの、現在まで 11 ケ月で 1 万 5 千人の会員を集め、犬達が大阪弁、青 森弁、英語、赤ちゃん言葉などで実際につぶやいている。愛犬家ユーザは Twitter より面 白いと言っており、愛犬の兄弟も 2010 年 11 月までに、267 組が furpeace 上で劇的な再会 を果たしている。補足として、おまけ的要素ではあるが、サイトには「うんちボタン」と いうのが存在し、Google の広告規約で NG ワードに指定され広告は出せないのだが、現ユー ザの間で話題を呼んでいる。 一方、上記の結果、会員はある程度獲得できたものの、振り返ると、マネタイズに関し てはこの当時緻密には仮説構築を行っておらず、後に苦労することとなった。 ここで本論に戻り、最終的にこの事業戦略にすると決めた意思決定の基準は何であった のかを問うてみる。furpeace の顧客は実質は人であるが、考え方としては顧客は犬という 目線に立ってサービスが構築されたようなものであることが伺え、まず、代表が犬好きで あったことは本サービスを生み出す上で、極めて重要な要素であったと分析する。 その上でビジネスとして意思決定を下した第一の要因は、過去 2 回の事業戦略の変更の 時には見えなかった「絵」がみえた、そして顧客ニーズに関する仮説がプロトタイプで検 証された、ことであると分析する。その結果、代表の心の中で恐怖心というものとの葛藤 が終わりを告げたのだと推測する。 第ニに、その事業プランを実践するための、人材・営業チャネル・資金といったリソー スが社内外にやっと揃ったことが第ニの実行への意思決定をさせた要因であると分析する。 これら 3 回の事業内容の変更後、株主に説明するために使用した、社内外のリソース分析 の当時のスライドが存在しており、参考までに以下に引用する(表 4)。. 16.
(18) 表4. Fur Spirits Furpeaceは、動物・人間・社内外を問わず、心から誠実さと情熱を持ち、 創造性を楽しみ、最高の卓越した活動を追求し続け、社会にとって大切な場を創造します。 Genuine Integrity ・人に対して自分がしてほしいことをする。 ・富を創出し、貢献者全てに分配する。 ・高い業績を達成した者は誰でも、会社のボーナス・プラン或いは、ストック・オプション・プラン に参加できる。 ・全ての者について、例えトップ・マネジメントであっても同等な福利厚生制度を適用する。 ・決定した経営指針に従わない者は許されない。 Fun and Creativity ・従業員は存在しない。全員が創造性を楽しむアントルプルヌアである。 よって、正式な組織図は存在しない。 ・新サービス開発に失敗しても、降格、左遷により処罰されることも、排斥されることもない。失敗 は学習や継続的改善の入口である。. Thirst for Excellence ・顧客の声に耳を傾ける。 ・絶対諦めず、必ず這い上がる。 ・毎日、毎秒、本Spiritsを意識して、真摯に卓越した最高の仕事をしよう、 いつか、我々にとっての大切な会社が、社会にとっての大切な場所になるように。. Fur 2. Peace tomorrow with Fur, all rights reserved.. 2010/12/30. 出展:Furpeace inc.: 2009, ‘2009年8月1日臨時株主総会スライド’,::page2. 一方で、事業戦略は変容してきているが、代表が繰り返し社内外にも言っている「犬」 ×「Web」×「世界」というドメインから一貫してブレていない。代表が、リアル生活では 決して満たされない「犬が犬目線で話す」 「犬の兄弟がみつかる」というニーズを Web の仕 組みを使って満たせないかと探り続けたことと、Twitter というリベラルかつ最新の Web 上 の仕掛け、が融合した結果下された意思決定として捉えることもできる。当時の事業内容 説明のスライドには、 「日常では視覚化されない「犬が好き」と「犬の癒し」のコミュニケ ーション価値を、Web 上で ”犬のきもち”として見える化する、世界初のいぬごごろをく すぐるミニブログサービス」とある。 この時期、ファーピース社のスライドの最初に登場するビジョンは一時的に「動物と安 心して暮らせる明日へ」から「愛犬のつぶやきが世界を癒し始める」に替わっている。現 在でも「動物と安心して暮らせる明日へ」というビジョンに変わりはないが、この頃から 本ビジョンは自己認識上も社外上も、CSR 的な側面を強めるようになる。ファーピース社の ビジョン自体が「犬への救い」から「犬の癒し」 「犬との楽しみ」 「犬との共生」の方向へ シフトしていっていたのではないかと、分析の過程で改めて明らかになった。 補足ではあるが、 「犬が犬目線で話す」 「犬の兄弟がみつかる」というアイデアは、この ちょうど 1 年前から、代表の頭の中には確固として存在しており、これまで述べてきたよ うな、犬視点、顧客視点で考え続けていたからこそ生み出されたサービスである。筆者が こういった思考法をやめた瞬間、ファーピース社は差別化されないサービスを連発する、 つまらない企業になり下がるのではと、本ケース分析の過程で改めて感じる。. 17.
(19) 第3節 人材と組織に関する意思決定と ビジョン ファーピース社には、創業前から現在まで、社内として 6 人のメンバーがお手伝いとし て関与している。本節では、彼らと一緒にやることになった経緯、及び離脱の経緯・理由、 社内 Mtg の雰囲気などから、人材に関する代表の意思決定の基準とビジョンとの関係性を 明らかにしたい。 次に furpeace サイトの開発パートナーである A 社を取り上げ、代表の社外の組織・人材 に対する意思決定の基準を探る。. 【ビジネススクールの同期 5 人がお手伝い】 ファーピース社は代表がビジネススクール在学中に起こした企業であり、当時の仲間 が全員無給で、5 人、ファーピース社を手伝っている。簡単に状況を説明しておくと最 初に、大学院の講座で、同じチームでファーピース社のビジネスプランの基礎を練り上 げた 2 人がそのまま取締役に就任し、プランニング段階を行っている。それに加えて、 IT 技術的な面を補うため、愛犬家で IT にも精通する代表の個人的な友人を取締役 CTO として招き入れ、4 人体制で会社を設立した。これらの 3 人は出資しておらず、卒業と 同時に 1 人は出資者となり、残りの 2 人は抜けることとなる。 その後も、ゼミ仲間 1 人と別の同級生 1 人を巻き込み、会社のホームページを作成す る。が上記と同じく、卒業と同時にファーピースを去り、同時期に全てのメンバーが抜 け、代表は一人となってしまう。代表は、1人、はおそらく残るだろうと当初予測して いたが、前章で述べた 2 回目のビジネスプランの変更時点=大学院卒業時点、で全員が 抜けたのである。 ではまず、代表がこれらのメンバーと一緒にやろう決めた意思決定の基準は何であっ たのか? 答えは、特に基準は存在しなかったのでは?が答えである。 人材それぞれのスキルセットや、愛犬家かどうかなども基準の一部としては存在して いたようではあるが、代表としては、資金も全く集まっておらず、まだビジネスプラン しかない時期に、スキルも高いビジネススクールの学生が、学生の身分であったとはい え、一緒に自分とやってくれたことに感謝している。もし基準が存在したとするならば、 それは代表自身のリベラルな価値観や倫理観に合うかどうか?平たくいえば、一緒に働 きたいと思ったかどうか?だったと推測する。 その後、この全てのメンバーは離脱するわけであるが、これは仲間割れでは全くなか ったが、代表は以下のように当時の日記に書いている。 先週の金曜日、T さんからファーピースを抜けることを告げられた。その瞬間はそれほど ショックではなかったが、後で考えてみると、人がやめるというのは、辛いことだ。あの M. 18.
(20) さんの時もそうだった。T さんは、一番初めから参画してもらっていたが、やはり「ペット を好きでないため、どうしても働き方が従業員的になってしまう」というのが理由だ。確 かにビジョンかがあるからこそ、アントレプレヌールシップがおもう存分発揮できるよう な気がする。リーダシップの強くない僕がこれほど頑張れるのだから。ってことは好きな ことをやることは重要ってこと。 (2 人抜けることを想定して、4 人にしておいてよかった。 。 。) しかし、ベンチャーの経営チームの形成プロセスは客観的にみるとおもしろいだろう。 ・・・ ・・・先週、H さんにひょっとしたら残るのは厳しいいかもと言われてから、気持ちは結構 沈んだままだ。久し振りに一人になってしまう恐怖感と不安感がどっと襲ってきた。H さん は来年まさに、結婚を控えてるし、社長たるもの従業員や取締役の人生を考えることも、 ベンチャーの場合、30 歳を超えた人を採用するのであれば、必要なのだろう。なんとして も成功しなければならない。で、一時は、CTO 不在で一人でやることも考えたが客観的に考 えてみると、どうしてもビジネスの成功の確度が下がることは間違いない。 話はかわるが、W さんの HP はイケている。今週、W さんと E さんが精神的にも非常に助 けてくれていると思う。心から彼らに感謝したい。 ま、でも、N02 は、N01 と同じように考えることは決してできないのかもしれない。誰 も将来のことなんか考えていない。それならば、オレがやり遂げる!必ず。 (池田徹平:”てっぺい人の起業日記~ハワイでマイタイを一杯やる日まで~”:2009.1.20). 代表はこの件で、人材・組織に関する意思決定をする際注意すべき、6 つのことを学んだと自 覚している。. ① ビジョンが共有される or 代表の理念に共感している人はあまりやめない ② 自分のやりたいことがそこにある人は頑張れる ③ しかし無給はありえない、安くてよいので給与を払い、できれば仕組み化しよう ④ 相手が本気なら必ず投資してもらう ⑤ スキルセットは代表ができないことを、よりハイレベルでできる人財がいい ⑥ 代表自身が迷ったりブレたりすると、皆方向性を見失う ※興味本位で来る人は相手にするな ※やめる人は追わない ※事業のフェーズによって、必要な人材のスペックが流動的に変わる 今回の 5 人は、仲は良く信用することができたという意味で①は存在したが、②③④⑤⑥に関 しては経営チームとして、全てが欠けていたと思われる。. 一方で代表がこれらメンバーとの間の雰囲気はどうだったのかについて、同じく代表の 日記からファーピース社の Mtg を振り返ることで紐解いてみる。. 19.
(21) 【ファーピース社の Mtg 運営の仕方は?】 今日は朝から Fur の定例 Mtg でした。僕はいつも Mtg 自体が「本音と笑いで一緒につく る会議」になるように心がけています。 「本音」:僕たちはベンチャーであり、建前や根回しは百害あって一利なし。価値観を共 有できる仲間が self-selection で集まったため、そんなことをする必要もありません。そ れに、大企業にありがちな上っ面だけの「会議のための会議」をしていても、顧客価値 (value)は生み出せません。会議や会社のスタイルに自分をはめこんでいくのではなく、 自分たちで会社と会議のスタイルを創るわけで、それには絶対本音ベースの議論が必要で す。 「笑い」:Laugh と Creativity は相関があるそうです。僕は自然と笑いがこぼれるような Mtg を心がけています。逆に「笑いのない」会議から新規事業やいい戦略は生まれないし、 そんな日に出たアイデアは採用しない方がいいかもしれません。 「つくる」:Fur の Mtg においては、僕以外のメンバは Guest ではありません。全員が Host だと思っています。だから、「つくる」会議なんです。 ・・・そして、何よりその方が、自由だし、楽しいし、ストレスフリーだから。勿論、大 きな責任もあるけどね。みんなこれからも宜しくね。 (池田徹平:”てっぺい人の起業日記~ハワイでマイタイを一杯やる日まで~”:2009.1.31). 現在もこの Mtg 文化は引き継がれ、ようやく「本音」と「笑い」の会議やコミュニ ケーションができるようになりつつあるかもしれない。この当時は、本日記のような Mtg を目指していたものの、今よりも長時間かつ Mtg を議事録で管理していた。しかし、 現在では、長くても 1 時間半、議事録なしの Mtg となっている。つまり、「本音」で話 せるということはゴールが共有されている証拠であり、ゴールの相互理解により Mtg 時間も短くなってきている。そして、皆に「つくる」意識があれば参画意識が生まれ、 議事録も必要なく、代表が管理する必要もなくなる。そして、参加者自身も管理される よりも、その方が楽しいに違いないのである。 【新 CTO の採用の意思決定の基準は?】 今まで述べたように、メンバーが全員いなくなったことにより、次にファーピース社 は新 CTO を探さなければならなくなった。そこで代表は、先に述べた人材に関する意 思決定の基準 6 項目をできる限り満たす、早稲田大学理工学部で一番優秀な IT 系の学 生を探して、採用しようと真剣に考え始めた。大抵の優秀な Web 系の学生は、ブログ か HP を持っているもので、Web で徹底的に学生を検索し、数人のリストを作成してい る。そして、そのリストの一番上にあった人物がファーピース社の現在の CTO となっ ている。 若干 23 歳の大学院生であるが、上記 6 項目のうち、 「犬好き」以外は全てを満たす人. 20.
(22) 財が一人目でみつかり、代表が実際にメールを送って声をかけたところ、会って 30 分 で意気投合し一緒にやることが決まった。 この時の意思決定の基準は、スペックとしては上記 6 項目を満たす人材であったかど うかである。併せて、代表は「一緒に仕事をしたい」と思わない人とはしないと強く思 っていたため、ここでも自分と合いそうかどうかが重要な要素であったと思われる。そ して、本人が強くやりたいと思っているかどうか?併せて重要な要素であったと思われ る。しかし、30 分で即断したのがなぜだったのかは、今でもよくわからない。 【開発パートナーA 社に決定の意思決定の基準は?】 次に当初 1,350 万円の予定であった IT 投資のパートナーに見合う開発会社選定の意思決 定の際の基準をみてみる。代表は、カスタマーバリューを確実に Web で生み出せる、代表 が意図するものを Web 上で表現できる会社、を選定の基準としていた。 ここで、代表は自らの友人達が社長を務める Web 制作会社の B 社と D 社を選ばず、新 CTO が発掘してきた A 社をパートナーとして選択している。下記にそれぞれの会社の特徴 をしめす。 友人 ペット好き度 技術力. Twitter 開発実績 価格. 規模. A社. ×. ◎. ◎. ◎. 900. 小. B社. ◎. ×. ○. △. 700. 小. D社. ◎. ×. ◎. ○. 1350. 中. A 社の場合、社長は猫を 7 匹飼う猫好きで、A 社 CTO もペットを飼っており、技術力は 極めて高く、彼ら自身が開発にあたり、過去に Twitter 絡みの開発実績は豊富、価格 900 万。 開発が大規模なため、リソース面とスピード面で懸案事項はあったが、Ruby という比較的 新しいコンピュータ言語に精通しており、代表が意図したものができる予感をも感じさせ、 かつ受注(お金)のためではなく、A 社自身からぜひそのような面白いサイトを作ってみた いという前のめりな気持ちを強く感じたたため、A 社に決定することとなった。実際に代表 と新 CTO との会話の中で、 「A 社はかなりやりたがってるけど、どうなんだろうね?」とい う会話をしていたのを思い出す。開発の順序としては、まずプロトタイプ(mixi アプリ) 、 次に PC、続いて携帯、最後にスマートフォンという順で、段階を踏みながら、長期パート ナーとして開発することが決定した。 新 CTO の採用と開発会社の選定に関する意思決定において、ファーピース社の代表は、 それぞれ明確な基準と照らし合わせ判断している。ただし、それだけではなく、代表が一 緒に働きたいと思うかどうか?相手がそう思ってくれるかどうか?も同じく重要であった と思われる。スキルセットと、代表と合いそうかどうか&相手がやりたいと心底思ってい るかどうか?ということ、このいずれかが欠けても、メンバーは離脱する可能性が高くな ることも身をもって学んだと代表は自覚していたからである。. 21.
(23) 本節での最後に、人材・組織に関する意思決定とビジョンや理念との関係性についてで あるが、社内的にも社外的にも、会社のビジョンよりも代表のリベラルな価値観や理念に 共感して、ファーピース社の周りに人が集まり、協力してはまた去っていっていたのでは と思う。実際に、ファーピース社を手伝った 6 人のメンバーで、犬を飼っていたのは最初 の CTO 1 人だけである。 筆者もファーピース社の雰囲気やリベラルな価値観に共感を覚える人達の輪を広げてい くことこそ、ビジネスを拡大していく基盤となると考えている。本節には記載していない が、実際に社外のリソースを多く活用しながらサイトの営業・宣伝活動などを行っている が、その基盤となっているのは、代表のリベラルな価値観であったと分析する。 一方、ビジョンについては、おそらく付加的な要因として作用はしているものの、それ 自体があるから人が集まり協力してくれているわけではないと推測する。逆説的に言うと、 「ビジョンは企業のトップが、激しく強く持っており、かつ外向きにそれを発信していれ ば、それでよい。 」と考える。. 第4節 競合に関する意思決定と ビジョン ファーピースの事業内容は先述したように、犬版の Twitter である。2010 年の 2 月 1 日 にサービスを開始したが、その後、二番煎じ、三番煎じと似た内容のものが次々と競合と して生まれた。バウッター、アニマルツイッター、バウリンガル for iPhone である。そ れぞれ、全てのサービスがファーピース社の代表と実際の面識のあった会社からリリース されており、IT 業界では、Web では面白そうなものはすぐパクられること、そのようなつ まらない輩もいること、は驚きには値しない。 これら競合に対して、代表がどのような意思決定をしたか?その基準となっていたもの は何かを探る。. 【バウッター、アニマルツイッターへの対応】 バウッターは、ホリプロが運営する犬をブログでつぶやかせて、Web 上でアイドルにしよ うというコンセプトの新サイトである。 アニマルツイッターは、携帯版 Twitter を作ったモバツイがリリースし、本家 Twitter の 中でイヌやネコになってつぶやこうという Mash Up 系のサービス(複数の Web サービスの API を組み合わせて1つのサービスにしたもの)である。両者とも、ファーピースがサー ビスインして間もなく登場した。この 3 ケ月前に、代表が犬の Twitter を立ち上げるとい う話を、打ち合わせで、そして飲み会で、したところ、アイデアをパクられたかたちにな っている。 両者とも、サイトのデキとしては極めて悪く、明らかに犬好きが作ったとは 思えないサイト仕様になっており、かつ企業としても力を入れてやる予定はなさそうであ. 22.
(24) ると分析し、代表はこの 2 社は敵ではないと判断、放置・監視することとした。その後、 バウッターは細々と営業を続ける一方、アニマルツイッターはリリース後、数週間でほと んど使われなくなっている。. 【バウリンガル for iPhone への対応】 バウリンガル for iPhone は、インデックス・ホールディングスの子会社、インデックス が 11 月 11 日に発売した、その名のとうりバウリンガルの iPhone 向けのアプリであり、 価格は 450 円である。今回は、本家 Twitter との連携つぶやき機能を搭載し、デバイスは ソフトバンクの iPhone に載せて、満を持しての登場であった。 ※バウリンガル:2002 年 9 月に株式会社タカラトミー(当時:株式会社タカラ)から発売 された犬の鳴き声を声紋分析する、犬のボイス翻訳機「バウリンガル」は、犬の鳴き声を 犬の首輪に装着した小型ワイヤレスマイクから本体に飛ばし、リアルタイムに鳴き声を分 析して、その気持ちを 6 種類の感情に分類して人間の言葉として表示する(いわゆる犬の 「ボイス翻訳」)商品。 バウリンガル for iPhone は 11 月 11 日(全国犬の日)の発売にもかかわらず、furpeace がサービスインした 2 月 1 日の 8 日後の 2 月 9 日、わざわざ記者会見を開いて当商品の発 売を 10 ケ月前に予告している。 この記者会見のさらに 2 ケ月前に、ファーピース社の代表は、SBI(ソフトバンク・イン ベストメント)を通じて iPhone にアプローチしており、ファーピース社のビジネスプラン スライドを全てメールで送付している。その7日後に、ソフトバンクの有名な「お父さん 犬」が Twitter 上に登場し、つぶやき始めた。裏でどのような経緯があったか不明ではあ るが、今回の商品は、犬のつぶやきを本家 Twitter と連携投稿できコミュニティ機能も用 意されているという点、ファーピース社と比較して資本力で天と地の差がある点、におい て弊社の脅威となる可能性があった。 代表はこの商品を、Web で匿名でネガティブキャンペーンを行い「絶対にたたき潰す」と、 本商品が発売した日に決めている。ファーピース社の新 CTO からは、あまり敵を作らない 方がいいと言われたが、その忠告を無視して独りでネガティブキャンペーンを Web で行っ ている。 代表が書きこんだ影響もあったかもしれないが、最終的には商品自体のデキが実際に極 めて良くなかったこと、元々ブランド力があったこと、が原因で、その比較的悪い評判は Web 上で一気に拡がることとなった。下記図 1 は、iTune ストアでの当アプリの評価である が、以下のようになっている。 (図 1). 23.
(25) 図 1:バウリンガル for iPhone iTune ストア カスタマー評価. 出展:iTune ストア 2010.12.31 閲覧 これら競合に対しての対処方法の意思決定の基準していたものは、ファーピース社に与 える脅威の大きさを基準とし、無視、監視、対応、対策の 4 つの中から、バウッター、ア ニマルツイッターは監視、バウリンガル for iPhone は対策、の処置をとったということで ある。 一方で、代表と一度は面識のあった人々が平然と模倣することに対して、倫理的な違和 感を覚えたていたのも事実である。その点で、代表の価値観の一つである、反エスタブリ ッシュメント的志向がバウリンガル for iPhone のケースでは、働いたと推測することもで きる。そして、あえて偽善だと言われることを恐れず書くと、代表自身、自分以上に飼い 主を満足させる Web サービスを他人が作れるはずがない、自社のサービスの方が明らかに 顧客志向かつサスティナブルであると自信を持っていたため、顧客には furpeace を使って 欲しかったのである。 一方で、競合に関する意思決定に、ビジョンは関連していなかったと思われる。他方、 倫理的価値観の顧客志向という点では、間接的ではあるが顧客のことを思っていたからこ その意思決定である。. 24.
(26) 第4章 考察・議論. 理念型起業家の意思決定の基準、及びビジョンの形成プロセスについて分析をしてきた。 まず理念型起業家の意思決定の基準についてであるが、全てのケースにおいて、①代表 が犬好きである ②リベラル志向である という 2 点が共通して、終始流れる価値観であ り、それが意思決定や実際の Web サイトの作りにも、深く関与していることが見受けられ る。この部分は先行研究で Payne と Joyner が取り上げた、(1) individual entrepreneurial values-related decisions と、(3) customer satisfaction and quality decisions(顧客志向)に、該当 する領域であり、本研究においても、これら 2 つの領域において倫理的な意思決定を下す ことが、垣間見ることができた。次に(2) organizational culture/employee well-being decisions という領域では、ファーピース社の場合は人員が尐なかったが、代表のメンバーの選定方 法及びファーピース社の Mtg の雰囲気などからも読み取ることができ、本領域において倫 理的な意思決定が同じく関与していた可能性がある。続いて (4) external accountability decision の領域については、ケースでは詳しく取り上げていないが、大きな事業戦略の変更 の際には株主総会スライドにて説明を行っている点など、社外に対して説明しようという 姿勢が見受けられた。 一方、McVea がいう、起業家群の方が MBA 学生群より、意思決定において道徳・倫理的 な側面から考える比重が高いかどうかについては、直接的には検証できなかったが、代表 が道徳・倫理的な側面から、大いに考えたこと自体については上記のように検証できた。 ここでは逆に、代表自身 MBA に在籍していたため、実際の授業では疑似的な経営ケースを 教室の中でどのように友人の MBA 学生が分析・意思決定していたのか、あるいは代表が自 分を含めたビジネススクールの学生の MBA 的思考の傾向について、肌で感じていたことを 箇条書きで、まず列挙する。 MBA 学生の意思決定の傾向性(※筆者の観察に基づく主観) 1) いくらお金が動くかが意思決定だと思っている 2) IT システムをシステムとして見ており、顧客視点は比較的薄い 3) フレームワークを必要以上に当てはめようとし、分析的な視点で話をする 4) 理論(Theory)ではなく、論理(Logic)で話をする など代表は教室にて感じていた。このように、教室の中での MBA 学生の意思決定の傾向性 の中に倫理・道徳的な意思決定は、ほぼ存在しない可能性が見受けられた。そして、戦略 策定についても、MBA 学生は様々な他の知識や思考を学んでいるにもかかわらず、フレー ムワークによる過去の事例の分析から自社のポジショニングや参入市場を選定するという、. 25.
(27) 既存の枠組みの中での分析に基づく競争戦略が主である。しかし、代表は、ベンチャー企 業の実践においては、このような意思決定の基準はとらず、逆に、 ファーピース社代表の意思決定の基準(ステップ順) 1) まず、それが代表の倫理的なリベラルな価値観にフィットするのかどうか? (individual entrepreneurial values-related decisions) 2) 顧客に対して新しい価値を提供できるのかどうか? (customer satisfaction and quality decisions) 3)フレームワークで現状を理解した上で顧客ニーズやアイデアから何かしらの仮説を構築 して検証する 4)そしてそれらを理論(Theory)という視点からみることで新たな学びや気づきを得る、 というプロセスをとっている。この 2)の顧客に対して新しい価値を提供できるのかどう か?(customer satisfaction and quality decisions)と、3)フレームワークで現状を理解した上 で顧客ニーズやアイデアから何かしらの仮説を構築して検証する. という代表が無意識的. に行っていた意思決定の内側でのプロセスは、McGrath and MacMillan(1995)が考案した、 Discovery Driven Planning(※不確実性の高い新規事業のリスクの要因(顧客ニーズ etc.)を 探索し、それを仮説として知識化する工程を開発・実行プロセスに組み込むことによって、 事業の不確実性をマネジメントするビジネス計画手法)という仮説指向的なプロセスであ ったことが伺える。一方で、マネタイズに関する仮説的思考が甘かったため、2010 年 12 月 現在、会員は順調に伸びているが、マネタイズの面で苦労しているのだと分析する。 しかし、ここで、1)それが代表の倫理的リベラルな価値観にフィットするのかどうか?と いう点は、Discovery Driven Planning 法の方法論の中からは、引き出してくることができな い。この部分は、本節の最初に述べた individual entrepreneurial values-related decisions の領域 であり、本研究の冒頭で述べた企業の「理念」に近い部分で、創業から事業の終焉まで一 貫して流れる創業の精神・哲学のようなものであると考える。この企業の理念の部分に関 しては、会社設立時と現在で、中身はほぼ変化せず、外部環境によっても変容していない。 がしかし現在において、筆者個人の中では、「理念」の余計な部分が削ぎ落とされ、よりシ ンプルにクッキリとそれが意識の中で認識できるようになった、具体的に言うならば何が 絶対にゆずれないところで、どこまでならば曲げられるのかの重みづけがハッキリしたこ とは、今後の代表の意思決定において有用であると考える。下記にその変遷を記載する(表 5)。. 26.
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