博士論文審査報告書

早稲田大学大学院理工学研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

超耐摩耗性カーボン材料のプリンター活字への応用

Application of Highly Wear-Resistant Carbon as a Material for Printing Types on Impact Printers

申 請 者

高村 実 Minoru Takamura 氏 名

氏 名

専攻・研究指導 (課程内のみ)

2006 年 7 月

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高 分 子 炭 化 物 は 、 熱 硬 化 性 樹 脂 を 原 料 と す る セ ル ロ ー ス カ ー ボ ン 、 グ ラ ッ シ ー カ ー ボ ン お よ び ビ ト ロ カ ー ボ ン な ど が 研 究 開 発 さ れ 、 熱 処 理 に よ り 高 硬 度 の 黒 色 ガ ラ ス 状 カ ー ボ ン が 得 ら れ る 。 そ の 焼 成 条 件 の 詳 細 に つ い て は ほ と ん ど 報 告 さ れ て い な い が 、 ガ ラ ス 状 カ ー ボ ン 炭 素 材 料 は 耐 摩 耗 性 が 良 く 、 比 重 も 約 1 . 5 と 小 さ く 、 広 い 応 用 性 を 秘 め た 材 料 で あ る 。 軽 量 化 、 高 性 能 化 技 術 が 広 く 要 求 さ れ る 時 代 背 景 に お い て 、 軽 量 で 耐 久 性 、 耐 摩 耗 性 が あ る こ の 材 料 を 基 礎 的 に 検 討 し 、 新 機 能 材 料 開 発 に つ な げ る こ と は 研 究 開 発 上 有 益 で あ る と い え る 。

本 研 究 で は 、 こ う し た 背 景 か ら 、 耐 熱 性 、 耐 久 性 、 軽 量 性 、 耐 摩 耗 性 及 び 機 械 的 強 度 に 優 れ た バ ル ク 材 と し て の カ ー ボ ン 材 料 を 研 究 開 発 す る こ と を 目 的 と し 、 今 ま で に あ ま り 報 告 さ れ て い な い 炭 化 物 の 熱 処 理 条 件 や 、 熱 処 理 温 度 と 分 子 構 造 及 び 物 性 の 関 係 に つ い て 明 ら か に す る こ と に よ り 、 最 終 的 に コ ン ピ ュ ー タ 用 イ ン パ ク ト 形 ハ イ ス ピ ー ド プ リ ン タ ー 活 字 へ の 応 用 を 目 指 し て 、 工 業 的 生 産 技 術 の 確 立 を 進 め て い る 。

第 １ 章 「 序 論 」 で は 、 研 究 の 意 義 と 目 的 、 論 文 概 要 を 述 べ て い る 。

第 ２ 章 「 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 焼 成 条 件 の 研 究 」 で は 、 工 業 材 料 と し て 有 用 な カ ー ボ ン 材 料 を 開 発 す る こ と を 目 的 と し 、 フ ラ ン 樹 脂 、 フ ェ ノ ー ル 樹 脂 、 エ ポ キ シ 樹 脂 な ど の 熱 硬 化 性 樹 脂 を 素 材 と し 、 炭 化 物 を 試 作 し 、 最 適 原 料 の 検 討 を 行 っ て い る 。 そ の 結 果 、 フ ラ ン 樹 脂 が 原 料 と し て 最 適 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 フ ラ ン 樹 脂 を 用 い 、 工 業 材 料 と し て 有 用 な 炭 化 物 を 作 成 す る た め の 熱 処 理 条 件 に つ い て 研 究 し た 結 果 、 昇 温 速 度 を 室 温 ～2 0 0℃ で は 3

～4℃/ h 、2 0 0℃ ～2 0 0 0℃ で は 7～8℃/ h の 条 件 と し 、 所 定 の 温 度 で 1 時 間 保 持 し 、 雰 囲 気 ガ ス を 室 温 ～5 0 0℃ で は N2 ガ ス 、 そ れ 以 上 の 温 度 で は H e ガ ス 雰 囲 気 で 焼 成 す る こ と に よ っ て 、 非 常 に 安 定 し た フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 を 作 製 で き る こ と を 明 ら か に し て い る 。 特 に 、 走 査 電 子 顕 微 鏡 に よ る 表 面 状 態 の 観 察 か ら 、1 2 5 0℃ 焼 成 の フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 は 非 常 に 平 滑 な 表 面 状 態 を 呈 し 、 工 業 材 料 と し て 有 効 利 用 で き る こ と を 示 し て い る 。 ま た 、 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 熱 収 縮 率 を 一 連 の 研 究 か ら 算 出 し 、 精 密 な 工 業 材 料 を 作 製 し 得 る 基 礎 を 築 い て い る 。 こ の こ と は 、 新 機 能 材 料 開 発 を 行 う た め の 基 礎 的 デ ー タ を 集 積 し た 研 究 と し て 高 く 評 価 で き る 。

第 ３ 章 「 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 分 子 構 造 」 で は 、 フ ラ ン 樹 脂 の 熱 処 理 に 伴 う 熱 分 解 機 構 及 び フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 分 子 構 造 を 明 ら に し て い る 。 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー に よ る 分 解 ガ ス の 分 析 、 エ ネ ル ギ ー 分 散 Ｘ 線 マ イ ク ロ ア ナ ラ ザ 分 析 （X M A） に よ る 炭 素 量 及 び 酸 素 量 の 分 析 、 赤 外 分 光 分 析 、X 線 光 電 子 分 光 分 析( E S C A )に よ る 炭 素 、酸 素 の 結 合 状 態 分 析 な ど か ら 、フ ラ ン 樹 脂 の 熱 処 理 に 伴 う 熱 分 解 機 構 を 次 の よ う に 提 案 し て い る 。2 0 0℃ 付 近 か ら メ チ レ ン 架

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橋 結 合 が 壊 れ て C H４を 発 生 し 、 さ ら に フ ラ ン 環 自 体 も 壊 れ て C O や H2O な ど を 生 じ る 。4 5 0℃ 付 近 か ら メ チ レ ン 結 合 の 一 部 が 、 脱 水 反 応 で 生 じ た 水 で 酸 化 さ れ る 。5 0 0℃ ～1 0 0 0℃ で カ ル ボ ニ ル 基 か ら C O が 発 生 し て 、 不 飽 和 共 役 系 の 構 造 と な る 。 ま た 、X 線 回 折 図 形 、 透 過 電 子 顕 微 鏡 写 真 、 電 子 線 回 折 像 お よ び ラ マ ン ス ペ ク ト ル に よ り 、1 0 0 0℃ 以 上 の 温 度 で 焼 成 さ れ た フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 構 造 は 、 無 配 向 性 乱 層 構 造 と 解 析 さ れ 、 ガ ラ ス 状 カ ー ボ ン で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る 。さ ら に 材 料 的 応 用 が 期 待 で き る 1 2 5 0℃ 焼 成 時 の 構 造 を 緻 密 な ガ ラ ス 状 カ ー ボ ン で あ る と 推 定 し て い る 。 こ の こ と は 、 こ の 材 料 を 用 い る 際 の 学 術 的 考 察 と し て 高 く 評 価 で き る 。

第 ４ 章 「 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 物 性 」 で は 、 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 熱 処 理 温 度 と 気 孔 率 、 比 重 、 弾 性 率 、 抗 折 力 、 耐 摩 耗 性 、 表 面 硬 度 及 び 電 気 抵 抗 の 関 係 に つ い て 述 べ て い る 。ガ ラ ス 状 カ ー ボ ン 構 造 と な る 1 0 0 0℃ 焼 成 以 上 の フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 は 、 比 重 、 気 孔 率 が 小 さ く 、 高 弾 性 率 で 耐 衝 撃 性 、 耐 摩 耗 性 も 優 れ て い る こ と を 明 ら か に し て い る 。 特 に 、1 2 5 0℃ 焼 成 の フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 表 面 硬 度 は 、 以 前 に 開 発 さ れ た グ ラ ッ シ ー カ ー ボ ン 、 ビ ト ロ カ ー ボ ン の 約 ４ 倍 の 硬 さ を 示 し 、 工 業 材 料 と し て 非 常 に 有 用 な 炭 素 材 料 あ る こ と を 示 し て い る 。 こ れ ら の 結 果 は 、 最 適 材 料 を 得 る た め の 指 針 を 与 え る も の と し て 高 く 評 価 で き る 。

第 ５ 章 「 プ リ ン タ ー 活 字 へ の 応 用 」 で は 、 尿 素 樹 脂 製 活 字 、 尿 素 樹 脂 活 字 上 に C u め っ き ５ μm お よ び N i め っ き 2 5μm を 施 し た 活 字 、さ ら に 1 2 5 0℃ フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 活 字 に つ い て 、 印 字 寿 命 試 験 を 行 い 、 そ の 耐 摩 耗 性 を 検 討 し 、 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 活 字 の 実 用 性 を 比 較 評 価 し て い る 。

尿 素 樹 脂 製 活 字 の 印 字 寿 命 は 2 0 万 字 が 限 度 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。N i め っ き 品 に つ い て は 2 5μm の 厚 め っ き で も 、 め っ き 膜 が 摩 耗 し 、 下 地 が 露 出 し 、1 8 0 万 字 が 限 度 で あ る 。ま た 、2 5μm 以 上 の 厚 め っ き を す る と 、 め っ き 膜 の エ ッ ジ 効 果 に よ っ て 、 活 字 周 辺 部 の め っ き 厚 が 極 度 に 厚 く 成 長 す る た め 、 印 字 鮮 明 性 が 低 下 し 、 実 用 的 な も の が 得 ら れ て い な い 。 ハ ー ド ク ロ ム め っ き し た 場 合 で は 、 ク ロ ム め っ き 層 の 内 部 ス ト レ ス が 高 く 、 印 字 の 際 の 繰 り 返 し イ ン パ ク ト の 応 力 集 中 で 、 め っ き 層 お よ び 樹 脂 内 部 に 亀 裂 を 生 じ 、 活 字 破 損 障 害 を 発 生 し て い る 。 こ れ ら に 対 し 、 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 活 字 は 1 8 0 万 字 の 印 字 試 験 に お い て も 摩 耗 量 0 で あ り 、 フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 活 字 は 、 従 来 か ら 使 用 さ れ て い た め っ き 活 字 に 対 し 、5 0 倍 以 上 の 寿 命 が あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 こ の こ と は 、「 プ リ ン タ ー 活 字 へ の 応 用 例 」 と し て 、 画 期 的 な 材 料 開 発 に 成 功 し た こ と を 示 す も の で 、 基 礎 か ら 応 用 ま で を ふ ま え た 研 究 と し て 高 く 評 価 で き る 。

第 ６ 章 で は 、 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を ま と め 、 耐 熱 性 、 耐 久 性 、 軽 量 性 、

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耐 摩 耗 性 及 び 機 械 的 強 度 に 優 れ た バ ル ク 材 と し て の カ ー ボ ン 材 料 の 開 発 と 、 そ の 開 発 過 程 に お け る フ ラ ン 樹 脂 炭 化 物 の 基 礎 物 性 を 明 確 に ま と め て い る 。

以 上 、 本 論 文 は 、 従 来 性 能 を 大 き く 超 え る 「 超 耐 摩 耗 性 カ ー ボ ン 材 料 」 作 製 が 可 能 で あ る こ と と 明 示 し 、 こ れ を プ リ ン タ ー 活 字 へ 応 用 で き る こ と を 実 証 し て い る 。 こ の こ と は 、 基 礎 研 究 か ら 、 応 用 研 究 へ と つ な げ る た め の 研 究 開 発 の 成 果 と し て 高 く 評 価 で き る 。

よ っ て 、 本 論 文 は 博 士 （ 工 学 ） の 論 文 と し て ふ さ わ し い も の と 認 め る 。

2 0 0 6 年 7 月

(主 査) 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士(早 稲 田 大 学) 逢 坂 哲 彌 早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士(早 稲 田 大 学) 黒 田 一 幸

早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士(早 稲 田 大 学) 菅 原 義 之

東 京 工 業 大 学 元 教 授 工 学 博 士(東 京 工 業 大 学 ） 川 田 淳 一 郎