博 士 ( 薬 学 ) 岸 野 吏 志
学 位 論 文 題 名
ai ,酸性糖蛋白質の病態時における量的、質的変動 と 薬 物結 合 に お よ ぽ す 影 響 に 関 する 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【 序】 医薬 品の 薬理 効果 や副 作 用等 は、 血清 中蛋 白質 と結合していない非結合型濃度 に 大き く依 存す る。 した がっ て 、薬 物の 血清 中蛋 白質 との結合性を定量的、および定 性 的に 解析 し、 さら に変 動の 程 度や 要因 を把 握す るこ とは、最適な薬物療法を行う上 で 極め て重 要で ある 。特 に、 薬 物の 蛋白 結合 に対 する 病態、あるいは年齢、性などの 病 理的 、お よぴ 生理 的因 子の 影 響は 大き く、 それ らの 変動要因を明かにすることは安 全 かつ 最適 な薬 物投 与計 画を 設 定す る上 で極 めて 意義 深い 。
急 性 期 蛋 白 質 で あ る 1.酸 性糖 蛋白 質( 以下 ;AAG)の 血清 中濃 度は 、種 々の 慢 性 、急 性疾 患で 著し く増 大し 、 多く の塩 基性 薬物 の蛋 白結合に影響をおよぼすことが 明 ら か に な っ て き た 。 し た が っ て 、 血 清 中AAG濃 度 の 変動 とそ れに 伴う 薬物 の蛋 白 結 合の 量的 およ び質 的変 化は 薬 物の 生体 内動 態と 薬理 効果を大きく左右する。しかし な が ら 、 病 態 時 の 血 清 中AAG濃 度 の 変 動 要 因 や そ の 変 動経 緯さ らに は病 態時 に産 生 さ れ るAAGの 質 的 な 変 化 等 に つ い て は 、 詳 細 に 検 討 さ れた 例は 少な く、 未だ 明ら か に さ れ て い な い 点 が 多 い 。 特 に 、 病 態 時 に 産 生 さ れ るAAGを患 者の 血清 中か ら単 離
・ 精製 し、 薬物 の結 合性 、お よ びそ の変 動要 因等 につ いて解析した例は極めて少い。
本研 究に おい ては 、ま ず初 めに健常人、およぴI曼性疾患(心不全、腎不全)患者、
急 性疾 患( 心筋 梗塞 )患 者を 例 にと り、 病態 時の 血清 中AAG濃度 の変 動の 程度 .を明 ら かに する と同 時に 、こ れに 伴 う抗 不整 脈薬 ジソ ピラ ミドの蛋白結合率の変化を健常 人 の場 合と 比較 し、AAG濃 度が 薬物 の蛋 白結 合と 薬理 効果 に 深く 関連 して いる こと を 明 ら か に し た 。 ま た 同 時 に 、 病 態 時 の 血 清 中 か ら 単 離・ 精製 したAAGの薬 物結 合 性 、 お よ ぴAAGの 糖 鎖 組 成 は 、 病 態 の 変 動 に 伴 っ て 著 しく 変化 して いる こと を認 め た 。 さ ら に 、AAG不 均 一 性 体 群 の 糖 鎖 構 造 の 違 い と ジ ソピ ラミ ド結 合性 との 関連 性 に つ い て 検 討 を 加 え 、 病 態 時 に 産 生 さ れ るAAGの 薬 物 と の 結 合 性 に は 、AAG糖 鎖 の 分岐 度が 重要 な役 割を 果た し てい るこ とを 明ら かに した 。
I. AAGの 血 清 中 濃 度 の 変 動 と ジ ソ ピ ラ ミ ド の 蛋 白 結 合 へ の 影 響 塩 基 性 薬 物 で あ る ジ ソ ピ ラ ミ ド の 非 結 合 型 濃 度 は 、 血清 中AAG濃 度の わず かな 変 動 によ って 顕著 な影 響を うけ る こと が認 めら れた 。ま た、血清中代謝物濃度は患者間 で 著し く異 なり 、か っジ ソピ ラ ミド の蛋 白結 合を 競合 的に阻害することが明らかとな っ た 。 し た が っ て 、 血 清 中AAG濃 度 の 変 動 は 、 ジ ソ ピ ラミ ドの 結合 率だ けで はな く
、 ジソ ピラ ミド 代謝 物の 影響 も 加わ って 、ジ ソピ ラミ ドの非結合型濃度を大きく変動 さ せる 要因 とな るこ とが 強く 示 唆さ れた 。
こ れ ま で 、 健 常 人 の 血 清 中AAG濃 度 に 対 す る 加 齢 、 性差 等の 生理 的因 子の 影響 に 関 して は見 解が 分か れ、 明確 な 結論 を得 るに 至っ てい ない。しかしながら今回、潜在 的 疾 患 保 有 者 を 除 い た 真 の 健 常 人(245例 ) で 検 討 し た 結 果 、 血 清 中AAG濃 度 は 加 齢 およ ぴ性 差に 関係 なく ほぼ 一 定の 濃度 を示 すこ とが 明らかとなった。これらの結果 よ り、 これ まで の健 常人 に関 す る多 くの 報告 は、 自覚 症状は認められないものの何ら か の異 常を 有し てい る潜 在的 疾 患保 有者 をも 含め て検 討していた可能性が高いことが
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示唆された。
腎不全時、心不全時、心筋梗塞時の血清中AAG濃度の量的な変動と、この変動に 伴なうジソピラミドの非結合型濃度の変化を定量的に評価した結果、血清中AAG濃 度の変動経緯は各病態間で著しく異なっていた。このとき、病態時のジソピラミドの 臨床効果は顕著に低下し、同時にジソピラミドの非結合型濃度も血清中AAG濃度の 増大に伴なって著しく減少することが明らかとなった。これらの結果より、非結合型 濃度を直接反映しない従来からの血清中総薬物濃度(結合型十非結合型)に基づく治 療管理(TDM)では、臨床上誤った投与計画を行う可能性が高いことが強く示唆さ れた。
n.病態時に産生されるAAGに対する定性的、定量的検討
腎不全患者、心不全患者、心筋梗塞患者の血清および血清より単離・精製したAA Gを用いてジソピラミドの結合様式を詳細に検討した結果、結合サイト数の有意な減 少が認められた。また、心筋梗塞患者、心不全患者では症状の改善とともに結合サイ ト数の回復がみられたことから、病態時に産生されるAAGは構造的(質的)に異な ったAAGであることが示唆された。
AAGの糖鎖を構成するシアル酸および各単糖の簡便かつ高感度な定量法を確立し
、腎不全患者、心筋梗塞患者のAAGの各構成糖を定量的に評価した。その結果、病 態間での糖鎖組成の顕著な違い、および病態の進行度による糖鎖構造の著しい変動が 認められた。また、病態時での糖鎖構造の変動は糖鎖構造の高分岐化に起因すること が明らかとなった。一方、AAG糖鎖の高分岐化に伴なってジソピラミドの結合量は 明らかに減少する傾向が認められ、病態時のAAGのジソピラミド結合性の低下は、
より高分岐化した糖鎖を有するAAGの増加に起因していることが強く示唆された。
さらに 、糖 鎖末 端の シア ル酸 は直 接薬 物結合に関与していないことを認めた。
m. AAGの不均一性体の糖鎖組成と薬物結合性との関係
AAG不均一性体を分離・分取し、不均一性体間の糖鎖組成、および糖鎖組成とジ ソピラミドの結合性との関連性を検討した。その結果、糖含量、および糖鎖の分岐度 には著しい違いが認められ、特にシアル酸量には顕著な違いが認められた。今回開発 し た分 離方 法は 、従 来のAAG不 均一 性体 の分離方法とは異なり、AAGを脱シアル 酸化することなしに不均一性体を分離することが可能であったことから、病態時に産 生されるAAGの構造上の(質的な)違いを詳細に検討する上で極めて有用であった
。本方法を用いることによって、不均一性体のジソピラミド結合性は糖鎖がより高分 岐化するほど低下することが初めて明らかとなった。さらに病態時のAAGに対する ジソピラミドの結合性の低下は糖鎖の分岐度の違いに起因していることが強く示唆さ れた。
【結論】患者個々の最適な薬物療法を行うためには、AAGの量的な変動は勿論のこ と、質的な変動をも考慮する必要性が示唆された。また、病態時のAAGの質的な変 動は、糖鎖の高分岐化が大きな一因であり、薬物の結合性には糖鎖構造が重要な役割 を果たすことが明らかとなった。したがって、病態時に産生されるAAGの薬物結合 性の低下は、より高分岐化した糖鎖を有するAAGの増加がーつの要因であることが 強く示唆された。
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教 授 栗 教 授 加 教 授 宮 助教授 三 講 師 宮
原 堅 三 茂 直 樹 崎 勝 巳 宅 教 尚 内 正 二
学 位 論 文 題 名
ai . 酸性 糖蛋 白質 の病 態 時における量的、質的変動 と 薬 物 結 合 に お よ ぼ す 影 響 に 関 す る 研 究
申請者 は、急性期蛋白 質であるa1.酸性糖蛋白質(以下;AAG) の慢性疾患(心不全、腎不全)患者、および急性疾患(心筋梗塞)患 者の血 清中AAG濃度の変動 の程度を明らかにすると同時に、これに 伴う抗不整脈薬ジソピラミドの蛋白結合率の変化、および病態時に産 生 さ れ るAAGの 薬 物結 合 性、 お よび 糖 鎖組 成の 変 化、AAG不均 一 性体群の糖鎖構造の違いとジソピラミド結合性との関連性を明らかに することを目的として研究を行ってきた。特に、薬物の蛋白結合に対 する病態、あるいは年齢、性等の病理的、および生理的因子の影響は 大きく、それらの変動要因を明らかにすることは安全かつ最適な薬物 投与計画を設定する上で極めて意義深いものである。しかしながら、
病態時 の血清中AAG濃度の 変動要因やその変動経緯さらには病態時 に産生 されるAAGの質的な 変化等について詳細に検討された例は少 なく、 未だ明らかに されていない 点が多い。従って、申請者はAAG 濃度と 薬物の蛋白結 合との関連性 、病態時に産生されるAAGの糖鎖 組成の 違い、また同 時に、AAG不均一性体群の糖鎖構造の違いとジ ソピラミド結合性との関連性について、3編にわたり論述している。
第I編 :AAGの血清中濃度 の変動とジソ ピラミドの蛋白 結合への 影 響… 本 編で は 、血 清 中AAG濃度 の 変動がジソピ ラミドの非結 合 型濃度を大きく変動させる要因となることを明らかにしている。また
、今回 、健常人にお ける血清中AAG濃度は加齢およぴ性差に関係な
くほぼ一定であることを多くの例数を用いて明らかにした。これらの 結果は、これまでの健常人に関する多くの報告は、潜在的疾患保有者 をも含めて検討していた可能性が高いことを示唆するものである。一 方、腎不全 時、心不全時 、心筋梗塞時の血清中AAG濃度の量的な変 動と、この変動に伴なうジソピラミドの非結合型濃度の変化を定量的 に評価した 。血清中AAG濃度の 変動経緯は各病態間で著しく異なっ ていた。このとき、病態時のジソピラミドの臨床効果が顕著に低下し た例では、 同時にジソピ ラミドの非結合型濃度も血清中AAG濃度の 増大に伴なって著しく減少していることを明らかにした。これらの結 果は、゛非結合型濃度を直接反映しない従来からの血清中総薬物濃度(
結合型十非 結合型)に基 づく治療管理(TDM)では、臨床上誤った 投 与 計 画 を行 う 可能 性 が高 い こと を 強く 示唆 す るも の であ る 。 第n編 : 病態 時 に産 生 され るAAGに 対す る 定性 的 、定 量 的検 討
.‥本編では、腎不全患者、心不全患者、心筋梗塞患者の血清および 血清より単 離・精製したAAGを 用いてジソピラミドの結合様式を詳 細に検討している。その結果、結合サイト数の有意な減少を認め、ま た心筋梗塞患者、心不全患者では症状の改善とともに結合サイト数の 回復がみら れたことから 、病態時に産生されるAAGは構造的(質的
) に 異 な ったAAGであ る こと を 示唆 して い る。 ま た、AAGの糖 鎖 を構成するシアル酸およぴ各単糖の簡便かつ高感度な定量法を確立し
、腎不全患 者、心筋梗塞 患者のAAGの各構成糖を定量的に評価し、
病態間での糖鎖組成の顕著な違い、およぴ病態の進行度による糖鎖構 造の著しい変動を認めている。さらに、病態時での糖鎖構造の変動は 糖鎖構造の高分岐化に起因することを明らかにしている。一方、AA G糖鎖の高分岐化に伴なってジソピラミドの結合量は明らかに減少す る傾向が認 められ、病態 時のAAGのジソピラミド結合性の低下ほ、
より高分岐 化した糖鎖を 有するAAGの増加に起因していることを強 く示唆している。
第m編 :AAGの 不 均一 性 体の 糖 鎖組 成と 薬 物結 合 性と の 関係 … 本編では、AAG不均一性体を健 常人の血清より分離・分取し、不均 一性体間の糖鎖組成、および糖鎖組成とジソピラミドの結合性との関 連性を検討している。その結果、糖含量、および糖鎖の分岐度には著 しい違いが認められ、特にシアル酸量に顕著な違いが認められること
を明らかに している。今 回開発した分離方法は、従来のAAG不均一 性体の分離 方法とは異な り、AAGを脱シアル酸化することなしに不 均一性体を分離することが可能であることから、病態時に産生される AAGの構造上の (質的な)違い を詳細に検討する上で極めて有用な 方法である。本分離方法を用いることによって、不均一性体のジソピ ラミド結合性は糖鎖がより高分岐化するほど低下することを初めて明 らかにして いる。さらに 病態時のAAGに対するジソピラミドの結合 性の低下は、糖鎖の分岐度の違いに起因していることを強く示唆して いる。
以上のこと から本学位論 文は、病態時に産生されるAAGのおける 量的、質的変動と薬物結合性におよぼす影響を明らかにしており、こ れらは患者個々の最適な薬物療法を行うための重要な基礎的知見を与 えるもので あり、博士( 薬学)を受け るに充分値す ると認めた。