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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

不斉な構造を有する色素は、今日の社会において利用・応用可能な、多彩な性質を示す ことが知られている。とくに、それららの色素が発する蛍光は円偏光(Circularly Polarized Luminescence, CPL)であることが知られている。CPLを用いてLED素子を作製すれば、

三次元ディスプレイが得られるであろうと提案されている。あるいは、CPL 色素を用いた 印刷技術が確立されれば、偽札防止の技術に用いることが出来ると言われている。これら 以外にもCPLを用いた様々な新しい技術が提案なされ続けているが、CPLを与える高性能 な色素、すなわち高い量子収率を有し、かつ、CPLの性能を示すg値が大きな物質はほと んど知られていない。本論文著者が属する研究室においては、ビピレノールと呼ばれる色 素の開発に成功しており、この分子は構成分子であるピレンの光学的性質を反映し、高性 能なCPL色素として挙動する。

本学位論文では、ビピレノールを用いた機能性材料創出のための基礎研究として、この 分子に対する官能基化を計画された。官能基を導入することにより、それらを足掛かりと して様々な分子にビピレノールを導入することが可能となり、今後の幅広い応用を期待す ることが出来る。

2 研究の方法と結果

本学位論文では、二つの大きな研究テーマが議論されている。第二章においては、ビピ レノールの酸素原子を利用し、ここに求核性の官能基であるチオールとアミンの導入が議 論されており、さらに、それらを用いた応用例が紹介されている。第三章においては、蛍 の光がCPLであることに注目し、これを再現するようなビピレノールを用いた化学発光色 素の合成についての議論が行われている。

2-1 チオールとアミンを導入したビピレノールの合成研究

第二章では、ビピレノールに官能基を導入する方法が議論されている。ビピレノールを 様々な機能性材料に導入するための手法として求核置換反応を用いることを想定し、求核 性の高い官能基が探索された。その結果、チオールとアミンが選択された。具体的な分子 設計方針としては、ビピレノールの酸素原子にアルキル基を導入し、その末端にこれらの 官能基を導入した分子を標的化合物とする。

チオールについては、ハロゲン化アルキルの導入、ハロゲンに対するチオ尿素の反応に よるチウロニウム塩の生成、塩基による加水分解の方法が採用された。まず、文献記載の

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方法に従ってビピレノールを合成した。この分子は二つの酸素原子を有しているため、ま ず、一方の酸素原子をヨウ化メチルでメチルエーテルへと変換した。次に1,6-ジブロモヘキ サンを作用させることにより、6-ブロモヘキシル基を導入した。これにエタノール中、チオ 尿素を作用させることにより、チウロニウム塩へと変換した。チウロニウム塩は単離する ことなく、引き続きアルカリ水溶液を作用させることにより、目的とするチオール置換ビ ピレノールへと導いた。チオールを二つ備えた分子の合成も併せて行った。ビピレノール に大過剰の1,6-ジブロモヘキサンを作用させると、6-ブロモヘキシル基が二つ導入された化 合物が主生成物として得られた。この反応では、ビピレノールと 1,6-ジブロモヘキサンが 1:1で反応した環状エーテル体も得られるが、過剰量の 1,6-ジブロモヘキサンを用いるこ とによって、この副生成物の生成を抑えることが出来た。ビス(6-ブロモヘキシル)体に対 してチオ尿素を作用させ、アルカリ加水分解を行うことにより目的とするチチオール二つ 備えたビピレノールが得られた。

アミンの導入では、ガブリエル合成が採用された。先に得られた6-ブロモヘキシル基を 有したビピレノールに対して、フタルイミドカリウムを作用させることにより、フタルイ ミド誘導体へと導いた。これに対してヒドラジンを作用させることにより、アミンを有し たビピレノールが得られた。

本研究で得られた官能基化ビピレノールの応用として、光誘起電子移動系の構築を目指 した。具体的には、ビピレノールを電子供与部とし、電子受容部を備えた系の構築を行っ た。電子受容部には、1,8-ナフタルイミド、1,4,5,8-ナフタルジイミドを用いることとした。

アミンを有したビピレノールに、1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物を作用させたところ、

1,8-ナフタルイミドが置換したビピレノールが得られた。一方、過剰量の1,4,5,8-ナフタレ ンテトラカルボン酸無水物を作用させたところ、ビピレノールとナフタレンテトラカルボ ン酸とが1:1で反応したと思われる固体が得られた。しかしながらこの物質は難溶性であ ったことから、残存しているカルボン酸無水物の部分に対して、長鎖アルキル鎖アミンを 作用させてイミドとし、分子の溶解性の向上を図った。得られた分子については、円二色 性スペクトルを含む基本的な分光測定を行い、同定が行われた。

2-2 ルミノールを導入したビピレノールの合成研究

第三章では、ビピレノールとルミノールとの連結型分子の合成と、それを実現するため の基礎研究が議論されている。序論で紹介がなされたように、CPL は機能性材料として興 味深いが、自然界にも事例を見出すことが出来る。その代表的な例が、蛍が発する光であ り、蛍は化学発光のメカニズムを用いてルシフェリンと呼ばれる蛍光色素を発光させてい

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る。そこで、化学発光により円偏光を得ることに挑戦した。

化学発光の色素には、最も広く研究がなされているルミノールが選択され、これにビピ レノールを導入した分子が標的化合物として設計がなされた。しかし、ルミノールの誘導 体の合成の研究例は限られており、合成ルートの開発からおこなわなければならない。そ こで、遷移金属触媒を用いるC-C結合形成反応、具体的には鈴木-宮浦カップリングを用い てルミノール部分とビピレノール部分の結合を行うことにした。そのための予備実験とし て、まず、簡単な芳香族化合物のルミノールへの導入が検討された。市販の無水フタル酸 に臭素を作用させることにより、臭素原子の導入を行った。その後、アルキルアミンを作 用させることにより、酸無水物構造をイミドへと変換させた。この分子に対して、パラジ ウム触媒存在下、様々な芳香族ホウ酸誘導体を作用させて芳香環の導入が行われた。芳香 環としては、フェニル基、4-メトキシフェニル基、4-ニトロフェニル基、1-ナフチル基、2- ピレニル基が評価されて、いずれも高収率で導入を行うことが出来た。得られた芳香族置 換フタルイミド誘導体に対し、ヒドラジンを作用させることにより芳香族置換ルミノール を得ることが出来た。これらに対して、アルカリ性条件下、フェリシアン化カリウムと過 酸化水素水を作用させたところ、視覚によって発光を観察することが出来た。さらに、ピ レンが置換した化合物に対して分光測定を行ったとこと、404nmに発光を有していること が見出された。

以上の知見をもとに、ビピレノールとルミノールの連結が行われた。まず、ビピレノー ルの水酸基を、エチレン架橋により環状エーテルとして保護した。尚、この実験ではラセ ミ体のビピレノールを反応に用いた。次に、パラジウム触媒存在下、ピナコール酸ジボラ ンを作用させたところ、ボロン酸とすることが出来た。これに、先の予備実験で得られた 臭素置換フタル酸イミドを作用させた。この反応では、ビピレノールがR体とS体を含む ラセミ体であり、新たに形成されるビピレノール-フタル酸の結合が不斉軸であるため、(ビ ピレノールの不斉軸、ビピレノール-フタル酸の不斉軸)=(RR)、(RS)、(SR)、(SS)の 四つのジアステレオマーの生成が期待される。反応混合物の薄層クロマトグラフィーは二 つの化合物の生成を示している。幸い、一方の化合物については単結晶 X 線結晶構造解析 に成功し、(RR)体であることが判明した。クロマトグラフィーで異なったRf値を与える ことから、もう一方の生成物はそのジアステレオマーである(RS)体か(SR)体であるこ とが示唆される。CDスペクトルを測定したところ、ビピレノールに由来する部分のコット ン効果が(RR)体と類似していることから、もう一方の立体化学は(RS)体である可能性 が高く、今後の詳細な立体化学の評価が望まれる。このようにして得られた前駆体に対し ヒドラジンを作用させることにより、ルミノール誘導体とし、ビピレノールとルミノール

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との連結型分子の合成に成功することが出来た。

3 審査の結果

本学位論文は、ビピレノールにチオールとアミンを導入する方法を確立し、かつ、得 られたアミン体を用いた新しい機能性分子の合成例が議論されている。さらに、化学発光 により円偏光を得ようとする意欲的な系の開拓も行われ、ルミノールが置換したビピレノ ールの合成が完了し、その詳細が議論されている。以上の化学に関し、正確な実験結果の 記述、それに基づいた十分な考察と議論がなされており、学位論文として十分な内容を有 していると判断する。

4 最終試験の結果

最終試験に先立ち、主査・杉浦健一対して提出された学位論文を副査にも配布し、か つ、2019年7月13日、主査と副査(西長亨、久冨木志郎)対して予備審査会が行われた。

ここでは、一時間程度の口頭発表、口頭発表と学位論文の内容に対する質疑応答が行われ た。この結果を参考にして学位論文の修正と最終試験に臨むように伝えた。

2018 年8月11日、主査、全副査同席のもと、公開で最終試験が行われた。学位論文 の内容について40分間の口頭発表を行ったのち、20分間の質疑応答が行われた。又、本研 究 の 内 容 に つ い て 発 表 し た 論 文 に つ い て も 説 明 が な さ れ た (“Functionalization of Bipyrenol: Potential Precursors for Advanced Chiral Molecules”, Synthesis, DOI:

10.1055/s-0040-1707341)。口頭発表、および質疑応答の内容は、最終試験に出席した教授 会メンバー全員から合格の判定を受けた。

以上を鑑み、主査、および副査はリザ・ウンメ・アイマンさんから申請された学位申 請論文が学位授与にふさわしいと判断した。

参照

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