博 士 ( 工 学 ) 西 川 武 夫
学 位 論 文 題 名
鋼 橋 架 設 時 の 橋 体 照 査 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
昭 和40年 代 前半 か ら の経 済 の 急速 な 発展 と と もに 、 橋梁 の 大 型化・ 長支間化 の要 請 も強 くな り高度な 架橋技術が 求められ 、従来か らの経験 と勘に頼 る体制か らの脱皮 が 迫ら れて きた。ま た、社会構 造の輻湊 化、環境 問題への 関心の高 まりとと もに生じ る 時間 的・ 空間的な 制約条件へ の対応か らも計画 段階にお いて、安 全に対す るカ学的 視 点か らの 照査と現 場における 施工との 一貫性の ある対応 ができる 総合技術 が強く要 請され てきた。
道 路 形状、 構造形式 、鋼種の多 様化によ り設計の 自由度は 広がった が、一方 架橋条 件 は厳 しく なり架設 工法を配慮 した計画 ・設計・ 製作が要 求されて きた。計 画・設計 の段階 におぃて 、製作工 場での組 立から完成するまでの構造系の変化を綿密に追跡し、
変 形・ 応力 ・座屈面 で問題がな いかの照 査が必要 な場合が 多くなっ てきた。 設計で適 用 する 示方 書・基準 類は、理想 的な構造 詳細、支 持条件を 前提とし ているの で架設時 には、 そのまま 適用でき なぃこと が多レヽ。 わが国の土木学会にも架設設計に関する
『 鋼 構 造 架 設 設 計指 針 (土 木 学 会編 、 昭 和53年5月発 行 ) 』が あ る。 し か し架 設 中 の 仮支 持点 近傍の応 力分布と座 屈照査、 あるいは 断面諸元 が長手方 向に変化 する柱・
桁 の 座 屈 照 査 ― 一 部 材 の 曲 げ 座 屈 照 査 、 桁の 横 倒 れ座 屈 照 査、 板 の座 屈 照 査ー ー には、 本指針を そのまま 適用でき ない場合が しぱしぱ ある。
, 本 論 文 は 、 鋼 橋の 架 設計 画 段 階で 行 う3つの 照 査 一一 橋 体 照査 、 仮設 構 造 物の 照 査 、架 設 機 材の 照 査一 〜 の うち 、 特に 橋 体 照査 に 焦点 を 当 てて 、 施工上必 要となる 最 小限 の補 強・補剛 を命題とし て、理論 的究明と 実用的な 近似式の 提案およ び実際施 工 への 適用 を重点に 置きまとめ ている。 特に、既 存の初期 不整の影 響を考慮 した基準 耐 荷力 曲線 式を用い ることによ り、理論 的裏付け をもって 安全に施 工できる ことを具 体 的事 例 を 基に 説 明し て い る。 な お、 本論文は7章から構 成される が、各章 の内容を 以下に 概説する 。
第1章では、橋体照査の重要性と現状および本研究の概要について述べている。
第2章では、海外・国内の事故原因の分析を基に橋体照査時に配慮すべき具体的事 項を取り挙げている。計画・設計時に考慮して置かなけれぱならない架設上の問題点 も取り挙げているが、なかでも構造系の変化に対応した変形、応カおよび座屈照査の 重要性を強調レている。
ま た、架設中 の事故例( 海外23件、国内125件)を分析し、『照査ミス』の占 め る割合が65〜75%もあることを指摘している。特に、計画段階における構造系 の 変化に対す る対応の不 備が原因で 発生した事故(国内で発生した125件中の18 件)をカ学的視点から分類して事故防止策を提案している。
第3章では、両端単純支持され、軸方向圧縮カを受ける2軸対称な柱の長手方向に 階段状に変化した断面諸元をFourier級数、変位関数を三角級数で表し、Galerkin法 を適用して弾性座屈荷重を算定している。弾性曲げ座屈荷重では、Fourier級数、変 位関数とも展開項の第一項のみで工学上必要な精度が得られることを汎用プ口グラム NASTRANによる数値計算で確認し、実用的な近似式を誘導している。また、この近似 式を中心圧縮柱に関するEuler座屈荷重ヘ置換して得られる『等価換算細長比式』を 提案している。この細長比を日本道路協会の『道路橋示方書・同解説、亜鋼橋編』の 基準耐荷力曲線式に用いて求めた耐荷荷重を施工時の安全性の判定基準としている。
なお、卜ラスド・ランガー橋の一括架設時に圧縮カを受ける耐風対策上必要となっ た 箱断面の4面に一定間隔で孔が明けられた斜材(最大孔数25個/1斜材)の座屈 照査に、本章の考え方を適用し計画通りの安全性をもって現場施工を行い、その有効 性を明らかにした。
第4章では、開閉混成断面桁の弾性横倒れ座屈荷重が、変位関数を一次の正弦関数 で仮定し連成微分方程式にGalerkin法を適用し、その積分過程から得られた『等価換 算断面諸元』を等断面桁の式に用いて得られることを示している。この弾性横倒れ座 屈荷重を中心圧縮柱に関するEuler座屈荷重ヘ置換して得られる『等価換算細長比式』
を日本道路協会の『道路橋示方書・同解説、亜鋼橋編』の基準耐荷力曲線式に用いて 求めた耐荷横倒れ座屈荷重を施工時の安全性の判定基準としている。 また、弾性横 倒れ座屈荷重に対しては汎用プ口グラムNASTRANと、耐荷横倒れ座屈荷重に対しては DIN 18800 Teil2と 対 比 し 非 常 に 良 く 一 致 す る こ と を 確 認 し て い る 。 な お、(支問/主桁間隔)比が、ほぱ20の鋼I形単純活荷重合成2主桁橋におけ る床版の分割施工時に開閉混成断面となる桁の横倒れ座屈照査に、本章の考え方を適 用し計画通りの安全性をもって現場施工を行い、その有効性を明らかにした。これは、
わが国では初めての試みである。
5章では、腹板の補強・補剛量を最小にするために、フランジを伸び剛性のみを有 する棒、腹板を等方性板としてAiryの応力関数による応力分布を基に、選点での座屈 条件式丶に4辺単純支持の条件を満足する変位関数を2重三角級数の和で仮定し、この
式にGalcrkin法を適用して近似座屈係数を求めている。この応カによる応力照査と近 似座屈係致を基に日本道路協会の『道路橋示方書・同解説、亜鋼橋編』の無補剛板に 対する基準耐荷力曲縲式から求めた耐荷応カによる座屈!畷査を施工時の安全性の判定 基準としている。応カの分布が等分布あるいは直線分布の場合には、座屈係数が容易 に得られ、また既往文献による値と照合して高精度で一致することを確認している。
本方法は、4辺単純支持板であれば、あらゆる応力状態に対しても座屈照査ができ、
さらに入カデータの簡易化が計れるとぃう特徴がある。
なお、5径間連続箱桁橋の『送り出し架設』時に、桁作用と縁荷重とを受ける腹板 の応カおよび座屈照査に、本章の考え方を適用し従来から用いられてきた方法一一 応力 分布とモデ ル化を安全 側に仮定―−よりも、補強・補剛量を約40%も節減し て、しかも計画通りの安全性をもって現場施工を行い、その有効性を明らかにした。
第6章では、橋体の全体地組立て後、大型揚重機による一括吊上げ、あるいはデッ キバージへの積載・曳航する場合の特徴、問題点および照査事項を中心に述べている。
ま た 、支 間 約17 3m, 鋼重 約3200tの 単 弦補 剛 アー チ 橋の ー 括架 設 時に おけ る 橋体の補強・補剛と、デッキバージ上の仮支持点付近の応カを施工中における安全の 確 認 とShearーLag現象把握 のために実 施した応力 測定につい ても述べて いる。
なお、補強・補剛の基礎とした立体骨組構造解析系に与えた剛性と応力算定に用い たフランジ有効幅規定の妥当性を、実測値と『直交異方性シャイベ理論』による計算 値とから明らかにしている。
第7章では、以上の結果をまとめ本論文の成果とするとともに、今後の検討課題を 挙げている。
学 位 論 文審 査 の要 旨 主査 教 授 芳 村 仁 副査 教授 角田輿史雄 副査 教 授 佐 藤浩 一 副査 教 授 岸 田路 也
学 位 論 文 題 名 鋼橋架 設時の橋 体照査 に関する研究
社 会構 造の輻湊 化、環 境問題へ の関心の 高まり とともに 生じる 時間的・ 空間的 制約条件 へ の 対 応から架 設計画段 階にお いて、安 全に対 するカ学 的視点 からの照 査が強く 要請さ れ て き た 。計画・ 設計段階 におい て、製作 工場で の組立か ら完成 までの構 造系の変 化を綿 密 に 追 跡 し、変形 ・応力・ 座屈面 で問題が ないか の照査が 必要な 場合が多 くなって きた。 現 行 の 示 方書・基 準類は、 完成し た構造系 を前提 としてい るので 架設時に は、その まま適 用 で き な い こと が あ る。
本 論 文は 、 鋼 橋の 架 設 計画 段 階 で行 う3っの 照 査 ―ー 橋 体 照 査、 仮 設 構造 物 の 照査 、 架 設 機 材 の照 査 ― 一の う ち 、橋 体 照 査に 焦 点 を当 て て 、架 設 上必要と なる費用 の最小 限 化 を 命 題として 、理論的 究明と 実用近似 式の提 案および 架設工 事への適 用を重点 にまと め て い る 。
第 1章 で は 、 研 究 の 背 景 と 目 的 お よ び 本 論 文 の 概 要 に っ い て 述 べ て い る 。 第2章で は 、 海外 ・ 国 内の 架 設 中の 事 故 原因 の 分 析か ら 、 照 査不 備 の 占め る 割 合が65
〜 75%も あ る こと を 明 らか に し てい る 。 .
第3章で は 、 両端 単 純 支持 さ れ た、 軸 方 向圧 縮 カ を受 け る2軸対 称な柱の 長手方 向に階 段 状 に 変 化し た 断 面諸 元 をFourier級 数、Galerkin法 を適用 して弾性 座屈荷 重を算定 して い る 。 こ の近 似 式 とEuler座 屈 荷重 から求 めた等価 換算細長 比を日 本道路協 会の道 路橋示 方 書 の 基準耐荷 力曲線に 代人し て求めた 耐荷荷 重を施工 時の安 全性の判 定基準と して、 提 案 し て いる。っ ぎに、ト ラスト ・ランガ 一橋の 一括架設 時に圧 縮カを受 ける耐風 対策上 必 要 と な っ た箱 断 面 の4面 に 一定 間 隔で孔 が明け られた斜 材の座 屈照査に 適用し計 画通り の 安 全 性 を も っ て 架 設 工 事 が 完 了 し 、 そ の 有 効 性 を 明 ら か に し て い る 。 第4章で は 、 開閉 混 成 断面 桁 の 弾性 横 倒 れ座 屈 荷 重が 、 連 成 微分 方 程 式にGalerkin法 を 適 用 し、その 積分過程 から求 めた等価 換算諸 元を等断 面桁の 式に代入 して得ら れるこ と を 示 し て いる 。 こ の弾 性 横 倒れ 座 屈荷重とEuler座 屈荷重か ら求め た等価換 算細長 比を道 路 橋 示 方書の基 準耐荷力 曲線に 代入して 得られ た耐荷横 倒れ座 屈荷重を 施工時の 安全性 の 判 定 基 準 とし て 提 案し て い る。 ま た 、( 支 間 /主 桁 間 隔) 比 が 、 ほぼ20の鋼I形 単純 活 荷 重 合 成2主 桁 橋 にお け る 床版 の 分割施 工時に 開閉混成 断面と なる桁の 横倒れ座 屈照査 に 適 用 し 計画通り の安全性 をもっ て現場施 工を行 い、その 有効性 を明らか にしてい る。こ れ
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は、わが国では初めての試みである。
第5章では、腹板の補強・補剛量を最小にするために、フランジを伸び剛性のみを有す る棒、腹板を等方性板としてAiryの応力関数による応カを基に、4辺単純支持板の条件を 満足する変位関数を選点での座屈条件式に代人して、Galerkin法を適用して近似座屈係数 を求めている。この応カによる応力照査と近似座屈係数を基に道路橋示方書の無補剛板に 対する基準耐荷力曲線から求めた耐荷応カによる座屈照査を架設時の安全性の判定基準と して提案している。そして、これを、5径間連続箱桁橋の『送り出し架設』時に、桁作用 と縁荷重とを受ける腹板の応カおよび座屈照査に適用し、従来から用いられてきた方法よ りも、補強・補剛量を約40%も節減して、しかも計画通りの安全性をもって架設工事を 行い、手法の有効性を立証している。
第6章 で は 、 支間17 3m、 鋼 重約3200tの 単 弦補 剛 ア ーチ 橋 の 一括 架 設時 に お け る橋体の補強・補剛、および架設中における安全の確認とShear−Lag現象把握のために実 施した仮支持点付近の応力測定結果にっいて検討を加え、補強・補剛の基礎とした立体骨 組構造解析系に与えた剛性と応力算定に用いた有効幅規定の妥当性を、実測値と直交異方 性シャイベ理論による計算値から明らかにしている。
第7章では、各章で得られた成果をとりまとめている。
これを要するに、著者は、鋼橋架設時の橋体照査に関する理論式と実用近似式を示し実 際の架設工事に適用し、その有効性を明らかにするなど多くの新知見を与えるとともに新 たな照査法を提案したものであり、橋梁工学の発展および鋼橋架設時の経済性、安全性の 向上に貢献するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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