1
管理栄養士国家試験受験のための
解剖生理学 要点整理ノート
目次
1. 細胞の構造と機能(1)
3
2. 細胞の構造と機能(2)
6
3. 組織の構造と機能(1)
9
4. 組織の構造と機能(2)
13
5. 消化器系の構造と機能(1)口腔、食道、胃
16
6. 消化器系の構造と機能(2)小腸、大腸
20
7. 消化器系の構造と機能(3)膵
23
8. 消化器系の構造と機能(4)肝、胆
27
9. 循環器系の構造と機能(1)心臓
30
10. 循環器系の構造と機能(2)血管、血圧
34
11. 呼吸器系の構造と機能(1)気管、肺
39
12. 呼吸器系の構造と機能(2)ガス交換
43
13. 泌尿器系の構造と機能
45
14. 水・電解質と酸塩基平衡の調節
49
15. 血液の成分と機能
53
16. 神経系の構造と機能(1)ニューロン
58
17. 神経系の構造と機能(2)中枢神経
61
18. 神経系の構造と機能(3)末梢神経
64
19. 感覚器の構造と機能(1)視覚
68
20. 感覚器の構造と機能(2)味覚、嗅覚、その他
71
21. 内分泌系の構造と機能(1)下垂体、甲状腺
75
22. 内分泌系の構造と機能(2)副腎、その他
79
23. 骨の構造と機能
83
24. 筋肉の構造と機能
88
25. 免疫系の構造と機能
90
26. 生殖系の構造と機能(1)精巣、卵巣、子宮
94
27. 生殖系の構造と機能(2)受精、妊娠
98
28. 皮膚の構造と体温調節
101
29. エネルギー代謝
104
30. 老化のメカニズム
109
3
1.細胞の構造と機能(1)
〇学習目標 ・細胞が利用するエネルギーについて説明できる。 ・細胞小器官の種類、構造、機能について説明できる。 1.はじめに (1)人体の階層構造 ・個体(individual)とは、器官系が集まって作られる一つの生命の全体である。 ・器官系(system)とは、機能的に関係がある器官(臓器)が集まって作られるシステムである。 消化器系:食物から栄養素を体内に取り込む。 呼吸器系:酸素を取り込み、二酸化炭素を排泄する。 循環器系:体内の物質を移動させる。 泌尿器系:老廃物を排泄する。 神経系・内分泌系・免疫系:体内の機能を調節し、恒常性を維持する。 筋・骨格系:体型の維持と運動をつかさどる。 生殖系:子孫を残す。 ・器官(臓器)(organ)とは、ある機能を担うために組織が集まって作られる構造物である。 ・組織(tissue)とは、細胞と細胞間物質が一定の秩序をもって作られている構造である。 ・細胞(cell)とは、細胞膜で包まれた生命の最小単位である。 ・細胞小器官(organelle)とは、細胞内である機能を担う構造物である。 ・分子(molecule)とは、細胞と細胞間物質を構成する原子からなる化合物である。 ・原子(atom)とは、物質を構成する最小単位(元素 element)である。 (2)人体の化学組成 ・もっとも多い構成元素は、酸素(O)である。(酸素 O>炭素 C>水素 H>窒素 N・・・) ・もっとも多い構成成分は、水(H2O)である。 水分は、体重の約60%を占める。 水分は、筋肉組織で多く、脂肪組織で少ない。 女性は体脂肪率が高いので、男性に比べて水分の割合が少ない。 水分の割合は、加齢とともに減少する。 ・もっとも多い固形成分は、脂質である。(脂質>たんぱく質>糖質) ・もっとも多い無機質は、カルシウム(Ca)である。 Ca の 99%は、骨に存在する。 ・細胞内液には、カリウムイオン(K+)が多く存在する。 ・細胞外液には、ナトリウムイオン(Na+)が多く存在する。 ・体液中のたんぱく質濃度は、細胞内液>血漿>間質液である。 2.エネルギー変換と ATP(adenosine triphosphate)産生 ・植物は、光合成により光エネルギーを化学エネルギーに変換してエネルギーを蓄積する。 (光エネルギー) CO2 + H2O → C6H12O6(化学エネルギー) ・生命が利用する化学エネルギーは、炭素を還元(たくさんの電子をもっている状態)することによ って植物に蓄積される。 ・動物は、植物に含まれる炭素を酸化(電子が少ない状態)することによりエネルギーを取り出す。 C6H12O6 → CO2 + H2O + ATP ・ATP は、体内のさまざまな活動のエネルギー源として利用される「エネルギーの通貨」である。 ・体内に取り込まれたエネルギーは、最終的には運動エネルギーや熱エネルギーなどに変換されて、 体外に放出される。(エネルギー保存の法則)4 3.細胞(cell) ・ヒトは、約60 兆個の細胞からできている多細胞生物である。 ・細胞の大きさは、一般に10~30m である。(1μm は、1 ㎜の 1,000 分の 1) 赤血球は8m、成熟卵は 200m である。 ・細胞は、脂質二重層からなる細胞膜で包まれている。 ・細胞の内部には、核、細胞小器官、細胞骨格、細胞質がある。 (1)細胞小器官(organelle) 1)小胞体(endoplasmic reticulum) ・小胞体は、脂質二重層で包まれた袋状の構造物である。 ・小胞体には、リボソームが付着した粗面小胞体と、リボソームがない滑面小胞体がある。 ・粗面小胞体では、分泌たんぱく質や膜たんぱく質を合成が行われる。 ・滑面小胞体では、解毒や脂質の合成が行われる。 2)リボソーム(ribosome)
・リボソームは、リボソームRNA(rRNA, ribosomal ribonucleic acid)とたんぱく質で構成される。 ・rRNA は、ペプチド合成の酵素(リボザイム ribozyme)として働く。
・リボソームは、メッセンジャーRNA(mRNA, messenger RNA)の情報をもとに、たんぱく質を合 成する。 3)ゴルジ装置(Golgi apparatus) ・ゴルジ装置は、扁平な小胞が積み重なった構造物である。 ・ゴルジ装置は、粗面小胞体で合成されたたんぱく質を、集積、加工、濃縮する。 ・ゴルジ装置は、膜たんぱく質、分泌顆粒、リソソームなどを生成する。 4)中心小体(centrosome) ・中心体は、細胞分裂をするとき細胞の両極に移動し、紡錘糸の合成中心になる。 5)ミトコンドリア(mitochondria) ・ミトコンドリアは、内膜と外膜の二重の膜で包まれている。 ・内膜には、クリステと呼ばれる多数の「ひだ」がある。 ・マトリックスと内膜には、クエン酸回路と電子伝達系の酵素がある。 ・ミトコンドリアは、酸化的リン酸化により、ATP を生成する。 炭素から放出された電子は、電子伝達系によって運ばれ、最終的に酸素を還元して水を生成する。 この過程で放出されてエネルギーにより、ミトコンドリア内膜の内外にH+の濃度勾配ができる。 ATP 合成酵素は、内膜の内外の H+濃度勾配を利用してATP を合成する。 ATP 合成反応は、炭素が酸化されて二酸化炭素ができるときに放出されるエネルギーを利用して ADP にリン酸を付加して ATP を作るので、酸化的リン酸化という。 ・マトリックスで作られたATP は、細胞質の ADP と交換してミトコンドリアの外に出る。 ・ミトコンドリアには、固有の環状DNA が存在し、自己複製する。 ・ミトコンドリアDNA は、ミトコンドリアのたんぱく質の一部をコードしている。 大部分のたんぱく質は、核のDNA にコードされている。 ・ミトコンドリアDNA は、すべて母親(卵子)に由来する。 6)リソソーム(lysosome) ・リソソームは、細胞内に取り込んだ異物や細胞内の不要な物質を分解する。 ・リソソームの内部には、40 種類以上の加水分解酵素があり、核酸、糖質、たんぱく質、脂質を加水 分解する。
5 7)ペルオキシソーム(peroxisome) ・ペルオキシソームは、過酸化水素(H2O2)を産生する酵素と分解する酵素(カタラーゼ)を含んで いる。 ・過酸化水素は、白血球の殺菌作用に利用される。 8)分泌顆粒 ・分泌顆粒は、ホルモンや消化酵素などを含む顆粒(小胞)である。 ・細胞が刺激されると分泌顆粒は細胞膜と融合し、内容物を細胞外へ放出する。 (2)主な代謝が起こる場所 ・細胞質:解糖、糖新生、ペントースリン酸回路、グリコーゲンの合成と分解、脂肪酸の合成、 プロテアソームによるたんぱく質の分解 ・ミトコンドリア:脂肪酸のβ酸化、クエン酸回路、電子伝達系 ・滑面小胞体:トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、ステロイドホルモンなどの脂質合成 ・リボソーム、粗面小胞体:たんぱく質合成 ・リソソーム:たんぱく質、多糖類、脂質、核酸など高分子の加水分解、オートファジー (3)オートファジー(autophagy) ・細胞内の異常なたんぱく質や過剰に合成されたたんぱく質を分解する。 ・リソソームで起こる。 ・飢餓は、オートファジーを誘導する。 生理的意義は、自己のたんぱく質を分解してアミノ酸を栄養源として利用することである。 (4)プロテアソーム(proteasome) ・プロテアソームは、細胞質に存在する不要なたんぱく質を分解する。 ・たくさんのサブユニットからなる円筒状のたんぱく質である。 ・プロテアソームの内部には、ATP 依存性プロテアーゼ(エネルギーを消費して、たんぱく質のペプ チド結合を加水分解する酵素)を含んでいる。 ユビキチン化されたたんぱく質を円筒の中に取り込み、アミノ酸に分解して放出する。 ユビキチンは、76 個のアミノ酸からなるたんぱく質である。 ユビキチンが細胞内の不要なたんぱく質や異常なたんぱく質の結合することをユビキチン化 という。 (5)開口吸収(endocytosis、)と開口分泌(exocytosis) ・開口吸収により、液や小さな物質で取り込むことを、飲作用という。 ・開口吸収により、大きな粒子を取り込むことを、食作用という。 ・開口分泌は、ホルモンや消化酵素を細胞外へ分泌する。 (6)細胞骨格(cytoskeleton) ・細胞骨格は、たんぱく質からなる細胞内の線維状物質である。 中間フィラメント、微小管、アクチンフィラメントが、細胞骨格を構成する。 ・細胞骨格は、細胞の形態の維持、運動に関与する。 〇参考図書 田中冨久子「カラー図解はじめての生理学(上)動物機能編」講談社BLUEBACKS(2016) 田中冨久子「カラー図解はじめての生理学(下)植物機能編」講談社BLUEBACKS(2016) 森和俊「細胞の中の分子生物学」講談社BLUE BACKS(2016) 福岡伸一「生命と無生物のあいだ」講談社現代新書(2007) 林純一「ミトコンドリア・ミステリー」講談社BLUE BACKS(2002)
6
2.細胞の構造と機能(2)
〇学習目標 ・遺伝子の発現(転写と翻訳)について説明できる。 ・細胞膜の構造と機能について説明できる。 ・静止電位と活動電位について説明できる。 1.核酸とたんぱく質の合成 (1)核(nucleus) ・核は、二重の脂質二重層からなる核膜で包まれている。 ・核膜には、多数の核膜孔があり、細胞質と核内で物質交換が行われている。 ・核小体では、リボソームRNA(rRNA)が合成される。 (2)核酸(nucleic acid) ・ヌクレオシド(nucleoside)は、塩基(base)と糖が結合したものである。 ・糖は、DNA ではデオキシリボース、RNA ではリボースである。 ・ヌクレオチド(nucleotide)は、ヌクレオシドにリン酸が結合したものである。 ・DNA の塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)である。 ・RNA の塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)である。 ・A と T、G と C が相補的な対を作る。 ・DNA(デオキシリボ核酸)は、ヌクレオチドが鎖状につながり、2 本のヌクレオチド鎖がらせん構 造(double helix)を作ったものである。 ・ヌクレオソーム(nucleosome)は、ヒストン(塩基性たんぱく質)に DNA が巻きついたものであ る。 ・クロマチン(chromatin 染色質)は、ヌクレオソームが折りたたまれたものである。 ・クロモソーム(chromosome 染色体)は、クロマチンが高度に折りたたまれて凝縮したものである。 クロモソームは、細胞が分裂するときに出現する。 ヒトのクロモソームは、22 対(44 本)の常染色体と 1 対(2 本)の性染色体(X、Y)からなる。 (3)遺伝子の発現とたんぱく質合成 1)遺伝子(gene) ・DNA の全塩基配列を、ゲノム(genome)という。 ・ヒトゲノムは、約30 億塩基対からなる。 ヒトゲノム計画により、ヒトの遺伝子は約 20,000 個(全ゲノムの約 2%)であることがわかっ た。 2)転写(transcription) ・転写とは、DNA 上の塩基配列の情報を、RNA 上の塩基配列の情報に写し取ることである。 ・DNA 上の遺伝子(塩基配列)を鋳型にして、RNA が合成される。 DNA 上の A には U、G には C、C には G、T には A が対を形成して転写が行われる。 遺伝子上流には、転写を調節する部位(プロモーター領域)がある。 転写は、RNA ポリメラーゼがプロモーター領域に結合して始まる。 ・転写されたRNA は、スプライシング(splicing)によりイントロン(intron)が除かれ、エクソン (exon)からなるメッセンジャーRNA(mRNA)が生成する。 ・合成されたmRNA は、核膜孔を通って細胞質に存在するリボソームに移動する。7 3)翻訳(translation)
・翻訳とは、RNA 上の塩基配列の情報を、アミノ酸配列の情報に書き換えることである。
・DNA 上の 3 つの塩基配列(トリプレット triplet)が 1 種類のアミノ酸に対応しており、DNA から 転写されたmRNA 上のトリプレットをコドン(codon)という。
・mRNA のコドンに相補的なトランスファーRNA(tRNA)上のトリプレットをアンチコドン (anticodon)という。
・リボソームでは、mRNA の塩基配列に従い tRNA の作用でアミノ酸をペプチド結合で鎖状に連結 してたんぱく質を合成する。
・全RNA に占める割合は、rRNA が約 80%、tRNA が約 15%、mRNA が約 5%である。 4)DNA の複製 ・DNA は、半保存的に複製される。 2 本鎖の DNA が複製されるときは、二重らせんがほどけて 1 本鎖 DNA になる。 それぞれのDNA の塩基配列を鋳型にして、相補的な DNA 鎖が新たに作られる。 1 つの複製開始点により二重らせんがほどける複製単位をレプリコンという。 ・DNA を合成する酵素を、DNA ポリメラーゼという。 複製開始点には、プライマー(短いRNA 鎖)が合成される。 DNA ポリメラーゼは、プライマーの 3′末端に続いて 5′→3′の方向へリーディング鎖を合成 する。 複製起点から逆方向へは、複数の短いラギング鎖(岡崎フラグメント)を合成することによって 進む。 DNA リガーゼは、DNA の断片をつないで連続した鎖にする。 (5)細胞周期(cell cycle)
①DNA 合成準備期(G1 期、G1 phase、G は gap の意) ②DNA を複製する時期(S 期、synthesis phase) ③分裂準備期(G2 期、G2 phase)
④細胞分裂の時期(M 期、mitotic phase)(有糸分裂 mitosis) 2.細胞膜(cell membrane) (1)細胞膜の構造 ・細胞膜の基本構造は、リン脂質の親水性の部分を外側に、疎水性の部分を内側にした脂質二重層で ある。 ・細胞膜には、コレステロール、たんぱく質、糖鎖などが含まれている。(流動モザイクモデル) ・リン脂質を構成する脂肪酸が不飽和脂肪酸であると、細胞膜の流動性が増加する。 (2)細胞膜の機能 ・選択的透過性(半透膜):細胞膜内外で濃度差を生成 ・膜たんぱく質の主な機能 酵素(enzyme):消化酵素、アンギオテンシン変換酵素など 受容体(receptor):ホルモン、神経伝達物質に対する受容体 輸送体(transporter):イオンチャネル、Na-K ポンプ、糖輸送担体など ・細胞膜に存在する糖鎖は、脂質やたんぱく質と結合して存在し、血液型の抗原などとして機能する。 (3)細胞膜を介した物質移動 1)受動輸送 ・単純拡散:濃度勾配に従って、細胞膜を直接通過すること 酸素、二酸化炭素、水など ・促進拡散:細胞膜を直接通過できない物質が、膜たんぱく質(輸送体)を介して、濃度勾配に従っ て通過すること イオンチャンネル、グルコース・トランスポーター、Na 依存性グルコ ース・トランスポーターなど
8 2)能動輸送
・ATP を消費して、濃度勾配に逆らって細胞膜を通過すること Na-K ポンプ(Na+-K+-ATPase)など
3.膜電位(membrane potential)
(1)静止電位(resting membrane potential)
・細胞膜に存在するNa-K ポンプにより、Na+は細胞外へ、K+は細胞内へ移動する。 ・静止状態の細胞膜では、Na+を通過させる電位依存性Na チャネルは閉じているが、K+を通過させ るK チャネルは開いている。 ・細胞内のK+は、濃度勾配に従って細胞外へ移動する。 ・その結果、細胞内の陽イオンが減少し、細胞膜の内外で電位差が生じる。(分極) ・細胞外のK+は、電位勾配に従って細胞内へ移動する。 ・濃度勾配による移動と電位勾配による移動がつりあって、見かけ上K+の移動がないようにみえると きの電位差を静止電位という。 ・静止電位は、-60~-90mV である。 (2)活動電位(action potential) ・神経細胞の細胞膜にあるアセチルコリン受容体は、Na チャネルでもある。(チャネル型受容体) ・アセチルコリンが受容体に結合すると、Na チャネルが開いて細胞外の Na+が濃度勾配および電位 勾配にしたがって急速に細胞内へ流入する。 ・その結果、細胞内外の電位差は減少(脱分極)する。 ・電位依存性Na チャンネルは、細胞内外の電位差が減少すると開く。 ・脱分極がきっかけとなって、周囲の電位依存性Na チャネルが開いて、大量の Na+が流入して細胞 内外の電位差が一過性に逆転することを活動電位という。 ・その後Na チャンネルは閉じて、Na-K ポンプの作用で再び静止電位に戻る。(再分極) ・アセチルコリン以外にも、さまざまな神経伝達物質が神経細胞を刺激して活動電位を起こすことが できる。 ・Na+流入をひき起こす刺激の強さを閾値といい、刺激が閾値以下では活動電位は発生せず、閾値を 超えると活動電位が発生する。(全か無かの法則) ・活動電位が発生している経過中は、刺激を与えても反応しない。(不応期) 〇参考図書 中内光昭「DNA がわかる本」岩波ジュニア新書(1997) 永田和宏「たんぱく質の一生」岩波新書(2008) 中沢弘基「生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像」講談社現代新書(2014)
9
3.組織の構造と機能(1)
〇学習目標 ・上皮組織の種類と構造について説明できる。 ・支持組織の種類と構造について説明できる。 1.組織(tissue)の構成と種類 ・組織とは、特定の構造・機能をもった細胞同士が集まって、一定の構造・機能を有する有機体を構 成したものである。 ・組織は、細胞と細胞外基質(extracellular matrix)によって構成されている。 ・組織は、上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織の4 種類に分類される。 ・細胞と細胞外基質の量的比率は、組織の種類によって大きく異なる。 ・器官(臓器)は、4 種類の組織が集まって形成される。 2.上皮組織(epithelial tissue) (1)上皮組織の構成要素 ・上皮組織は、体表面、管腔(腸、気管、尿管など)の内面、体腔(胸腔、腹腔など)の表面を覆う 組織である。 ・上皮組織と結合組織が接する面には、Ⅳ型コラーゲンやラミニンでできた基底膜(basement membrane)が存在する。 基底膜には、上皮組織を結合組織につなぎとめるだけでなく、バリア、フィルター、上皮組織再 生の足場などの機能がある。 ・上皮細胞には、極性がある。 体表面や体腔に面する方を自由面、その反対側の基底膜に接する面を基底面という。 ・上皮組織は、上皮細胞が石垣のように密着して形成されるので、細胞間基質は、きわめて少ない。 タイト結合(tight junction):自由面近くで細胞を密着させ、物質が細胞間隙を通り抜けるのを 防ぐ。 接着結合(intermediate junction):細胞同士をつなぎとめるための補強装置。細胞全周を帯状 に取り巻いている。 接着斑(desmosome):細胞同士をつなぎとめるための補強装置。円盤状の構造をしている。 ギャップ結合(gap junction):細胞間のイオンの交換が行われ、細胞間の情報伝達に使われる。 (2)上皮組織の形態による分類1)単層扁平上皮(simple squamous epithelium)
・単層扁平上皮は、扁平な細胞が一層に並んだものである。
・代表例:胸腔、腹腔、心膜腔など体腔の上皮(中皮という)、血管の内腔の上皮(血管内皮という)、 肺胞上皮など
2)重層扁平上皮(stratified squamous epithelium)
・重層扁平上皮は、扁平な細胞が多層に積み重なったものである。
代表例:皮膚の上皮、口腔内・食道の上皮、尿道の出口付近、膣上皮、角膜上皮など ・皮膚の上皮表層には、ケラチンを多量に含む角質層(細胞の死骸の層、角化)がある。 ・食道の上皮は、角化しない。
3)単層立方上皮(simple cuboidal epithelium)
・単層立方上皮は、立方体の細胞が一層に並んだものである。 代表例:甲状腺の濾胞上皮、腎臓の尿細管など
10 4)単層円柱上皮(simple columnar epithelium)
・単層円柱上皮は、円柱状の丈の高い細胞が一層に並んだものである。 代表例:胃、腸の粘膜上皮、子宮や卵管の上皮など ・小腸、大腸の円柱上皮では、表面積を大きくするため、微絨毛(microvillus)がある。 「絨」:ネル、ラシャ、ビロードなど細かい毛が密集した織物のこと ・線毛を持つ上皮細胞(子宮や卵管の上皮)を、円柱線毛上皮という。 5)多列上皮(pseudostratified epithelium) ・多列上皮は、単層の上皮組織である。 丈の高い細胞と低い細胞があり、低いものは表面に達しないために多層の上皮組織に見える。 ・代表例:鼻腔・気管の上皮、精管の上皮など
線毛(cilium)を持つものを、多列線毛上皮(pseudostratified ciliated epithelium)という。 ・線毛の運動により、異物を排泄する。 6)移行上皮(transitional epithelium) ・移行上皮は、細胞の変形により十数層の厚い層から2~3 層の薄い層に移行するものである。 移行上皮は、すべての細胞が基底膜に足をつけていることから、多列上皮の一種である。 ・代表例:腎盂、尿管、膀胱、尿道の一部など (3)上皮組織の機能による分類 1)被蓋上皮(covering epithelium) ・被蓋上皮は、皮膚、粘膜など、臓器の表面を覆い、保護するものである。 2)腺上皮(glandular epithelium) ・腺上皮は、上皮組織が結合組織の中に落ち込んで、分泌物を分泌するように分化したものである。 ・外分泌腺(exocrine gland)は、分泌物(汗、消化酵素など)を、導管を介して体外に分泌する。 肝臓と膵臓は、小腸の上皮組織が落ち込んでできた巨大な外分泌腺である。 ・内分泌腺(endocrine gland)は、分泌物(ホルモン)を血液中に分泌する。 ランゲルハンス島は、小腸の上皮組織が落ち込んで、導管を失った内分泌腺である。 3)吸収上皮(absorptive epithelium) ・吸収上皮は、消化管の上皮など、吸収機能を有する被蓋上皮である。 4)感覚上皮(sensory epithelium) ・感覚上皮は、味を感じる味細胞や音や体に位置を感じる内耳の線毛上皮細胞など、外界の情報を知 覚するように上皮細胞が分化したものである。 5)呼吸上皮(respiratory epithelium) ・呼吸上皮は、肺胞の上皮で酸素と二酸化炭素のガス交換を行う上皮である。 3.支持組織(supporting tissue) (1)結合組織(connective tissue) ・結合組織は、器官や各組織の間にあって、支持、結合、すき間の充填、分画などの役目を果たして いる。 ・結合組織は、細胞成分に比べて、細胞外基質(extracellular matrix)の割合が多い。 ・細胞外基質は、間質(intracellular substance)ともいう。
・間質を満たす水分を、間質液(interstitial fluid)または組織液(tissue fluid)という。 1)細胞成分
11
・脂肪細胞(fat cell, adipocyte):中性脂肪(トリグリセリド)を蓄える。 ・マクロファージ(macrophage):細菌や異物を貪食して消化する。 ・リンパ球(lymphocyte):免疫反応に関与する。 ・肥満細胞(mast cell):ヒスタミン、プロスタグランジンなど化学伝達物質を多く含む大型の細胞 で、アレルギー反応に関与する。 2)細胞外基質(間質) ・細胞外基質は、線維成分とその間を埋める基質(matrix)からなる。
・線維成分には、コラーゲン線維(膠原線維、collagen fiber)、弾性線維(elastic fiber)、細網線維 (reticular fiber)などがある。 ・コラーゲンは、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンを主成分とする3 本のペプチド鎖がらせ ん状構造をなしているものである。 Ⅰ型コラーゲン:もっとも多い。結合組織、骨組織、歯の象牙質に多く存在する。 Ⅱ型コラーゲン:軟骨組織に多く存在する。 Ⅲ型コラーゲン:胎児の血管や皮膚、細網線維に多く存在する。 Ⅳ型コラーゲン:基底膜の主成分である。 ・ビタミンC は、プロリンからヒドロキシプロリンを生成する酵素活性に必要である。 ビタミンC が不足すると、結合組織の生成が障害され壊血病(scurvy)になる。 ・弾性繊維は、エラスチンを含み、伸び縮みする。 ・基質には、たんぱく質、多糖類、塩類、間質液(組織液ともいう)などが含まれている。 3)結合組織の種類
・線維性結合組織(fibrous connective tissue)
強靭結合組織(dense connective tissue)ともいう。 コラーゲン線維が多い。
腱、真皮、髄膜など
・疎性結合組織(loose connective tissue) 細胞と線維が少なく、基質が多い。 皮下組織、粘膜下組織など
・弾性組織(elastic tissue) 弾性線維が多い。 大動脈壁など
・細網組織(reticular connective tissue)
細網細胞とそれが分泌する細網線維(細かなコラーゲン線維)からなる。 リンパ組織、骨髄、脾臓など ・脂肪組織(adipose tissue) 脂肪細胞が大部分を占める。 エネルギーの貯蔵作用、体温を保つ断熱作用、内臓を衝撃から保護するクッションの作用などの 役割を果たす。 (2)軟骨組織(cartilage) 1)細胞成分 ・軟骨組織の細胞成分は、軟骨細胞(chondrocyte)である。 2)細胞外基質 ・軟骨組織の細胞外基質は、軟骨基質と線維成分で構成される。 ・軟骨基質は、ゴムに似たゲル状のプロテオグリカン(proteiglycan)である。 プロテオグリカンとは、芯になるペプチド鎖にムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸 など)が多数結合したゼリー状の物質である。 ・線維成分には、コラーゲン線維(Ⅱ型コラーゲンを多く含む)と弾性線維がある。
12 3)軟骨組織の種類 ・硝子軟骨(hyaline cartilage) プロテオグリカンを多く含む。 関節軟骨や気管軟骨などを作る。 硝子軟骨には原則として血管はないが、肋軟骨など大きなものでは血管が侵入することがある。 ・弾性軟骨(elstic cartilage) 弾性線維を多く含む。 耳介軟骨や鼻軟骨、喉頭蓋軟骨などを作る。 ・線維軟骨(fibrocartilage) コラーゲン線維を多く含む。 椎間円板や恥骨結合などを作る。 (3)骨組織(bone、osseus tissue) 1)細胞成分 ・骨組織の細胞成分は、骨芽細胞(osteoblast)、骨細胞(osteocyte)、破骨細胞(osteoclast)であ る。 2)細胞外基質 ・骨組織の細胞外基質は、コラーゲン線維とその間を満たす基質で構成される。 ・基質の主成分は、リン酸Ca である。
リン酸Ca は、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)Ca10(PO4)6(OH)2として沈着する。 ・Ca は、体内でもっとも多い無機質で、体重の 2%を占める。 ・体内のCa の 99%は、骨に存在する。 3)骨単位(osteon)(ハバース系) ・骨単位は、血管が通るハバース管(Haversian canal)と、その周囲に同心円状に配列する骨層板 (ハバース層板)で構成される。 ・ハバース管を持たない骨層板を介在層板という。 ・ハバース管と垂直方向に走行し、骨層板に包まれていない管をフォルクマン管(Volkmann’s canal)という。 〇参考図書 養老孟司「からだを読む」ちくま新書(2002)
13
4.組織の構造と機能(2)
〇学習目標 ・筋組織の種類と構造について説明できる。 ・ニューロンの構造と興奮の伝導・伝達について説明できる。 ・グリア細胞(膠細胞)の種類と機能について説明できる。 1.筋組織(muscle tissue) (1)骨格筋組織・骨格筋組織(skeletal muscle)は、筋束(fascicle)とそれに付随する結合組織(筋膜 fascia)、血 管、神経からなる。 「筋(きん、すじ)」:細長く、一続きのもも ・筋束は、筋線維(muscle fiber)が束になったものである。 ・筋線維は、直径20~100m、長さ数 cm の巨大な骨格筋細胞であり、多数の核を持つ。 ・筋線維の細胞膜は、筋鞘(sarcolemma)と呼ばれる。 ・筋線維は、直線状で、舌筋など一部を除いて枝分かれすることはない。 ・筋線維内には、数百から数千の筋原線維(myofibril)の束がある。 ・筋原線維は、ミオシンフィラメント(myosin filament)とアクチンフィラメント(actin filament)が束になってできている。 ミオシンフィラメントは、ミオシンが重合してできる。 アクチンフィラメントは、アクチンが重合してできる。 ・筋原線維の収縮単位を、筋節という。 アクチンフィラメントより、ミオシンフィラメントの方が太い。 ミオシンフィラメントの間に、アクチンフィラメントが滑り込むことにより、筋肉は収縮す る。 ・筋線維の横紋(cross striation)は、筋節が規則正しく並んで作られる。 骨格筋組織の筋線維は、横紋筋(striated muscle)である。 ・骨格筋組織は、意思により収縮させることができる随意筋(voluntary muscle)である。 ・骨格筋組織には、運動神経(motor nerve)と知覚神経(sensory nerve)が分布している。 (2)心筋組織 ・心筋組織(cardiac muscle)は、心筋細胞が介在板を介して網状につながっている。 ・心筋細胞の中央には、核が1~2 個ある。 ・心筋細胞は、横紋筋である。 ・心筋細胞は、ギャップ結合(gap junction)でつながっており、1 個のへ心筋細胞が興奮すると、 次々に周りの心筋細胞も興奮する。 ・心筋は、意思の制御を受けない不随意筋(involuntary muscle)である。 ・自律神経(autonomic nerve)が分布している。 (3)平滑筋組織 ・平滑筋組織(smooth muscle)は、平滑筋細胞で構成されている。 ・平滑筋細胞は、核を1 つ持つ、細長い紡錘状の細胞である。 ・長軸方向に筋原線維(アクチンフィラメントとミオシンフィラメント)が配列しているが、規則性 に乏しく横紋構造は見られない。 ・横紋筋に比べて、収縮は緩やかである。 ・平滑筋細胞は、ギャップ結合(gap junction)でつながっており、1 個のへ平滑筋細胞が興奮する と、次々に周りの平滑筋細胞も興奮する。 ・平滑筋は、意思の制御を受けない不随意筋であり、自律神経が分布している。 ・平滑筋組織は、消化管、気管、血管、尿管など、主に内臓の筋肉組織を構成している。
14 (4)括約筋 ・括約筋(sphincter)は、虹彩や管腔臓器の特定の場所で、輪状に配列している。 ・管腔臓器では、括約筋の収縮と弛緩により、物質の通過をコントロールする。 ・括約筋の多くは、平滑筋(瞳孔括約筋、下部食道括約筋、幽門括約筋、オッディの括約筋、内肛門 括約筋、内尿道括約筋など)である。 ・横紋筋からなる括約筋は、外肛門括約筋、外尿道括約筋、上部食道括約筋の3 つである。 ・食道の上部約1/4 は、すべて横紋筋であるが、下部に行くに従い横紋筋が減少して平滑筋優位にな り、食道の下部約1/3 ではすべて平滑筋である。 2.神経組織(nervous tissue) (1)ニューロンの構成 ・神経組織を構成する機能単位を、ニューロン(neuron)という。 ・ニューロンは、神経細胞体(cell body)と突起からなる。 突起が1 本のニューロンを、単極ニューロンという。 突起が2 本のニューロンを、双極ニューロンという。 2 本の突起が起始部で合わさったものを、偽単極ニューロンという。(実態は双極ニューロン) 突起が3 本以上 のニューロンを、多極ニューロンという。 ・突起には、樹状突起(dendrite)、軸索(axon)がある。 樹状突起:他のニューロンからの興奮を受け取り、細胞体へ興奮を伝導する。 数本突起が、木の枝のように枝分かれした形状をしている。 軸索:細胞体から軸索の末端(神経終末)へ興奮を伝導する。 原則として、1 つのニューロンから出る軸索は 1 本である。 ただし、双極ニューロンと偽単極ニューロンの樹状突起が枝分かれする前の1本の長い 部分を軸索(末梢から細胞体へ興奮を伝導する)と呼ぶことがある。 一般に、1 本の軸索は末端で枝分かれして、複数のニューロンや臓器に分布している。 (2)軸索の構造 ・軸索は、神経鞘(シュワン鞘Schwann’s sheath)に包まれている。
・軸索には、髄鞘(ミエリン鞘myelin sheath)を有する有髄神経線維(myelinated nerve fiber)と、 有さない無髄神経線維(unmyelinated nerve fiber)がある。
有髄神経線維の例:運動神経、知覚神経、自律神経の節前線維 無髄神経線維の例:知覚神経のうち痛覚線維、自律神経の節後線維 ・中枢神経の髄鞘は、稀突起グリア細胞が軸索に巻きついて作られる。 ・末梢神経の髄鞘は、シュワン細胞の細胞膜が軸索に巻きついて作られる。 ・髄鞘が途切れたところを、ランヴィエ絞輪(Ranvier’s node)という。 (3)シナプスの構造 ・軸索の末端(神経終末)は、他の神経細胞や筋細胞とシナプス(synapse)によりつながっている。 ・軸索の末端の細胞膜(シナプス前膜)と他の神経細胞や筋細胞の細胞膜(シナプス後膜)の間は、 シナプス間隙がある。 ・シナプス間隙では、神経伝達物質(neurotrasmitter)により刺激が伝達される。 ・1 本の軸索は、枝分かれして、複数のシナプスを形成する。 2.グリア細胞 ・グリア細胞(neuroglia)は、神経細胞を保護・支持する細胞である。 近年、神経活動そのものにも影響することが知られている。 ・星状グリア細胞(astroglia)は、神経細胞と血管の間に存在し、神経細胞に栄養を渡す。また、血 液脳関門にもなっている。 ・稀突起グリア細胞(oligodendrogliae)は、中枢神経の軸索の髄鞘を形成する。 ・小グリア細胞(microglia)は、老廃物や損傷を受けた神経細胞を除去する。
15 3.上皮性の膜と体腔
(1)上皮性の膜
・上皮性の膜には、粘膜(mucus membrane)と漿膜(serous membrane)がある。 ・粘膜は、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層からなる。 粘膜は、消化管、鼻腔、尿管、膀胱などの内面を覆う。 ・漿膜は、漿膜上皮(単層扁平上皮)とその下の薄い結合組織からなる。 漿膜は、心臓、肺、胃、腸、肝臓など内臓の臓器の表面や、体壁(胸壁や腹壁)の内面を覆う。 *漿:米を煮た汁のこと。医学用語では、さらさらした液体(漿液)を表す。 粘り気のある粘液で覆われている膜を、粘膜という。 さらさらした漿液で覆われている膜を、漿膜という。 消化管の壁は、粘膜、筋層、漿膜の三層で構成されている。 (2)体腔 ・臓器の表面を被う漿膜を臓側葉(臓側漿膜)という。 ・体壁の内面を被う漿膜を壁側葉(壁側漿膜)という。 ・臓側漿膜と壁側漿膜は連続した膜であり、体腔(cavity)を形成する。
心膜腔(pericardial cavity):臓側心膜(visceral pericardium)、壁側心膜(parietal pericardium) 胸腔(thoracic cavity):臓側胸膜(visceral pleura)、壁側胸膜(parietal pleura)
腹腔(abdominal cavity):臓側腹膜(visceral peritoneum)、壁側腹膜(parietal peritoneum) *体腔は、漿膜で囲まれた閉じた空間である。
16
5.消化器系の構造と機能(1)
〇学習目標 ・唾液の成分を列挙できる。 ・嚥下のしくみについて説明できる。 ・胃液の成分を列挙できる。 ・胃液の分泌の調節(頭相、胃相、腸相)について説明できる。 1.口腔(oral cavity) (1)舌(tongue) ・舌の粘膜上皮は、重層扁平上皮である。 ・舌表面には、舌乳頭(糸状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭)がある。 ・味蕾(taste bud)は、茸状乳頭の上面、葉状乳頭および有郭乳頭の側面の、上皮組織内に存在して いる。 ・糸状乳頭の表面は、角化しており、味蕾はない。 ・舌の筋肉は、横紋筋(骨格筋)である。 ・舌の横紋筋線維は、縦横に交差して走行している。 (2)歯(tooth) ・永久歯は、32 本(切歯 2×4、犬歯 1×4、小臼歯 2×4、大臼歯 3×4)ある。 ・乳歯は、大臼歯を除く20 本である。 ・歯根は、切歯・犬歯では1 本であるが、小臼歯では 1~2 本、大臼歯では 2~3 本にわかれている。 ・歯の上部の表面は、エナメル質(enamel)でおおわれている。 ・歯根は、セメント質(cement)でおおわれている。 ・エナメル質とセメント質の内部には、象牙質(dentine)がある。 ・エナメル質・セメント質・象牙質に沈着する無機質の主成分は、リン酸Ca である。 ・象牙質の内部には、歯髄(dental pulp)があり、歯根部から血管と神経が侵入している。 ・セメント質と歯槽骨の間には、歯根膜(結合組織)がある。 (3)唾液腺(salivary gland)・3 つの大唾液腺は、耳下腺(parotid gland)、舌下腺(sublingual gland)、顎下腺(submandibular gland)である。 耳下腺の導管は、口腔前庭(上顎第2 大臼歯に向かい合う部位)に開口する。 顎下腺の導管は、舌下小丘に開口する。 舌下腺の導管は複数あり、最前の1 本は顎下腺管と合流して舌下小丘に開口し、その他は舌下ひ だに開口している。 ・小唾液腺は、口腔粘膜に散在している。 ・唾液腺は、唾液(saliva)を分泌する。 唾液の成分 α‐アミラーゼ(プチアリン)(α−1,4 結合やα-1,6 結合を加水分解) 粘液(ムチンと呼ばれる粘性の糖タンパク質) リゾチーム(細菌の細胞壁の糖鎖を切断する酵素) 免疫グロブリン(IgA) ・副交感神経は、アミラーゼとムチンを含む薄い唾液を大量に分泌させる。 顔面神経→舌下腺と顎下腺、舌咽神経→耳下腺 ・交感神経も、唾液分泌を刺激するが、血管収縮作用により血流が減少するので水分の少ない濃い唾 液が分泌される。
17 2.咽頭(pharynx) ・咽頭は、鼻腔、口腔、喉頭、食道の間をつなぐ部分で、食物と空気の通路になっている。 ・鼻腔と咽頭の境界は、後鼻孔である。 ・口腔と咽頭の境界は、口峡である。 ・口峡には、扁桃(tonsil)がある。 扁桃とは、皮下に多数のリンパ小節を有するリンパ組織である。 ・口峡には、口蓋扁桃、咽頭扁桃、舌扁桃が、輪状に並んでいることから、ワルダイエル輪(Waldeyer’s tonsillar ring)という。 3.嚥下(swallowing) 1)第 1 期(先行期)(随意運動) ・食物を口に入れる前の時期である。 ・視覚・触覚・嗅覚により食物を認知し、食べるものの選択、量の決定をする。 2)第 2 期(準備期)(随意運動) ・捕食と咀嚼(chewing)を行う時期である。 ・捕食には、口唇による取り込みと前歯による裁断が重要である。 ・咀嚼(臼歯の運動)により食物と唾液を混和する。 ・咀嚼筋群には、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋がある。 3)第 3 期(口腔期)(随意運動) ・飲み込みやすい食塊を形成し、咽頭へ送るまでの時期をいう。 ・口腔の前方から舌を口蓋に押し付けながら食塊を後方に送る。 4)第 4 期(咽頭期)(不随意運動) ・嚥下反射(swallowing reflex)により、咽頭の食塊を食道入口に送り込む時期である。 ・嚥下反射は、食塊が咽頭粘膜を刺激することによって起こる。 ・嚥下反射では、軟口蓋の上昇による鼻腔との連絡遮断、喉頭筋群の収縮による声門の閉鎖、呼吸 の一時停止、輪状咽頭筋の弛緩による食道入口の拡大などが起こる。 ・輪状咽頭筋は、上部食道括約筋として働いている。 ・嚥下反射に関わる筋肉は、すべて横紋筋である。 ・嚥下中枢は、延髄にある。 5)第 5 期(食道期)(不随意運動) ・食道に侵入した食塊を胃に移送する時期である。 ・食道壁の蠕動運動によって、食物の移送が促進される。 4.食道(esophagus) ・食道は、粘膜・筋層・外膜の3 層構造である。 ・食道の粘膜上皮は、重層扁平上皮であるが、角化しない。 ・食道の上部約1/4 は、すべて横紋筋であるが、下部に行くに従い横紋筋が減少して平滑筋優位にな り、食道の下部約1/4 ではすべて平滑筋である。 ・食道下端には下部食道括約筋があり、胃の噴門からの逆流を防いでいる。 ・外膜は、結合組織でできており、漿膜はない。
18 5.胃(stomach) (1)構造 ・胃の入口を噴門(cardia)といい、出口を幽門(pylorus)という。 ・胃の上縁を小弯、下縁を大弯といい、小弯の最も深く弯入したところを角切痕という。 ・噴門の高さを越えて上方に膨隆する部分を胃底(fundus of stomach)、角切痕から幽門までを幽門 部(pyloric part)、胃底と幽門部の間を胃体(body of stomach)という。
・胃壁は、粘膜・筋層・漿膜の三層構造である。
・粘膜は、粘膜上皮(単層円柱上皮)、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下組織に分けられる。
・体部では胃小窩(gastric pit)という多数の窪みが存在し、胃腺(gastric gland)を形成している。 ・胃腺は、胃液を分泌する。 主細胞(chief cell):ペプシノーゲン、胃リパーゼを分泌する。 壁細胞(parietal cell):胃酸と内因子を分泌する。 副細胞(accessory cell):粘液を分泌する。 ・幽門部には、幽門腺(pyloric gland、粘液とペプシノーゲンを分泌)が存在する。 ・筋層は、斜走筋(内側)・輪走筋(中間)・縦走筋(外側)の三層からなる。 幽門部では斜層を失って輪走筋と縦走筋の二層となる。 ・幽門では、内輪層が著しく発達して幽門括約筋を形成する。 ・漿膜は、胃の表面を覆う結合組織と臓側腹膜で構成されている。 (2)胃液(gastric juice) 1)胃酸(hydrochloric acid、HCl 塩酸) ・酸性(pH 1.0~2.5)による殺菌作用 ・たんぱく質分解作用 ・ペプシノーゲンをペプシン(活性型)に変換する。 ・Fe、Ca をイオン化により溶解して、十二指腸での吸収を促進する。 2)ペプシノーゲン(pepsinogen) ・胃酸によりペプシン(活性型)(pepsin)となり、たんぱく質のペプチド結合を加水分解する。 ・ペプシンの酵素活性の至適pH は、1.6~3.2 である。 3)粘液(mucus) ・ムチン(粘性の糖タンパク)を含む。 ・胃粘膜上皮細胞から分泌される重炭酸イオンとともにゲル状構造を形成し、胃粘膜を胃酸とペプシ ンによる自己消化から保護する。 4)重炭酸イオン(bicarbonate) ・胃粘膜上皮細胞から分泌される。 ・ムチンとともに、胃粘膜上皮を保護する粘液バリアを形成する。 ・胃酸を中和する。(H++HCO3-→H2CO3) 5)内因子(intrinsic factor) ・キャッスル内因子(Castle’s factor)ともいう。 ・壁細胞より分泌される糖たんぱく質である。 ・ビタミンB12と結合して、ビタミンB12の吸収(回腸)を促進する。 6)その他 ・胃リパーゼ(膵リパーゼに比べて量的に少なく、生理的意義は乏しい) ・Na+、K+、Mg2+などの電解質
19 (3)胃液分泌の調節 1)脳相(頭相、cephalic phase) ・思考、視覚、嗅覚、味覚などの刺激が、迷走神経(副交感神経)を介して、壁細胞を刺激すること により、胃酸分泌を促進する。 副交感神経の神経伝達物質は、アセチルコリン(acetylcholine)である。 アセチルコリンは、壁細胞のムスカリン受容体に結合して胃酸分泌を促進する。 ・迷走神経は、G 細胞にも作用してガストリンの分泌を促進する。 2)胃相(gastric phase) ・食物による胃の拡張が、迷走神経の活動を刺激する。 ・食物に含まれるたんぱく質(特に肉汁)が、ガストリン(gastrin)の分泌を促進する。 幽門部の粘膜上皮に、ガストリンを分泌するG 細胞がある。 ガストリンは、壁細胞を直接刺激して胃液分泌を促進する。
ガストリンは、ECL 細胞(enterochromaffin-like cell)を刺激して、ヒスタミンを分泌させる。 ヒスタミンは、壁細胞を刺激して胃液分泌を促進する。
3)腸相(intestinal phase)
・十二指腸に進入した胃酸は、S 細胞を刺激して、セクレチン(secretin)の分泌を促進する。 セクレチンは、G 細胞と壁細胞に作用して胃酸分泌を抑制する。
・その他、十二指腸から分泌されるコレシストキニン(cholecystkinin, CCK)や胃酸分泌抑制ペプチ ド(gastric inhibitory polupeptide, GIP)も胃酸分泌を抑制する。
・セクレチン、CCK、GIP を総称して、エンテロガストロン(enterogastrone)という。 〇参考図書 岩堀修明「図解内臓の進化」講談社BLUE BACKS(2014) 伊藤漸「胃は悩んでいる」岩波新書(1997) 榊原宣「胃がんと大腸がん」岩波新書(1999) 渡辺純夫「気になる胃の病気」岩波新書(2000) *「消化」の意味:①物の原型をなくして、変化させること ②生物が、栄養素を含む物質を分解し、利用可能な物質に変化させること ③見聞したことをよく理解し、自分の知識にすること ④処理すべき仕事を、すべて処理すること 英語の語源:ラテン語「digestio」(分離する)→「digestion」(消化)
20
6.消化器系の構造と機能(2)
〇学習目標 ・腸管壁の三層構造(粘膜、筋層、漿膜)について説明できる。 ・腸内細菌叢について説明できる。 ・排便反射について説明できる。1.小腸(small intestine)と大腸(large intestine) (1)構成 ・小腸は、十二指腸(duodenum)、空腸(jejunum)(前 2/5)、回腸(ileum)(後ろ 3/5)からなる。 ・小腸の長さは、6~7m である。 ・大腸は、盲腸(cecum)、結腸(colon)(上行・横行・下行・S 状)・直腸(rectum)からなる。 ・大腸の長さは、約1.5m である。 (2)腸管壁の 3 層構造(粘膜、筋層、漿膜(一部外膜)) 1)粘膜(mucosa)の構造 ・小腸粘膜には、輪状ヒダ(circular fold)がある。と ・小腸粘膜には、管腔内に突出した絨毛(villus)がある。 輪状ヒダと絨毛が発達している部分では、表面積が大きくなっている。 絨毛は、十二指腸と空腸上部で発達している。 ・粘膜は、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下組織からなる。 ・粘膜上皮は、単層円柱上皮である。 ・粘膜上皮の管腔面には、微絨毛(microvillus)からなる刷子縁(brush border)が存在する。 ・粘膜上皮が、粘膜内に落ち込んだ部分を、腸陰窩(crypt)という。
・腸陰窩は、腸腺(リーベルキューン腺intestinal gland of Lieberkühn)を形成する。 腸腺から分泌される腸液には、粘液と電解質溶液が含まれるが、消化酵素はない。 陰窩の中央部には、粘膜上皮の幹細胞が存在し、細胞分裂により増殖している。 増殖した細胞は絨毛の先端まで移動し、脱落する。 粘膜上皮の寿命は、約6 日である。 陰窩の底部には、パネート細胞(Paneth cell)がある。 パネート細胞は、抗菌作用のあるたんぱく質(リゾチームやデフェンシン)を分泌する。 ・十二指腸の陰窩には、粘膜下組織の十二指腸腺(ブルンネル腺duodenal gland of Brunner)につ
ながっているものある。 十二指腸腺は、粘液を分泌する。 ・腸管壁の粘膜には、リンパ小節が集まったパイエル板(Peyer patch)がある。 ・大腸粘膜には、半月ヒダがあるが、絨毛はない。 2)筋層(muscle layer) ・筋層には、内輪走筋と外縦走筋の二層がある。 ・筋層を構成する筋肉は、平滑筋である。 ・結腸ヒモ(teniae coli)は、大腸の縦走する平滑筋が集合したものである。 3)漿膜(serosa)(腹膜 peritoneum) ・筋層の外側は、漿膜で包まれている。 ・漿膜は、腸間膜(mesenterium)に続き、後腹壁に吊り下げられている。 空腸、回腸、横行結腸、S 状結腸は、全体が漿膜で包まれている。 十二指腸、上行結腸、下行結腸、直腸は、前面が漿膜で包まれ、後面は後腹壁の結合組織に移行 する。 漿膜がなく、結合組織で包まれている部分を外膜(adventitia)という。
21 ・腸間膜には、腸に分布する血管と神経線維が通っている。 ・腸間膜には、脂肪組織があり、腸間膜に蓄積する脂肪を内臓脂肪という。 ・消化管を包む漿膜を腹膜(臓側腹膜)という。 臓側腹膜は、壁側腹膜とつながり腹腔を形成する。 腹腔内には、少量の漿液(潤滑油として働く)が存在する。 (3)主な栄養素の消化と吸収 ・糖質、脂質、アミノ酸、電解質、ビタミン、水など大部分の栄養素は小腸上部で吸収される。 ・ビタミンB12は、内因子と結合した形で、回腸で吸収される。 ・大腸では、残りの水と電解質が吸収される。 ・微絨毛には、二糖類とペプチドを分解する酵素が存在する。(膜消化) ・微絨毛には、単糖類やアミノ酸を細胞内にとり込む輸送担体が存在する。 ・グルコースは、Na と共輸送される輸送担体により、速やかに細胞内に吸収される。 ・ショ糖(グルコース+フルクトース)の膜消化により生成するフルクトースは、濃度勾配にしたが った促進輸送であり、グルコースの吸収より緩やかである。 (4)腸管運動の調節 ・腸管運動には、振り子運動、分節運動、蠕動運動がある。 ・腸管の運動は、自律神経、腸管壁にある腸管神経叢、種々の消化管ホルモンなどによって調節さ れている。 ・副交感神経は、腸管運動を促進する。 ・交感神経は、腸管運動を抑制する。 ・腸管神経叢は自律神経とは独立して腸管運動を調節する。 アウエルバッハ神経叢(Auerbach’s plexus):筋層に存在し、主に腸管運動を調節する。 マイスネル神経叢(Meissner’s plexus):粘膜下に存在し、主に腸液の分泌を調節する。 (5)腸内細菌叢(intestinal bacterial flora)
・腸内には、大腸菌、ビフィズス菌など100~1,000 種類、100 兆個、1~1.5kg の細菌が存在する。 ・食物繊維、難消化性オリゴ糖、糖アルコール、レシスタント・スターチなどは、大腸の腸内細菌に よって発酵を受け、短鎖脂肪酸、炭酸ガス、水素ガス、メタンガスなどを生成する。 短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)は、体内に吸収され、エネルギー源として利用さ れる。 発酵・吸収により利用されるエネルギー量は、約2 ㎉/ℊである。 ・腸内細菌は、ビタミンK を産生する。 ・近年、腸内細菌叢の変化が、肥満、メタボリックシンドローム、動脈硬化症など生活習慣病と関連 する可能性があることが指摘されている。 *腸内細菌叢が宿主に与える影響(仮説であり、健康食品等の効果を証明するものではない) ・外来微生物の増殖を抑制し、腸内環境を維持する。 ・宿主が消化できないものを消化し、宿主が利用できるようにする。 ・宿主が吸収するエネルギー量を調節する。 ・宿主に必要なビタミン(K、B2、B6、ビオチン、ナイアシン、葉酸など)を供給する。 ・ビリルビン、胆汁酸を代謝する。 ・菌体成分が免疫細胞に結合して、免疫系を活性化する。 ・神経伝達物質の産生や短鎖脂肪酸による神経系に刺激により、神経系を活性化する。 ・インスリン分泌や食欲に関係するホルモンの分泌を促進し、内分泌系を活性化する。 *宿主が腸内細菌叢に与える影響 ・食生活により、腸内細菌叢は変化する。 ・ストレスにより、腸内細菌叢は変化する。
22 (6)排便反射(defecation reflex) ・排便反射の中枢は、仙髄に存在する。 ・通常、排便反射は、大脳皮質からの神経線維により抑制されている。 ・排便反射 直腸に便が蓄積→直腸壁伸展→便意 →骨盤神経(副交感神経)→直腸の収縮+内肛門括約筋(平滑筋)の弛緩 →陰部神経(運動神経)→外肛門括約筋(骨格筋)の弛緩 →排便 〇参考図書 藤田恒夫「腸は考える」岩波新書(1991) 伊藤裕「腸!いい話 病気にならない腸の鍛え方」朝日新書(2011) 上野川修一「からだの中の外界 腸のふしぎ」講談社BLUE BACKS(2013)
23
7.消化器系の構造と機能(3)
〇学習目標 ・膵液の成分を列挙できる。 ・膵液の分泌の調節について説明できる。 ・三大栄養素の消化の概要を説明できる。 ・消化酵素を列挙できる。 ・消化管ホルモンを列挙できる。 1.膵臓 (1)構造 ・膵臓(pancreas)は、胃の後ろにあって後腹壁に密着している。 膵臓の前面は腹膜におおわれているが、後面は結合組織に移行する。 膵臓は、横に細長い実質臓器で、右側の十二指腸に接する部分を膵頭、それに続く中央部を膵体、 左端部を膵尾と呼ぶ。 ・膵臓は、十二指腸の粘膜上皮が陥入してできた巨大な分泌腺(外分泌腺と内分泌腺)である。 ・膵臓の導管は、主膵管と副膵管の2 本がある。 主膵管は、総胆管と合流して大十二指腸乳頭(ファーター乳頭Vater’s papilla)に開く。 副膵管は、おもに膵頭の膵液を集め、総胆管の開口部よりやや上方(小十二指腸乳頭)に開く。 ・膵液は、1 日に約 1,500 ㎖分泌される。 ・副交感神経による刺激は、膵外分泌腺の分泌を促進する。 (2)外分泌腺 1)腺房細胞(acinar cell) ・消化酵素を分泌する。 主な消化酵素:トリプシン(trypsin)→たんぱく質を分解 キモトリプシン(chymotrypsin)→たんぱく質を分解 エラスターゼ(elastase)→たんぱく質(弾性繊維)を分解 カルボキシペプチダーゼ→たんぱく質を分解 アミラーゼ(amylase)→多糖類を分解 リパーゼ(lipase)→中性脂肪を分解 ・たんぱく質分解酵素は、活性を持たないプロ酵素(proenzyme)として分泌される。 トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、プロエラスターゼ、プロカルボキシラーゼ ・プロ酵素は、エンテロキナーゼ(enterokinase)によって活性化される。 エンテロキナーゼは、小腸上皮細胞で合成され、微絨毛の表面に存在する ・コレシストキニン(CCK, cholecystokinin)は、消化酵素の分泌を促進する。 腺房細胞内で合成されたプロ酵素は、チモーゲン顆粒(zymoge granule)として濃縮、貯蔵され、 CCK の刺激により腺房内に分泌される。 ・CCK は、食物中の脂肪酸やアミノ酸が十二指腸に入ると、十二指腸上皮細胞(I 細胞(M 細胞とも いう))から分泌される。2)腺房中心細胞(centroacinar cell)、介在部導管細胞(intercalated duct cell) ・水と重炭酸イオンを分泌し、十二指腸に入ってきた胃液(酸性)を中和する。 ・セクレチンは、水と重炭酸イオンの分泌を促進する。 ・セクレチンは、胃酸が十二指腸に入ると分泌される。 (3)内分泌腺(ランゲルハンス島 Langerhans island) 1)A 細胞(細胞):グルカゴン(glucagon)を分泌する。 ・グルカゴンは、血糖値が低下すると分泌され、血糖値を上昇させる。
24 2)B 細胞(細胞):インスリン(insulin)を分泌する。 ・インスリンは、血糖値が上昇すると分泌され、血糖値を低下させる。 3)D 細胞:ソマトスタチン(somatostatin)を分泌する。 ・ソマトスタチンは、インスリン、グルカゴン、ガストリンの分泌を抑制する。 4)F 細胞:膵ポリペプチド(pancreatic polypeptide)を分泌する。 ・作用は不明 2.三大栄養素の消化と吸収のまとめ (1)たんぱく質の消化と吸収 ・胃酸とペプシンは、たんぱく質をペプチド断片に分解(ペプチド結合の加水分解)する。 ・膵液に含まれる不活性なたんぱく質分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カル ボキシペプチダーゼなど)は、小腸粘膜上皮細胞上に存在するエンテロキナーゼにより活性化する。 ・膵液に含まれるたんぱく質分解酵素は、ペプチド断片をより小さな断片(トリペプチド、ジペプチ ド)に分解する。(管内消化) ・小腸粘膜上皮細胞上のアミノペプチダーゼやジペプチダーゼは、トリペプチド、ジペプチドをアミ ノ酸に分解する。(膜消化) ・トリペプチド、ジペプチド、アミノ酸は、それぞれ固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細 胞内に吸収される。 ・トリペプチドとジペプチドは、小腸粘膜上皮細胞内のペプチダーゼによりアミノ酸に分解される。 (2)脂質の消化 ・胆汁は、脂質を乳化(ミセル化)することにより、膵リパーゼによる消化を促進する。 胆汁には、リパーゼは含まれていない。 ・膵リパーゼは、トリグリセリド(中性脂肪)を、2 つの脂肪酸と 1 つのモノグリセリドに分解する。 ・脂肪酸とモノグリセリドは、拡散または固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細胞内に吸収 される。 ・小腸粘膜上皮細胞内に取り込まれた脂肪酸とモノグリセリドは、トリグリセリドに再合成される。 ・再合成されたトリグリセリドは、集合してカイロミクロンとなり、リンパ管を経て、循環血液中に 入る。 (3)糖質の消化 ・唾液アミラーゼは、でんぷんを多糖類の断片に分解(グリコシド結合を加水分解)する。 ・膵アミラーゼは、多糖類の断片をより小さな断片(マルトース、マルトトリオース)に分解する。 ・小腸粘膜上皮細胞上での二糖類の分解 マルターゼ:マルトース(麦芽糖) → グルコース(ブドウ糖) + グルコース(ブドウ糖) スクラーゼ:スクロース(ショ糖) → グルコース(ブドウ糖) + フルクトース(果糖) ラクターゼ:ラクトース(乳糖) → グルコース(ブドウ糖) + ガラクトース ・糖質は、単糖類まで分解されて、それぞれ固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細胞内に吸 収される。 3.消化酵素のまとめ (1)アミラーゼ(α-amylase) ・唾液腺と膵臓の腺房細胞から分泌される。 ・でんぷんを分解して、マルトース、マルトトリオース、α-限界デキストリンを生成する。 α-限界デキストリン:でんぷんを、αアミラーゼで分解した残りの多糖類 αアミラーゼ:多糖類のα−1,4 結合やα-1,6 結合を加水分解する酵素 食物繊維はβ−1,4 結合なので、αアミラーゼで加水分解されない。
25 (2)マルターゼ(maltase) ・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。 ・マルトース(麦芽糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)を生成する。 (3)スクラーゼ(sucrase) ・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。 ・スクロース(ショ糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)を生成する。 (4)ラクターゼ(lactase) ・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。 ・ラクトース(乳糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースを生成する。 (5)ペプシン(pepsin) ・胃腺の主細胞から分泌される。 ・たんぱく質を分解して、ペプチドを生成する。 (6)トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ ・膵臓の腺房細胞から分泌される。 ・たんぱく質を分解して、ポリペプチド、トリペプチド、ジペプチドを生成する。 (7)アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ(dipeptidase) ・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。 ・アミノペプチダーゼは、ジペプチドを分解して、アミノ酸を生成する。 (8)リパーゼ(lipase) ・膵臓の腺房細胞から分泌される。 ・中性脂肪を分解して、脂肪酸とモノグリセリドを生成する。 モノグリセリドを脂肪酸とグリセロールに分解する作用は弱いので、トリグリセリドの分解産物 のほとんどは、脂肪酸とモノグリセリドである。 4.消化管ホルモンのまとめ (1)ガストリン(gastrin) ・食物、特に肉汁の刺激により、胃の前庭部にあるG 細胞からガストリンが分泌される。 ・迷走神経(副交感神経)は、G 細胞に働いてガストリンの分泌を促進する。 ・ガストリンは、胃の壁細胞に働いて胃酸の分泌を促進する。 (2)セクレチン(secretin) ・胃酸の刺激により、十二指腸にあるS 細胞からセクレチンが分泌される。 ・セクレチンは、膵臓の外分泌腺(腺房中心細胞、介在部導管細胞)に働いて重炭酸イオンの分泌を 促進することにより胃酸を中和する。 ・セクレチンは、胃の壁細胞に働いて、胃酸分泌を抑制する。 (3)コレシストキニン(CCK, cholecystokinin) ・食物、特に脂肪の刺激により、十二指腸のI 細胞(M 細胞ともいう)から CCK が分泌される。 ・CCK は、膵臓の外分泌腺(腺房細胞)に働いて消化酵素の分泌を促進する。 ・CCK は、胆嚢に働いて胆嚢の収縮を起こし、胆汁を十二指腸に分泌させる。 ・CCK は、胃に働いて胃酸分泌を抑制する。
26 (4)ソマトスタチン(somatostatin) ・視床下部、膵ランゲルハンス島、消化管などからソマトスタチンが分泌される。 ・ソマトスタチンは、インスリン、グルカゴン、ガストリン、セクレチンなど他の消化管ホルモンの 分泌を抑制する。 ・ソマトスタチンは、小腸に働いて食物の消化吸収を抑制する。 ・ソマトスタチンは、胆嚢に働いて弛緩させる。 (5)インクレチン(incretin) ・インクレチンは、グルコースによるインスリン分泌を増強する消化管ホルモンの総称である。 インクレチンには、GLP-1(glucagon-like peptide-1)と GIP(glucose-dependent insulinotropic
polypeptide)がある。 ・食物が十二指腸に入ってくることが刺激となって、十二指腸からインクレチンが分泌される。 ・インクレチンは、ランゲルハンス島に働いて、グルコース刺激によるインスリン分泌を促進する。 (6)グレリン(ghrelin) ・グレリンは、胃から分泌されるペプチドホルモンであり、絶食により分泌が増加する。 ・グレリンは、下垂体に働いて成長ホルモン(GH)の分泌を促進する。 ・グレリンは、視床下部に働いて食欲を増進させる。