悪性 黒色腫
Sentinel node の 生 検 に よ り所 属 リ ンパ 節 を 同 定 した 腰 部 悪 性 黒 色 腫 の1例
大 木 琴 美*1 大 木 更 一 郎*1 岩 田 友 希 江*2 村 上 正 洋*2 青 木 律*2 百 束 比 古*2
Sentinel node biopsy in a patient with malignant melanoma of the under back
Kotoho OKI*1, Koichiro OKI*1, Yukie IWATA*2, Masahiro MURAKAMI*2, Ritsu AOKI*2, Hiko HYAKUSOKU*2
*1Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Aizu Chuo Hospital *2Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School
In patients with malignant melanoma, the site for lymph node dessection is now determined by the primary site of the tumor according to the standard of UICC. However, sometimes it is difficult to predict accurate lymph node drainage because the tumor occupies two or three lymph node areas, which Sappey called "Watershed" areas, such as the midline of the trunk. We applied the technique of sentinel node biopsy (SNB) using patent blue dye for the patient with malignant melanoma of the under back. It was possible to detect the lymph node drainage flowing not only to the groin area but also to the axillar area. We consider that SNB is one of the effective methods to determine the lymph node drainage of the tumor in so-called "Watershed" areas. [Skin Cancer (Japan) 2002; 17 : 31-37]
Key words : Malignant melanoma, Lymph node dessection, Sentinel node biopsy
は じ め に 近 年, 悪 性 黒 色 腫(以 下MM)の 治 療 に お い て腫 瘍 原 発 巣 の 部 位 あ る い は周 囲 に色 素 や 放 射 性 同位 元 素 を注 入 し, 最 初 に流 れ込 む リ ンパ 節 す な わ ちsentinel node(以 下SN)を 生 検 し, そ の結 果 に よ り リ ンパ 節 郭 清 の 適 応 を決 定 す る方
法(sentinel node biopsy, 以 下SNB)が 広 く行 わ れ つ つ あ り, 注 目 さ れ て い る。 しか し, 本 邦 に お い て は そ の 同 定 率 や 正 診 率 等 の精 度, ま た あ る い は放 射 性 物 質 の取 り扱 い の 問題3)な どが あ り, 現 時 点 で は まだstandardな 手 技 と は い え な い。 一 方, MMの 拡 大 切 除 の 際 に所 属 リ ンパ 節 は 原 発 巣 の 部 位 に よ り決 定 され るが, 原 発 巣 が た とえ ば 躯 幹 正 中 部 や 腰 部 な ど リ ンパ 流 が左 右 あ る い は 上 下 い ず れ に 向 か うか 明 確 に特 定 しえ な い場 合, と もす れ ば複 数 箇 所 の リ ンパ 節 郭 清 を *1会 津 中央 病 院 形 成外 科 *2日 本 医科 大 学 形成 外 科
行 う こ と に な り患 者 に必 要 以 上 の侵 襲 を与 え て い る可 能 性 も否 定 で きな い。 今 回, 我 々 は腰 部 のMMに 対 して 拡 大 切 除 の 際 に所 属 リ ンパ 節 の 決 定 に色 素 法 に よ るSNB を施 行 し有 用 で あ っ た た め, 若 干 の 文 献 的 考 察 を ま じえ て報 告 す る。 症 例 患 者:22歳, 男性 初 診 二平 成12年11月30日 主 訴:左 腰 部 の 黒 色 隆 起 性 結 節 家 族 歴 ・既 往 歴:特 記 す べ き こ とな し。 現 病 歴:小 学 生 の 頃 よ り左 腰 部 の 大 き さ約 lcmの 黒 色 斑 を 自 覚 して い た が 放 置 して い た。 最-近に な り拡 大 傾 向 を示 し, ま た約 半 年 前 よ り 腫 瘍 中 央 部 に小 結 節 を生 じて き たo 現 症:左 腰 部 に33mm×23mmの 境 界 明 瞭, 不 整 形 の黒 色 隆 起 性 結 節 を認 め た。 色 調 は ほ ぼ均 一 で しみ 出 しは な く光 沢 を伴 い, 中央 部 に は角 化 性 小 結 節 が 多 発 し圧 痛 を伴 っ た(図 1)。 当 初, 臨床 的 に は母 斑 細 胞 性 母 斑 を疑 っ た が, MMも 否 定 で き な か った た め辺 縁1mmに てexcisional biopsyを 施 行 した と こ ろ, 病 理 組 織 学 的 にMMと 診 断 され た。 臨 床 検 査 所 見:末 梢 血 液 検 査, 生 化 学 検 査 に て 異 常 所 見 な し。 術 前 血 中5S-CD(12月26日 施 行)は3.2nmol/lと 正 常 範 囲 内 で あ っ た。 全 身 検 索 と して, 胸 部 お よ び脊 椎 レ ン トゲ ン, 脳 ・ 腹 部 ・鼠 径 部CTお よび 骨 ・ガ リ ウ ム シ ンチ グ ラ ム を施 行 し, 明 らか な リ ンパ 節 腫 脹 お よ び遠 隔 転 移 を認 め な か っ た。 病 理 組 織 学 的 所 見:腫 瘍 細 胞 は表 皮 側 は表 皮 上 層 の 穎粒 層 ま で, ま た, 真 皮 側 は 中 層 の膠 原 線 維 間 まで, 個 別 性 に, あ るい は大 小 不 規 則 な 胞 巣 を形 成 して増 生 して い たO個 々 の 腫 瘍 細 胞 は メ ラニ ン色 素 を含 有 し明 るい 胞 体 の 類 上 皮 細 胞 様 細 胞 で あ り, 大 小 不 同 で 異 型 性 が 強 く核 小 体 は濃 染 し, 核 分 裂 像 も多 く認 め ら れ た(図 2)。 真 皮 内 に 増 生 した 腫 瘍 巣 周 辺 に は リ ンパ 球 様 の 細 胞 浸 潤 が 軽 度 に み られ た。 腫 瘍 周 辺 の 境 界 活 性 は小 範 囲 に 限局 して お り病 型 は結 節 型 黒 色 腫, Breslowのtumor thickness は3. 75mm, Clark level IVで, pT III bN0M0, stage IIと 診 断
され た。 尚surgical margin は垂 直 方 向 ・水 平 方 向 と も にintactで あ っ た。 治療 お よ び 経 過: 12月28日, 病 理 組 織 学 的 診 断 に 基 づ き原 発 巣 の 拡 大 切 除 術 を施 行 し た。 excisional biopsyの 搬 痕 部 をマ ー キ ン グ し撮 影 した レ ン トゲ ン写 真 に て原 発 巣 は ほ ぼ 第2腰 椎 の 高 さ で あ り, 主 要 な 所 属 リ ンパ 節 は左 鼠 径 リ ンパ 節 で あ る と考 え ら れ た(図3)。 しか し, リ ンパ 流 の 一 部 が 腋 窩 へ 向 か う可 能 性 が あ る と思 わ れ た た め 左 腋 窩 部 にお け るSNBを 計 画 した。 図1-初 診 時 臨 床像 図2-病 理 組 織 像 左;H. E-染 色, ×40 右;H. E. 染 色, ×200
左 鼠 径 リ ンパ 節 につ い て は, 腫 瘍 の厚 さが3mm を超 え て い る こ と よ り本 邦 にお け る 従 来 通 りの 予 防 的 郭 清 を 施 行 す る こ と と し た。 原 発 巣 は excisional biopsy の 廠 痕 部 よ り辺 縁3cmに て広 背 筋 お よ び 外 腹 斜 筋 筋 膜 を含 め て 拡 大 切 除 し た。 また そ の 際 鼠 径 方 向 に大 き さ1mm×1mm の 皮 膚 腫 瘍 が あ り, intransit 転 移 の 可 能 性 を考 慮 して そ の 周 囲 は大 き く切 除 し た。SNの 同定 は 色 素 法 に て 行 い, パ テ ン トブ ル ー色 素 を拡 大 切 除 部 位 よ り皮 下 注 した(図4)。 切 除創 部 は で きる だ け縫 縮 した 後, 左 大 腿 部 か ら の分 層 植 皮 に よ り被 覆 した。色 素 注 入 約20分 後, 青 色 に透 見 す る左 腋 窩 に約5cmの 皮 膚 切 開 を加 え, リ ン パ 管 と思 わ れ る線 状 の 青 染 した 組 織 を 同 定, そ の 延 長 上 の 青 染 し た腫 瘤 をSNと 同 定 し生 検 し た(図5)。 左 腋 窩 の 切 開部 は そ の ま ま縫 縮 し た。 一 方, 左 腋 窩 部SNBと ほ ぼ 同 時 に左 鼠 径 リ ン パ 節 郭 清 を 開 始 した。 リ ンパ 節 は数 ヵ所 に青 染 を認 め, 浅 鼠径 リ ンパ 節, 深 鼠 径 リ ンパ 節 共 に 一 塊 と して摘 出 した。 病 理 組 織 学 的 に腫 瘍 の 転 移 は認 め られ な か っ た。 腋 窩 のSNに も永 久 標 図3. 左; excisional biopsy 後 の 綾 痕 を 示 す(実 線 は 術 前 の 仮 の デ ザ イ ン) 右; 綴 痕 部 は マ ー キ ン グ し た レ ン トゲ ン に よ り第2腰 椎 の 高 さ で あ っ た
図4. bsentinel node biopsy; パ テ ン トブ ル ー 色 素 を 原 発 巣 拡 大 切 除 部 位 よ り注 入 し た 図5. 左 腋窩 部 にお け るSNB 左; 青 色 く色 素 が透 見 して い る 右; リンパ 管 お よびSNの 同 定 (→ リ ンパ 管 ⇒SN) 図6. 術 後1ヵ 月 の状 態
本 に て 明 らか な腫 瘍 の 転 移 は 認 め られ ず, 左 腋 窩 リ ンパ 節 郭 清 は不 要 と判 断 し た。 ま た, 拡 大 切 除 に含 め た鼠 径 方 向 の大 き さ1mm×1mmの 皮 膚 腫 瘍 は 組 織 学 的 に母 斑 細 胞 性 母 斑 との 診 断 で あ っ た。 術 後2週 間 目 よ り化 学 療 法(DAV-フ ェ ロ ン 療 法)を 開 始 し, 現 在 ま で に2ク ー ル 施 行 した。 今 後 さ ら に フ ォロ ー ア ップ して い く予 定 で あ る (図6)。 考 察 1. SNBに つ い て SNと は腫 瘍 か ら最 初 に リ ンパ 流 を 受 け る リ ンパ 節 で あ り, 微 小 転 移 巣 は まず こ のSNか ら 形 成 さ れ る とい う仮 説 に も とづ き, SNが 転 移 陰 性 で あ れ ば そ の リ ンパ 節 全 体 に転 移 は な く郭 清 は不 要 と判 断 さ れ る。 MMに 対 す るSNBの 歴 史 は1992年 のMorton らの 色 素 法 に始 ま り12), 続 い て1993年 にKrag らが ガ ンマ プ ロ ー ブ法 を開 発 した1)11)。本 邦 に お い て は, 1997年 頃 よ り主 に下 肢 原 発 の肢 端 黒 子 型 黒 色 腫 に対 して 色 素 法 に よ るSNBが 始 ま りよ う や くそ の 手 技 が確 立 しつ つ あ る現 状 で あ る21)。 色 素 法 の 副 作 用 と して, 術 後24時 間 は尿 が 青 緑 色 に着 色 す る こ と, ご く少 数 で 局 所 注 入 部位 に色 素 が 残 存 す る こ と, また, 麻 酔 中 の 酸 素 飽 和 度 モ ニ タ ー に 干 渉 す る可 能 性 等 が あ げ ら れ て い る が, そ れ以 外 は 特 に副 作 用 は認 め られ な い とさ れ て い る12)14)。自験 例 にお い て も尿 の 着 色 が 術 後24時 間 以 上 認 め ら れ た が 輸 液 管 理 に よ り腎 機 能 障 害 等 の 問 題 は な か っ た。 ま た, 麻 酔 中 に酸 素 飽 和 度 モ ニ タ ーが 一時 測 定 し に く くな り麻 酔 科 医 へ の 説 明 と 同意 を要 した。 2. 表 在 性 腫 瘍(皮 膚 腫 瘍)の 所 属 リ ンパ 節 につ い て 現 在 のUICC分 類 で は所 属 リ ンパ 節 は原 発 巣 の 部 位 に よ り決 定 され る。 そ れ に よ る と胸 部 と 腹 部 ・腰 部 と轡 部 の 境 界 線, つ ま り腋 窩 リ ンパ 節 と鼠 径 リ ンパ 節 の 境 界 線 は, 体 幹 の前 面 は肋 骨 弓 と謄 の 問 の 中央 の 線, 後 面 は胸 椎 の 下 端 の 線(中 央 横 断 軸)と さ れ て い る(図7)18)。 ち なみ に, 一 般 の解 剖 学 書 で は そ の 境 界 は ほ ぼ膀 の 高 さ と され て い る(図8)6)9)。 さ ら にUICC 分 類 に お い て2つ の リ ンパ 節 領 域 の 境 界 部 に は 4cmの 幅 が 設 定 さ れ て お り, そ の 範 囲 内 で は両 者 が 所 属 リ ンパ 節 と され る18)。 以 前, Sappeyら は屍 体 の リ ンパ 流 の研 究 にお い て 腋 窩 と鼠 径 の 境 界 領 域 を決 定 しSappey's lineと 命 名 した。 そ して体 幹 正 中 の線(midline) お よ びSappey's lineの 各 々 よ り2. 5cm以 内 の 領 域 は リ ンパ 流 の 方 向 が 予 測 で きな い 領 域 と し, "W atershed"areasと 呼 ん だ17)。 しか しそ の 後 図7b所 属 リ ン パ 節 の 境 界 線(文 献18p167図 208a, bよ り引 用)
Normanら は, そ の 領 域 は よ り広 く, midlineよ りお よ びSappey's lineよ り11cmに まで 及 ぶ と 報 告 した13)。 従 っ て, 所 属 リ ンパ 節 の決 定 を現 行 のUICC の 基 準 の み に従 う こ とに は 疑 問 が感 じ ら れ る こ とは 否 め な い。 腫 瘍 原 発 巣 が2つ 以 上 の リ ンパ 節 の 境 界 領 域 や そ の近 辺 に存 在 す る と き に は, あ らか じめ リ ンパ 流 お よび 所 属 リ ンパ 節 を検 索 す る こ とが 望 ま し く, SNBに よ りそ れ は可 能 で あ る と考 え られ る。 ま た さ ら に, SNBに 先 立 ち リ ンパ シ ンチ グ ラ フ ィー を併 用 す る こ と に よっ て よ り 精 度 が 向 上 す る と い う 報 告 が あ る4)5)10)12)14)。Stanley らは, リ ンパ シ ン チ グ ラ フ ィー に て解 剖 学 的 予 測 と異 な る部 位 に少 な く と も1つ のSNが 見 つ か る 確 率 は頭 頸 部 のMM で は36. 7%, 体 幹 のMMで は25. 3%, 全 体 で は 19. 5%と 報 告 して い る19)。またRobinson ら は体 幹 部 のMM77症 例 に対 して リ ンパ シ ン チ グ ラ フ ィー を行 い, 体 幹 正 中 よ り左 右 と も3cmあ る い は そ れ 以 上 離 れ て い て も両 側 の腋 窩 に リ ンパ 流 が 向 か う場 合 が あ る一 方 で, 正 中 よ り2cm以 内 で あ っ て も片 側 の 腋 窩 に しか 向 か わ ない 場 合 もあ る とい う。 またSappey's lineの 検 討 に お い て, 第1腰 椎 か ら第4腰 椎 ま で の 範 囲 内 に病 変 部 が 存 在 す る 場 合, リ ンパ 流 は鼠 径 部 の み, 腋 窩 の み, あ る い は しば しば そ の両 側 に向 か い, Sappeyの 報 告 よ り も"Watershed"areas が 広 い こ と を報 告 した15)。 3. 自験 例 に つ い て 自験 例 で は腫 瘍 生 検 後 の 簸 痕 の部 位 は腰 部, 第2腰 椎 の 高 さ で あ り, Sappey の い う "Watershed"area に近 接 して い るが, UICC分 類 に よれ ば所 属 リ ンパ 節 は左 鼠 径 リ ンパ 節 で あ る と考 え られ た。 所 属 リ ンパ 節 の 予 防 的 郭 清 につ い て, 富 田 は 腫 瘍 の 厚 さ が3mmを 超 え る もの で は 有 効 で あ る と して お り20), ま た, 石 原 らはstage皿 で は 各 病 型 と も施 行 し た方 が有 意 の 差 で予 後 が 良好 で あ る と報 告 して い る7)。 これ らの結 果 をふ ま え て本 邦 に お い て は原 発 巣 のtumor thickness が3mm以 上 の もの と, そ れ 以 下 で あ って も原 発 巣 に潰 瘍 形 成 の み られ る 症 例 で は原 則 と して 予 防 的 リ ンパ 節 郭 清 を実 施 す る とい う指 針 が 出 さ れ て い る16)。 自 験 例 で は 腫 瘍 の 厚 さ は 図8. 体幹 の浅 リ ンパ 管(後 面)(文 献9p294図273よ り引 用) [下] 深 頚 リ ンパ 節(=鎖 骨 上 リ ンパ 節) に 向 か う リ ンパ 管
Lymph vessels to lnn. cervicales profundi inferiores (=lnn. supraclaviculares)
腋 窩 リ ンパ 節 に 向 か う リ ンパ 管 Lymph vessels to lnn, axillares
腰 部か ら浅蛍径 リンパ節 に向か うリンパ管
Lymph vessels from lumbar part to lnn. inguinales superficiales
浅 厳 径 リ ンパ 節 に 向 か う リ ンパ 管
Lymph vessels to lnn. inguinales superficiales 殿 部 よ り浅 嵐 径 リ ンパ 節 に向 か う リ ンパ 管
Lymph vessels from gluteal part to lnn. inguinales superficiales
3. 75mmで あ り, 左 鼠 径 リ ンパ 節 に関 して は本 邦 の 基 準 に基 づ き当然 予 防 的 郭 清 をす べ きで あ る と判 断 した。 実 際, 術 中 に色 素 に よ る青 染 を 認 め た が, SNと して の 生 検 は 行 わ な か った。 一 方, 左 腋 窩 リ ンパ 節 につ い て は, 解 剖 学 書 に て 腋 窩 と鼠 径 の リ ンパ 流 の 境 界 が 決 して 明 瞭 で は な く, また, 前 述 の よ う な リ ンパ シ ンチ グ ラ フ ィ ー を用 い た リ ンパ 流 の バ リエ ー シ ョ ンの 報 告 等 よ り, 左 腋 窩 へ 向 か う リ ンパ 流 の 存 在 も 否 定 し得 え な か っ た。患 者 が 年 齢 的 に22歳 と若 くで き る だ け の 治 療 を すべ きで あ る との 考 え か ら当 初 は左 腋 窩 も予 防 的 郭 清 を考 慮 した が そ れ は侵 襲 が 大 きす ぎ る と判 断 され た。そ こ でSNB を原 発 巣 の拡 大 切 除 と同 時 に施 行 す る こ と と し た。 パ テ ン トブ ル ー に よる色 素 法 を用 い た とこ ろ皮 膚 の 上 か ら青 色 く透 見 され, リ ンパ 管 お よ びSNの 同定 が 可 能 で あ っ た。 永 久 標 本 に て腫 瘍 転 移 は陰 性 で あ り, ま た, 左 腋 窩 へ 向 か う リ ンパ 流 はお そ ら く全 体 の 一 部 にす ぎな い で あ ろ う と考 え ら れ た た め, リ ンパ 節 郭 清 は省 略 で き る と判 断 した。 伊 藤 ら は胸 骨 部 や や 左 側 よ りの 黒 色 腫 に対 して拡 大 切 除 した 後 に左 腋 窩 リ ンパ 節 腫 脹 を認 め, そ ち ら の郭 清 を施 行 す る 際 に 同 時 に右 腋 窩 のSNBを 施 行 し, 腫 瘍 転 移 が 陰 性 で あ っ た た め 右 側 は 郭 清 を省 略 し た8)。 我 々 も今 回, 左 腋 窩 の郭 清 を省 略 した が 今 後 も定期 的 に フ ォロ ー ア ップ して い く方 針 で あ る。 色 素 注 入 の時 期 につ い て はBradyら はSNの 同定 は 精 度 の 点 か ら原 発 巣 の 拡 大 切 除前 に試 み る方 が よい と して い る2)。 自験 例 で は拡 大 切 除 後 に注 入 した た め, よ り多 くの リ ンパ 流 の チ ャ ンネ ル を拾 う こ と と な りSNBの 精 度 が 若 干 低 下 した とい う可 能性 も考 え られ る。 しか し, 逆 に い え ば そ れ で腫 瘍 の 転 移 が 認 め られ な け れ ば よ り信 頼 で きる結 果 で あ る とい え る の で は ない だ ろ うか。 いず れ にせ よ今 回 は左 鼠 径, 左 腋 窩 の両 側 に向 か う リ ンパ 流 の存 在 を確 認 した こ と に意 義 が あ る と考 え て い る。 また 一 方 で八 田 ら は, 左 腰 部 のMMに 対 して 術 前 リ ンパ シ ンチ グ ラ フ ィー を施 行 し, 自験 例 と は異 な り鼠 径 部 の み のRI粒 子 の 集 積 を確 認 して い る5)。こ の よ う に躯 幹 正 中 部 や 肩, 腰 部 な ど2つ の所 属 リ ンパ 節 の境 界 領 域 付 近 い わ ゆ る "W atershed"area, あ る い は そ れ に近 接 して腫 瘍 が 存 在 す る場 合, お そ ら くそ の"Watershed" 領 域 はUICCの 設 定 す る4cmよ り も幅 が 広 く, ま た リ ンパ 流 に は 個 人 差 ・バ リエ ー シ ョン の存 在 が 予 測 さ れ る た め 各 々の 症 例 に よ'り所 属 リ ン パ 節 を検 索 す る こ とが 望 ま しい。 自験 例 で は色 素 注 入 法 に よ りそ れ が 可 能 で あ り有 用 で あ っ た。 ま た, 結 果 と して術 後 の 上 肢 の 浮 腫, 神 経 障害 等 の 合 併 症 を回 避 し, 手 術 侵 襲 を必 要 最 小 限 に と ど め る こ とが で きた と評 価 して い る。 し か し, 色 素 法 にお け るSN同 定 率12)21)など を考 慮 す る と色 素 法 単 独 で は 決 して1O0%の 方 法 と は言 え ず, 術 前 の リ ンパ シ ンチ グ ラ フ ィ ー との 併 用 な ど に よ りそ の 精 度 は よ り向 上 して い く と 思 わ れ る。 今 後, 当 施 設 で も導 入 を検 討 して い くべ き方 法 の一 つ で あ る と認 識 して い る。 ま と め 今 回, 左 腰 部 の 悪 性 黒 色 腫 に対 して そ の リ ン パ 流 を検 索 す る た め に色 素 法 に よ るSNBを 施 行 し, 左 鼠 径, 左 腋 窩 双 方 へ 向 か う リ ンパ 流 を 確 認 した。 こ の よ う に, 原 発 巣 の 部 位 的 に所 属 リ ンパ 節 の 決 定 に 迷 う場 合, SNBは リ ンパ 流 と そ の方 向 を確 認 す る た め に有 用 な手 法 の 一 つ で あ り, そ の 結 果 と して 手 術 侵 襲 を必 要 最 小 限 と す る こ とが 可 能 で あ る と考 え られ た。 本 論 文 の要 旨 は第17回 皮 膚 悪性 腫瘍 学 会学 術 大 会 にお いて発 表 した。 文 献
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