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安全配慮義務違反に基く損害賠償請求権の消滅時効の起算点

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(1)

0

七六

号・

判例時報一〇七八号八一頁 ②東京高裁昭和五八年四月二七日判決︵昭五七九八九号︑損害賠償請求控訴事件︶

A

は ︑

X線業務に従事していたが︑昭和三一年一︱

0

月白血球減少症

Aは昭和三三年三月一七日自

0

年九月四日慢性骨髄性白血病急性転化 判例時報一〇七三号七九頁

のた

め死

亡し

た︒

A

の遺

x

らは︑昭和五

0

年八月一日︑安全

配慮義務違反を理由に損害賠償請求の訴を提起︒原審は次のよ

うに述べてXらの請求を棄却した︒︵東京地裁昭和五四年︱二月

二︱日判決︵昭五〇⑰六五二

0

号・損害賠償請求事件︶判例時

報九五四号五六頁︶

﹁⁝

⁝被

告国

は︑

A

に対

し︑

Aが公務であるX線取扱業務

を遂行するに際し︑

X線被曝による亡Aの生命・身体に対する

安全配慮義務違反に基く損害賠償請求権 の消滅時効の起算点

①東京高裁昭和五八年二月二四日判決︵昭五四︵三

0

し六号︑損害賠償請求控訴事件︶

(2)

危険防止に必要な防護措置を講じ︑仮に︑被曝したときには担 当職務を変更し︑充分な治療によって亡Aの生命・身体への危

険を避けるべき内容の義務を負う︒そして︑国が右義務を怠っ

て公務員に損害を与えた場合には︑国は公務員に対し損害賠償

義務を負うが︑右義務は本来の債務の内容が変更されたに止ま

り︑その債務の同一性には変わりはないからこれに対応する公

務員の国に対する損害賠償債権も民法一六六条︑第︑一六七条一

項により本来の安全配慮債務の履行を請求しうるときから進行

を始

め︑

0

年の経過によって完了するものと解すべきである︒

ところで︑右国の安全配慮義務は在職公務員に対するものであ

って︑公務員たる地位を失った者に対してまで負担するもので

はなく︑当該公務員の退職後はかかる義務の発生する余地はな

い︒このように︑被告国の亡Aに対する本件安全配慮義務も︑

亡Aが陸上自衛隊を退職した昭和三三年三月一七日以前に負担

すべきものであり︑また︑亡Aも被告国に対し退職以前におい

て右義務に対応する安全配慮請求権を有し︑かつ︑行使しえた

ものである︒したがって︑亡Aの被告国に対する本件安全配慮

請求権は︑遅くとも右退職日までは存在し︑行使しえたのであ

るから︑それから一

0

年を経過した同四三年三月一七日をもっ

て時効により消滅したとするべきである︒⁝⁝﹂

これ

に対

x

らは︑安全配慮義務違反による損害賠償債務の消

~

滅時効については︑損害が客観的に現実化した時︑本件に於ては

の死亡時から進行を開始するものと解すべきである︑として控訴︒

︹ 判

旨 ︺

控訴棄却︵確定︶︒右に掲げた部分を含む原判決理由を引用し

た上で︑﹁原判決一三丁裏八行目八翌ば鴨>の﹃と解すべきであ

る︒﹄の後に︑行を代えて︑次のとおり付加する︒

﹃また︑具体的安全配慮義務は公務員が国若しくは上司の指示

のもとに具体的公務の遂行に際し︑公務員はその履行を請求し

うるものであり︑右具体的安全配慮義務は性質上それが履行さ

れるときはそれにより消滅し︑損害賠償債務は発生しないが︑

右具体的安全配慮義務が履行されなかったときは︑債務不履行

による損害賠償債務が転化発生し︑以後これを請求しうること

となるものである︒したがって︑右具体的安全配慮義務不履行

に基づく損害賠償債務は具体的公務の遂行が終了し︑右具体的

安全配慮義務が右損害賠償債務に転化したときから一

0

年間を

経過すれば︑消滅時効により消滅するものといわなければなら

ない︒右本来の債務者及び債務の内容は契約関係上明らかなの

であるから︑もともとこれが存しない場合の規定たる民法七二

四条を類推適用すべき余地はなく︑また︑Xら主張のとおり右

損害賠償債務につき損害が客観的に現実化しこれを知った時か

ら消滅時効が進行を開始し︱

0

年間の経過をもって時効消滅す

(3)

ると解することは︑不法行為による損害賠償請求権との均衡を 失するばかりでなく︑時効制度の趣旨にもそわないので︑これ

を採用することができない︒﹄⁝⁝L︶ 

東京高裁昭和五八年四月︱じ日判決︵昭五七困九八九号︑損I I

︑ ー

害賠償請求控訴事件︶判例時報

1 0

じ八号八一頁

︹事

実︺

陸上自衛隊員

A.B.Xは︑昭和四

0

年五月二四日︑道路改 修﹇事に際して岩盤爆破作業中︑黒色カーリット火薬の爆発事

故に

遇い

A.B

は死

亡︑

X

は両眼を失明した

( X

は︑昭和四

一年九月二日に症状が固定した︑と主張する︶︒Xは︑昭和四一

年三月二五日に任期満了により除隊︑昭和五

0

年八月本件訴え を提起︒原審︵東京地裁昭和五七年三月二九日判決︵昭五〇り 三八八八号・六九七八号・損害賠償請求事件︶判例時報一

0

四号

00

頁︶は︑国の安全配慮義務違反を認め︑

A.B

の遺

族の損害賠償請求を一部認容したが︑X

の請求は時効消滅を理

由に棄却した︒X

控訴

︹判旨︺控訴棄却︵上告︶︒

﹁安全配慮義務違背は︑国と自衛隊員との間においても︑債務

不履行の一種と解するべきであるが︑およそ債務不履行による 損害賠償債務は︑本来の債務の内容が変更したにすぎず︑債務 の同一性に変りはないから︑その消滅時効は本来の債務の履行

を請求し得る時すなわち債務不履行のあった時︵換言すれば本

来の債務が損害賠償債務に変った時︶から進行を始めるもので︑

仮に権利者において損害の発生を事実上知らず︑また損害額が 確定していないとしても右消滅時効の進行は妨げられないもの と解するのが相当である︒本件において被控訴人に債務不履行 のあったのは前記認定のとおり昭和四

0

年五月二四日であるか

ら︑被控訴人の安全配慮義務の不履行による損害賠償債務は︑

控訴人の後遺症状が固定していると否とにかかわりなく右の日

から進行し︑その後一

0

年を経過した昭和五

0

年五月二四日の

経過により時効によって消滅したものというべきである︒

控訴人は︑右消滅時効は後遺症状の固定した日から進行する ものと解するべきであると主張するが︑民法一六六条には︑不 法行為に関する同法七二四条のような別段の定めはなく︑時効 期間の権衡等を考慮するならば︑債務不履行による損害賠償債 権は︑その発生と同時に法律上これを行使することができる状 態になるというべきであり︑その消滅時効については前記のよ

うに解さざるを得ず︑控訴人の右主張は採用できない︒﹂

︹批

評︺

最判昭和五

0

年二月二五日︵民集二九巻二号一四三頁︶は︑

﹁ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当 事者﹂の安全配慮義務違反に基く損害賠償請求権の消滅時効期

~

(4)

間を︑民法一六七条一項により一

0

年と解すべきものと判示し

た︒但し同判決は︑起算点について判示しておらず︑またこれ

は会計法と民法の適用関係について判断したものであって︑民

法上の債権一般の消滅時効と不法行為に基く損害賠償請求権の

消滅時効との関係については十分検討していない︒

しかし右最高裁判決以後の下級審判決において︑安全配慮義

務違反に基く損害賠償請求権の消滅時効の起算点につき︑不法

行為の場合との関係を意識しつつ︑検討が為されてきた︒星野

判事のまとめ︵星野雅紀﹁安全配慮義務と消滅時効﹂判例タイムズ四

九五号二五頁以下︶によれば︑右起算点を﹁事故発生時﹂と捉え

るものと﹁退職時﹂と捉えるものと︑二つの裁判例の流れがあ

るが︑それは﹁安全配慮義務の不履行類型﹂の違い︑すなわち

侵害が爆発事故のように一回的なものか︑X線や粉塵等による

身体障害のように継続的なものかによるものであって︑損害賠

償請求権を﹁行使スルコトヲ得ル時﹂︵民法一六六条一項︶を確

定するにあたって論理的な対立はなく︑いずれにせよ不法行為

におけるような加害者及び損害の認識がなくとも時効が進行す

るも

のと

され

る︵

星野

・前

掲︱

一八

頁︶

ここに取上げる二判決は右の流れを代表するものであるが︑

損害賠償請求権を﹁行使スルコトヲ得ル時﹂につき︑これを本

来の安全配慮義務の履行を請求しうる時と表現し︑その根拠づ けとして本来の債務と損害賠償債務の同一性を挙げていることが特徴的である︒本稿では安全配慮義務の根拠と構造を考察しつつ︑﹁本来の安全配慮義務の履行を請求しうる時﹂という構成並びに消滅時効の起算点の取り方を検討する︒

なお︑ここで言う﹁債務不履行責任﹂は﹁契約責任﹂より狭

い意味を持つ︒すなわち︑﹁債務﹂はその本来の内容が現実に履

行行為を通じて実現されるべきことを前提とし︑同一内容の債

権と対応する︒右の﹁債務﹂が履行されないことが﹁債務不履

行﹂である︒以上の前提の下に本稿では﹁債務不履行責任﹂と

﹁契約責任﹂を区別し︑前者における本来の履行︵請求︶にかか

わる規律を︑権利侵害という結果に対する責任を問題とする不

法行為責任︑あるいはそれと交錯する﹁契約責任﹂に適用する

ことに対して疑問を呈示するものである︒

二雇傭・労働関係並びにこれと類似する労務給付関係にお

いて︑不法行為で問題となる義務︵一般的不可侵義務・不作為

による不法行為の前提たる作為義務︶とは別に安全配慮義務を

認めることの根拠と意味はどこにあるのであろうか︒それは義

務の内容に違いがあるということなのか︑それとも内容的には

同じであるが別個の位置づけが可能であり︑それにより異なる

規範が競合して適用されうるということであろうか︒

日まず︑義務内容を︑万全の措置によって労災事故・職業病

︱ 二

(5)

を発生させないこと自体と把握することにより︑﹁義務の高度

化﹂を図る見解がある︒岡村弁護士は︑雇傭契約と労働契約を

区別︑﹁生存権理念にのっとる労働契約﹂の特質を根拠に﹁結果

債務﹂概念を導入し︑労災職業病の発生を以て直ちに債務不履

行ありとされる︵岡村親宣﹁労災裁判の展開と法理﹂七六頁以下︑ニ

五三頁以下︶︒そして﹁一般の結果債務の場合と同様︑債権者たる

労働者側は︑一般的安全保護義務と労災職業病であるという結

果の主張・立証責任を負うにとどまり︑使用者はr責に帰すべ

き理由の不存在﹄︵不可抗力︶の主張・立証をしない限り︑損害

賠償責任を負う﹂とされる︵岡村・前掲九一頁︶︒また國井助教授

も︑フランスの﹁手段債務﹂と﹁結果債務﹂の理論を参考にし

て﹁絶対的な安全配慮義務﹂を提唱される︒それは﹁契約内容

および契約的接触における事故発生の危険性が著しいことに注

目して︑相手方の安全確保そのものを義務内容とし︑万全の事

故防止措置を義務者に求めるもの﹂であり︑免責には﹁不可抗

力もしくはこれに準ずる事由の立証を必要とする﹂とされる︵國

井和

郎﹁

契約

責任

論の

体系

的素

描﹂

ロー

スク

ール

0

号七

一頁

︶︒

両者

は実質的根拠づけには違いがあるが︑﹁結果債務﹂概念を媒介に

して義務内容を高度化し︑そしてそれは免責立証に顕われる︑

とする点で共通である︒

右のように﹁結果債務﹂概念を媒介として﹁義務の高度化﹂

第一

に︑

︱ 二 五

を図る見解に従うには︑以下の理由で躊躇を感じる︒すなわち︑

︑︑

労災による生命・健康侵害の不発生︵安全確保そのもの︶を内

容とする義務は︑いかなる﹁債務﹂として把握されうるか︑と

いう

点で

ある

一切の危険から労働者の生命・健康を守ること︑と ︒

いう包括的な内容は︑﹁明確な一定の結果を達成する義務﹂︵高世

三郎﹁フランス法における安全配慮義務﹂司法研修所論集六八号四四

頁︶としての結果債務と把握することができるか︑という疑問で

ある︒これは﹁結果債務﹂概念が︑全面的な債務の構造論にか

かわるものか︑一定の厳格な責任の承認を狙いとするものか︑

あるいは専ら帰責事由の証明責任に関するものか︑その位置と

妥当範囲が十分明らかにされていないことにも由来する︒

第二に︑右見解は︑まず債務内容を明確に限定するのではな

く︑債務を安全そのものとして捉えた上で︑事故による生命・

健康侵害があれば即座に﹁債務不履行﹂として責任が問われ︑

不可抗力を立証しなければ免責されない︑としている︒この処

理は︑本来の﹁債務﹂︵一定の給付結果を実現するための給付行

為をなすべし︑という拘束︶が履行されないことに基く責任な

いし損害賠償債務の負担ではなく︑直接に権利侵害という結果

に対する﹁責任﹂ないし損害賠償債務の負担を問題とするもの

である︒換言すれば︑現実の履行行為を予定する﹁債務﹂は︑

(6)

合はないと思われる︒ ここでは問題になっていない︒ここで言う﹁義務の高度化﹂は︑端的に言えば契約の性質なり危険性なりを根拠とする﹁責任の厳格化﹂を求めるものと言うべきであろう︒その意味で﹁契約責任﹂と呼ぶことはともかく︑﹁債務不履行責任﹂と呼ぶことには躊躇を感じる︒更に︑証明責任の問題を超えて右のような﹁厳格な責任﹂そのものを立法によらず解釈によって︑しかも危険源・危険の現実化の過程の多様な労災・職業病に一般的に認めることができるか︑についても疑問がある︒

勿論︑原因解明に高度の専門知識が要求され︑あるいは証拠 が使用者側の領域に存する等の事情により︑安全配慮義務違反 の事実の主張・立証を被傭者側に求めることが適切でない場合 も多いと思われるが︑必要な場合には﹁義務の高度化﹂を言う

一応の推定や証明責任の軽減等の弾力的な措置を

採ることができよう︵小林秀之﹁判批﹂判例評論︱︱七三号三七頁︶︒

﹁安全配慮義務﹂の内容を﹁労災職業病の不発生そのもの﹂とし

てではなく︑﹁そのために為すべきこと﹂と把握することに不都

判例も︑安全配慮義務の内容を具体的な安全措置をとること

として把握しているようである︵最判昭和五六年一一月一六日民集

三五巻一号五六頁︶︒このような把握を前提として︑安全配慮義務

とその不履行及び損害賠償の関係について︑次のように考えて までもなく︑

発生という事実を媒介としてはじめて結びつきうるものであ この義務の不履行と生命・健康侵害に基く損害賠償は︑事故の という結果を目的とする︵多くの場合複数の︶行為義務であり︑ ば︑安全配慮義務は被傭者の生命・健康の安全の確保︵不侵害︶ 場合には︑これに基く損害賠償請求権は生じえない︒換言すれ いない場合にも︑事故による被傭者の生命・健康の侵害がない されていないーその意味で安全配慮義務が未だ充分に尽されて ったとすることはできず︑逆に事故防止のための安全措置が為 されたという事実だけでは直ちに右安全配慮義務の不履行があ るものである︶︒従って︑事故が起きて被傭者の生命・健康が侵害 義務の内容を定めるために重要な意味を持ち︑安全配慮義務に内在す 使用者に期待されうる全てのものである︵従ってこの﹁目的﹂は︑ 具体的内容とする︒右措置は︑侵害を回避するために必要かつ 必要な安全設備・安全教育等の措置をとること︵行為︶をその 康を侵害しないという﹁目的﹂を持ち︑その目的達成のために みる︒すなわち︑使用者の安全配慮義務は︑被傭者の生命・健

る︒問題は︑﹁本来の安全配慮義務の履行﹂というレベルが存在

するかどうか︑仮に存在するとして︑

それは事故発生後の責任

レベルの効果と直結するか︑ということである︒以下ではまず︑

責任レベルにおける安全配慮義務の意義を検討︑次に履行レベ

ルにおける安全配慮義務の意義を検討し︑最後に﹁債務の同一

︱ 二

(7)

性﹂を検討する︒

口安全配慮義務の具体的な内容の確定は︑それが結果回避の

ために必要かつ使用者に期待されうる全てのものを含むこと︑

並びに前記最高裁判決によれば﹁具体的状況﹂によっても異な

るものとされることから︑

ろ事故が発生した後︑

しばしば事前には困難である︒むし その原因追究の中で︑当該事故との関連 において特定の﹁義務違反﹂が明らかにされる場合が多いと思 われる︒この過程は︑発生した事故から遡って考えるという点 で︑不法行為における過失ないし義務違反︑並びに因果関係の

確認の過程とあまり変わりがない︵國井・前掲七0

頁︑

飯原

一乗

﹁不

法行為責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任との関係﹂新・

実務民事訴訟講座四巻六七頁︶︒また飯原判事によれば︑﹁原告が安

全配慮義務による請求と不法行為による請求とを併合して提起 し︑双方について同じ内容の義務を主張することが多﹂く︑ま た安全配慮義務と不法行為の注意義務は同一である旨判示する

裁判例も存在する︵飯原・前掲六八頁︶︒

ところで︑労災事故を不法行為として構成した場合に問題と なるのは︑広く市民相互間に存する一般的不可侵義務の違反で はなく︑作為義務違反に基く不作為の不法行為である︒不作為 の不法行為の前提たる作為義務を安易に認めることは好ましく

ない︑とされる︵前田達明﹁民法

v I

︵不

法行

為法

︶﹂

一〇

九頁

︶︒

︱二 七

れども︑雇傭の場合は︑労務給付の空間・機械設備の危険︑あ るいは労務の危険それ自体は法秩序上容認されているが︑その 危険の現実化︵権利侵害︶は容認されず︑その危険に接触せざ

るを得ない者のために危険防止措置をとることが要求される︒

従って︑危険を作出する使用者に対し︑安全措置をとるべき作

為義務を課することは許されるであろう︵先行行為に基く作為義

務︒なお︑ドイツ民法学上の﹁社会生活保安の義務﹂につき︑錦織成

史「民事不法の一_元性口」法学論叢九八巻三号二六頁以下参照)。~方、

これを契約構成した場合どうなるか︒危険回避に必要な安全措 置をとることは︑両当事者の合意がなくても︑法秩序によって 補充される注意義務・保護義務の内容として︑使用者に義務づ けられることになろう︒その事実的根拠はやはり︑喫約的接触

︵ここでは労務給付のための接触︶に伴う﹁危険﹂であり︑実質

的には右に述べた不法行為構成における作為義務の根拠と同一

に帰するであろう︒そしてその具体的内容は︑当該危険の現実 化を防ぐために必要かつ期待可能なものとして︑当該危険の内

容によって定まり︑不法行為構成と喫約構成とを問わず︑同一

のものとなると思われる︒

以上のように︑安全配慮義務について︑日で述べたような安 全に関する保証責任的なものと考えず︑また民法七一七条の危 険責任を度外視して一般的不法行為だけを問題にする限り︑事

(8)

故発生後の責任問題の処理において表われる安全配慮義務の内 容は︑その違反事実の確認の過程の点でも︑義務の根拠や内容

の点でも︑不法行為構成による場合と違いがないものと思われ

国以上のように︑安全配慮義務は責任の前提として不法行為 る ︒ 上の義務と同じ意味を持つが︑安全配慮義務は﹁損害賠償請求

権を発生させるための手段的法概念﹂︵新美育文﹁判批﹂法律時報

五五巻九号一四五頁︶以上の意味を持たないものであろうか︒そ

こで﹁本来の安全配慮義務の履行﹂について考察する︒これは︑

事故が生じていない段階において安全そのものをいかに確保す るか︑の問題であり︑事故が生じてしまえばその限りで︵善後

措置は別として︶意味をなさなくなる︒

事故が生じてはいないものの︑具体的な安全配慮義務が充分

尽くされておらず︑危険の実現可能性が高くなっている場合︑

右安全配慮義務の履行なきことは︑当該雇傭契約の履行過程に 影響する︒すなわち雇傭契約において対価関係にある両当事者

の義務は労務提供義務と報酬支払義務であるが︑安全配慮義務

の履行は︑被傭者が安んじて労務を提供する前提として労務提

供に先行すべき性格のものである︒従って事故発生なき場合に

おいても︑右義務が履行されていない限り労務提供を拒絶しう

ると解することができる︵奥田昌道﹁債権総論︵上︶二0

頁︶

︒し

しこれを超えて︑被傭者の側に︑安全配慮に関する民法上の履

行請求権を文字通りに認めることができるか︑については疑問

がある︒その理由は以下の通りである︒

第一に︑雇傭関係において被傭者は︑使用者の指揮管理の下

に自己の労務給付を現実化させる︒そして被傭者をどの部署に

配置し︑その労働力をどのように使用するかは︑一雇傭契約の趣

旨等が規律する範囲内で︑使用者の裁量に属することである︒

その際︑被傭者を危険な労務の過程に組み込むことに︑当該被

傭者の生命・健康の危殆化が起因するのであるから︑危険の現

実化を回避するためには右組み込みを正当に拒絶しうるものと

すれば足る︵この点が公害の差止等と異なるところである︶︒従

って︑労務提供に先行すべき具体的な安全配慮義務の履行がな

い場合︑使用者側の受領遅滞として︑労務給付の性質上それに

よって生じた履行不能については︑危険負担法理によって賃金

請求権の存続を認める︵奥田・前掲二三九頁︶を以て足り︑具体

的な安全措置の履行請求権を認める必要はないと思われる︒前

述の︑労働力使用についての使用者の裁量という点からすれば︑︑︑︑︑︑︑︑︑安全措置の履行請求は少くとも民法上は履行強制になじむもの

ではないと思われるからである︒勿論︑﹁労務提供の場の安全性

確保のための具体的手段の採用等につき労務提供義務者側が就

労拒否権限を交渉の道具としてこれに関与できる﹂︵山本隆司﹁判

︱ 二

(9)

観念しうるとしても︑ の

は適

切で

ある

と思

われ

る︶

︱ 二 九

侵害時を端的に問題にすべきであったと思われる︒ を為すべきであるか れ

る︒

批﹂法律時報五五巻一号ニ︱0

頁︶という事実的機能があるとして も︑これは安全配慮義務の履行請求権を不可欠の前提とするも 第二に︑仮に履行請求権を認めたとしても︑安全配慮義務の

断に存立するものであり︑

また危険源がなくなったり当該被傭 者が危険から離れたりすれば︑本来の安全配慮を請求する余地 はない︒すなわち本来の安全配慮は︑危険源から独立して請求 することはできず︑従って履行期や独立の時効消滅を考えるこ

とはできない︵神戸地域尼崎支判昭和五四年

‑ 0

月ズ五日判例時報

九四三号︱二頁が︑﹁安全衛生義務の不履行による損害賠償請求権に

ついては︑本来の債務の履行期というものは存在しない﹂としている

四以上の検討に基き︑﹁債務の同一性﹂構成の当否を考える︒

事故︵権利侵害︶前にも安全配慮義務とその履行という問題 はあり︑﹁事故が発生しない限り︑具体的な安全配慮義務の履行

責任は果たされている﹂︵星野・前掲二七頁︶ということはできな

い︒しかし履行請求権が観念できるか︑には疑問があり︑仮に

それは危険が存する限りで問題となるも

のであって︑独立の履行期・消滅時効を考えることはできない︒

また事故発生後については︑義務の事実的根拠・内容︑義務

目的が危険の現実化の防止である以上︑

それは危険ある限り不

のではない︒

違反事実の確認の過程において︑不法行為構成との違いが見ら

れな

い︒

I I 判決自身︑﹁本来の債務の履行を請求し得る時すなわ ち債務不履行のあった時﹂と︑矛盾した表現をしているが︑こ れも右の星野判事の命題と同様︑損害賠償請求権の起点として は事故︵権利侵害︶を考えるほかなく︑事故発生前に請求権の 存在を遡らせることができないことを反映しているものと思わ 従って︑事故の前後を通じて︑被傭者の安全確保のために何

︵あ

った

か︶

という内容上の共通性がある としても︑単一の請求権を観念することはできず︑両判決のと る﹁債務の同一性﹂構成は不当であると考える︒むしろ︑結論 を前提にするならば︑損害賠償請求権の発生時︑すなわち権利

右のように考えれば︑星野判事の示された判例の流れは︑

安 全 配 慮 義 務 違 反 に 基 く 損 害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効

は︑損害賠償請求権発生時︑すなわち権利侵害時を起算点とし︑

一回的な権利侵害においては事故時が︑継続的な権利侵害にお

︑︑

︑︑

いてはその止んだ時︑遅くとも退職時がそれにあたる︑という 判断を表現していることになる︒けれども︑本来の債権がそれ 自体履行請求可能なものとして存在し︑それが不能によって賠 償請求権に変った︵あるいは賠償請求権が新たに発生した︶場

(10)

ではないかと思われる︵山本・前掲︱一八頁︶︒ 構成しなくとも︑

七二四条の要件の解釈を通じて処理しえたの

意味が再考されなければならない︒

あるいは無理に債務不履行

断に立って︑

‑ 0

年の消滅時効期間を採ったのかどうか︑ であり︑無理があると思われる︒

その

合と︑事故による損害賠償請求権の場合とでは︑現実に訴訟上 請求しうる時点が異なる︒前者については︑填補賠償である限

り︵この点を強調するのは新美・前掲一四四頁︶︑履行期以後本来の

債務の履行請求︑不能の場合は予備的に賠償請求ができ︑その

li内容は始めから明らかである︒これに対し︑I

判決は﹁本来の 債務者及び債務の内容は契約関係上明らか﹂であるとするが︑

実際には事故の場合︑履行請求可能なものとしての﹁本来の債 権﹂は存在せず︑損害が現実に明らかにならない限り訴訟上賠

償請求することは不可能である︵損害の証明ができない︶︒民法

七︱一四条を始めとする不法行為法の規律は︑こうした事故の処

理に適合した規定を置く︒債務不履行構成を理由に︑事態によ り適した規律を排除するという点で︑両判決はいささか形式的 もっとも︑両判決とも不法行為の場合との時効期間の均衡を

考慮する旨述べている︒このような調整を必要とするものなら ば︑そもそも昭和五

0

年の最高裁判決が︑不法行為における損 害賠償請求権の消滅時効の規律が不十分であるという明確な判

した内容の︑現実履行を予定される﹁債務﹂が履行されなかっ

一 三

もし︑契約上の損害賠償請求権と不法行為上の損害賠償請求 権につき︑要件・効果の調整・統合を行なうという立場をとら

ず︑どちらか一方の規律に従う︵その上で競合させるにしても︶

という前提をとるならば︑安全配慮義務違反に基く損害賠償請 求権は消滅時効期間も含め不法行為法の規律に従うものとする のが適切であろう︒契約責任といっても︑本来の給付義務並び にその実現のための附随的給付義務に由来する責任︵給付利益 にかかわる契約責任︶についての規律は効果意思に基く﹁本来 の債務﹂を前提するものであるのに対し︑注意義務・保護義務 に由来する責任︵完全性利益にかかわる契約責任︶は﹁本来の 債務﹂とは別の根拠づけが為される︒それは不法行為の領域と 重なり︑時効の起算点︑慰藉料︑遅延損害金の規律等︑不法行 為法の規律になじむものと思われる︒この意味で︑給付利益に

にかかわる契約責任﹂たる債務不履行責任︑ かかわる契約責任と完全性利益にかかわる契約責任の性質の違いは︑完全性利益にかかわる契約責任と不法行為責任の性質の違いより著しいものと思われる︒債務不履行の規律か不法行為の規律かという︱︱者択一の下で︑﹁完全性利益にかかわる契約責任﹂に属するものを︑﹁契約責任Lの位置づけの故に﹁給付利益

すなわち予め確定 た故の責任の構成に形式的に当嵌めれば無理が生ずる︒両判決

(11)

の﹁債務の同一性﹂構成は︑

と思われる︒

それによる破綻を示すものである

の本質的な差異が失われ﹂︵星野・前掲三一頁︶ているというより

は︑事故発生後の﹁責任﹂に関する限り︑始めから﹁本質的な

差異﹂はないと考えるべきではなかろうか︒広く﹁芙約責任﹂

と不法行為責任の差異はともかく︑﹁債務不履行責任﹂と不法行

為責任の差異は︑芙約類型︵特に為す債務を目的とする芙約︶

によっては複雑な問題があるものの︑決して曖昧ではないと思 われる︒今後の﹁安全配慮義務﹂の検討は︑契約責任と不法行 為責任の交錯の問題として為される一方︑それぞれの原型を明 確にして為される必要があろう︒すなわち︑一方では履行過程 と責任問題を貫く︑労務供給契約の構造論の中に位置づけて為 される必要があり︑他方では広く不作為不法行為論の充実の中

で︑その一環として為される必要があると思われる︒

︿追記﹀脱稿後︑前田達明﹁安全配慮義務違反と消滅時効﹂︵判

例タイムズ五

0

二号︶に接した︒前田教授は︑債務不履行によ る損害賠償請求権は本来の債権とは別個の法定債権であるとの

立場から︑﹁債務の同一性﹂構成を批判される︒ 現在︑﹁安全配慮義務に基く責任︵契約責任︶と不法行為責任

~

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