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(1)

— 修士学位論文 —

制御仕様を満たすナイキスト線図を用いた 固定構造制御器設計に関する研究

A Study on Design of Fixed-structural Controller Satisfying Control Specification

on Nyquist Diagram

平成 23 年度

三重大学大学院工学部研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻

長坂太朗

(2)

目 次

第

1

章 緒言

1

1.1

研究の背景と目的

. . . . 1

1.2

論文の構成

. . . . 3

1.3

表記

. . . . 3

第

2

章 凸最適化による

Nyquist

線図上でのロバスト性能条件を満たす制御器パ ラメータの導出

4

第

3

章 ノミナルモデル

Pn

の設計法

8

第

4

章 制御仕様を保証する性能制約

11 4.1

制御帯域の確保

. . . . 11

4.2

位相余裕の確保

. . . . 13

4.3

ゲイン余裕の確保

. . . . 14

第

5

章 実機実験

17 5.1

制御対象

. . . . 17

5.2

実験条件

. . . . 17

5.3

設計結果

. . . . 23

第

6

章

HDD

のベンチマーク問題への適用

29 6.1

制御対象のモデル

. . . . 29

6.2

外乱のモデル

. . . . 31

6.3

性能評価

. . . . 32

6.4

設計条件

. . . . 32

6.5

設計結果

. . . . 35

第

7

章 結言

47

参考文献

49

(3)

謝辞

51

論文目録

52

(4)

第 1 章 緒言

1.1 研究の背景と目的

近年,外乱が存在する環境下や制御対象の特性変動が生じるシステムに対して高速・

高精度な制御が要求されている。そのようなシステムに対して所望の制御性能やロバ スト安定性を確保するような制御器が求められており,具体的な要求として制御帯域 や安定余裕といった指標が一般的に用いられている。そのため,制御対象の特性が変 動した場合においても決して安定性を失うことなくこれらの制御性能を保証する制御 系を構築することが必要である。

そして,このようなシステムに対してあらかじめ制御対象の数式モデルを構築し,構

築したモデル用いて様々な設計仕様に応じた制御器を設計するモデルベース制御器設

計法が広く用いられており,大きな成果を挙げている。とりわけ,上記のように環境の

変化などに伴って制御対象の特性が変動するような制御対象に対する制御手法として

H∞

制御や

µ

設計などのロバスト制御が主に用いられている。これらのロバスト制御手

法では数式モデルを用いることで外乱抑圧特性や制御対象の不確かさに対するロバス

ト性を評価できるという利点を有している。その反面,制御対象や制御対象の変動を

数式モデルで定義する必要があるため煩雑なシステム同定の過程が必須であり,設計

される制御器の次数は構築した数式モデルの次数に依存する。そのため,多共振系の

ような複雑な特性を持つ制御対象の場合,モデルの構築に多大な労力を必要とするだ

けでなく設計される制御器が高次数化するという問題を有するため,次数の固定され

た制御器のパラメータ調整を行うような手法が望まれている。しかしながら,固定次

数の制御器を設計する問題は非凸な最適化問題となり求解が困難な問題となることが

知られている。ここで,低次の制御器を実現するために高次のモデルに基づいて設計

された高次の制御器を低次元化する方法も考えられるが,低次元化された制御器が高

次の制御器が有していたような性能仕様を満足する保証は得られず,最悪の場合,制

御系が不安定化する可能性がある。また,制御対象をあらかじめ低次のモデルとして

構築し,そのモデルを用いて低次数の制御器を設計する方法も可能であるが,制御器

設計に有効な情報を含むような低次のモデルの構築は非常に困難である。さらに,一

(5)

第

1

章 緒言

般にシステム同定は入出力データに含まれる制御対象の情報の有限個のパラメータへ の情報圧縮と解釈できるため,このような数式モデルを用いた制御器設計法は間接的 な設計手法といえる。

これらを背景として

Karimi

らにより

Nyquist

線図上でロバスト性能条件を満たし,

かつ開ループ特性を望みの参照モデルに近似する固定次数制御器を,モデルを用いる ことなく制御対象の周波数応答のみを利用し,凸最適化により実現する制御器設計手 法が提案されている

[1]。この設計手法では煩雑な数式モデルの構築を回避できるため

従来伴っていたモデリングコストを削減でき,制御対象の変動時においても所望の制 御性能を達成することが可能となる。しかしながら,上記の制御器設計法は一般的な ロバスト制御手法と同様に規範となるノミナルモデルを設計者があらかじめ設計する 必要があるが,ノミナルモデルの設計手法には言及されておらずこの点において設計 者に試行錯誤が伴う。そして,設計したノミナルモデルに基づいて制御対象の変動を 不確かさとして導出するが,すべての周波数点においてこの不確かさが最小となるよ うなモデリングは非常に困難であり,一般に不確かさを低次のモデルで近似している。

これでは,不確かさを過度に見積もることとなり制御性能が保守的になることが知ら れており,文献

[1]

の設計手法の利点を十分に活かせているとは言い難い。

また,前述のように産業界では所望の制御性能と安定性を確保するために制御帯域 や位相余裕,ゲイン余裕といった満たすべき設計指標が与えられており,それらの指 標を満足するような制御器を設計する必要がある。しかし,従来のモデルベースでの 制御器設計手法ではこれらの指標を陽に考慮した制御器設計が困難で,設計される制 御器が所望の設計指標を満足するという保証は得られない。そこで,より詳細な制御 対象のモデリングや設計者による制御器の精巧な作りこみを行うことで,これらの指 標を満足するような制御器を設計している。そのため,設計者の経験や試行錯誤を伴 うため制御器設計が煩雑化するだけでなく,一意な制御器が得られないという問題が 生じる。

これらを背景に,本稿では

Karimi

らが提案した制御器設計手法が制御対象の周波数 応答のみを利用するという利点を活かし,制御系の乗法的不確かさが最小となるよう なノミナルモデルの設計手法を線形行列不等式

(LMI)

を用いて数値最適化問題に定式 化することにより試行錯誤を伴うことなくノミナルモデルの周波数応答を設計する手 法を提案し,設計者の労力の軽減と制御器設計時に伴う保守性の削減を行う。さらに,

所望の設計仕様を設計者の経験にかかわらず,確実に満たすような制御系を構築する

ために周波数応答を用いて表現できる

Nyquist

線図において所望の制御帯域,位相余

(6)

第

1

章 緒言

裕とゲイン余裕を評価し,これらを保証する制約式を導入する。さらに,所望の設計 仕様を設計者の経験にかかわらず,確実に満たすような制御系を構築するために周波 数応答を用いて表現できる

Nyquist

線図において所望の制御帯域,位相余裕とゲイン 余裕を評価し,これらを保証する制約式を導入する。そして,Karimi らが提案した制 御器設計法に提案する制約式を付加することにより凸最適化を用いて所望の設計仕様 を陽に考慮できる制御器設計手法を実現する。これにより,設計者によらず試行錯誤な く望みの設計指標を満たす制御器を簡易に設計することが可能となる。最後に,提案 する制御器設計手法を二慣性共振系実験装置に適用することで有効性を検証する。ま た,提案手法を文献

[6]

で示されているハードディスクドライブのベンチマーク問題に 適用することにより,提案手法の実システムへの適用可能性を示す。

1.2 論文の構成

本論文の構成は以下の通りである。まず,第

2

章で本研究の基盤となる文献

[1]

で提 案されている制御器設計法について述べる。そして,第

3

章で提案するノミナルモデ ルの設計法,第

4

章にて提案する各種の設計仕様を満たす

Nyquist

線図上における制 約を用いた制約式ついて述べる。第

5

章では,提案する制御器設計法を二慣性共振系 実験装置に適用し,第

6

章では,提案する制御器設計法をハードディスクドライブの ベンチマーク問題へ適用することで有効性を示し,提案手法の実システムへの適用可 能性を示す。そして,最後に第

7

章で本研究のまとめと今後の課題を述べる。

1.3 表記

本論文で用いられる表記を以下に示す。

• AT :

実数行列

A

の転置

• ∥A∥∞ : A

の

H∞

ノルム

• Re{A}: A

の実部

• Im{A} : A

の虚部

(7)

第 2 章 凸最適化による Nyquist 線図上 でのロバスト性能条件を満たす 制御器パラメータの導出

本章では,本研究の基盤であり,拡張の対象となる文献

[1]

にて提案されている周波 数応答を利用した固定次数制御器設計法について記す。

図

2.1

に示す乗法的不確かさを有する制御系において,ノミナル性能,ロバスト安 定性の条件はそれぞれ

(2.1),(2.2)

式で表されることが知られている。ここで,S(jω),

T(jω)

はそれぞれ制御系の感度関数,相補感度関数であり,W

1(jω),W2(jω)

はそれぞ れ感度を小さくしたい周波数帯を指定する重み関数,制御対象の乗法的不確かさを定 義する重み関数である。

|W1(jω)S(jω)|<1 ∀ω (2.1)

|W2(jω)T(jω)|<1 ∀ω (2.2)

このとき,制御対象の変動時においても安定性と所定の制御性能を保証する条件であ るロバスト性能条件は

(2.3)

式で表されることが知られている。

|W1(jω)|+|W2(jω)L(jω)|<|1 +L(jω)| ∀ω (2.3)

ここで,

L(jω)

は制御系の開ループ伝達関数であり

L(jω) =P(jω)C(jω)

とする。

(2.3)

式は

(2.4)

式における

γ = 1

の場合と等価であることが知られている。本研究では

γ

を

ロバスト性能水準として扱う。したがって,γ <

1

であれば

(2.3)

式のロバスト性能条 件が満たされることとなる。

∥|W1(jω)S(jω)|+|W2(jω)T(jω)|∥∞ < γ (2.4)

また,(2.3) 式の図的解釈は図

2.2

に示すように

Nyquist

線図上にて,それぞれ中心が

臨界点

(−1, j0)

と

Nyquist

線図上の点

L(jω),半径が|W1(jω)|

と

|W2(jω)L(jω)|

の円

(8)

第

2

章 準備

図

2.1:

乗法的不確かさに対する混合感度問題

る。そして,制御器の構造は固定され,(2.5) 式のように制御器パラメータ

ρ

に対して 線形に定義する。

C(jω) =ρTϕ(jω) (2.5)

ここで,産業分野で広く用いられている

PID

制御器もこのクラスに属する。

そのとき,あらかじめ定めた周波数点列

{ωk}

における開ループ特性

L(jωk)

は

(2.6)

式のように書ける。

L(jωk) = C(jωk)Pn(jωk)

= ρTϕ(jωk)Pn(jωk)

= ρTR(ωk) +jρTI(ωk) (2.6) Pn(jωk)

は制御対象のノミナルモデル,ρ

T = [ρ1

,

ρ2

,

. . .,ρn]

は

n

次元のパラメータベク トルであり,ϕ(s) = [ϕ

1(s),ϕ2(s),. . .,ϕn(s)]T

は

n

次元伝達関数ベクトルである。また,

R(ωk),I(ωk)

はそれぞれ

ϕ(jωk)Pn(jωk)

の実部と虚部である。そして,望みの閉ループ 特性

M(s)

を達成する周波数特性を有する開ループ伝達関数を

Ld(s) =M(s)/(1−M(s))

とし,Nyquist 線図上において,臨界点

(−1,j0)

と

Ld(jωk)

を結ぶ直線に垂直に交わる 円盤

1

の接線

α

を考える。そして,(2.3) 式のロバスト性能条件を,L(jω

k)

と

Ld(jωk)

を近づけることを前提として,円盤

2

が接線

α

が交わらないことと置き換えると,円 盤

2

と接線

α

との最近点

(x, jy)

が各周波数点

ωk

において

α

の下側に位置すればロバ スト性能条件が満たされることとなる。この接線

α

の方程式は

(2.7)

式で表される。

|W1(jωk)[1 +Ld(jωk)]| −Im{Ld(jωk)}y

−[1 +Re{Ld(jωk)}][1 +x] = 0 (2.7)

また,接線

α

と円盤

2

における円盤

2

上の最近点の座標は,それぞれ

(2.8)

式と

(2.9)

(9)

第

2

章 準備

図

2.2:

ロバスト性能条件の

Nyquist

線図における図的解釈 式で表される。

x=ρTR(jωk)− |W2(jωk)ρTϕ(jωk)Pn(jωk)|

×1 +Re{Ld(jωk)}

|1 +Ld(jωk)| (2.8)

y=ρTI(jωk)− |W2(jωk)ρTϕ(jωk)Pn(jωk)|

×Im{Ld(jωk)}

|1 +Ld(jωk)| (2.9)

そして,各周波数点

ωk

において円盤

2

が接線

α

の下側に存在する制約式は

(2.7),

(2.8),(2.9)

式より

(2.10)

式と書ける。

|W1(jωk)[1 +Ld(jωk)]| −Im{Ld(jωk)}ρTI(jωk) +|W2(jωk)ρTϕ(jωk)Pn(jωk)[1 +Ld(jωk)]|

−[1 +Re{Ld(jωk)}][1 +ρTR(jωk)]<0 (2.10)

そして,

(2.10)

式の制約の下で

|L(jω )−L (jω )|

の最大値を最小化する

ρ

を求める以

Im 

Re 

I W

2

( j

ω

k ) L ( j

ω

k )  

I 

(10)

第

2

章 準備

下の凸最適化問題を解くことで制御器パラメータ

ρ

を導出する。

minρ max

k |ρTϕ(jωk)Pn(jωk)−Ld(jωk)| subject to

|W1(jωk)[1 +Ld(jωk)]| −Im{Ld(jωk)}ρTI(jωk) +|W2(jωk)ρTϕ(jωk)Pn(jωk)[1 +Ld(jωk)]|

−[1 +Re{Ld(jωk)}][1 +ρTR(jωk)]<0

for k= 1,· · ·, N (2.11)

(2.11)

式より,制御対象の変動時においても安定性と制御性能を保証する固定次数の

制御器を設計できる。本手法では下記に示すような問題はあるが,実際に高次なもの となり得る制御対象に対して次数など制約を持つ制御器構造の下で最適化を施すため,

直接的に安定性と制御性能を保証する制御器を設計することが可能となる。本手法で は設計者が周波数点列

{ωk}

を定義し,離散的に定義されている各周波数点

ωk

に対し てロバスト性能条件を近似した制約を連立させることで制御器パラメータを導出する。

したがって,厳密な意味でのロバスト性能条件を満たしているとは言い難い。しかし ながら,近年の計算機能力の向上に伴い,周波数点数

ωk

を増加させ十分細かい間隔で 制約式を評価することが可能となるため,実用上では十分な制御性能を得ることが可 能であると考えられる。一方で,上記の問題は利点ともなりえる。すなわち,ノミナ ルモデル

Pn

や制御対象の乗法的不確かさ

W2

は,各周波数点

ωk

における周波数応答 のみを取得すれば良いため,これらを連続的な数式モデルの形で定義する必要がない。

したがって,モデルベースでの制御器設計にあたって必要となる煩わしいモデリング や,不確かさの過度な見積もりに起因する保守性を回避することも可能となる。また,

W1

についても伝達関数で定義する必要がないため, 「

△△rad/sec

から

22rad/sec

ま

での感度関数のゲインを

⃝⃝dB

以下にしたい」といった設計仕様に対しても柔軟に

対応できるといった利点を有している。

(11)

第 3 章 ノミナルモデル P n の設計法

本章では,制御器設計時に伴う保守性を削減するために乗法的不確かさが最小とな るようなノミナルモデルの設計法について述べる。

モデルベース制御器設計法におけるロバスト制御手法では特性変動を有する制御対 象に対して,制御対象の特性変動を評価するための規範となるノミナルモデル

Pn

と

Pn

を用いて評価した制御対象の不確かさ

W2

を数式モデルとして表現する必要がある。

制御対象の不確かさは

Pn

に依存することが知られており,制御器設計時に伴う保守性 を低減するためには不確かさ

|W2(jω)|

を最小化するような

Pn

を得ることが望ましい。

しかしながら,W

2

の正確なモデリングは困難であり,一般に不確かさを余分に見積 もった低次のモデルで近似するため制御性能が保守的になることが知られている。仮 に,|

W2(jω)|

が最小となるような

Pn

が得られたとしても高次数の複雑なモデルとなる ことが予想され,制御器次数の増加につながる。一方,2 章で述べた手法では周波数 応答のみを利用するため

Pn

を数式モデルで表現する必要がなく,各周波数点において

|W2(jωk)|

を最小とするような

Pn(jωk)

が得られればよい。しかしながら,現在までに 制御対象の不確かさ

W2

を最小とするようなノミナルモデル

Pn

の設計法に対しては言 及されておらず,2 章で述べた「周波数応答のみを利用する」という利点を十分に活か しているとはいえない。この不確かさ

W2

を

Nyquist

線図上で表現すると,各周波数点 においてノミナルモデル

Pn

を中心したすべての変動モデル

Pi

を包括する半径

W2

の円 盤として考えられることが知られている。そのため,実際に図

3.1

に示すように

Pn

が 異なれば,変動モデルを包括する不確かさ

W2

も当然変化する。ロバスト性能の観点 から,|

W2(jω)|

が小さい方が制御性能の保守性の改善につながることは明らかであり,

取得した変動モデルの周波数応答データから適切といえる

Pn

と

W2

の設計を行うこと が望ましい。

そこで,以下に述べる最適化問題を解くことで不確かさを最小とするノミナルモデ

ルの周波数応答

Pn(jωk)

を設計する。乗法的不確かさを有する制御系において,ある

周波数点

ωk

におけるノミナルモデル

Pn

の周波数応答を改めて

Pn(jωk),m

種の変動

モデルの周波数応答を

Pi(jωk) (i= 1,· · ·, m),乗法的変動のゲイン|W2(jωk)| ≡η

と定

(12)

第

3

章 ノミナルモデル

Pn

の設計法

図

3.1: Nyquist

線図における不確かさ

W2

義する。このとき,ω

k

における乗法的変動のゲインは

(3.1)

式を満たす必要がある。

Pi(jωk)−Pn(jωk) Pn(jωk)

< η (3.1)

for i= 1,· · ·, m

したがって,この

η

を最小にするような

Pn(jωk)

を求める問題を考えることとなる。

まず,P

i(jωk),Pn(jωk)

を,以下のようにそれぞれ複素平面上の点として考える。

Pi(jωk) = xi+jy, Pn(jωk) = xn+jyn

そして,ベクトル

ai

,

z

を

(3.2)

式のように定義する。

ai = [

xi yi

] , z =

[ xn yn

]

(3.2)

そして,(3.2) 式を用いて

(3.1)

式の両辺を

2

乗することで

(3.3)

式を得る。

(ai−z)T(ai−z)< η2zTz (3.3) for i= 1,· · ·, m

さらに,(3.3) 式を整理することで

(3.4)

式を得る。

aTiz+zTaTi −aTi ai−(1−η2)zTz>0 (3.4) for i= 1,· · ·, m

(13)

第

3

章 ノミナルモデル

Pn

の設計法 そして,(3.4) 式において

δ ≡ 1/√

1−η2

とおき,Schur complement を適用すること

により

(3.5)

式に示す線形行列不等式

(LMI)

として表現できる。

[

δ2I z

zT aTiz+zTai−aTi ai ]

>0 (3.5)

for i= 1,· · ·, m

その結果,P

n(jωk)

の設計問題は

(3.6)

式のように乗法的変動のゲインを最小化する

z

を求める最適化問題として定式化できる。

minδ2 subject to [

δ2I z

zT aTiz+zTai−aTi ai ]

>0 (3.6)

for i= 1,· · ·, m

(3.6)

式の最適化問題をすべての周波数点

ωk

について解き,得られた

z

から

Pn(jωk)

を,

最小化された

δ2

から最小となる

|W2(jωk)|

を導出することができる。

このように離散的に得られた

Pn(jωk),|W2(jωk)|

を用いることで,制御器設計時に生

じる保守性の削減を実現する。提案手法では

2

章で示した制御器設計法と同様に制御

対象の周波数応答がのみを利用するため,制御器設計のために取得した周波数応答を

直接ノミナルモデル

Pn

の設計に利用できる。そのため,

Pn

の設計のために新たなデー

タの取得を必要せず,なおかつ乗法的不確かさ

W2

を最小化できるため

2

章で示した制

御器設計法の利点を大いに活用できているといえる。また,数値最適化により

Pn(jωk)

を設計するため,煩雑なモデリングを回避でき,制御器設計に伴う労力を大いに削減

できる点も大きな利点である。

(14)

第 4 章 制御仕様を保証する性能制約

2

章で述べた手法が制御対象の周波数応答のみを利用するという利点を用いて,周波 数応答を用いて評価できる

Nyquist

線図上において所望の制御帯域,位相余裕,ゲイ ン余裕の

3

点の設計仕様を保証する制約式を提案する。

4.1 制御帯域の確保

ハードディスクドライブのように高速な動作が必要となる制御対象では速応性の観 点から所定の制御帯域を有する必要があることが知られている。ここで,制御帯域と は開ループ伝達関数

L(jω)

のゲインが

0 dB

となる周波数として定義される。これは

Nyquist

線図上で表現すると図

4.1

に示すように開ループ伝達関数

L(jω)

の軌跡が原点

を中心とする単位円と交差する点における周波数に対応する。そこで,2 章で述べたよ うに望みの開ループ伝達関数

Ld(jω)

と

L(jω)

を近づけることを前提とし,所望の制御 帯域以下の周波数帯において

L(jω)

の軌跡が原点を中心とする単位円の外側に存在す るような制約式を課すことにより所望の制御帯域を確保することを考える。

図

4.1

に示すように

Ld(jωk)

と原点を結ぶ直線を考え,その直線に直交する原点を中 心とする単位円の接線

β

を考える。そして,L

d(jω)

と原点を中心とする単位円との交 点を接線

β

を用いて近似すると,所望の周波数点

ωx

において

L(jωx)

の座標が接線

β

の下側に存在するのであれば望みの制御帯域が確保できる。ここで,各周波数点

ωk

に おける接線

β

の方程式は

(4.1)

式で表される。

Im{Ld(jωk)}+ tan ΦRe{Ld(jωk)}+ 1

cosθ = 0 (4.1)

ここで,接線

β

が実軸となす角度

Φ

は

(4.6)

式で表される。

Φ = tan−1 Re{Ld(jωk)}

Im{Ld(jωk)} (4.2)

そして,開ループ伝達関数を

(2.6)

式のように定義すると,

L(jωk)

と接線

β

間の距離

d

は

(4.3)

式と書ける。

d= sin ΦρTR(ωk) + cos ΦρTI(ωk) + 1 (4.3)

(15)

第

4

章 制御性能を確保する性能制約

図

4.1: Nyquist

線図上での制御帯域

ここで,L(jω

k)

が

Nyquist

線図上において接線

β

の下側に存在するためには接線

β

を 基準として

d≤0

となればよい。したがって,周波数点

ωk

において

L(jωk)

が

β

の下側 に存在するような制約式は

(4.3)

式を整理することにより,(4.4) 式となる。

ρT[sin ΦR(ωk) + cos ΦI(ωk)]≤ −1 (4.4)

周波数点列

{ωk}

における所望の制御帯域となる周波数点

ωx

より低い周波数点におい

て

(4.4)

式が満たされるのであれば所望の制御帯域を確保できる。したがって,望みの

制御帯域を確保するような制約は

(4.5)

式と定式化できる。

ρT[sin ΦR(ωk) + cos ΦI(ωk)]≤ −1 for ωk ≤ωx (4.5)

(4.5)

式の制約を満たすことにより望みの制御帯域を確保できる。

(4.5)

式から分かるよ

うに制約式は制御対象の周波数応答のみを利用するため,たとえ変動を有する制御対 象であっても,各変動モデルの周波数応答に対して

(4.5)

式を連立して評価することに よりすべての変動モデルに対する制御帯域の確保が可能となる。

L ( j ω k ) ;  

1m 

〆,.

‑ " ,   IRe 

/ 

; 1 0  

/ 

(16)

第

4

章 制御性能を確保する性能制約

図

4.2: Nyquist

線図上での位相余裕

4.2 位相余裕の確保

一般に制御系のロバスト性を向上させるために安定余裕を確保することが望まれてい る。この安定余裕を定量的に評価する指標の一つとして位相余裕が用いられている。そ のため,制御対象の特性変動を有するような対象に対しては所定の位相余裕を有するこ とにより特性変動に対するロバスト性を確保することが望まれる。位相余裕を

Nyquist

線図上で表現すると,図

4.2

に示すように開ループ伝達関数

L(jω)

が原点を中心とす る単位円と交差する周波数点

ωx

において

L(jωx)

と原点を結ぶ直線と実軸のなす角度

θ

と定義される。すなわち, 「どれだけ開ループの位相が遅れると制御系が不安定になる か」ということを示す値といえる。したがって,L(jω) を

(2.6)

式として考えると,位 相余裕

θ

は

(4.6)

式で表される。

θ = tan−1 ρTI(ωk)

ρTR(ωk) (4.6)

ここで,所望の

θ

以上の位相余裕を確保することと考えると

(4.6)

式より

(4.7)

式と書 ける。

tan−1 ρTI(ωk)

ρTR(ωk) > θ (4.7)

L ( j ω )  : 

1m 

, , , , ー 、 、

(17)

第

4

章 制御性能を確保する性能制約

そして,(4.6) 式を整理することにより

(4.8)

式を得る。

tanθ > ρTI(ωk)

ρTR(ωk) (4.8)

ここで,tan

θ ≡ε

とすると,(4.8) 式は

(4.9)

式として書ける。

ε > ρTI(ωk)

ρTR(ωk) (4.9)

さらに,(4.9) 式を整理することで

(4.10)

式を得る。

ρTI(ωk)−ερTR(ωk)<0 (4.10)

(4.10)

式の制約を

(4.4)

式で指定した所望の制御帯域となる周波数点

ωx

にて評価する

ことにより望みの位相余裕を確保できる。したがって,位相余裕を確保するための制 約式は

(4.11)

式となる。

ρT[I(ωx)−εR(ωx)]<0 (4.11)

(4.11)

式の制約も同様に制御対象の周波数応答のみを利用しているため,制御対象

の数式モデルを利用せず,確保したい位相余裕を設計者が指定することにより試行錯 誤なく位相余裕を確保できる。また,制御対象の特性変動が生じる場合においても同 様に各変動モデルに対して

(4.11)

式の制約を課すことによりすべての変動モデルに対 して位相余裕の確保が可能となる。

4.3 ゲイン余裕の確保

ゲイン余裕も前節の位相余裕と同様に制御系のロバスト性を向上させる指標として

広く用いられている。このゲイン余裕

GM

を

Nyquist

線図上で表現すると,図

4.3

に示

すように開ループ伝達関数

L(jω)

の軌跡が実軸と交わる周波数点におけるゲインの逆

数として定義される。すなわち, 「どれだけ開ループのゲインを増やすと制御系が不安

定なるか」ということを示す値である。そこで,図

4.3

に示すようにゲイン余裕を確保

するために単位円上において前節で指定するような望みの位相余裕

θ

を定義する直線

と交差し,実軸と交差する際に臨界点

(−1, j0)

から任意の距離

l

を有するような直線

ζ

を考える。そして,

L(jω)

が実軸と交差する際に直線

ζ

の下側に存在するようであれば

望みのゲイン余裕を確保できるといえる。ここで,位相余裕を定義する直線が単位円

(18)

第

4

章 制御性能を確保する性能制約

図

4.3:

ナイキスト線図上でのゲイン余裕

と交差する際の座標は

(−cosθ,−sinθ)

であり,簡単化のためにそれぞれ

(Cx, Cy)

とす ると直線

ζ

の方程式は

(4.12)

式となる。

Cy

Cx−l+ 1x−y+ Cy[1−l]

Cx−l+ 1 = 0 (4.12)

開ループ伝達関数

L

を

(2.6)

式のように定義し,L(jω) が実軸と交差する点を直線

ζ

が 実軸と交差する点

i2

として近似すると,近似点

i2

と

L(jωk)

間の距離

d2

は

(4.13)

式と 書ける。

d2 = Cy

Cx−l+ 1ρTR(jωk)−ρTI(jωk) + Cy[1−l]

Cx−l+ 1 (4.13)

ここで,

L(jω)

が

Nyquist

線図上において直線

ζ

の下側に存在するためには直線

ζ

を基 準として

d2 ≥0

となればよい。したがって,周波数点

ωk

において

L(jωk)

が直線

ζ

の 下側に存在するような制約式は

(4.14)

式と書ける。

ρT[Cx−l+ 1

Cy I(jωk)− R(jωk)] +l≤1 (4.14)

よって,制御帯域

ωx

以上の高周波において

(4.14)

式が満たされるのであれば所望のゲ イン余裕を確保できる。したがって,望みのゲイン余裕を確保する制約は

(4.15)

式と

1m 

0 ,  ‑ j 1 )  

(19)

第

4

章 制御性能を確保する性能制約 書ける。

ρT[Cx−l+ 1

Cy I(jωk)− R(jωk)] +l≤1

for ωx ≤ωk (4.15)

(4.15)

式の制約を満たすことでゲイン余裕を確保することが可能となる。ここで,実軸

上における臨界点

(−1, j0)

からの距離

l

は望みのゲイン余裕を

GMd

として,(4.16) 式 より導出するものとする。

l= 1−10−GMd20 (4.16)

このように,制約式を制御器パラメータρに線形に記述し,制御器設計に用いる最適 化問題に付加することにより望みのゲイン余裕を達成する制御器を簡易に設計できる。

また,(4.15) 式の制約も同様に制御対象の周波数応答のみを利用しており,煩雑なモデ リングを要することはない。そして,望みのゲイン余裕を設計者が指定することによ り制御器を設計でき,制御器設計に試行錯誤が伴わない点も大きな利点である。同様 に変動を有する制御対象に対しても,各変動モデルに対して連立して

(4.15)

式の制約 を評価することですべての変動モデルに対して望みのゲイン余裕を確保できる。

本章で示した

3

種の制約式により所望の制御帯域,位相余裕,ゲイン余裕を確保で

きる。そして,これらの制約式を

(2.11)

式に示す凸最適化問題に付加する。したがっ

て,凸最適化を用いて簡易に要求を満たす制御器パラメータの導出が行える。それに

より,これらの要求を満たす制御器設計に伴っていた高精度なモデルの構築や制御器

の精巧な作りこみを回避でき,設計コストの大幅な削減が期待される。

(20)

第 5 章 実機実験

本章では,二慣性共振系実験装置に対して周波数応答を取得し,提案手法により制 御器を設計する。また,ロバスト制御手法の一つである

H∞

制御器設計法と実機実験 を通して比較することで提案手法の有効性を示す。

5.1 制御対象

実験で用いる二慣性共振系実験装置とその模式図それぞれ図

5.1,5.2

に示す。この 実験装置はプーリと負荷ディスク間がバネ特性を持つフレキシブルベルトにより連結 されており,バネによる復元力が駆動ディスクに影響し,共振を持つシステムとなって いる。また,フレキシブルベルトを取り外した場合を共振を持たない剛体モデルとし て扱うことができる。さらに,駆動ディスクと負荷ディスクに付けられた錘の位置や 数により共振周波数が変化するシステムとなっている。

本実験では,周波数応答法

[4]

を利用し,制御入力を駆動ディスクに接続されたモー タへの電圧

v

とし

Tc = 100 sec

間で

fmin = 0.1 Hz

から

fmax = 100 Hz

まで周波数が連 続的に変化するサインスイープ信号

v(t)

を与えた。入力したサインスイープ信号

v(t)

は

(5.1)

式であり,振幅

A= 10V

とした入力を与えた。

v(t) = Asin 2π[fmax−fmin

Tc t+fmin]t (5.1)

そのとき,剛体モデルに加えて錘位置を変化させた計

5

通りの変動モデルを取得するも のとする。入力したサインスイープ信号

v(t)

とその出力応答

θ(t)˙

をそれぞれ図

5.3,5.4

に示す。 図

5.3,5.4

に示す入力

v(t),出力θ(t)˙

から制御対象の周波数応答を

MATLAB System Identification Toolbox

を利用して取得する。取得した制御対象の周波数応答を 図

5.5

に示す。

5.2 実験条件

ノミナルモデル

Pn(jωk)

の設計に用いる周波数応答は図

5.5

に示す

5

通りの変動モデ

ルから得るものとする。図

5.6, 5.7

にこれらの変動モデルに対して提案手法を適用し設

(21)

第

5

章 実機実験

図

5.1:

二慣性共振系実験装置

Load Disk

Pulleys Belt Flexible Belt

Drive Disk

& Drive Motor Load Weight

図

5.2:

二慣性共振系実験装置の模式図

(22)

第

5

章 実機実験

図

5.3:

制御入力

v(t)

図

5.4:

制御出力

θ˙

図

図 5.2: 二慣性共振系実験装置の模式図
図 5.3: 制御入力 v(t)
図 5.12: ロバスト性能条件 | W 1 S | + | W 2 T | の周波数応答
図 5.13: 変動モデルに対する Nyquist 線図
+7

参照

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