自己組織化マップによる農村観光の動機分析
―安曇野市を事例として―
Motivation Analysis of Rural Tourists Using Self-Organizing Map:
A Case Study of Azumino, Japan
杉本興運
*・ 飯塚 遼
**Koun Sugimoto Ryo Iizuka
I.はじめに
農山村地域は農産物の栽培の他に,環境保全や観光 レクリエーションを提供する場として機能している。
特に,農山村で展開される観光形態の全般はルーラル ツーリズムと定義され(Sharpley and Sharpley 1997), 社会や経済の活性化に寄与する産業の1つとして,長 らく注目されてきた(菊地 2008)。ルーラルツーリズ ムは,需要サイドである観光客と供給サイドである地 域の交流という側面でも重要な役割を果たし,都市と 農村の交流を推し進め,社会文化の発展や農村の多機 能性を促進する上で重要な鍵を握っている(Sharpley 2002; 大橋 2002)。
観光という現象は,端的に言えば地域と人間行動の 相互作用によって成り立ち,また時代と共に変化して いく社会・経済的な現象であり,ルーラルツーリズム もその例外ではない。観光現象を解明するという立場 においては,観光を推進する地域の基盤形態と観光を する人間の行動特性の双方の側面が研究対象となって きた。観光者の行動に関する学術研究では,主に心理 学や人文地理学によって研究が進められており,観光 者の意思決定や現地での行動パターンが研究対象とな っている。そして,数ある研究アプローチのなかでも,
本研究では観光者の動機(motivation)に着目する。
1.1 観光動機
潜在的な旅行者がある目的をもって観光行動に移ろ うとするとき,そこには行動の原因となるべき動機が 介在する。その動機を観光動機として言い換えると,
観光動機の強さや内容に従って,観光行動が引き起こ 摘 要
農山村の社会・経済の発展や地域の多機能性を促進する上で観光業は重要な機能を担ってきた。本研究は農 村地域で展開されるルーラルツーリズムに焦点を当て,そこを訪れる観光客の行動的側面を分析すること で,ルーラルツーリズムの実態を把握することを目的とする。場所は長野県安曇市を事例とし,穂高駅前の 観光案内所を訪れた観光客に対し,観光動機に関するアンケートをとった。観光動機とはPull(誘因)要因
とPush(発動)要因という概念から捉えることが可能である。Pull要因として安曇野の観光資源に対する期
待を20項目,Push要因として旅行の行動心理に関する項目を10個設定し,それぞれ7段階評価してもらっ た。分析方法として,自己組織化マップ(SOM:Self- Organizing Map)を利用した。これは,高次元データを より低次元空間へ非線形射影する手法であり,データのクラスタリング結果が可視化できる。データ平均値 の順位グラフとSOMを併用し,全体と局所の両構造およびデータ項目間の関連性をみた。その結果,安曇 野を初めて訪れた観光客と再来訪客のいずれも,安曇野の自然景観や農村景観に出会うことでの癒しを求め ていることがわかった。逆に,観光動機の因子として最も寄与が低かったものは,農場体験やお祭りであっ た。そして,温泉,食事,ショッピングのPull要因は初来訪客と再来訪客のどちらの場合にも強い関連性を 示していたため,観光動機の形成過程においてこれらが共通の認識レベルに置かれていることが示唆され た。
*首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域 日本学術振興会特別研究員
〒192-0397東京都八王子市南大沢1-1 (9号館) e-mail [email protected]
**首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域
され,またその方向づけがなされていく(佐々木 2007)。 観光動機の形成に関しては,Push要因(誘因要因)と Pull要因(発動要因)という2つの要因が関連してい るという見方で捉えることができる(Crompton 1979;
Crompton and McKay 1997)。Push要因とは人々を旅行 に駆り立てる認知過程であり,欲望である。Pull要因 とは人々を観光地へと惹きつける要因であり,観光目 的地の特性に関係するものである。Push 要因と Pull 要因はそれぞれ単一なものではなく,複数の要因を含 み,またそれらが絡み合っていると考えられる。した がって,Push要因とPull要因の中でもどのような心理 的要因が大きく影響しているのか,またそれら複数要 因がどのような関連性を持っているのかを明らかにす ることが観光動機の把握に必要となる。
1.2 先行研究
観光動機の研究は社会心理学的な研究が多い。林
(2011)は, 全国単位での観光行動に関するアンケー ト結果から,年齢階級別の観光行動の促進・阻害要因に ついて明らかにした。Bansal and Eiselt(2004)はカナ ダ人の観光動機と旅行計画プロセスの関係を分析した。
葛西ほか(2010)は,台湾人学生の国際観光の目的地決 定プロセスを明らかにした。こういった全国規模のデ ータの分析や旅行の計画行動に関する研究は,旅行者 の行動モデルの一般化という過程において重要である。
しかし,観光の嗜好が多様化した現代では,目的地の 特性や営まれる観光形態によって観光客層が様々に異 なるため,特定の観光形態における観光動機の研究の 蓄積も必要である。実際,都市のアミューズメントパ ークでの遊戯やショッピングが主な目的の観光旅行と,
自然環境におけるレクリエーション体験を主な目的と した観光旅行では,観光地の資源や予定した観光活動 に対して抱く期待の性格が異なることは,経験的に想 像がつくだろう。
潜在的な観光者は自身が抱いている活動欲求に応じ た観光目的地を選択するが(Moscardo et. al. 1996),こ のことは観光目的地に対し自身の観光欲求の充足を期 待していることの表れであるとも言える。したがって,
実務的観点からみれば,観光客の観光目的地に対する 現状の期待などの意識を知ることは,地域の観光マー ケティングや観光計画の意思決定において有用である。
また,目的地のイメージが潜在的な観光者に対して観 光動機を誘発する要因になる場合も多く(Baloglu and McCleary 1999; Jenkins 1999; Tapachai and Waryszak
2000),それによって動機や興味の似た観光客層が集ま
り,結果として特徴的な観光形態の形成や維持がなさ れるといった構図が存在することが考えられる。した がって,ある特徴的な観光形態が営まれている地域範 囲を対象とし,観光客がどういった動機をもって訪れ ているのかを明らかにすることで,その観光形態の定 義付けや理解の深化に対して有用な知見を提供できる。
従来のルーラルツーリズムにおける観光動機の研究 では,観光客のタイプを社会背景や観光目的によって セグメンテーションしたものなどがある(Frochot 2005; Park and Yoon 2009; Devesa, et al. 2010 )。しかし 実際のところ,観光動機の研究を含め,ルーラルツー リズムにおける行動研究は大変少ないのが現状である
(Park and Yoon 2009)。
1.3 研究の目的
以上のことをふまえ,本研究ではルーラルツーリズ ムの実態把握の一方策として,特に観光者の内面であ る動機を分析し,その特徴を明らかにする。
まず,Ⅱ章で調査対象地域の概要および選定理由を 説明する。Ⅲ章では,現地における具体的な調査手法 と,データ解析手法の特徴を説明する。本研究では特 に,自己組織化マップ(SOM: Self-Organizing Map)と いう多変量データに対する比較的新しいデータマイニ ング手法を用いる。Ⅳ章ではデータの分析の結果を述 べ,Ⅴ章で分析結果についての考察を行い,最後にⅥ 章で研究全体の結論を述べる。
Ⅱ.研究対象地域の特徴
2.1 研究対象地の選定
本研究ではルーラルツーリズムを研究対象の領域と しており,それにふさわしい地域の選定が必要である。
選定の基準としては,1)農村地域という性格が強いこ と,2)観光地としての知名度が高いこと,とした。1)
については,前章で述べたようにルーラルツーリズム が農村で行われる観光全般であるという定義から,必 須条件であろう。2)の知名度が高いことについては,
一定以上の知名度があれば,観光地としての成熟がみ られ,観光客層が比較的安定している可能性があると 考えたためである。ルーラルツーリズムの行動的研究 が少ない現在の状況では,観光客層に一定以上の安定 性がある地域で調査を行った方が,観光形態の理解を 深めるという点において望ましいだろう。以上の基準 を考慮した結果,長野県安曇野市の穂高地区を中心と した地域を,調査対象地として選定した。次節から地
域の概要を述べる。
2.2 長野県安曇野市の概要
長野県の北西部,松本盆地の中央部に位置する安曇 野市は,2005年に豊科町,穂高町,明科町,三郷村,
図1 安曇野市と穂高地区の位置
堀金村の5町村が合併したことによって誕生した市で ある(図1)。南は長野県の商業中心地である松本市に,
北は黒部渓谷をはじめとする北アルプスの山岳観光の 玄関口である大町市や池田町,松川村に接している。
また,市の東西は山地に囲まれており,西側は燕岳や 常念岳といった 3,000m 級の山々がそびえる北アルプ ス連峰,東側は筑摩山地である。市域の大部分は,北 アルプスの山々を源流とする梓川や中房川,烏川など によって形成された複合扇状地上にあり,犀川低地に 向かってなだらかな西高東低の地形となっている。
2010年の国勢調査によると,人口は96,479人,34,185 世帯が居住している。近年では,北アルプスの清らか な山並みを背景とした安曇野の農村景観や都会の喧騒 から離れた農村での生活を求めて,市外の都市から人 口が流入してきており,人口は増加傾向にある。
2.3 観光の動向
安曇野市における観光の特徴は,地形的観点からみ て大きく3つに分けられる(上野・井田 1984)。1つ 目は,市域の西側,山岳部における北アルプス登山と 山岳温泉観光である。とりわけ,穂高地区の燕岳から
大天井岳を通って槍ヶ岳に抜ける登山道は、「アルプス 銀座」として知られ,燕岳の登山口にある中房温泉に 一泊して登るのが定番のコースとなっている。2010年 には約5万人の観光客が,アルプス銀座や中房温泉を 訪れている(図2)。
2つ目は,山麓部における高原リゾート観光である。
山麓を南北に貫く県道25号線沿いには,別荘地とペン ション,ホテルなどが建ち並び,それに付随してレス トランやカフェも多く立地している。主な観光施設と しては,三郷地区と堀金地区にまたがる国営アルプス あづみの公園があるほか,三郷地区の室山アグリパー ク,堀金地区の須砂度渓谷といった自然を楽しむもの が多い。また,この地域の観光施設は距離的に離れて 分布しているため,主に自動車を利用する観光客が多 い。
3 つ目は,穂高駅周辺の扇端部におけるワサビ田や 道祖神を巡る観光である。穂高地区の扇端部では,明 治時代より湧水を利用したワサビ栽培が盛んである。
なかでも大王わさび農園は穂高地区では最大の観光施 設であり,ワサビ漬けなどを販売する土産物店やワサ ビを使った料理を出すレストラン,観光バス用の大型 駐車場などを完備し,全国から多くの観光客が訪れて いる(図2)。また,大王わさび農園内には2011年に 放送されたNHK連続テレビ小説「おひさま」の撮影 セットが残されており,こちらも1つの観光資源とな っている。さらに,この地域には道祖神のほかに,東 光寺や等々力家といった文化的資源も多く立地してい る。穂高駅周辺には3軒のレンタサイクル店が立地し ており,この地域の観光客の多くがそのレンタサイク ルを利用している。
以上のように、安曇野市における観光は山岳部と山 麓部、扇端部によって性格が異なっている。しかし,
最近10年間の地区別入込観光客数の推移をみると(図 3)、穂高地区が他の4地区に比べて圧倒的に高くなっ ており,図2の主要観光施設についても穂高地区の観 光施設が多いことから,穂高地区に観光資源が偏在し ていることがわかる。そのような傾向は,2005年の町 村合併以降さらに強まっている。そのことは,合併に よって一つの市になったことによって,旧町村の地区 それぞれが機能分化し,穂高地区が観光地域としての 機能を強められたことによるものと考えられる。また,
地域名である「安曇野」が市の名前になったことで,
「安曇野」に対する一般の認知が高まったことも要因 の一つであると考えられる。しかしながら,観光客の 多くは,レンタサイクルで観光施設を巡る日帰り観光 され,またその方向づけがなされていく(佐々木 2007)。
観光動機の形成に関しては,Push要因(誘因要因)と Pull要因(発動要因)という2つの要因が関連してい るという見方で捉えることができる(Crompton 1979;
Crompton and McKay 1997)。Push要因とは人々を旅行 に駆り立てる認知過程であり,欲望である。Pull要因 とは人々を観光地へと惹きつける要因であり,観光目 的地の特性に関係するものである。Push 要因と Pull 要因はそれぞれ単一なものではなく,複数の要因を含 み,またそれらが絡み合っていると考えられる。した がって,Push要因とPull要因の中でもどのような心理 的要因が大きく影響しているのか,またそれら複数要 因がどのような関連性を持っているのかを明らかにす ることが観光動機の把握に必要となる。
1.2 先行研究
観光動機の研究は社会心理学的な研究が多い。林
(2011)は, 全国単位での観光行動に関するアンケー ト結果から,年齢階級別の観光行動の促進・阻害要因に ついて明らかにした。Bansal and Eiselt(2004)はカナ ダ人の観光動機と旅行計画プロセスの関係を分析した。
葛西ほか(2010)は,台湾人学生の国際観光の目的地決 定プロセスを明らかにした。こういった全国規模のデ ータの分析や旅行の計画行動に関する研究は,旅行者 の行動モデルの一般化という過程において重要である。
しかし,観光の嗜好が多様化した現代では,目的地の 特性や営まれる観光形態によって観光客層が様々に異 なるため,特定の観光形態における観光動機の研究の 蓄積も必要である。実際,都市のアミューズメントパ ークでの遊戯やショッピングが主な目的の観光旅行と,
自然環境におけるレクリエーション体験を主な目的と した観光旅行では,観光地の資源や予定した観光活動 に対して抱く期待の性格が異なることは,経験的に想 像がつくだろう。
潜在的な観光者は自身が抱いている活動欲求に応じ た観光目的地を選択するが(Moscardo et. al. 1996),こ のことは観光目的地に対し自身の観光欲求の充足を期 待していることの表れであるとも言える。したがって,
実務的観点からみれば,観光客の観光目的地に対する 現状の期待などの意識を知ることは,地域の観光マー ケティングや観光計画の意思決定において有用である。
また,目的地のイメージが潜在的な観光者に対して観 光動機を誘発する要因になる場合も多く(Baloglu and McCleary 1999; Jenkins 1999; Tapachai and Waryszak
2000),それによって動機や興味の似た観光客層が集ま
り,結果として特徴的な観光形態の形成や維持がなさ れるといった構図が存在することが考えられる。した がって,ある特徴的な観光形態が営まれている地域範 囲を対象とし,観光客がどういった動機をもって訪れ ているのかを明らかにすることで,その観光形態の定 義付けや理解の深化に対して有用な知見を提供できる。
従来のルーラルツーリズムにおける観光動機の研究 では,観光客のタイプを社会背景や観光目的によって セグメンテーションしたものなどがある(Frochot 2005; Park and Yoon 2009; Devesa, et al. 2010 )。しかし 実際のところ,観光動機の研究を含め,ルーラルツー リズムにおける行動研究は大変少ないのが現状である
(Park and Yoon 2009)。
1.3 研究の目的
以上のことをふまえ,本研究ではルーラルツーリズ ムの実態把握の一方策として,特に観光者の内面であ る動機を分析し,その特徴を明らかにする。
まず,Ⅱ章で調査対象地域の概要および選定理由を 説明する。Ⅲ章では,現地における具体的な調査手法 と,データ解析手法の特徴を説明する。本研究では特 に,自己組織化マップ(SOM: Self-Organizing Map)と いう多変量データに対する比較的新しいデータマイニ ング手法を用いる。Ⅳ章ではデータの分析の結果を述 べ,Ⅴ章で分析結果についての考察を行い,最後にⅥ 章で研究全体の結論を述べる。
Ⅱ.研究対象地域の特徴
2.1 研究対象地の選定
本研究ではルーラルツーリズムを研究対象の領域と しており,それにふさわしい地域の選定が必要である。
選定の基準としては,1)農村地域という性格が強いこ と,2)観光地としての知名度が高いこと,とした。1)
については,前章で述べたようにルーラルツーリズム が農村で行われる観光全般であるという定義から,必 須条件であろう。2)の知名度が高いことについては,
一定以上の知名度があれば,観光地としての成熟がみ られ,観光客層が比較的安定している可能性があると 考えたためである。ルーラルツーリズムの行動的研究 が少ない現在の状況では,観光客層に一定以上の安定 性がある地域で調査を行った方が,観光形態の理解を 深めるという点において望ましいだろう。以上の基準 を考慮した結果,長野県安曇野市の穂高地区を中心と した地域を,調査対象地として選定した。次節から地
客や,旅行の途中に立ち寄る観光客であり,安曇野市 は通過型観光地としての性格が強い。そのため,施政 方針においても宿泊観光客を増加させることが課題と なっている(平成21年12月安曇野市施政方針)。
図2 主要観光施設の観光利用者数(2010年度,長野県 HP:観光利用者統計調査結果より作成)
図3 地域別主要観光施設の観光利用者数の推移(長野
県HP:観光利用者統計調査結果より作成)
Ⅲ.研究の方法
3.1 調査方法
本研究では,安曇野市で行った観光動機に関するア ンケート調査で得たデータを,統計学的手法により分 析する。調査日は2011年8月12日から15日までの4 日間である。アンケートは穂高駅前の観光案内所にて, 訪れた観光客に手渡し,その場で記入してもらった。ア ンケートの内容は観光客の基本属性と観光動機に関す る項目である。回収数は100枚で,欠損値があるなど で使用不可であったものを除いた 74 枚を分析対象と した。20代が15人,30代が7人,40代が3人,50 代が9人,60代が40人と半数以上が高齢者であった。
また,74人中65人が関東や関西地方の都会環境に住 む人々であった。初めて訪れた人は 44 人,来訪が 2
回目以上である人は30人であった。
観光動機の項目には,安曇野観光におけるPull要因 として20項目,Push要因10項目を設定し,各項目別 に7段階のスケールで評価をしてもらった。Pull要因 に関しては期待度の高さを,Push要因に関しては当て はまりの高さを評価してもらった。Push・Pull 要因の 具体的な内容は以下に示す。
Pull要因
(1) 文化遺跡 :「historic_site」
(2)ドラマなどのロケ地 :「media」
(3)動物や植物 :「animal_and_plant」
(4)寺社 :「temple」
(5)街並や田園の景色 :「ruralscape」
(6)山並や森林の景色 :「landscape」
(7)湧水や水辺の景色 :「waterscape」
(8)お祭りやイベント :「festival」
(9)地元の食べ物や飲み物 :「food」
(10)美術館や博物館 :「museum」
(11)公園や庭園 :「park」
(12)温泉や美容関係 :「spa」
(13)伝統文化の体験 :「cultural_experience」 (14)自然レクリエーション体験 :「nature_recreation」
(15)農場体験 :「farming_experience」
(16)安曇野住民との触れ合い :「host_community」
(17)サイクリング :「cycling」
(18)ウォーキング :「walking」 (19)ショッピング :「shopping」
(20)著名人ゆかりの場所 :「celebrity」
Push要因
(1)健康を維持するため :「health」
(2)知人との信頼を深めたい :「trust」
(3)新しい土地に訪れたい :「new_place」
(4)ストレスを解消したい :「stress_relief」
(5)教養を高めたい :「knowledge」 (6)心身の休養がしたい :「rest」
(7)冒険的なことがしたい :「adventure」
(8)新しい体験がしたい :「new_experience」
(9)特別な思い出をつくりたい :「memory」
(10)ふと思い立った :「inspiration」
3.2 自己組織化マップ
(1) データマイニング手法としての特徴
本研究では,アンケートで得られた多変量データの
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 中房温泉(穂高)
長峰山(明科)
アルプス銀座(穂高)
龍門渕公園・あやめ公園(明科)
須砂渡(堀金)
室山アグリパーク(三郷)
とよしな「安曇野の里」(豊科)
国営アルプスあづみの公園(三郷・堀金)
穂高温泉郷(穂高)
碌山美術館・わさび園周辺(穂高)
観光利用者数(百人)
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
観光利用者数(百人)
豊科 穂高 三郷 堀金 明科
データマイニングの手法として,自己組織化マップ
(SOM: Self-Organizing Map)を使用した。SOMは,
競合学習型の人工ニューラルネットワークの一種で,
高次元データをより低次元の空間へ移し替える(写像 する)方法の1つである。脳内のニューロンが学習に よって自己組織化する仕組みをモデル化したものであ り,高次元データの局所的な構造を保ったままクラス タリングを実行できるという点において,「非線形射影」
と捉えることができる(コホネン 2005)。
同じく多変量データを要約するための手法である主 成分分析は,高次元データについて変数間の相関(ま たは共分散)を考慮した重み付けを行い,新しい合成 変数によってデータを整理する。ここで,経験的直交 関数展開という原理によって,データの分散を最大に するような空間軸が第一主成分として抽出され,それ と直行する軸(無相関になる軸)が第二主成分として 抽出される。その時,線形変換による次元削減を伴う。
データの要約の可視化のためには,第1主成分と第2 主成分による2次元平面にデータを投影させる方法が あるが,他のいくつかの主成分の軸方向にもデータは 分布しており,その分布が曲がっているような場合は,
データの局所的な位置関係を正確に判断することがで きない。また,各主成分のうち主成分得点の高い変数 を基にして軸の解釈をする方法もあるが,変数間の関 係を説明する主成分負荷量が小さくなっていくので,
解釈が困難になる場合がある。
一方で,SOMにはデータの反復学習によってパター ンの抽出が行われるため,通常の主成分分析のような 制約はない。本研究のように,不特定多数の人々に対 して行った心理測定のデータは,複雑かつ多様であり データに非線形的構造が存在すると予想される。この ようなデータに対して通常の線形変換型のデータ要約 の手法は誤った結果を出す可能性があるため,SOMの ような非線形射影の手法が有効ではないかと考えられ る。近年では主成分分析のなかでも,カーネル主成分 分析といった非線形変換の方法も開発されているが,
可視化にはやはり抽出された主成分を2つ選んで軸と し,いくつかのデータプロット図を作成する必要があ る。しかし,SOMでは位相マップという多数の格子ユ ニットが並んだ1つの自由曲面上にデータが配置され,
さらにクラスタリングの結果も同時に表現できるとい うメリットがある。本研究では心理項目の各要因間の 関連性の大きさを探るのが目的であるため,以上のこ とをふまえた結果,SOMが分析に適していると考えた。
(2) 基本的なアルゴリズム
SOMは,分析対象の変数ベクトルからなる入力層と,
その変数のパターンを学習する出力層から構成されて いる。入力層にはI個の個体をもつデータセットから 抽出された変数 i の特徴ベクトルを n 個として xin{xi1,xi2,…,xin}として表される。出力層は,通常複数 のユニットが集まった2 次元のマップであり,j番目 のユニットmjに参照ベクトルmjn�mj1,mj2,…,mjn�が配 置されている(図4)。出力層における任意の1つのユ ニットは、入力ベクトルと同じ次元をもつベクトルと リンクしている。また,ユニット型には格子状(正方 形)や蜂の巣状(六角形)のものがよく使用される。
大北ほか(2008)によると,SOMの基本的なアルゴリ ズムの流れは以下のようになる。
図4 SOMの構造
まず,1)出力層に任意の数のユニットを配置し,そ
れぞれの持つ参照ベクトルをランダムな値で初期化す る。発生させたランダム値は,入力iと出力jを結合 するウエイトwij(t)における初期段階wij(0)に対して適 用される。t(=0,1,2,…)は離散時間座標である。
次に,2)入力ベクトルxi(t)と最も類似する出力層 における参照ベクトルmj(t)を探し出し,それと結合す るユニットを勝者とする。ここで,ベクトル同士の類 似度の探索にはユークリッド距離などの非類似度指標 が使用され,それが最も小さくなる参照ベクトルの位 置するユニットcが勝者となる。
|x(t)-mc(t)|=min�xi(t)-mj(t)�.
なお、距離計算の際には値の尺度の違いによるデータ 幅のばらつきを回避するために,各変数は標準化して おく必要がある場合がある(桐村 2007)。
続いて,3)勝者ユニットの近傍のユニットを下記の
式に従って更新する。
客や,旅行の途中に立ち寄る観光客であり,安曇野市 は通過型観光地としての性格が強い。そのため,施政 方針においても宿泊観光客を増加させることが課題と なっている(平成21年12月安曇野市施政方針)。
図2 主要観光施設の観光利用者数(2010年度,長野県 HP:観光利用者統計調査結果より作成)
図3 地域別主要観光施設の観光利用者数の推移(長野
県HP:観光利用者統計調査結果より作成)
Ⅲ.研究の方法
3.1 調査方法
本研究では,安曇野市で行った観光動機に関するア ンケート調査で得たデータを,統計学的手法により分 析する。調査日は2011年8月12日から15日までの4 日間である。アンケートは穂高駅前の観光案内所にて, 訪れた観光客に手渡し,その場で記入してもらった。ア ンケートの内容は観光客の基本属性と観光動機に関す る項目である。回収数は100枚で,欠損値があるなど で使用不可であったものを除いた 74 枚を分析対象と した。20代が15人,30代が7人,40代が3人,50 代が9人,60代が40人と半数以上が高齢者であった。
また,74人中65人が関東や関西地方の都会環境に住 む人々であった。初めて訪れた人は 44 人,来訪が 2
回目以上である人は30人であった。
観光動機の項目には,安曇野観光におけるPull要因 として20項目,Push要因10項目を設定し,各項目別 に7段階のスケールで評価をしてもらった。Pull要因 に関しては期待度の高さを,Push要因に関しては当て はまりの高さを評価してもらった。Push・Pull 要因の 具体的な内容は以下に示す。
Pull要因
(1) 文化遺跡 :「historic_site」
(2)ドラマなどのロケ地 :「media」
(3)動物や植物 :「animal_and_plant」
(4)寺社 :「temple」
(5)街並や田園の景色 :「ruralscape」
(6)山並や森林の景色 :「landscape」
(7)湧水や水辺の景色 :「waterscape」
(8)お祭りやイベント :「festival」
(9)地元の食べ物や飲み物 :「food」
(10)美術館や博物館 :「museum」
(11)公園や庭園 :「park」
(12)温泉や美容関係 :「spa」
(13)伝統文化の体験 :「cultural_experience」 (14)自然レクリエーション体験 :「nature_recreation」
(15)農場体験 :「farming_experience」
(16)安曇野住民との触れ合い :「host_community」
(17)サイクリング :「cycling」
(18)ウォーキング :「walking」 (19)ショッピング :「shopping」
(20)著名人ゆかりの場所 :「celebrity」
Push要因
(1)健康を維持するため :「health」
(2)知人との信頼を深めたい :「trust」
(3)新しい土地に訪れたい :「new_place」
(4)ストレスを解消したい :「stress_relief」
(5)教養を高めたい :「knowledge」 (6)心身の休養がしたい :「rest」
(7)冒険的なことがしたい :「adventure」
(8)新しい体験がしたい :「new_experience」
(9)特別な思い出をつくりたい :「memory」
(10)ふと思い立った :「inspiration」
3.2 自己組織化マップ
(1) データマイニング手法としての特徴
本研究では,アンケートで得られた多変量データの
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 中房温泉(穂高)
長峰山(明科)
アルプス銀座(穂高)
龍門渕公園・あやめ公園(明科)
須砂渡(堀金)
室山アグリパーク(三郷)
とよしな「安曇野の里」(豊科)
国営アルプスあづみの公園(三郷・堀金)
穂高温泉郷(穂高)
碌山美術館・わさび園周辺(穂高)
観光利用者数(百人)
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
観光利用者数(百人)
豊科 穂高 三郷 堀金 明科
mj(t+1)=mj(t)+hcj(t)�x(t)-mj(t)�.
ここでhcj(t)は近傍関数と呼ばれ,勝者ユニットの近傍 で学習が更新される領域を指定する関数であり,ユニ ットcの近傍領域をNcとすると次式で表せる。
hcj(t)=�α(t)∙h�dcj,t� j⊂Nc
0 j⊄Nc
数式の通り,Ncの外側にあるユニットは学習されない。
ここで,dcjはユニットcから参照ベクトルjまでの距 離である。 α(t)は学習率係数と言い,0から1までの 間の値をとる。通常,この値は時間が経つにつれ減少 するように設定する。近傍関数では,学習初期時には 近傍領域を大きくとり,学習が進む毎にその領域を小 さくする。h�dcj,t�は近傍領域を減少させる関数であり,
次式のようなガウス型関数がよく用いられる。
h�dcj,t�=exp�-dcj
2/k�r(t)�2�.
ここで,k�r(t)�は学習時間tのときの近傍領域Ncの最 大距離であり,α(t)と同様に単調減少関数である。
最後に,2)から3)の処理を入力層のすべての変数
ベクトルに対して繰り返して行い,最終的にクラスタ リング及び分類結果の可視化が行われる。
(3) トーラス型SOM
前項で紹介したような基本的なSOM(Basic SOM)
では,勝者ユニットがマップの境界に近い部分にあっ た場合に,重みベクトルを更新するために生成される 学習領域がマップの境界外にはみ出てしまい,はみ出 した部分では学習が行われない。それよって,入力デ ータ間で学習量に差ができてしまい,適切なマップが 作成されない場合がある(大北ほか 2008)。その問題 を解決するために開発されたのが,トーラス型 SOM
(Torus SOM)である。
Torus SOMは,球面の位相マップを平面に投影した
ような構造になっており,Basic SOMと同様に2次元 のマップ上に格子状のユニットが並んでいるが,マッ プの上下左右のユニットが周期的な境界条件で結合さ れている。そのため,もし勝者ユニットの学習領域が マップの外にはみ出した場合,マップ上で対称な位置 にある領域が学習される。これによって,各ユニット 間における学習量の不均一さが解消される。したがっ て,本研究ではこのTorus SOMをデータ分析のために 使用する。
Torus SOMを使った観光関連分野における先行研究
として,高塚ほか(2010)の水産物の地域ブランドの 親近性を可視化した研究があり,Torus SOMは各種地
域ブランドの位置関係を視覚的に認識するのに優れた ツールであることが述べられている。
Ⅳ.観光客の動機分析の結果
4.1 分析における各種設定
安曇野市の観光客に行ったアンケートの結果を,示 す。観光者の属性によって期待や動機の程度は異なる と考えられるため,本項では観光客を初めて訪れた 人々(初来訪客)と,2 回以上訪れたことのあるリピ ーター(再来訪客)とに分け,双方を比較していく。
分析には各観光者タイプにおける評価項目ごとの平均 値の順位を示したグラフ(図5,7),Torus SOMによ る調査項目の親近関係を可視化したマップ(図 6,8)
の2種類をそれぞれ用いた。平均値の順位グラフとい うのは標本の全体的な傾向を示すのであり,各項目は 独立指標であって項目間の関連性は示していない。し たがって,SOMの併用により各項目間のローカルな関 連性を探れると考えられる。Torus SOM の計算には
Mr. Torusを使用し,マップの可視化にはSOM_PAKを
使用した。各種の計算パラメータは以下のように設定 した。<マップサイズ:20×18, 学習係数:0.03, 近傍 半径:20, 学習回数:10000, ランダム値:30,閾値:
0.03,ユニット型:hexagonal(六角形)>。なお,SOM マップの色の濃淡はクラスタリングにおける類型を表 現しており,濃い色のユニットが各クラスター間の境 界域を示している。
4.2 初来訪客の分析結果
初来訪客の安曇野観光における Pull 要因は,
「waterscape」,「landscape」,「ruralscape」 など,安曇野 市の景観への期待の平均値が非常に高い。これらはマ ップの中央の左付近に位置しており,それら近辺にあ る「stress_relief」,「rest」,「new_place」のPush要因と 共にクラスターを形成している。この3つのPush要因 は順位グラフで上位3つである。したがって,このク ラスターに含まれる要素は,安曇野を初めて訪れる観 光客において最も重要な観光動機だと言える。解釈す れば,安曇野の水辺や山並みなどの自然景観に触れる ことによって心身を癒し,日々の緊張を解除したい,
となるだろう。
マップ中央の右は「museum」,「park」,「walking」,
「historic_site」が近寄っている。これらは散策をしな がらの観覧行動を想起させる要素である。
図5 初来訪客(N =44)のPull・Push要因の平均値
図6 初来訪客(N =44)の自己組織化マップ
←Pull要因の平均値
Push要因の平均値↓
1 2 3 4 5 6 7
waterscape landscape ruralscape food spa museum cycling park shopping media walking animal_and_plant historic_site temple host_community nature_recreation cultural_experience festival celebrity farming_experience
1 2 3 4 5 6 7
rest stress_relief new_place new_experience trust memory knowledge adventure health inspiration mj(t+1)=mj(t)+hcj(t)�x(t)-mj(t)�.
ここでhcj(t)は近傍関数と呼ばれ,勝者ユニットの近傍 で学習が更新される領域を指定する関数であり,ユニ ットcの近傍領域をNcとすると次式で表せる。
hcj(t)=�α(t)∙h�dcj,t� j⊂Nc
0 j⊄Nc
数式の通り,Ncの外側にあるユニットは学習されない。
ここで,dcjはユニットcから参照ベクトルjまでの距 離である。 α(t)は学習率係数と言い,0から1までの 間の値をとる。通常,この値は時間が経つにつれ減少 するように設定する。近傍関数では,学習初期時には 近傍領域を大きくとり,学習が進む毎にその領域を小 さくする。h�dcj,t�は近傍領域を減少させる関数であり,
次式のようなガウス型関数がよく用いられる。
h�dcj,t�=exp�-dcj
2/k�r(t)�2�.
ここで,k�r(t)�は学習時間tのときの近傍領域Ncの最 大距離であり,α(t)と同様に単調減少関数である。
最後に,2)から3)の処理を入力層のすべての変数
ベクトルに対して繰り返して行い,最終的にクラスタ リング及び分類結果の可視化が行われる。
(3) トーラス型SOM
前項で紹介したような基本的なSOM(Basic SOM)
では,勝者ユニットがマップの境界に近い部分にあっ た場合に,重みベクトルを更新するために生成される 学習領域がマップの境界外にはみ出てしまい,はみ出 した部分では学習が行われない。それよって,入力デ ータ間で学習量に差ができてしまい,適切なマップが 作成されない場合がある(大北ほか 2008)。その問題 を解決するために開発されたのが,トーラス型 SOM
(Torus SOM)である。
Torus SOMは,球面の位相マップを平面に投影した
ような構造になっており,Basic SOMと同様に2次元 のマップ上に格子状のユニットが並んでいるが,マッ プの上下左右のユニットが周期的な境界条件で結合さ れている。そのため,もし勝者ユニットの学習領域が マップの外にはみ出した場合,マップ上で対称な位置 にある領域が学習される。これによって,各ユニット 間における学習量の不均一さが解消される。したがっ て,本研究ではこのTorus SOMをデータ分析のために 使用する。
Torus SOMを使った観光関連分野における先行研究
として,高塚ほか(2010)の水産物の地域ブランドの 親近性を可視化した研究があり,Torus SOMは各種地
域ブランドの位置関係を視覚的に認識するのに優れた ツールであることが述べられている。
Ⅳ.観光客の動機分析の結果
4.1 分析における各種設定
安曇野市の観光客に行ったアンケートの結果を,示 す。観光者の属性によって期待や動機の程度は異なる と考えられるため,本項では観光客を初めて訪れた 人々(初来訪客)と,2 回以上訪れたことのあるリピ ーター(再来訪客)とに分け,双方を比較していく。
分析には各観光者タイプにおける評価項目ごとの平均 値の順位を示したグラフ(図5,7),Torus SOMによ る調査項目の親近関係を可視化したマップ(図 6,8)
の2種類をそれぞれ用いた。平均値の順位グラフとい うのは標本の全体的な傾向を示すのであり,各項目は 独立指標であって項目間の関連性は示していない。し たがって,SOMの併用により各項目間のローカルな関 連性を探れると考えられる。Torus SOM の計算には
Mr. Torusを使用し,マップの可視化にはSOM_PAKを
使用した。各種の計算パラメータは以下のように設定 した。<マップサイズ:20×18, 学習係数:0.03, 近傍 半径:20, 学習回数:10000, ランダム値:30,閾値:
0.03,ユニット型:hexagonal(六角形)>。なお,SOM マップの色の濃淡はクラスタリングにおける類型を表 現しており,濃い色のユニットが各クラスター間の境 界域を示している。
4.2 初来訪客の分析結果
初来訪客の安曇野観光における Pull 要因は,
「waterscape」,「landscape」,「ruralscape」 など,安曇野 市の景観への期待の平均値が非常に高い。これらはマ ップの中央の左付近に位置しており,それら近辺にあ る「stress_relief」,「rest」,「new_place」のPush要因と 共にクラスターを形成している。この3つのPush要因 は順位グラフで上位3つである。したがって,このク ラスターに含まれる要素は,安曇野を初めて訪れる観 光客において最も重要な観光動機だと言える。解釈す れば,安曇野の水辺や山並みなどの自然景観に触れる ことによって心身を癒し,日々の緊張を解除したい,
となるだろう。
マップ中央の右は「museum」,「park」,「walking」,
「historic_site」が近寄っている。これらは散策をしな がらの観覧行動を想起させる要素である。
図7 再来訪客(N =30)のPull・Push要因の平均値
図8 再来訪客(N =30)の自己組織化マップ
←Pull要因の平均値
Push要因の平均値↓
1 2 3 4 5 6 7
landscape waterscape ruralscape animal_and_plant museum walking historic_site temple park food spa shopping celebrity nature_recreation cultural_experience media cycling host_community festival farming_experience
1 2 3 4 5 6 7
stress_relief rest trust health knowledge memory new_place new_experience adventure inspiration
マ ッ プ の 左 上 に は 「new_experience」,「trust」,
「memory」,「knowledge」,「adventure」が集まってい る。これらは全てPush要因であり,Pull要因との親近 性がマップ上ではみられない。これらの項目にみられ る志向性は安
曇野の観光資源にマッチしていないのかもしれない。
マップの左下は「food」,「spa」,「cycling」,「shopping」
がクラスターを成している。これらは,Pull要因のみ で構成されている。これらは,典型的な施設利用型の 観光活動を想起させるものである。順位グラフでは比 較的高い順位にあるため,一定以上のニーズがあると 言える。
そし て,「host_community」,「nature_recreation」,
「farming_experience」,「cultural_experience」,「festival」
が,マップの右下に集まっている。これらは,順位グ ラフでも低い部類に入る。また,どれも体験型の観光 活動である。
4.3 再来訪客の分析結果
まず平均値の順位グラフで高いものをみると,Pull 要因では「landscape」,「waterscape」,「ruralscape」が,
Push要因では「stress_relief」,「rest」の順に高い。SOM のマップでこれらはクラスターを形成しているため,
関連性という観点からみて強く結びついていると言え る。
マップの右上と左下においてクラスターが確認でき,
「trust」,「knowledge」,「museum」,「animal_and_plant」,
「walking」といった順位グラフで比較的高い評価を示 す項目が含まれている。安曇野を歩きながら動植物を 観察したり,美術館などで教養を高めたいといった観 光心理がみてとれる。
さらに,初来訪客だと「media」の平均値が比較的高 いが,再来訪客では低い。安曇野は度々ドラマや映画 の舞台となるため,メディアによる紹介が初めて型の 観光動機に強い影響を与えている可能性がある。一方 で,再来訪客は過去に安曇野観光で体験した記憶が,
次回の観光の動機に強く結びついていると推察される。
マップの中央右には「food」,「spa」,「shopping」,
「nature_recreation」がクラスターを形成している。特 に前3つは初来訪客でも一緒にクラスタリングされて いたため,観光客が無意識にこれらを同類的な観光活 動として捉えている可能性がある。
マップの中央左は「new_place」,「new_experience」,
「adventure」,「memory」が集まっているがこれはPush 要因だけで,しかもどれも平均値順位が比較的低い。
したがって,これらは再来訪客の観光動機として弱い ものの集合である。
最後に,「host_cmmunity」,「cycling」,「festival」,
「farming_experience」がマップ中央左上にみられるが,
これらは全てPull要因であり,かつ順位グラフでとて も低い項目である。
Ⅴ.考察
これまでの分析結果をふまえ,初来訪客と再来訪客 の動機の違いや,そこから分かる安曇野観光の特性に ついて考察する。
まず,Pull要因としては,初めて型とリピート型の どちらも「landscape」,「waterscape」,「ruralscape」に対 する期待度が非常に高く,Push 要因は「rest」,
「stress_relief」が高い。やはり,安曇野を訪れる観光 客は基本的には自然景観や農村景観に触れることによ る癒しを求めている。安曇野の有する資源として景観 は非常に重要な資源であり,インターネットを含む各 種の観光案内に風景写真が多用されている。そういっ たメディアイメージが観光行動を促進するPull要因と して高く機能していると考えられる。また,金田・赤 川(2006)が安曇野の地域イメージに関するアンケー トを東京都の住民1000人に対して行った調査では,自 然資源に対するイメージ評価が非常に高いという結果 であった。さらに,安曇野の認知度が高いほど自然資源 の評価も高いという関連性を指摘しており,リピータ ーの誘致に自然景観の美しさが大きく貢献しているこ とが推察される。
「spa」,「food」,「shopping」は両タイプのSOMで共 にクラスターを形成していたため,関連性が深いと言 える。初来訪客の方がこれらの平均値順位が高かった。
蕎麦や山葵などの地元料理や,碌山美術館,穂高温泉 郷といった主要な観光施設への期待が反映されている と考えられる。ここで,初来訪客だとPull要因の順位 グラフの4,5位に「food」,「spa」があったが,再来訪 客だと「animal_and_plant」,「museum」になり「food」
と「spa」は順位を大きく落としている。これは,再来 訪客だと自然景観だけでなく,他のアクティビティに も興味や関心がわくため,自然とそういった項目の評 価が高くなるために,相対的に食事や温泉に対する評 価の順位が下がったのだと考えられる。つまり,食事,
温泉,ショッピングは安曇野観光における基本的な観 光欲求であり,なおかつ観光動機の形成過程において これらが共通の認識レベルに置かれていることが示唆 図7 再来訪客(N =30)のPull・Push要因の平均値
図8 再来訪客(N =30)の自己組織化マップ
←Pull要因の平均値
Push要因の平均値↓
1 2 3 4 5 6 7
landscape waterscape ruralscape animal_and_plant museum walking historic_site temple park food spa shopping celebrity nature_recreation cultural_experience media cycling host_community festival farming_experience
1 2 3 4 5 6 7
stress_relief rest trust health knowledge memory new_place new_experience adventure inspiration
される。
双方と もに期 待度が著し く低か った項 目は ,
「farming_experience」,「festival」であった。安曇野市 ではこれらの項目に該当するような体験型観光のメニ ューがいくつか実施されているが,安曇野観光におけ る主要な観光活動としては認知されていないことがわ かる。
Ⅵ.結論
本研究では,ルーラルツーリズムの事例として安曇 野市を調査対象地に選択し,そこを訪れる観光客の動 機を分析することで,観光形態の特徴の一側面を明ら かにした。安曇野を訪れる観光客は一般的に山,水,
田園などに特徴づけられる安曇野特有の風景を楽しむ ために訪れていた。また,活動を通して心身の休養や ストレス解消を期待している。回答者の約9割は関東 や関西の都市に住んでいる人々であったため,安曇野 には都市住民が癒しを求めて訪れる側面が強い。こう いった需給の関係はルーラルツーリズムという観光形 態の典型的な構造の一つであり,安曇野市が都市住民 の思い描く「ふるさと」らしさを体験できる場所とし て機能していることの表れであると言えよう。しかし,
観光客の属性によって観光動機における支配的な心的 要因は部分的に異なっていた。初めて訪れた観光者は 再来訪客に比べて安曇野の観光資源に対して新奇性を 連想させる傾向にあった。さらに,自然景観や温泉を 体験して心身を癒し,現地での飲食や買い物に興じる という観光スタイルがみてとれた。一方で,再来訪客 は観光資源に対する期待が初来訪客よりも多様化する 傾向がみてとれた。
次に分析手法についてである。SOMを利用したこと で,Push要因とPull要因の関連性を視覚的に把握する ことができた。SOMはデータのクラスタリングのみな らず,可視化という点においても有効な分析手法であ った。高次元データをその非線形的な構造を保持した まま平面上に可視化するという特徴があるため,デー タのより本来的な関連性を表現している。特に,本研 究で扱うような人間の心理などは複雑かつ多様であり,
データの非線形性が強いと思われる。このような性質 を持つデータの有効なデータマイニング手法として,
SOMの可能性を少なからず見出せた。また,SOMを データ平均値の順位グラフと併用することによって,
データの全体的な構造のみならず,より局所的なデー タ間の関連性を把握することができた。しかし,従来
の線形変換を基にした多変量解析や,非線形変換型の 多変量解析あるいはクラスタリング手法と,SOMがど こまで結果が異なるのかという問題もあるため,他の 分析手法との比較も今後検討しなければならないであ ろう。また,今回扱ったTorus SOM以外にも,SOM には様々なバリエーションがあるので,それらの手法 の適用も検討すべきである。
最後に,安曇野市は通過型観光地という性格が強く,
観光資源が穂高地区に偏重していることはⅡ章で述べ た。今後,観光のさらなる発展を考えるならば,まだ あまり認知されていない体験型観光メニューの充実と その商品化および周知,穂高地区以外の地域の観光資 源開発と利益配分が挙げられるだろう。それらと同時 に,都市住民を惹きつけてやまない自然景観や農村景 観の保全管理が必要不可欠である。本研究では観光客 の行動や意識の側面を分析することで,ルーラルツー リズムの実態を把握しようと試みた。こうした調査は 観光マーケティングのみならず,観光地の魅力を再確 認し,利用と保全の適切な管理計画を考える上でも重 要である。今後もこのようなローカルなスケールにお ける特定の観光行動についての研究の蓄積が望まれる。
謝辞
安曇野市市役所観光課の方々には,安曇野市の観光 動向について様々な事を教えていただきました。また,
穂高観光案内所の方々には,現地調査にご協力してい ただきました。ここに感謝の意を表します。
参考文献
安曇野市公式HP: 平成21年12月安曇野市施政方針:
http://www.city.azumino.nagano.jp/gyosei/shicho/siseiho usin/2112.html(2011.12.19確認)
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大北正昭, 徳高平蔵,藤村喜久郎, 権田英功. 2008. 『自 己組織化マップとそのツール』.シュプリンガージャ パン株式会社.
大橋めぐみ. 2002. 日本の条件不利地域におけるルー ラルツーリズムの可能性と限界-長野県栄村秋山郷 を事例として-. 地理学評論75(3): 139-153.
葛西洋三, 中鉢令兒, 許 英傑. 2010. 国際観光目的地 決定プロセスに関する研究-訪日観光に対する台 湾・社会人学生の現地調査を通じて-. 観光研究 21(2):47-52.
金田茂裕, 赤川学. 2006. 安曇野の地域イメージに関す