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博 士 ( 工 学 ) 菊 川 峰 志 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 工 学 ) 菊 川 峰 志

学 位 論 文 題 名

        Photometrical Studies on Molecular Motion of Bacteriorhodopsin during Light Energy Conversion Process

(光エネルギ―変換過程におけるバクテリオ□ドプシンの      分子運動に関する分光学的研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生体内 で行われる多種多様な生命 現象を担っているのは蛋白質 である。したがって、生 命現象を 理解するうえで蛋白質の機 能発現のメカニズムを知るこ とは重要な意味を持って いる。

  蛋白質 を作っているのはたくさん のアミノ酸が重合した単なみ 鎖であり、鎖内の各部分 部分に働 く分子内相互作用により折 り畳まれて立体構造を形成す るに至る。そのため、蛋 白質の機 能は立体構造形成によって 初めて実現されるにもかかわ らず、構造自体は本来動 的であり変わりうるものとな っている。したがって、この構造は熱的な変性を受けやすい。

しかし、 蛋白質は自らの構造が変わ りうるという性質を利用して 、機能を発現する寡に不 可欠 な過 程で ある 「 構造 変化Jを実 現している。このような構造 の可変性は人工的な機微 とは明ら かに異なる性質である。し たがって、蛋白質の機能のメ カニズムを解明するうえ で、さら には工学的な応用を目指す うえでも、その動的な性質― 特に機能を発現する際に 起こす動 的な性質に関する知見を得 ることは重要である。本研究 は蛋白質として光ニネル ギー変換 膜蛋白質あるバクテリオ口 ドプシンをとりあげ、レーザ ーフォトリシスと吸収偏 光解消法 を用いて、この蛋白質が機 能を発現する際に膜内で起こ す挙動の検出を目指した ものである。

  バ クテ リオ ロド ブ シン (bR)は 高度 好 塩菌 の体 表に存在する 紫色の膜領域―紫膜―に 含ま れる 唯一 種の 膜 蛋白 質であり、 光エネルギーを用いてブロ トン(H^)を一定の方向 へ(細胞の内側から外側へ) 輸送する機能を持っていろ。この蛋白質を用いる利点は主にニ っある。 一っは蛋白質の精製は一般 に困難であるが、紫膜の場合 はそれが容易に行え、か つbRは 紫 膜 内 で熱 的に 非 常に 安定 で取 り扱 い が容 易で ある こ と。 もつ ーっ はbRは レチ ナールという色素を内在して おり、蛋白質が機能を発現 する際にこの色素の色が変fヒする ことである。このニつ目の性 質は吸収偏光角畢消法を用いるうえで重要な性質である。レチ ナールが 光で励起されるとbRは亅溝 造の異なる幾つかの中間体を 経由して元に戻る光化学 サイクル を行い、この問に一個のブ ロトンを輸送する。レチナー ルの色の変化は中間体の 形成と崩壊に対応している。吸収偏光角辜消法で検出すべきf菖号はブローブ分子の吸収変化 である。 したがって、蛋白質運動を 測定する場合、一般に蛋白質 にプローブ分子を結合さ せる 化学 修飾 が必 要 であ るが 、bRの場 合 はレ チナ ールを天与の プローブとして利用する ことができる。

  吸 収変 更解 消法 に よるbRの 紫膜 内で の 運動 測定 に関する報告 はこれまで幾っかなされ てき たが 、光 化学 サ イク ル中 のbRの運 動 の変 化、 さらには紫膜 内での回転運動さえも観

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察さ れて い ない 。bRは紫 膜 内で 三量 体を 成し 、 六方 格子状に規則正しく配列 している。

した がっ て 、bRの運 動の 皆 無は この 結晶 状の 膜 構造 によると考えられてきた 。しかし、

ブ匸 トン ポ ンブ とし ての 機 能を 果た すた めに 確 かにbRは構造変化を起こして いるはずで ある 。こ の こと は、 堅い 膜 であ る紫 膜を 柔ら か くで きたならbRが機能と関連 した挙動を 起こ し始 め る可 能性 を示 唆 して いる 。よ って 本 研究 ではJ、5章で示すように 授乱を加え た紫暎内でのbRの分 子運動を測定している。

  本論文は8章構成で ある。

  第1章 では 本研 究 の背 景及 び目的として、生体 のもつ大きな特長のーつであ る「やわら かさ 」に触れ、その中 で働く蛋白質の動的性質と その機能達成のメカニズム解 明の重要性 にっし、て述べた。

  第2章 はbRにつ い ての 解説 であ る。 こ の蛋 白質 の機 能 と構 造、 さら に光 化 学サイクル 中 に 起 こ る 蛋 白 質内 で のプ ロト ンの 受渡 に つい て最 近ま での 知 見を まと めて 記 した 。   第3章 は偏 光解 消 法に つい て解 説し た 。bRの運 動の 測 定に 用い てい るの は 吸収の偏光 解 消 法 で あ る が 、中 間 体問 (M、O中 間体 ) 及び 基底 状態bR間 の 吸収 スベ クト ル の重 な りのため、そこで計 算される異方性はやや複雑な 情幸Rを含んでいる。このため、より単純 な場 合である蛍光の偏 光解消法について異方性の 定義からその物理的な意味を 解説し、蛍 光の場合の延長とし て吸収の偏光解消法を取り扱 った。

  第4章 と5章 で は先 に 述べ たよ うに 擾乱 を 与え た紫 膜内 でのbRの分 子運 動測 定 を記 し た。 擾乱 と して4章 では 紫膜 の懸濁液に生体膜の 構造に影響を与えるものとし て知られて いろ エタ ノ ール を添 加し 、5章では菌の培養温度 を変更した。大腸菌やテトラ ヒメナで知 られ ているように細胞 は環境の温度に適応して膜 の流動性を変化させる。した がって、菌 の培 養温度の変更は紫 膜への擾乱と成りうるはず である。得られた異方性はエ タノール濃 度を 増す ほ ど、 ある いは 培 養温 度を 上げ るほ どbRの 膜内での運動が顕著にな ること。し かも 、基 底 状態bRの 角度 分 布が ある 方向 に偏 る とい う奇異な現象が起こるこ とを示して いた。この結果は光反応サイクルに入っている分子の運動が束縛されることを示唆している。

  第6章 は4.5章 で得 た 示唆 ―光 励起 され た 分子 の運 動は 束縛 さ れる ーを 確認 す るこ と を 目 的 と し て 行 っ た 変 異bR、D96N変 異bR(96番 目 の ア ス バ ラ ギ ン 酸 を ア ス パ ラ ギ ン に 置 換 し て いる ) の分 子運 動測 定結 果 を記 した 。4、5章 で 用い た野 生株bRにお い てデ ータ 解 析を 困黄 隹に し ている要因は、1)中 間体聞及び基底状態bR間で吸 収スベクト ル が 重 な っ て い る こ と と 、2) 基 底 状 態bRに は 運 動 を 区 別 す べ き2種類 のbR、 励起 さ れ な か っ たbRと 励起 さ れて 再ぴ 基底 状態 に 戻っ てき たbRが混 在 して いる こと で ある 。 D96N変 異bRで はM中 間 体 の 寿 命 が 野 生 抹bRの 場 合 よ り 非 常 に 長 く な る た め 適 当 な 時 間 領 域 で は 存 在す る 種をM中間 体 と励 起さ れな か ったbRの2種 類だ けと みな す こと が 可 能 と な る 。D96N変 異bRを 用 い る こ と で 確 か にM中 間 体 の 運 動 が 励 起 さ れ な か っ た 分子の運動より遅い ことが明かとなった。

  第7章 は 全 分 子 ( 中 間 体 と 基 底 状 態bR) につ いて の異 方性 を 取り 扱っ てい る 。4、5 及び6章 で得 られ た 「励 起さ れた分子の運動は束 縛される」という結果は、紫 膜懸濁液へ の線 偏光した励起光の 入射を切つ掛けとして全分 子についての吸収モーメン卜 の角度分布 が励 起光の偏光方向に 向かって偏っていくことを 示している。すなわち、自己 組織的な配 向が 起こ る こと を意 味し て いる 。第7章 では この 様子 を明確に示すために6章 で得たデー タを元に全分子につ いての異方性を算出した。

  第8章では本研究の 結果を要約し全体にわたる 考察を行っている。励走弖された分子の運 動の 束縛は中間体にお ける蛋白質の外形が変化す るような溝造変化に起因して いるはずで ある 。しかし、そのよ うな構造変化が起こっただ けでは分子の回転速度が変化 することは 説明できなし、。し たがって、構造変化を起こすことで隣接する蛋白質との相互作用が誘起 され、この相互作用 が運動を束縛していると考え られる。

  bRのよ う にレ チナ ール を 色素 とし ても つ蛋 白 質は 動物界では光センサー蛋 白質一ロド ブシンーとして広く 分布している。このようなセ ンサー蛋白質は光情¢Rを自らの構造変化

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に変えて他の蛋白質に伝えているはずである。したがって本研究で得られた光励起による 蛋白質の構造変化と蛋白質問の相互作用はレチナール蛋白質が本来有している動的性質で あると考えられる。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    下 澤 楯 夫 副 査    教 授    武 笠 幸 一 副 査    教 授    狩 野    猛 副 査    助 教 授    荒 磯 恒 久

学 位 論 文 題 名

         Photometrical Studies on IVIolecular Motion of Bacteriorhodopsin during Light Energy Conversion Process

( 光 エ ネ ル ギ ― 変 換 過 程 に お け る バ ク テ リ オ 口 ド プ シ ン の     分 子 運 動 に 関 す る 分 光 学 的 研 究 )

  細胞の諸機能が発現される過程 において中心的役割を演じる生体膜は、機能発現を直接担う タンパク質と、機能発現の場を作 る脂質二重層膜を主な構成成分としている。タンパク質は機 能を発現する上でコンフォメーシ ョンを変化させ、また脂質二重層膜は流動的性質をもってそ れを支えている。従って、生体膜 の機能発現のメカニズムを理解し工学的応用を可能とするた め に は 、 こ の よ う な タ ン パ ク 質 及 び 脂 質 類 の 分 子 運 動 の 特 徴 を 知 る 必 要 が あ る 。   本論文は、光を吸収してプ口ト ンを輸送するバクテリオ口ドプシン(bR)の光エネルギー変換 機能を取り上げ、レーザーフォト リシスと吸収偏光解消法により脂質二重層膜内でのタンパク 質 の 回 転 運 動 を 計 測 し た も の で あ り 、 そ の 主 要 な 成 果 は 次 の 点 に 要 約 さ れ る 。 O常 法 に よ り 培 養 さ れたHalobacterium Salinariumから 調 製さ れた 紫膜 中のbR分 子は 膜中   での回転が抑制されているが、紫膜懸濁液にエタノールを添加して膜構造に擾乱を与えると、

  bR分子の膜中における回転運動 が観測された。

◎膜 構造 に 対す る擾 乱と して培養 温度を上昇させることにより、エタノール添加と同様に 紫   膜中のbR分子の回転が観測され た。

◎上 記@ 及 び@ につ いて 、吸収偏 光の時間変化を詳細に解析した結果、bR分子の回転は光 励   起されなかった分子のみに見ら れ、光励起された反応中間体の回転はむしろ抑制されている   ことが結諭された。

@反 応系 を 単純 化す るた め、光励 起状態で反応の進行が止る性質を持つ突然変異株(D96N)を   用いて同様の測定を行い、光励 起状態におけるbR分子の回転が抑制されることを直接確認し   た。

◎以 上の 結 果か ら、 レチ ナールを 袖欠分子団として持つ光エネルギ一変換タンバク質が、 光   励起状態におけるコンフォメー ション変化に伴いタンパク質問の栩互作用を変化させる普遍   的性質を持つことを結諭づけた 。

◎上 記の 性 質の 応用 例と して 、紫 膜は 超短 パル ス光 の偏光特 性を数100msecにわたり記憶 す   る性質があることを見い出した 。

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これを要するに、著者は、バクテリオ口ドプシンの光励起によるコンフォメーション変化に 伴うタンパク質問の相互作用変化の存在を明らかにし、レチナール型光感受性タンパク質の構 造と機能の関迎に新たな特徴を見い出したものである。本研究の成果は、バクテリオロドプシ ンをバイオエレクトロニクス素子に応用する上で有益な新知見を得ており、生体工学の進歩に 寄与するところ大である。

  

よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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参照

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