日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-17 330
-感情制御方略とマインドフルネスがアンガーマネジメントに及ぼす影響
○小澤 優璃1)、鈴木 伸一2)、テリー クリストファー3) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )早稲田大学人間科学学術院、 3 )エルマイラ大学 【目的】 日常生活で感じる怒りを適切に対処していくこと は,日頃のストレス軽減につながることが指摘されて いる。怒りの適切な対処を学ぶための方法として,ア ンガーマネジメントがある(Novaco, 1975)。アン ガーマネジメントとは,「怒りや攻撃的行動の自己制 御能力の促進をするための構造化介入」と定義されて いる(Novaco et al., 2008)。アンガーマネジメント を効果的に行うためのスキルとして,感情制御方略と マインドフルネスが考えられる。第一に,感情制御方 略は再評価法と抑制法に分けられる。再評価法とは, 「状況や刺激,自らの心的状態に対する解釈を変化さ せることによって,感情の強度や種類を変化させる感 情制御方略」であり,怒りや悲しみなどネガティブな 感情の軽減に有効であるとされる(Gross, 1998)。一 方,抑制法とは,「進行中の感情表出行動を抑えよう とする感情制御方略」であり,抑うつなどの精神的健 康の低下との関連が明らかとなっている(Gross & John, 2003)。第二に,マインドフルネスとは,「視覚 や音,匂いなどを含むいまこの瞬間の感覚,認知,感 情,環境刺激に注意を払い,それらを無評価,非反応 性で受け止めること」と定義されている(Kabat-Zinn, 1990)。マインドフルネスによって認知的・身体的に 自らの怒りの内的想起に気づく能力を高めることで, アンガーマネジメントを効果的に行うことができると 考えられる。これまでの研究から,感情制御方略にお いて再評価法を多く用いる人のほうがアンガーマネジ メントを適切に用いることや(Szasz et al., 2010), マインドフルネス傾向が高い人はアンガーマネジメン トを適切に用いること(Gross & John, 2003)が示さ れているが,その一方で感情制御方略とマインドフル ネスの差異がアンガーマネジメントに与える影響につ いては検討されていない。そこで,本研究では,感情 制御方略とマインドフルネスによるアンガーマネジメ ントの差異を検討する。本研究の仮説は,「マインド フルネスが高い群において,再評価群は抑制群よりも アンガーマネジメントが高い」こととした。 【方法】 参加者 アメリカ・ニューヨーク州の私立大学に通 う大学生145名(男性33名,女性107名,性別未回答 5 名,平均年齢20.13歳,SD =2.11)。マインドフルネス Baer et al.(2006) のFive Facet Mindfulness Questionnaire(FFMQ)を使用した。この尺度は日常生活場面におけるマインドフルレベルをセルフレポート 形式で測定するものである。感情制御方略 Grossと John(2003)のEmotion Regulation Questionnaire (ERQ)を使用した。これは,「再評価法」と「抑制法」
の下位因子に分かれており, 感情制御の方略を測定す る も の で あ る。 ア ン ガ ー マ ネ ジ メ ン ト A n g e r Management Scale-Brief Trait Versionは,Stith & Hamby(2002)によって開発されたパートナーとの交際 関係内でのアンガーマネジメントに関する尺度である Anger Management Scale(全36項目)を一般的な交友 関係内でのアンガーマネジメントを測定するための質 問に範囲を広げたもので,全 5 項目から構成される。 手続き 被検者はオンラインのフォームにて各質問紙 の 質 問 に 答 え た。 倫 理 的 配 慮 本 研 究 はElmira Collegeにおける研究に関わる倫理委員会Human Board Applicationの承認を得て行われた(承認番号:EC-HRRB-2-11-17)。 【結果】 まず,調査対象者の特徴を把握するために記述統計 量を算出したうえで,各変数の関係について検討する ためにPearsonの積率相関係数を算出した。その結 果,再評価法とアンガーマネジメントに中程度の正の 相関が見られた(r = .43, p < .01)。また,再評価法 とマインドフルネスには弱い負の相関(r = -.19, p < .05),アンガーマネジメントとマインドフルネス には弱い負の相関(r = -.22, p < .01)が見られた。 対象者の感情制御方略の群分類を行うために,標準化 した感情制御方略の下位因子でWard法によるクラスタ 分析を行なった。その結果,( 1 )非再評価群(再評 価法をあまり用いず,抑制法を用いる群),( 2 )非抑 制群(再評価法も抑制法もあまり用いない群),( 3 ) 感情調整群(再評価法も抑制法も用いる群),の 3 群 に分類されることが示された。感情制御方略のタイプ とマインドフルネスがアンガーマネジメントの差異を 検討するために,感情制御方略要因のクラスタ(( 1 ) 非再評価法群,( 2 )非抑制法群,( 3 )感情調整群) とマインドフルネス(高群,低群)を独立変数,アン ガーマネジメントを従属変数とした 2 要因分散分析を 行なった。なお,マインドフルネスの要因は,平均値 を基準として高群,低群に分類した。その結果,感情 制御とマインドフルネスの交互作用は有意ではな かった(F (2, 143) = .09, p = .91, partial η2 = .00)。感情制御方略における主効果は有意であり(F
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-17 331 -(2, 143)= 11.12, p = .00, partial η2= .14),マイ ンドフルネスにおける主効果は有意ではなかった(F (1, 143)= 2.23, p = .02, partial η2= .02)。Tukey 法による多重比較の結果,非再評価群は感情調整群よ りもアンガーマネジメントが有意に低く(p = .00), 非抑制群は感情調整群よりもアンガーマネジメントが 有意に低かった(p = .01)。 【考察】 本研究の結果から,感情制御方略とマインドフルネ スの交互作用によるアンガーマネジメントへの影響は 示されなかったため,本研究の仮説「マインドフルネ スが高い群において,再評価群は抑制群よりもアン ガーマネジメントが高い」は支持されなかった。その 要因として,( 1 )感情制御方略の選択にマインドフ ルネスは関連がない可能性,( 2 )怒りの起因によっ て再評価法,抑制法どちらも組み合わせて感情を処理 している可能性の 2 点が考えられた。その一方で,非 再評価群と非抑制群にはアンガーマネジメントで有意 な差はみられなかったが, 非再評価群と感情調整群, 非抑制群と感情調整群にはアンガーマネジメントで有 意な差異が見られた。また, 非再評価群は感情調整群 よりもアンガーマネジメントが高く, 非抑制群は感情 調整群よりもアンガーマネジメントが高かった。これ らのことから, 再評価法と抑制法をあまり用いない者 はアンガーマネジメントに差異はないが, 再評価法と 抑制法を共に用いる者は,再評価法を用いない者より も,アンガーマネジメントをより適切に用いることが 示された。今後の課題として,怒りの各カテゴリー別 での適切な感情制御方略についての検討や,現実場面 では多発する怒りを表出できないシチュエーション (抑制法を選ばざるを得ないシチュエーション)での アンガーマネジメントについての検討が必要である。