多文化共生社会で生きる力を育成するための国際理解学習に関する研究 -福岡市の地域性及び市民性を生かした学習指導プランづくりを通して-
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(2) 多文化共生社会で生きるカを育成するための国際理解学習に関する研究 ∼福岡市の地域性及び市民性を生かした学習指導プランづくりを通して∼. 教科・領域教育学専攻 総合学習系コース. MO6304H 岡田 憲二郎. 1 研究の背景と目的. 教育との関連について研究し,同教育における. 現在,日本国内では,これまでの「国際化」に. 多文化共生の位置付けについて考察する。. 加え,留学や就労等の目的で永住あるいは定住. (2)目本における多文化共生に関する先行研究. する外国籍住民(外国人登録者)の増加による「多. の検討. 文化化」が大都市を中心に進行している。今後,. 多文化共生をテーマとした先行研究事例の検. 我々日本人は,あらゆる国籍・文化を持つ人々. 討を通して,当職の多文化共生に関する学習の. と共に支え合い協力し合いながら生きる「多文化. 現状及び課題について考察する。. 共生」という考え方を持つことが強く求められる. (3)福岡市における外国籍住民の現状及び行政. であろう。. 上の取り組みに関する研究と考察. このような社会状況の変化をふまえ,学校に. 外国籍住民の増加によって多文化化が進む福. おいては,総合的な学習の時間を中心とした教. 岡市の現状及び同市の行政上の取り組みについ. 育活動を通して,国際理解,特に多文化共生の. て調べ,多文化共生に関する学習を行う一ヒで重. 視点を重視した取り組みを進めることが今後重. 視すべきこと等について考察する。. 要になってくると思われる。その際,生徒たち. (4)国際理解全般に関する福岡市中学校調査の. が実際に生活している都市を題材とし,その都 市の特性である地域性及び市民性を生かした学. 実施及び結果分析 同市内の公立中学校を対象として実施し,国. 習指導プランを作成・実施することにより,生. 際理解全般に関する取り組み状況及び傾向を把. 徒たちは自文化理解を深めると共に多文化共生. 握すると共に,取り組み上の問題点を探る。. を身近な課題としてとらえ,その都市における. (5)国際理解(多文化共生)に関する福岡市中学. 共生の実現に向けて自ら考え行動する態度を身. 生調査の実施及び結果分析 同市内の公立中学校の生徒を対象として実施. に付けることができるのではないかと考える。. そこで,本研究では,中学生を対象とし,国. し,同市の外国籍住民の現状に対する認識や多. 際化・多文化化が進行している福岡県福岡市を. 文化共生の社会に対する考え等を調査する。. 題材とする同プランの作成・実施を中心として,. (6)福岡市を題材とする多文化共生に関する学. 多文化共生の社会で生きる力を育成するための. 習指導プランの作成及び検証授業の実施. 国際理解学習について検討及び考察を行うこと. 本研究での考察や調査結果の分析等を基に,. とする。. 同市を題材とする多文化共生に関する学習指導 プランを作成し,その有効性を検証するための. 2 研究の方法と内容. 授業を実施する。. (1)日本における国際理解教育の変遷及び多文化. 教育との関連に関する研究と考察 国際理解教育の歴史,概念,目標及び多文化. 3 研究の成果 本研究における主な成果として,次の点が挙.
(3) げられる。. 多文化共生は必要であり,その実現に向けて自. まず,近年のさまざまな分野での急速なグロ. 分たちも何らかの活動に積極的に取り組むべき. ーバル化を背景に,国際理解教育における多文. であると考える態度が育成されることがわかっ. 化共生に対する重要度が高まり,中心的な課題. た。しかし,「課題解決能力及び主体的・創造. となりつつあることが明らかになった。. 的態度」及び「多文化共生に対して自分の考えを. 次に,多文化共生に関する学習を行う際,生. 持つ態度」については,意識の向上があまり見. 徒にどのようなカ・態度を身に付けさせるのか. られなかった。多文化共生における課題につい. を明確にして目標を設定することや多文化共生. て,生徒にじっくり考えさせる時間が十分でな. をいかに身近な課題としてとらえさせるか工夫. かったこと等がこの結果につながったのではな. すること等が重要であることがわかった。. いかと考えられる。. また,国内の他都市と同様,福岡市も外国籍 住民が増加していることや市内全域にわたって 同住民が生活していること等が明らかになった。. 4 今後の課題 今後,中学校における国際理解(特に法文化. それと同時に,同市が郷土を愛し,アジア,世. 共生)に関する学習を進めていく上で取り組む. 界に視野を広げる子どもたちの育成を教育目標. べき課題として,次の点が挙げられる。. に掲げていることや,多文化共生都市へと発展. まず,多文化共生に関する学習をより効果的. することを目指してさまざまな施策を講じてい. な内容にするために,自ら課題を見つけ,設定. ること等もわかった。. し,解決の方法を考えるために必要な時間の確. さらに,同市が国際化・多文化化に対応した. 保,話し合いの進め方及び「文化的多様性」と「相. 取り組みを進めている一方,市内の多くの公立. 互依存」を理解させるための手だての工夫,外. 中学校においては,国際理解の重要性が十分に. 国籍住民の人権を尊重する視点をより重視した. 認識されておらず,学校経営方針及び教育目標. 取り組み等が必要であると考えられる。. の中に国際理解に関する内容が盛り込まれてい. 次に,3年間を通しての国際理解学習指導計. ないことや単発的な取り組みしか行われていな. 画を作成し,総合的な学習の時間を中心とする. いこと等が明らかになった。. 全ての教育活動にわたって系統的かっ発展的な. これらの研究結果及び考察をふまえ,同市を. 自文化理解・多文化共生の取り組みを学校全体. 題材とし,その地域性及び市民性を生かした多. で行うことが,多文化共生社会で生きる力・態. 文化共生の学習指導プラン(第3学年対象,全5. 度を育成するために不可欠であると思われる。. 時間)を作成・実施すると共に,授業実施前・後. さらに,各クラスにおける班長のリーダー性. に意識調査を行い,生徒が多文化共生社会で生. を向上させ,班の協力活動を促進させるための. きるカ・態度をどの程度身に付けることができ. 手だては,生徒一人ひとりがお互いの存在を認. たか検証を行った。. め合いながら学校生活を送る態度を育成するの. その結果,「自文化理解」「自文化尊重」「異文化. 理解・尊重」「異文化とのコミュニケーション」 「人権尊重」「多文化共生に対する肯定的・積極的. みならず,将来の多文化共生の実現へとつなが る大変重要な取り組みであると考えられる。 今後,本研究で得た成果及び課題をふまえ,. 態度」に対して,多くの生徒の意識が向上した。. 同市の多文化共生の実現に向けた取り組みをさ. その中でも,「自文化理解」及び「自文化尊重」に. らに推進していきたいと考えている。. 対する意識の向上により,同市に対する理解を 深めることが市民としての誇りを持つ態度へと. 主任指導教員 成瀬敏郎. つながること,さらには,同市の将来にとって,. 指導教員鈴木正敏.
(4) 多文化共生社会で生きるカを育成するための国際理解学習に関する研究 一福岡市の地域性及び市民性を生かした学習指導プランづくりを通して一 目 次. 第1章 研究の目的及び内容 第1節 研究の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 研究の方法と内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 1. 2. 第2章 日本における国際理解教育の歴史,概念,目標及び多文化共生 第1節 国際理解教育の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 国際理解教育の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第3節 国際理解教育の目標,学習領域及び多文化共生の位置付け・・・… 第4節 多文化教育との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ’. 3. 4 5 8. 第3章 日本における多文化共生に関する学習及び先行研究 第1節多文化共生に関する学習の経緯・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 多文化共生に関する先行研究の特徴とその検討・・・・・・・・… 1 外国人労働者の現状を基にした社会科の取り組み・・・・・・・・… 2 シミュレーション教材を用いた取り組み・・・・・・・・・・・・… 第3節 多文化共生に関する学習の問題点・・・・・・・・・・・・・・…. 10 11 11 16 20. 第4章 福岡市における外国籍住民の現状及び行政上の取り組み 第1節 外国籍住民の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 行政上の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 福岡市教育改革プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 2 福岡市国際化推進計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 21 22 22 25. 第5章 福岡市公立中学校における国際理解に関する取り組み状況及び問題点 第1節 国際理解に関する中学校調査・・・・・… 9・・・・・・・… 32 第2節 国際理解に関する取り組み上の問題解決に向けて・・・・・・・… 40 第6章 福岡市を題材とする多文化共生学習指導プランの作成及び実際 第1節 福岡市を題材とする多文化共生学習指導プランの作成・・・・・… 1 地域性及び市民性を生かした学習指導プラン作成の意義・・・・・… 2.国際理解(多文化共生)に関する生徒意識調査及び結果・・・・・… 第2節 福岡市を題材とする多文化共生学習指導プランの実際・・・・・… 1 福岡市の公立中学校における検証授業・・・・・・・・・・・・・… 2 検証授業における評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第3節 事前意識調査及び事後意識調査・・・・・・・・・・・・・・・…. 42 42 42 47 47 70 71. 第7章 研究の成果及び今後の課題. 第1節 研究の成果・・・・・・・・・… ’.●’”●●●●●”●● 77 第2節 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・… ●●’”●●●’ 82 引用・参考文献及びURL・・・・・・・・・・・…. ●’●●’”●●●’ 87. 巻末資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 90. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 121. 1.
(5) 表の一覧 表1 表2 表3. 5つの学習レベルの問題内容及び学習方法・・・・・・・・・・・・・… 17 評価の観点及び評価規準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 47 評価の観点及び所見・・・・・・… ●●●’●●’●●”●●’●’●70. 図の一覧 図1 図2 図3 図4 図5 図6 図7. 学習領域の構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 学校種別生徒数の割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 在籍期間別生徒数の割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 母語別生徒数の割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 福岡市の国籍別登録者数・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 福岡市の区ごとの登録者数・・・・・・・・・・・・・・・・・… 福岡市の在留資格別登録者数・・・・・・・・・・・・・・・・…. 図8−1 図8−2 図8−3 図8−4 図8−5 図8−6 図9−1 図9−2 図9−3 図9−4 図9−5 図9−6 図9−7 図9−8. 第1次自己評価1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 50 同 自己評価2・・・・・・・・・・・・・・… ●’●●●●●50 向 自己評価3・・・・… … 。・・・・… 。・… 。50. 図10−1 図10−2 図10−3 図10−4 図10−5 図10−6 図10−7 図11−1 図11−2 図11−3 図11−4 図11−5 図11−6 図12−1 図12−2 図12−3 図12−4 図12−5. 向 心 向. 自己評価4・・・・… 自己評価5・・・・… 自己評価6・・・・…. ・・・・・・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・…. 7 10 10 11 21 22 22. @ 51 @ 51 @ 51. 第2次自己評価1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 画 面. 同 工 画. 面 同. 自己評価2・・・・… 自己評価3・・・・… 自己評価4・・・・… 自己評価5・・・・… 自己評価6・・・・… 自己評価7・・・・… 自己評価8・・・・…. 54. ・・・・… 。・。・・… 、・・54 ・・・・・・・・・・・・・・… @ 54 ・・・・・・・・… @ の・・… ・・・・・・・・・・・・・・…. …. 55. @ 55. 。・・・・・・・・・・…. ・・・…. @ 。・・・・・・・…. ・・・・・・・・・・・・・・…. 55. 56. @ 56. 第3次自己評価1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 同 同. 点 同 同 同. 自己評価2・・・・… 自己評価3・・・・… 自己評価4・・・・… 自己評価5・・・・… 自己評価6・・・・… 自己評価7・・・・…. 59. 60 ・・・… @ 。・・・・・・・… 。・60 ・・・・・・・・… @ 。… @ 。・・・・・… 60 ・・・・・… @ 61 ・・・・・・・・・・・・・・… ・。・・・・・・・・・… @ 。・・61 61 ・・・・・・・・… @ 。・・…. 第4次自己評価1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 同. 同 同 甘 甘. 自己評価2・・・・… 自己評価3・・・・… 自己評価4・・・・… 自己評価5・・・・… 自己評価6・・・・…. ・・・・・・・・・… @ 。・…. ・・・・・・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・… ・・。・・・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・…. 63. 64. @ @ @ @. 64 64 65 65. 第5次自己評価1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 68 同 自己評価2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 6g 同 自己評価3・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 69 同 自己評価4・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 69 同 自己評価5・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 70. u.
(6) 図13−1 図13−2 図13−3 図13−4 図13−5 図13−6 図13−7 図13−8. 意識調査結果①・・・・・・・・・・・・・・・… ●・●●●’●72 意識調査結果②・・・・・… ●・・●’●●●”●’●’●●’72. 意識調査結果③・・・・・…. ●・・●●●”●.’●●●’”73. 意識調査結果④・・・・・・…. o”●●”●●●”●’●●74. 意識調査結果⑤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 74 意識調査結果⑥・・・・・・・… .’●..”●●●●●.●’75 意識調査結果⑦・・・・・・… ’.●●●●●●●●●’”●●75 意識調査結果⑧・・・・・・・・・・・… ●’●’●・”●●●76. 111.
(7) 第1章 研究の目的及び内容 第1節 研究の背景と目的 「国際化」という言葉が日本国内の多くの分野で頻繁に使われるようになって久しい が,現在においても,行政レベルから民間レベルに至るまで,外国との交流活動や協力 活動等がさまざまな形で行われており,国際化はいっそうの進展を見せている。また, 留学や就労等の目的で来日し,永住あるいは定住する外国籍住民(外国人登録者)も全国. 各地で年々増加の傾向にあり,これまでの国際化に加えて,「多文化化」という状態が 大都市を中心に拡大しっっある。今後,我々日本人は,単一あるいは少数の文化から多 文化の状態へと移行していく社会で生活していくために,自国及び他国の文化を理解し 尊重する態度を持ち,さらに,あらゆる国籍・文化を持つ人々と共に支え合い協力し合 いながら生きる「多文化共生」という考え方を持つことが強く求められるであろう。. このような社会状況の変化をふまえ,学校においては,総合的な学習の時間を中心と した教育活動を通して,国際理解,特に多文化共生の視点を重視した取り組みを進めて いくことが重要になってくると思われる。その際,生徒が実際に生活している都市を題 材とし,その都市の特性である地域性及び市民性を生かした学習指導プランを作成・実 施することにより,生徒は自分たちの文化に対する理解をよりいっそう深め,その都市 の市民であることに誇りを持つと共に,多文化共生を自分たちの身近な課題としてとら え,その都市における共生の実現に向けて自ら考え行動する態度を身に付けることがで きるのではないかと考える。. 「活力あるアジアの拠点都市」を目指す福岡県福岡市には,古代から近隣国の中国・ 朝鮮を中心とした大陸との交流を行い,多くの国々からもたらされる多種多様な文化を 受け入れながら発展を遂げてきたという歴史がある。また,同市民には,千年以上前か ら続く伝統行事や全国的に有名な祭りのみならず,アジアを中心とした国々の相互理解 を深めるための大規模な国際イベントも毎年盛大に行う等,明るく開放的かつ国際的で あるという性格的側面がある。同市も他都市と同様,外国籍住民が年々増加の傾向にあ り,地域や職場,学校等さまざまな分野での多文化化が確実に進行している。そのため,. 同市内の学校における国際理解の取り組みでは,上記の地域や市民に関する特性等を十 分に生かしっっ,同市の多文化共生について考えを深めさせることが重要であると思わ れる。. 以上の点から,21世紀の地球市民を目指し,多文化共生社会で生きる力・態度を育 成するための中学校段階における国際理解学習について研究を行うという目的により, 本研究主題を設定した。. 1.
(8) 第2節 研究の方法と内容 本研究は,主に以下の方法により進めることとする。. (D日本における国際理解教育の変遷及び多文化教育との関連に関する研究と考察 国際理解教育の歴史,概念,目標及び多文化教育との関連について研究し,国際理 解教育における多文化共生の位置付けについて考察する。 (2)日本における多文化共生に関する先行研究の検討. 多文化共生をテーマとした先行研究事例の検討を通して,日本の多文化共生に関す る学習の現状及び課題について考察する。 (3)福岡市における外国籍住民の現状及び行政上の取り組みに関する研究と考察. 外国籍住民の増加によって多文化化が進行している福岡市の現在の状況及び同市の 行政上の取り組みについて調べ,同市の多文化化の特徴及び多文化共生に関する学習 を行う上で重視すべきことについて考察する。 (4)国際理解全般に関する福岡市中学校調査の実施及び結果分析. 同市内の公立中学校(全68校)を対象として実施し,国際理解全般に関する取り 組みの実施状況及び傾向を把握すると共に,取り組みを進める上での問題点を明らか にする。. (5)国際理解(多文化共生)に関する福岡市中学生意識調査の実施及び結果分析. 同市内の公立中学校に通う生徒を対象として実施し,同市の外国籍住民の現状に対 する認識はどの程度であるのか,多文化共生の社会に対してどのような考えを持って いるか等について調査する。. (6)福岡市を題材とする多文化共生に関する学習指導プランの作成及び検証授:業の実施. 上記の研究内容に対する考察や各調査結果の分析等を基に,同市を題材とする多文 化共生に関する学習指導プランを作成し,その有効性について検証するための授業を 実施する。. これらの研究を通して,さまざまな視点から多文化共生をとらえ,その重要性につい て考察すると共に,同市の地域性及び市民性に関する学習によって自文化理解を深める ことが同市の多文化共生の実現にどのように結びついていくのかを探り,本研究主題に せまりたいと考えている。. .2,.
(9) 第2章 日本における国際理解教育の歴史,概念,目標及び多文化共生 第1節 国際理解教育の歴史 日本の国際理解教育は,1951年に日本がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)へ 加盟したことを契機として始まった。戦争という悲惨な体験から,二度と同じ過ちを繰 り返さないために教育の役割を重視し,特に国際理解のための教育のあり方を検討する ことがユネスコの課題とされ,日本も他の加盟国と共にこれにならった。. 1954年から1970年まで,日本ユネスコ国内委員会は,国際理解教育の普及推 進のための事業の1つとして,各種資料の刊行・配布を行い,その中に『学校における 国際理解教育の手引き』(1958)があった。これは,国際理解教育の理念や歴史,教育 課程における位置付け,実践事例等を含んでおり,学校における国際理解教育実践のた めの手引き書という性格を持っていた。. 1970年代は,国際理解教育の推進強化についての国際社会の関心が高くなってい った時期であった。日本でも,1974年のユネスコ総会で採択された「国際理解と国 際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧 告」は,国際理解教育に関する新しい視点を示すものだとして,各方面から新しい手引 き刊行の要望が高まった。その結果,日本ユネスコ国内委員会編として『国際理解教育 の手引き』(1982)が発行され,平和な人間の育成,人権意識の二二,自国認識と国民 的自覚の二二,他国・他民族・他文化の理解の増進,国際的相互依存関係と世界の共通 重要課題の認識に基づく世界連帯意識の形成,国際協調・国際協力への実践的態度の養 成という6点の目標が挙げられた。. 1984年から1987年まで,内閣総理大臣の諮問機関として設置された臨時教育 審議会は,第2次答申の中で国際理解教育の必要性とその内容についての基本的事項を. 示した。同審議会は,21世紀初頭を展望する際,主要な趨勢の1つとして国際化の進 展を挙げ,「次世代の日本人にはこれまで以上に深く,広い国際社会に関する認識,す なわち,世界各国の文化,歴史,政治,経済等に関する認識を要求されるであろうし,. 異文化と十分に意思の疎通ができる語学力,表現力,国際的礼節,異文化理解能力等が 求められることになるであろう」と述べた。また,これとあわせて,国際社会における 日本文化の歴史,伝統,個性等の特殊性,共通性,普遍性を正しく認識して行動できる 日本人としての文化的素質・能力を身につけることの必要性も指摘した。さらに,最終 答申では,「新しい国際化に対応できる教育の実現を期することは,我が国の存立と発 展にかかわる重要な課題である」と述べている。. 旧文部省内に設置された教育課程審議会が1987年に出した答申においても,国際 理解を深め,我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すべきであるとの考えが 一3..
(10) 示され,「国際社会に生きる日本人」の育成が学校教育の目標の1つとして位置付けら. れることとなった。これを受けて,旧文部省は,1989年告示(1992年小学校実 施,1993年中学校実施)の学習指導要領において国際理解についてふれ,外国語の 記述に「外国語で積極的にコミュニケーションを図る態度を育て,国際理解の基礎を培 う」という一文を加え,他の教科の記述においても国際理解の推進に言及した。. その後,1998年告示(2002年記・中学校実施)の現行指導要領において,児 童・生徒が自発的に教科横断的・総合的な課題解決学習を行う「総合的な学習の時間」. が導入され,国際理解が重要課題の1つとして位置付けられた。現在,多くの学校にお いて,国際理解を推進するためのさまざまな取り組みが行われている。. 第2節 国際理解教育の概念 日本の国際理解教育について,佐藤(2001)は,「国民国家という枠組みのもとで『ナ ショナルアイデンティティ』の形成をめざした『ナショナリズムとしての国際理解教育』 と地球市民の育成をめざした『グローバル教育』とが並存する形で展開されてきたが,. 近代を形成してきた『国民国家』という枠組みが揺らぎ,その歴史性と虚構性が明らか になり,多元的なアイデンティティを模索する『ポストナショナリズム』という時代状 況の中で,’国際理解教育もまた新しい視点から再考する必要がある」(p.19)と述べて いる。. また,佐藤は,「ポストナショナリズムの時代の教育に求められるものは,ナショナ ルアイデンティティの獲得でも,抽象化・理想化された,実態のない『コスモポリタン』. の育成でもなく,『ハイブリッドなディアスポラ』的人間像(個人が国家という枠組み の中だけで生きるのではなく,アジアの一員として,あるいは地球市民として生きると いうように,多元的かつ混合的なアイデンティティを持つ存在)をめざすことである」 (pp.31−32)と訴えると共に,「ポストナショナリズム時代の教育は,多元主義を柱と. するものであり,その多元性を貫く普遍性の原則は『共生』であろう」(p.33)と述べ ている。. 日本におけるこれまでの国際理解教育は,概念そのものが決して明確ではなく,理論 的体系も確立されていなかった。年間を通した長期的な取り組みから交流会等の単発的 な取り組みに至るまで,各学校ごとにさまざまな取り組みが行われてはきたものの,全 体としての系統性及び統合性を欠いていたと言わざるを得ない。. 佐藤の指摘及び提案は,国境を越えた人々の動きが世界規模で加速している現在の状 況を的確にとらえたものであると同時に,学校におけるこれからの国際理解教育の方向 性を定める上で大変重要な意味を持つものであると考えられる。本研究においても,将 来の地域社会,日本,さらには国際社会を担っていく中学生が,多元的でハイブリッド 一4一.
(11) なアイデンティティを獲得し,自分たちと異なる文化を持つ人々と共に生きる地球市民 となるために何をすべきであるのか,また,国際化・多文化化が進行している福岡市に おいて多文化共生を実現するために何に取り組むべきであるのかを追究していきたいと 考えている。. 第3節 国際理解教育の目標・学習領域及び多文化共生の位置付け 日本において国際理解教育の取り組みが始まって以来,各学校でさまざまな目標及び 学習領域が設定され,多くの実践が進められてきた。しかし,前節での佐藤の指摘のよ うに,ナショナリズムの視点とグローバリゼーションの視点が並存し,国際理解教育そ のものの概念及び理論に明確さを欠いていたため,学校間で目標及び学習領域に対する 考え方に差異が見られたり,長期的な見通しを持って系統的な取り組みを行うことがで きなかったりする等,不安定とも言える時期が続いてきた。 今後,国内外を問わず,あらゆる分野において,いっそう国際化・三文二化が進行し,. 自分たちと異なる文化を持つ人々とのかかわりがこれまで以上に増加することが予想さ れる。そのため,これからの国際理解教育では,やがて到来する可能性の高い多文化社 会の中で生きていくために必要な力や態度を育成することが強く求められるであろう。. そのため,国際理解教育の目標及び学習領域についても,今後の世界の動向をふまえた 上で,より明確かっ具体的なものが設定されるべきであると考える。. そこで,本研究では,1991年の発足以来,国際理解教育につし}てさまざまな角度 から研究を重ね,その発展に努めている日本国際理解教育学会によって発表された研究 成果報告書『グローバル時代に対応した国際理解教育のカリキュラム開発に関する理論 的・実践的研究』(2006)において設定されている目標及び学習領域を参考モデルとし て検討し,多文化共生の位置付けについて考察を行うこととする。. (D国際理解教育の目標 同学会では,国際理解教育は次のような人間の育成を目指すとしている。 人権の尊:重を基盤として,文化的多様性及び相互依存性への認識を深める. と共に,異なる文化に対する寛容な態度と,地域・国家・地球社会の一員 としての自覚をもって,地球的課題の解決に向けてさまざまなレベルで社 会に参加し,他者と協力しようとする意思を有する人間及び情報化社会の 中で的確な判断をし,異なる文化を持つ他者ともコミュニケーションを行 う技能を有する人間を育成する。 (日本国際理解教育学会,2006,p.15). これを受けて,国際理解教育の目標を,授業評価上の便宜を考慮して,次の4つの側 面に分けて設定している。 一5一.
(12) ①体験目標 本来,体験とは何らかの学習目標を達成するための方法と考えられる。. しかし,総合的な学習の時間における体験的な学習を重視し,体験する こと自体の中に,学習者にとってのさまざまな気づきや発見,喜びや感 動があり,それらの重要性を授業者がより意識的にカリキュラムに組み 込むために,あえてこの目標を設定する。具体的な体験目標としては, 「(人と)出会う・交流する」,「(何かを)やってみる・挑戦する」,「(社. 会に)参加する・行動する」という三つの型を設定することができる。. ②知識・理解目標 「文化的多様性」,「相互依存」,「安全・平和・共生」について十分に理 解することを挙げる。. ③技能(思考・判断・表現)目標 「コミュニケーション能力」,「メディア・リテラシー」,「問題解決能力」. の向上を挙げる。. ④態度(関心・意欲)目標 「人間としての尊厳」,「寛容・共感」,「参加・協力」を挙げる。. (PP.1546より抜粋) これまでの一般的な国際理解教育では,目標として「自国文化理解」,「他国文化理解」,. 「コミュニケーション能力の向上」,「国際協調精神の育成」等の項目が多く用いられてき. た。しかし,それぞれの枠組みは決まっているものの,明確な基準がなく,曖昧な部分 が多かったため,長期的な見通しを持って取り組みを行うことが困難であったり,学校 によって取り組み内容に差が生じたりする場合が多く見られた。. 今回,同学会によって設定された目標は,国際化・多文化化が進行している国内の状 況をふまえ,将来の日本及び国際社会を見据えた内容となっているだけでなく,学校の 教科指導における観点別評価を意識し,総合的な学習の時間における体験的学習を想定 したものとなっている。したがって,国際理解に関する取り組みを行う際,教員間で共 通理解を持つこと及び学校全体で推進することがこれまで以上に可能になると考えられ る。. これら4つの目標や学校ごとの地域的課題等をふまえた国際理解の取り組みを行うこ とにより,生徒の国際理解に対する意識はいっそう向上するものと思われる。. (2)国際理解教育の学習領域及び多文化共生の位置付け. 同学会では,国際理解教育の学習領域の設定を,次のように行っている。. A多文化社会 学習内容として「1文化理解」. 「2文化交流」,_L陛生」_を設 .6..
(13) 定する。. Bグローバル社会 学習内容として「1私たちと世界のつながり(相互依存)」,「2情報化」 を設定する。. C地球的課題 学習内容として「1人権」,「2環境」,「3平和」,「4開発」を設定す る。. D未来への選択 学習内容と・して「1歴史認識」,「2市民意識」,「3地域・社会への参 加,国際協力」を設定する。. (下線,筆者,pp.19−24より抜粋). 同報告書では,学習領域の構造は,どの領域を学習しても知識・理解のみに終わるの ではなく,「D未来への選択」に何らかの形でつながっていくのが望ましい,あるいは,. 領域A・B・Cの中にDが組み込まれることもありうるだろうとしており,これらを図 式化したものとして,下の図1を示している。. 変えるのは私たち (D未来への選択) 1.. 過去があって今がある(歴史認識). 2.. 私は社会の一員(市民意識). 3.. 私にも何かできる(参加・協力).. 世界はいろいろ. みんなつながりあっている. 私の安全,世界の平和. (A多文化社会). (Bグローバル社会). (C地球的課題). 1.違うけれど同じ(文化理解). 1.つながりに気づく(私たちと. 2.違うから面白い(文化交流) 3.’血いとつ. ’ 文ヒ共生. 世界のつながり). 2.あふれる情報の中で(情報化). 1.安全に暮らしたい(人権) 2.地球が危ない(環境) 3.暴力はいらない(平和). 4.みんながより安全に暮らすた めに(開発). 図1 学習領域の構造(下線,筆者,p.25). 一7一.
(14) 前述の目標と同様,学習領域についても,国際化・多文化化が進行している現状や将 来予想される日本・世界の状況等をふまえた上で,それぞれが設定されている。また,. 知識・理解の段階にとどまらず,自分で考え行動する段階を重視している点は,総合的 な学習の時間のねらいの1つである「自ら課題を見つけ,学び,考え,主体的に判断し, よりょく問題を解決する資質や能力を育てること」と合致している。 さらに,本研究の重要なキーワードである「多文化共生」は,学習領域「A多文化社会」. の第3の学習内容として設定されている。このことは,これからの国際理解教育が,今 までの自文化理解・異文化理解中心の段階から,相互理解さらには多文化理解・共生中 心の段階へと移行することを意味しており,多文化共生に対して重要な位置付けを行っ ていることがわかる。. 近年,「内なる国際化・グローバル化」に対して,国内の各分野からの関心が集まっ ているが,今後,多文化共生に対する注目度がよりいっそう高まり,国際理解教育の中 心的課題となることが十分に予想される。. 第4節 多文化教育との関連 多文化共生に関する研究を進める際,多文化・多民族社会で生きる人々の文化的・言 語的権利を基に構成されている多文化教育についてふれることは重要であり,不可欠で あると考える。本節では,多文化教育の概念及び内容を通して,多文化共生の取り組み の重要性について考察を行う。. 朝倉(2003)は,多文化教育とは,民主主義的な文化的多元主義に立脚した教育であ. るとし,この考え方は,「H.カレンら(アメリカ)による多元主義の理論が,1960 年代のアフリカ系アメリカ人(マイノリティ)を中心とする公民権運動の動乱を経て, 70年代に入って再定義化・体系化されたものである」(p.3)と述べている。さらに,. この背景について,「彼ら(当時のマイノリティの人々)は,文化,言語による差別に 抵抗し,全ての文化,言語の平等な処遇を求めて民主主義的な文化的多元主義を支持し た」(p3)と分析している。. 今日,民主主義的な文化的多元主義は,「種族的,宗教的,言語的少数民族または原 住民の文化,宗教,言語の保持及び使用の権利」として,『国際人権規約(B規約)』第. 27条及び『子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)』第30条という形で国際 条約化され,日本を含む多くの国々によって批准されている。また,この考え方は,国 籍・民族を問わず,あらゆる立場の人々がそれぞれのアイデンティティを保持すると共 に,自分と異なる文化の存在を認識・尊重し,多文化共生の実現を可能にするという点 で大変重要であると考える。. これまで,日本の多くの学校で行われてきた一般的な国際理解教育は,自国の文化と 一8..
(15) 他国の文化を明確に区別した上で,自分たちと異なる文化を持つ他者あるいは外部集団 に対する理解を中心として進められる傾向が強かった。しかし,近年の国内における急 速な国際化・多文化化の流れを受け,文化的多様性及び相互依存に対する理解を中心と した取り組みを新たに行う学校が=増えつつある。これは,国際理解教育の中で,多文化. 教育の中心的概念である民主主義的な文化的多元主義が占める割合が大きくなり,次第 にその重要性が高まっていること,言い換えれば,日本国内の各都市が,アメリカ合衆 国をはじめとする世界各国の主要都市のような多民族・多文化の状態へと確実に近づい ていることを意味していると考えられる。. 本章で既に取り上げた佐藤(2001)の指摘及び日本国際理解教育学会(2006)が設定 した目標・学習領域の内容からも明らかな通り,今後,学校における国際理解教育は,. 特に多文化共生という視点を重視した取り組みが重要になっていくものと思われる。そ の際,民主主義的な文化的多元主義という考え方を中心に据えることにより,生徒が多 文化共生を自分たちにとって現実的かっ身近な課題として受けとめる態度及び自分たち の生活する都市における多文化共生の実現に向けて自ら考え行動する態度の育成を可能 にするのではないかと考えられる。. 次章では,学校における多文化共生の学習が具体的にどのように行われているのか, 学校の国際化・多文化化の現状をふまえながら検討・考察を行う。. 一9一.
(16) 第3章 日本における多文化共生に関する学習及び先行研究 第1節 多文化共生に関する学習の経緯. 1980年代以降,中国帰国者や日系南米人をはじめとするニューカマーの来田によ り,山本で生活する外国人は増加し,多文化化・多国籍化した。90年代前半から,研 究者や市民団体等によって外国人の定住化傾向が指摘され,90年代後半には,外国人 と共生する社会をどのように築いていくかという課題が多くの地方自治体によって重視 されるようになってきた。. この流れに伴って,言葉や生活習慣等の異なる外国籍児童生徒も学校現場で増加の傾 向にある。文部科学省の調査(20◎5)によると,優本の公立学校に在籍する,日本語指. 導が必要な外国i籍児童生徒の数は2005年末現在,20,692人である。 まず,学校種別の在籍生徒数をみると,小学. 校は14,281人,中学校は5,076人,高 等学校は1,242人,盲・聾・養護学校(現 魏 小・申学校. 特別支援学校)は70人,中等教育学校は23. 蔑等学校. 人となっており,割合では,小・申学校が93.. ,盲・聾養護掌校. 6%,高等学校が6%,盲・聾・養護学校が0.. ■中等教幽魂. 3%,中等教育学校が0.1%をそれぞれ占め ている(図2)。. また,在籍期間別にみると,在籍二二が「6. ヶ月未満」の者は前年度よりも減少し,「2年. 図2学校種別生徒数の割合. 以上」の者が全ての学校種で最も多く9,13. ※文科省調査(20◎5)を基垂こ筆者力婁作成. 5人であり,全体に占める割合も44.1%と なっている(図3)。. さらに母語別にみると,ポルトガル語は7,. 562人,中国語は4,460人,スペイン語 は3,156人,その他の言語は5,514人と なっており,ポルトガル語を母語とする者が最 も多く,全体の4割近くを占め,ポルトガル語,. 中国語及びスペイン語の3言語で全体の7割以. / . β 馨 /195%. 漁. 鷺. 舞. 藪鱗 雛. 、 雛 ㌦随.」声. 翻 2年肚 鰯怖肚2蘇満 ■6硝以上稗麟 □ 6ケ殊溝. 上を占めている(図4)。. 毎年調査を開始した三999年以降,外国籍 児童生徒数は最多となっており,学校の多文化. 図3在籍期間別生徒数の割合. 化は今後いっそう進行することが予想されてい. ※文科省調査(2005>を基に筆者が作成. 一茎◎一.
(17) る。このような状況に対応するために,外国籍 児童生徒の受け入れを行っている学校では,日 鰯ポルトガル語. 本語の習得及び学校への適応に関する指導や心. 中国語. のケアに関する取り組み等が行われ,その内容. ■スペイン語. 及び方法は,年々改善されている。. 「一iその他の言語. 一壇遜鎚〆. 図4母語別生徒数の割合 ※文科省調査(2005)を基に筆者が作成. 一方,外国籍児童生徒を迎える側である一般の児童生徒を対象とした多文化共生に関 する取り組みも,大都市の学校を中心に行われるようになり,次第に全国へと広がりを 見せつつある。中学校においては,社会科の公民的分野あるいは地理的分野の中で「多 文化社会」というテーマが取り上げられているが,近年,総合的な学習の時間や道徳等 において,日本あるいは自分たちの住む都市の多文化化に対する理解を深め,望ましい. 共生のあり方について考える時間を設ける学校も少なからず見られるようになってき た。しかし,地域の実状等によって,学校問で記文化鳥に対する意識の差があり,取り 組みの内容もそれぞれ異なるため,多くの学校で試行錯誤の状態が続いている。このこ とから,現在の段階での中学校における多文化共生の取り組みは,確実に進行している 学校の多文化化に十分に対応できているとは言い難い状況にあると考えられる。 今後,各学校においては,多文化共生の重要性に対する共通理解を全体で図ると共に,. 日本及び慮分たちの生活する都市の多文化共生を実現する上でどのような取り組みが必 要かつ有効であるのか十分に検討し,実践していくことが強く求められるであろう。. 次節では,申学校における一般生徒を対象とする多文化共生の取り組みの実践例及び 多文化共生のためのシミュレーション教材を検討し,その具体的な内容について考察を 行う。. 第2節 多文化共生に関する先行研究の特徴とその検討. 1 外国人労働者の現状を基にした社会科の取り組み. (D研究について. この研究は,2005年11.月18露,第37回九州中学校社会科教育研究大会にお ける地理的分野の公開授業(単元「世界と属本の産業・資源」全7時間の第6次)とし. て,鹿児島県鹿児島市立K中学校の第2学年3組(26名)を対象に実施されたもので 11.
(18) ある。. まず,授業の主題「外国人労働者を通して多文化共生社会を考える」に対する考察と して,次のように記されている。. ・「国際化」「ボーダレス化」の流れに伴い,文化や言語の違う多くの外 国人を国内に迎えてきている。. ・1990年の「出入国管理及び難民認定法(入管法)」の改正後,日本 で生活する外国人の増加傾向が続いている。彼らは,日本人と比べて賃 金の低い外国人労働者として,日本人が敬遠しがちな中小企業等の単純 労働で活躍し,日本経済を支えているという側面がある。. ・鹿児島県内でも,鰹節の工場やアパレル関係の工場等で多くの中国人研 修生(技能実習生)が働いており,外国人が少しずつ身近な存在となり つつある。. ・外国人労働者の増加には,先進国共通の悩みである「少子高齢化」の問. 題が関わっている。2007年以降の日本の総人口の減少や「団塊の世 代」の定年退職等深刻な労働人口の減少,経済の活力低下の問題が予想 される中,さらなる外国人の受け入れも考えられる。その他にもさまざ まな面での外国人の増加が予想され,日本社会はますます多民族,多文 化化しつつあると言える。. ・社会状況の変化から,職場や社会生活等で言語や文化の違いによるトラ ブルも予想される。これらの問題に対処するために,それぞれの文化や 民族の固有の価値等を認め合う市民的資質の育成を図ることが重要であ り,多文化共生社会を考える意味はそこにある。. (公開授業指導案,p3より抜粋) また,授業の実施前に,日本にいる外国人に関するアンケート調査(生徒の実態調査). が行われ,調査結果及び考察について,次のように記されている。. 質問1外国に行ったことがあるか。. はい:2人 いいえ:24人. 質問2外国人の存在を身近に感じるか。 はい:2人 いいえ:24人 質問3 日本を訪れる外国人の出身国はどこが多いと思うか(自由記述で 3つ以内)。. アメリカ(22人),イギリス(10人),中国(8人),韓国(7 人),ブラジル(2人),その他イタリア,ロシア,アフリカ,. フィリピン 質問4日本にはどれくらいの外国人が住んでいると思うか。. 約200万人(11人),約20万人(9人),約2万人(5人), 一12一.
(19) 約2000万人(1人) 質問5. 日本に住む外国人の出身国はどこが多いと思うか(自由記述で3 つ以内)。. アメリカ(18人),中国(9人),韓国(7人前,イギリス(5 人),フィリピン(2人),その他北朝鮮,フランス,イタリア, カナダ,モンゴル. 県内では比較的外国人の多い鹿児島市の中学校にありながら,市内中心. 部から約40分という地域の特性もあり,身近に外国人の存在を感じられ ないという実態がわかった。また,実際に日本に住んでいる外国人やその 割合等,ほとんどイメージがない状態であることが明らかになった。 (同指導案,p.4). (2)研究の特徴及び内容. まず,授業の目標として2点を掲げている。第1に,「さまざまな資料から,日本の 産業の国際化に伴い,国内産業でも多種多様な形で外国人労働者への依存度が増えてき ているごとをとらえる(資料活用の技能・表現)」,第2に,「国内に外国人が増加し,. 多民族,多文化社会となりっつある中で,今よりいっそうお互いが理解し合って暮らす 共生社会のあり方を考える(社会的な思考・判断)」である。 次に,授業の学習過程は次の通りである。 主な発問・指示. 嘲・形態. 学習活動. 指導上の留意点. ・枕崎の鰹節工場の. 5分. ①現実には既に外国人に. ①工場で働く女性たちに. 様子を見てみよう。. 一斉. 依存している面を知る。. 注目させ,枕騎の鰹節. ・プロジェクター(枕崎. ②本時の学習課題を提示. は彼女たち(中国入)に. の鰹節工場の様子の. 支えられている側面が. ビデオ,約2分). 学習内容と情報提示. 〈問題提起〉. 何か気づくことは ないですか?. する。. 鰹節等. あることに気づかせる。 産業の国際化が進み, 外国人への依存度が高まること. ②この現実から疑問点や. で,私たちの暮らしはどのように変化し,私たちはど. 課題を考えさせ,学習. うすべきなのだろうか?. 課題を提示する。. 〈本質究明〉. E目本に住んでいる. 5分. 外国人について調. 一. 一. }. 噌. 曜. 騨. 鞠. 一. 噛. 層. 一. 脚. 一. 一. ,. 一. ・急に増えてきた外. 人について,資料を基. 個. 一斉. べてみよう。 一. ③日本に住んでいる外国. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 5分. ③統計資料等を基に調. ・統計資料. べさせる。. ・ワークシート. に調べる。 一. 一. 一. 一. 一. 甲. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. ■. 一. 冒. 一. 一. 雫. 騨. ④地図帳の資料から,. 急. 一13一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 噂. 一. 學. 一. 一. 哺. 一. ,. 騨. 噛. 卿. 辱. 騨. 一. 一. ④特に,1990年頃か. 一. 謄. 一. 一. 零. 一. 昂. 一. 甲. 一. 一. ・地図帳. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一.
(20) 1国人は何のために 1一斉. 1 激に増加したブラジル. 1. i ら急激に増加したブラ. やって来たのだろ. や中国出身者の多くが,. ジルや中国出身者に注. うか。. 外国人労働者として日. 目させる。. 本に来たことを知る。 ■. 一. 一. 齢. 偏. 冒. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. r. 一. 騨. 噌. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 鞠. 一. 一. 一. 一. 一. 需. 一. 膚. 層. 旧. 冒. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 陶. _. _. 一. 一. 冒. 嚇. 凹. 一. 一. 一. 一. 曜. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 人労働者が活躍する. 一斉. の具体例を示し,どの. きる仕事であることも. 職場の写真). 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. ■. ■. 一. 一. 口. 隔. 璽. 一. 鴨. 一. ・プロジェクター(外国. 指摘したい。 一. 一. 一. 一. 一. 噂. 騨. 耳. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 騨. 帰. 一. 一. 一. 一. 一. 旧. 3分. ⑥長引く不景気の中,リ. 一斉. ている現実と,失業率. ストラ等で失業率が高. は労働力が不足し. が高い日本の現状を対. いときにも,外国人労. ているのだろうか。. 比させっっ,単純に労. 働者は増加していたこ. 働力不足の問題ではな. とにもふれる。. 加したということ. _. たことや目本旨にもで. ⑥外国人労働者が増加し. ・外国人労働者が増. _. 働者が行っている仕事. 事をしているのか。. 一. 廓. 個. 3分. 一. 層. ⑤元々日本人がやってい. ような仕事か考える。 一. _. ⑤実際に多くの外国人労. ・外国人はどんな仕. 零. 一. 一. 一. 騨. 聯. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ,. ・プロジェクター(失業 率のグラフ). いことに気付く。 一. 鱒. 冒. ■. 一. ■. 一. 雪. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 騨. }. 嘘. 層. 一. 一. ・失業者も多く,日. 一. 一. 一. 一. ■. 4分. 一. ■. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 鴨. 瞬. 嘘. 一. 薗. 暫. 曹. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 幣. 嘘. 一. 一. 一. 一. 騨. 一. 一. 噌. 一. 一. ⑦職種や地域によって必. ⑦彼らの存在や彼らがや. 本人の労働力が余. 個. 要な人材を確保できな. っている仕事が日本経. っているのに,な. ペア. い現状を理解し,その. 済を支えている側由に. ぜ外国人労働者に. 一斉. 背景を考え,話し合う。. も気付かせる。. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 層. 脚. 鴨. 騨. 一. 一. 一. 一. 雪. 一. ■. 一. 一. 頼っているのだろ うか。一. 一. 層. 層. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 哺. 一. 噌. 葡. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 冒. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ・ビデオを見て,外. 10分. 国人が増加するこ. 個. 働者が定住している地. る労働人口減少により,. 「難問解決!ご近所の底. とによる目本人住. 一斉. 域を例に,日本人住民. 今後外国人がさらに増. 力」より,約5分). 民や外国人の悩み. や外国人の抱える生活. 加することが考えられ,. (問題)を考えよう。. 面での悩み(問題)に気. 多民族・多文化化が進. ⑧すでに多くの外国人労. ⑧人口減少社会到来によ. 付く。 一. 一 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ・それらを解決し,. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 10分. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. ■. 一. ・プロジェクター(NHK. むことにもふれる。 一. 一. 一. 贈. 一. ,. 膳. 鴨. 一. 脚. 嚇. 騨. 一. 一. 一. 寵. 齢. 響. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 璽. 一. 昂. 需. ⑨「多文化共生社会」の. ⑨「多文化共生社会」と. 騨. 噛. 卿. 一. 冒. 一. 一. 一. 磨. 一. 一. 一. 層. 幣. ロ. 一. 一. 一. 雪. ・プロジェクター(取り. 外国人と共生して. グループ. 実現に向けて,これら. いうキーワードを基に. 組み例,四日市市国. いくために,私た. 一斉. の問題解決の方法を考. 考えさせたい。先進事. 際共生サロンの報道. ちはどのような社. え,話し合う。その中. 例として,四日市市笹. ビデオ,約3分). 会をつくっていけ. で,それぞれの文化や. 川団地の例等を紹介し,. ばいいのだろうか。. 民族の固有の価値を認. 考えさせる参考にさせ. め合うことの大切さを. たい。住民レベルだけ. 理解する。. でなく,制度面での取 り組みも補足する。. 一14一. ・実物(パンフレット等).
(21) l. 1〈洞察〉 ・多文化共生社会の. 5分. 実現のために,自. 個. 分にできることを. 一斉. l. 1. ⑩「多文化共生社会」に. ⑩自分自身のこととして. ついて自分なりの考え. とらえさせる。. を持つ。. 考えよう。. (同指導案,p5). 最後に,評価として2っの項目を設定している。第1に,「さまざまな資料から,日 本の産業の国際化に伴い,国内産業でもさまざまな形で外国人労働者への依存度が増え. てきていることをとらえることができたか」,第2に,「国内に外国人が増加し,多文 化社会となりつつある中で,今よりいっそうお互いが理解し合って暮らす共生社会のあ り方を主体的に考えることができたか」である。. (3)研究の検討. 今回,この授業を先行研究事例として選んだ理由は,中学校の教育活動の中で多文化 社会に関する内容を取り扱っている社会科(地理的分野)において,多文化共生に向け た取り組みがどのように計画され,進められているのか把握・検討し,さらに効果的な 取り組みへとつなげる必要があると考えたからである。. この授業において検討すべき点として,次の3点が挙げられる。. 第1に,多文化共生社会で生きるために必要な力及び態度の提示である。この研究授 業の考察の中で,社会状況の変化から予想される言語や文化の違いによる問題に対処す るために,それぞれの文化や民族の固有の価値を認め合う市民的資質の育成を図ること が重要であるとしているが,資質の具体的な内容が示されておらず,どのような力や態 度を身に付ければ多文化共生社会で生きていくことができるのか明確になっていない。 例えば,多文化共生の実現に向けて,「目指す生徒の姿」という形で目標を設定し,その 上で授業を行う必要があるのではないかと考える。. 第2に,授業の構成のあり方である。前述の通り,この研究授業は全7時間の第6次 に当たるが,単元の発展的な学習の1つとして位置付けられており,多文化共生を取り 扱っているのはこの授業のみである。授業の前半は,日本の外国籍住民,特に外国人労 働者急増の背景にふれ,後半は,多文化共生社会を実現させるために何をすべきか考え させる内容となっている。多文化共生について考える際には,自文化理解及び異文化理 解を深めることや人権に対する意識を高めること等,さまざまな視点からのアプローチ が求められるが,果たしてこの授業のみで全てに対応することができるのか疑問を感じ る。多文化共生を社会科地理的分野の学習内容の1つととらえることは現実的な課題と して重要であるが,国際理解教育や人権教育等と連携した長期的かつ計画的な取り組み を行わなければ,単発的な内容で終わってしまい,多文化共生に対する生徒のよりいっ 15一.
(22) そうの意識向上は望めないであろう。. 第3に,多文化共生を身近な課題としてとらえることの必要性である。この研究授業 では,まず初めに鹿児島県枕崎市の鰹節工揚の様子をビデオで紹介し,その後,統計資 料等を基に日本全体の外国籍住民について取り上げ,先進事例として他県の団地のケー スを用いている。日本における多文化化の現状を知り,共生のあり方について考えるき っかけとしては効果的な授業内容になっていると思われる。しかし,生徒たちが生活し ている鹿児島県の外国籍住民に関しては,わずか5分間しかふれていない。多文化化は,. 今後,日本の各都市において起こり得る状況であり,生徒たちの実際の生活の中で外国. 籍住民との共生について考えさせることがますます重要になっていくものと考えられ る。この点を考慮すれば,例えば,鹿児島市の外国籍住民に関するデータを詳しく分析 したり,枕崎市の鰹節工場に勤める中国人研修生から直接話を聞いたりすることによっ て,生徒たちは多文化共生を自分たちにとって身近な課題としてとらえ,共生の実現に 向けて自ら考え行動する態度を身に付けることができるのではないかと思われる。. 2 シミュレーション教材を用いた取り組み. (1)研究について. シミュレーション教材「ひょうたん島問題∼多文化共生をめざして∼」は,同志社女. 子大学の藤原孝章教授が1998年(当時,富山大学助教授)に発表した論文「多文化 共生のジレンマーシミュレーション教材『ひょうたん島問題』の作成を中心に一」を基. に1999年に作成,2000年に発売された参加・体験型CD−ROM教材である。 「ひょうたん島」という架空の国に移住してきた2っの島の民族によって引き起こさ れるさまざまな問題を模擬的に取り上げることによって,受け入れ国である多数派のホ スト社会(近代的な市民生活を営んでいる「ひょうたん人」)とゲスト・グループであ. る2つの少数派(働き者で,勤労と経済力に価値をおく「カチコチ人」,勤労よりも共 同体に価値をおき,ボス支配や女性差別を社会的に容認する「パラダイス人」)が織り なす民族間の緊張(社会問題)について考えていこうとするものである。. 移民を受け入れることによって,国民国家が単一あるいは少数の文化社会から多文化 の社会へと変容していく近代以後の社会的課題を象徴的に表す内容となっており,世界 の多文化的状況がシミュレーション化されている。. (2)研究の特徴及び内容. まず,この教材では,ホスト社会の中でゲスト・グループが引き起こす社会問題が段. 階的に深刻化し,高度化していく5つのレベルを設定している(表1)。レベル1は,. 異文化理解の視点からマナーや習慣等の文化摩擦を扱い,レベル2かち4までは多文化 一16一.
(23) 理解を中心とした内容で,祝祭・勤労,教育,居住・経済負担等,民族・文化集団の相. 互作用によって問題が高度化する局面を3つに分けている。レベル5では,利己的な対 立から共有財産の存在に気づき,地球的な普遍的価値の認識(グローバル理解)へと進 んでいく。. 表1 5っの学習レベルの問題内容及び学習方法 (「ひょうたん島問題」解説編p.57) レ. 異文化理解. ベ. 1.あいさつがわからない. 2.カーニバルがやって来た (祝祭). 学習方法. 問題内容. ノレ. 3つの「民族」グループの「あいさつ」が通じず,. 模擬的な挨拶行動. コミュニケーション・ギャップを引き起こす。. による体験的理解. ひょうたん島あげてのカーニバルへの参加を. ロールプレイによ. めぐり,勤労に対する価値観の違いが文化摩. る体験的理解. 擦を引き起こす。 3.ひょうたん教育の危機. 学校での学力格差や教育観の違い等がマイノ. ロールプレイとラ. リティ・グループによる教育内容改善の要求や. ンキングによる体. (文化・価値. 民族学校の設立運動を生み,教育政策の多様. 験的理解と価値の. 観・経済負. 化の課題が生まれてくる。. 明確化. 特定地域へのマイノリティ・グループの集住が. ロールプレイとラ. 進み,経済コスト炉増大し,社会政策の変更. ンキングによる体. の課題が生まれる。同時に,相互扶助とボス. 験的理解と意思決. 支配,女性差別等が併存し,ホスト社会の普. 定. 多文化理解. 担). (教育). 4.リトル・パラダイスは認め られるか(居住・財政). 遍的価値と対立する地域が出現する。. グローバル. 5.ひょうたんパワーの消滅?. 理解. 自己利益(個々の「民族」利益)のみの主張によ. 話し合いとうンキ. る「ひょうたん島」という共有財産が消失する. ングによる未来へ. 危機が生じる。. の合理的選択. 次に,この教材の学習過程の特色として,次の3点が示されている。. 第1に,シミュレーション学習自体に,多文化社会において発生し,高 度化していく問題の構造が内在化されているという点である。その上,各 レベルで解決したと思われた問題が,民族・文化集団の相互作用の結果,. 問題の深刻化をもたらし,「入れ子」のように新たな問題となってくるこ とが認識できる。. 第2に,問題の高度化に対応した学習活動と問題解決の方法を取り入れ. ている点である。例えば,レベル1では,3つの民族集団に固有の挨拶行 動を設定し,学習者が各民族集団に扮して挨拶を交わすことで挨拶行動の. 食い違いを体験できるようにしている。レベル2では,勤労に対する価値 一17一.
(24) 観が,ホスト社会のカーニバルへの参加をめぐる対立となって現れる場面 の問題を,各民族集団の価値観を代表する人物を設定し,学習者がその人 物に扮し,ロールプレイを行って話し合うことで,その対立を体験的に理. 解できるようにしている。レベル3では,ホスト社会とゲスト・グループ の文化的葛藤や対立が,教育や学校の問題となって現れ,一定の政策決定 が必要であることを,ロールプレイによるランキングを通して認識できる. ようにしている。レベル4では,さらに問題が高度化し,居住区が出現し て経済コストの負担をどうするかという政策課題が生じていることをレベ. ル3と同様の方法で,しかし問題解決に至るにはいくっかの困難を伴うも のであることを認識できるようにしている。. 第3に,レベル5で,民族・文化集団の相互作用(葛藤,対立,解決) だけでは認識しえないグローバルな普遍性に至る契機を内在化させている 点である。あまりに自民族中心的な問題解決の方法は対立を深刻化させ,. 解決を不可能にするような状況が見られるが,そこにグローバルな価値の 視点を入れることによって,別の解決方法を見出すようにすることをねら いとしている。. 『. (同解説編,p.57). また,この教材による学習を通して,次のような一般的概念を得ることができると している。. 1.世界には,経済上の理由等で住み慣れた土地を離れて移動する人々が いる。. 2.世界には,移民や労働者を受け入れる国(地域)と送り出す国(地域) がある。. 3.どのような民族(集団)も,風俗,習慣,価値観等固有の文化を持つ ている。. 4.異文化を理解することは,自らの文化を含めて多様な文化があること を理解することである。. 5.国の中では,ある特定の民族(集団)の文化が優先,尊重され,支配 的な力を持つことがある。 6.国の中では,自らの文化を認めてもらえないと感じている民族(集団). がある。. 7.複数の文化が,5と6の関係にある場合,時としてそれらは対立し, 社会問題に発展することがある。. 8.対立の解決のためには,利害を調整するためのコミュニケーションが 必要である。 18一.
(25) 9.対立を解決しようとせずに,互いの利害を主張して譲らないと共倒れ になったり,もっと大切な価値を見失うことになる。 (同解説編,p.63). (3)研究の検討. 今回,この教材を先行研究事例として選んだ理由は,シミュレーションによる学習が 生徒の多文化共生に対する意識を向上させる上でどのような効果をもたらすのか把握・ 検討し,今後の取り組みに生かす必要があると考えたからである。. この教材は,既に多文化化が進行している世界数ヵ国の現状を参考にして作成されて おり,実際に起こり得る問題を取り上げ,解決に向けてシミュレーションを行うという ものである。また,このシミュレーション学習を通して,多文化社会における社会問題 は多様であると共に深刻化する可能性を有していることや,価値,行為,決定等の面で ジレンマの構造を作り出していること,何らかの基準や相互の妥協がない限り解決不可 能な状況に陥ってしまうこと等を学ぶと共に,問題解決のあり方を探ることができると 思われる。. 以上の点を考慮すれば,この教材は,多文化社会という状態をさまざまな角度からと らえ,共生を目指すために何をする必要があるのかを考える学習を行う上で非常に効果. 的であると思われる。しかし,あえて検討すべき点を挙げるとすれば,次の3点が考え られる。. 第1に,指導者側の共通理解の必要性である。中学校における総合的な学習の時間の 中で,この教材を用いて各教室で授業を行う場合,社会科担当者あるいは国際理解担当 者とそうでない教員とを比較すれば,多文化共生に関する意識の差は大きいことが考え られる。そのため,事前に十分な時間をかけて教材研究を行い,指導者全員が授業にお ける目標及び内容に対してしっかりとした共通理解を持つことが必要である。もし,こ の共通理解が不十分であれば,多文化社会や開発途上国等に対して生徒が誤解や偏見を 持つ恐れがあり,いかに優れた教材であったとしても,効果的に用いることは難しいで あろう。. 第2に,自文化理解という視点の必要性である。例えば,日本における多文化共生に ついて考える際,まず,外国籍住民を受け入れる側である我々日本人が,自分たちの文 化とはどのようなものであるのかを知り,大切にする心を持つことにより,文化という 概念を認識し,異文化に対する理解さらには尊重へとつながるのではないかと考える。. この教材では,自文化理解という視点が強調されていないため,生徒一人ひとりが自分 たちの文化について考える機会に乏しく,生徒によって文化に対するとらえ方が大きく 異なるのではないかと思われる。この教材を用いた授業の前に,自文化理解に関する授 業を実施すべきであると考える。 19一.
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