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第1節  研究の成果

 今回,国を越えて移動する人々の増加及び加速化に伴い,地球的な課題となりつつあ る「多文化共生」をキーワードとし,将来の多文化社会において,異なる文化を持つ人 々と共に生きていく上で必要な力・態度を育成するための国際理解学習に関する研究を 行った。ここでは,本研究全体を振り返り,成果として挙げられる点について述べるこ

ととする。

 まず,日本における国際理解教育の歴史,概念,目標,多文化教育との関連等にふれ,

多文化共生の位置付けについて考察した。時代の流れや国際社会の動き等に伴い,国際 理解教育の目標及び学習領域は少しずつ変化を遂げ,近年のさまざまな分野での急速な グローバル化を背景に,同教育における多文化共生に対する重要度が高まり,中心的な 課題となりつつあることがわかった。各学校においても,総合的な学習の時間を中心と して,国際理解に関する学習が行われているが,今後の国内外の社会状況の変化を考慮 すれば,多文化共生の実現に向けた取り組みを進めていくことは不可欠であると考えた。

 次に,日本における多文化共生に関する学習の現状及び課題について,先行研究事例 の検討を通して考察した。多文化共生の実現を目指した取り組みを行う際生徒にどの ような力・態度を身に付けさせるのかを明確にした上で目標を設定すること,どのよう な視点からアプローチを行うのか示すこと,生徒たちに多文化共生をいかに身近な課題 としてとらえさせるか工夫すること等が重要であることがわかった。同時に,異文化間 の価値観の違いを疑似的に体験し,相手の立場になって多文化共生について考えること ができるという点でシミュレーションによる学習が有効であること,自分の生活する都 市において多文化共生の実現を目指すためには,まず自文化に対する理解を深めること が必要であること等もわかった。これらの点をふまえて学習指導を行うことにより,多 文化共生に関する取り組みはより効果的になるものと思われる。

 また,外国籍住民の増加を要因とする国際化・多文化化が進行している福岡市の現状 を取り上げ,同市の行政上の取り組みについて考察した。国内の他都市と同様,同市も 外国籍住民が増加し,多国籍化していることや,市内全域にわたり,さまざまな目的で 同住民が生活していること等が明らかになると同時に,郷土の自然,歴史,伝統・文化 を愛し,守り伝え,さまざまな価値観を認め合い,アジア,世界に視野を広げる子ども たちを育成することが同市の教育の目標に掲げられていること及び同市が多文化共生都 市へと発展することを目指し,さまざまな施策を講じていることもわかった。同市内の 学校に通う生徒は,将来の同市において中心的な役割を果たすと共に国際社会で活躍す ることが期待されている。各学校においては,同市の現状及び行政の方針を十分にふま

えた上で教育活動を展開していくことが強く求められるであろう.

 そこで,同市の公立中学校における国際理解全般に関する取り組みはどのような状況 であるのか調査を行い,問題点を探った。その結果,多くの学校において,国際理解の 重要性が十分に認識されておらず,学校経営方針及び教育目標の中に国際理解に関する 内容が盛り込まれていないことや国際理解に関する係が設置されていないこと,単発的 な取り組みしか行われていないこと等が明らかになった。同市で進行している国際化・

多文化化の現状を考慮すれば,今後,各学校において国際理解,特に自文化理解・多文 化共生に関する取り組みを進める必要があると考えられる。

 これらの研究結果及び考察をふまえ,同市を題材とし,その地域性及び市民性を生か した多文化共生の学習指導プラン(全5時間)を作成・実施した。

 まず,第1次では,同市と外国の人々とのかかわりの変遷及び外国籍住民の現状を知 ると共に,同市が持つ地域性及び市民性について考えることをねらいとして,同市の国 際交流の歴史及び外国籍住民の出身国,人数,同市に来た目的等に関する学習や各班の 研究テーマの決定等を行った。

 次に,第2次では,外国籍住民の視点から同市の良い点や問題点等をとらえ,自分た ちと異なる文化を持つ人々の立場や考え方を理解すると共に,同市における多文化共生 のあり方について考えることをねらいとして,同市在住の外国人留学生から,同市での 生活に関する話や行政・一般市民に対する要望,多文化共生の実現のために必要なこと に関する意見等を聞き,質疑応答を行った。

 続いて,第3次では,外国籍住民及びその家族が抱えている悩みや問題を知り,彼ら が安心して生活するために何をする必要があるのか考えることをねらいとして,同市在 住の実在の家族を題材としたシミュレーションによる学習及び問題の解決方法に関する 意見交換を行った。

 さらに,第4次では,外国籍住民が安心して生活するために,同市においてどのよう な支援の取り組みが行われているのか調べ,成功している点や改善すべき点等を探ると 共に,より良い支援のあり方について考えることをねらいとして,同市の行政及び市民 活動による支援の現状について調査・検討し,今後の支援に関する意見交換を行った。

 最後に,第5次では,同市の地域性及び市民性を理解すると共に,同市が多文化共生 都市になるために何をしなければならないのか考えることをねらいとして,各班のテー マ研究結果の発表,質疑応答及び同市における多文化共生の実現をテーマとするディス カッションを行った。

 今回の授業により,生徒が多文化共生社会で生きるために必要とされる力・態度をど の程度身に付けることができたか検証を行うため,授業の実施前と実施後に意識調査を

行い,それらの結果を比較した。そこでは,「めざす生徒像」(多文化共生社会で生き るために必要な力・態度を,目標として設定したもの)の「自文化理解」(項目①),「自 文化尊重」(項目②),「異文化理解・尊重」(項目③),「異文化とのコミュニケーショ

ン」(項目④),「課題解決能力及び主体的・創造的態度」(項目⑤),「人権尊重」(項目

⑥),「多文化共生に対する肯定的・積極的態度」(項目⑦),「多文化共生に対して自分 の考えを持つ態度」(項目⑧)の全てに対して「強くそう思う」及び「だいたいそう思

う」と回答した生徒の割合の増加が確認された。その中でも,多くの生徒の間で「自文 化理解」及び「自文化尊重」に対する意識の向上が見られ,同市についてより深く理解

し,同市民であることに誇りを持つと回答した生徒が大幅に増加したことが特筆すべき 点として挙げられる。また,外国人留学生と共に学習を行ったこと及び外国人労働者の 家族を題材としたシミュレーションを行ったことは,多くの生徒が自文化・異文化及び 多文化共生について考える上で良い影響をもたらし,その結果,「めざす生徒像」の各 項目に対する意識の向上へとつながつたことが明らかになった。

 以上のことから,今回の多文化共生に関する学習指導プランは一定の成果があったと 考えられる。しかし,「課題解決能力及び主体的・創造的態度」及び「多文化共生に対

して自分の考えを持つ態度」に関しては,それぞれ増加が見られたものの,全体の6割 程度の達成にとどまった。このような結果に終わった原因を究明し,改善すべき点を探

ることとする。

 まず,「課題解決能力及び主体的・創造的態度」は,異文化を持つ人々との共生をす すめる中で何らかの問題が起きた場合に求められる力・態度であり,今回の学習指導プ

ランの評価における第1の観点「課題解決の能力」及び第2の観点「学習への主体的・

創造的な態度」,さらに日本国際理解教育学会による技能目標のひとつである「問題解 決能力」と関連している。検証授業において,この項目にかかわる内容を扱ったのは第 1次から第4次までであり,それぞれの自己評価の結果及び考察は次の通りである。な お,以下に示す質問項目及び回答の割合は第6章で取り上げたものであるが,ここであ

らためて検討を行うこととする。

 第1に,「課題解決能力」あるいは「問題解決能力」に関する1つ目の質問「今回学 習した内容に関して自ら課題を見つけ,設定することができたか」を第1次で行い,「で きた」(「よくできた」及び「だいたいできた」の合計)と回答した生徒は全体の52.

3%であった。また,2つ目の質問「今回学習した内容に関する問題点を理解し,解決 方法を考えることができたか」を第2次から第4次にかけて行い,「できた」と回答し

た生徒は第2次が55.1%,第3次が78.6%,第4次が53.0%であった。第3次

を除き,回答が5割台という結果になっている。このことから,自ら課題を見つけ,設 定し,解決の方法を考えるという点に関しては十分であるとはいえないことが明らかに

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