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障害学生の社会福祉現場実習における「当事者である自己」 との向き合いに関する研究-社会福祉専門職をめざす学生の実習体験の質的分析を通して

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Academic year: 2021

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日本福祉大学社会福祉論集 第 123 号 2010 年 9 月 要旨 本研究の目的は, 障害者であることを 「個性」 として生かす社会福祉専門職を育てる 観点から, 学生が 「当事者である自己」 と向き合うときに抱える課題と対処の過程を明 らかにすることである。 研究の方法は, 脳性まひを有する学生 A さんの社会福祉現場実習体験を対象とし, 学生が実習で 「当事者である自己」 と向き合うときにどのような課題が生じ, どのよう に対処したかについて, 漸次構造化法的アプローチによる質的分析を行なった. 研究の結果, 次の 2 点が明らかになった。 第一に A さんの 「当事者である自己」 と の向き合いに関する 5 つの課題が見出された (① 「社会への船出に対する不安」 ② 「実 習生として必要なスキル」 ③ 「当事者とどうかかわるか」 ④ 「どのように働きたいか」 ⑤ 「 当事者ワーカー になることの意味」), 第二に A さんがこれらの課題を抱えるい きさつと対処の過程が見出された. 実習先の当事者の人々は, 学生の 「当事者としての 自己」 に刺激を与え, 自己との向き合いを支えた. それは, 同じ障害者として 「体験と しての障害」 を共有できたからであると考えられる. 今後の課題は, この研究成果を仮説として他の学生の実習体験についても分析するこ とで, 「当事者である自己」 との向き合いにかかわる課題と対処のバリエーションを明 らかにし, 適切なスーパービジョンのあり方について検討することである. キーワード:障害学生, 実習体験, 「当事者である自己」 との向き合い, 当事者専門職, 質的分析

障害学生の社会福祉現場実習における

「当事者である自己」 との向き合いに関する研究

社会福祉専門職をめざす学生の実習体験の質的分析を通して

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Ⅰ.

問題意識と研究目的

社会福祉専門職の養成課程には, 身体に障害をもち 「自分の当事者体験を生かして社会福祉の 仕事がしたい」 という希望をもって学んでいる学生がいるが, カリキュラム上必須の実習を行う には制約や負担を伴うことがある. 筆者を含む共同研究グループは, 障害学生の実習機会を保障 し, 「学習弱者をうまない」 (藤井, 田倉 2009:28) ために, 実習において 4 つのバリア (①機 能障害による困難, ②物理的なバリア, ③文化情報面や制度面のバリア, ④意識上のバリア) が 存在することを明らかにし, それらの解消, 緩和, 克服に向けた対処や支援の方法について検討 してきた. またこの研究は, 実習でバリアに直面した障害学生が, 「自己の障害の客観視」 と 「社会に存在する障壁の認識」 をすることで, 「当事者である自己」 を改めて認識することを明ら かにした (浅原・柿本・平野 2004). 「当事者である自己」 は, 社会福祉専門職の活動において, 専門職としての価値・知識・技術 の活用を媒介する 「個人のスタイル・特性」 (社会福祉援助技術演習研究会 2003:11-14) とな る可能性をもっている. 「当事者である自己」 を媒介とした援助活動の事例として, アメリカの 自立生活運動の 「障害のある人たちの気持ちは, 障害のある人たちが最も理解することができる」 という考え方から生まれたピア・カウンセリング (谷口 2002a) や, アメリカにおけるアディク ション治療共同体“Amity”における当事者経験を持った援助者 (引土 2009;2010) などがあ る. 谷口によれば, ピア・カウンセリングは自己の当事者体験に基づき, クライエントに共感を 寄せながら心理的支援や助言などを行うものであるが, 同じ当事者といえどもクライエントは自 分とは異なる人生経験や生活背景, 考え方をもっており, 当事者支援者にはそれらを客観視する ための自己覚知が必要とされている (谷口 2002b). また, Amity の当事者経験を持った援助者 は, 自身がケアを受けた経験をお返ししたいという 「循環的ケア」 を基盤に, 当事者に自分自身 の経験を示して分かち合うことで, 回復を支援しているという (引土 2010). このような援助活 動では, 自分の生活体験そのものや, そこからくる価値観, 障害観, 自立観, 人生観などと向き 合い, 語れることが課題となる. これらの知見をふまえると, 障害学生が当事者体験を生かして 社会福祉専門職となるには, 自分の生活体験や価値観, 障害観, 自立観等, 「当事者である自己」 を形づくるものとの向き合いが求められるといえる. 社会福祉専門職養成課程における現場実習は, どの学生にとってもサービス利用者や専門職, 地域の人々との関わりの中で自分をみつめる機会である. 筆者は 「当事者である自己」 を 「個人 のスタイル・特性」 として生かすことのできる社会福祉専門職を育てる観点から, 学生は, 現場 実習のどの場面でどのような課題として 「当事者である自己」 と向き合うことになるのか, その 課題にどう対処しようとするかを明らかにした上で, 実習指導者または教員はどのようなスーパー ビジョンを行うことが求められるのかを検討する必要があると考える. このような問題意識から, 本稿では障害学生が現場実習において 「当事者である自己」 と向き

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合うときに表面化する, あるいは学生が内面に抱えこむ課題と, 課題への対処の過程を明らかに することを目的として, ある障害学生 (A さん) の実習体験に焦点をあてて研究を行った.

Ⅱ.

研究方法

1 . 研究対象 1 ) A さんと実習先について A さんは, 脳性まひがあり, ADL 面は全介助が必要であるが, 電動車椅子を自分で操作して 移動することはできる. 大学入学時より一人暮らしをしており, 学生ボランティアやヘルパーの 支援を受けながら生活している. コミュニケーションは発音が困難なため, 文字盤を指さすこと で意思表示している. A さんは, 2009 年に障害者福祉サービスの生活介護事業所 J で 24 日間の実習を行った. J 事 業所を運営する K 法人は, 重度障害者が地域の中で豊かな生活と社会を創っていくことを理念 として, 居宅介護事業, 就労支援事業, 福祉ホーム, 相談支援事業など多様な事業を展開してい る. 障害当事者が中心となってこれらの事業企画・運営を行っていることが特徴で, 障害当事者 の職員も勤務している. 実習期間中は J 事業所を中心に高校生対象の自立体験プログラムやキャンプなどに参加して 利用者と関わり, 職員ミーティングにも同席して事業所の運営システムも体験した. このほかに は, 複数名の当事者 (利用者・職員) にインタビューしてそれぞれの生活体験等の聞きとりを行っ た. 実習中に利用者とのコミュニケーションが少しでも円滑に行えるようにと, これまで使った ことのないトーキングエイドを購入し, 機具の操作は実習 2 ヶ月前から日常生活や授業のグルー プディスカッションの中で練習した. 実習時間中は身辺介助が必要だったため, 初めのうちは有 償ヘルパーを頼んでいた. しかし中盤以降は A さんも実習に慣れて事業所職員の行動パターン がわかるようになり, 職員からの 「同僚にサポートを求めるスキルも必要」 というアドバイスも あって, A さんは職員の業務の合間を見計らって介助を求めることで, 身の回りの用を足せる ようにした. 2 ) A さんの実習体験に焦点をあてる理由 筆者は, 先にとりくんだ研究 (浅原・柿本・平野 2004) によって障害学生が 「自己の障害の 客観視」 「社会に存在する障壁の認識」 をきっかけに 「当事者である自己」 と向き合うことを明 らかにしたが, このことだけでは社会福祉専門職への強い動機づけにつながりにくいのではない かと感じていた. そのような中で, 実習指導教員として A さんを 2009 年 4 月から 1 年間担当し, 実習準備や実習記録, ふりかえりなどを通して実習プロセスに関わった. A さんは, 社会福祉 専門職をめざす理由として, 「同じ当事者の立場から重度障害者が楽しく生きていけるようサポー トしたい」 という希望を持っていたが, 実習前は卒業後の見通しなどについて大きな不安を抱い

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ていた. そのような A さんは, 実習先で自分と同じく重度障害をもつ人々と関わる中で, 自分 の当事者としての生活体験をみつめ語ることを求められ, 他の当事者の語る障害観や自立観など に触れることになった. それは A さんの体験や価値観, 考え方を問い直す機会となり, 実習が 進行するにつれ社会福祉専門職をめざす姿勢が前向きになっていく様子がうかがえた. 本研究で A さんに焦点をあてた理由は, A さんのこのような実習体験を分析することにより, 障害学生が 「当事者である自己」 とどのように向き合うのかを明らかにすることができ, 「自分 の当事者体験を援助の仕事に生かす見通しが持てる」 実習とはどのようなものかを検討する切り 口となるのではないか, と考えたからである. 2 . 調査・分析方法 本研究を進めるにあたっては, 漸次構造化法 (佐藤 2002:293-304) の考え方を取り入れた. また, データ整理の際には, 「縦断的な研究におけるデータ・マトリックス」 (佐藤 2008:183) の手法を参考にした. 佐藤によれば, 漸次構造化法とは, フィールドワークにおいて問題設定, データ収集, データ 分析, 民族誌の執筆の 4 つの作業を同時進行させ, これらの作業の中で問題と仮説を構造化しつ つ, 民族誌自体も徐々に完成させていくアプローチであり, 「民族誌自体の骨格 (構造) を明ら かにしそれを具体的なデータや資料によって肉づけしていくプロセス」 である (佐藤 2002:295). そのプロセスは, 図 1 の形で示されている. 筆者は実習指導教員として, A さんから記録物の提出を受け個別指導やクラス指導を行った. 実習生の学習進捗を把握し, その時々に適切なスーパービジョンを行うためには, 学生の記録を 読み込み, 言動を観察して, その体験の意味するところを理解する必要があるが, 本研究にとっ てはこの指導過程そのものがフィールドワークである. データ収集と分析作業によって得られる   100   50   0     ೋᦼ                ਛᦼ                 ⚳ᦼ                ࡈࠖ࡯࡞࠼ࡢ࡯ࠢߩᲑ㓏 ໧㗴ߩ᭴ㅧൻ ࠺࡯࠲෼㓸 ࠺࡯࠲ಽᨆ ᳃ᣖ⹹ߩ૞ᚑ ߘࠇߙࠇߩ૞ᬺߦⷐߔࠆᤨ㑆߿ഭജߩഀว䐳㧑䐴 図 1 漸次構造化法的アプローチによる三種の作業と民族誌の作成 (佐藤 2002:294)

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学生像は, 実習が進行していく中で変化していくが, この作業を積み重ねることで, 今ここにい・・・・・ る学生の学習の深化や専門職 (社会人) の卵としての成長をみることができる. このようなフィー ・ ルドワークとしての実習指導において, A さんの実習経過に沿ってデータ収集と分析を行いな がら, 収集されたデータを 「縦断的な研究におけるデータ・マトリックス」 の形で整理し, A さんの 「当事者である自己」 との向き合いを民族誌として描いていくことで, 本研究の目的であ る 「当事者である自己」 との向きあいに関わる課題がどのように発生し, 学生はどう対処してい くのかという問題構造を明らかにすることができると考えた. 具体的には, A さんの実習記録 (実習計画書, 実習日誌, 実習報告書等) に書かれた内容を 分析しながら, 実習終了の半年後に本人に対してエピソード・インタビューを行うことで, 実習 記録には書ききれなかった具体的な体験や実践, 心情に関する情報を収集した. 収集した記録の 文面や A さんの語りをつないで, A さんの実習体験を時系列に整理するとともに, 一つ一つの エピソードについて, 実習プロセスにおける出来事や A さんの心情を縦断的に比較しながら, オープン・コーディングを行なった. そしてこれらのコードについて, 「当事者としての思い」 「実習生としての態度や学び」 「実習指導者からの助言」 を横軸, 実習前→配属実習→実習後の時 間経過を縦軸として, マトリックスを作成し 図 2 , ここから, 学生が直面した 「当事者であ る自己」 との向き合いにかかわるコードを抽出した. これらのコードについて 「当事者である自 己と向き合う課題がどのように生成され学生はどのように対処しようとするか」 という観点から 焦点的コーディングを行い, 同時にコード相互の関連性を考えながら, A さんの実習における 「当事者である自己」 との向き合いにかかわる課題の生成と対処, および深化の過程の抽出を試 みた. その際, コードの独り歩きや, 恣意的なコード間の辻褄合わせとならないように, コード の元データである A さんの具体的な実習体験の内容に注意を払いながら行なった. この研究をはじめるにあたっては, A さんと J 事業所に対して研究の目的, A さんが作成し た実習記録と体験そのものを分析することと, とくに J 事業所の方々の話やコメントを取り扱 う場合は個人が特定されないよう配慮することを説明した. そして, 本稿の投稿にあたっては, 図 2 A さんの実習体験を整理したデータ・マトリックスの枠組み

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A さんと J 事業所に本文原稿に目を通してもらったうえで, 公表についての了解を得ている.

Ⅲ.

研究結果と考察

A さんの実習体験を分析した結果, 「当事者である自己」 との向き合いにかかわる課題として, 「社会への船出に対する不安」 「実習生として必要なスキル」 「当事者とどうかかわるか」 「どのよ うに働きたいか」 「 当事者ワーカー になることの意味」 の 5 つが抽出された. これらの課題が ኾ㐷⡯ࠍ߼ߑߔቇ⠌േᯏ [1] ᒰ੐⠪૕㛎ࠍ↢߆ߒߡᡰេߒߚ޿ ᒰ੐⠪ߩ⥄ಽ߇ታ⠌ߢ߈ࠆߩ߆ ᡰេ⠪ߣߒߡ㧘␠ળੱߣߒߡⴕ േߢ߈ࠆ߆ [5] ޟ␠ળߢ⥄┙ߔ ࠆޠࠗࡔ࡯ࠫࠍ ߽ߜߚ޿[3] ೑↪⠪ߢߥߊ ታ⠌↢㧔ᡰេ ⠪㧕ߣߒߡⴕ േߒߥߌࠇ߫ [4][9][10] りㄝߩ⥄Ꮖ▤ℂ [7] ⺖㗴ߩㆀⴕߣ߰ࠅ߆߃ࠅ [8] ᒰ੐⠪ߩᄙ᭽ߥ↢ᵴ૕㛎㧘⥄┙ⷰ㧘 ੱ↢ⷰࠍ⍮ࠆ[13] [14] [15][16][17] ⥄ಽߩ↢ᵴ૕㛎ࠍ߰ࠅ߆߃ࠆ [11][12][28] ޟᒰ੐⠪߇૕㛎ߔࠆߎߣޠࠍᡰេ ߔࠆ[9][10][11][12] ⥄ಽߩ㓚ኂⷰ㧘⥄┙ⷰࠍ㙃޿ߥ߇ࠄ [14][15][17] ௛ߊߎߣߩᗧ๧ [18][19][20][21] ᒰ੐⠪ߩ⥄┙↢ᵴߩ⺖㗴ߣᡰេ [33][34][36] 㓚ኂฃኈ[26][27] ᒰ੐⠪ߣᡰេ⠪㧘ਔᣇߩⷞὐࠍ߽ߞߡ⑔␩ࠍ⠨߃ࠆ [35] ⥄ಽߩᒰ੐⠪૕㛎ࠍ↢߆ߒߡᒰ੐⠪ࡢ࡯ࠞ࡯ߣߒߡߩ಴⊒ὐߦ┙ߟ [37] ᒰ੐⠪ࠁ߃ߩ೙⚂㧘⽶ᜂ [2] (5)ޟᒰ੐⠪ࡢ࡯ࠞ࡯ޠߦߥࠆߎߣߩᗧ๧ (1)␠ળ߳ߩ⦁಴ߦኻߔࠆਇ቟ (3)ᒰ੐⠪ߣߤ߁㑐ࠊࠆ߆ (4)ߤߩࠃ߁ߦ௛ ߈ߚ޿߆ ૕㛎ߦⵣᛂߜߐࠇߚ⍮⼂[28][30][31] ⥄ಽߩ໧㗴ߣߒߡ࿾ߦ⿷ࠍઃߌߡᒰ੐⠪ߣะ߈ว߁ [29] (2)ޟታ⠌↢ޠߣߒߡᔅⷐߥࠬࠠ࡞ ⥄ࠄߩ⥄┙߳ߩᗐ޿[32] ৻⥸ડᬺ߳ߩዞ⡯ ߪ෩ߒ޿[25] ࠦࡒࡘ࠾ࠤ࡯࡚ࠪࡦ [6] ௛߈ᣇ [22][23][24] 図 3 A さんの実習における 「当事者である自己」 との向き合いにかかわる課題の生成と対処および深化の過程

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A さんの実習過程を通してどのように生じ, A さんはどのように対処しようとしたか, そのこ とにより課題がどう深化していったかを示したのが, 図 3 である. 以下, A さんの実習記録やインタビューで話された内容を引用しながら, それぞれの課題に ついて説明する. 図 3 の [1] ∼ [37] は, 本文中の実習記録やインタビュー内容の引用に符し た番号に対応する. なお, 漸次構造化法による A さんの記録や語りの内容等の基礎データの分 析には, 筆者の解釈や見立てなどが含まれるため, 研究結果の記述は, 筆者の考察を含めての記 述となることをお断りしておく. 1 . 社会への船出に対する不安 A さんは, 大学入学時の心境を次のような文章にしている. [1] 私は重度障害者でスポーツをやるのは難しい. いつも見るだけだった. ある日を境に私の思いは 「スポーツがやれる」 と一変した. (中略) そこで自分より遥か に重い障害のある選手が国内は勿論のこと海外で堂々と戦っているということに感動し自分 も努力すればこの選手のようになれると思った. 私は多くの脳性麻痺者と 「自分もスポーツ がやれる」 ことを共感できないかと思っている. スポーツをやってみたいという障害者はた くさんいると思う. ただ 「自分にはやれない」 と思い込んでいるだけではないかと思うのだ. そこで, 経験を生かし (中略) 重度障害者が楽しく生きていけるようなサポートをしていけ たらと思っている. 私の夢は同じ立場から重度障害者に 「自分も何かやってみよう」 「自分 も何か社会に貢献できないか」 ということに気付いてもらえるようなソーシャルワーカーに なることだ. (A さんが保管する入学試験レポート文案より) このように, 自分の当事者体験を生かして重度障害者の自己実現を支援したいというのが, A さんが社会福祉専門職養成教育の門を叩く動機であった. しかし, 実習の前年度に実習施設を決める段階で A さんは, 通常の実習生と比べて制約と負 担の大きさを感じていた. その時の心境を, 実習後の A さんは次のように語っている. [2] 障害学生の社会福祉実習は準備をたくさんしないといけません. 受け入れてくれる施設 は, 本当に限られてしまいます. 私は最初, 児童相談所に実習希望を出していました. しか し, 自分の障害や設備・環境などを含め総合的に考えた結果, 本当に充実した実習が可能か という不安がでました. 児童相談所に行って自分が何をやれるかという答えが出なくて, (障害者施設を実習先に・・・・・・・・・ したのは) それならば自分自身も障害当事者であるため, やはり自立生活の本当の意味を肌・・・・・・・・・・ で感じて考えたかったからです. (実習体験交流会, 傍点筆者)

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A さんは 「自分が何をやれるか」 つまり, 「当事者である自分が現場実習に行って何ができる のか」 という不安を募らせていた. 自立生活の本当の意味を考えたいとして障害者福祉サービス を提供する J 事業所で実習することになったが, それは 「自分は学生であり, 社会人ではない. 社会人としての生活はどのようなものか, 利用者と関わることで具体的に知り 「自立」 について 考えたかったから」 だという. ここで A さんの念頭にあったのは 「障害当事者としての自己の 自立の問題」 であり, 自分が現場, すなわち社会に出て何ができるのか, という不安に直面して いたといえる. 事前学習の一環として作成したレポートで, A さんは次のように書いている. [3] 自立とは何か? 今の自分にはよくわからないし, 一言で表現できない. 自分の状況が 分かり, どんな手助けを誰にしてもらえば良いかわかることが自立の第一歩のような気がす る. (事前学習時のレポートより) この時 A さんは 4 年次進級の直前で, 卒業・就職という大学の出口が見えてきたにも関わら ず, 自分が社会に船出することについて具体的な見通しがもてない不安が大きかったものと考え られる. そして, 重度障害者の自立生活を支援する現場で, 自分と同じ当事者である利用者や職 員と関わり, 「自分に何ができるのか」 を確かめて 「社会で自立するイメージ」 をもちたい, と いう動機をもって J 事業所での実習に臨むことにしたのである. 入学時に 「自分が社会に出てやりたいこと」 を意気揚々と表現していた A さんが, 障害当事 者として 「社会に出て自分に何ができるのか」 を強く意識することになった原因は, 2 つのこと が考えられる. 1 つは, 重度障害のある学生の実習受け入れを承諾する社会福祉現場が限られる という参加制約と, その現実に立ち向かわなければならない学生の負担感である. 2 つは, 実習 では自分は 「支援者として行動しなければならない」 というプレッシャーである. A さんは実 習計画書に 「利用者へのインタビューを通して, 何が本当に利用者のニーズなのかを知り, 自分 の自立生活の経験と専門知識で自分なりにどのような援助ができるかを考えたい」 「私は障害当 事者だが, 支援者としては経験がないので一から学んでいきたい」 と書いている [4]. A さん はこのことについて, 「援助=直接介助というイメージもあって, 現場で障害のある自分に何が できるか, 勉強した (ソーシャルワークの) 技術をどう生かせるかイメージできなかった」 と, 実習後に話している [5]. 常に身辺介助を必要とする A さんにとって, 日常的に関わる支援者 はヘルパーであり, ヘルパーを支援者のモデルとして考えると, 自分には何ができるのか, 自分 は支援者の立場に立てるのだろうか, と強い不安を感じたのである. 2 . 「実習生」 として必要なスキル A さんは, 実習生として行動するために, ①利用者や職員とのコミュニケーションを円滑に とることと, ②自分の身辺介助の自己管理が必要であると考えた. ①は普段使用している文字盤 だと A さんが指差す文字を相手に追いかけてもらう必要があるが, 音声出力されるトーキング

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エイドを使うことで, 重度障害のある当事者とのコミュニケーションができるようにした [6]. ②は実習時間内に A さんを介助するボランティアを頼むことで, J 事業所の職員の手を借りな くてもよい態勢にした. しかし実習が進んでくると指導者から, 同僚からのサポートを受けなが ら働くほうが現実的ではないか, という助言を得た. そこで A さんは, 「利用者としてではなく, 利用者や職員の動きをみながらタイミング良く介助を頼むことも勉強だと思ったので」 業務の中 で職員の手の空いた頃を見計らって介助を頼むことにした. ただし 1 泊 2 日のキャンプには, 「利用者としてキャンプに参加するのでなく, あくまで実習生として参加するために」, 主にキャ ンプの備品や自分の荷物などを運んでもらうボランティアのヘルパーを同行した [7]. このキャンプの日誌で A さんは 「利用者でなく実習生として」 自分のボランティアへの指示 の送り方に気を配りながら, 他の参加者とのコミュニケーションを大切にすることで, ともに楽 しい時間を過ごすことができた, とふりかえった. このふりかえりに対して指導者からは, 「参 加者は今ここで何を体験し, 自分はそこにどう関わったか, そして何を感じたのかを 「実習生」 としてふりかえってほしい」 と指摘された [8]. A さんは 「実習生として行動するために」 「利 用者と同じにならないよう」, コミュニケーションの方法や介助の自己管理に注意を払っていた が, 実習生の基本的な態度として, ③実習生としての課題実践とふりかえりが求められることを, 改めて確認することになった. 3 . 当事者とどうかかわるか A さんは 「自分は支援者としてどのように行動すべきか」 に神経を使っていた. 前項で述べ たように, 「利用者と同じにならないよう」 コミュニケーションから身辺のことまで自分で制御 できるようにすることで, まずは 「支援者の立場に立つ」 ことをめざそうとした. また, 当事者 の自分が支援者として他の当事者とどのようにかかわればよいか, 考え続けた. [9] (高校生たちは) スタッフとの会話も弾んで楽しい様子だった. しかし, スタッフと 喋る時でも友達感覚になっている場面が何度かあった. これは今あまり重視する事柄ではな いかも知れないが. (中略) 私は高校生が何を感じ何をやりたいかをうまく拾うことが難し かった. 高校生が計画に行き詰った時に (私から) 案を出したが, 自分の価値観を押し付 けているように感じた. 決してそうでなく本当にやりたいことを自然に口にできる環境を作っ ていかなくてはならないと考えている. (2 日目日誌, 傍線筆者) このとき A さんは, 高校生が年上のスタッフに対して友達のような態度で喋っていることに 違和感をもったが, この場では問題にすべきでないかもと考えて, その感覚を封じ込めた (①). また, 自分が口をはさんだことで, 高校生の自己選択・自己決定の機会を奪ってしまったのでは ないかと感じている (②).

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[10] (夏季自立体験プログラムが) 高校生達にとってよい思い出になるように車椅子や貴重 品の管理をしていた. 自分は介助など無理なので声かけやボランティアさんのケアに重点を 置いた. 例えば困っていた様子なら自然に近寄って話しかけたりアドバイスしたりした. (中略) ひとつ気になったのは自由時間の時にひとりひとりが動くのではなくてみんなで 動いていて主導がボランティアさんだったこと. 自分で決めて欲しかったと思う. ボランティ アさんと高校生の距離をどう判断していくべきか. 楽しむことをもっとサポートしていくた めに何が必要か考えたい. (6 日目日誌, 傍線筆者) このときは, 高校生がボランティアに誘導されて自由時間を過ごしているのを見て, 自分の過 ごし方を自己決定できるようにサポートすべきだ, と A さんは考えている (③). ②③は, 大学 で学んだ, 対人援助における自己決定の原則に照らしたものとみられる. 一方, ①の違和感につ いては, それを高校生に伝えることは非審判的な態度の原則に反すると考えたものとみられる. 支援者として当事者にかかわるために, 対人援助の原則を念頭に置いていたことが推察される. このような A さんに対して, 実習指導者から次のような助言があった. [11] 本来このプログラムは, (高校生に) 体験してもらって自分が何を感じるか, だけで よいと思っています. あなたが思っていることをストレートにぶつけてください. いろいろ なテクニックはあとから身につけてください. (2 日目日誌, 傍線筆者) [12] 高校生は親や先生がいない中で, 当事者スタッフやボランティアといつもと違う体験 をします. 私たちが高校生をどう見て, 何を判断したのか, どうアドバイスをしたかより, ⑤高校生がどんな体験をしたのかが大切です. それには福祉の知識より自分の体験がずっと 役に立つことは多々あります. 高校生の時自分はどうだったのか? 高校生と自分は何が違 うのか? 高校生に対して自分は, もしくは実習生としてどうかかわったのか? あなたは当 事者だけに, できればその辺をいろいろ書いてほしかったです. (6 日目日誌, 傍線筆者) ⑤は, 高校生が 「親や先生のいないところでいつもと違う体験をする機会」 を提供し, 「その ように体験すること」 をサポートするのが, このプログラムの目的である. だから, そうしたこ とをすでに体験してきた A さんには, 自分の当時をふりかえり当事者としての体験をふまえな がら, 高校生の行動や気持ちを受けとめてかかわってほしい, という投げかけである. また④は, 高校生にとって 「いつもと違う体験」 には, 普段はかかわらない人々とのかかわりを含んでいる から, 彼らに対して感じたことを投げかけて, 多様な人々の考え方や価値観に触れる機会になる ことが大切である, という助言である. この助言は, 高校生の話に留まらず, A さんに向けて も当事者の体験や価値観の多様性に触れる必要があることを示唆していると考えられる. A さんはこのような助言を受けながら, 何人もの当事者の方々にインタビューをすることで,

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さまざまな生い立ちや生活体験, 障害や自立に対する考え方を聴いていった. [13] 中途障害者の人からの話で 「障害受容」 がどんなに時間が必要なのかについて考える ことができた. (中略) 障害を負って落ち込んで死にたいと思っている時トーキングエイド で何気ない救いの言葉をかけてくれた友人がいた. そして, 最も私が印象に残ったのは 「トー キングエイドは機械の音声だけどその時, 私にとって 神の声 だった」 という言葉である. (4 日目日誌) 他の当事者の話を聴くことで, 必然的に自分の体験やそこから築かれている自分の障害観や自 立観, 価値観と向き合うことにもなった. [14] 障害者の自立とは何か・障害は何かを障害当事者から話を聞いて考えが広がった. し かし考えが定まらなくなっていた. 障害者は世の中が作り出したものであること, 障害は不 幸ではないことは, 再確認できた. (5 日目日誌) [15] 自立とはなにか. とある (当事者の) 職員に問いかけた. そうしたら 「親の心配をで きること. 例えば親が亡くなったときに自分の生活はどうなるのか. と考えるのではなくて 親が病気になったときや, お葬式の準備はどうやってやるのかと考えられたのに私は初めて 自立したことになると思う.」 と言われた. この答えは予想もしていなかった. つまり, 自分の身の回りのことだけを考えるのではなく自分のことは置いておいて自分の周囲のこと を考えて行動することと考えた. これを自立生活に導入すると自分の主張はもちろんするけ どヘルパーさんのことを考えることになるのかなと思った. (14 日目日誌, 傍線筆者) A さんの⑥の推察に対しては, 話を聴いた B 職員から次のようなコメントが返された. [16] 違うと思います. 全く違います. あなたからインタビューを受けて, 短い時間でした が, いろいろなことを感じました. ひとことでは言えないし, 文字としても表現できません. また私個人の意見として辛口のことを言いましたが, ともかく障害のある人の中にもっと 入って, ディスカッションしてください. 視野を広げてください. (14 日目日誌, 傍線筆者) このやりとりについて, 実習後の A さんに話をきくと, これまでの自分の体験と照らし合わ せてそういうことではないかと解釈したが, やはり自分にはよくわからないとのことであった. B 職員は⑦の指摘で, 相手の話を聴いて自分の中で咀嚼するだけでなく, 当事者の自分をもっと 押し出して, 考えをぶつけ合うくらいのコミュニケーションを期待している. この指摘は, B 職 員自身の当事者経験に裏打ちされたものであると考えられる. J 事業所では, 当事者間のコミュ

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ニケーションを大切にしており, 生活やその中で抱える問題, 抱いている願いや希望について互 いに話し合い, 理解し合う関係性の中で, 重度障害者が共に豊かな生活と地域社会づくりに向け た活動を展開している. また, そのようなコミュニケーションを通して, 各自の障害観や自立観, 社会観が, 間接的に他の当事者の生活体験にも学びながら養われ, 培われていると考えられる. [17] 施設にいた人のお話を伺うと悲惨な扱い・人間としての生活リズムもない. お風呂に 毎日 「午前 10 時」に入る人はいないと思うし, 利用者が午前中にお風呂に入ると 1 日中 「だ るい」 と訴えているのに 「無視」 されたという生の声を聞いた. それは, 利用者のニーズで はなく 施設職員の 「ニーズ」 を第一に考えている ことになると思う. その人は, 福祉ホー ムに入って苦労したことも悩んだこともあったが 「ここは当事者主体で時間に縛りや決まり ごともなくて自己選択・自己決定ができるから楽しい」 と語ってくれた. どんな障害があっ ても自分らしく生きたいという思いは変わらないこと, (それは) 実現できると思った. 自 立とはなにかをもう一度整理して自分の考えをまとめたい. (21 日目日誌) A さんは, 当事者である自分が支援者としてかかわるにはどうしたらよいか悩む中で, さま ざまな生活体験をもつ当事者の人々とかかわっていくことで, 自分の当事者体験をみつめる機会 となり, 他者の経験に学びながら自分の自立観や障害観を問い直す機会を得た. そして, このよ うに 「当事者としての自己」 をみつめながら当事者にかかわることが, その当事者の理解につな がり, 「当事者が体験することを支援」 する関係性を築く過程となることを, A さんは体験的に 学んだのではないかと考えられる. 4 . どのように働きたいか A さんは 「社会に出て自分に何ができるのか」 「どうしたら支援者になれるか」 という不安を 抱え, 「社会で自立するイメージ」 をもちたい, という願いをもちながら実習に臨んだ. そこで, 自分の当事者体験をふりかえりながら当事者とかかわることが 「当事者の支援」 につながること を学ぶが, そのことが社会で自立する具体的なイメージにダイレクトに結びついたわけではなかっ た. K 法人が運営する作業所を見学し, 当事者へのインタビューを通して, 人々がどのように 働き, 仕事に対してどのような思いをもっているのか, 働くことの苦労などに触れることで, A さんは 「働くことの意味」 を考えることになった. [18] 働くことは人にとって欠かすことができないものだと改めて感じることができた. 仕 事を通して人との協調性やコミュニケーション能力の向上など多くのことが身に付くと話を 聞いて考えた. 仕事をやっていく中で失敗もあるけれどその中で学んで成長ができていると 感じられた. (7 日目日誌)

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[19] 仕事をやっていて失敗というのは誰でも起きます. それを恐れて仕事から遠ざかって いると自分自身, 成長することはできないと思います. 失敗をしても仲間にカバーしてもら えるように常日頃からコミュニケーションをとることを大事にしています. また仕事をする ことによって 「自分も社会貢献しているんだ!」 という実感を味わえます. (7 日目日誌コ メント) [20] 障害があるけれど, 「手に職を……」 という思いは変わらないと思った. 障害があって もしっかり仕事をこなし, 遊ぶ時は遊んで……障害があってもあたりまえの生活がここの人 たちにはあると考えた. (中略) 一般就職した人の話も聞けた. 「(自分の) やれることを伝 える」 ことが一般就職に繋がると考えた. (8 日目日誌) [21] 自分自身も一般就職という目標を持っていましたが職場でいろいろな経験をする中で それだけではないことがあると思います. 就職したからこそ分かる部分もあると思うのでチャ レンジすることはあなたにとっても良いことだと思うし, その経験がこれからの人生に本当 に良かったという日が来ると思います. (8 日目日誌コメント) A さんは, 自分が力を入れているスポーツを大学卒業後も続けながら仕事をしたいと考えて おり, 「一般 (企業への) 就労」 と 「(K 法人のような) 社会福祉現場での就労」 との間で揺れ ているが, どちらにしても働くことで自分を成長させたい, あたりまえの生活をしたいという願 いは, 実現可能であると確認することができた. そして, 「自分はどのように働くか」 を考える ようになる. [22] インタビューした人全員が 「(この作業所は) ひとりひとりに役目があってやり甲斐が ある. とても楽しい」 と答えが返ってきた. 本当に自信に満ちていてイキイキしていた. 障 害の有無問わず働けることが魅力的だと感じた. 障害でできないことはやれる人にお願いし て上手にコミュニケーションを取っていた. 自分がもしここで働く時にどういう位置で活動 していくべきかを考えていく. (9 日目日誌) [23] (J 事業所を) 卒業した方に自立や NPO の運営について聞いた. 「ここ以外の人が地 域で暮らしていける環境を作りたい」 という思いから NPO を作られたという. またその方 は地域で暮らすことや結婚も職業も手にしている. 同じ障害者として目標になる. 就職につ いてアドバイスを受け, 自分がありのままでいられてやりがいがある職業が良いと. ゆっく り考え決めていこうと思った. (23 日目日誌) [24] 「働く」 という意味はひとりの 「人間」 として 「社会人」 として認められることである

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と思った. 「(作物の) 収穫が良いとか悪いとか気にしなくて, 彼らにすべて任せてあります」 という職員の言葉が印象に残っている. この言葉には深い意味があると思う. そもそも彼ら をひとりの 「人」 として見ているから出る言葉である. (24 日目日誌) このように, 当事者の就労体験や作業所の職員から話を聴く中で 「ありのままの自分で社会人 として認められる働き方」 「やりがいのある仕事」 が, A さんの 「社会で自立するイメージ」 を ふくらませるキーワードになっていった. A さんは, 特に NPO を立ち上げた当事者の生き方に 大いに刺激を受け, この人のような働き方や仕事を 「手にする」 には, 自分から社会に働きかけ る必要を感じていたのではないかと考えられる. その一方で, A さんは実習に前後して就職活動を行なったが, 一般企業数十社の求人にエン トリーしたものの, 採用にはつながらなかった [25]. このことについて A さんが J 事業所の当 事者に話したところ, (数十社にエントリーする) 行動自体が, 自分の障害を受容できていない ということで, 受容すれば, 会社で働くことは自分には無理と認識して, そういう行動はとらな いのではないか, と投げ返されたという [26]. 当事者から 「できない自分」 を受け入れる必要がある, それが障害受容だと指摘された A さ んは, 障害受容とは何かを考えることになった. A さん自身は, どのような就職を希望するか ということと, 障害受容とは別のことではないかと感じるし, 当事者からそう言われたことがつ らかったと, 実習後のヒアリングでふりかえった [27]. しかし一般企業への就職活動が不調で あったという現実を通して, A さんは 「できない自分」 を受け入れざるを得ない現実と向き合 うことになった. 企業への就職活動というチャレンジが報われない現実と当事者からの 「障害受 容に関する教え」 が相まって, 別の働き方を追求する動機づけを高めたものと考える. 5 . 「当事者ワーカー」 になることの意味 A さんは, 福祉機器・用具のリサイクル事業所で実習した日の日誌に, 自分が福祉用具の制 度をしっかり理解していなかったこと, 制度に矛盾点があることを知って, 当事者の立場や使い 勝手が考慮されていないことへの疑問を記した. その日誌に対して, 指導者は次のようにコメン トした. [28] ご自分の使用している福祉機器や自助具などについても全て確認してみたらいかがで すか? まずはそこからです. その次に仲間のニーズ, 制度の現実と改善, 製作者 (企業) のスタンスなどをぜひ知っていくことです. (17 日目日誌コメント, 傍線筆者) また, ある当事者から入所施設での体験談を聴いた衝撃を記した日誌には, 指導者から次のコ メントがあった.

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[29] なぜ福祉の現場でそのような実態が起きてしまうのでしょう. もしあなたがそのよう な所で生活せざるを得ない状況だとしたら……そしてそのようなところで働くとしたら…… なぜそうなっているのか, どうすればよくしていけるのか, 働く人の問題か, 社会全体か…… どう考えますか? (21 日目日誌コメント, 傍線筆者) 障害者の生活問題や福祉制度の問題を A さん自身の生活に引きつけて, まずは自分が直面す るリアルな問題として考えてみるように, という助言である. さらに, 日誌には書かれていなかったが, 後のヒアリングで A さんから次のような体験が話 された. [30] 障害者運動の歴史や現状, それに対する意見, 自分の取り組み方について当事者の方 たちから質問され, 大学で勉強したアメリカの自立生活運動などについて話したが, そのよ・・・ うな知識だけでは不十分と言われた. 障害当事者としての考え, 知識が求められたが, 自分 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ は障害者運動に関わったことがないため, 具体的なことは何もわからず答えられなくて, 皆 から 「何を学んでいるの」 と言われた. (実習後ヒアリング, 傍点筆者) A さんは, 実習テーマとして, 重度障害者が地域で暮らせるようにするためには, どのよう な社会形成が求められているかを学ぶことを掲げていた. それで当事者の方々は, 大学で学んで いる A さんが, 同じ当事者としてこのことについてどのような 「見解」 をもっているのか, 関 心をもって質問されたのであろう. A さんは大学の講義などで学んだ内容を話したが, その話 は地域生活の実現に向けて具体的に行動している当事者からみると, 「自分の体験に裏打ちされ た知識や見解」 でないためにリアリティに欠けており, 社会形成に主体的に取り組みたいという 想いが感じられなかったものと考えられる. 実習後に A さんは, 自主的に J 事業所の人たちと一緒に障害者団体の主催する座り込み活動 やデモ行進に参加した. そこでの率直な感想を, A さんはヒアリングで次のように話した. [31] 自分はそれまでに自立生活運動や障害者行動に一度も行っていなかったため, 本当の 事をわかっていなかった. けれど, これが本当に自分たち当事者の主張を伝えるよい方法な のだろうか. (デモ行進など) 熱い思いに任せるだけでなく, 周囲に気配りもしながら伝え ることはできないものかと考えた. (実習後ヒアリング) 障害者運動という概念は, 団体行動によるデモンストレーションだけを意味するものではない. デモ行進や座り込みは, 当事者の主張を表す 1 つの方法で, A さんはこれらの示威行動の効果 には疑問をもったが, 障害当事者がデモや座り込みを通して何を目指そうとし, 何を訴えている のか, それにかける想いや熱気を肌で感じることができた. そして, 机上の知識でしかなかった

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障害者運動について, 当事者の想いや願い, A さん自身の抱える問題や不安などと重ねながら 「自分の体験に裏打ちされた知識」 として, 厚みをもたせる機会になったと考えられる. また, J 事業所には 「当事者」 の職員と 「健常者」 の職員がいるが, A さんは実習後にそのち がいを次のように述べている. [32] 障害当事者の職員と健常者の職員が考える 自立 は, 目的は同じだと思うが (それ に対する) 想いは異なるように思われた. (実習報告書) A さん自身 「社会での自立のイメージ」 がもてず不安を抱き, 「自立」 とはなんだろうと考え 続けているが, それは裏返せば 「自立への想い」 の強さである. そして, 当事者職員も今の A さんが置かれているような状況をくぐりぬけて, 当事者の 「自立への想い」 に共感しながら, そ の実現をサポートするために今ここで仕事をしているのだ, と A さんなりに感じとっている. これを言い換えると, A さんは, J 事業所の当事者職員というロールモデルから, 「体験に裏 打ちされた知識」 と 「自らの自立への想い」 を基盤に, 人としての尊厳が守られない当事者の苦 しみや将来の生活に対する不安を受けとめ, それらを解消するにはどうしたらよいかを 「自分の 問題として地に足を付けて当事者と向き合う」 という当事者支援者の役割と強みを感じることが できたのではないかと考えられる. そして, A さんはさらに, 当事者と支援者の両方の立場から物事をとらえる必要性を考える ようになった. [33] 自立には, 自己選択・自己決定は勿論だが, 周囲との関わりも大切である. つまり 「協調性」 と 「思いやり」 が自立には必要だと考える. (実習報告書) [34] 例えば, 当事者は 「こういう生活でこういうヘルパーさんが良い」 と言っても 100% 添うことは難しい. 生活を送る中で, ヘルパーと長く 「利用者」 と 「援助者」 の関係を保つ には, ヘルパーに気配り, ヘルパーの負担軽減も考える必要がある. (実習後ヒアリング) [35] 当事者の熱い思いや訴えは, ともすると一方通行になりやすい. 客観的に見るべきも の (例えば国家財政に占める障害者福祉予算など) を見ることができないと, 人々や諸機関 にうまく伝わらず一方的な主張と捉えられてしまう. 専門職の見地を加えることで, 当事者 の思いを社会に的確に伝えることができるのではないかと思う. (実習後ヒアリング) A さんは自分の生活体験から, 「自立」 は自己選択や自己決定, 自立への思いだけでは成り立 たず, 思いやりや協調性をもって周囲と関わるスキルが必要であると考えた. A さんの言う思 いやりとは, 支援者の立場からも状況を考えてみるということである. 例えば, 入所施設で当事

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者主体の生活が実現できないという状況を改善するためには, そのような生活ができない要因分 析が必要となる. そのためには, 支援者の働き方や施設運営のあり方, 福祉サービス制度のしく みなどを知って, 支援体制の抱える問題点について把握し改善方策を考える視点が大切になる. また, 身体介助の必要な障害者の場合には, 日常的にヘルパーとの関わりが不可欠である. 支援 者が当事者の想いをくみとるのはあたりまえと言われるが, 長期間にわたり関係を持続させるに は, 当事者も支援者の状況をくみとり, 必要に応じ 「自らの判断で状況に合わせるスキル」 とし ての協調性を身につけている必要があるのではないか, と A さんは考えるようになったのであ る. 実習の中で A さんは, 当事者がこのようなスキルを身につける機会に恵まれていないのでは ないか, と感じる場面があった. [36] おやつを食べ終わった時に出るごみを, 高校生は片付けることに気づいていなかった. ごみを彼らが気づいて片付けられなかったというのは, 「片付けられないことがいけない」 という問題ではなく, 「片付けたいという意思を介助者に伝える 経験 をさせない 環境 が生んだ行動」 ではないかと思うのである. 高校生はきっと 「やってもらうのが普通」 になっ てしまっていたと思う. 彼らに 1 から 10 まで教えて, 自立に必要な常識を教えていくべき か, 彼らが自ら気がつくまで見守ることが支援なのか. こちらから片付けるように誘導する ことも大事なサポートだったかもしれない. (実習報告書) 家族などがゴミを片付けてくれるのがあたりまえになってしまうと, 「片付けたい」 という気 持ちになるまえにゴミが片付けられているので, 本人が片付けるべきものではないということに なり, 「片付けたい」 「片付けなければ」 と考える必要はなく, そのような経験もしないで済んで しまう. しかし, ゴミを片付けることに気付かない人が支援者になることもある. 自分の生活を 自分で管理するとき, ヘルパーには 「片付けてほしい」 と伝えないとゴミは片付かない. 自分の 生活を管理するということは, ヘルパーに指示を出せるということでもあり, それは当事者があ る程度の社会生活スキルを身につけていることが前提となる. また A さんは, 当事者が生活の主体者になるためには, 当事者と支援者の関係が単に 「して もらう」 ― 「してあげる」, 「してもらって当然」 ― 「しなければならない」 の関係でなく, 支援者 のことをパートナーとして思いやる協調関係をつくることが大切で, そのためのスキルを身につ ける機会も必要ではないかと考えた. 実習後のヒアリングで, A さんは卒業後の自分の仕事に ついて次のような考えを語った. [37] NPO 法人で障害者支援サービスを立ち上げたい. 当事者にスポーツをする楽しさを体 験してもらいながら, あわせて社会生活のルールや対人スキルなどを身につけるための機会 を提供したい. このような事業を考えているのは, 「自立」 というのは, 自分のやりたいこ

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とを好きなようにやるだけでなく, 社会人として気持ちよく生活するためのマナーや協調性 を養うことも必要なのではないかと感じたからである. 特別支援学校で過ごす 12 年間は, 自分の経験でいうとぬるま湯である. 少人数なので, さまざまな人間関係の中でルールや対 人関係に必要なスキルを学ぶ機会が少ないし, 生徒ができないようだと教員がすぐに手助け できるため, がんばるという経験も少ない. だから, そうしたことを学ぶ機会と経験を積む ことのできる場をつくりたいと考えている. (実習後ヒアリング) このように, J 事業所の利用者や職員と関わり, そこでの活動理念や価値観, 自立観に刺激を 受けたり反芻したりする中で, 「当事者である自己」 と向き合うきっかけを得た. A さんは当事 者として自身の自立生活の実現をイメージしながら, それをサポートする支援者の事情や当事者 と支援者の良好な関係維持にも目を向けて, A さんなりの複眼的な思考の枠組みをつくっていっ た. そして自立とは何か, 自立生活の課題は何か, その中で 「当事者ワーカー」 が存在する意義 はなにか, A さん自身がワーカーになるとしたらどのようなことにとりくむ必要があるか, な どを考え続けた. こうして, 自分自身の仕事として社会福祉実践へのこころざしを持つに至った プロセスは, A さんにとって社会での自立イメージを具体化する過程でもあった.

Ⅳ.

結語

J 事業所の当事者の人々は, 社会への船出に対する不安, 自分にいったい何ができるのかといっ た課題を抱えながら実習に臨んだ A さんの 「当事者としての自己」 に刺激を与え, A さんの 「当事者としての自己」 との向き合いを支えた. 筆者は, A さんと J 事業所の当事者の人々の間 にそのような関係性がもたれたのは, 両者が同じ当事者であることによる 「身体的相互了解性」 (南雲 1998:109-117) に基づき, 「体験としての障害」 (上田 2004:126) を共有できたからであ ると考える. 原田 (2000:108) はピア・サポートの効果として, 自分と同じ境遇を持つ者への 自己開示によって形成された関係がモデリングによる学習を促進するが, それは同じ境遇を持つ 者との 「出会い」 によって, それ以前には見出し得なかった自己の存在の価値に気づくことがで きるからである, と述べている. A さんは, 社会福祉専門職養成教育の一環として実習を行った. この実習では, 現場の専門 職 (実習指導者・教員) から教唆を受けながら, 専門職としてあるべき態度や実践を学ぶことが セオリーとなっている. A さんは当初, 「支援者 (専門職) という立場を意識して」 実習教育の セオリーに沿って学ぼうとしたが, そうしようとすればするほど 「自分に何ができるのか」 とい う無力感にからめとられていくようであった. しかし, A さんは実習指導者のスーパービジョ ンを受けながら 「自分が当事者であることを意識して現場に関わっていく」 中で, 当事者の方々 との自己開示的な関わりを積み重ねて, 人々の人生から多様な自立観や障害観, 価値観があるこ とを学ぶことになった. そのことが, 当事者といってもまだ人生経験の浅い A さんにとって,

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当事者の生活や人々をとりまく社会システムの理解につながるとともに, 「当事者としての自己」 との向き合いを促した. このことは 「体験としての障害」 を共有できる当事者同士の関わりがあっ たからこそ, 可能であったと考えられる. そして, A さんは, 当事者の人々がさまざまに働く 姿を見て, ロールモデルとして吸収しながら, ありのままの自己を社会に活かすイメージを自分 なりに描き出していった. 実習を通して将来への見通しをもった A さんは, このあと NPO 法 人を立ち上げるため, 組織を運営管理するために必要な学習に取り組んだ. 本稿は, A さんと同じ重度障害当事者が主に利用し, 職員としても働く社会福祉現場で実習 を行った体験を分析したものであり, 抽出された 「当事者である自己」 との向き合いにかかわる 課題には, A さんの個別性が反映されている. したがって, この結果をそのまま他の障害学生 の実習体験の説明に用いることはできない. 今後の課題は, この事例から抽出された 5 つの課題 を, 他の障害学生の実習体験の分析における仮説枠組みとして, 「当事者である自己」 との向き 合いにかかわる課題と対処のバリエーションを探り, そこから当事者専門職へのモチベーション を高めることができる実習とはどのようなものか, 課題への対処を支える適切なスーパービジョ ンとはどうあるべきかを検討することである. 文献 浅原千里・柿本誠・平野華織 (2004):「 社会福祉援助の主体者 としての力量養成と 障害学生の実習 教育支援 の意義に関する考察―障害を有する学生の実習における 障害 体験の分析より―」 2003 年度社会福祉実習教育研究センター年報 創刊号 , 52-56. 社会福祉援助技術演習研究会編 (2003) 社会福祉援助技術演習ワークブック 相川書房. 佐藤郁哉 (2008) 質的データ分析法―原理・方法・実践 新曜社. 佐藤郁哉 (2002) フィールドワークの技法 新曜社. 上田敏 (2004) リハビリテーションの思想 第 2 版―人間復権の医療を求めて 医学書院. 引土絵未 (2010) 「治療共同体 Amity の援助システムについての質的分析―共同体内の多様な役割間のグ ループ・ダイナミクスに着目して」 社会福祉学 50 (4), 69-81. 引土絵未 (2009) 「治療共同体 Amity における 治療共同体援助技術 とその学習過程に関する研究―共 同体志向の援助技術と当事者性への着目」 ソーシャルワーク研究 35 (1), 36-44. 谷口明広 (2002a) 「障害当事者・仲間によるケアマネジメントの特徴と課題 」 介護支援専門員 4 (5), 53-56. 谷口明宏 (2002b) 「ピア・カウンセリング」, 黒木保博・山辺朗子・倉石哲也編 福祉キーワードシリー ズ・ソーシャルワーク 中央法規, 188-189. 大田仁史監・南雲直二 (1998) 障害受容―意味論からの問い 荘道社. 原田和幸 (2000) 「障害者自立支援システムに求められる機能と構造―主体性・関係性の視点による 「共 に生きる」 システムの構築 」 人間福祉研究 3, 79-112. 藤井克美・田倉さやか (2009) 「日本福祉大学における障害学生支援の取り組み―学生の主体的な学びを 育む支援ネットワーク作り」 大学と学生 2009-12, 28-32.

参照

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