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はじめに

肝臓は約1,200gで、人体最大の代謝器官および腺で ある。肝臓は、導管をもって胆汁を分泌するという点で 外分泌腺であるが、血管に向けて代謝産物や作用物質を 出すことから広義の内分泌腺ということもできる。消化 管の上皮に由来し、胆汁を分泌するので消化器として取 り扱われるが、多くの機能をもつスケールの大きな器官 といえる。 肝臓は軟らかな器官であり、その形は上面は円く下面 は平たく後部厚く前下方にかけて薄くなるくさび形であ る。右季肋部から上胃部にかけて存在し、その大部分は 肋骨および肋軟骨により覆われるが、正中部付近では下 縁の一部が右肋骨弓の下に現われている。横隔膜によっ て肝臓は胸膜、肺、心膜、心臓から隔てられている。 肝臓の血流量は心拍出量の25%以上にあたる。肝臓 は、門脈と肝動脈の二重支配を受けることが特徴であ る。腸管からの門脈血流は肝機能と密接な関係にあるた め、門脈は機能血管と呼ばれる。一方、肝動脈からの血 流は酸素を多く含み肝臓を栄養するため、肝動脈は栄養 血管と呼ばれる。門脈から肝臓へ流入するのは肝臓の血 流の75∼80%、肝動脈から肝臓へ流入するのは20∼25% といわれる。 肝動脈終末枝は門脈終末枝や肝類洞に直接流入するも のもあるが、多くは胆管周囲血管網(peribiliary vascular plexus)を介して門脈あるいは肝類洞に流入する(図 1)。 肝類洞の血液は、肝小葉の中心静脈に集められ、集合し て小葉下静脈となり、さらに肝静脈に集合し、最後に下 大静脈に入る。肝臓の機能は、① 老廃赤血球のヘモグ ロビンを材料として胆汁の生産と分泌(十二指腸内腔へ) を行う、② 炭水化物、脂肪、蛋白の代謝活動、③ 胃腸 管から血液中に進入した細菌や異物を捕捉する、という 3 点に要約することができる。 肝循環は、静脈性の門脈血流が優位のため、肝臓のよ うに大きな臓器を灌流するに足る血流量を保つために、 さまざまな工夫がある。① 門脈は循環抵抗が小さく、 また類洞の抵抗も小さい、② 肝外門脈は自動運動能を もち、収縮力が強い、③ 肝内門脈系は類洞につながる 導入血管が門脈前終末枝から並列的に出るという特殊な 構築をもつ。肝臓は代謝の中心であり、特にエネルギー 源を糖質に依存する脳にとっては重要な存在であるた め、出血などによって全身の循環血液量が減少すると、 肝血流量を保つべく、全体に対する肝血流量の比率が上 昇するよう循環調節される。 肝臓は軟らかくもろい性質の構造物であり、コラーゲ ン線維と弾性線維を含んだ線維性被膜(グリソン被膜: Glisson’s capsule)1)によって完全に覆われている。この 被膜と連続して肝内に小葉間結合組織が入り込み、多く の肝小葉に分かれる。この小葉間結合組織はグリソン鞘 とも呼ばれ、小葉間胆管、肝動脈、門脈、リンパ管が通 る結合組織で、線維芽細胞、樹状細胞ならびに少数のリ ンパ球を含む。この疎性結合組織はヒトでは小葉の六角 形の角の部分には集まっているが、辺縁部では小葉の境 図 1 肝内微細血管構造 A 肝内微細血管構造模式図 B Ratの血管鋳型走査電顕像 A B Hepatic artery Sinusoid Portal vein Sinusoid Peribiliary plexus Pbp Pbp Ha Pv Hepatic artery Sinusoid Portal vein Sinusoid Peribiliary plexus

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が明瞭でない。しかし、ブタなどでは小葉周辺部の結合 組織が非常に多く、はっきりとした幾何学的模様を構成 する。 小葉間結合組織のなかを肝動脈に由来する小葉間動 脈、門脈に由来する小葉間静脈、毛細胆管に由来する小 葉間胆管が走っている。小葉間動脈、小葉間静脈、小葉 間胆管の三者は 3 本 1 組になって走ることが多く、肝三 つ組と呼ばれる。血管壁に沿って神経が走る。 肝小葉は、頂きの丸くなった六角柱状、大きさは直径 1∼2mm、長さ 1∼2mmのまとまりで、肝組織の構造単 位をなす。肉眼で容易に認めることができる大きさであ る。肝小葉の中心を肝細胞索が並び、中心静脈に向かっ て走る。中心静脈は、肝小葉の中軸を通り、その先は小 葉の外に出て小葉下静脈となって、小葉間結合組織内を 単独に走るが、次第に集まって太さを増し、肝静脈とな って、下大静脈に入る。 肝静脈は門脈・肝動脈・胆管の系列と異なり、門脈系 の流域の間を走る。すなわち肝臓を門脈の流域で仕切っ たときに、仕切りの部分を肝静脈の枝が走ることにな る。このような門脈と肝静脈との関係については、 Glisson1)が述べており、Rex2)の比較解剖学的研究によ り、ヒトのような非分葉肝でみられることが示された (図 2)29)。肝臓からの静脈血は左・中・右の 3 本の肝静 脈に集められ、肝臓の後面から出てすぐに下大静脈に流 入する。左肝静脈と中肝静脈は約70∼85%で共同幹を形 成するといわれる3、56)

肝臓および脈管の発生

1.肝臓の発生 一般的な人体発生学の教科書の記述では、肝臓の発生 については非常に簡単に触れられているのみであり、特 に肝内血管の発生には浅く触れられているのみである13) 胎生第 3 週のなかごろ、肝臓の原基は前腸末端の内胚 葉性上皮芽として現れ、増殖し、肝憩室を形成する。肝 憩室は腹側腸間膜のなかで心膜腔と腹腔とを分離する横 中隔の下部領域へ伸び出し、肝細胞索を作りはじめる。 肝細胞索が横中隔内で成長し続けている間に、肝憩室と 前腸との間の交通部が胆管を形成し、その腹方に胆嚢管 と胆嚢が伸び出す。その後、肝細胞索は肝実質に分化し ていく。肝臓が腹側腸間膜内に腹腔内を尾方に成長する と、腹側腸間膜は肝臓と前腹壁の間および肝臓と前腸の 間に肝鎌状間膜と小網に区分される。肝臓の頭方部は、 横中隔と接触したまま残り、腹膜に覆われることなく、 肝臓の無漿膜野として横隔膜の腱中心と接する。 臍静脈は最初、肝臓の両側を通っているが、一部は肝 細胞に取り込まれ、肝シヌソイドを形成するようになる (図3A)。そして、両側の臍静脈の近位部と右臍静脈の 残りの部分は消失することによって、胎盤から肝臓へ血 液を送る血管は左臍静脈のみとなる(図3B)。胎盤の血 行が増加するに伴い、この時期では肝臓はほとんど機能 しないため、左臍静脈と右肝心臓路(下大静脈肝部につ ながる)との間にバイパスとなる静脈管(ductus venosus) 図 2 門脈と肝静脈との関係を示す模式図(文献 2 より引用改変) A ヒト肝臓における関係(Glisson, 1657) B 分葉肝にみられる関係 C 非分葉肝(イルカ,反芻動物,ヒト)にみられる関係 A B C 112(192)

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が形成される。生後、左臍静脈と静脈管は閉塞し、それ ぞ れ 肝 円 索(ligamentum teres hepatis)と 静 脈 管 索 (ligamentum venosum)を形成する。肝臓の血管と静脈 網との連絡は、左・右肝心臓路を通じて行われるが、下 大静脈が右側に形成されるため、左肝心臓路は消失する と考えられる。この左肝心臓路の遺残例の報告がある18) 2.肝内脈管の発生19) 肝細胞は前述のように、はじめ、ひとつの塊として腹 側腸間膜のなかに発生する。その後肝臓に血管が入り込 み、発達の仕方も変わってくる。肝臓が一様に発生する ならば、肝のなかに明確な区域は作られないはずであ る。この肝区域を理解するためには、肝内脈管の発生に 基づいた発生を理解することが必要である。 受精 3 週まで、まず左右の卵黄嚢静脈に沿って肝細胞 塊から左右に外側葉が発達する。その間をつなぐ腹側葉 はほとんど発達していない。受精 3 週末になると、左外 側葉において左卵黄嚢静脈は消失し、肝内に類洞(シヌ ソイド)が形成されていく。左臍静脈が肝に進入して血 流が提供されるようになり、臍静脈に連なる静脈管が形 成される。左肝においては左臍静脈から外側葉に流入す るramus angularisと、外側葉から下大静脈に流入する左 肝静脈とが形成される(図4A)。右肝外側葉では、右卵 黄嚢静脈が消失し、肝内にシヌソイドが形成される。右 臍静脈は消失するため、右肝には右卵黄嚢静脈の遠位部 である十二指腸周囲の静脈叢から作られる門脈が入る。 そして、この門脈から右門脈後枝(ramus arcuatus)と、 そこから下大静脈に流入する右肝静脈が形成される(図 4A)。この段階までに作られた血管が、肝臓の基本的血 管となる。 肝臓の基本的血管が構築された時点で、肝臓は大きく 2 つの葉に分けられる。つまり、肝臓は臍静脈(左臍静 脈)で還流されるために大きい左葉と縮小しつつある卵 黄嚢と、ほとんど機能していない腸管からの血液が流れ る門脈で還流されるために小さい右葉である。この両葉 の間を左門脈が結ぶことになる。Mall19)は左門脈につい ての明らかな記載をしていないが、肝臓は左右にあった 血管を取り込んで作られるから、この静脈は基本的血管 より後にできると考えられる。Sappey20)によれば、臍静 脈と門脈の間をつなぐ将来の左門脈は 1 カ月目には細い が、4 カ月になると発達し、7 カ月目には静脈管より太 く、そして 9 カ月目には臍静脈より太くなるという。 図 3 肝臓の血管の発生(文献 3 より引用改変) A 胎生第 5 週 B 胎生第 3 カ月 A B 静脈洞 左肝心臓路 肝シヌソイド 左臍静脈 十二指腸 右臍静脈 肝芽 主静脈 下大静脈肝部 肝静脈(右卵黄嚢静脈) 肝静脈(左卵黄嚢静脈) 静脈管 左臍静脈 門脈 十二指腸 上腸間膜静脈 脾静脈 113(193)

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胎生第 5 週の終わりになると(図4B)、腹側に肝臓の 発達が始まる(腹側葉)。これはまず、左葉の臍静脈の周 囲に広がるとともに右葉の門脈から腹側に伸びた枝の領 域に作られる。臍静脈と腹側に伸びた右門脈の枝にはさ ま れ た 領 域 が、 後 の 左 右 の 傍 正 中 領 域(paramedian sector)として発達してくる。左葉では、臍静脈の左側、 門脈の腹側方に向かう枝(右前区域枝本幹に相当)の右側 に、右に向かう枝がみられるようになり、肝臓が発達し てくる。この時期、門脈本幹と左門脈と下大静脈との間 の背側領域に肝臓は伸び出し、門脈本幹と左門脈から血 流を受けるようになり、のちの尾状葉となる。 24mm胎児までには、重要な門脈の枝と対応する肝静 脈が形成される(図4C)。発達中の肝臓では胎生期に、 盛んに血管新生が起こっている。これらの血管の周りで 肝芽が成長し、肝細胞索および肝内野胆管上皮へと分化 していく。発生第 5 週から10週にかけて肝臓は急速に成 長し、肝臓の重量は全体重の約10%にまで達し、腹腔内 の大きな部分を占める。肝重量の急激な増加は、肝実質 の成長によるだけではなく、肝臓での造血活動のためで もある。はじめは肝臓の左葉が右葉より大きかったが、 次第に右葉と左葉はほぼ同じ大きさとなり、さらに右葉 の方がより大きくなる。さらに、右葉からは、尾状葉と 方形葉が明瞭となっていく。

肝臓と腸間膜および脈管の通路

発生時、腹部消化管はまずほぼ全長にわたって背側の 腸間膜によって中腸を中心に腹壁から吊るされている (図 5)13)。上腹部と下腹部においては腹側の腸間膜も形 成され、前腹壁との間も固定される。中腹部において中 腸を中心とした腸管の回転が行われる。この消化管が伸 長・回転するにあたり、腹側腸間膜は障害となるため、 中腹部では形成されないと考えられる。肝臓の表面の大 部分は腹膜で包まれる。この肝臓を包む腹膜は腹側腸間 膜のことであり、上部腹側腸間膜のなかに肝臓、胆嚢、 腹側膵が発生する。胎生期には上下の腹側腸間膜はそれ ぞれ臍との連絡路が認められ、上部の正中には臍静脈が 走り、下部には膀胱の延長である尿膜管が正中に、その 両側を臍動脈が走る。背側腸間膜には前腸領域から脾臓 と背側膵が発生する。この臍静脈は生後肝円索となり、 これを包む肝鎌状間膜が、肝の前面に明瞭にみられる。 一方、尿膜管を包む正中臍索と左右の臍動脈索は、ヒダ A B C 図 4 肝内脈管の発生 ヒトの肝の静脈系の発生19).赤は臍静脈,青は腸間膜静脈,紫が肝静脈ならびに下大静脈を表す.臍静脈 は左側,腸間膜静脈が右側を灌流するのがわかる. A 7mm胚 B 11mm胚 C 24mm胚 下大静脈 門脈 下大静脈 下大静脈 肝静脈 肝静脈 臍静脈 腸間膜静脈 臍静脈 胆囊 胆囊 臍静脈 肝静脈 114(194)

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状の高まりを作るにすぎない。 肝臓は、腹側腸間膜の中に発生し成長する。それによ って肝臓の前後に膜が区分される。肝臓の腹側にある前 腹壁と肝臓の間の膜は肝鎌状間膜を形成する。肝鎌状間 膜は 2 枚の腹膜で作られるヒダであり、臍にはじまり肝 臓に至るまで体の正中線に一致して上行し、横隔膜を覆 う壁側腹膜に移行する。肝鎌状間膜下縁には肝円索が含 まれる。肝鎌状間膜の肝臓への付着部は、腹側腸間膜の なかで、肝臓が左右対称に発生していたときの左右の領 域の境をなし、これによって解剖学的左葉と右葉とに分 ける。一方、背側にある胃および十二指腸と肝との間の 膜である前胃間膜(腹側胃間膜)と肝十二指腸間膜は小網 を形成し、門脈や肝動脈、総胆管などの通路となる。 肝臓上面(横隔面)の後部は腹膜をもたず、横隔膜に直 接触れる。これを無漿膜野といい、その一部は下大静脈 および食道下端に接している。ここで肝臓は直に横隔膜 と癒着し、血管による交通がみられる可能性がある。こ の領域は、胎生期の肝臓の発生時に横中隔と接して中胚 葉の細胞を受け入れる入り口となっていたため、腹膜が 横隔膜を覆う際に肝臓が腹膜に覆われずに露出した部分 である。 肝鎌状間膜は肝臓の後部で左・右の 2 葉に分かれ、腹 膜は無漿膜野の辺縁をまわって肝臓表面上に折り目ある いは折り返しを作る。この折り返しは無漿膜野を王冠の ように取り巻くので肝冠状間膜と呼ばれる。肝冠状間膜 となり、さらに左・右の三角間膜に移行する。つまり無 漿膜野は肝冠状間膜と三角間膜で境される、ほぼ三角形 の領域となる。左冠状間膜の左後縁で、左葉の尖った外 側端は萎縮して板状の結合組織(線維付属)となり、左三 角間膜を介して横隔膜へつく。一方、右三角間膜の後ろ へ折り返しは肝腎ヒダとなる。 肝臓の動脈は、下行大動脈の枝である腹腔動脈ならび に上腸間膜動脈からの枝として小網の 2 葉の間を通過し て達する。主として腹腔動脈の一枝である総肝動脈から 分枝した固有肝動脈が肝門に達することになる。しか し、肝臓に開く門があるならば、動脈はそこから肝臓に 達しうる。肝臓の大部分は腹膜に包まれている。腹膜に 包まれている部分は、外部から直接の枝が入ることはな い。しかし、膜の隙間を介してならば、枝が入ることが 十分に考えられる。 小網(肝胃間膜)の 2 葉の頭側部を通り、腹腔動脈の左 胃動脈の枝がそのまま前進し、副左肝動脈として肝臓に 図 5 肝臓と腸間膜・腹膜・脈管との関連.背側および腹側腸間膜(文献13より引用改変) A 第 4 週の終わりの胚子の横断面.臓側中胚葉層が正中部で合体し,背側腸間膜を形成する. B 肝臓は肝鎌状間膜および小網によって,それぞれ前腹壁および胃に連結されている. A B 臍動脈 尿膜 卵黄腸管 下腸間膜動脈 固有腸間膜 上腸間膜動脈 背側十二指腸間膜 肝鎌状間膜 横隔膜 小網 背側胃間膜(後胃間膜) 体表外胚葉 神経管 大動脈 胚内体腔 腸 脊索 背側腸間膜 肝臓 胃 115(195)

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達することがある(図 6)。また、上腸間膜動脈の最上枝 が小網(肝十二指腸間膜)の最外側の 2 葉の間を通り、副 右肝動脈として肝に到達することもある(図 7)。このよ うに小網の 2 葉の血管は、肝臓に達しうるのである。ま た、肝の無漿膜野は、肝臓と横隔膜との直接接触部位で あるため、下横隔動脈が肝臓に侵入するための通路とな るとともに、肝臓の門脈血管と横隔膜に広がる静脈との 吻合をもたらす。 同様に、腹側腸間膜の肝臓より腹側部分である肝鎌状 間膜も 2 葉の間に血管の入る余地があり、ここに動静脈 があるならば、肝に達すると考えられる。肝鎌状間膜は 前腹壁内部に開いており、この部は体幹の血管である内 図 6 副左肝動脈 A DSA像:左胃動脈から分岐する副左肝動 脈を認める(矢印). B Dynamic CT動脈優位相 MIP像:CTでは 胃肝間膜内を通り左肝門部から肝内に入 る(矢印) A B 図 7 副右肝動脈 dynamic CT動脈優位相 MIP像 上腸間膜動脈動脈から分岐する副右肝動脈は肝十二指腸間膜下縁 を通る(矢印).

図 8 Inferior veins of Sappey

正常肝の造影CT MPVR(multi projection volume reconstruction) (斜位冠状断像)で胸壁から鎌状靭帯腹側を通って肝S4に流入する

inferior veins of Sappeyがみられる(矢印).門脈圧亢進症で門脈 −大循環側副路となる傍臍静脈(paraumbilical veins)とほぼ同じ 静脈である.

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胸動静脈、上腹壁動静脈、肋間動静脈、筋横隔動静脈、 下横隔動静脈などが会合しうる領域である(図 8、9)。 横隔膜の主たる動静脈である下横隔動静脈も、剣状突起 下部付近で内胸動静脈と吻合しうる。よって、これらの 動静脈が会合部と肝臓を結ぶ経路が考えられる14)。肝円 索の上縁を走行する傍臍静脈(paraumbilical vein)に伴 行して、左肝動脈へと連続する動脈がみられることがあ る15)。肝円索周囲の動静脈についての解剖によると、肝 円索の外周を走る動脈(すなわち肝鎌状靭帯動脈)は、20 例中19例が左肝動脈または方形葉枝(1 例のみ右枝)と連 絡し、腹膜・腹膜下組織・腹直筋に分布したのち上下腹 壁動脈・浅腹壁動脈(皮下の動脈)と連絡し、上膀胱動脈 と吻合しうると報告している16)。静脈に関してはいずれ も左葉または方形葉に入る門脈枝と交通し、いろいろな 高さで上下腹壁静脈と吻合しているという(図 8)。 Nordensonら17)は同部に向かって内胸動静脈の枝が分布 することを報告している。 以上をまとめると、肝鎌状間膜は、いうなれば前体壁 の血管(内胸動静脈・上腹壁動静脈)と臓器(肝臓)の血管 (肝動脈・門脈)との接点になっているものと考えられる。

肝の形態と周囲構造

1.分葉肝と非分葉肝 比較解剖学的にみると、肝臓の形は種によって異なる が、一般に左右両葉に分かれている。また哺乳類におい ては左右両葉の間に中心葉(方形葉)、背側葉(有尾葉)が 区別される。ネコやネズミの肝臓ははっきりと肝葉が区 分される分葉肝といわれる。それに対してヒトやイルカ などでは肝臓が外形上はっきりと区分されない非分葉肝 といわれる。ヒトの肝臓は、外見上、一様な構造をもつ 器官にみえるが、分葉構造を内包していると考えられる。 2.肝臓の周囲構造 肝臓は上腹部および左右の下肋部で、ドーム型の横隔 膜と腹膜によって固定される。肝臓は呼吸が行われると きなどに横隔膜(吸息)と腹筋(呼息)によって動かされ る。臓側面のほぼ中央は肝門と呼ばれ、血管や胆管など の出入口となっている。この肝門には小網自由縁の上端 が付着しており、肝門内を左右の肝管、固有肝動脈と門 脈のそれぞれの右枝と左枝、自律神経などが通過する。 A B 図 9 鎌状靭帯動脈 A DSA像:左肝動脈内側区域枝臍部から分岐する鎌状靭帯枝を 認める(矢印).動脈造影像では同定がしばしば困難である. B 肝動脈造影下CT MIP像:同一例の肝動脈造影下CTのMIP像 で鎌状靭帯動脈の左肝動脈内側区域枝からの分岐(上,矢印) と鎌状靭帯に添った走行,腹壁への分布が理解できる(下, 矢印). 117(197)

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横隔面の一部と肝門部以外は、表面が漿膜(腹膜)に覆わ れている。肝門(porta hepatis)のportaは、扉を意味する 言葉である。この扉は腹側は方形葉の、背側は尾状葉の 尾状突起によって作られている。 肝臓の周囲には多くの臓器があり、軟らかい肝臓はそ れらの臓器によって作られる空間を埋めるように発育す る。そのため、肝臓の後下面(内臓面)には隣接する腹部 内臓による圧痕がみられる。結腸圧痕(右結腸曲)、腎圧 痕(右腎)および副腎圧痕(右副腎)、十二指腸圧痕(十二 指腸球部)、胃圧痕(胃前壁)、食道圧痕(食道下端部)、 心圧痕(横隔膜を介して心臓)などがある。 3.肝臓の外景 肝臓は、解剖学上、左葉、右葉、方形葉、尾状葉の 4 葉に分けられるが、はっきりと分けられるわけではな い。またそれぞれの内部構造には本質的な差はなく、機 能的な差はないとされる。肝臓は、まず、大きく 2 つの 部分(左葉と右葉)とに分けられる。これには解剖学的な 区分と機能的(外科的)な区分がある(表 1)4)。この区分 はどちらも発生学的な根拠によるものであるが、前者が 主として発生場所を中心に考えているのに対し、後者は 肝臓を出入りする脈管を中心に考えているという違いが ある。ここでは、解剖学名の左葉、右葉を使うときに は、解剖学的左葉、解剖学的右葉とし、その他は機能的 な左葉、右葉を意味することにしたい。 横隔面の肝鎌状間膜の付着部によって肝葉の境界を区 分すると、肝鎌状間膜付着部より右側の大きな部分(解 剖学的右葉)と同間膜付着部より左側の小さな部分(解剖 学的左葉)とに分けられる。臓側面では肝円索裂−静脈 管索裂(左の縦溝)が解剖学的な境界とされる。肝円索裂 には肝円索が通る。肝円索は胎生期の臍静脈が、出生後 に血行が止んで萎縮し、固い結合組織の索状物に変化し たものである。肝円索裂はしばしば肝実質(実質性架橋) か結合組織(結合織架橋)によって埋められる。実質性架 橋は、日本では22∼30%に認められる5)。後部の静脈管 索裂には静脈管索が通る。この静脈管索は、胎生期には 臍静脈と下大静脈とをつなぐ静脈管(アランチウス管)が 通っていたのが、やはり萎縮して索状物になったもので ある。静脈管索裂は肝門から横隔面に向かって上方に大 静脈溝の左側まで走り、横隔面への移行部で右方に転じ て下大静脈へ走る。 肝臓の表面からみた解剖学的区分に対して、肝臓内に 分布する血管および胆管の流域によって、肝臓はいくつ かの区域に分けられる。これは内部構造に従った分け方 なので、機能的区分という。門脈の左枝と右枝の流域は 肝内ではっきり区別され、境界面を引くことができる。 この面は右の縦溝(胆嚢窩と下大静脈とを結ぶ:カント リー線)を含む矢状面にほぼ一致し、肝臓をこの面で左 右に分けると、左葉と右葉とに分けることができる(図 10)。 肝臓の後下面においてみられる矢状方向に走る 2 本の 縦溝と、横方向に走る肝門は、H字形の溝を作り、肝臓 を 4 部に分割している。左の縦溝は前述の肝円索裂−静 脈管索裂である。右の縦溝の前部は広くかつ深く、肝の 下縁から肝門に達して胆嚢を容れる胆嚢窩である。右の 縦溝の後部は下面(臓側面)から横隔面において縦に切れ 込む深い陥凹となり、下大静脈を抱える。大静脈溝であ る。この溝をしばしば下大静脈の背側を肝実質あるいは 結合組織性索が架橋し、管を形成することがある。肝臓 の下面(臓側面)では大静脈溝は尾状葉と右葉が連続する ため、肝門とは連続していない。左右の縦溝の間にある 部のうち、肝門の前部を方形葉といい、小さく不規則な 後部は尾状葉という。よって、方形葉と尾状葉は、左葉 の一部といえる。 尾状葉は尾状突起を右外側方に出し、前方に向かって 乳頭突起を出す。尾状突起は肝門と大静脈溝との間に長 く伸びて右葉とを結合し、網嚢孔の上壁をなす。尾状葉 は ① 尾状突起(process branch)、② 下大静脈部(paracaval

表 1 肝の区分の名称の大まかな対照表(文献 4 より引用改変) 右葉 尾状葉 右葉の一部 左葉 後区 前区 尾状葉 内側区 外側区 外科的右葉 外科的左葉 S7 S6 (上) (下) (上) (下)S8 S5 (右) (左)S9 S1 解剖学名 外科的肝区域 クイノー肝区域 S4 (前下) S3 S2(後上) 118(198)

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branch)、③ スピーゲル葉(Spiegel’s lobe)の 3 部に区分 される6)。「尾状突起」は、解剖学の成書に記載されてい る領域とほぼ等しい。「下大静脈部」とは、尾状葉のなか で背側にある肝実質のうち下大静脈の前方および右側に 位置するものを指す。残りの部分が「スピーゲル葉」であ り、乳頭突起が含まれる。尾状葉の乳頭突起に小網をは さんで接した左葉からは肝門に向かう隆起が突出し、こ れを小網隆起という(図11)。 4.形態の変異 肝にしばしば突出部をみることがあるが、このような 突出部は、肝機能に影響はないとされる。このうち、副 葉とは肝臓本体と実質性の連絡をもつものであり、副肝 とは実質性の連絡がないものをいうが、副肝のなかには しばしば索状物による肝臓本体との連絡が認められるこ とがある。 右葉の副葉として肝右葉の一部が下方へ舌状に突出し ているリーデル葉をみることがある。尾状葉の左半部で あるスピーゲル葉が突出・独立して副葉となり、方形葉 が舌状に突出して右臍傍小葉を作っている例が報告され ている7)。左葉から胃前面に下垂する舌状突起(副葉)に ついての詳細な解剖報告がある8)。副肝については、文 献的な集計では、胆嚢の漿膜内(64.5%)、肝十二指腸間 膜内(10.5%)、索状物で肝につながる(7.9%)、肝円索内 (5.3%)、後腹膜(5.3%)、脾周囲(2.6%)、横隔膜右側 (2.6%)、胃食道接合部(1.3%)となっている9) 全内臓逆位の例にみられた左右対称肝の報告がある5) この例では肝円索は肝実質内に埋没しており、胆嚢は肝 図10 カントリー線(面) 経動脈性門脈造影下CT像からの肝3D構成画 像である.茶色:右葉,黄緑色:左葉,ピン ク:門脈,空色:下大静脈,他の脈管は肝静 脈,白点線による楕円:カントリー線.カン トリー線(あるいは面)は中肝静脈本幹に添っ た左右門脈支配域の境界面である(中間静脈 根部から胆嚢窩が大まかな目安となる). 図11 尾状葉解剖模式図(文献 6 より引用改変) 斜線:尾状葉 Ivc Lhv Slb Lpv Mhv Pcb Pb Ivc Pv Rhv 119(199)

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円索の左にあったという。肝臓の位置と外形は正常で も、右葉に肝円索がつくことがある。超音波検査で 4,500例中 5 例(0.1%)にみられ、肝内門脈の右前区域枝に 臍部があり、そこに肝円索がつく。内臓逆位や腸管回転 異常とは異なるが、このような例には左側胆嚢を伴うと いう10)。このような例についてはほかにも報告がある11、12) (図12)。

肝臓の機能的区域

ガレノス(Galen、130∼200年)は、肝臓について初め て記述したといわれるが、彼は肝臓を 5 葉であるとし た。これは動物の所見を流用したにほかならないと思わ れるが、16世紀くらいまでその考え方が大勢を占めてい た。Glisson(1654)は、肝内血管ならびに周囲の結合組 織(Glisson被膜)および肝三つ組(門脈、肝動脈、胆管) を記載した。Rex2)は、哺乳類の肝内血管について鋳型 標本を用いて検討を行った。その結果、左右への門脈の 分枝は、肝臓をそれぞれ 2 つの独立した同様の分布をみ せることから、肝の機能的分類を示した。Cantlie21)が、 肝の発生で中心となる胆嚢をはさんだ左と右の葉は量的 に同じであり、胆嚢窩と大静脈溝を結んだ線を含む面で 対称的に分割できることを示した。ゆえにこの面をRex-Cantlie線またはCantlie線と呼ばれる。Hjorstö22)は、胆 管と肝動脈の配置について研究し、肝の区域パターンに ついて述べた。HealeyとSchroy23)は、同様の研究によっ てHjorstö22)の結果を裏付け、肝臓を胆管と肝動脈の 2 次分枝パターンから肝臓を 5 つの区域に区分した。 Couinaud24)と、GoldsmithとWoodburne25)は、門脈と肝 静 脈 の 分 枝 パ タ ー ン か ら 肝 臓 の 区 分 を 述 べ た。 GoldsmithとWoodburne25)は、 肝 臓 を 4 つ の 区 域 に 分 け、それぞれを 2 次門脈分枝によってさらに亜区域に分 けた。一方、Couinaud24)は、肝臓を門脈の 3 次分枝か ら 8 区域に分けた。Couinaud26)では、さらに背側領域 を 2 つに分け、9 区域に分けている。さらに、近年、竜 と趙27)は、門脈の分枝の詳細な検討から、新しい肝区域 を提唱している。 このように、肝臓の機能区分については多くの提案が 出されてきた。そのため、肝臓の区域およびその血管分 布パターンなどについての文献を渉猟するとき、しばし ば頭を抱えざるを得ないことがある。それは、まず用語 が実にさまざまであるということである。次に肝をはじ めに区域分けし、そこにどのような血管が分布するかと いうデータが多くみられることである。名称などをどの 図12 右肝円索 A 造影CT像(左:頭側)で肝円索の右方への偏位を認め(矢印),同部 より左門脈枝と右葉前区域にあたる門脈枝が共通幹を形成し分布 している. B 造影CT門脈相MIP像で同様の所見を認める(矢印). A B 120(200)

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ように表現したらよいかよくわからないことから、やむ を得ないことは十分にわかるが、混乱のもととなる。こ こではまず、代表的な肝区域の考え方について紹介する ことにする。 1.HealeyとSchroy23)の肝区域 HealeyとSchroy23)、Healey28)は肝鋳型標本による胆管 のドレナージ領域から肝区域の詳細な検討をし、機能分 類を示した(図13)。胆嚢床と下大静脈を結ぶ線[lobar fissure(Rex-Cantlie線 に 相 当 )]に よ り 肝 を 右 葉(right lobe)と 左 葉(left lobe)に 分 け た。 左 葉 は 臍 静 脈 窩 (umbilical fossa)と 静 脈 管 索 窩(fossa for ligamentum

venosum)を結ぶ線であるleft segmental fissureによって 内側区域(medial segment)と外側区域(lateral segment) に分けられるとした。右葉はright segmental fissureによ っ て 前 区 域(anterior segment)と 後 区 域(posterior segment)に、そして、さらにこれらの 4 区域は胆管の ドレナージ領域と門脈の還流領域からsuperior areaと inferior areaに分けられるとした。尾状葉(caudate lobe) についてはこの 4 区域には含めず、1 つの区域として取 り上げ、固有尾状葉[caudate lobe proper(left)]と尾状突 起[caudate process(right)]に分け、固有尾状葉をさらに 左亜区(left subsegment)と右亜区(right subsegment)と

に分けている。尾状葉では、門脈は左右門脈から流入 し、胆管は通常 3 本あり右および左肝管に流入するとし ている。 こ の 区 分 は 次 の よ う な 門 脈 の 分 枝 所 見 に よ る( 図 13A)。 左 門 脈 は 肝 門 部 を 走 行 す る 横 行 部(pars transversus)と前方に向かって肝円索裂を走行する臍部 (pars umbilicus)に分けられるとした29)。この門脈臍部 は比較的太く、腹側に向く盲管(cul-de-sac)をなす。そ して門脈外側区域枝の上枝(superior area branch)は門脈 横行部と臍部との移行部付近から左側に分岐した。門脈 外側区域枝の下枝(inferior area branch)は門脈臍部の左 側から分岐していた。そして門脈内側区域枝は門脈臍部 から右側に分岐し、さらに上枝(superior area branch)と 下枝(inferior area branch)に 2 分岐していた。右門脈は 前区域枝(anterior segmental branch)と後区域枝(posterior segmental branch)に 2 分岐し、前区域枝と後区域枝は それぞれ上枝(superior branch)と下枝(inferior branch) に 2 分岐する。

それぞれの肝区域をドレナージする肝静脈は次のよう である(図13B)。3 本の肝静脈は 4 区域の間を走行する。 中肝静脈はlobar fissure(Rex-Cantlie線に相当)を、左肝 静脈はleft segmental fissureの上部を、右肝静脈はright segmental fissureをそれぞれ走行するとしている。そし A B 図13 Healey28)の肝区域 A 肝動脈と胆管の分布領域を示す28).動脈のみの名称を番号で示す. B 肝臓の区分28)(a:左右の葉の境界,b:左葉の中の区域界). 尾状葉 a b 後区 前区 右葉 内側区 外側区 左葉

1: 固 有 肝 動 脈,2: 右 肝 動 脈,3: 後 区 域 枝,4:posterior-superior area artery,5:posterior-inferior area artery,6:前区域枝,7:anterior-superior area artery,8:anterior-inferior area artery,9:左肝動 脈,10:内側区域枝,11:medial-superior area arteries,12:medial-inferior area arteries,13:外側区 域枝,14:lateral-superior area artery,15:lateral-inferior area artery,16:尾状葉枝

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て左肝静脈は外側区のすべてと内側区域のsuperior area をドレナージし、中肝静脈は内側区域のinferior areaと 前区域のinferior areaをドレナージし、右肝静脈は後区 域のすべてと前区域のsuperior areaをドレナージすると している。 2.Couinaud24、26)の肝区域 Couinaud24、26)は肝臓の鋳型標本を用いた詳細な検討 から肝を分類した。肝臓は左葉(left liver)と右葉(right liver)とに主門脈裂[main portal fissure(Rex-Cantlie線に 相当)]により分けられる。そして左肝を左門脈裂(left portal fissure)により左外側領域(left lateral sector)と左 傍正中領域(left paramedian sector)に分け、右肝を右門 脈裂(right portal fissure)により右傍正中領域(右前区域) (right paramedian sector)と右外側領域(右後区域)(right

lateral sector)に分けた。そして下大静脈の前面、肝門 の背側、主肝静脈の下方に囲まれた領域を背側肝(dorsal liver)とした。Couinaudはこれらの肝の区域を I から VIIIまでの区域(segment)に分けた(図14)。Segment I は 背 側 肝(dorsal liver)、Segment IIは 左 外 側 領 域(left lateral sector)に相当し、Segment IIIは左傍正中領域(left paramedian sector)の左方部分に相当し、門脈臍部から 左方に分岐する門脈枝によって還流され、Segment IV は左傍正中領域(left paramedian sector)の右方部分に相 当し門脈臍部(Rex窩:Recessus umbilicalis)2)umbilical

fossaから右方に分岐する門脈によって還流される。右

傍正中領域(right paramedian sector)と右外側領域(right lateral sector)は左門脈と右門脈をつなぐ主門脈弓(main portal arch)(図15)より頭側か尾側により上下に分け、 そ れ ぞ れSegment VIIIとSegment V、Segment VIIと Segment VIに分類している。

Couinaudの区分を考えるとき、main portal fissure、 left portal fissure、right portal fissureというものが重要

となっている。二村30)の訳ではmain portal fissureは主門

脈裂、left portal fissureは左門脈裂、right portal fissure は右門脈裂となっている。そのため、門脈との関係が強 い裂隙であることを示唆している。しかし、portaが「扉」 という意味であることから、Couinaudのportal fissure は、「門脈の」という意味より、門脈の還流域の間にある 裂隙という意味であり、その裂隙は扉のように開けるこ とができるということを指している。主門脈裂(main portal fissure)とは、胆嚢窩と下大静脈前面を結ぶ軸に 沿っている。肝門の少し上方で中肝静脈をみることがで きる。左門脈裂(left portal fissure)は、左方では前述の Segment IIとSegment IIIの間を分ける面であり、右方で はSegment IIとSegment IVの間を分ける面である。この 間には明確な解剖学的指標はないが、右方では左肝静脈 の 主 幹 が 通 る。 右 門 脈 裂(right portal fissure)は、 Segment V + Segment VIIIとSegment VI + Segment VIIを分ける面である。右肝静脈が後方で出現する以外 に解剖学的指標はないとされる。これらの裂隙は、肝臓 を分けるにあたり、その扉を開けることができるという 4 3 1 2 7 6 5 II III IV VIII V VII VI VIII IV Mhv Rhv Ivc 背側肝 122(202) 図14 門脈による区域分けと背側肝26) 1:主門脈裂,2:右門脈裂,3:左門脈裂,4:左外側領域,5:左傍正中領域, 6:右傍正中領域,7:右外側領域,4 + 5:左肝に相当する,6 + 7:右肝に相当する

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意味でportal fissureと呼ばれるのだと考えられる。 Couinaudの左外側領域(外側領域)left lateral sector、 左傍正中領域(内側領域)left paramedian sector、右傍正 中領域(前区域)right paramedian sector、右外側領域(後 区域)right lateral sectorの 4 つの区域(sector)は、次の ような門脈の分岐をもとにしたものである。左門脈はま ず外側区域枝left lateral veinが分岐し、その後umbilical fossaを走行する内側区域枝(left paramedian vein)にな る(図14)。内側区域枝は門脈臍部から左にSegment III への門脈枝(P3)を分岐し、右にSegment IV(P4)を分岐 する。右門脈は前区域枝(right paramedian vein)と後区 域枝(right lateral vein)に分けられ、それぞれの区域 (sector)を還流する。しかし、右葉において前区域枝か らP5とP8への 2 分岐と、後区域枝からP6とP7への 2 分 岐については、前述のように主門脈弓(main portal arch) (図15)より頭側か尾側により分けるということであり、そ れらの境界は、明瞭な解剖学的指標をもたないことになる。 Couinaud26)は、従来の尾状葉を左背側区域(S1l)、下 大静脈前面から右側にかけての肝臓背側実質を右背側区 域(S1r)とした。これら 2 つを合わせて背側肝dorsal liverという概念を提唱した。さらにCouinaud31)は、後 者(S1r)をSegment IX(S9)と定義した。この「背側肝」と は、肝臓内における位置(下大静脈周囲)に基づく概念で あり、門脈等の脈管による区分ではない。S9には右門脈 の一次分枝のほか、P7ないし後区域根本幹からの門脈枝 が分布しうると述べている26、31)。石山ら32)が背側肝への 血管分布を検討したところ、尾状葉のみから枝を受けた ものは7.5%だけであり、このほか後区域枝本幹からの 門脈枝が還流するものが42.5%、S7ないしS8が還流して いたものが47.5%であったと報告している。すなわちS9 の領域は、門脈枝による肝区域でいえばS7ないしS8の 一部に相当する領域であると考えられる。そしてそれを 示すように、さらにCouinaudのグループは、Segment IXを下大静脈の背側にまで広げ、Segment IXRとIXLと に分けている(図16)33) 尾状葉への枝は、左門脈、門脈分岐部、右門脈のいず れからの枝も受けることがあり、非常に多くの変異があ るという報告は多い34∼36) 3.竜と趙27)の肝区域 Healey(1952)やCouinaud24、26)の肝区域分類の問題点 を検討し、肝臓の発生を考慮して竜と趙27)は門脈の分布 とそのドレナージ肝静脈によって肝臓を区域分類してい る。左葉については外側上区域、外側下区域、内側区域 に分けており、それぞれの区域はCouinaud24、26)のS2、 S3、S4に そ れ ぞ れ 相 当 す る と い う。 一 方、 右 葉 は Couinaud24、26)

のものとは異なり、前腹側区域(antero-ventral segment:Avs)、 前 背 側 区 域(antero-dorsal segment:Ads)、後区域(posterior segment:Ps)に分け ている。尾状葉は 1 区域としている(図17)。前区域にお 図15 肝臓の主門脈弓(赤線)33) この図では主門脈弓と背側肝との関係を示している.下方から見 たところ. 肝鎌状間膜 下大静脈 IV Mhv Rhv VIII VII I IXL IXR Ivc 図16 背側肝を下から見たところ33) Segment Iは下大静脈の左側に位置するとされる.Filipponiらに よると,Segment IXは 3 部に分けられるという.つまり,左部 は右肝静脈(Rhv)と中肝静脈(Mhv)の間に位置し,中部は右肝 静脈の下に位置し,右部は右肝静脈より後ろ側に位置する. 123(203)

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図17 門脈の文枝に基づく肝臓の区分27) 肝区域:S1,S2,S3,S4(Couinaud26)に相当) 門脈:P1,P2,P3,P4(Couinaud26)に相当) 図18 肝門部の門脈分岐様式の変異形成についての仮説 27) 左右の肝を結ぶ左門脈の胎生期における結合位置によって,さま ざまなパターンが形成される. ① 正常分岐型:右門脈茎と結合 ② 同時分岐型:前区域門脈本幹と後区域門脈本幹との分岐部に 結合 ③ 後区域独立分岐型:前区域門脈本幹と結合 右肝 左肝 前 P4 P3 P2 ① ② ③ At Pp 右門脈 左門脈結合部分 ① ② ③ At Pp At At Pp Pp 左門脈 Avs Ads Adp At Pp Ps Ivc Avp い て 右 前 区 域 枝 本 幹(anterior trunk:At) は、 Couinaud24、26)のいうような上下ではなく、腹側枝と背 側枝に 2 分されるとした37、38)。そして腹側に分岐する枝 はすべて中肝静脈に、背側に分岐する枝はすべて右肝静 脈に還流していたという37)。したがって前区域枝本幹か ら分岐する 3 次分枝は、腹側枝(antero-ventral portal branch:Avp)と 背 側 枝(antero-dorsal portal branch: Adp)に 2 分される(図17)。前腹側区域Avsは門脈前区域 枝に還流され中肝静脈にドレナージされる区域、前背側 区域Adsは門脈前区域枝で還流され、主として右肝静脈 にドレナージされる区域、後区域Psは門脈後区域枝で還 流され右肝静脈にドレナージされる区域である39、40)。こ の区分では、前腹側、前背側、後区域の大きさはほぼ同 等となる。 胎生初期に、右葉は右卵黄嚢静脈に由来する門脈に還 流され、左葉は臍静脈に還流される。左右の肝葉の交通 は、はじめほとんどないが、後に左門脈により右の門脈 と左の臍静脈が結合されて、成人にみられるような門脈 血流が形成される。門脈は肝門部にて長く明瞭な門脈横 行部をもつ左枝と、短くただちに分岐しやすい右枝に分 かれる(第 1 次分枝)(79.8%)。同じ 2 分岐であっても、 左枝 + 前区域枝と後区域枝とに分かれることがある (8.7%)。また、門脈が肝門部で左枝、前区域枝、後区 域枝に同時 3 分岐することがある(11.5%)41)。このよう な門脈の分岐パターンの変異は、左門脈が左右葉の結合 のために、左右葉の形成後に作られるので、左門脈と右 門脈の結合部位に変異が生じ、門脈分岐様式が変わるの だという説明がされている27)(図18)。① 門脈(右門脈) と左門脈が結合すると通常型となる、② 門脈前区域枝 と左門脈が結合すると門脈後区域枝が独立して分岐する 型となる(左枝 + 前区域枝、後区域枝)、③ 門脈前区域 枝と門脈後区域枝の分岐部で結合すると同時 3 分岐型に なる(図19)。

Couinaud24、26)は、後区域(right lateral sector)は後区

域枝(ramus arcuatus)によって血流を受けて増大してく ると、前枝と後枝が形成され、S6とS7が識別されるよ うになると書いている。後区域枝の分枝形態について は、大きく弓型(扇型)と 2 分岐型の 2 型に分けられてき たが両型の間には連続的な変異がみられるという42)。つ まり、S6とS7を明確に区別するためのP6とP7には後区 域枝から枝が何本も分岐するという形が多く、区別する ことが非常に困難であるといわれる43∼46)。また前区域に 関しても木下ら45)、田岡ら47)はP5とP8も明確に分けるの は難しいとしている。そのため、竜と趙27)の肝区域で は、 あ え てS6とS7を 分 け て い な い。 ま た、 Couinaud24、26)のS5とS8も、門脈の分枝パターンから明 確に分けられるものではないので38、48)、竜と趙27)は、両 者を発生に忠実に、門脈前区域枝本幹の両側(腹側と背 側)によって区分している。尾状葉には、Segment Ir(IX) の領域に後区域S7からの枝が入り込むことが多いため、 124(204)

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図19 門脈分岐型(経動脈性門脈造影下CT MIP3D像) A 通常型 B 右後区域門脈枝独立分岐型 C 同時 3 分岐型 Rpv Lpv Apv Ppv Lpv Apv Ppv Lpv 右葉 左葉 後区域 前区域 内側区域 外側区域 Healey & Schroy による分類 Couinaud による分類 肝静脈 下大静脈 門脈 図20 肝癌取扱い規約分類 (日本肝癌研究会 編:臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第5版. 2008,金原出版,東京より引用) 後区域と明確な区別がつかず、後区域の一部といえるよ うなことも多い49∼51)

画像解剖

日本では肝の区域分類は、Couinaud分類とHealeyと Schory分類が混合されて使用されてきたために混乱して いる。Couinaud分類の方が胎性学的に理解しやすいた めに、この分類における区域(segment)名が一般的に使 用されている。しかしながら、Couinaud分類における より上位の領域(sector)や片肝(hemiliver)は使用され ず、HealeyとSchroy分類の区域(segment)と肝葉(lobe) が使用されている。このために、Couinaud分類におけ る区域は、我が国では亜区域(subsegment)と表現され ることが多い。日本肝癌研究会の原発性肝癌取扱い規約 第 5 版(2008年)に規定されている分類を図20に引用して 示す。図21にCT横断像における本分類に基づいた典型 例の肝内脈管解剖とCouinaudの肝区域を示す。我が国 における肝区域・肝内脈管分類はこれに基づいて行うこ とが必要であり、以下にこれに基づいて記載するが問題 も多く、特に亜区域(Couinaud分類の区域)の正確な命 名はしばしば困難である。その大きな理由は、これらの 分類の基本である肝内門脈・肝静脈の変異が極めて多い からである。“脈管の分岐形式で亜区域を命名すること” が基本的な考え方であるが、現実の臨床の場では“肝臓 全体のなかでの位置で命名・呼称されること”が一般的 となっている。これは情報の伝達に不可欠なためであ る。こうした点を考慮しながら以下に肝内脈管解剖を記 載する。 125(205) A B C

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図21 肝内門脈分枝,CTAP像(1〜15)

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Pv Rpv Lpv Apv Ppv P1 right superior P1 right inferior P1 left superior P1 left medial P2 P3 P4a P4b P4 dorsal P5a P5b P6a P6b P6* P7a P7b P8a P8b P8c P8d p126 p127 図21 肝内門脈分枝,CTAP像(16〜20) 1.肝内門脈起始部の分岐形式 図19に示したように、肝内門脈主幹の肝外での分岐形 式には 3 型がみられる。正常分岐型(通常型)は71∼90 %、後区域枝独立分岐型は 4∼17%、同時分岐型は 5∼ 12%と報告されている。その他の分岐形式は極めて稀で あるが、右肝円索と左側胆嚢に伴う破格は外科手術にお いて重要である。この場合は右後区域枝が先に分岐し、 その後、左葉枝と前区域に相当する肝に分布する多数の 枝が比較的末梢部から分岐する(図12)。 2.肝内門脈 肝内門脈解剖は我が国ではCouinaud分類を基本とし た高安分類が広く用いられている。図22にその模式図を 示す。本分類を基本として日常診療が行われているが実 際には分岐形式にバリエーションが多く、門脈枝の分岐 を目安として亜区域枝の命名はしばしば困難である。特 にP7とP6が明瞭に 2 分岐するものは20%前後と少なく、 複数のP6が分岐するものが多い。また、P6とP7が右肝 内門脈枝から別分岐を示すことも少なくない。また、右 前上内側枝(P8d)が20%前後で右前区域枝根部から直接 分岐するaccessory anterior superior branch(図23)はS8 の内側で中肝静脈と右肝静脈の間の下大静脈に接する領 域に相当し、尾状葉(S1)のいわゆるparacaval portion branch(PCPB)の領域に隣接あるいは一致する。門脈 1

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図22 高安分類模式図 Umbilical portion Transverse portion 1:尾状葉枝 r-sup:右上枝,r-inf:右下枝, l-sup:左上枝,l-med:左内側枝 2:左背外側区域枝 3:腹外側区域枝 4:左内側区域枝 a, b:腹側枝,dor:背側枝 5:右前下亜区域枝 a, b:腹側枝 6:右後下亜区域枝 a:腹側枝,b:背側枝,*:外側枝 7:右後上亜区域枝 a:腹側枝,b:背側枝 8:右前上亜区域枝 a:腹側枝,b:背外側枝, c:背側枝,d:内側枝 次、2 次分枝の変異についてはCouinaudらの鋳型標本を 用いた検討などがあるが、同様に多数の変異が報告され ている。たとえばP5はCouinaudの検討では複数例や後 区域枝からの分岐も記載されている。こうした例では、 肝硬変などで肝が変形すると区域の命名そのものが不可 能となる。 これらの問題点から上述のように竜と趙27)は新しい肝 区域を提唱した(図17)。この分類では右葉は、前腹側区 域(Avs)、前背側区域(Ads)と後区域(Ps)に分けられる。 そして、Avsは中肝静脈に還流し、AdsとPsは右肝静脈 に還流する。この分類では上述の肝内門脈分岐の変異の 問題が少なく、また理論的に理解しやすい。今後の普及 が期待される。 尾状葉門脈枝は門脈本幹と左右門脈枝から直接分岐す る。尾状葉(S1)の門脈解剖には多くの変異があるが、公 文6)の命名による分類が我が国の臨床では広く用いられ て い る( 図11)。 す な わ ち、 ス ピ ー ゲ ル 葉(Spiegel’s lobe)枝、尾状突起枝、下大静脈部(paracaval portion)枝 である。一般に、下大静脈部枝は右門脈枝から、スピー ゲル葉枝は左門脈枝から分岐するとされる。しかしなが ら、たとえばKogureら54)によれば、下大静脈部門脈枝 は51%が右門脈から分岐し、残りは左門脈あるいは門脈 分岐部から分岐するなど変異に富んでいる。最近の multidetector-row CT(MDCT)で経動脈性門脈造影下CT を行うとこれらが詳細に描出される(図24)。尾状葉枝は 従来の画像診断法では多数例での詳細な解析は困難であっ たが、今後こうした手法で解析が進むものと考えられる。 尾状葉枝とは別に多くの細門脈枝が左右門脈枝起始部

図23 Accessory anterior superior branch

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図24 尾状葉解剖

経動脈性門脈造影下CT MIP冠状断像(左:背側,右:腹側).左門脈枝から分岐するSpiegel’s lobe branch(Slb),paracaval branch(Pcb),右門脈枝から分岐するprocess branch(Pb)が認められる.

Pcb Slb Pb Pcb Slb Slb Pcb 図25 肝静脈解剖(経動脈性門脈造影下CT MIP像) A 正面像 B 上面像 A B 右肝静脈 左肝静脈 中肝静脈 左肝静脈 中肝静脈 右肝静脈 から直接肝門部肝に分布する。これらは十分に解析命名 されていない。これらのなかで内側区域(S4)背側(従来 の方形葉)には画像で認識できる細枝があたかも尾状葉 のごとく多く分布する。Matsuiら55)の経動脈性門脈造影 下CTでの検討では、左門脈枝起始部からは20%に、右 門脈枝根部からは18%に細枝の分布がみられ、また同部 には14%で傍胆管静脈叢(異所性右胃静脈還流を含む)か らの流入がみられている。 3.肝静脈 肝静脈の解剖についての多数例での詳細な検討はなさ れていないが、近年の生体肝移植の普及でその重要性が 高まっている。肝臓外科・移植外科の立場からの解析が 多く報告されつつある。 通常は左・中・右肝静脈の 3 本の主要な分枝がみられ る。左肝静脈は主に外側区域をドレナージし、中肝静脈 は内側区域と前区域の一部(竜と趙27)の前腹側区域)をド レナージする。右肝静脈は前区域の一部(竜と趙27)の前 背側区域)と後区域をドレナージする(図25)。これらに 加え、尾状葉を主に還流する多数の微小な短肝静脈が存 在する。これが肝静脈の解剖の基本形であるが多くの変 異が存在する。伊藤ら56)の生体肝移植ドナーに対する術 中超音波診断による解析が方法論的に最も信頼性が高い と考えられるので以下に引用する。左肝静脈と中肝静脈 が共通幹を有するものは約72%であり、左肝静脈と中肝 静脈が独立して下大静脈に流入するものが28%ある。ま た、左肝静脈が根部で 2 本以上に枝別れしているものが 約33%にみられる。そのうちの太い 2 本はほとんどの場 合、外側区の後上面を走行するいわゆるV2と外側区の 前方寄りを走行するいわゆるV3である。また、このV2 129(209)

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図26 後下肝静脈(経動脈性門脈造影下CT MIP冠状断像)

矢印:右肝静脈,矢頭:後下肝静脈 A B

が独立して下大静脈に流入することがあり副左肝静脈 (accessory left hepatic vein)、上左肝静脈(superior left

hepatic vein)やleft marginal veinと命名されているが、 3mm以上の本静脈は 7%でみられる。また、S3の導出静 脈は通常は左肝静脈であるが、これが直接中肝静脈に流 入することがある。S8をドレナージして中肝静脈に流入 する 3mm以上の前上区域静脈(V8)は35%に認められ る。また、5mm以上の後下肝静脈は24%にみられるが (図26)、この場合は相対的に右肝静脈は細い。肝硬変例 では萎縮や肥大のために肝静脈の径は変化するために、 さらに多くの変異がみられる。 4.肝内動脈 肝動脈分岐の変異については先に述べた。 肝内動脈の解剖については門脈の分岐(区域分布)に従 って命名されるが、その解剖には変異が極めて多い。 個々の症例で、伴走する門脈枝に合わせて命名・同定し ているのが現状である。また単一の門脈域に複数の肝動 脈が存在する場合も少なくない。図27に典型的な肝動脈 分岐を示す。 肝内亜区域末梢の稀な破格としては、S5を栄養する動 脈枝の一部が胆嚢動脈から分岐するものが比較的高頻度 に観察され、肝動脈塞栓術などに際して重要である(図 27)。また、肝のbare areaが下横隔膜動脈などから栄養 されることがある。尾状葉やS4背側部には左右肝動脈起 始部から直接分岐する細動脈が分布するが、これらは複 雑に吻合しネットワークを形成する。右腎動脈から分岐 した動脈が右肝門から肝に入りS7に分布するなどの稀な 破格の報告がある。

まとめ

肝内脈管分布は多数例での詳細な解析が方法論的に困 難であったために十分に解析されていない。今後MDCT によるより詳細な検討が期待されるが、基本的には肝区 域の概念の理解とその脈管(門脈)支配に立脚した脈管の 同定・命名が重要である。 【参考文献】

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図27 肝内動脈解剖 A 総肝動脈造影像(DSA) B 総肝動脈造影下CT MIP冠状断像(背側から順に 1 から 6): A5の一部が胆嚢動脈(Cya)から分岐する変異が確認できる. A B 9)北川喜己,長谷川 洋,秋田昌利,ほか:肝右葉にみられた副肝 の 1 例.日消外会誌 50:2635-2639,1989 10)松本廣嗣:肝区域枝の新しい考え方̶右肝円索の存在意義̶. 超音波医学 13 Suool:551-552,1986

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A8 A7 A4 A2 A3 Cya A6 A5

1

2

3

4

5

6

A8c A7 A6 A8b A8d A8 A1 A7 A6 A5 A8d A8a A8 A5 A6 A1 A8a A8d A8 A1 A5 A6 Cya Mha Lha Rha A4 A8a Mha A2 Lha Rha Cya A5 A4 Lha A3 Cya 131(211)

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Ha hepatic artery 肝動脈 Lha left hepatic artery 左肝動脈 Mha middle hepatic artery 中肝動脈 Rha right hepatic artery 右肝動脈

Ivc inferior vena cava 下大静脈 Lhv left hepatic vein 左肝静脈 Mhv middle hepatic vein 中肝静脈 Rhv right hepatic vein 右肝静脈

Adp antero-dorsal portal branch (門脈前区域枝本幹の)背側枝 Ads antero-dorsal segment 前背側区域

Apv anterior segmental portal vein 門脈前区域枝 At anterior trunk 門脈前区域枝本幹 Avp antero-ventral portal branch (門脈前区域枝本幹の)腹側枝 Avs antero-ventral segment 前腹側区域

Lpv left portal vein 左門脈 Pb process branch 尾状突起枝 Pbp peribiliary plexus 胆管周囲血管叢 Pcb paracaval branch 下大静脈部枝 Pp main trunk of Pp 門脈後区域枝本幹 Ppv posterior segmental portal vein 門脈後区域枝 Ps posterior segment 後区域

Pv portal vein 門脈

Rpv right portal vein 右門脈 Slb Spiegel’s lobe branch スピーゲル葉枝

図 8 Inferior veins of Sappey

参照

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