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髙村 恒人 論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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髙村 恒人 論文内容の要旨

主 論 文

Developmental changes in the neural responses to own and unfamiliar mother’s smiling face throughout puberty

思春期発達を通じた母親の情動刺激に対する脳の発達的変化 髙村恒人、西谷正太、末神翔、土居裕和、掛山正心、篠原一之 Frontiers in Neuroscience・http://dx.doi.org/10.3389/fnins.2015.00200, 20156

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻

(主任指導教員: 篠原一之 教授)

緒 言

子どもの社会性を司る脳基盤の発達には、乳児期からの愛着関係が重要である。子どもと 母親との間の愛着関係は、対人コミュニケーション能力の発達に関わる。対人コミュニケー ションは、生後から始まり、家族や周囲の仲間との関係性の中で育つ。また、その関係性の 中でわれわれヒトは、自己を客観的に見つめる能力を身につける。対人コミュニケーション 能力の発達は、ある特定の時期に限られた問題行動以外に、成長後においても社会性の障害 に関与するため、極めて重要である。

一方、対人コミュニケーションの基点となる母子関係は、2008年に、強固な愛着関係を示 す時期(乳児期)を対象としたNIRS研究が行われ、前頭前皮質(APFC)にある眼窩前頭皮 質(OFC)において、自身の母親特異的に活動性が高まることが同定されている。しかしな がら、この愛着関係に関わる脳活動の研究では、乳児期に焦点があてられており、思春期の 発達過程において、如何なる変遷を遂げるのかを見出した研究は行われていない。そこで、

本研究では思春期を含む、児童~青年期の男子を対象に、愛着関係に関わる脳機能の発達的 変化を調べた。

対象と方法

被験者は、5段階で分類されるタナーの思春期発達(Tanner Stage: TS)に基づき、Ⅰ度、

Ⅲ度、Ⅴ度の定義に含まれる年齢の右利きの男子を対象とした。被験者の内訳は、TSⅠ群(プ レ思春期)27名(9.0 ± 0.6歳)、TSⅢ群(思春期)31名(13.5 ± 1.2歳)TSⅤ群(ポスト 思春期):27名(20.8 ± 1.9歳)であった。本研究は、長崎大学医学系倫理委員会の承認を得 て行った。

(2)

実験に先立ち、予め被験者の母親の「無表情」と「笑顔」の表情動画の撮影を行い、編集 した動画(音声なしの30秒)を呈示刺激として用いた。実験は、黒画面無表情笑顔 画面の順に各30秒間の刺激画面の呈示を行った。被験者の母親が呈示される条件(実母条件)

と他者の母親が呈示される条件(他者の母条件)をそれぞれ1回ずつ行い、条件の呈示順序 は被験者間でカウンターバランスを取った。

脳活動の測定には、近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いた。NIRSプロ ーブは、国際10/20法の基準点を参照し、プローブの最下端をFp1、Fp2と同軸上になるよ う取り付けた。脳の活動性を示す指標として、OxyHbを用いた。得られたデータは、無表情

呈示中の OxyHb濃度を基準(ベースライン)として、笑顔呈示中のOxyHb濃度の増加の有

無を条件ごと算出し、これを変化量として用い、統計解析を行った。統計解析は、二要因分 散分析を用いた。

結 果

TSⅠ群では、実母条件において、APFCの右腹側部(Ch6)に活動の増加が見たれた(F(1,

260) = 3.93, p = 0.05)。一方、TSⅢ群では、実母条件において、APFCの左腹側部(Ch4)、左 外側部(Ch2, 5)に活動の増加が見られた(Ch4: F(1, 300) = 4.82, p = 0.03, Ch2: F(1, 300) = 4.95, p = 0.03, Ch5: F(1, 300) = 5.78, p = 0.02)。一方、TSⅤ群では、いずれの条件においても APFCの活動に増加は見られなかった(channel: F(9, 234) = 0.12, p = 0.10, condition: F(1, 26) = 0.38, p = 0.54)。

考 察

TSⅠ群で見られた APFCの右腹側部(Ch6)の活動は、APFC の腹側部が報酬処理に関連

する領域である(Kawabata and Zeki, 2004;Grabenhorst and Rolls, 2011)ことから、乳児期に見 られた母親に対する情動的反応(Minagawa-Kawai et al., 2008)と同質の活動性であり、この 活動性は、9歳まで維持されることが示唆された。TSⅢ群で見られたAPFCの左腹側部(Ch 4)の活動は、APFCの左腹側部が正の情動に関連した報酬予測によって活性化する(Ueda et al., 2003)ことを踏まえると、思春期における、母親に対する正の情動的反応を反映した活動 性であることが示唆された。また、APFCの左外側部(Ch, 5)の活動は、APFC左外側が 共感性(Farrow et al., 2001)と自伝的記憶(Ryan et al., 2001)に関連することから、母親から 受けた養育経験の想起にすることによって惹起される情動的共感性を反映している可能性が 示 唆 さ れ た 。TSⅤ 群 は 、 親 か ら の 心 理 的 な 自 立 を 果 た し 、 か つ ロ マ ン チ ッ ク な 関 係

(Csikszentmihalyi et al., 1977;Steinberger, 1989;Mendle et al., 2007;Koepke and Denissen, 2012)に 高い関心を示す時期である。このような理由から、TSⅤ群は、母親に対する情動的反応への 応答性が弱まるため、母親に対しての特異的な活動性を示さないことが示唆された。

本研究の結果から、(1)学童期においても乳児期と同様な母親特異的な脳活動が見られる ことが同定され、(2)思春期にこの特異的な脳活動が大きく変化することが明らかになった。

(3)思春期に行動として表出される、子と母親との関係の質的な変化が、各発達段階にお けるAPFCの活動性の変化として反映されていることが示唆された。

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