一
結核化学療法の基礎的研究
第 6 1 報
抗結核剤併用投与の家兎血液像並びに白血球機能 に及ぼす影響に就て
第 1 篇 健 康 家 兎 に 於 け る 実 験
金沢大学結核研究所細菌免疫部(主任:柿下正道教授)
辻 口 喜 代 治
(受付:昭和30年5月17日)
緒 結核化学療法剤単独投与の白血球機能に及ぼ す影響に関する報告(1‑10,18,19)の多くはその適 量に於てその機能を賦活する作用があると述べ ている.
教室の藤原('9)もo‑Aminophenol(0M)を 初めp.Aminosalicylicacid(PAS),Strep‑
tomycin(SM),Tibione(TBI)及びIsonico‑
tinicacidhydrazide(INAH)等の抗結核剤 が家兎白血球機能に及ぼす影響を各種投与量に ついて検討し,それ等の適量は何れも白血球機 能を冗進せしめる作用があることを確認した.
この事実は結核化学療法剤が単に結核菌の発 育阻止作用を有するのみでなく,生体の防禦能 力を賦活して治療効果の向上に資していること を示すものと考えられる.
近時結核化学療法の研究の進展に伴ない,薬
言
剤の治効作用の増強,耐性菌発現の防止,副作 用の軽減等の目的で併用療法が採り上げられ,
特にPAS+SMの併用が今日基本的療法とし て普遍化し,且つ優秀な成績を挙げている事は
周知の処である.
更に種々なる組合せによる二剤或いは三剤の 同時又は間歌的併用療法に就て基礎的並に臨床 的研究が発表されつつあるが抗結核剤併用投与 が白血球機能に及ぼす影響に関する報告は寡聞
にして之を知らない.
価って私は藤原の実験成績を基礎としOMを 中心に他薬剤との同時併用一回投与が健常家兎 の仮性エオジン嗜好白血球(仮「エ」球と略記)
の遊走速度並に墨粒貧食能に及ぼす影響を検討 し,些か知見を得たので報告し御批判を仰ぐ次
第である.
実験材料並に実験方法
1)実験動物[I]o‑Aminophenol(0M):
体重2.5kg内外の白色成熟健康家兎を実験開始前金沢大学結核研究所製 2週間以上一定条件にて飼育し,その間白血球機能のm]Dihydrostreptomycinsulfate(SM):
空 腹 時 測 定 値 の 変 動 少 な い も の で 3 頭 を 一 組 と し て 実 第 一 製 薬 製 験し,成績はその平均値で示した。[m]Sodiump‑aminosalicylate(PAS):
2 ) 使 用 薬 剤 住 友 化 学 製
【 1 】
(N)Isonicotinicacidhydrazide(INAH):
住友化学製 3)併用の種類,使用量並に投与方法
OM+SM,OM+PAS,OM+INAH及びPAS+
SM,PAS+INAHの5群とし,投与量は藤原の単独 投与に於ける成績を参考とし,各薬剤の白血球遊走速 度の最大冗進率を示した量を考慮して4段階に分けて 併用した。
その組合せ並に投与量は表に示す如くである。
投与方法はSMのみ2mlの滅菌生理的食塩水に溶解 して背部筋肉内に注射し,他は凡て経口投与した。
4)白血球遊走速度の測定は杉山氏法(151に,白血 球墨粒貧食能の検査並に成績の判定は森氏法''5)に準
じた藤原('9)の変法によった。
5)採血方法並に検査時間
採血は耳静脈穿刺により行い,投薬前及び投薬後1 3,5,7,9及び24時間目に夫々検査した。
薬剤名 併 用 時 の 使 用 量 組 合 せ
O M
PAS S M INAH
ggggmm︑m
5555222・1112 ggggmm︑mOOO5
筋妬妬
ggggmm︑mOOOOOOO1555
ggggmm︑mOOO5乃乃布2
1
実 験 成 績
1)0M,SM併用群(第1図参照)
"(A)遊走速度に就て
両薬剤各125mg,250mg及び500mg併用 同時投与では1時間後より促進し,3時間目を 頂点として5時間後まで持続し,概ね7時間後 投与前値に復帰した.而して投与量の増加に伴 い促進度は増加した.更に増量して各750mg投 与では初期に低下し,5時間後より僅かに促進
し,9時間後略投与前値に戻った.
(B)墨粒實食能に就て
両薬剤各125mg,250mg及び500mg併用 投与では概ね5時間後まで冗進し,7時間後投 与前値に復した.而して各250mg投与群に於 て最大冗進度を示した.各750mg投与では1 乃至5時間後まで著明な機能減退を示し,以後 24時間まで尚軽度ではあるが低下状態を続け
た.
2)PAS,SM併用群(第2図参照)
(A)遊走速度に就て
各125mg投与では著変なく,各250mg投 与では3時間後,各500mg投与では5時間後 に夫々最大促進を示し7時間後投与前値に復し た.促進度は各500mg投与で最も高かった.
各750mg投与では初期に機能低下し5時間 後には著しい促進を来し,7時間後投与前値に
復した.
(B)墨粒實食能に就て
各125mg及び各250mg投与によって夫々3 時間後を最高とする促進を認め,7時間後旧に 復した.各500mg投与では1乃至3時間後ま で梢促進の傾向を示したが,5時間後は減退し
9時間以後略投与前値を持続した.
各750mg投与では初めより機能減退し5時 間後最も著明となり9時間後に至るも尚減退状 態を続けたが24時間後は旧に復した.
3)OM,PAS併用群(第3図参照)
(A)遊走速度に就て
両薬剤各125mg,250mg及び500mg投与に よって何れも3時間後を頂点とする促進を来し た.促進度は投与量の増加に伴い強かった.7 時間後凡そ旧に復したが各500mg投与では24 時間後に至るも軽度の促進を示した.各750mg 投与では1乃至5時間に及ぶ機能低下を示し,
7時間以後投与前値に復帰した.
(B)墨粒負食能に就て
各125mg及び各250mg投与によって3乃至 5時間後最大冗進を示し7乃至9時間後略旧に 復した.各500mg及び各750mg投与では何れ も早朝より機能低下し,24時間後に至るも尚完 全には恢復しなかった.
〜
〆
4)0M,INAH併用群(第4図参照)
(A)遊走速度に就て
本併用投与群では何れの量の組合せに於ても 早期より機能冗進を示し概ね5乃至7時間持続 した.而して冗進の度はOM500mg+INAH 10mgの組合せに於て最も著明であった.
(B)墨粒負食能に就て
OM750mg+INAH12.5mg投与では1乃至 9時間後まで機能低下を示したが,その他では 何れも1乃至5時間後まで機能冗進し,殊に OM500mg+INAH10mg投与では著明な冗 進の持続を示した.
5)PAS,INAH併用群(第5図参照)
(A)遊走速度に就て
PAS750mg+INAH12.5mg投与では3時 間後に機能低下を示したが,7時間後には相当 に冗進し9時間以後概ね投与前値に復した.
これより少量併用投与では何れも1乃至5時 間後まで促進を示し,以後旧に復した.
(B)墨粒負食能に就て
PAS125mg+INAH2.5mg投与により7 間目まで軽度の冗進を持続し,PAS250mg+
INAH5mg投与では3乃至5時間後まで冗進 し7時間以後投与前値に復帰した.
PAS500mg+INAH10mg及びPAS750mg +INAH12.5mg投与では何れも1乃至9時 間後まで機能低下し,24時間後略投与前値に戻
った.
総 括 並 に 考 按 結核化学療法剤の白血球機能に及ぼす影響に
就ては,その遊走速度並に墨粒貫食能の面から 健常家兎で検討を行なった尾関(4),藤原('9)の 綜合的な報告がある外,断片的にはSMに就て 久保(7),広瀬('8),INAHに就て山元等(6)TBI 及びINAHに就てSchmidt&Sprockhofr(8,9) SM及びOMに就て海老名(10)等の実験的研究 があるが,多くは適量に於て白血球機能の賦活 作用を認め,少くとも白血球機能に阻害的に作
一
用するという報告は認められない.
教室の藤原は人体投与量より換算した治療量 を最小量とし漸次増量してOM,SM,PAS,TBI 及びINAHに就て白血球機能の最大冗進を来 す量並に抑制するに至る量を追求して報告して いる.
藤原によれば遊走速度はOMでは500mg投 与時最大促進度を示し,750mg並に,1,000mgで も尚促進を示し,SMでは500mg投与時最大 促進度を示し750mgでも尚軽度の促進を認め た.PASでも500mg,750mg並に1,000mg投 与の何れに於ても促進を示した.
又墨粒寅食能はOM及びSMでは250mg投 与で最大冗進を示し500mg投与で低下し,
PASでは500mg投与で最大冗進を示し750mg
投与で低下したと報告している.
私の併用成績ではOM500mg+SM500mg 投与時遊走速度最も促進し,OM750mg+SM 750mg投与は初期機能の低下を認めた.
墨粒貧食能はOM250mg+SM250mg投与 時最大冗進値を示し,OM500mg+SM500mg 投与でも尚機能冗進を認めた.単独使用時,
OM及びSM何れも500mg投与で賞食機能低 下を認めた藤原の成績と比較して興味をひく事 実である.
又PAS500mg+SM500mg投与では遊走 速度最も促進し,PAS750mg+SM750mg投 与では初期に低下し後促進を示した.
墨粒賞食能はPAS500mg+SM500mg投 与で梢低下の傾向を示し,PAS750mg+SM 750mg投与で著明な低下が認められた.藤原 の成績ではPAS500mg投与で墨粒貧食能は 著明に冗進し,750mg投与で低下したという が,本併用群の内PAS500mg+SM500mg 投与で僅か乍ら低下の傾向が認められた.
遊走速度と墨粒賞食能との相互関係に就ては
牧野(20.21)は健常家兎で両者は平行する場合が
多いと述べている.私の場合にも比較的投与量 の少ない時には両者の平行関係を認めた.、
【 3 】
藤原の成績も大体同様の傾向であったが,大 量投与の際には藤原の単独例に於けると同様,
遊走速度が抑制されない量で既に墨粒貧食能が 減退した.このことは墨粒責食能が遊走速度と 比較して抗結核剤に対する反応が鋭敏であるこ
とを示すものであろう.
杉山('5)は一般に適当量の薬物によって白血 球機能は昂進され,それより過量では抑制され ると述べているが,抗結核剤も亦この原則に従 うものであることは藤原及び私の成績の示す所
である.
OM+SM並にPAS+SM投与時単独投与で 遊走速度が最も冗進を示した量を併用した場合 に最大冗進度を示し,単独投与で墨粒負食能を 低下せしめる量を同時に併用しても貧食能が著 しい機能低下を示さなかったことは併用投与に 誠に意義深い示唆を与えるものである.
私の併用量に関する限り,OM+SM及びPAS +SM投与の白血球機能(遊走速度,貧食能)
に及ぼす影響の面で著しい相異を認めることは
結
私は健康家兎にOM+SM,PAS+SM,OM +INAH,PAS+INAH並びにOM+PASを 同時併用投与しその仮「エ」球の遊走速度並び に墨粒實食能に及ぼす影響に就て逐時的に比較 検討し,次の如き結果を得た.
1)OM+SM及びPAS+SM投与の白血球 機能に及ぼす影響は殆ど同じで各薬剤単独投与 よりその賦活作用は著明であった.但し此の場 合SMに配するOM及びPASが同量であ
文
1)畔柳武雄:日新医学,34,214,1947.
2 ) D o m a g k , G . : C h e m o t h e r a p i e d e r T u b e r k u l o s e
mitdenThiosemikarbazonen,1950.3)池崎 英文:医療,5,75,1951.4)尾関一郎:結核,
27,185,1952.5)尾関一郎:結核,28,76,
1953.6)山元重光,他:九州血液研究同好会誌,
4,21,1953.7)久保郁哉,他:日本血液学会雑
出来なかったが,従来当研究所に於て報告せら れた如く(23.24)投与量と血中有効濃度との関係 に於てPASは0Mに比し大量を要する点を 併せ考える時興味ある処である.
更に両者を比較検討する為,0M+PAS,0M +INAH及びPAS+INAHの各投与群に就て 考察するにOM500mg+PAS500mg投与で墨 粒負食能が著明に減退した点は0M+SM及び PAS+SM投与時と比較し特異であり,0M+
INAH及びPAS+INAH投与間にみられる相 違即ち前者では遊走速度,墨粒實食能共に大量 に於ても著しい機能低下を示さなかったことは 一応注目すべき成績であると考えられる.
之を要するに単独投与で白血球機能が冗進し た量を併用してOM+SM,0M+INAH及び PAS+SM投与時の如く同様冗進する場合もあ り,逆に0M+PAS及びPAS+INAH投与時の 如く機能低下を示す場合もあり併用療法を実施 するに際して考慮すべき示唆を与えているとい
うことが出来る.
論
ったことは,両薬剤の治療量の相異と対比して 注目すべき成績であると考える.
2)OM+PAS投与は各々単独投与時より機〆 能低下を示した.
3)OM+INAH及びPAS+INAH投与に より前者では各々の単独投与より機能冗進し,
後者では低下した.
4)各併用群共遊走速度の機能減退を示さな い量で貧食能の低下が認められた.
献
誌,55,119,1953.8)Schmidt,W、:Beitr.z.
Klin.d.Tbk、108,227,1953.9)Schmidt,W.
&Sprockhoff,H、V.:Klin・Wochr.,31,421, 1953.10)海老名敏明:医療,40,506,1950.
11)杉山溺津:十全会雑誌,34,1370,1929.
12)森喜久男:十全会雑誌,38,1244,1933.
13)佐久間悌治:医理学叢書,24,29,1953.
1955.
1933.
1933.
1951.
197, ( 上 ) ,
20)牧野知孝:十全会雑誌,38,1244,
21)牧野知葦:十全会雑誌,38,1073,
22)守屋邦男:日本医事新報,1430,17, 23)吉川英一:金大結研年報,9(下),
1950.別)YAMADA,Y.:金大結研年報,9 14)沖中重雄:診療室,3(6),229,1950.
15)杉山繁輝:血液及組織の新研究と其方法,
1951.16)石山俊次:日本医師会雑誌,30,519, 1952.17)石山俊次:日本医事新報,1533, 35,1953.18)広瀬友=:十全会雑誌,55,119,
1953.19)藤原正義:金大結研年報,13(中),1, 7,1950.
第 1 図
OM+SM投与群 a ) 遊 走 速 度
第 2 図 PAS+SM投与群 a ) 遊 走 速 度
%釦畑的卯別
111111
LO
〕0
〕 C
gC
1 3 5 7 9 2 4
→ 時 開
−→時間
b ) 墨 粒 寅 食 能
一一
P〆〆
b ) 墨 粒 負 食 能
1 11%皿叩卯帥加釦
1
1
1 3 5 7 9 21
→ 限 i 間 PPPP SSSSAAAA ︲フク93 SSSS
副MMMM9
l− 7間一 寺−
0−5↓一 一・一一 3一 一﹃
1
ggggmmm︑ 50002505 1257
各各各各
MMMM SSSS 9ラフう MMMM O000 ggggmmm︑ 50002505 1257 各各各各 MMMM SSSS
ー ー 一 一 一 一 一 一 − ー ー ー 一 一 一 一
−−−−−
− ● 一 一 一 一 一 ● − − ● − ● − −
【 5 】
第 4 図 OM+INAH投与群 a ) 遊 走 速 度 第 3 図
OM+PAS投与群 a ) 遊 走 速 度
0000021093 %羽1 一一
一
参一
G−一
一一一一一一
○
︑◆︑
︑//
/ノ
110
100 90
1 3 5 7
− 歩 時 開
b ) 墨 粒 貧 食 能
9 2 4
9 2 4 1 3 5 7
− ÷ 時 間
b ) 墨 粒 貧 食 能
%印㈹釦加加叩卯釦
1111111
11 別︑加.兜別和印
1 3 5 7 9 2 4
−÷時間
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑OM125mg+INAH2.5mg
一 ヶ 時 間
一一一一一一一一一一一一一一一
0OO0 MMMM 夕ラフ9
M肌肌肌第 SSSS5 律律都報図 伽伽伽伽A2505PggggQ﹄ 0OO MMM 505257 oo伽 哩嘩g +十十 IIⅢ MMA HHH
1 2イ︲︽● 505 mmm ggg
|↑ 一 一● 宮一一
一↓
ー−−−−
ー ● − ● − ● − ● も 一 一 一
PAS+INAH投与群
b ) 墨 粒 貧 食 能 a ) 遊 走 速 度
111%羽加叩卯加加
%加叩叩帥
111HH
42AA NN II 十+ 蝿9 95伽 2015
7
SS
5釧卦卦
3
一一r 一一
一一
一一
1 3 鍋 7 9 2 4
→ 時 間
ロロ画b
mm 55
●21