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農薬製剤・施用技術の最新動向⑬

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Academic year: 2021

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(1)

― 61 ―

水稲用育苗箱施用粒剤〜利用の現状と今後の課題〜 353

は じ め に

1970

年代に田植機による機械移植が急速に普及した のにともない,水稲用育苗箱を用いて育苗を行う方法が 広く用いられるようになった。また,

1970

年代後半に 全国的にイネドロオイムシ,イネミズゾウムシの発生が 見られるようになり,これを効果的に防除する手段とし て,粒剤を育苗箱に処理する育苗箱施用が広まった。育 苗箱施用は,水稲移植前の箱育苗の段階で薬剤を処理す る防除方法であり,本田防除剤のように作業者が水田に 入ったり,畦畔を歩く必要がなく,また動力散布機など の重い機械を背負う必要もないので,省力化の面で非常 に優れた防除方法である。その後,本田初期害虫のみだ けではなく,中期以降に発生するウンカ類までにも効果 が持続する長期残効性を有するアドマイヤー®箱粒剤が 開発され,1990年代後半には,殺菌剤として葉いもち 病に効果のあるウィン®箱粒剤や

Dr.

オリゼ®箱粒剤,

さらに,殺虫剤,殺菌剤の混合剤で長期残効性に優れる ウィン®アドマイヤー®箱粒剤,

Dr.

オリゼ®プリンス® 粒剤等が開発された。育苗箱への

1

回の薬剤処理でウン カ類,葉いもち病までの病害虫防除が可能となり,急速 にマーケットが伸びた。なお,長期残効性を有する育苗 箱施用粒剤は省力化という面だけではなく,農薬の散布 回数,成分数も低減されるなど環境面への利点もある。

一方,育苗箱施用粒剤の製剤開発においては,製剤技 術者の様々な技術が駆使されている(図―1)。例えば,有 効成分の種類にもよるが,箱育苗段階の幼苗に対し高濃 度薬剤を処理することによる薬害発生の問題や,早期の 薬剤処理による薬剤の残効切れ等の問題があったりする ためである。本稿では,水稲用の育苗箱施用粒剤につい て,これら課題解決のための製剤技術について紹介する。

I 育苗箱施用粒剤の成分組成

育苗箱施用粒剤の成分組成は,一般的に有効成分,結

合剤,界面活性剤,増量剤からなる。以下にこれら成分 について紹介する。

1

有効成分

育苗箱施用粒剤は,有効成分を稲体に吸収させること で病害虫を防除する。したがって,稲体の根部から吸収 され上方移行して効果を発現する殺虫剤,殺菌剤が用い られる。薬剤による薬害の回避あるいは長期残効性の付 与は,稲体中の有効成分濃度によるところが大きい。こ のため,製剤設計にあたっては,稲体への吸収を制御す ることなどを目的に,特に水溶解度などの物理化学性を 考慮する必要がある。

2

結合剤

有効成分,界面活性剤,増量剤等の混合粉体を粒状に 成型するために結合剤が使用される。一般的には,リグ ニンスルホン酸塩(ナトリウム,カルシウム)

,ポリビ

ニルアルコール,カルボキシメチルセルロースナトリウ ム,デンプン,デキストリン等が用いられる(米村,

1997

)。なお,薬剤の機械散布など,粒剤処理時に粒が

水稲用育苗箱施用粒剤〜利用の現状と今後の課題〜

農薬製剤・施用技術の最新動向⑬

北興化学工業株式会社 開発研究所 秋山 正樹(あきやま まさき)

リレー連載

図−1 育苗箱施用粒剤(押し出し造粒)

(2)

― 62 ―

植 物 防 疫  第71巻 第5号 (2017年)

354

壊れるのを防止するため,粒剤に硬度を付与する場合 や,また,稲体への薬害回避を目的に,育苗箱中での粒 剤からの有効成分溶出量や溶出速度を制御する場合な ど,その必要性に応じて結合剤を選抜する。

3

界面活性剤

粒剤中から有効成分を溶出させる目的で使用されるほ か,粒剤の一般的な造粒法である押し出し造粒法におい ては,造粒性促進(造粒時におけるスクリーンからの排 出性改善)のために使用されている。造粒性促進剤とし ては,アルキルサルフェート,ポリオキシエチレンアル キルエーテルサルフェート,アルキルベンゼンスルホネ ート等が使用される(大渕,1997)。一方,界面活性剤 は植物の幼苗期に高濃度で吸収されると薬害の要因とな ることが知られており,また界面活性剤の種類(イオン 性,化学構造)

使用濃度により薬害程度は異なる(森ら,

2008

)。育苗箱施用粒剤は,底面に穴の開いた樹脂製の 容器(幅

30 cm,長さ 60 cm,深さ 3 cm(標準的な育苗

箱))に通常

50 g

が施用され,本田用

1

キロ粒剤に比べ 単位面積当たりに処理される量が非常に多く(表―

1

かつ播種時から移植時までの苗が密集している状態での 薬剤施用となるため,使用する界面活性剤の種類,使用 量については,薬害面も考慮して選抜する必要がある。

4

増量剤

押し出し造粒法においては,クレー,ベントナイト,

タルク,炭酸カルシウム,酸性白土,珪藻土等が増量剤 として使用される。また,液体の有効成分を粒状担体に 含浸させる方法,有効成分を粒状担体に結合剤を用いて 被覆する方法(コーティング造粒法)においては,粒状 の珪砂,炭酸カルシウム,ベントナイト,ゼオライト,

軽石等が用いられる(米村,

1997

)。増量剤の選抜は,

有効成分との相性(有効成分が分解しない,有効成分の 増量剤への吸着性等)を考慮することが重要である。

II 製 造 方 法

粒剤の造粒方法としては種々のものが知られている が,育苗箱施用粒剤には,一般的な造粒法である「押し 出し造粒法」と「コーティング造粒法」の二つが主に使

用される。「押し出し造粒法」は,有効成分,結合剤,

界面活性剤,増量剤を均一に混合し,これに水を加えて 混練したものを円形の細孔を有するスクリーンから押し 出し成型する方法であり,製造された粒剤の形状は円柱 状となる。その大きさは造粒する際に使用するスクリー ンの細孔径でコントロールが可能である。一方,「コー ティング造粒法」は,核粒である粒状担体の表面に有効 成分,界面活性剤等を結合剤を用いて被覆する方法であ る。製造された粒剤は,核粒である粒状担体の形状や大 きさによって決まり,一般的には不定形の形状である。

また,有効成分を添加せず,結合剤,界面活性剤,増量 剤を混合し,押し出し造粒法で得られた粒状の空粒の表 面に有効成分を被覆して粒剤を製造することもできる。

なお,この場合の粒の形状は,円柱状となる。

III 製 剤 技 術

育苗箱施用粒剤の製剤設計にあたり,二つの注意点が ある。その一つは,「散布機械への適合性」であり,粒 剤の大きさ,見かけ比重,粒数(単位重量当たりの粒数)

等の物理性が重要な項目となる。これら物理性は,例え ば,押し出し造粒法であれば造粒時のスクリーン細孔径 の調整,コーティング造粒法であれば使用する粒状担体 の選択などで対応され,さらに,造粒した粒剤を篩分け するなどの方法で対応することもできる。

もう一つの注意点は,「薬害回避と残効性の付与」で ある。有効成分自体が育苗箱施用に高い適合性を有する ことが望ましいが,もし,稲体への薬害や長期残効性が 劣る等の懸念がある場合は,製剤技術で改善する必要が ある。その改善方法の一つとして最近よく使用される方 法に溶出制御技術(徐放化,溶出促進)があるので,以 下に紹介する。

1

徐放化

薬害に課題のある有効成分の製剤化にあたっては徐放 化技術がよく使用される。徐放化技術としては,有効成 分のマイクロカプセル化,サイクロデキストリンでの包 接化等有効成分自体を加工する技術もあるが,粒剤を加 工する徐放化技術についても様々なものがあるので,以 下に示す。

粒剤の徐放化技術としては,①有効成分が吸着しやす いゼオライトのような増量剤を使用して,有効成分の溶 出を抑える技術(ゼオライトのような増量剤と有効成分 などを混合し,押し出し造粒法にて製造)

,②樹脂,ワ

ックス等の撥水性物質を使用して,粒剤中への水の侵入 を抑制することで有効成分の溶出を抑える技術(撥水性 物質と有効成分等を混合し,押し出し造粒法にて製造)

表−1  本田用1キロ粒剤と育苗箱施用粒剤の単位面積当たりの 施用量

製剤 施用量 1 m2当たりの施用量

本田用1キロ粒剤 1 kg/10 a  1 g

育苗箱施用粒剤 50 g/箱(0.18 m2

(20箱/10 a) 278 g

(3)

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水稲用育苗箱施用粒剤〜利用の現状と今後の課題〜 355

などがある。これらの徐放化技術は,水溶解度が極端に 高くない有効成分の場合に比較的有効であり,また,製 造も容易で製造コストが徐放化技術の中では比較的安価 であるのが特徴である。しかし,上記①の有効成分が吸 着しやすい増量剤を使用する技術は,有効成分と増量剤 の相性によるものなので汎用的に使用できるものではな く,また,上記②の粒剤中への水の侵入を抑制する技術 は,粒剤表面にも有効成分が存在し(図―2,a)

,これら

の有効成分は溶出しやすいために,薬害発生の最高許容 濃度が低い有効成分(稲体中に低濃度吸収された場合で も,薬害を引き起こしてしまう有効成分)や,特に水溶 解度が高い有効成分の場合は,薬害回避が難しいという 課題がある。

そこで,水溶解度が高く,薬害発生の最高許容濃度が 低い有効成分においては,粒剤中からの溶出をさらに強 く抑えることが必要となり,その徐放化技術として,有 効成分を含有した粒剤の表面を非水溶性の膜で被覆(コ ーティング)するという方法がある。非水溶性の膜とし ては,酢酸ビニル,ポリウレタン等の樹脂や,ワックス 等が用いられるが,有効成分の徐放化からは各材料の耐 水性,皮膜強度,膜厚等,製造性からはガラス転移点や 造膜温度等を考慮し,それぞれの有効成分に応じた材料 を選抜する。なお,この方法は,非水溶性の膜を粒剤の 表面に被覆するため製造コストが高くなるという課題は あるが,粒剤表面が皮膜で覆われるため(図―

2 b

,有

効成分の溶出が非常に強く抑えられ,徐放化技術として は優れている。

また,この技術により,有効成分が徐放化され過ぎて しまい,十分な殺虫・殺菌効果が発揮されないという場 合がある。このような場合には,粒剤中からの初期の有 効成分の溶出をできるだけ抑え,稲体の成長とともに,

有効成分を多く溶出するような溶出パターン(時限放出 型,シグモイド型,図―3)を有する徐放化技術もある。

その製剤例として,農薬活性成分とアルギン酸系化合物 を有する粒状物を,樹脂により被覆することを特徴とす る被覆粒状農薬(特許第

3798687

号)などがある。

2

溶出促進

水溶解度が低い有効成分の場合,粒剤中から有効成分 が溶出しにくく,十分な殺虫・殺菌効果が得られない場 合がある。そのような場合は,粒剤中から有効成分の溶 出を促進させる必要がある。溶出促進の方法としては,

①有効成分を粉砕し粒子径を小さくする,②有効成分の 溶出を促進する界面活性剤を使用する,③粒状担体の表 面に,有効成分を被覆する(コーティング造粒法)等が あるが,特に水溶解度が低い有効成分の場合は,コーテ ィング造粒法が適する。なお,コーティング造粒法は,

粒状担体の表面に有効成分が被覆されているので,輸送 時や薬剤散布時等の衝撃で,有効成分が剥離しないよう に,結合剤などの選抜が重要となる。

3

徐放化と溶出促進

有効成分を複数含有する混合剤においては,場合によ っては,「薬害軽減」と「殺虫・殺菌効果(残効性など)

の向上」の二つが必要になる場合があり,前記した徐放 化と溶出促進を合わせ持った製剤化が必要となる。この ような場合は,①徐放化した粒剤の表面に,コーティン グ造粒法で殺虫・殺菌効果を向上させたい有効成分を被 覆する,②徐放化した粒剤とコーティング造粒法で溶出 促進した粒剤の二つの粒剤を混ぜた混合粒剤とする,等 の方法がとられる(黒津,

2013

)。

お わ り に

今日,水稲用育苗箱施用粒剤として様々な殺虫剤,殺 菌剤の混合剤が開発され,同時に散布機械の開発も進

有効成分

皮膜

有効成分 樹脂,ワックス

a b

図−2 徐放化した粒剤(断面)のイメージ図

A

B

C D

100 80 60 40 20 0

時間

有効成分溶出率︵

図−3 溶出パターン曲線 A:非徐放化.

B:一般的な徐放化.

C:時限放出型徐放化.

D:シグモイド型徐放化.

(4)

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植 物 防 疫  第71巻 第5号 (2017年)

356

み,稲作栽培の病害虫防除の省力化が進んでいる。一方,

有効成分によっては,薬害や長期残効性の問題等で育苗 箱施用剤としての開発が困難な場面にも遭遇する。今 後,製剤技術の進歩によりこのような有効成分でも使用 が可能となり,また,新たな有効成分の開発により,播 種から収穫期までの全期間の防除が育苗箱施用処理で完 結されるようになるなど,さらに一層の省力化が進むこ

とを期待したい。

引 用 文 献

1)黒津裕一(2013): 応用が拡がるDDS 人体環境から農業・家 電まで,NTS,東京,p.417429.

2)森 宣彰ら(2008): 第28回農薬製剤・施用法シンポジウム講 演要旨,p.35.

3)大渕 悟(1997): 農薬製剤ガイド,日本農薬学会 農薬製剤・

施用法研究会 編,東京,p.104109.

4)米村伸二(1997): 同上,p.1416.

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