一 は じ め に 二
建 築 審 査 会 の 法 的 性 格 と 構 成 三
建 築 審 査 会 の 権 限
( 以 上 本 号
) 四
審 査 請 求 を め ぐ る 法 的 問 題 五
む す び
「 建 築 は
、 経 済 活 動 や 市 民 生 活 が 行 わ れ る 場 に お い て
、 安 全 性 を 確 保 し 豊 か さ を 保 証 す る も の で あ り
、 建 築 の 質 の 向 上 と 建 築 ス ト ッ ク の 調 和 の と れ た 活 用 が
、 建 築 行 政 の 目 的 と し て ま す ま す 重 要 と な る
。 ま た
、一 方 で
、環 境 や 景 観 な ど に 関 し て 市 民 意 識 が 向 上 し た こ と や
、都 市 化
、高 層
・ 高 密 化 に 伴 っ て 相 隣 関 係 の 紛争 が 数 多 く 発 生 し て い る こ と か ら
、 建 築 行 政 は 単 に 技 術 的 な 関 与 に 止 ま ら ず
、 多 様 な 分 野 に お い て
、 今 ま で 以 上 の 役 割 を 果 た す こ と が 求 め ら れ て い る
。 こ う し た こと か ら
、 建 築 行 政 は
、建 築 と い う 資 産 を 次 世 代に 有 効 に 残 し て い く と と も に
、持 続 可 能 な 社 会 の 構 築 が 重 要 な 観 点 にな っ て い る こ と を 踏 ま えた
、 継 続 的 か つ 適切 な 発 展 的 対 応 が 求 め ら れ て お り
、広 く 国 民 や 市 場 の 中 で理 解 さ れ て 執 行 さ れ る こ と の 重 要 性を 改 め て 認 識 し な く て は な ら な い
。 建 築 審 査 会 制度 に つ い て は
、 こ う し た中 に あ っ て
、 こ れ ま で あ まり 制 度 的 議 論 が さ れ ず に き た が
、今 日
、 建 築 行政 の 中 で 重 要 な 役 割 を 果 た す 建 築 審 査 会 が 目 指 す べ き こ れ か ら の 方 向 と 課 題 を 改 め て 見 直 す こ と は 非 常 に 重 要 な こ と で あ る
。」
( 全 国 建 築 審 査 会 協 議 会 建 議
・ 提 言 起 草 委 員 会
『 こ れ か ら の 建 築 審 査 会 の 目 指 す 方 向 と 提 案
』( 二
〇
〇 九
( 平 成 二 一
) 年 一
〇 月
) 五 六 七
(
) 一
建 築 審 査 会 に 関 す る 諸 問 題
( 一
)
川 内 劦
一 は
じ
め
に 近代 市民 社会 の初 期、 私有 財産 権が
「神 聖か つ不 可侵 の権 利」 と解 され てい たこ と、 当時 の社 会状 況に おい ては 土地
・ 建 築物 の利 用を 調整 する 必要 に乏 しか った こと など から
、一 般に 土地 所有 権の 固有 の内 容と して
「建 築の 自由
」が 観念 さ れ
、建 築行 為は 各人 の自 由に 委ね られ ると 考え られ てい た。 しか し、 資本 主義 の弊 害に よる 社会 的・ 経済 的不 平等 が発 現 す る中 で、 社会 国家 思想 が進 展し た結 果、 従来
、絶 対不 可侵 とさ れた 財産 権も
、社 会的 に制 約さ れた 権利 へと 変容 する
。 さ らに
、都 市化
・工 業化 の進 行も 相俟 って
、も っぱ ら公 共の ため によ る収 用と 相隣 関係 によ る地 役的 制限 の規 制に 制限 さ れ てい た土 地所 有権 もそ の絶 対性 から 脱却 し、 また それ に包 摂さ れて いた 建築 の自 由も
、安 全、 公衆 衛生
、防 災な ど様 々 な 観点 から 行政 的な 規制 が加 えら れて いく こと にな る。 わ が国 にお い て、 建 築規 制 の基 本法 と して 最初 に 制定 され たの は
「 市街 地 建築 物法
」( 大正 八 年法 律第 三 十七 号) で
、 都 市 問題 の発 生に 伴 い旧
「 都市 計 画法
」( 大正 八年 法 律第 三十 八号
) の 姉妹 法と し て制 定さ れ た。 同 法は
、 勅 令の 指定 す る 市街 地に 限定 的に 適用 され るも ので あっ たが
、用 途規 制、 接道 義務
、建 築物 の構 造・ 設備
・敷 地に 関す る衛 生上
・保 安 上 等の 規制 など 現行 の建 築基 準法 とほ ぼ同 様の 建築 規制
・制 限に 関す る項 目を 定め てい た。 同法 は、 明治 憲法 下の 建築 行 政 にお いて 大き な役 割を 果た した ので ある が、 一九 三七
(昭 和一 二) 年日 中戦 争の 勃発 後の 戦時 体制 のも とで は、 防火 地 域 や空 地確 保に 係る 規定 以外 は全 面的 に適 用が 中止 され た。 敗戦 によ り日 本国 憲法 が成 立す ると
、憲 法の 精神 に則 った 建築 行政 の整 備及 び戦 災復 興の ため の新 しい 建築 物の あり 方 の 基準 の策 定が 要請 され るよ うに なり
、こ のよ うな 状況 の中
、中 央集 権的 官治 行政 をと り形 式・ 内容 とも 不十 分な もの で
<
論 説
>
修 道 法 学 三 五 巻 二 号
五 六 八
(
) 二
あ った 市街 地建 築物 法は 廃止 され
、一 九五
〇( 昭和 二五
)年 に「 建築 基準 法」
( 昭和 二五 年法 律二 百一 号) が制 定さ れる
。 建 築基 準法 案の 提案 理由 は、 以下 のと おり 説明 され た。
「 戰 争 以 来
、 わ が 国 の 建 築 は
、 そ の 量 の 増 加 に の み 力 が 注 が れ
、 質 の 改 善 が 閑 却 せ ら れ が ち で あ り ま し た こ と は 周 知 の 通 り で あ り ま し て
、保 安 上
、衛 生 上 好 ま し く な い 建 築 物 が 建 築 せ ら れ
、毎 年 火 災 そ の 他 の 災 害 によ る 建 築 物 の 損 耗 は き わ め て 大 な る も の が あ りま す
。 か か る 建 築 物 の 災害 を 未 然 に 防 止 し
、国 民 の 健 康 及 び 財 産 を 保 護 す る た めに は
、 建 築 物 の 質 のあ る 程 度 の 水 準 を 確 保 し な け れ ば なら な い と 考 え ら れ ま す
。現 在 建 築 物 の 質 の 規 正 に関 す る 法 律 と い た し ま し て は
、市 街 地 建 築 物 法 が あ り ま す が
、こ の 法 律 は 制 定 以 来 満 三 十 年 を 経 過 し て お り ま し て
、そ の 間 若 干 の 小 改 正 を 経 て は お り ま す が
、今 日 に お い て は
、そ の 形 式 及 び 内 容 と も に 不 備 な 点 が 多く
、 新 憲 法 の 精 神 に か ん が み て 改 正 を 必 要と す る も の で あ り
、か つ わ が 国 建 築の 質 的 改 善 に よ る 災 害 の 防 止
、国 民 生 活 水 準 の 向 上 に は 十分 に 寄 與 し 得 な い うら み が あ り ま す
、 しか し て 幸 い 最 近 に お い て 建 築 資 材 の需 給 も 円 滑 と な つ て 来 ま し た の で
、臨 時 建 築 制 限 規 則 に よる 建 築 統 制 を 廃 止 し て
、建 築 物 の 質 的 改 善 を 積極 的 に 推 進 で き る 機 運 に も な り ま し た の で
、こ の 際 市 街 地 建 築 物 法 を廃 止 し
、 あ ら た め て 新た な 構 想 に よ り
、建 築 物 に 関 す る 基 本 法 を 制 定 す る 必 要 が あ ると 考 え ま し て
、 本 法 律 案 を 提出 す る 次 第 で あ り ま す
。」
( 益 谷 秀 次 建 設 大 臣
、 一 九 五
〇
( 昭 和 二 五
) 年 四 月 二 八 日 衆 議 院 建 設 委 員 会
)。 建築 基準 法は
、国 民の 生命
、健 康及 び財 産の 保護 を図 るこ とを 目的 に、 建築 物の 敷地
、構 造、 設備 及び 用途 に関 する 最 低 の基 準を 定め たも ので
(法 一条
)、 建 築主 事、 特定 行政 庁、 建築 審査 会と いっ た特 別の 執行 体制 に関 する 規定 とと もに
、 全 国一 律に 適 用さ れる 建築 物 の敷 地、 構造 及び 建 築設 備に 関す る 一般 的基 準 を定 めた 規 定( 法第 二章
。い わゆ る単 体 規定
) と都 市計 画区 域内 に限 って 適用 され る建 築物 につ いて 用途
、建 蔽率
、容 積率
、高 さ制 限な どを 定め た規 定( 法第 三章
。い わゆ る集 団規 定) 等か らな って いる
。 建 築 審 査 会 に 関 す る 諸 問 題
( 一
)( 川 内
)
五 六 九
(
) 三
前身 の市 街地 建築 物法 と比 較す ると
、建 築基 準法 の特 色と して
、
①法 治主 義の 確立
─行 政立 法( 命令
)に よる ので はな く法 律に よる 建築 規制
②自 治行 政の 尊重
─地 方公 共団 体の 特定 事項 につ いて の立 法権 及び 法執 行の 権限
・責 任
③行 政の 能率 化─ 建築 主事 の「 確認
」制 度の 採用 及び 受理 から 確認 まで の期 間の 法定
④行 政救 済に おけ るア メリ カの 制度 の導 入─ 建築 審査 会に よる 不服 審査 制度 など
⑤建 築規 制の 実体 規定 にお ける 都市 計画 上又 は建 築技 術上 の改 善 の 諸点 が指 摘さ れ その 後、 社会 情勢 の推 移や 建築 技術 の進 歩に 応じ て規 定の 改廃 が頻 繁に 行わ れ、 現在 に至 って い 建築 主事
、特 定行 政庁 とと もに 建築 行政 の執 行機 関で ある 建築 審査 会は
、建 築基 準法 七十 八条 一項
「こ の法 律に 規定 す る 同意 及び 第九 十四 条第 一項 の審 査請 求に 対す る裁 決に つい ての 議決 を行 わせ ると とも に、 特定 行政 庁の 諮問 に応 じて
、 こ の法 律の 施行 に関 する 重要 事項 を調 査審 議さ せる ため に、 建築 主事 を置 く市 町村 及び 都道 府県 に、 建築 審査 会を 置く
。」 に 基づ き設 置さ れる 地方 自治 法上 の附 属機 関( 地方 自治 法二 百二 条の 三) の一 つで
、五 名又 は七 名の 委員 で構 成さ れる 合 議 機 関で ある
(法 七十 九条
)。 建築 審 査会 の事 務は
、
① 建築 基準 法 に規 定す る特 定 行政 庁の 許 可
(特 例許 可) にあ たり 必 要 と され る 同意
( 法四 十 三条 一項 た だし 書外
)、
② 建築 基準 法 令に 係る 特 定行 政庁
、 建 築主 事 若し くは 建 築監 視員 又 は指 定確 認 検査 機関 の 処分 又は 不 作為 につ い ての 審査 請 求に 対 する 裁決
(法 九十 四条 一 項)
、
③ 特定 行 政庁 の諮 問 に応 じて 建 築基 準法 の 施行 に関 す る重 要事 項 の調 査審 議
( 法七 十 八条 一項
)、
④建 築 基準 法の 施 行に 関す る 事項 に つい ての 関 係行 政 機 関に 対す る建 議( 同条 二項
)で ある
。
( 1
る)
。
( 2
る)
。
<
論 説
>
修 道 法 学 三 五 巻 二 号
五 七
〇
(
) 四
これ らの 事務 のな かで も、 建築 審査 会が 第三 者的 な立 場か ら行 使す る特 例許 可の 同意 権限 及び 裁決 権限 は、 建築 行政 の 公 正・ 適正 な執 行の 確保 及び 簡易 迅速 な国 民の 権利 利益 の救 済の 実現 を図 る上 で、 重要 な役 割を 果た して いる
。 建築 審査 会に つい ては
、こ れま でい くつ かの 論
公 表さ れて いる が、 一九 九八
(平 成一
〇) 年建 築確 認業 務の 民間 開 放
(指 定確 認 検査 機関
)、 天空 率制 度 など 規制 緩 和に よる 建 築法 規の 複 雑化
、 形態 規 制・ 地 盤面 規 制な どの 条 例委 任事 項 の 拡大
、耐 震偽 装問 題の 発生 など
、こ れを 取り 巻く 状況 は大 きく 変化 して きて いる
。こ うし た中 にあ って
、建 築審 査会 が 目 指す べき これ から の方 向と 課題 の検 討が 求め られ てい ると ころ であ 本稿 は、 一般 には 余り 周知 され てい ない もの の、 建築 行政 にお いて 重要 な役 割を 果た して いる 建築 審査 会に つき
、そ の 組 織・ 権限 を概 括す ると とも に、 審査 請求 をめ ぐる 法的 問題 を考 察す るこ とで
、建 築審 査会 の今 後の 課題 の一 端を 明ら か に しよ うと する もの であ
( 1
) 島 田 信 次
= 関 哲 夫
『 建 築 基 準 法 体 系
( 第 五 次 全 訂 新 版
)』
( 酒 井 書 店
・ 一 九 九 一 年
) 六
-
八 頁 参 照。
( 2
) 現 行 の 建 築 基 準 法 は 戦 後 復 興 期 に 制 定 さ れ
、そ の 後 も 規 定 の 整 備 が 図 ら れ て き た が
、急 激 な 技 術 革 新
、国 際 化 等 の 進 展 に 伴 い
、 現 在 の 社 会 の 要 請 に 必 ず し も 即 応 し 得 る も の と な っ て い な い と し て
、
「( 一
) 時 代 の 変 化 に 対 応 し た わ か り や す い 規 制 体 系 へ の 移 行 建 築 関 連 技 術 の 発 展
、 社 会 的 要 請 の 高 度 化
、 建 築 物 の 活 用 形 態 の 多 様 化 等 に 対 応 し た 民 間 に よ る 様 々 な 取 組 の 円 滑 化 に 向 け
、 新 た な 技 術 の 導 入 や 設 計 の 自 由 度 の 向 上 が 促 進 さ れ る 明 確 か つ 柔 軟 な 規 制 体 系 へ の 移 行 を 目 指 す
。
( 二
) 実 効 性 が 確 保 さ れ
、 か つ
、 効 率 的 な 規 制 制 度 へ の 見 直 し 整 備
・ 利 用 の 各 段 階 に お い て 安 全 性 等 建 築 物 の 質 の 確 保 を 担 保 し
、 地 域 の 実 情 が 的 確 に 反 映 さ れ
、 か つ
、 手 続 も 迅 速 に な さ れ る な ど
、 実 効 性 と 効 率 性 が 両 立 す る 規 制 制 度 の 構 築 を 目 指 す
。
( 3
稿)
が
( 4
る)
。
( 5
る)
。 建
築 審 査 会 に 関 す る 諸 問 題
( 一
)( 川 内
)
五 七 一
(
) 五