地 域 型 ベ ンチ ャー支 援 シ ス テ ム の研 究(上)
一 第1段 階 北 海 道 にお け る地 域 優 位 性 の 発見 一
瀬 戸 篤
1研 究 課 題 1‑1目 1‑2方 1‑3結 2研 究 背 景 3
的 法 論
北 海道 にお け る地域優 位 性
‑⊥9臼00
一[﹁
00り○り0
コス ト分析
モ デルベ ンチ ャー企業 の比 較分 析 北海 道 にお ける地域 優 位性 の発 見 4結 び:第2段 階 の研 究課 題
4‑1地 域 型 ベ ンチ ャー 企 業 の 環 境
4‑2求 め られ る 地 域 型 ベ ン チ ャ ー 支 援 シ ス テ ム
1研 究 課 題
21世 紀 の 日本 は,先 進 国 で も最 高 水 準 の 高 齢 化 が進 む 。 こ の よ う な 日本 を 支 え る 経 済 社 会 シス テ ム と し て,ベ ンチ ャ ー企 業 が 次 々 と生 ま れ る 元 気 な地 域 経 済 群 が 国 内各 地 に欠 かせ ない 。 そ れ ゆ え,本 研 究 に よっ て 国 内他 地 域 に も適 応 可 能 な く 地 域 型 ベ ンチ ャ ー支 援 シス テ ム 〉を 産 み だ し,も っ て 北 海 道 を く ベ ンチ ャー 先 進 地 域 〉 に変 え て ゆ くこ とが,本 研 究 にお け る 最 大 の 課 題 で あ る。
1‑1目 的
現在,北 海道 は国内公 共投資 削減の なかで拓銀破綻 を経て重大 な経済危機 に直
〔99〕
100 商 学 討 究 第51巻 第4号
面 し て い る。 こ う した 状 況 を打 破 す る た め に は,〈 企 業 家 〉 に よ る ベ ンチ ャー 企 業 の 創 出 を促 し地 域 経 済 を あ らた な発 展 段 階 に移 行 させ る他 に 方 法 は な い 。 だ が,従 来 型 の 経 済 社 会 シス テ ム で は情 報 と経 済 の東 京 へ の 一 極 集 中 が 避 け ら れ ず,遠 隔 地 域 に お け るベ ンチ ャ ー企 業 創 出 は きわ め て 困 難 と考 え られ て きた 。
しか し な が ら,数 は少 な く と も旺 盛 な投 資 と積 極 的 な 道 外 マ ー ケ テ ィ ング に よ っ て 国 内外 の 市 場 を 開拓 して い る 活 力 あ る 道 内 製 造 系 ベ ンチ ャ ー 企 業 が 存 在 す る 。 そ こ で,彼 ら か ら経 営 戦 略 を直 接 学 び そ れ を比 較 分析 す る こ と に よ っ て, 地 域 型 ベ ンチ ャー 創 出 の た め の 支 援 シ ス テ ム を構 築 す る こ とは可 能 で あ る と考
え た 。 こ う して,北 海 道 経 済 を牽 引 す る 製 造 系 ベ ンチ ャー 企 業 の担 い 手 と して 期 待 さ れ る 〈 創 業 者 個 人 に対 す る 支 援 事 業 〉 の 具 体 化 に至 る ま で に 平 成9年 か ら4力 年 を 要 した 。 そ して こ の4力 年 に わ た る研 究 は3段 階 を経 た 。 な お,本 稿 で は,(上)と して 第1段 階 にお け る分 析 結 果 を報 告 す る。 報 告 の 詳 細 に つ
い て は,公 表 済 み の デ ィス カ ッ シ ョンペ ー パ ー を参 照 され た い 。 また,第2段 階 を(中),第3段 階 を(下)と して,本 誌 次 号 以 降 に掲 載 予 定 で あ る 。
第1段 階(平 成9年 度):道 内 で 創 業 した 製 造 系 ベ ンチ ャ ー企 業 の フ ィー ル ド サ ー ベ イ か ら,彼 らが 遭 遇 した創 業 期 に お け る 問題 点 とそ の解 決 策 を探 っ た 。 そ して,こ れ らの 結 果 か ら,〈 人 材 〉,〈技 術 〉,〈マ ー ケ テ ィ ン グ〉,〈資 金 〉 の 各 分 野 に お い て 共 通 して 有 効 に 機 能 した と考 え られ る経 営 戦 略 を比 較 分 析 し, 構 築 す べ き 〈 地 域 型 ベ ンチ ャー 支 援 シ ス テ ム 〉 の課 題 を明 らか に した(*注:
小 樽 商 科 大 学 経 済 研 究 所 デ ィス カ ッシ ョ ンペ ーパ ー シ リ ー ズNo.48)。
第2段 階(平 成10年 度):平 成9年 度 の研 究 成 果 で 考 察 さ れ た 地 域 型 ベ ンチ ャ ー 支 援 シ ス テ ム の有 効 性 につ い て サ ー ベ イ と検 討 を行 っ た。 す な わ ち,北 海 道 で 新 た に ベ ンチ ャ ー ビ ジ ネス を ス タ ー トさせ る た め に必 要 と され る諸 条 件 を検 討 し,新 た な イ ンキ ュ ベ ー シ ョ ン ・シ ス テ ム を設 計 して そ の 適応 可 能 性 を探 っ た
(*注:小 樽 商 科 大 学CBCデ ィス カ ッ シ ョ ンペ ー パ ー シ リー ズNo.54)。
地域型 ベ ンチ ャー支援 システ ムの研 究(上) 101 第3段 階(平 成11‑12年 度):平 成10年 度 の研 究 成 果 で設 計 され た イ ンキ ュベ ー シ ョン ・シ ス テ ム を実 現 す べ く,産 学 官 連 携 に よる創 業 者 支 援 事 業 に着 手 した 。 そ の た め に,第2段 階 で 明 らか に な った 道 内4国 立 工 業 高 専 の 卒 後10年 以 上 の 全OBに 対 す る大 規 模 ア ンケ ー トの実 施 と,創 業 支 援 候 補 者 の 選 出,お よ び具 体 的 な 資 金 ・場 所 等 の イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン提 供 に よ る 創 業 支 援 事 業 を 開 始 し
た 。
1‑2方 法
本 研 究 は,第1‑2段 階 で は,小 樽 商 科 大 学 瀬 戸 研 究 室 と 日本 開発 銀 行 札 幌 支 店(当 時)と の 産 学 共 同研 究 プ ロ ジ ェ ク トと して ス ター トし,プ ロ ジ ェ ク ト事 務 局 を,小 樽 商 科 大 学 ビ ジ ネス 創 造 セ ンタ ー 内 に常 設 の 「 地 域 経 済 社 会 シ ス テ
ム研 究 会 」 に 設 置 した 。
研 究 プ ロ ジ ェ ク トチ ー ム は,著 者 と小 樽 商科 大 学 大 学 院 商 学 研 究 科(地 域 ・応 用 経 済 学 コ ー ス)で 「 地 域 ベ ンチ ャー 論 」 を研 究 テ ー マ とす る筆 者 の 指 導 大 学 院 生6名(社 会 人4名:道 庁 経 済 部,日 本 開 発 銀 行,㈱ リ クル ー ト,㈱ 未 来 総 研)+学 部 進 学 者2名),お よ び 日本 開発 銀 行 の札 幌 支 店 調 査 担 当者4名 に よ って 構 成 され た(*注:す べ て 当 時)。効 果 的 な 共 同 研 究 推 進 の た め,メ ンバ ー 全 員 が 毎 週 金 曜 日 に札 幌都 心 ビル に設 置 され た 小 樽 商 科 大 学 「 札 幌 サ テ ラ イ ト」
に 集 ま り,定 例 研 究 会 と道 内 フ ィー ル ドサ ー ベ イ を実 施 し た。 そ の 中 で,北 海 道 にお け る 製 造 系 ベ ンチ ャ ー企 業 の 地 域 優 位 性 を析 出 す る こ とを 目的 に,(1)公
表 デ ー タ に よ る 国 内他 地 域 お よび ア ジ ア との コス ト比 較 分 析,(2)道 内 製 造 系 中 小 企 業 の フ ィー ル ドサ ー ベ イ,お よ び モ デ ルベ ンチ ャ ー企 業 の 抽 出 と比 較 分 析, (3)北海 道 の 地 域 優 位 性 の 発 見 とそ の 可 能 性 考 察,を 行 っ た 。
第3段 階 に 入 る と,そ れ ま で に公 表 した研 究 成 果 を も と に,道 内 各 地 の 国立 大
学 高 専,北 海 道 通 産 局,道 庁,各 市 役 所,各 商 工 会 議 所,そ の他 ベ ンチ ャー 支
援 機 関 を 訪 ね,よ り具 体 的 か つ現 実 的 な ベ ンチ ャー ・イ ンキ ュ ベ ー シ ョ ンの 実
ヱ02 商 学 討 究 第51巻 第4号
現 に 向 け て の説 明 を幾 度 とな く行 っ た 。 こ う した 道 内 産 学 官 連 携 に よ る創 業 者 支 援 事 業 の 具 体 化 の た め の 行 動(説 明,ア ンケ ー ト,呼 び か け)は,平 成12年
4月 に 国 立 大 学 地 域 共 同研 究 セ ン ター と し て 学 内 に設 立 さ れ た 小 樽 商 科 大 学
「ビ ジ ネ ス 創 造 セ ン タ ー(CBC)」 を事 務 局 と して 行 われ た 。
1‑3結 論
研 究 プ ロ ジ ェ ク トチ ー ム は,は じ め に 「 ベ ン チ ャ ー創 出 面 で 地 域 は不 利 で あ る?」 との 仮 説 を た て た。 つ ぎ に,同 仮 説 を反 証 す るべ く実 証 デ ー タ の入 手 と フ ィ ー ル ドサ ー ベ イ お よ び比 較 分 析 に着 手 し た。 フ ィー ル ドサ ー ベ イ で は,パ イ ロ ッ トサ ー ベ イ と経 営 者 ヒア リ ング を経 て,平 成9年7月 か ら平 成10年2月 にか け て 道 内 製 造 系 ベ ンチ ャ ー 企 業 を フ ィー ル ドサ ー ベ イ した 結 果,(1)現 経 営 者 が 創 業 者 で あ る こ と,(2)創 業 場 所 が 北 海 道 で あ る こ と,(3)道 外 マ ー ケ テ ィ ン グ に積 極 的 で あ る こ と,の3条 件 を満 た す7社(金 属 加 工 ・半 導 体 製 造 装 置 ・ 食 品 機 械 ・バ イ オ ・住 宅 ・エ ン ジニ ア リ ング ・ソ フ トウ ェ ア)が 浮 上 し,創 業
プ ロセ ス に 関 す る7社 の 比 較 分 析 を行 っ た 。
以 上 の 研 究 結 果 か ら,わ れ わ れ は 「 ベ ンチ ャー 創 出面 で 地 域(=北 海 道)は 有 利 で あ る」 との 結 論 を得 た 。 そ の 理 由 は,4つ の 経 営 資 源(人 材 ・技 術 ・マ ー ケ テ ィ ン グ ・資 金)か ら見 て,(1)地 元 国 立 工 業 高 専 を 卒 業 して首 都 圏 メ ー カ ー に勤 務 し たUタ ー ン技 術 者 の 活 用,(2)非 札 幌 圏 中 核 都 市 に お け る低 コス ト高 付 加 価 値 経 営,(3)自 前 設 計 ・部 品 内 製化 に よ る独 自製 品,(4)イ ン ター ネ ッ トの積 極 的 活 用,の4条 件 が 満 た さ れ た場 合,製 造 系 の 地 域 型 ベ ンチ ャ ー が 創 業 に 成 功 す る可 能 性 が 北 海 道 で は か な り高 い こ とが 確 認 で きた か らで あ る 。
次 に,第2段 階 で は,Uタ ー ン とベ ンチ ャ ー創 業 を結 び つ け る シ ス テ ム の構 築 に あ た って,従 来 か ら別 個 に行 わ れ て きた 〈 市 町村 に よる 企 業 立 地 〉,〈道 に よ るUタ ー ン促 進 事 業 や 中小 企 業 支 援 策 〉,〈通 産 省 に よ る ベ ンチ ャ ー支 援 事 業 〉,
〈 公 的 金 融 機 関 に よ る制 度 金 融 〉,〈そ の ほか 経 済 団 体 や 産 学 官 に よる 地 域 産 業
地 域 型 ベ ン チ ャ ー 支 援 シ ス テ ム の 研 究(上) 103 支 援 策 〉 の 細 部 に わ た る 観 察 と検 証 を 行 っ た 。 そ れ らの プ ロセ ス を 経 て,「UI タ ー ン&ベ ンチ ャ ー=地 域 型 ベ ンチ ャ ー創 業 を成 功 させ る シス テ ム の 設 計 」 を 行 っ た 。
最 後 に,第3段 階 で は,小 樽 商 科 大 学 ビ ジ ネ ス 創 造 セ ン タ ー(CBC)と 北 海 道 通 商 産 業 局(小 脇 局 長)が コ ー デ ィ ネ ー ター と な り,道 内 国 立 工 業 高 専 卒 業 生 に対 す る1万 人 規 模 の ア ンケ ー ト調 査 を実 施 した 。 そ の 結 果,道 内 有 力 民 問 企 業(千 歳 市;自 動 車 部 品 製 造 「ダ イ ナ ッ クス 株 式 会 社 」正 木 代 表 取 締 役 社 長) の 全 面 的 な賛 同 と協 力 を得 て,ベ ンチ ャー 設 立 を 目的 とす る 創 業 予 定 者 個 人 に 対 す る 〈 生 活 資 金 〉,〈開発 資 金 〉,〈イ ン キ ュベ ー シ ョ ン ・ス ペ ー ス 〉,〈光 熱 費 負 担 の 提 供 〉,等 の イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン機 能 を 伴 う創 業 支 援 事 業 を 平 成13年4 月 よ り開 始 す る に至 っ た 。
2研 究 背 景
現 在,北 海 道 に お い て は,従 来 型 の く 官 依 存 経 済 〉 が もは や た ち い か ず,地 域 の 内 部 に お け る ビ ジ ネ ス創 造 が 何 よ りも求 め られ て い る。 この よ う な地 域 経 済 にお け る新 産 業 創 出 に 向 け た 流 れ は,地 域 に あ らた な ビ ジ ネ ス チ ャ ンス の 到 来 と企 業 創 造 の 好 環 境 を も た ら して い る 。 特 に,国 内 経 済 の グ ロー バ ル化 に不 可 欠 と さ れ る 規 制 緩 和 は,既 存 市 場 へ の新 規 参 入 や新 市 場 創 出 を志 す もの(=企 業 家)に と っ て は 絶 好 の 追 い 風 とな りつ つ あ る。こ う した環 境 の 下,〈ベ ンチ ャ ー をス タ ー トさせ る な ら地 域 で 〉 と い う流 れ を創 出 す る こ とが,焦 眉 の地 域 政 策 課 題 とな っ て い る 。
シ ュ ンペ ー タ は著 作 『 経 済 発 展 の 理 論 』(1926)の な か で,資 本 主 義 経 済 が 停
滞 か ら抜 け 出 す た め に は 「 新 た な経 済 発 展 」 が 不 可 欠 で あ る と述 べ て い る 。 す
な わ ち,資 本 主 義 社 会 に不 可 避 な経 済 の 寡 占化 ・独 占化 に よっ て く旧結 合 〉 が
支 配 的 とな り,経 済 成 長 の停 滞 は 不 可 避 的 な現 象 と な る。 こ う した 旧結 合 を打
104 商 学 討 究 第51巻 第4号
ち破 り,経 済 の 停 滞 を打 開 す る担 い 手 こ そ,〈新 結 合 〉と呼 ば れ る5つ の イ ノベ ー シ ョ ンを 果 敢 に遂 行 す る く 企 業 家 〉 で あ る と説 明 す る。 さ ら に,こ う した 革 新 的 企 業 家 に信 用 を供 与 し事 業 の 立 ち 上 げ を可 能 とす る,冷 静 な 〈 銀 行 家 〉 の 重 要 性 を指 摘 して い る 。 しか し なが ら,従 来 の 日本 にお け る 経 済 社 会 シ ス テ ム で は 情 報 と経 済 の 一 極 集 中 は避 け られ ず,そ れ ゆ え に首 都 圏 か ら遠 くは な れ た 北 海 道 の よ う な遠 隔 地 域 で は,優 れ て野 心 的 な く 企 業 家 〉 と 〈 銀 行 家 〉 が 決 定 的 に不 足 し,ベ ンチ ャー 企 業 の 誕 生 と経 済 発 展 は著 し く困難 で あ る と,従 来 は考 え られ て きた 。
わ れ わ れ 国 立 商 科 大 学 と 日本 開 発 銀 行(当 時)の 合 同 チ ー ム は,そ の具 体 的 な 反 証 例 を現 場(フ ィー ル ド)か ら一 つ 一 つ 見 つ け だ す 決 意 を4年 前 に全 員 堅 く 誓 っ た 。 そ の た め の 第 一 歩 と して,数 は 少 な く と も積 極 的 な投 資 と強 力 な マ ー ケ テ ィ ング を続 け る 道 内 先 端 企 業 の フ ィー ル ドス タデ ィ を 開 始 した 。 そ して, 得 られ た知 見 を分 析 し,理 論 化 し,モ デ ル 化 す る こ と は可 能 で あ る と信 じた 。 ア ダム ス ミス が 証 明 した とお り,今 日 の 資 本 主 義 経 済 の 燃 料 は 〈 利 己 心 〉 で あ る 。 そ れ は 〈 企 業 家 〉 とい うエ ン ジ ン に よ って 燃 焼 され る こ とで 経 済 は発 展 す る 。 つ ま り,わ れ わ れ が 支 援 し よ う とす る ベ ンチ ャー 企 業 は 地域 経 済 の発 展 を 誘 導 す る主 体 者 で あ る 。 この よ う な 「 地 域 型 ベ ンチ ャー 支 援 シ ス テ ム」 を構 築 す る に あ た っ て,最 終 的 に は政 府 に よ る 政 策 ベ ー ス で の 支 援 シ ス テ ムが 求 め ら れ る が,わ れ わ れ は社 会 科 学 系 国 立 大 学 と公 的 金 融 機 関 に よ る従 来 の フ レー ム ワ ー ク を越 え た 支 援 シ ス テ ムづ く りを 目指 して い る。 新 設 さ れ た小 樽 商 科 大 学
「ビ ジ ネ ス 創 造 セ ン ター(CBC)」 は ,そ の具体 的担 い手 と して活躍 が期待 さ れ て い る。
3北 海 道 にお け る地 域 優 位 性
本 章 の 課 題 は,北 海 道 に お け る製 造 系 ベ ンチ ャー 企 業 に と っ て の 地 域優 位 性 を
析 出 す る こ とに あ る。 そ こで,(1)公 表 デ ー タ に よ る 国 内他 地 域 お よび ア ジ ア と
地域 型ベ ンチ ャー支援 システ ムの研 究(上) 105 の コス ト比 較 分 析,(2)道 内 製 造 系 中 小 企 業 の フ ィ ー ル ドサ ー ベ イ,お よ びモ デ ル ベ ンチ ャ ー 企 業 の抽 出 と比 較 分 析,(3)北 海 道 の地 域 優 位 性 の発 見 とそ の 可 能 性 考 察,を 行 っ た 。
3‑1コ ス ト分 析
こ こで は,企 業 存 立 の基 本 前 提 とな る市 場 環 境 に 関す る 公 表 デ ー タ面 か ら,北 海 道 の 地 域 優 位 性 を検 証 した(*注:す べ て の 表 は,前 述 の 報 告 書No.48の
た め に作 成 した も の を 同 報 告 書 よ り転 載 した)。
表1コ ス ト分析 総括 表
北 海 道の優 位性 そ の 要 因
(a)土 地 価 格 ◎ 国 内的 に は低 水 準,初 期投 資 の軽減
(b)人 件 費 ◎ 国 内的 に は低 水 準,質 を重視
(c)金 利 △ 金 融機 関の脆 弱性
(d)物 流
×遠 隔性 等 に よる高 コス ト
(e)エ ネ ル ギ ー ○ 電 力 と用 水 で相 殺
(f)交 通 △ 割 引 の 活 用 に よ り コ ス ト縮 小
(9)気 象 条 件 ○ 相 対的 に はむ しろ優位
コス ト分 析 の 結 果,土 地価 格 と人件 費 に 関 して 北 海 道 の 明 らか な優 位 性 が 認 め られ た 。 ま た,エ ネ ル ギ ー と気 象 条 件 につ い て も優 位 性 が 認 め られ る 。 だ が, 金 利 と交 通 に つ い て は不 利 で あ り,物 流 に つ い て は 明 らか な不 利 が 存 在 す る こ
とが 結 論 さ れ る。 中 で も注 目さ れ るの は(a)土地 価 格,(b)人 件 費,お よび(e)エネ ル ギ ー で あ る 。
(a)土 地 価 格
こ こで い う土 地 価 格 と は,〈工 業 団 地 に お け る用 地 分 譲 価 格 〉及 び典 型 的 な 〈 都
市 部 オ フ ィス の 賃 貸 料 〉 で あ る 。
106 商 学 討 究 第51巻 第4号 表2工 業 団地 に おけ る用地 の分 譲価格
(単 位:千 円/月 ・㎡)
北 海 道 全 国 ア ジ ア
札 幌 市 27(石 狩) 韓 国 6.0[8] 仙 台 市 18(北 部)
42(真 栄) 中 国 9.1(大 連) [24]
35.0(上 海) [12〜47]
75(米 里) 横 浜 市 272‑299(川 崎)
173‑260(横 須 賀) [231〜339]
[100]
函 館 市 16(臨 空) 香 港 35.4[47]
32〜60(西 桔 梗) 台 湾 39.9[53] 大 阪 市 210‑268(臨 空) 600‑667(島 屋)
[280〜889]
[21〜80] シ ン ガ ポ ー ル
1.3〜4.0 [2〜5]
旭 川 市 12(旭 川)
[16] マ レ ー
シ ア
0。5〜2.9 [1〜4]
福 岡 市 25(平 塚)
53(新 門 司) 78(北 九 州) [33〜104]
苫小牧市 14(苫 西)
12〜24(苫 東) タ イ
2.3〜4.3 [3〜6][16〜32]
釧 路 市 4(白 糠) 22〜30(西 港)
[5〜40]
※ 換 算 レ ー ト:USI$=130。55円/1998年1月,以 下 同 様
※[]内 は,北 海 道(札 幌 市;米 里)を100と した と き の 指 標
出 典:『'97産 業 用 地 ガ イ ド』((財)日 本 立 地 セ ン タ ー)お よ び 『 世 界 の 工 業 団 地(ア ジ ア ・ オ セ ア ニ ア 編)』(日 本 貿 易 振 興 会)平 成7年9月 お よ び 『ジ ェ トロ セ ンサ ー 』(日 本 貿 易 振 興 会)1998年4月
工 場 用 地 比 較 で,札 幌(米 里)を100と した 場 合,函 館 ・旭 川 ・苫 小 牧 ・釧 路 の 各 地 域 は札 幌 の1/5‑1/6で あ る ば か りか,上 海 ・香 港 ・台 湾 の1/2 程 度 で あ る こ とが わ か る。 また,仙 台(北 部)と 福 岡(平 塚)も 北 海 道 の4地 域 と比 べ て そ れ ほ ど変 わ らな い優 位 性 を 有 し て い る 。
オ フ ィ ス賃 料 比 較 で札 幌 を100と す る と,韓 国1.4倍 ・上 海3.0倍 ・香 港3.0倍 ・ 台 湾1.0倍 ・シ ン ガ ポ ー ル2.2倍 と,い わ ゆ る ア ジ ア の 中 規 模 発 展 国 家 群 に お け
る オ フ ィス コス トは,札 幌 よ り明 らか に 割 高 傾 向 に あ る こ とが 理 解 さ れ る 。
地 域 型 ベ ン チ ャ ー 支 援 シ ス テ ム の 研 究(上)107 表3オ フ ィ ス 賃 貸 料
(単位:千 円/月 ・㎡)
北 海 道 全 国 ア ジ ア
札 幌 市 3.5[100] 仙 台 市 3.5[100] 韓 国 4.9[140]
中 国 3.3(北 京)
10.4(上 海) [94〜297]
函 館 市 2.7[77] 横 浜 市 4.0[114]
旭 川 市
一大 阪 市 3.5[100] 香 港
5.2〜10.4 [149〜297]苫小牧市
一福 岡 市 3.0[86] 台 湾
2.5〜3.3[71〜94]
釧 路 市
一シ ン ガ
ポ ー ル
5.2〜7.7 [149〜220]
マ レー シ ア
2.6[74]
タ イ 1.5[43]
出典:『 オ フ ィス ・マ ー ケ ッ ト ・レポー ト』(生駒 商事 株 式 会 社)1998年 冬vol.4お よび 『ジ ェ トロ セ ンサ ー』(日 本 貿 易振 興 会)1998年4月
(b)人 件 費
こ こ で い う 人 件 費 は,原 則 と し て 〈常 用 労 働 者 平 均 月 給 〉 と す る 。
表4常 用 労 働 者 平 均 月 給 地
(単位:千 円/月)
北 海 道 全 国 ア ジ ア
324.3 [100]
仙 台 市
356.6[110]・
韓 国
148〜279[46〜86コ
横 浜 市 426.6 [132]
中 国
27〜55[8〜17]
大 阪 市 447.9 [138]
香 港
109〜493[34〜152]
福 岡 市 370.0 [114]
台 湾
124〜232[38〜72]
シ ン ガ ポ ー ル
133〜271 [41〜84]
108 商 学 討 究 第51巻 第4号
北 海 道 全 国 ア ジ ア
マ シ
レ
一ア
20〜155 [6〜48]
タ イ 12〜75
[0〜2]
出典:『 毎 月 勤労 者 統 計調 査 報 告』(労 働 省)お よび 『ジェ トロセ ンサ ー』(日本 貿 易振 興 会) 1998年4月
人 件 費 比 較 で は,香 港 が 割 高 で あ る ほ か は,韓 国 ・台 湾 ・シ ン ガポ ー ル で 北 海 道 の8割,中 国 ・マ レ ー シ ア ・タ イ が 同5割 未 満 で あ る。 横 浜 ・大 阪 な どの 国 内人 口 集 中 地 域 よ り北 海 道 が3‑4割 低 廉 で あ る こ と は言 う まで も な い 。
(e)エ ネ ル ギ ー
こ こ で い うエ ネ ル ギ ー コ ス トは,〈工 業 用 電 力 〉及 び 〈 工 業 用 水 〉の価 格 とす る 。 製 造 業 の 生 命 線 と もい え る工 業 用 電 力 お よび 工 業 用 水 価 格 は,そ の 供 給 信 頼 度 もふ くめ て 考 え る と,北 海 道 を100と す る と 〈 電 力 〉 で香 港 ・台 湾 は79‑88と ほ と ん ど変 わ らな い 。ま た 〈 用 水 〉で は 札 幌 を100と す る と苫 小 牧6・ 釧 路56・
表5工 業用 電力 価格
(単位:円/Kwh)
北 海 道 全 国 ア ジ ア
16.6 [100]
仙 台 市 16.1 [97]
韓 国 6.5[44]
申 国
3.1〜7.1[21〜48]
横 浜 市 16.3
[98] 香 港 11.7[79]
大 阪 市 15.7 [95]
台 湾 13.1[88]
シンガポー ル
6.2[42]
福 岡 市 16.3 [98]
マ レ ー
シ ア
5.4〜8.1 [36〜54]
タ イ 3.9[26]
出 典:『briefingnote』(電 気 事 業 連 合 会)1997年12月 お よ び 『ジ ェ ト ロ セ ン サ ー 』(日 本 貿
易 振 興 会)1998年4月
地 域型 ベ ンチ ャー支 援 シス テム の研 究(上) 109 表6工 業用 水価 格
(単位:円/m)
北 海 道 全 国 ア ジ ア
札 幌 市
295〜330窄[100]
仙 台 市
一韓 国 59‑111[34]
中 国 2〜7[2]
函 館 市
100〜120宰[30〜36]
横 浜 市
一
香 港 70[21]
台 湾 21‑26[8]
旭 川 市
一大 阪 市 70[21]
シンガポ ール91[28]
苫小牧市 20(苫 西)
[6]
福 岡 市
19〜63[6〜19]
マ レ ー
シ ア
22〜40 [12]
釧 路 市 185(西 港)*
[56]
タ イ
22〜25[8]