小学校教材「おもりで動くおもちゃ」について?
著者 松村 佳子, 池尾 和子, 岩橋 恭子
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 5
ページ 1‑8
発行年 1982‑03‑10
その他のタイトル Toys Moved by the Force of Weight URL http://hdl.handle.net/10105/4634
松 村 佳 子(物理教室) ・池 尾 和 子(理科教育教室) 岩 橋 恭 子(大阪市立東中川小学校)
Toys Moved by the Force of Weight Keiko Matsum u ra (Department of Physics)
Kazuko Ikeo {Department of Science Education)
Kyoko Iwahashi (Higashinakagawa Elementary School in Osaka) Abstract
We have been trying to study the toys which are moved by the force of weight as an experi‑
mental subject of science. Our participants who are the former students from two second‑grade and two fourth‑grade science classes in Osaka use a numerous kinds of WAKOROGASHI (Ro‑
tating Rings). They try a running race with the toys and enjoy reforming the WAKOROGASHI to scales and levels themselves. According to these trials, the science classes that have worked with the WAKOROGASHI are guided well to a scale or level in the elementary school today.
Key words:
Moving Toys Science Education
I はじめに
昨年度、新指導要領に基づく小学校2年生の「おもりで動くおもちゃ」をとりあげ、教科書 で扱われている展開例と、それらの中にある問題点などを基礎実験をもとにして調べた。そし て、 2年生の「おもりで動くおもちゃ」という教材は、小学校理科のうちで物理的な内容の中 の、、力のつり合い′′ と、 、、ェネルギ‑・仕事′′の概念を含む重要な位置にあること、また、子 供たちが理解しにくい、、力′′ とか、 、、重さ′′ など目に見えないものの概念を把握させるために も重要な教材であることを確認した讐 教科書の内容は、様々のおもちゃ作りと、それらを使 って遊ぶ学習とが記載されているが、系統性のある記述とは言い難い。そのために、学習時に
‑つ一つのおもちゃを個別に扱いがちになり、系統的・発展的な指導がなされていないことが 多いように思われる。
そこで、教科書に記されている「おもりで動くおもちゃ」をどのような順序で扱えば、小学 校高学年、あるいは中学校に進んでから学習する事柄の理解につながる基礎概念ができるかを 検討するために、今年度は、この教材の授業展開について研究を進めている。一つの系統的な 扱いがより良い結果を期待出来得るとの知見を得たので、その一端を紹介するO
II 授業展開
授業は、2年生と4年生とで6時間にわたって、一つの輪を使って「輪転がしの遊びの学習 から展開した。
1 輪転がし:床の上で、幅約5cmに切った紙製の輪(新聞紙用パルプの芯:直径約15cm で肉厚、反物や布を巻いてあった芯:直径10−8cm、ガムテープの芯、セロテープの芯又 は工作用方眼紙で作った輪)のうちから、自分の好きな輪を選んで転かして遊ぶ。その遊 びのなかで、
a.「遠くまで転がる輪をみつけましょう司
の活動をさせると、いろいろな輪を転がしてみて、殆んどの子供が、、直径が大きくて重い 輪′′、、、形がいびつでなくて、まわりがつるつるした輪′′などがよく転がることをみつけ た。そこで、
b.「輪ころがし競争をしましょう功と呼びかけて、まず、競争するためにはどんなこと に気をつけたらよいかを考えさせた。初めはなかなかまとまった考えが出なかったが、、、強 く力を入れて転がしたり、弱い力で転がしたりしたのでは競争にならない′′ ことに気づか せた。1年生で、、風輪転がし′′の学習をした時、坂を転がし落した先行経験を思い出した 児童が2−3人いて、、、斜面を使えばいいのではないか′′ という提案があった。全員その 意見に賛成して、斜面を転がし落して競争することにした。条件を揃えないと競争になら
ないので、次のことを約束した。
① スタートラインを揃えること。
② 力を加えないで、手は自然にはなすこと。
輪が転がって行って止まったところに、チョークで印を付けて、転がった距離を比べあっ た。いろいろな輪で競争してみて、
C.「遠くまで転がる輪は、どんな輪でしょう功
と探させた。昨年度の我々の実験結東丑と同様に、、埴径が大きくて重い輪〟が遠くまで転 がることがわかった。
その活動の中で、工作用方眼紙をホッチキスでとめて作った輪は、いずれも止まる時に、
前後に行ったり来たり揺れて、ホッチキスの針のところが下になって止まることをみつけ た児童が数人いた。「良いことに気がついたね功 とはめて皆にもその様子を観察させた。
「針のところが重いからやで功という児童もいて、おもりの付け方・位置と輪の揺れ方、
止まり方との関係について自然に気づいているようであった。
2 遠くまで転がる輪: 次に、
「もっと遠くまで転がすには、どうしたらよいでしょう功
ということを考えさせたところ、すぐに、、斜面の傾きを急にする′′ という意見が出たので、
その場でやらせてみた。確かに遠くまで転がり、全員が納得し理解したようであった。
「他に遠くまで転がす方法はありませんか功と聞くと、、、大きな輪に変えるといい′ノ とい う意見が出たが、次回にもっと大きな輪を用意して実験することにして、今回は、今まで 使ったのと同じ輪を使って、もっと遠くまで転がるように、輪の改良を工夫することにし た。なかなか良い案が出ずに首をひねっていたが、「どんな輪が遠くまで転がったか思い 出してどらんdと言うと、「輪を重うしたらええねん句という子の言葉に、「あ、そうや」
2
と、次々と輪を重くすることに気がついた。
そこで、
a.「どんなおもりをどのように付ければ遠 くまで転がるか、工夫してみましょう功 という作業を始めた。、、おもり′′ としては、
粘土、使い古した乾電池、ビー玉、小石など を用意したが、児童が使っていたのは、重さ や形を自由に変えられる粘土と、乾電池が主 であった。、、おもり′′の数やつけ方などを工 夫して細工をした輪が転がる様子などをまと めさせたものは、大体図1のようであった。
3 輪の揺れ方と止まり方: 輪転がLをしな から、同時にどんな止まり方をするか観察さ せた。「どんなふうにしたら輪が止まるでし ょう。輪を止めるには、どうしたらよいでし ょう也と言うと、ある児童は輪を足で踏んで 壊してしまって、「これで止まるで」と言っ た。おもりのつけ方を変えて止まる方法を探
させようとしたのに、と教師は少し驚かされ たが、この場合、児童の発想としては素直 な考え方だったかと思われる。そこで、「おも りのつけ方によって、揺れ方や止まり方はど うなるでしょう。」という課題を与えて、輪 の動き方を観察しメモさせた。まとめると図
2のようになる。
ここまでの学習をした後で、輪の転がり方、
揺れ方、止まり方などから、どんなおもちゃ に似ているかを考えて、おもちゃ作りの活動 へ発展させる。
4 おもちゃの製作:「輪の揺れ方や止まり 方をみて、どんなおもちゃを思い出しますか功
と尋ねると、、、おきあがりこぼし、′′、、だる まさん′′、、、ゆりかご′′、、、シーソー′′、、、や じろべえ′′ ……などの答が返ってきた。そこ で、
a.「2つの場所におもりをつけた輪を使っ て、揺れるおもちゃを作りましょうd と、お
もちゃ作りをさせた。輪のままで使ってもい いし、輪を切っても折り曲げてもよいことに
した。できたおもちゃの例を写真で示す。
3
○おいただけならじっとしていて、ちょっと 手でおしてもすぐもとにもとって動かない。
0強くおすとゆりかごみたいにゆれておもり が、下でとまった。
Qぅの動き方で走っ よく転がっナこ
○がたんがたんと進んだ
○ころんころんと転んだ
○よく転がっ
毛、!:ニーご〝 すいすいとまっすぐ
いった。
ねん土
⑰まっすぐ遠。まで
よく転がった。
ねん土
た塑
○転がったけどあまり遠くまで いかなかった。
一ばん遠くまで 転がった。
0.C=○ゆりかごみたいに揺れる
00
はやくゆれる
、、ゆらゆら′′、、かたかた′′
ゆっくり大きくゆれる
、、ゆらら、ゆらら′′
C=3
2つのおもりをつけた方に強く 右と左に同じぐらい ゆれて、2つのおもりの方が下 ゆれるが止まるのが
になって止まる。 速い
図−2
楽しいおもちゃ作りの活動の後、
b.「どんなおもちゃができました か。絵で書きましょう句と、自分た ちの作品を書かせてみた。ころんこ ろんと転がったりゆらゆら揺れるゆ りかごのようなものが多くみられた。
一例を図3に示す。
C.遊びの発展、これらのおもちゃ を使って、次のような課題で工夫し 遊びを発展させた。
ア.試してみましょう。
0輪の曲げ方を変えてみる。
。左右のおもりを変えてみる。
ィ.工夫してみましょう。
。ながくゆれるおもちゃ 0速くゆれるおもちゃ
。ゆっくりゆれるおもちゃ 0揺らせ方を変える方法 写真は、子供たちの活動の様子の一コ マである。
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2年生と4年生とで、IIで示したような遊びによる授業を展開した後、「重さの違いをはか りを使わずに比べるには、どんな比べ方がありますか句ということを連想させ、その結果を調 査した。図4に2年生の答の例を示す。、、シーソー′′や、、やじろべえ′′から発展した天秤を使
う場合、支点は一点で支えることに気づいていることが絵からわかる。また、、、ばねの伸び′′
で測ることに気がついている子もある。図4右下にみるように、指を使って支点にしている例 もある。ものさしの目盛のどこを支えればっり合うかをみるなど、、、てこのつり合い′′ の原理 に気づいている例もみられる。これらより、4年生で学習する「天ぴん」、「ばねはかり」、6 年生で学習する「てこ」などへと発展する素地ができていることがわかる。
次に4年生の答の例を図5に示す。
手で持って比べる、シーソー・やじろべえを使う、おとなの腕にぶらさがって比べるなど、2 年生と少しも変ったところがみられない。むしろ、シーソー・やじろべえから発展した天秤を
考えるとき、支点を1点で支えていないところなどは、2年生より劣っていると云えるかもし れない。また、2年生の方が自由で矛軟な発想ができるようであり、4年生ともなると、考え 方が固定化される傾向が感じられた。この調査に関しては、年次を追っての学習効果は見られ なかった。もう一つ、我々が予想しなかった答として、両学年共に、、水の中に沈めて重さを比 べる′′ というのがあった。、、沈むはやさで比べる′′ という答と、、あふれる水の量で比べる′′ と いう答がみられた。後者の答をした児童は、大きい物程重たいと考えているようである。、、お 父さんと一しょにお風呂に入ると、お父さんの方が体が大きくて体重が重いから、じゃぶんと つかるとお湯がたくさんあふれる′′ というようなところから思いついたのであろうと思われる。
Ⅳ まとめと今後の課題
以上に述べた授業展開と調査結果とから次のようなことが言える。
(丑 低学年の児童に理科の内容をよく理解させるためには、よく遊ばせること、つまり、先行 経験を豊かにすることが大切である。幼児期から手足を働かせる製作活動や遊戯を通して遊び の中に系統性をみつけ出したり、子供が自主的に遊びを発展させることができるようにするこ とが大切であると云える。
② 学年進行に伴う教材の展開に関しては、2年生の「おもりで動くおもちゃ」に続いて「て んぴん」をもってくる方が、指導上、また子供たちの理解の上からも学習し易いのではないか と患われる。2年生の「おもりで動くおもちゃ」の次に3年生の「風車、水車」を経て、4年 生の「てんぴん」に続く現在の展開のし方は、、、力のつり合い′′ と、、ェネルギー・仕事′′ との 間の関連において授業展開がやりにくいため、児童も理解しにくいと思われる。、、力のつり合 い′′に関する教材は続けて学習させ、一連の展開がやりやすいようにする方が、児童の創造性 をのばす上からも望ましいと考える。
③ 小さい子供は、大きい物程重たいと考えがちで、物の、、かさ′′ と、、重さ′′ との概念をしっ かりつかんでいないことがわかった。同じ大きさでも、重いものと軽いものがあること、同じ 物質なら、かさの大きい物の方が重いことなど、、、物にはかさと重さとがあり、大小、軽重の 違いがあること′′をしっかり理解させて、中学に進んでから学習する ヾ比重′′ とか、、密度′′な
どの理解のきっかけを小学生のうちにつけてやることが大切であると考える。
以上の調査は大阪市の2つの小学校に於て各学年2クラスずっについて行ったものであり、
数的な処理をするためにはまだ不十分なので、今後もっと多くの小学校において同様の調査を 行いたいと考えている。さらに、「おもりで動くおもちゃ」の展開順序や方法のちがいによっ て、子供たちの理解のし方や、関連教材への発展の素地のでき方の上に違いが生じるかどうか の検討も行いたいと考えている。
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参考文献
1)松村佳子・池尾和子:小学校教材「おもりで動くおもちゃ」について、教育工学センター研究報 告、第4号(1981)
2)井藤芳喜他:子どもの重量概念の形成について(その2)、島根大学教育学部紀要第8巻(1974)
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