8 9 4 金 沢大学 十 全 医学 会 雑 誌 第9 2巻 第6号 8 9 4‑9 0 9 (1 98 3)
慢 性 骨髄 性 白血 病4 9 症例の 分染法 による染色 体 分析と 臨 床 像 に 関 す る 研 究
金 沢大学 医 学 部 内科 学 節三講 座(主任: 服部 絢脚・教授)
小 林 郎
(昭 和5 8年1 2月1 7日受 付)
慢 性骨 髄 性白 血病 (chr o nic m yeloge n o u sle uke mia, 以下C M L と略) の急性 転 化 時に出現 す る付 加 的 染色 体異 常を明ら かにす る た めに, 4 9例の C M L を対 象と し て, 分 染法によ る染色 体 分析を行った.
P h iladelphia(P hl) 染 色 体は 4 9 例 中4 7例 (95・9% ) に認め ら れ た. P hlの転 座 形式は, 全 例No9 と N o22 染 色 体 間での相 互 転座で あった. 慢 性 期の付 加 的 染色 体 異 常は, 44 例 中3例 (6.8% )にみ ら れ た. 慢 性 期
の 3 例の染 色体 数は 4 7 以下で,2例にN o8 s ris o m y(+ 8),Nolltris o my(+ 11) そ し て No1 7 m o n o s o m y
卜1 7) が み ら れ た. ま た, mis sing Y ( ‑ Y) が 1例に認め ら れ た. + 8 ,+1 1,
‑1 7 の異常は, 急性 転 化 と直 接 関連の ない慢性 期の付 加 的染 色 体 異常で あった. し か し, mis sing Y は, 急 性 転 化に関 連す る新た な染色 体異 常を誘 発し た と推 定さ れ た. 急性 期の付 加 的染 色 体 異 常は, 1 5 例 中7例 (4 6・7% ) に認め ら れ,
染 色体 数お よ び構造 異 常に関し て, atr a ndo m な変化で ない こと が 示唆さ れ た. 染色 体 数によ る分 類で は,
hy pod iploid は 2例に, ま た, hy pe rd iploid は 5 例に認め ら れ た. 急性 期の染色 体 数の変 化は, 4 8 以 上の も の が多く, 染 色体の欠 失は稀で あった. 過 剰染 色 体と し て は, No8, N o9, N ol O, P hlに集 中す る傾 向が み ら れ, そ の他7種類の染 色体に異常が み ら れ た. ま た,構 造異 常と し て,No1 7 is o chr o mo s o m e〔i(1 7q)〕
が 1 例に認め ら れ た.染 色体 数が 4 8 以上 の hy pe rd iploid 3例に腫 瘡 形成 性の急性 転 化を認め,治療に対す る寛 解率も低く, 急性 転 化 後の生 存 期 間も短 縮し, 予後 不 良であった. 急 性 期の付 加 的 染色 体 異 常と し て,
特に N o8, No9, N ol O, P hlの過 剰 染 色体と i(1 7q)が み ら れ た. これ らに, さ らに新た な異 常が加わ り,
モ ー ド が 4 8 以上 と な る付加 的 染 色 体異 常は 予後 不 良を 示唆し た.
Key w ords A d ditio n al chr o m o s o m al ch a nge, H y pe rd iploid, H y p odiploid, Tris o m y, M o n o s o m y.
19 6 0 年No w ell と Hu nge rfo rd とによっ て慢 性 骨 髄 性白 血病 (chr o nic m yeloge n o u s le uke mia, 以下 C M L と略) の ほ と ん どにP h iladelph ia 染 色体 (以下 P hlと略) が発 見さ れ たり2). 以後, 染 色 体の研 究は,
C M L の病態の発 見の糸口 と し て注 目さ れ, 多くの研 究が な さ れ ている. 1 96 9 年Ca spe r s o n
a)によ り螢 光 染 色 法が, 1 9 7 1年Se abrigh t4), Su m n e r ら5)に よっ て Gie m s a 染色 法な ど の分 染 法が開 発さ れ染 色 体の研 究
は飛躍 的に進歩し た.19 73 年Ro wley
6)は,P hlは No22
の染色 体の長腕の単な る部 分 的 欠損で は な く, No9 の 染 色体の長腕 末 端に転座し てい ること を発 見し, ま た,
C M L にお け る P bl以外の付 加 的 染色 体 異 常も決して
atr a ndo m で ないと報 告し た. 以後, 多くの検 討が な
さ れ,C M L の経 過 中にP bl染 色体以外の付 加 的染色体 異 常が み ら れ, 特に急性 転 化 時に現わ れ る頻度は 70%
といわ れて いる. 付加 的染 色 体 異常は急 性 期ばかり で な く, 頻 度は著し く低いが慢 性 期にも み ら れ る. 慢性 期にみ ら れ る付 加 的 染 色体 異 常と急性 期の付 加 的染色 体 異 常の差 異に関し て の論 文も多 数み ら れ る が、 明ら か な差 異は認め ら れ ていない. し か し慢 性 期にみ ら れ る付 加 的 染 色体 異 常と急性 期の付加 的染 色 体 異常の相 違を知ること は, 急 性 転化を早 期に予知す る 上 で き わ
C hr o m o s o m al studie s of 4 9 C hr o nic M yeloge n o u s Le uke m ia Ca s e s by B a nding Tech niqu e s
in Relatio n to T heir C linic al P ictu r e s. S abu r o K obaya shi, Depa rtm e nt of Inte r n al M ed icin e(ⅠII), (D ir e cto r : K . H at to ri) Scho ol of M ed icin e, Ka n a z a w a U niv e r sit y ・
慢 性骨 髄 性 白 血病に お け る染 色体の研 究
め て重 要であ る. 本研 究では C M L を長 期に観 察し,臨 床所見と染 色 体所見との関連 性を検 討し, 若 干の知 見 を得た ので報 告す る.
対 象およ び 方 法
1 . 対 象
1 9 7 7年4 月 よ り 1 9 8 3 年9 月 まで の期 間に, 金 沢 大 学 第三内 科お よ び 石Jtl 県立中 央 病 院 免 疫 血 液 内 科で P hl陽性C M L と診 断さ れ た 4 7例を対 象と し た. 男 性 31例, 女性1 6 例で, 発 病 時の年 令は 1 3〜7 3才 ( 平 均 値は 3 9.0才) であった. C M L の診 断は 血液 学 的所 見 と染色 体 所 見によってな さ れ た. C M L の急 性 転 化の 判定には, 異型骨髄 芽 球が末棉血で5 %以 上 あ るいは 骨髄で 1 0% 以 上のいずれか 一方か, あ るいは両 者を満 た す ものと し た. し か し, 末梢血 お よ び骨 髄で異 型骨 髄芽球がこれ らの基準を超え る場 合で も, 治 療 後の反 応と そ の後の経 過を参 考と して急性 転化, も し く は慢 性期と診 断し た.
2 . 方 法
染色 体 標 本の作 製 方 法は, 主と し て骨 髄 直 接 法を 用 いた が,
一 部の症 例で は末 梢 血に phy tohe m aggluti‑
nin (以下P H A と略) 無 添 加ま た は P H A 添 加 末梢血 短期培 養 法を 用いた. 染色 法は, 従 来の普 通 染 色 法の ほか に, quin a c rin e m u sta rd 染 色法 (Q 染色 法) ま た は ト リ プシ ン処理染 色 法 (G 染色 法) を 用いた. 次に
染色体 標 本の作 製 方 法を述べる.
1) 骨髄 直 接法
i) 2 0%のfetal c alf s e r u m (F C S) を含む培 養液 9ml にヘ パリン添 加 骨 髄 液を 2 〜 3滴 加え撹 拝す る.
ii) 直ちに遠沈 (8 0 0 回転/ 分, 10 分 間) し, 上清を 捨て る.
iii) 静か に低 張 処理液 (0.0 75 M K C L) を 8 〜1 0 ml 加え, さ らにc oIc e mi d液(2FLg/ ml)を 0.0 5 〜0.1 mi 加え軽く ピペ ッティ ング を す る.
iv) 3 70C で約3 0分 間 低 張処理 を す る.
Ⅴ) 低 張処理後, カル ノア固定 液 ( 酢 酸: メタノー ル= 1 : 3) を約10 ml 加え,静か に ピペ ッティ ング を し, 2 0 〜30 分間 固 定す る.
Vi) 遠 沈し上清は捨て, さ らに カ ル ノア で固定す る.
Vii) 遠 沈し, 上清は捨て, カル ノアで適 当な濃 度(軽 く 混濁す る程 度) の細 胞 浮遊 液に調 整す る.
Ⅴ射 スラ イ ド 上に適 当量( 3 〜 4滴) の細 胞 浮遊 液 を滴 下し, 引火乾 燥ま た は自然 乾 燥し て染 色 体標 本を 作製す る.
2) 末 栴 血培 養 法
i) 前記の培 養液9 ml を含む培 養瓶に, 無 菌 的にヘ パリン添加 未 輸血 血祭を 1 ml加え(P H A 添 加の時に
8 9 5
こ こで加え る), 3 70C で 4 8〜7 2 時 間培養す る.
ii) c oIc e mid 液 (2/Jg/ mi)0.5 ml を加え, さ らに
約8 0分 間培 養す る.
iii) c oIc e mi d処理後 遠 沈し, 上清は捨てる.
iv) 約1 0 mlの低張 処理液で15分 間偲 張 処理 す る.
Ⅴ) 遠 沈し上清は捨て る.
vi) 適 当な濃 度の細 胞 浮遊 液を作る.
vii) 以下骨 髄 直 接 法と同様。
3) Q 染 色 法
i) 染 色体 標 本 ( 引火 乾燥ま た は自 然乾 燥の ど ち ら で も よい) を脱 脂の た め アルコ ー ル シリ ー ズ(1 0 0% → 7 0% → 5 0% アルコ ー ル) に通す.
ii) M a c11v ain e横 衝 液 (Na2H P Oヰ十クエン酸, P H 7.0) にて標 本を軽く洗う.
iii) 5 0FLg/ml quin a c rin e m u sta rd染色 液で1 2分 間 染 色す る. (quin a c rin e m u sta rd 液は, M a cllv ain e緩 衝 液で溶 解す る.)
iv) 流 水で十 分 洗う.
Ⅴ) M a c11v ain e綬 衝 液Ⅰ・II ・III で 1分間づつ洗う. 標 本が乾 燥し ない間に同じ液を 用いて カバ ー グ ラスで 封じ る.
vi) 螢 光 顕微 鏡 下で観 察し, 写 真撮 影を す る.
4) G 染 色法 (ト リ プシ ン法7))
i) 引火 乾燥 標 本ま た は自然 乾燥 標 本のど ち ら で も よい. バ ンドの出か たによってト リ プシ ン の処理時 間 を変え る.
ii) 0.0 2 5% ト リ プシ ン液 ( 生理食 塩 水に溶 解, pH 7.0)で, 引 火乾 燥 標 本で は 1 〜 5 分 間, 自 然 乾燥 標 本
な ら ば 1 0′〜2 0秒 間ト リ プシ ン処理 す る.
iii)7 0% アルコ ー ル液でト リ プシ ン処理 を停止 さ せ,
流 水で洗う.
iv) 5 %G ie m s a 液 (pH 6.8, S6r e n s e n 緩 衝液で稀 釈) で1 0〜1 5分 間染 色す る.
Ⅴ) 流 水で十 分水 洗 後乾 燥して検 鏡, 写 真撮 影す る.
成 績
1 . P hl染 色体につ いて
P blは 4 9例 中47例 (95 .9% ) に認め, 2 例には P hl は認め ら れ なか った. 以下の検 討から は P bl陰性の2 例は除 外し た. P hlの陽性 率は47 例 中4 5例は 1 00% で あった が, 残りの2例の診 断 時のP hl陽性 率は, そ れ ぞ れ 1 3.2%, 13.4% であっ た.
P blの転 座は, すべ てNo9 と N o22 染 色体 長 腕の転 座形 式 (u s u alt y pe) で, No9 以外への転座は認め な かった. 以下u s u alt y pe を P hlと略す.
2. 付加 的染 色体異 常につ い て
慢 性 期の付 加 的 染 色体 異 常は, 初 診 時急 性転 化 例2
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例と慢 性 期に分 析で き なかった 1 例を除く4 4 例 中3 例 (6.8% ) に認め ら れ た. 急性 期の付 加 的染 色体 異 常
は, 慢 性 期に付 加 的染 色体 異 常を認め た 1 例を含め,
1 5例 中7 例 (46.7% ) に認め ら れ た.
1) 症 例の分類
p bl陽性の 47 例を, 染 色体 分 析を行っ た時 期と付 加 的 染色 体 異常の有 鰍こよ り下記の如く Ⅰ〜ⅠⅤ群に分類 し た.
Ⅰ群:慢 性 期の み の検 索で, P bl以外の付加 的染 色体 異 常の ないも の
Il群:慢 性 期の み の検 索で, P bl以外の付 加 的 染 色 体 異常のあ る もの
ⅡⅠ群: 慢 性期お よ び急 性 期の検 索で, P bl以外の付 加 的 染色 体 異常のないもの … … … … … … … … 8例
ⅠⅤ群: 急 性 期の検 索で, P hl以外の付 加 的 染 色 体 異 常
のあ る もの
次に各群に つ い て説 明す る.
Ⅰ群
慢 性 期の検 索で, P hlの み を認め た 30 例で, 現在慢 性 期にある ものと, 急 性 転化を生じ た が急 性 期の染 色 体 分析が で き な かった症 例も含ま れ ている. 表1 にⅠ 群の年令, 性 札 検 索 年月を 示 し た. 男性1 9 人, 女性 1 1 人 で男 女比 は1.8: 1 で Ⅰ群の平 均 年 令は 37・2才
で あった. P blの陽 性 率は全 例10 0% であった.
ⅠⅠ群
ⅠⅠ群の3 例の年 令, 性 別, 検 索年月, 染色 体 所 見を 表2に示 し た. ま た, 異常クロ ー ン の決 定は欠失の場 合は 3 個以 上, 過 剰およ び構 造 異常の場 合は 2 個 以上
Table l. C hr o m o s o mal a n alysis of Gr o upI with n o ad d itio n alcha nge sdu ring chr o nic pha s e
Ca s e No. Na me
Se x/Age at o n s et
Date
Du r atio n(m o)
sin c e Dx
So u r s e
M etapha s e No.
Total G Q
Ⅰ‑ 1 K .M . M 6 7 1 9 7 7. 2 2 1 m a r r O W 2 1
5 5
2 S .K . M 4 0 8 3 2 ロ 8 2
3 0 .S . M 6 9 1 9 78. 8 ロ ロ 3 5 1 0
4 Ⅰ.T . F 5 7 9 4■ ロ 1 2 4
5 H .K . F 7 0 1 0 2 〃 1 7 5
6 S .T . M 2 3 1 0 ロ ロ 3 2
7 K .N . M 29 1 9 7 9. 1 ロ ロ 1 0 2
8 Ⅰ.M . F 3 0 2 2 b lo od 7 2
3
10
9 C .K . F 3 2 4 5 m a r r O W 2 8
1 0 K.0 . M 6 2 5 ロ ロ 田 ロ
田 K.A . F 2 3 7 0 ロ 2 5
1 2 J .0 . M 3 6 1 2 2 b lo od 2 8 2
1 3 M .F . F 31 1 9 8 0. 3 4 4 1 9 8 1. 1
ロ ロ
2 2 4 5 6 6 7 1 98 2. 8 4 6 9 1 9 8 3. 9
0 m a r r O W 1 2 2
1 4 M .M . F 4 6 ロ ロ 9 5
1 5 K .Ⅰ. F 4 6 0 ロ 1 6 5
1 6 H .M . M 24 0 ロ 5 3
1 7 K .Y . M 3 6 0 ロ 8 3
1 8 Y .H . M 23 0 ロ 25
3
1 9 T .H . F 60 ロ ロ 田 2
2 0 R .Ⅰ. M 7 3 ロ ロ 33 5
2
2 1 T .Y . M 1 7 0 ロ 1 0
2 2 S .T . F 2 5 0 ロ 6 2
2 3 S .M . M 5 0 ロ ロ 5 田
2 4 A .M . M 1 5 0 b lo od 2 8 2
2 5 S .Ⅰ. M 51 ロ m a r r O W 1 2 5 2
4
2 6 C .M . F 1 9 ロ 〃 1 9 6
2 7 Ⅹ.N . M 49 0 〃 12 7
2 8 S .K . M 5 6 ロ ロ 8 3
2 9 S .K . M 3 7 ロ ロ 5 2
3 0 W .S . M 5 9 0 ロ 田 5 2
二‥
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