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論 文
鉄 と 鋼 Vol.81 (1995) No.1
CaO-SiO2-
AI2O3- MgO
系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度
平
章 一 郎*・
中 島
邦 彦*2・
森
克 巳*2
Dissolution
Rate
of Alumina
into
Molten
CaO-SiO2--Al2O3-MgO
Slags
Shoichirou
TAIRA, Kunihiko
NAKASHIMA
and Katsumi
MORI
Synopsis
: Dissolution rates of sintered alumina into molten CaO-SiO2 -9mass%Al2O3-10mass%MgO
slags were measured
by
rotating specimen method. Experiments were conducted at various revolution speeds,temperatures, and CaO/SiO2
ratioes, and the microstructures of specimens after experiments were examined by EPMA. Based on these results, the
dissolution mechanism was discussed.
The dissolution rate of alumina increased with increasing revolution speed and rising temperature. These results
suggested that the dissolution rate was controlled by mass transport in the boundary layer of molten slags.
The dissolution rate of alumina decreased rapidly as increasing CaO/SiO2 from 0.64 to 0.80, and then increased rapidly
as increasing CaO/SiO2 from 0.80 to 1.00. According to the EPMA analysis, a compact deposition of MgO •E Al2O, spinel
particles in slag and a formation of CaO •E 6Al2O3 compounds in alumina were confirmed in the specimen immersed into the slag of CaO/SiO2 = 0.80. It was estimated that these reaction proudcts suppressed the flow of slag components to
decrease the dissolution rate. However, MgO•EAl2O3 spinel particles observed in the specimen immersed into other slags
were scattered, and might not disturb the flow of slag component, so that the dissolution rate was not retarded .
Key words : refractory ; slag ; dissolution rate ; dissolution mechanism ; alumina ; CaO-SiO2-Al2O3-MgO system ; MgO •E Al2O3 spinel .
1 . 緒 言
ア ル ミナ(Al2O3)セ ラ ミ ッ ク ス は,化 学 的 安 定 性,耐 食 性,強 度 な ど に 優 れ た 特 性 を 持 っ て お り,し か も 安 価 で あ る こ と か ら 多 くの 分 野 で 使 用 さ れ て い る最 も代 表 的 な セ ラ ミ ッ ク ス で あ る1)。鉄 鋼 業 に お い て は,主 に 耐 火 物 と して 使 用 さ れ て お り,ま た 製 鋼 過 程 に お い て は,Al脱 酸 に よ り溶 鋼 中 に 生 成 す る 非 金 属 介 在 物 と し て 存 在 す る 。 こ の た め, ア ル ミナ セ ラ ミ ッ ク ス ー ス ラグ 間 の 反 応 は,耐 火 物 の 溶 損 現 象 お よ び ス ラ グ に よ る ア ル ミナ 介 在 物 の 吸 収 除 去 に 関 連 した 知 見 を 与 え る 重 要 な 反 応 で あ る。 こ の 反 応 の 速 度 論 的 評 価 の 指 標 と し て は,溶 解 速 度 が し ば しば 用 い ら れ て お り,多 くの 研 究 者 に よ り溶 融 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 の 測 定 結 果 が 報 告 さ れ て い る。 例 え ば,Cooperら2)∼4)は,CaO-SiO2-Al2O3系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 を 測 定 し,そ の 律 速 段 階 が 溶 質 の 拡 散 過 程 で あ り,高CaO濃 度 の ス ラ グ とア ル ミ ナ の 反 応 で は, CaO・ 2Al2O3,CaO・6Al2O3の 化 合 物 の 生 成 が 見 られ た と指 摘 して い る。 ま た,Sandhageら5)∼7)は,回 転 円 板 試 料 を 用 い て CaO -MgO-Al 2O3-SiO2系 ス ラグ 中 へ の 多 結 晶 サ フ ァ イ ア の 溶 解 速 度 を 測 定 し,反 応 生 成 物 の ス ピ ネ ル が サ フ ァ イ ア 表 面 で 連 続 層 を 形 成 す る こ と に よ り ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 が 減 少 す る こ とを 報 告 して い る が,MgO濃 度 とCaO/SiO2を 同 時 に 変 化 さ せ た ス ラ グ を 用 い て お り,個 々 の 因 子 の 影 響 が 明 瞭 で な い。 著 者 ら8)は先 に,CaO-SiO2-Al2O33成 分 系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 を 測 定 し,高CaO/SiO2の ス ラ グ の 場 合, ア ル ミナ ー ス ラ グ 界 面 で 生 成 し た 化 合 物 が 剥 離 す る 現 象 が 生 じ る た め 溶 解 速 度 が 急 激 に 増 加 す る こ と を 報 告 し た 。 本 研 究 で は,前 述 の ス ラ グ に 鉄 鋼 ス ラ グ の 基 本 成 分 の1つ で あ るMgOを 添 加 し たCaO-SiO2-Al2O3-MgO4成 分 系 ス ラ グ を 用 い,多 成 分 系 に 拡 張 した ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 を 測 定 し,前 報 の 結 果8)と 比 較 し,そ の 溶 解 機 構 に つ い て 考 察 を 行 っ た。2 . 実験 方法
2・ 1 ア ル ミ ナ 試 料 純 度99.8%,平 均 粒 径0.40μmの ア ル ミ ナ 粉 末(住 友 化 学 製,ALS-11)に,成 形 助 剤 と して2mass%の 有 機 バ イ ン ダ ー を 加 え,ア セ トン を 溶 媒 と し た ナ イ ロ ン 製 ボ ー ル ミル に よ り4時 間 湿 式 混 合 した 後,噴 霧 乾 燥 し造 粒 粉 末 を 得 た9)。 得 ら れ た 粉 末 は,前 報8)と 同 様 の 方 法 で 焼 結 し, φ17 mm × 32mmの 試 料 を 得 た 。試 料 の か さ 密 度 は3.879/cm3,気 孔 率平 成6年6月21日 受 付 平 成6年10月14日 受 理(Received on June 21,1994; Accepted on Oct . 14, 1994 )
* 九 州 大 学 大 学 院 生(Graduate Student,Kyushu University,6-10-1 Hakozaki Higashi-ku Fukuoka 812 )
CaO-SiO2- A1203- MgO 系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 17
は3%以 下 で あ っ た。 2・ 2 ス ラ グ
本 研 究 で 使 用 した ス ラグ 組 成 をTable1に 示 す 。実 験 に は, A1203を9mass%,MgOを 10mass %と 一 定 と し, CaO / SiO2
を0.64か ら1.25ま で 変 化 さ せ た4種 類 の ス ラ グ を 用 い た。 ス ラ グ は,前 報8)と 同 様 の 方 法 で 溶 製 した もの を 粉 砕 した 後, 実 験 に供 した 。 2・ 3 実 験 操 作
実験 装 置 の 詳細 は,前 報8)と同様 で あ るの で 省 略 す る。予
備 溶 製 した ス ラグ約350gを 黒 鉛 るつ ぼ(内 径50mm,高
さ130
mm)に
入 れ,タ ンマ ン炉 中で,所 定 の 温 度 まで 加 熱 溶 解し
た 。 その後,回 転 軸 に接 続 した試 料 を ス ラグ 直 上 の位 置 ま
で 下 げ,約5分
間 予 熱 した後,所
定 の 回 転 数 を与 えて ス ラ
グ 中 に浸 漬 した 。 所 定 時 間 浸 漬 した 試 料 は,ス
ラグ 直上 ま
で 回転 を続 けた ま ま引 き上 げ,大 部 分 の ス ラグ を落 と した
後,炉 外 に引 き上 げ 空 冷 した。
試料 に付着 した ス ラグ は温 塩 酸 中 で 溶 解 除 去 した後, マ
イ ク ロメ ー タ ー を用 い て試 料 の 直径 を測 定 し,浸 漬 直 後 の
試料 直径 の差 か ら半 径 減 少 量 を算 出 した。
また,一 部 につ い て は ス ラグ を付 着 させ た ま まの 試 料 を
作 製 し,EPMA観
察 お よびX線 回折 を行 う こ とに よ り, ス
ラグ の浸 透状 況 の観 察 と化 合 物 の 生 成 の 有 無 を調 査 した。
なお,EPMA観
察 に は,九 州 大 学 工 学 部 材 料 工 学科IMA 室
の 日立 製 作所 製X-650型
を用 いた。
3 . 実験結果お よび考察
実験 で は,ア ル ミナの 溶 解 速 度 に及 ぼ す 回 転 数,温 度,
CaO/SiO2の
影 響 につ い て調 べ た 。いず れ の場 合 にお い ても,
試 料 の 半径 減 少 量 と浸 漬 時 間 との 間 に良 好 な 直線 関 係 が 得
られた の で,直 線 の 傾 きを最 小 二 乗法 を用 い て求 め, ( 1 )
式 に示 す よ うに溶 解 速 度V(cm/s)を
試 料 の半 径 減 少 速 度
として定 義 した 。
(1 )
(1)式 に よ り得 られ た 溶 解 速 度Vの 測 定 誤 差 は,全 て の 測 定 に お い て,±0.80×10-6(cm/s)程 度 で あ っ た 。な お,以 後 の 本 文 中 に お い て は, CaO-SiO,- A12O3- MgO 系 はCSAM系,CaO-SiO2-A12O3系 はCSA系 と省 略 して 表 記 す る。
3・ 1 溶 解 速 度 に及 ぼ す回 転 数 の影 響
温 度 を1823Kと 一 定 に し,試 料 の 回 転 数 を 100, 200, 400rpmと 変 化 さ せ,CaO/SiO2=1.00の
ス ラグC中 へ の ア ルミ
ナ の 溶 解 速 度 を測 定 した とこ ろ,回 転 数 の 増 加 に伴 い溶 解
速 度 が 増 加 す る傾 向 を示 して い た。 この こ とか ら
, CSAM
系 ス ラグ 中へ の ア ル ミナ の溶 解 は液 相 側 境 界 層 内 の溶 質 の
拡 散 過程 が 律 速 段 階 で あ る と推 定 さ れ る。 一 般 に,溶 質 の
拡 散 過 程 が 律 速 段 階 で あ る場 合 に は,(2)式
が 成 立 す る こ
とが 知 られ て お り,指 数Sの 値 と して は0,5∼1.0が 報 告 さ れ
て い る10)。
(2 )
こ こ で,σ(=πdn/60,た だ し4:試 料 の 平 均 直 径 (cm), n : 回 転 数(rpm))は 相 対 速 度(cm/s),Aは 定 数 で あ る.そ こ でCaO/SiO2=1.00の ス ラ グC中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 に 及 ぼ す 回 転 数 の 影 響 に つ い て 測 定 し た 結 果 を,溶 解 速 度 V と相 対 速 度 σ の 関 係 で 両 対 数 プ ロ ッ ト した もの が,Fig.1 で あ る 。図 中 に は,比 較 の た め に, CaO/SiO2=1.00の CSA 系 ス ラ グ の 場 合 の 結 果8)に つ い て もプ ロ ッ ト し た 。図 よ り, 両 者 の 間 に 直 線 関 係 が 成 立 す る と仮 定 し て 直 線 の 傾 き を 求 め, 指 数8の 値 を 計 算 し た と こ ろS=0.78が 得 られ た 。こ の 値 は, CSA系 ス ラ グ の 場 合 の 指 数S;0.81∼0.828)と ほ ぼ 一 致 し て お り,し か も前 述 の 報 告 値 の 範 囲 内 に 入 っ て い る こ と か ら, 溶 質 の 拡 散 過 程 が 律 速 段 階 で あ る と した 本 研 究 で の 仮 定 を 支 持 し て い る もの と考 え ら れ る。3・ 2 溶 解 速 度 に 及 ぼ す温 度 の 影 響
上 記 の 回 転 数 の 影 響 か ら,CSAM系
ス ラグ 中へ の ア ノ
レミ
ナ の 溶 解 速 度 は溶 質 の拡 散 過程 が 律 速 段 階 で あ る と推 定 さ
れ た の で,本 研 究 に お い て は 物 質 移 動 の観 点 か ら溶 解 速 度
の解 析 を行 っ た 。境 膜 説 に基 づ き,単 位 時 間 ・単 位 面 積 あ
た りの 溶 質 の移 動 量J(g/cm2・s)は(3)式
で 表 さ れ る。
(3 )
こ こ で,Dは 溶 質 の 拡 散 係 数(cm2/s),δ は 境 界 層 の 厚 さ (cm),nsは 飽 和 濃 度(g/cm3),nbは 液 相 濃 度 (g/ cm3 )Table
1. Chemical
composition
of slags(mass%).
Fig. 1. Relationship
between
periphery
velocity
and
dissolution
rate of alumina
into CSAM
and
CSA slags.
18 鉄 と 鋼Vol.81 (1995 )No .1
で あ る。
一 方
,溶 質 の 移 動 量 と半 径 減 少 速 度 との 問 に は(4)式
が
成 立 す る。
(4 )
こ こ で,ρ は 固 体 試 料 の 密 度(g/cm3),Aは 界 面 積 で あ る。 界 面 とバ ル ク で の ス ラ グ の 密 度 が 等 し い と仮 定 す る と, (3),(4)式 よ り溶 解 速 度 γ は,近 似 的 に(5)式 の よ う に 表 す こ とが で き る。(5 )
こ こ で,ん(=D/δ)は 物 質 移 動 係 数(αn/s),ρ δは 液 相 の 密 度(g/cm3)で あ る。(5)式 を も と に 物 質 移 動 係 数 んを 計 算 す る 際 に,必 要 なρ に つ い て は 実 測 値 を 用 い,ρ6に つ い て は 文 献 値5)11)を用 い た 。 ま た,⊿(%A12O3)に つ い て は, 5 %∼35%の 範 囲 でA12O3濃 度 を 一 定 と したOsbornら13)に よ る CaO-SiO2-A12O3-MgO系 状 態 図 よ りCaO,SiO2,MgOの 各 成 分 比 を 一 定 と し た 条 件 下 で の ス ラ グ の 融 点 を 読 み 取 り, そ れ を も と にA12O3の 飽 和 濃 度 を 外 挿 し,バ ル ク ス ラグ との Al2O3の 濃 度 差 の 値 を 求 め て 使 用 し た 。Table2に は,外 挿 に よ り求 め たA12O3の 飽 和 濃 度 の 値 を 示 した。 試 料 の 回 転 数 を200rpmと 一 定 に し,温 度 を 1773K∼ 1823 Kと 変 化 さ せ,CaO/SiO2=1.00の ス ラ グC中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 を 測 定 した と こ ろ,温 度 の 上 昇 に 伴 い 溶 解 速 度 が 増 加 す る 傾 向 を 示 し た 。 そ こ で,こ の 結 果 を も と に, (5 ) 式 を 用 い て 計 算 した 物 質 移 動 係 数 々の 対 数 を 絶 対 温 度 の 逆 数 に対 し て プ ロ ッ ト した もの をFig.2に 示 す 。図 中 に は 比 較 の た め に,CaO/SiO2=1.00のCSA系 ス ラ グ の 場 合 の んの 値8)に つ い て も プ ロ ッ ト した。 一 般 に,物 質 移 動 係 数 々に は(6)式 に 示 す よ うな Arrhenius 型 の 温 度 依 存 性 が あ る こ とが 知 ら れ て い る。(6 )
こ こで,環
は 見 掛 け の活 性 化 エ ネ ル ギ ー(J/mol),Aは
定
数 で あ る。
Fig.2よ
り,両 者 の 間 に良 好 な直 線 関係 が成 立 して い る こ
とか ら,直 線 の 傾 きか ら見 掛 けの 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を計 算
した とこ ろ,440kJ/molの
値 が 得 られ た 。 こ の値 は, CSA
系 ス ラグ の場 合 と比 較 す る と約1.3倍 程 大 き い値 で ある。
ところ で,本 研 究 の よ う な強 制 対 流 条 件 下 で の 固体 と液
体 間 の 物 質 移 動 に 関 して は,物 質 移 動 の 活性 化 エ ネ ル ギ ー
と粘 性 お よ び拡 散 の 活性 化 エ ネ ル ギ ー の 間 に は,近 似 的 に
(7)式 に示 す よ うな 関係 が 成 立 す る。
(7 )
Table3にCSAお よ びCSAM系 のEη,EDの 値 を示 した が, Eη の 値 は 両 者 の 間 に 差 は 見 ら れ な い。一 方,CSAM系 の ED の 値 は 報 告 さ れ て い な い た め,明 確 な こ と は 分 か ら な い が, 両 者 の 問 に差 は な い もの と推 測 さ れ る。こ の こ とか ら, CSAM 系 に お け る物 質 移 動 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー がCSA系 よ り も大 き い 値 を 示 した 原 因 と し て,後 に 述 べ る よ う に 溶 解 機 構 に 差 が 生 じ て い る た め で あ る と推 測 さ れ る。 3・ 3 溶 解 速 度 に 及 ぼ すCaO/SiO2 の 影 響 Fig.3に,溶 解 速 度VとCaO/SiO2の 関 係 を示 す 。図 中 に は,比 較 の た め に,前 報 のCSA系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度8)に つ い て も示 した 。図 よ り,CSAM系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 は,0,64<CaO/SiO2<0.80で 一 度 急 激 に減 少 し,そ の 後0.80<CaO/SiO2<1.00で 急 激 に 増 加 す る傾 向 を 示 し て い る こ とが 分 か る。 前 述 した 溶 解 速 度 の 測 定 誤 差 と比 較 す る と,こ の 変 化 は 非 常 に大 き く,CaO / SiO2 = 0.80の ス ラ グ 組 成 で ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 が 急 激 に減 少 し て い る こ とが 分 か る 。 ま た,CSA系 と比 較 す る と,ア ル ミナ の 溶 解 速 度 はCaO/SiO2=0.64で は大 きな 値 を示 して い るが, そ の 他 のCaO/SiO2で は ほ ぼ 一 致 し て い る こ とが 分 か る。 Kg.4に,CSAM系 ス ラグ の 場 合 の 物 質 移 動 係 数kの 対 数
Table
2. Estimated
values of saturation
contents
of
Al2O3 in CSAM
slags.
Fig. 2. Arrhenius
plots of the mass transfer
coeffi-cient for CSAM
and CSA slags.
Table 3. Activation energies Eā, ED for CSAM and
CaO-SiO2-Al203-MgO系 ス ラグ 中 へ の アル ミナの 溶 解 速 度 19 ス ラ グ 粘 度 η13)14),⊿(%AI2O3)をCaO/SiO2に 対 し て プ ロ ッ ト し た もの を 示 す 。 図 中 に は,比 較 の た め にCSA系 ス ラ グ の 場 合 のkの 値8)に つ い て も プ ロ ッ ト し た 。 図 よ り,ほ ぼ 全CaO/SiO2域 に お い て,CSAM系 ス ラ グ の 場 合 のkの 値 は, CSA系 ス ラ グ の 場 合 の んの 値 と比 較 して 大 きい 値 を 示 して い る。CSAM系 ス ラ グ の 粘 度 は,CSA系 ス ラ グ の 粘 度 の 約 1/2 程 度 で あ る 玉3)∼15)こと を 考 慮 す る と,CSAM系 の んがCSA 系 よ り も大 き い 値 を 示 した の は,粘 度 の 低 下 に起 因 す る もの と推 定 さ れ る。ま た,CSAM系 ス ラグ の 場 合 の んの 値 は 0.64 < CaO/SiO2<0.80で 一 度 急 激 に 減 少 し,そ の 後0.80 < CaO / siO2く1.00で 急 激 に増 加 して お り,Fig.3に 示 した 溶 解 速 度 yと 同 様 の 傾 向 を 示 し て い る。 ス ラ グ 粘 度 お よ び 」(% Al2 O3)は,CaO/SiO2の 増 加 と と も に な だ ら か に減 少 す る傾 向 を示 して お り,急 激 な 変 化 は 見 ら れ な い 。 こ の こ と か ら, CSAM系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 がCaO/SiO,に よ り急 激 な 変 化 を示 した 原 因 と し て,ス ラ グ の 物 性 値 の 変 化 に 加 え,溶 解 機 構 に 変 化 が 生 じ て い る こ とが 考 え ら れ る。 3・ 4 CaO-SiO2-Al203-MgO 系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 機 構 CSAM系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 機 構 のCaO/SiO2 に よ る変 化 を 検 討 す る た め に, CaO/SiO2=0.64, 0.80, 1.25 の ス ラ グA,B,Cに 1823K, 200rpm で 60min 浸 漬 し た 試 料 に つ い て 試 料 一 ス ラ グ 界 面 のEPMA観 察 を 行 っ た 。Fig. 5 に 試 料 一 ス ラグ 界 面 の 吸 収 電 子 像 お よ び 各 元 素 のX線 像 を 示 す 。 図 よ り,い ず れ の ス ラ グ に浸 漬 し た 場 合 に お い て も, 界 面 付 近 の ス ラ グ 中 に はMgOとA12O3の 化 合 物 が 確 認 さ れ た 。こ の 化 合 物 は,ス ラ グAの 場 合 に は か な り粗 な 分 布 を し て い る の に 対 し て,ス ラグBの 場 合 に は 密 な 集 合 体 を形 成 し て い る こ とが 分 か る 。一 方,ス ラ グCの 場 合 に は 他 の ス ラ グ の 場 合 と比 較 し て,こ の 化 合 物 は,非 常 に 小 さ く な っ て い る。 ま た,ス ラ グB,Cの 場 合 に は,ア ル ミ ナ 試 料 側 界 面 に CaO とAl2O3の 針 状 の 化 合 物 が 生 成 し て い る こ とが 分 か る。こ の 化 合 物 は,ス ラ グBの 場 合 に は ア ル ミナ 試 料 を 保 護 す る よ う に 生 成 し て い る の に 対 し て,ス ラ グCの 場 合 に は ス ラ グB の 場 合 ほ ど 形 が 明 瞭 で は な く,ま た 界 面 で ス ラ グ 部 分 で あ る Caの 分 布 が 多 く見 ら れ る こ とか ら,ス ラ グ と反 応 し て い る も の と推 定 さ れ る。 そ こ で,EPMA観 察 を 行 っ た3種 類 の ス ラ グ に 浸 漬 した 試 料 に つ い て 試 料 表 面 のX線 回 折 を 行 っ た と こ ろ,い ず れ の 試 料 に お い て もα-A1203の ピ ー ク の 他 にMgO・Al2O3ス ピ ネ ル の ピ ー ク が 確 認 さ れ た 。こ の こ とか ら,全 て の 試 料 で EPMA 観 察 に よ り確 認 さ れ たMgOとA1203の 化 合 物 は MgO ・ A12O3
ス ピ ネ ル で あ る と推 定 さ れ る。 ま た,X線 回 折 の 結 果 よ り, ス ラ グBに 浸 漬 し た 試 料 表 面 に 生 成 し て い たCaOと Al2O3 の 化 合 物 はCaO・6Al203で あ る と推 定 さ れ た が,ス ラ グCに 浸 漬 した 試 料 表 面 に生 成 して い たCaOとAl203の 化 合 物 は 同 定 す る こ と は で き な か っ た。 一 方,CaO-SiO2-A1203-MgO4元 系 状 態 図12)に よ る と, 本 研 究 で 用 い た い ず れ の ス ラ グ 組 成 の 場 合 に お い て も, 1823 Kで のAl203飽 和 液 相 と平 衡 す る 固 相 はMgO・Al2O3ス ピ ネ ル で あ る と推 定 さ れ,EPMA観 察 に よ りア ル ミナ ー ス ラ グ 界 面 でMgO・Al2O3ス ピネ ル の 生 成 が 確 認 さ れ た こ と と一 致 す る。 しか し, CaO/SiO2=0.80, 1.00 の ス ラ グB,Cに 浸 漬 し た 試 料 表 面 に 観 察 さ れ たCaOとA12O3の 化 合 物 は,状 態 図 上 に は 認 め ら れ ず,X線 回 折 に よ り同 定 で き な か っ た ス ラ グCに 浸 漬 した 場 合 の 化 合 物 に つ い て は 推 定 す る こ とが で き な か っ た 。 以 上 の こ と か ら,ス ラ グBに 浸 漬 し た 場 合,界 面 で 生 成 し たMgO・A12O3ス ピ ネ ル とCaO・6Al2O3の 化 合 物 が 密 な 集 合 体 を 形 成 し,ア ル ミナ 表 面 近 傍 で 拡 散 通 路 と して の ス ラ グ 層 の 面 積 が 減 少 し,ア ル ミナ の 拡 散 が 抑 制 さ れ た 結 果, 0.64 < CaO/Sio2<0.80で 々が 急 激 に 減 少 した もの と推 定 さ れ る。 一 方,ス ラ グCに 浸 漬 した 場 合 に は,界 面 で 生 成 し た MgO ・ Al2O3ス ピ ネ ル が 他 の ス ラ グ に浸 漬 した 試 料 と比 較 す る と非
Fig. 3. Effect of CaO/SiO2 on the dissolution rate of
alumina into CSAM and CSA slags.
Fig . 4 . Variation of slag viscosity (ƒÅ), ‡™ (%Al203 ) and mass transfer coefficient (k) with Ca0 / Si02 for CSAM slags.
20 鉄 と 鋼Vol.81 (1995) No. 1
(A)
(B)
(C)
常 に 小 さ い た め,ア ル ミ ナ の 拡 散 が 抑 制 さ れ ず,こ の 結 果, 0.80<CaO/SiO2<1.00でkが 急 激 に 増 加 し た もの と推 定 さ れ る。 ま た,特 に 界 面 で 生 成 し て い た 化 合 物 が 密 な ス ラ グBの 場 合 に つ い て,温 度1823Kで,試 料 回 転 数 を400rpmと 増 加 さ せ た 場 合 に つ い て 同 様 にEPMA観 察 を 行 っ た と こ ろ,界 面 に はMgO・Al2O3ス ピ ネ ル の 分 布 が 観 察 さ れ,一 部 の 界 面 で は200rpmの 場 合 と同 様 にCaO・6Al2O3の 針 状 組 織 が 確 認 さ れ た 。 し か し,MgO・Al2O3ス ピ ネ ル は,200rpmの 場 合 の Fig.5(B)に 示 し た よ う な 密 な 集 合 体 は 形 成 し て お ら ず,む し ろFig.5(A)に 示 した ス ラ グAの 場 合 の よ うな 粗 な 分 布 形 態 が 観 察 さ れ た 。 ま た,CaO・6Al2O3は,非 常 に 小 さ く しか も部 分 的 に しか 認 め ら れ ず,Fig.5(B)の よ う に 試 料 を 保 護 す る よ う な 生 成 形 態 は 観 察 さ れ な か っ た 。 こ の よ う に, 回 転 数 の 増 加 に よ り界 面 で 生 成 し たMgO・Al203ス ピ ネ ル や CaO・6Al,03が 減 少 す る傾 向 を示 し た こ とか ら,こ れ らの 化 合 物 は 試 料 の 回 転 数 の 増 加 に よ り表 面 か らバ ル ク ス ラ グ 中 へ 分 離 して い く もの と推 定 さ れ る 。 しか し,回 転 数 の増 加 に よ る ス ラグB中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 の 変 化 に つ い て は, 測 定 し て お ら ず 不 明 で あ る た め,今 後 検 討 す る 必 要 が あ る もの と考 え ら れ る。 同 様 の ス ラ グ 系 へ の 多 結 晶 サ フ ァ イ ア の 溶 解 現 象 を 考 察 して い るSandhageら5)∼7)は,本 研 究 と同 じMgO;10 mass % の ス ラ グ の 場 合,1723Kに お い て 回 転 数 の 増 加 に 伴 い MgO・ Al203ス ピ ネ ル の 緻 密 な連 続 層 が 確 認 さ れ た と報 告 して い る。 一 方,1823Kに お い て は ア ル ミナ が 侵 食 さ れ や す い た め に, MgO・Al203ス ピ ネ ル の 連 続 層 が 形 成 さ れ に く くな る と も報 告 し て い る。回 転 数 の 増 加 に よ りMgO・Al2O3ス ピ ネ ル の 連 続 層 が 形 成 さ れ る 現 象 は 本 研 究 結 ・果と異 な る が,彼 らの 用 いた ス ラグ はAl203=20mass%と 比 較 的 高AI203濃 度 で あ り, 前 述 し た よ う に 温 度 も1723Kと 低 い こ とか ら,こ の 差 は主 に 実 験 条 件 の 差 に よ る も の で あ る と考 え られ る 。 ま た,本 系 Fig . 5 . EPMA analysis of the specimen after immersion into slags at 1823K and 200rpm, for 60min.CaO-SiO2- Al2O3- MgO 系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 速 度 21
ス ラグ の場 合 の 物 質 移 動 の活 性 化 エ ネ ル ギ ー が 大 きい値 を
示 した の は,彼 ら も指 摘 して い る よ う に,温 度 に よ り
MgO ・
Al2O3ス ピネ ル の 形 成 形 態 が 異 な り,溶 解機 構 に差 が 生 じた
ためで あ る と考 え られ る。
本研 究で 得 られ た 界 面 で の 反 応 生 成 物 の 分 離 現 象 は, 先
に行 ったCSA系
にお い て も観 察 され て い る8)。いず れ の ス ラ
グ系の 場 合 も,ア ル ミナ の 溶 解 現 象 を系 統 的 に評 価 す る た
めに境 膜 説 に よ る速 度 解 析 を行 っ た 。 しか し厳 密 に は, 化
合物 の分 離 の 影 響 を も考 慮 した解 析 を行 う必 要 が あ る と考
え られ る。
5 . 結 言
CaO-SiO2-Al2O3-MgO系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 を 測 定 し,そ の 溶 解 機 構 に つ い て 考 察 した。 CaO- SiO2-A12O3-MgO系 ス ラ グ 中 へ の ア ル ミ ナ の 溶 解 は,液 相 側 境 界 層 内 に お け る 溶 質 の 拡 散 過 程 が 律 速 段 階 で あ る と推 定 さ れ た が,そ の 溶 解 機 構 はCaO/SiO2に よ り変 化 す る こ とが 分 か っ た。本 系 ス ラグ 中 へ の ア ル ミナ の 溶 解 速 度 は, 0.64<CaO / SiO2<0.80で 急 激 に減 少 し,そ の 後0.80<CaO / SiO2< 1.00で 急 激 に 増 加 す る傾 向 を 示 した。CaO/SiO2=0.80の ス ラ グ に浸 漬 した 場 合 に は,ア ル ミナ ー ス ラグ 界 面 に生 成 した MgO ・ Al2O3ス ピ ネ ル とCaO・6Al2O3が 密 な 集 合 体 を 形 成 し,界 面 近 傍 の ス ラ グ 層 の 面 積 が 減 少 し,ア ル ミナ の 拡 散 が 抑 制 さ れ た た め,溶 解 速 度 が 急 激 に 減 少 す る もの と推 定 さ れ た 。 一 方 ,CaO/SiO2=1.00の ス ラ グ に 浸 漬 した 場 合 に は,ア ル ミナ ー ス ラ グ 界 面 で 生 成 したMgO・Al2O3ス ピ ネ ル が 非 常 に
小 さ く,ア ル ミナ の拡 散 が 抑 制 さ れ な い た め,溶 解 速 度 が
急激 に増 加 す る もの と推 定 さ れ た。
文
献
1)斎 藤 安 俊,守 吉 佑 介:工 業 材 料,38(1990),14, p. 462 ) A.R.Cooper,
JR. and W.D.Kingery : J.Am.Ceram.Soc.,
47
(1964), p.37
3 ) B.N.Samaddar,
W.D.Kingery
and A.R.Cooper, JR. : J.Am.
Ceram.Soc., 47 (1964), p.249
4 ) Y.Oishi, A.R.Cooper,
JR. and W.D.Kingery : J.Am.Ceram.
Soc., 48 (1965), p.88
5 ) K.H.Sandhage
and G.J.Yurek : J.Am.Ceram.Soc.,
71 (1988),
p.478
6 ) K.H.Sandhage
and G.J.Yurek : J.Am.Ceram.Soc.,
73 (1990),
p.3633
7 ) K.H.Sandhage
and G.J.Yurek : J.Am.Ceram.Soc.,
73 (1990),
p.3643
8 ) S.Taira, K.Nakashima
and K.Mori : ISIJ International,
33
(1993), p.116
9)林 浩 一:九 州 大 学 博 士 論 文,(1991), p. 69
10)例 え ば,小 林 弘 旺,尾 山 竹 滋:窯 業 協 会 誌,82(1974), p. 546