九州大学健康科学センター

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

カンレイカンキョウカニオケルタイオンチョウセツ ハンノウノセイサ

藤島, 和孝

九州大学健康科学センター

矢永, 尚士

九州大学温泉治療学研究所温泉地生気候学部門

小坂, 光男

長崎大学熱帯医学研究所

加地, 正郎

久留米大学医学部第一内科

https://doi.org/10.15017/387

出版情報:健康科学. 4, pp.153-157, 1982-03-30. Institute of Health Science,Kyushu University バージョン:

権利関係:

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寒冷環境下における体温調節反応の性差

藤 島 和 孝* 矢 永 尚 小 坂 光 男***加 地 正

士**

郎****

Thermoregulatory Responses of Resting Men and Women in Cold Environment

Kazutaka FUJISHIMA*

Mitsuo KOSAKA***

Takashi YANAGA**

Masaro KAJI****

   Thermoregulatory responses to cold exposure at 8℃for 40 min were stlldied on male

(n=6)and female (n=10) subjects. Oral and axiUary temperatures, skin temperature,

oxygen consumption, respiratory rate, and blood pressure were observed before and during cold exposure.

   The results were summariled as follows:

1・Oral and ax田ary temperatures during cold expos ure decreased by 1.7℃and 1.2℃in male  subjects, and by 1.4℃and O.6℃in female sub jects.f or 40 min, respectively.

2・All temperatures measured on various parts of the skin fell signifiCantly, but no  significant difference was ob served ill mean skin temperature b etween male and f emale  groups・

3. Oxygen consumption increased significantly during cold exposure,88%in male and 48%

 in female groups, and the increases in men compared with women were statistically significant.

4.Aslight decrease in respiratory frequency during cold exposure was observed in men  and women, but no significant difference between male and female groups.

5. Systolic and diastolic blood pressure during cold exposure increased in both groups, and  diastolic blood pressure increased more in male subjects than in female ones.

   These results suggest that thermoregulatory responses to cold exposure were different  l)etween men and women.

  (Journal of且ealth Science, Kyushu University,4:153〜157,1982)

      緒   言

 寒冷環境下での体温調節反応ならびに代謝応答に関 する研究は多く,寒冷曝露によって,体温の下降,酸

素消費量の増加および呼吸数の減少が報告されてい る1)2)9)to)。また,女性は男性に比べて,耐寒能力 がより強い4)11)。しかし,ヒトを対象とした寒冷曝 露による体温調節反応の性差に関する研究は,極めて

  *Institute of且ealth Science, Kyushu University, Hakozaki, Fuku oka 812, Japan.

 **Department of Bioclimatology and Medicine, Institute of Balneotherapeutics,

    University, Beppu 874, Japan.

***Institute f or Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki 852, Japan.

****First Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, Kurume University,

    830, Japan.

Kyushu

Kurume

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健康科学 第4巻

少ない。本研究の目的は,寒冷環境下における体温調 節反応の性差について比較検討することである。

方 法

 1.対象

 対象は,健康男子6名および同女子10名とした。被 験者の身体的特徴は表1に示した。

Table 1.Physical characteristics of subjects

Sul)ject N  Age  Ht        year  cm

Wt   SA kg   m2

Men

6

Women 10

20.0  167.4   59.0   1.62

(0.8)   (3.7)   (6.0)  (0.09)

20.0  153.9   51.2   1.44

(0.8)   (2.8)   (5.7)  (0.08)

Values are means(土SD). SA is calculated from the formula;SA= Wt 0°444×Hto 663

×88.83×10−4.

 2. 実験方法

 被験者は,男女とも水着の上に白衣1枚を着用し,

環境温(平均±標準偏差)23±0.5℃,湿度68±2%

に仰臥位で40−60分間の安静後,環境温8℃の低温室 に(仰臥位で)40分間曝露した。曝露終了後,寒冷曝 露前の環境下で40分間,仰臥位の安静状態を保持し

た。

 測定項目は,口腔温,腋窩温,各部位皮膚温(胸,

上腕,大腿および大腿),酸素消費量,呼吸数および 血圧とした。

 口腔温,腋窩温および皮膚温は,熱電対温度計(日 本光電製)を用いて,5分ごとに測定した。皮膚温測 定部位は,室温に直接曝露するように留意した。平均 皮膚温は,4点法5)から算出した。酸素消費量および 呼吸数は,無水式肺機能能測定兼基礎代謝計(フクダ 式)を使用し,血圧は通常のマンセットを用いて,そ れぞれ曝露開始20分後に測定した。

 なお,実験は,すべて夏期(7月から8月)に実施

した。

結 果

 寒冷曝露による結果を図1および図2に示す。

 1.体温および皮膚温

 ロ腔温(平均±標準偏差)は,寒曝露開始5分後に 男子36.3±0.21℃,女子36.1±0.48℃であり,曝露前

37 36 35

 34

a:

巴32  30 28 26 24 22 20

m m

m

sk

L! :ses ± :wr =±

        0 5 10152025303540 5 10152025303540

       mln

Fig・1・Changes in 1)ody and skin temperatures during cold exposure in male and     female subjects. Tor, oral temperature;Tax, axillary temperature;Tsk,

    mean skin temperature;m, male;f, female.

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藤島ほか:寒冷環境下における体温調節反応の性差 155 値(男子36.6士0.12℃,女子36.5±0.16℃)に比しそ

れぞれ有意に下降した。その後,男女とも経時的に下 降し,曝露終了時(曝露開始40分後)に男子34.9±

0.41℃,女子35.1±0.91℃であり,曝露前値に比しそ れぞれ有意に下降した。曝露終了後では,男子は5分 後から回復し,女子は終了直後に下降傾向を示し,そ の後,経時的に回復した。曝露終了40分後に男子36.2

±0.22℃,女子35.9±0.52℃まで回復したが,曝露前 値に比しそれぞれ有意に低かった(図1)。

 腋窩温は,寒冷曝露開始5分後に男子35.8±0.34℃,

女子35.4±0.72℃であり,曝露前値(男子36.2±

0.20℃,女子36.0±0.32℃)に比しそれぞれ有意に下 降した。その後,男子は経時的に下降し,女子は定常 状態を維持したあと,一時的に上昇し,再び下降し た。曝露終了時(曝露開始40分後)に男子35.0±

0.51℃,女子35.4±0.72℃であり,曝露前値に比しそ れぞれ有意に下降した。曝露終了後では,男子は5分 後から徐々に回復し,女子は終了直後に下降傾向を示 し,その後,経時的にわずかに回復した。しかし,男 女とも回復が遅延し,曝露終了40分後に男子35.6±

0.27℃,女子35.2±0.53℃であり,曝露前値に比しそ れぞれ有意に低かった(図1)。

 各部位皮膚温は,男女とも寒冷曝露開始5分後に一 過性の下降を示し,平均皮膚温で男子6.3±0.73℃,

女子4.8±0.62℃,曝露前値(男子31.2±0.99℃,女 子30.7±0.51℃)に比しそれぞれ有意に低下した。そ の後,平均皮膚温は男女とも経時的に下降し,曝露終 了時(曝露開始40分後)に男子20.7±1.35℃,女子 21.2±1.09℃まで下降した。曝露終了後では,男女と も終了直後に一過性の上昇を示し,その後,経時的に

260

  240

.⊆

窄200 ∈220 三18。

鳩 160 0 140

120

P

f

m

fmf

三引≧輌81お♂

8  7  6

P

トC。ld

0

Tal8℃一叫

130

120

110

100   0r   =

   ∈

90∈

80口 70 60

20   min

Fig・2.Changes in oxygen consumption, respiratory rate and blood pressure du血g     cold exposure in male and female subjects. 02C, oxygen consumption;

    RR, respiratory rate;SBP, systolic blood pressure;DBP, dねstolic 1)lood     pressure;m, male;f, female.

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健康科学 第4巻

回復した。しかし,曝露終了40分後の平均皮膚温は,

男子29.7±0.59℃,女子28.7±0.87℃であり,曝露前 値に比しそれぞれ有意に低かった(図1)。

 2.酸素消費量および呼吸数

 酸素消費量は,寒冷曝露中(曝露開始20分後)に男 子260±60.3me/㎡/min,女子 186±10.3me/㎡/minで あり,曝露前値(男子138±25.9me/㎡/min,女子126 nf/㎡/min)に比し,男女とも有意に増加した。男子 が女子より増加率が有意に高かった(図2)。

 呼吸数は,寒冷曝露中(曝露開始20分後)に男子 16.4±4.5回/分,女子16.1±0.7回/分であり,曝露前 値(男子17.8±4.0回/分,女子17.5±1.4回/分)に比 し,いずれも減少傾向を示し,特に女子で有意差があ った(図2)。

 収縮期血圧は,寒冷曝露中(曝露開始20分後)に男 子125±14.2mmHg,女子129±9.5mmHgであり,

曝露前値(男子109±6.4mmHg,女子112±7.4mm Hg、に比しそれぞれ有意に上昇した。拡張期血圧は,

寒冷曝露中に男子91±8.1mmHg,女子79±7.3mm Hgであり,曝露前値(男子81±9.8mm Hg,女子 71±8.1mmHg)に比しそれぞれ有意に上昇した。特 に拡張期血圧は女子より男子で有意に高かった(図

2)。

 寒冷曝露による体温下降を防ぐために,産熱増加 と放熱防御反応が循環系および呼吸系にみられる。

AstrandとRodahl i)によれば,ヒトの寒冷下での 体温下降に対する防御機構には2種ある。すなわち,

皮膚温の2次的低下による末梢血流減少に伴う熱保存 反応(輻射と対流による熱損失の減少)ならびに骨格 筋の収縮に伴う寒冷ふるえによる化学的な代謝性産熱 の増大である。

 寒冷環境下での直腸温は最初やや下降その後,やや 上昇傾向を示し,再び下降すると報告されている1°)。

本実験では,口腔温は男女とも寒冷曝露開始直後から 経時的に下降傾向を示した。また腋窩温は,男子では 曝露開始に伴い経時的に下降し,女子では一時的に上 昇傾向をみた。しかし,寒冷曝露終了時での口腔温お よび腋窩温は,男女間にいずれも有意差がなかった。

 一般に,常温下での口腔温は腋窩温よりやや高い。

しかし,寒冷環境下では,鼻呼吸によって鼻腔内への 冷気の流入や伝導が原因となり,口腔温の下降をまぬ がれない。本実験では,男女とも寒冷曝露終了時の口 腔温が腋窩温より低く,口腔内への冷気流入を示唆し

た。

 各部位皮膚温は,男女とも寒冷曝露直後から急下降 し,躯幹部位では四肢に比べて高く,その変動幅が小 さかった。曝露中での平均皮膚温は,男子が女子より 下降傾向を示し,特に曝露終了時での胸部温の下降が 女子(7.3±1.66℃)より男子(10.0±1.89℃)で有 意に大きかった。これは,解剖学的な血管分布および 皮下脂肪の沈着分布の差によるものと推測される。

 寒冷曝露による酸素消費量の増加に関する報告は多 い1)2)7)1°)。人体が低温に曝露され,ふるえによ る産熱が出現する時点では,酸素消費量の増加は70%

に及ぶ7)。本実験では,寒冷曝露中の酸素消費量は,

曝露前に比し男子で88%,女子で48%それぞれ増加 し,男子が女子の約1.4倍増大した。寒冷時の産熱増 加は,サイロキシン,アドレナリン,グルカゴン,コ ルチコイドおよびノルアドレナリンなどの分泌増加に 伴う産熱反応の冗進に起因するといわれている6)。

 本実験では,寒冷曝露中の呼吸数は男女とも減少 し,特に女子では有意の減少を示した。これは,寒冷 時の放熱防御作用の存在を示唆している。

 一般に,寒冷曝露による血圧上昇が報告されてい る3)8)9)。本実験でも,収縮期および拡張期血圧の 上昇を示した。特に拡張期血圧は,女子より男子が有 意に高かった。これらの結果は,寒冷曝露による末梢 皮膚血管抵抗の増加ならびに末梢血流量減少に伴う体 核心部の血流量増加を示唆している。

要 約

 健康な男女を対象に,寒冷曝露(室温8℃に40分 間)によって誘起する体温調節反応の性差について比 較検討し,次の結果を得た。

 1.口腔温は,男子1.7℃および女子1.4℃,また,

腋窩温は,男子1.2℃および女子0.6℃それぞれ下降し たが,いずれも男女間に有意差がなかった。

 2.平均皮膚温は,男子10.5℃および女子9.4℃そ れぞれ下降したが,男女間に差がなかった。

 3.酸素消費量は,男子が女子より約1.4倍増大し

た。

 4.呼吸数は,男女とも減少傾向を示したが,性差 はなかった。

 5.血圧は,男女とも収縮期および拡張期圧が上昇 し,特に拡張期血圧は,男子が女子より有意に高かっ

た。

 これらの結果は,寒冷環境下での体温調節反応が男 女によって異なることを示唆した。

(6)

       文  献

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