1 理科学習における観察,実験の重要性
平成11年に出された『中学校学習指導要領解説−理科編−』では 「小学校,中学校,高等学校, を通じて,児童生徒が知的好奇心や探究心をもって,自然に親しみ,目的意識をもった観察,実験 を行うことにより,科学的に調べる能力や態度を育てるとともに,科学的な見方や考え方を養うこ とができるようにする」と示されている。そのため,自然体験や日常生活との関連を図った学習及 び自然環境と人間とのかかわりなどの学習を一層重視するとともに,児童生徒がゆとりをもって観 察,実験に取り組み,問題解決能力や多面的,総合的な見方を培うことを重視し,内容の改善が図 られている。
理科学習においては,これまでも「観察,実験の重視」,「科学的に調べる能力や態度の育成」が 強調されてきた。それに加え,今回の改訂では 「児童生徒が知的好奇心や探究心をもつことや,, 自然に親しみ,目的意識をもった観察,実験を行うこと」と,学習への内発的な動機づけを大切に し 「目的意識」をもった主体的,意図的な「観察,実験」を行うことが,一層重要であると述べ, られている。
さらには,児童生徒が自然の中から自ら問題を見いだしたり,問題を解決するための観察や実験 にじっくりと取り組んだり,見いだしたきまりを確認するための観察,実験に取り組んだりするな ど,ゆとりをもって学習を展開することが大切であると述べられている。
本来,理科学習は問題解決的な活動によって展開される。そこでは 「①問題の発見, 」,「②仮説 の設定」,「③観察,実験の計画」,「④観察,実験の実施」,「⑤結果の考察(きまりの発見 」とい) った過程を踏まえるのが一般的である。このことを,児童生徒の学習活動の視点でとらえ直すと,
「事実を集める」という活動と「事実に基づいて考える」という活動の2点に集約される。
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問題解決的な学習活動では 新たな事実に出会い そのことを解釈 説明できない場合に 問題 が把握される。さらに,いくつかの事実に出会い,こうではないかと見通しをもったとき「仮説」
が設定される。また,たくさんの事実から,こうだと言えるようになったとき 「きまり」が見い, だされる。このように考えたとき,観察,実験を通して得られた事実を基に思考するという問題解 決的な学習活動は,児童生徒の理解を深める上で,大きな意味をもつのである。
以上のように考えたとき,観察,実験のもつ意義は極めて大きい。ところが実際には,確かな問 題意識を形成できなかったり,確かなきまりをとらえることのできる結果にならなかったりする場 合がしばしば起きている。
『中学校学習指導要領解説−理科編−』では,次のような記載がみられる。
自然から直接学ぶことが理科の学習の特色であるが,このための方法として,観察,実験,観 測,実習などがある。従来,ややもすると生徒は与えられた観察,実験を,その手順に従って行 っているだけという状態に陥りやすい傾向があった。…中略…
「生きる力」は 「単に過去の知識を記憶しているということではなく,初めて遭遇するよう, な場面でも,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決していく資質や能力である」とさ れている。その育成のためには,学習に際して生徒が目的意識をもつことが重要であると考えら れる。
そこで,本研究においては,観察,実験の本来の意味を改めて明確にするとともに,本県におけ
る観察,実験に関する実態を探り,その問題を解決できる具体的な方策を明らかにしたい。
2 観察,実験の本来の意味
観察とは,事物・現象を単に見るだけではなく,五感を通して得た情報から既有の知識や経験と 関係付けたり,その事物・現象を見直したりして,客観的なきまりを見いだす活動である。また,
実験とは事物・現象について,事実や因果関係を明らかにする目的で条件を整えながら,起こる現 象を観察したり,測定したりして客観的な事実や関係を見いだしていくことである。
観察の方法には,大きく分けて帰納的方法(①〜⑤)と演繹的方法(⑥,⑦)がある。
① 一つの事物・現象に対する直観の認識
② 同時比較による観察
③ 前後比較による観察
④ 同時比較から順序付けの観察
⑤ 同時比較から順序付けを経て,因果関係を予想する観察
⑥ 事実の解説(言語,標本.映像など)や見いだしたきまりを事象に当てはめる観察
⑦ 因果関係の解説や見いだしたきまりを事象に当てはめる観察 また,実験には主に次のような特徴がある。
① 目的をもち,事物・現象に対して条件を加え,操作すること。
② 条件を加えたことによって起こる現象から,事実や関係を見いだし,意味付けていく こと。
③ 自らの予想,仮説などを,条件を整えて検証していくこと。また,同じ条件の下で変 化を起こせば,同じ結果が得られること。
④ 主体的に実験を進めることを通して,科学的に処理できるという自己発見や自己実現 ができるようになること。
現在,認知心理学の成果により 「観察の理論負荷性」ということが明らかになっている。それ, によると 「人がものをみるときには,何らかの考えの枠組みをもってみており,考えの枠組みを, もっていない場合には,観察をしても何ら情報を手に入れることができない」と示されている。理 科の目標に「目的意識をもって…」という言葉が加えられたのは,このことが理由の一つである。
なお,児童生徒があまりに強固な考えをもっていると,観察しても新たな考えへと変容できない ということも明らかになっているので,注意して指導に当たらなければならない。
3 児童生徒にとっての観察,実験の意義
ここでは,自然に対する探究心を高め,理解を深めるという観点から,観察,実験の意義につい て述べる。
人は,自然の事物・現象の中に不思議なことやこれまでの解釈では理解できないことなどに出会 い,それを解決しようとする過程で,自然科学を進歩させてきた。理科は,自然の事物・現象を対 象とする教科であり,自然の事物・現象に興味・関心をもち,そこに潜むきまりを見付け出すのが 理科の学習である。つまり,理科学習において,単元の導入で児童生徒が不思議だなとか,どうし
たらうまくいくのだろうかといった問題をもつ自然の事物・現象に出会わせることが必要である。
そうすることで,児童生徒の知的探究心を高めることが可能となる。
しかし,自然の事物・現象は複雑に絡み合っていて,簡単に理解できるものではない。制御でき る条件を制御しながら観察,実験を行い,きまりを見いだしていくことになる。
つまり,児童生徒にとって観察,実験は,自然の事物・現象から問題を見いだし,探究心を高め るものであり,事実を基にきまりを実感し,理解を深めるための重要な活動なのである。
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また その際に 数多くの観察 実験を経験することで 科学の方法 問題の発見 観察 実験 条件制御,測定,記録,数的処理,データの解釈・分類,予測,推論,規則性の発見,モデルの形 成,仮説の設定・検証など)を身に付けることができ,生きる力としての問題解決能力を高めるこ とにつながる。
さらには,自然に親しみ,自然の探究への興味・関心も高まり,科学的な見方や考え方,創造性 も自然と身に付いてくる。また,観察,実験と思考は一体的に存在し,思考力の育成にも役立つ。
4 探究心を高め,理解を深める観察,実験の在り方
(1) 探究心を高めるという観点から
「科学的素養が育つ理科学習( 研究紀要』第98号 」の調査研究では,児童生徒の知的探究心『 ) を高めるためには,より主体的な理科学習を展開することが必要であることが明らかになった。
この主体的な理科学習とは,自ら見付けた問題を,自らの考えで,自ら取り組んでいるという意 識をもって活動しているということである。
主体的な理科学習を構成するためには,児童生徒に明確な問題意識をもたせることと解決の見 通しをもたせることが重要である。
まず,確かな問題意識をもたせるためには,次のような観察,実験が有効である。
① 自分の考えでは説明できない事象に出会わせる観察,実験
② 自分の方法ではうまく解決できない観察,実験
③ 多様な考えが導き出される観察,実験
次に,解決の見通しをもたせるためには 「何についてしらべるか」という解決する内容と,,
「どのような方法で調べるか」という解決する方法の二つを明確にする必要がある。
そのためには,次のような観察,実験が有効である。
① 自分の考えた方法で解決できそうかどうかを試してみる観察,実験
② 自由に条件を変えながら,制御すべき条件などを見付け出す観察,実験
③ しばらくの間観察を続けて,考えられる変化の要因等を見付け出す観察,実験
明確な問題意識をもたせたり,解決の見通しをもたせたりすることによって,問題解決の活動 が活性化され,探究心の高まりが期待できる。
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また 問題意識が中断しないように操作の簡便化を図ったり 調べたいと思ったことに対して 確実に結果が得られるような観察,実験を工夫したりすることも大切である。これらの工夫で,
児童生徒が「自分で解決した」,「自分の力でできるようになった」という達成感や成就感を味わ い,次の課題に対する探究心が高まるのである。
さらに,観察,実験の目的や予想,観察,実験中に考えたことなどを記録に残し,自分の考え の変容を自覚できるようにすることも大切である。
このような学習を通して,児童生徒は自然について探究し,解決する喜びを実感し,理科学習 への意欲が高まるとともに,自然の美しさや精妙さ,偉大さなども実感できるようになる。
(2) 理解を深めるという観点から
小・中・高校生,約1 , 5 0 0人を対象に実施した前回の科学的素養の調査で,児童生徒は必要な 情報が得られると,きまりを見いだすことができるという結果が得られている。このことから,
事物・現象を比較したり,関係付けたり,あるいは意味付けしたりして,きまりを見いだすこと のできる確かな情報が得られるような観察,実験を用意する必要がある。
さらには,観察,実験によって得られたきまりを,日常の事物や現象と関係付けたり,意味付 けしたりできるようにすることが,理解を深める上で重要となる。つまり,得られたきまりが他 の事象にも当てはまるのか,日常生活の中でどのように生かされているのかなど,再度,自然の 事物・現象を見直すという手順を踏むことが必要である。このようなきまりと自然の事物・現象
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や日常生活とを関連付ける理科学習を構成するならば 児童生徒は なるほど そうだったのか と実感し,理解が深まるとともに科学の有用性や理科を学習する意義を自覚するようになるので ある。
5 学習活動の中での観察,実験の位置付け
学習活動の中で児童生徒が行う観察,実験には,次の二つがある。
① きまりを納得させるために,教師が提示する観察,実験
② 児童生徒が問題や仮説,さらには,見通しをもち,その解決のために行う観察,実験
②は,児童生徒が主体的に問題解決活動を進めていく際の観察,実験であり,この活動は現行の 学習指導要領で強く求められている。
そこで,②の立場から,学習活動の中に観察,実験を位置付けると,次のようにとらえることが できる。
○ 問題を把握するための観察,実験
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→ 自分の見方や考え方では説明できなかったり 解決できなかったりする事象に出会わせ 自分の考えと矛盾している点や疑問に思う点を明確にさせる。
○ 見通しをもつために,情報を集めるための観察,実験
→ 問題を焦点化し,何について,どのような方法で調べれば,どのような結果が得られる かを予想させる。
○ 予想や仮説といった自分の考えを確かめるための観察,実験
→ 予想や仮説との一致,不一致を明確にさせる。
○ 見いだしたきまりを確かめるための観察,実験
→ 考察によって見いだしたきまりが,他の事象にも当てはめることができるかを確認させ る。
これらの観察,実験を,問題解決の各過程で,下図のように有効に組み合わせ,学習を展開する
ことが大切である。
① 問 題 の 発 見 ○ 問題を把握するための観察,実験
・事象提示
・自由な試行活動 など
② 仮 説 の 設 定 ○ 見通しをもつために情報を集めるための観察,実験
・試しの活動
③観察,実験の計画 ・自由な試行活動
・継続観察 など
④観察,実験の実施 ○ 予想や仮説といった自分の考えを確かめるための,条件 制御された観察,実験
⑤ 結 果 の 考 察 ○ 見いだしたきまりを確かめるための観察,実験
(きまりの発見) ・自由試行
(きまりの適用) ・継続観察
・物づくり など
児童生徒の自然事象に対する探究心を高め,理解を深めるためには,自分で観察,実験に取り組 み,自らきまりを見いだし,自分で問題を解決できたという達成感や成就感を味わうことのできる 学習活動を構成することが大切である。
そのために教師は,児童生徒がきまりを見いだすまでの思考の流れを的確に把握し,問題解決の 各過程で,どのような観察,実験に取り組ませるのが有効であるかについて,じっくりと吟味して おく必要がある。