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平木(水路)橋の設計者 神戸大学 正会員 神吉 和夫

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Academic year: 2022

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平木 ( 水路 ) 橋の設計者

神戸大学  正会員 神吉 和夫  

1) はじめに  兵庫県加古川市には淡河川・山田川疏水(以下,淡山疏水と略記)の一環として1915(大正4)年 9月に平木橋が建造された.平木橋は花崗岩製アーチリングと煉瓦積み拱腹の組合せと,英文扁額「HIRAKI

AQUEDUCT  BUILD1915」をもつ,わが国の橋梁史でも珍しい水路橋である.本稿では,その設計者につ

いて史料等から考察することにする.

2) 史料  淡山疏水土地改良区には平木橋設計図等が残されているが,設計者名を記した史料はない.設計図 にも英文表記があり,アーチ橋関連英文書籍が残されているので,専門教育を受けた技術者が関与した可能 性が高い.

『山田川疏水沿革誌』には淡山疏水事務所に勤務した技術者の一覧と4名の技師(柳本通義,佐藤長太郎,吉 田登,大塚仲蔵),2 名の技手(民永義三郎,根津捨三)の写真が載せられている.さらに,淡山疏水土地改良 区事務所には「退職吏員履歴書」が残されている.平木橋は森安支線にあり,『山田川疏水沿革誌』に「森安 支線ハ大正二年六月測量ニ着手シ同年十月終了翌大正三年三月是又設計調書完結セリ」と記されている.大 正2年6月から大正3年9月までの期間在職し,土木の専門教育機関を卒業している者を表-1に示す.

3) 設計者 当時の淡山事務所所長は柳本通義であり,柳本所長の了解のもとに平木橋が建設されたと云える.

しかし,着任時に50才を過ぎ,台湾総督府で管理職の立場にあった柳本が直接設計したとは考えにくい.

 設計が大正3年3月に終わっているとすると,残るのは技手6名である.この6名の着任時期を,森安支 線の測量・設計・工事との関係で分類すると,測量以前 根津捨三・田代秀吉,測量開始期 山本織太・石 川昇吾,測量終了後〜設計終了 岸部政治郎・木庭熊男となる.根津捨三は田代秀吉より3歳年長で,着任 も早い.退職は田代秀吉が設計終了時であるのに対し,根津捨三は平木橋銘板にある竣工月の9月の直前と なる.二人は新任の柳本を補佐して,具体的な事業計画の中心となったと思われる.最終学歴をみると,根 津捨三は工手学校(現:工学院大学)の造家科(建築)と土木科の両方を出ており,一方,田代秀吉は熊本高等工 業学校(現:熊本大学)土木(工学)科を卒業している.他の4名の最終学歴は,岡山県立工業学校(現:県立岡山工 業高校)土木科,関西商工学校(現:関西大倉学園)土木科,および攻玉社(現:工玉工科短期大学)土木科である.

 この6名の淡山事務所着任までの職歴を表-2に示す.田代秀吉は卒業後,淡山事務所に入っているが,他 の5名は別の勤務先に就職後、淡山事務所に移ってきたことがわかる. 

 

表-1 平木橋に関与の可能性のある,土木の専門教育を受けた淡山関係技術者

年月日 年齢

根津 捨三 技手 明治43年8月28日 25 大正4年8月18日 東京府 工手学校造家学科M35.2.9卒業、

同土木学科M38.7.9卒業

田代 秀吉 技手 明治45年7月12日 24 大正4年3月31日 長崎県 熊本高等工業学校土木科M45.7卒業 柳本 通義 技師 大正1年10月30日 55 大正4年11月30日 三重県 札幌農学校M13.7卒業

山本 織太 技手 大正2年5月26日 21 大正6年10月29日 岡山県 岡山県立工業学校土木科M42.3卒業 石川 昇吾 技手 大正2年6月18日 24 大正5年5月5日 大阪市 関西商工学校土木科M43.7卒業 岸部政治郎 技手 大正3年1月6日 30 大正7年2月7日 大阪府 攻玉社土木科M44.1卒業

木庭 熊男 技手 大正3年2月16日 28 大正4年6月30日 岡山県 岡山県立工業学校土木科M43.3卒業 山田 慧 技手 大正3年7月21日 34 大正5年1月29日 宮城県 関西商工学校土木科M40.7卒業 犬飼 直哉 技手 大正3年8月15日 40 大正5年8月14日 宮城県 攻玉社土木科M26.3卒業 笹田 庄吉 技手 大正3年9月16日 27 大正5年1月30日 大阪府 関西商工学校土木科M41.7卒業

出身地 最 終 学 歴

氏 名 職種 着任 退  職

        キーワード 平木橋,淡山疏水,設計者,柳本通義,根津捨三 

 連絡先   〒657‑8501 神戸市灘区六甲台町 1‑1 神戸大学工学部建設学科 TEL&FAX 078‑803‑6059  土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)

-439- 4-220

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 柳本通義所長のもと,この6人が協力 して設計したという可能性もあるし,こ の内の何人かが設計したとも考えられる.

ここから先は大胆な推測に過ぎないが,

設計者を一人に絞るなら根津捨三と考え たい.(図-1) 

第1番目の理由は,平木橋の意匠と関

係するが,彼が建築(造家学科)と土木科の両方の専門教育を受けている点である.

また,彼が東京の出身で工手学校に学んでいることである.

表‑2  淡山関係技術者(平木橋設計関与の可能性のある者) 氏名 職歴

根津 捨三 兵庫県、東京大林区 田代 秀吉

山本 織太 大阪市役所電気鉄道課、阪堺電気軌道、京都市 石川 昇吾 逓信省臨時発電水力調査局

岸部政治郎 東京逓信管理局、兵庫県 木庭 熊男 鉄道院、逓信省、大阪府土木課

図‑1 根津捨三 

『山田川疏水沿革誌』より 第2番目の理由としては,彼の職歴である.彼は卒業後,技手として兵庫県に

勤務し,明治42年12月に退職,東京大林区に勤めている.大林区とは営林局で ある.彼が東京大林区を離れる明治 43 年頃,赤煉瓦で有名な東京駅が建設中で あった(完成は大正3年12月).設計は辰野金吾.赤煉瓦に白色の石を配したデザ インはイギリスで流行していたものといわれる.

明治末期から大正初期,東京では4つのアーチ橋が建設される.日本橋,鍛冶 橋,呉服橋および四谷見附橋である.このなかで注目したいのは日本橋である.

日本橋は石アーチ,石拱腹,スパン約 21m2 連,設計:樺島正義・米元晋一,

意匠設計:妻木頼黄である.日本橋の完成は明治44年3月であるが,工学会誌 にその詳細な工事報告が出たのが大正2年2月である.

日本橋の設計者の一人で工学会誌に報告を執筆した米元晋一は,根津が工手学校土木科在学中の教官で,

材料強弱・橋梁・施工法・河工を担当した.先の辰野金吾は根津が造家学科在学中に工手学校監事であり,

明治 30〜33 年は会計主任,また,妻木頼黄も工手学校理事とか建築学科教務主理等を勤め,工手学校との

つながりも少なくない.

日本橋が石アーチとなったのはなぜだろうか.『日本橋志』(明治45 年)では「都市に於ける橋梁は単に実 用と堅牢とのみを以て主とすべきでなく,市の装飾物として美観に添ふる物」であり,「鐵材は木材に比すれ ば耐久年限の永き事同日の談ではないが,石材の不朽には及ばない」こと,「石材は堅牢の点に於いて鐵材に 優るのみならず美的価値に至っては鐵材の能く及ぶ能はさるの妙味を有して居る」ので石材に決し,「石橋に はこの拱形型が最も適当な型式であるので,美観と耐久力との関係から石材を主要材料として拱形型を其橋 型に」採用したのである.石材は平木橋と同じく花崗岩である.アーチのスパンは70 尺,拱矢9尺,拱石 深さ平均3尺(中央2尺8寸,両端3尺2寸)である.平木橋はスパン50ft,拱矢10ft,拱石深さ2.47ft(要石)・

2.4ft(1石使い輪石)であり,日本橋と比較するとスパン0.71倍,拱矢 1.1倍,拱石深さ0.80倍(2.4ft/3尺) となる.

 淡山疏水事業は明治から大正にかけてのわが国の農業史を代表する一大事業であった.淡河川疏水事業を 代表する構造物はパーマー設計の御坂サイフォンであろう.淡河川疏水を拡張する淡山疏水事業の主要事業 がまさの終わろうとする大正4年,その最末端に位置する平木橋を,この事業の記念碑的構造物として,全 国に知らしめるため心血を注いで設計・建設したと考えるのである.

4) おわりに  柳本通義については詳しい研究書(神埜努:『柳本通義の生涯』,共同文化社,1995)も出版され ているが、根津捨三等の消息は不明である。ご存じの方はご教示を御願いしたい.なお、平木橋については 保存検討委員会が平成16年8月に設置され,土木学会土木史研究委員会が保全的活用要望書を提出してい る.平木橋を設計・建設したであろう技術者たちの熱い想いを永く継承して欲しいと希望する. 

謝辞 淡山疏水土地改良区・井澤弘昌氏には史料調査で,また,土木学会附属図書館・坂本真至氏,工学院 大学,攻玉社学園,関西大倉学園,県立岡山工業高校には人物調査等でお世話になった.記して謝辞とする.

土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)

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