博 士 ( 農 学 ) 古 橋 卓
学 位 論 文 題 名
園 芸 作 業 者 の 爽 快 感 ・ 疲 労 感 の 生 理 指標 を 用 い た 簡 易 評 価 法 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
多くの人が園芸作業に楽しみを見出し、爽 庚感や達成感などの精神的な心地良さを実感している。その経 験的に感じてい る効果を科学的なデータで説明できるようになれば、これまで以上に暮らしの中に園芸を取 り入れて行くきっかけがより一層増えるものと期待される。多くの高齢者施設や、福祉施設等は、既に園芸作 業を入所者のストレス改善やりハビりの手段として導入しつっあり、その効果が認知され始めているが、一方 で、効果の科学的な検証を求める声も多い。
本研究は、園 芸作業者の変化を測る手段と して、従来一般に用いられてきた心理指標に加え、生理指標 を用いることで 、身体の変化を経時的に測定し、園芸作業が作業者の心身に及ぽす影響を評価しようと考え た。さらに、心理指標および生理指標に認められる変化を比較検討することにより、園芸作業が作業者にもた らす爽快感・疲労感の簡易評価法を確立しようとした。
I.室内作業における心理指標・生理指標による爽快感・疲労感の評価法の検討
園芸作業を行う ことによって感ずる爽・鼬惑や疲労感の客観的、定量的評価には、従来、作業前後に質問 紙等を用いて作業 者の気分や印象を測定する 方法が中心であった。しかし、作業中絶えず変化する作業者 の心身の状態を心 理指標だけで評価するには 限界がある。そこで、作業者の生理的な変化を連続的に測定 することが可能な 生理指標を見出すため、屋 内でハーブ苗の播種および移植作業に伴う作業者の心身の変 化を、心理指標(質問紙)とともに各種の生理指標(脳波、皮膚温、心拍変動)を用いて測定し、それらの有効 性について検討し た。その結果、心拍変動の 解析から得られる副交感神経活動並びに皮膚温の数値は、心 理指標に認められ た作業者の感情変化と対応することが明らかになった。この場合、園芸作業者の爽快感や 疲労感の測定には、´[舶変動に基づく副交感神経活動を生理指標として用いることが有効であることがわか った。本実験にお いて心拍変動測定に用いた 携帯型心電図モニターは、軽 量(72g).小型で被験者への負 担が少なく、作業 中も連続した測定が可能であり、屋外における移動を伴う園芸作業にも充分対応可能であ ると判断された。
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n.屋外作業における心理指標・生理指標による爽快感・疲労感の評価法の検討
Iの 結果を受け、屋外の園芸作業 に伴う作業者の´己舶変動を携帯型心電図モニターを用いて測定し、副 交感神 経活動の経時的変化を捉えようとした。屋外での園芸作業としてりンゴの収穫作業を行い、心理指標 との対応を比較することで´己舶変動測定の有効性を検討した。その結果、リンゴの収穫作業の前と後で、心 理指標 ではネガティプ感情の減少 とポジティブ感情の増加が顕 著に認められ、また、副交感神経活動は作 業後に 亢進することが分かった。 本研究はこの携帯型心電図モ ニターでの心拍変動測定を、屋外の園芸作 業に用 いて解析した最初の事例であり、作業者の爽快感・疲労感を数値化する生理指標として有効であるこ とを確認した。
皿.ジャガイモの植付け(春)、除草管理(夏)、収穫(秋)作業における作業者の爽快感・疲労感の心理指標・
生理指標による評価
年 間を通しての作業内容の異 なる園芸作業が、作業者の心 身に及ばす影響を評価することを目的に、ジ ヤガイモの植え付け作業(春)、除草管理作業(夏)、ジャガイモの収穫作業(秋)における心理指標と心拍変 動 解 析の 結果とを比 較し、作業者の爽快感・疲労 感の生理指標を用いた簡易 評価の可能性を検討した。
心 理指 標の 結果 から 、 作業 内容 によ って 心 理的 な変 化に 違いが認められ たが、園芸作業後に気分が 落 ち 込む とい った ネガ テ ィブ な感 情の 増加 は 全く 認め られ なかった。この ことから園芸作業は季節、
作業 内容を問わず、常に作業者 の心理面にプラスの効果を与 えていた。´凵督予備率( %HRR冫から見た 作 業 中の 運動 強度 では 、 春、 夏、 秋の それ ぞ れの 作業 間に 若干の違いが認 められ、極軽度から中等度 の 運 動 強 度 で あ っ た 。 ま た 質 問 紙 によ る自 覚 的運 動強 度(RPE)では 、作 業 者は 軽度 から 中等 度 の運 動 強 度と 感じ てい たこ と が示 され た。 ´己 舶 変動 の解 析に よるHF値では、 秋のジャガイモの収穫作業 区 に おい て、 作業 前と 比 較し 作業 後の 安静 時 に増 加す る傾 向が見られた。 一方で他の作業区では作業 前 安 静時 と同 程度 の値 、 また は低 くな る傾 向 にあ った 。こ れらの結果から 、秋の収穫作業後に副交感 神 経 活動 の亢 進は 見ら れ たが 、そ の他 の作 業 区で はそ の効 果が得られにく いことが示唆された。比較 検 討 区と した ウォ ーキ ン グで は、 春、 夏、 秋 、ど の季 節に おいても作業後 安静時に副交感神経活動が 高 ま る傾 向を 示し た。 こ のこ とか ら、 本実 験 にお ける 園芸 作業後の副交感 神経活動の変化は、季節の 影 響 では なく 作業 内容 ま たは 運動 強度 の影 響 を受 けて 生じ たものと考えら れる。心理指標による主観 評 価 では 、春 の植 付け 作 業が 最も 良い 結果 を 示し 、秋 の収 穫作業には春ほ どの心理的な変化は見られ な か った 。一 方、 生理 指 標で は秋 の収 穫作 業 にの みり ラッ クス効果が現れ ていた。心拍変動の連続的 な 測 定に より 、こ れま で の心 理指 標の みで は 抽出 でき なか った、園芸作業 時の意識には上らない生理 的な変化を数値化できることが示された。
本 研究 の結果、園 芸作業が作業者の心身に及ば す影響を、携帯型心電図モ ニターを用いた´L‑拍変動 解 析 によ る生 理指 標に よ り、 簡易 に経 時的 に 数値 化し て評 価することが可 能となった。今後、本研究 ‑ 982−
で用いた簡易評価法を利用した園芸作業の効果の科学的な実証データが蓄積され、福祉や教育といっ た 多くの場面に園芸が導入されることにより、人々のQOLの向上に貢献できるものと期待される。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
大澤 近藤 近藤 鈴木
学 位 論 文 題 名
勝次 誠司 哲也 卓
園芸作業者の爽快感 ・疲労感の生理指標を用いた 簡易評価法に関する研究
本論文は4章からなり、図44、表8、引用文献59、資料3を含む、総頁数121の和文論文であり、他に 参考論文2編が付されてい魏
多くの人が園芸作業に楽しみを見出し、爽快感や達成感などの精神的な心地良さを実感している が、その経験的な実感が科学的なデータとして説明できるようにはなっていない。多くの高齢者施設 や、福祉施設等では、園芸作業が各種のストレス改善やりハビりのために導入され、その一般的な効用 は 認められ ているも のの、 一方で、 その科 学的な検証や裏づけが求められている状況にある。
本研究は、園芸作業が作業者の心身に及ばす影響を、心理指標とともに携帯型心電図モニターを用 いた心拍変動解析による生理指標を用いて評価することを目的とした。そして、その測定方法の有効性 を検証しつつ、園芸作業時における心理指標と生理指標の数値を比較検討することにより、園芸作業が 作 業 者 に も た ら す 爽 快 感 ・ 疲 労 感 の 簡 易 評 価 法 を 明 ら か に し よ う と し た 。
1. 室 内 作 業 に お け る 心 理 指 標 ・ 生 理 指 標 に よ る 爽 快 感 ・ 疲 労 感 の 評 価 法 の 検 討 人々が感ずる爽|I夬感や疲労感を客観的、定量的に評価するこれまでの方法は、何らかの作業の前と 後に、その人の気分や印象を、質問紙等により調査して解析するのが中心であった。しかし、このような 作業者の気分によって変動する心理指標だけで評価するには限界があり、心理指標とともに作業者の 生理的な変化を連続的に測定しうる生理指標との比較が必要であると考えた。そこで、屋外での園芸作 業の前段階として、まず屋内でハーブ苗の播種および移植作業を事例に、作業者の心身の変化を心理 指標(質問紙)とともに、各種の生理指標(脳波、皮膚温、心拍変動)を測定し、その両者の数値を解析 した。その結果、心拍変動の解析から得られた副交感神経活動の数値および皮膚温の数値は、心理指 標で見られた作業者の気分と優れた対応が認められた。特に心拍変動測定は、ポータブルで、作業者 ―984―
に負 担を かけずに副交感 神経活動を連続的に測定でき る点で有効であると判断さ れた。
2. 屋 外 作 業 に お け る 心 理 指 標 ・ 生 理 指 標 に よ る 爽 快 感 ・ 疲 労 感 の 評 価 法 の 検 討 , 移 動を 伴 う園 芸作 業と してりンゴ の収穫作業を選定し、実験Iで明らかにした心拍変動測 定による数 値が信頼 に足る解析手法になるか否 かを検討した。その結果、リ ンゴの収穫作業の前と後で 、心理指標 ではネガ ティブ感情が減少し、ポジ ティブ感情が顕著に増加し、 心拍変動測定の解析により 得られる副 交感 神経 活 動の 指標 にお いて も 、作 業終 了後 の 亢進 が顕 著に 認め ら れた 。心 拍変 動測 定 に用 いた 携 帯型心電図モニターは 、軽量(72g)で、被験者が装 着していることを忘れてい られる程度の装置であり、
屋外 作業 に おい ても 生理 指標 を 連続 的に 測定 で きる利点があっ た。本実験は、この携帯型 心電図モニ ター での 心 拍変 動測 定を 屋外 の 園芸 作業 に用 い 、そ の評 価法 の有 効 性を 示し た最 初の 報 告で ある 。
3.ジ ャガイモの植付け(春)、除 草管理(夏)、収穫(秋)作業における作業者の爽快感・疲労感の心理 指標 ・生理指標による評価
年間 を 通し ての 園芸 作業 が 、作 業者 の心 身 に及 ばす 影響の実証デー タを得る目的で、ジャガイ モの 栽培作 業を事例に、植え付け作業(春)、除草管理作業(夏)、収穫作業(秋)における、心理指標と生理 指 標 ( 心 拍 変 動 ) を 比 較 し 、 作 業 者 の 爽 快 感 ・ 疲 労 感 の 生理 指 標に よる 簡易 評価 法 を検 討し た。
心理 指標の結 果は、春の植付け作業が最 も良い結果となり、季節ごと の作業内容で大きな違いが あっ た 。し かし、作 業後に気分が落ち込むとい ったネガティブな感情の増加 は皆無で、園芸作業は季節 、作 業 内 容 を 問 わ ず 、 作 業 者 に は 常 に 心 理 的 に プ ラ ス の 効 果 を 与 え て い る こ と が わ か っ た 。 心 拍 変 動の 解析 によ る副 交 感神 経活 動は 、秋 の ジャ ガイ モの 収 穫作 業区 にお いて の み、 作業 後に 増 加す る 傾向 が見 られ 、春 、 夏の 作業 区で は 作業 前安 静時と同程度の 値、または低くなる傾向に あっ た 。比 較検討区 として実施した北大構内の ウォーキング区では、春、夏 、秋、どの季節においても 作業 後 に 副 交 感神 経活 動が 高ま っ てい た。 した がっ て 園芸 作業 後の 副 交感 神経 活動 の変 化 は、 季節 間の 差 以 上 に 作 業 内 容 や 作 業 の 運 動 強 度 に 影 響 を 受 け て い た と 考 え る こ と が で き る 。 心理 指 標に よる 主観 評価 で は、 春の 植付 け 作業 が最 も良い結果を示 し、秋の収穫作業は春ほど の心 理 的な 効果は見 られなかったにもかかわら ず、生理指標(副交感神経活 動)では秋の収穫作業にの みり ラ ック ス効果が 現れていた。このことは心 拍変動の連続的な測定によっ て心理指標では抽出できな かっ た 園 芸 作 業 時 の 生 理 的 な 変 化 を 数 値 化 し 、 簡 易 に 評 価 で き る こ と を 示 し た も の と 判 断 で き る 。
以 上 のよ うに 本論 文は 、 園芸 作業 が作 業者 の 心身に 及ばす影響を、携帯型心電 図モニターを用いた 心拍 変動(生理指標)の解 析により、簡易に経時的に評 価しうることを明らかにし たものであり、学術 上、 応 用上 高く 評価 され る 。よ って 、審 査員 一 同は古 橋卓が博士(農学)の学位 を受けるに十分な資 格を 有 する と認 めた 。
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