博 士 ( 農 学 ) 磯 貝 雅 道
学 位 論 文 題 名
Fi3 ivirus 属group2 及びgroup3 のゲノム構造と分子分類
学 位 論 文 内 容 の 要旨
本 研 究 は 、 イ ネ 黒 条 萎 縮 ウ イ ル ス (RBSDV) の ゲ ノ ム セ グ メ ン トS 7、S8、S9お よ びS10の 構 造 と コ ― ド す る タ ン パ ク 質 の 解 析 を 中 心 と し て 、 ウ イ ル ス ゲ ノ ム の 多 様 性 と 他 のFi´ ´y′rus属 の ウ イ ル ス と の ゲ ノ ム 類 縁 関 係 を 明 ら か に し て 、 本 属 の 分 子 分 類 の 基 礎 を 築 い た 。
1 。RBSDV ゲノムセグメン卜S7 、S8 、 S9 およびSl0 がコ―ドす るタンパク質の解析
ゲ ノ ム セ グ メ ン 卜S7か らSl0が コ ー ド す る タ ン パ ク 質 を大 腸 菌 で 発 現 さ せ、 各々 に対する抗体を作成し、この抗体を用いてこれらゲノムセグメン 卜 がコ ード するタンパク質をウエスタ―ンブロッテイング解析と免疫電子顕 徴 鏡 法 に よ っ て 同 定 し た 。S7のORF1は 感 染 卜 ウ モ ロ コ シと 保 毒 ヒ メ ト ピ ウン カの 細胞質に局在するチューブ構造を構成する非構造タンパク質をコ
― ド し て い た 。S7のORF2は 、 非 構 造 タ ン パ ク 質 を コ ー ドす る が そ の 発 現 は、 ウエ スターンブロッテイング解析と免疫電子顕微鏡法では確認出来な か った ので 、発現しても極微量か発現時期がきわめて限られているものと恩 わ れ た 。S8は 、 ウ イ ル ス コ ア 粒 子 を 構 成 す る65kDaタ ン パ ク 質 を コ ー ド し て い た 。S9のORF1は 、 感 染 ト ウ モ ロ コ シ と 保 毒 ヒ メ卜 ピ ウ ン カ の 細 胞質 に局 在するバイロプラズムの構成成分で非構造タンパク質であった。
S9のORF2は 、 非 構 造 タ ン パ ク 質 を コ ー ド す る が そ の 発 現は 、 ウ エ ス タ ン ブロ ッテ イング解析と免疫電子顕微鏡法では確認出来なかったので、発現 し て も 極 微 量 か 発 現 時 期 が きわ め て 限 ら れ て い る も の と 恩 わ れ た 。Sl0 は 、ウ イル ス粒 子を 完全 粒子 、Bス パイ クの付いた亜粒子、コア粒子に分け て 純 化 し 、 こ れ をSl0に 対 する 抗体 でウ エス タン ブロ ッテ イン グ解 析し た 結 果 か ら 、 完 全 粒 子 の 外 殻 カ プ シ ド を コ ― ド す る と 結 諭 し た 。
2 。イネ黒条萎縮ウイルスゲノムの多様性とmaizerough
dwarf ウ イ ル ス ( MRDV ) ゲ ノ ム と の 類 縁 関 係 。
北海 道 で発生 するRBSDV分 離株と北海 道大学で十 数年継代維 持してい る分離株では、ゲノムのポリアクリルアミドゲル電気泳動パタ―ンが類似し て い るが 僅か に異なって いた。その ため、圃場 においてもRBSDVのゲノ ム が 多様 性 に富 ん でい る のか 調 べ るた め 、100個体 のRBSDV感染 植物を 採 集 し、 ゲノ ムの電気泳 動パタ―ン を比較した 。その結果 、各RBSDV分 離株毎にゲノムの電気泳動パタ―ンが異なり、1つの圃場内から採集した分離 株 間 でさ えも 異なってい ることを明 らかにした 。その多様 性は、RBSDV と ヨ ー ロ ッ パ で 発 生 し 、RBSDVに 近 縁 なMRDVの ゲ ノ ム 電 気 泳 動 パ タ ーンの差と同程度であったので、両ウイルスを識別する方法を開発する必要 があった。そこで、両ウイルスをハイブリダイゼ―ション法で明確に識別出 来 るRBSDVゲ ノ ム に 対 す るcDNAク ロ ― ン を 選 抜 し た 。 更 に 、 こ れ ら のcDNAク ローンによ るハイブリ ダイゼーシ ョン法で、韓国に発生する類 似 ウ イ ル ス が MRDVで は な くRBSDVで あ る こ と を 明 ら か に し た 。
3。Fi´ ′ レ ′rusの 分 子 分 類
Fijivirus属group3に分類されるoat sterile
dwarf virus( OSDV) ゲ ノ ム の cDNAク ロ ー ニ ン グ と 塩 基 配 列 の 決 定 ・ 解 析 を 行 い 、 group2の RBSDVお よ び Fijf― virus属 に 近 縁 な 未 分 類 の 昆 虫 レ オ ウ イ ル ス Nilaparvata fugensvirus (NLRV) と 比 較 し て 、 分 類 学 的 考 察 を 行 っ た。NLRVは、卜ビイロウンカ体内で増殖するが、植物体では増殖できな い。しかし昆虫がイネの篩管部にロ針をさすとウイルスは侵入移動し、昆虫 は新たにイネからウイルスを獲得出来る。従って昆虫と植物のウイルスの進 化を 考えるうえで極めて興味深いウイルスである。NLRVゲノムがコード す る タ ン パ ク 質 はRBSDVと 高 い 相 同 性 を 有 す る が 、RBSDVのS7の ORF2に 対 応す る タン パ ク質 を コ― ド してい ない。そこ で○SDVに これ に 対 応 す るORFが あ る か 、S7、S8、S9お よ びS10の 全 塩 基 配 列 を 決 定 しRBSDVとNLRVゲ ノ ム がコ ー ドす るタン パク質と比 較・レた。 そ の 結 果S7とS10に2つ の オ ― バ ― ラ ッ プし な いORFが見 つ かり 、 この う ち S7の ORF2が 、 RBSDVの S7の ORF2に 対 応 す る こ と を 見 い だ し 、 こ れ がFijivirus属 に 特 徴 的 で あ り 、NLRVと 分 類 学 的 に 分 け る童 要 な基 準 であ る こと を 明ら か にした。ま たOSDVの他のORFが コ ー ド す る タ ン パ ク 質 をRBSDVお よ びNLRVと 比 較 して 、 その 対 応関 係を決定した。
ま た 、OSDVのcDNAク ロ ― ン か ら 、10本 の 全 て の ゲ ノ ム セ グ メ ン トに 対するcDNAを選抜し、その解析からゲノムセグメント間でみられる 末端共通配列5 AACGAAAAA‑―−―UUUUUUUAGUC3
を見いだした。これは、RBSDVが属するFijivirus属
group2の末 端共 通配 列と 異なっ てお り、レオウイルス科の同属内のウ イルスは全て同じ末端共通配列を持っとする従来の説を覆す新たな発見であ る。
さ ら に OSDV、 RBSDV、 MRDV、 NLRVで 相 同 性 を 持 つ タ ン パ ク 質 問 で 遺 伝 的 系 統 樹 を 作 製 す る と 、NLRVとFijivirus属 で 分 かれ、Fijivirus属はさらにgroup2(RBSDV、MRDV)
と group3( OSDV) に 分 か れ た 。 こ の こ と か ら 、NLRVが 単 に Fijiレ irus属 の group2ま た は group3の ウ イ ル ス か ら 植 物 で の 増 殖 能 カ を 失 っ た ウ イ ル ス で は な く 、group2とgroup3 のウイルスが分岐する以前に分岐したウイルスであることを示唆した。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Fijivirus 属group2 及びgroup3 のゲノム構造と分子分類
本 論 文 は 、8章 で 構成 さ れ 、 図84、表8、 図版12、 弓1用文 献181、 総 頁 数346の 和 論 文 で 、 他 に 参 考 論 文 6編 が 添 え ら れ て い る 。 本 研 究 は 、 イ ネ 黒条 萎 縮 ウ イ ル ス (RBSDV) のゲ ノ ム セ グ メ ン卜 S7、S8、S9お よ びSl0の 構 造 と コ ― ド す る タ ン パク 質 の 解 析 を 中心 と し て 、 ウ イ ル ス ゲノ ム の 多 様 性と他 のFi/fyi‑rus属ウイ ルス との ゲノム類縁関係を明らかにして、本属の分子分類の基礎を築いた。主な研究 成果は以下のようにまとめられる。
1。RBSDVゲ ノ ム セ グ メ ン トS7か らS10が コ ー ド す る タ ン パ ク 質 を 大腸菌で発現させ、各々に対する抗体を作成し、この抗体を用いてこれらゲ ノムセグメン卜がコードするタンパク質をウエスタンブ口ッテイング解析と 免 疫電 子顕 微鏡 法によ って 同定 した。S7のORF1は感染細胞の細胞質に 局在するチュ―ブ構造を構成する非構造タンパク質をコードしていた。S7 のORF2は、非構造タンパク質をコ―ドするが、その発現はウエスタンブ ロッテイング解析と免疫電子顕徴鏡法では確認出来なかったので、発現して も極微量か発現時期がきわめて限られているものと思われた。S8は、ウイ ル ス コ ア 粒 子 を 構 成 す る65kDaタ ンパ ク質 をコ ード してい た。S9のO RF1は、感染細胞の細胞賛に局在するバイロプラズムの構成成分で非構造 タ ンパ ク質であった。S9の○RF2は、非構造タンパク質をコードするが その発現は、ウエスタンブロッテイング解析と免疫電子顕微鏡法では確認出 来なかったので、発現しても極微量か発現時期がきわめて限られているもの と 思 わ れ た 。S10は 、 完 全 粒子 の 外 殻 カ プ シ ド を コ ー ドし て い た 。
2。北 海道の 圃場 で発 生するRBSDV分離株ゲノムをボリアクリルアミド ゲル 電気泳動で比較した。その結果、各RBSDV分離株毎にゲノムの電気 泳動パターンが異なり、1つの圃場内から採集した分離株間でさえも異なっ
郎 明郎 一 嘉 田 越田 久 上生 喜 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
て いることを明らかにした。その多様性は、RBSDVとヨ―ロッパで発生 しRBSDVに 近 縁 なMRDVの ゲ ノ ム 電 気 泳 動 パ タ ー ン の 差 と 同 程度 で あったので、両ウイルスを識別する方法を開発する必要があった。そこで、
両 ウイルスをハイブリダイゼーション法で明確に識別出来るRBSDVゲノ ム に 対 す るcDNAク ロ ― ンを 選 抜した 。更 に、 これ らのcDNAク ロー ン によるハイブリダイゼーション法で、韓国に発生する類似ウイルスがMRD VではなくRBSDVであることを明らかにした。
3。Fijivirus属group3に分類される oat ste― rile dwarf virus(OSDV)ゲノムのcDNAクローニ
ン グ と 塩 基 配 列 の 決 定 ・ 解 析 を 行 い 、group2のRBSDVお よ び Fijivirus属 に 近 縁 な 未 分 類 の 昆 虫 レ オ ウ イ ル スNilapar− va亡 a / ugens reovirus ( NLRV) と 比 較 し て 、 分 類 学 的 考察 を 行 っ た 。NLRVゲ ノ ム が コー ド す る タ ン パ ク 質 はRBSDV と 高 い 相 同 性 を 有 す る が 、RBSDVのS7のORF2に 対 応 す る タ ン パ ク 質を コ― ドして いな い。 そこ で○SDVにこれに対応するORFがあるか否 か を 、 塩 基 配 列 を 解 析 し て 調 べ た 結 果 、S7の ○RF2が 、RBSDVのS 7の ORF2に 対 応 す る こ と を 見 い だ し 、 こ の ORFがFijiレ irus 属に特徴的であり、NLRVと分類学的に分ける童要な基準であることを明 らか にし た。 また 、OSDVの ゲノム セグメント間で末端共通保存配列 5 AACGAAAAA−−−−UUUUUUUAGUC3 を見いだし
た 。 こ れ は 、 RBSDVが 屈 す る Fijivirus属 group2の 末 端 共通保存配列と異なっており、レオウイルス科の同属内のウイルスは全て同 じ末端共通保存配列を持っとする従来の説を覆す新たな発見となった。
さ ら にOSDV、 RBSDV、 MRDV、 NLRVで 相 同 性 を 持 っ タ ン パ ク 質 問 の 遺 伝 的 系 統 樹 解 析 か ら NLRVが 単 に Fijivirus属 の group2ま たは3の ウイル スと して 進化 し、植 物で の増 殖能 カを失 った ウイ ルス ではな く、group2と3の ウイ ルスが 分岐 する 以前 に分岐 した ウイルスであることを示唆した。
以 上 の よ う に 本 研 究 は ,Fijivfrus属 の 分 子 分 類 の 基 礎を 築 い た ものであり,学術上の貢献が大きく,学会においても高く評価されるもので ある。よって審査員一同は,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者磯 貝雅道は博士(農学)の学位を受けるに充分な資格があるものと認定した。