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学 位論文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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     博士(水産学)今井圭理      学位論文題名

植物プランクトン群集の環境変化への応答に関する研究 学位論文内容の要旨

  海洋 生態 系は ,植 物プラ ンク トン の光 合成に よる 太陽 エネル ギー の固 定(一 次生 産) で始 まるエ ネル ギー の転 送およ び物 質循 環系で あり ,漁 業の対 象と なる 海洋 生物は ,海 洋生 態系 を構成 する ーっ の生物 群集 であ る.し たがって,海洋における一次生産過程は,その海洋生物の潜在的な 生物量 を明 らか にす るため にき わめ て重 要な過 程で ある .最近 の研 究で は,気 象条件の変動が物理的環境要因の変化を引き起こし,そのことによ り栄養 塩の 分布 とい った化 学的 環境 要因 を変化 させ ,結 果とし て一 次生 産過程 に大きな影響を与えることが指摘されている.例えぱ,北太平洋の 貧 栄養 外 洋 域 で は 低 気 圧 の 通 過が 躍 層 を 壊 し , 栄 養 塩 が 有 光層 に供 給 されることによって植物プランクトンの生産性が向上することが指摘されて いる(DiTullio and Laws,1991).噴火湾海域でも,大谷・出口(1981, 1983)は 風に 起因す る沿 岸湧 昇現象 を明 らかにした.このような気象条件 の変化 に伴 う局 所的 な海洋 環境 の物 理・ 化学環 境に 変化 が生じ ,植 物プ ラ ン ク ト ン の 生 長 お よ び 現 存 量 の 変 動 を 引 き 起 こ す と 考 え ら れ る .   そこ で, 本研 究で は,1. 夏季の べー リング海北部陸棚海域における水 塊構造 と植 物プ ラン クトン 群集 現存 量の関係,2.夏季噴火湾沿岸部にお い て突 発 的 な 気 象 環 境 の 変 動 がも た ら す 物 理 , 化 学 お よ び 生物 海洋 学 的過程 の変 化,3. 噴火 湾の 植物プ ラン クトン春季大増殖期における気象 環 境お よ び 海 洋 環 境 と 春 季 ブ ルーム の形 成過 程,4. 夏季 噴火湾 底層 に 出 現す る 低 酸 素 層 の 形 成 に 及 ぼす 気 象 環 境 お よ び 海 洋 環 境 につ いて 明 らかにすることを目的とした.

  本 研 究 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の 4点 に 要 約 さ れ る ・   1. 本 研 究 で は , 夏 季 べ ー リン グ海 陸棚域 にお いて 底層 に存在 する 水 塊をAnadyr Water,Bering Shelf Water,およ びAlaska Coastal Water (Walshら、1989)と分類することで,それら水塊の持つ植物プランクトン生 物 量お よ び 栄 養 塩 量 の 特 性 を 調べた .そ の結 果, これら の3水塊 に含 ま れる植 物プ ラン クト ン生物 量お よび 栄養 塩量に 明ら かな 相違が 認め られ た,こ れら の化 学的 および 生物 的環 境か ら判断 する と,Anadyr Waterお

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よ びBering Shelf Waterは潜在的な 高い一次生 産カを有することが明らか と な っ た. 一 方,分 類した3水塊の水 平分布に年 変化が認め られた.冬 季 のセントローレンス島南部では,結氷しない海域(ポリニア)が現れることが ある.このポリニアでは,冬季に表面水が激しく冷却されるため,寒冷で高 密 度の水が形 成される. この寒冷な 水は,夏季 においてもべーリング海北 東 部 の 陸 棚 域底 層 に分 布 する た め, 同 海域 に おけ る 夏季 の3水塊 の 分布 に 影響を与え る.したが って,この 海域におけ る一次生産過程はポリニア を 形 成 す る 冬 の 気 象 条 件 に 影 響 を 受 け る も の と 考 え ら れ た ・   2. 夏 季の 噴 火湾 海 域は , 成層 構 造 が発 達 し, 表 層の 栄 養塩 濃 度が 極 めて低くたり,植物プランクトン量も少ない状態で推移するため,一次生産 も低いと考えられている(塩本,1987;Maita and Odate,1988).本研究で は 噴 火 湾沿 岸 部と 噴 火湾 湾 央に お いて 希 釈培 養 法によって 植物プラン ク ト ン比生長速 度および動 物プランク トンによる 摂食速度を測定した.その 結 果,風が吹 くことによ って起こる 沿岸湧昇が 認められた時,下層から表 層 へ の 栄養 塩 供給 が 植物 プ ラン ク トン の 比生 長 速度を高め ,同時に動 物 プランクトンによる摂食速度が高まることが明らかとなった.また,湾央部に お い て 秋ロ 中 層か ら 湾内 へ 進入 し てき た 津軽 暖 流水の影響 により,下 層 水 塊 が 擾 乱 し , 表 層 部 へ の 栄 養 塩 供 給 に よ って も 同 様の 結 果が 得 られ た . す な わ ち , 夏 季 の 噴 火 湾 海 域 は , 気 象 条件 や 季 節的 な 水塊 交 替に よ ってもたら される水柱 の物理・化 学環境の変 化により,間けつ的に植物 プランクトンの生産が高まることが示された.

  3. 噴 火湾 に おけ る 春季 ブ ルー ム の 発現 要 因に 関 する 研 究は , 春季 ブ ル ー ム の発 現 時期が 親潮系水( 大谷ら,1971)の湾内流 入時期とほ ば一致 す ることから ,主に親潮 系水の流入 と関連付け て議論されてきた(中田,

1982;Tanaka,1984;田中,1984;○date,1987).しか`しながら,Odate

(1987)が指 摘 してい るように親 潮系水流入 以前の水塊 中でも比較 的高い 植物プランクトン現存量が見られることもあり,親潮系水の湾内流入と春季 ブ ル ー ム の 発 現 と の 関 連 に つ い て は 未 だ 不 明な 点 も 多い . 本研 究 では 1996年 お よ び1997年1月 か ら3月 に 行 っ た 観 測 結 果 か ら こ の 点 に つ い て 議論した.1996年の湾内で は,冬季噴 火湾水(大 谷,1971)で満たされ て い る1月 下 旬か ら植物プ ランクトン の増殖が始 まり,上層 に親潮系水 が 湾 内 に 流入 し た時に は有光層下 においても 高いクロロ フイルa濃度が見 ら れ , 湾 口部 の 上層 に おい て 最高 値 を示 し た. 一 方,1997年では親 潮系水 が 湾 内 に流 入 しても3月に ならなけれ ぱ植物プラ ンクトンの 増加は確認 で き なかった. 両年共にブ ルーム前の 栄養塩濃度 (硝酸十亜硝酸)は,10皿 M以上有 しており, 親潮系水流入時期もほぼ同じであった.しかしながら,

1996年 で は1月 お よ び2月 下 旬 に 日 照 時 間 が8時 間 を 越 え る 日 が あ り ,

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1997年ではそのような日は見られなかった.っまり,1996年では早い時 期 に光 条件が 良く,十分に親潮系水流入前の冬季噴火湾水中でブルー ムの形成がなされ,一方,1997年のように1月および2月の日照時間が短 い場合には,親潮系水がすでに流入したとしても春季ブルームの開始が 遅れる場合があることが示唆された.すなわち,日照時間が噴火湾におけ る 春 季 ブ ル ー ム の 発 生 要 因 一 っ と な る こ と が 示 唆 さ れ た .   4.近年,夏季の噴火湾中央部において底層が貧酸素状態になり,こう した低酸素層が湾内に生息する底棲魚類を死滅させるという報告があり,

その漁業被害が問題となっている(日本水産資源保護協会,1989),本研 究 では1996年 および1997年夏季噴火湾において観測された結果をもと にこの低酸素層の形成にっいて議論した.1996年では湾内底層(海底直 上10m以内)に存在lした水塊は5月から8月までの期間,同一水塊(親潮 系水)であり,その水塊中の溶存酸素はほぼ直線的に減少し,Imll―1以下 にまで低下した.一方,1997年では同期間,6月に上層水との混合,7月 に 津軽 暖流水 の流入が認められ,その都度底層水塊の溶存酸素のレベ ルが上昇した.このように夏季における噴火湾内の底層水中では,水塊の 交 替が 無い場 合には有機物の分解過程が進行し,溶存酸素は消費され てゆき,低酸素層が形成されることが示された.一方で,底層において水 塊の交替が起こり易い場合には,水塊交替に伴い溶存酸素が増加するこ とが示された.こうした低酸素層の形成は,親潮系水および津軽暖流水の 勢 カと 関連す る水塊交替の時期あるいは底層水の安定性などの物理海 洋 学 的 環 境 要 因 が 深 く 関 わ っ て い る も の と 考 え ら れ る .

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

米 田 義 昭 松 永 勝 彦 簗 田    満 小 達 恒 夫

     学位論 文題名

植物 プラン クトン群 集の環境変化への応答に関する研究

  本 研 究 は 夏 季 の べ ー リ ン グ 海 北 部 陸 棚 海 域 に お け る 水 塊 構 造 と 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 現 存 量 の 関 係 、 夏 季 噴 火 湾 奥 部 に お い て 風 に よ っ て 生 ず る 沿 岸 湧 昇 と 生 物 過 程 の 変 化 , 春 季 噴 火 湾 に お け 気 象 お よ ぴ 海 洋 環 境 と 植 物 プ ラ ン ク ト ン プ ル ー ム の 形 成 過 程 , お よ び 夏 季 噴 火 湾 底 層 に 出 現 す る 低 酸 素 層 の 形 成 機 構 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た .

  本 研 究 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の4点 に 要 約 さ れ る .

1. 夏 季 ベ ー リ ン グ 海 陸 棚 域 に お い て 底 層 に 存 在 す る 水 塊 をWalsh(1989)に よ る 水 塊 区 分 す な わ ちAnadyr WaterBering Shelf Waterお よ ぴAlaska Coastal Water3水 塊 に 分 類 し , そ れ ら 水 塊 の 持 つ 植 物 プ ラ ン ク ト ン 生 物 量 お よ ぴ 栄 養 塩 量 の 特 性 を 調 べ た 結 果 , こ れ ら の3水 塊 に 含 ま れ る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 生 物 量 お よ ぴ 栄 養 塩 量 に 明 ら か な 相 違 が 認 め ら れ た . こ れ ら の 化 学 的 お よ び 生 物 的 環 境 か ら 判 断 す る と ,Anadyr Waterお よ ぴl3ering Shelf Waterは 潜 在 的 に 高 い 生 産 カを 有 し て い る も の と 推 察 し た . そ の 生 産 カ を 維 持 す る 理 由 は 冬 季 の セ ン ト ロ ー レ ン ス 島 南 部 に 見 ら れ る ポ リ ニ ア 水 塊 の 滞 留 に よ る も の と 推 論 し た . 2.夏 季 の 噴 火 湾 中 央 部 と 沿 岸 域 に お い て 希 釈 培 養 法 に 基 づ き 植 物 プ ラ ン ク ト ン 比 生 長 速 度 お よ び 動 物 プ ラ ン ク ト ン に よ る 摂 食 速 度 を 測 定 し , 低 次 生 産 量 の 時 系 列 変 化 を 追 跡 し た . 夏 期 は 成 層 構 造 が 発 達 し , 表 層 の 栄 養 塩 濃 度 が 低 い た め 湾 全 域 で 一 次 生 産 量 が 低 い が , 湾 奥 の 沿 岸 海 域 に お い て 一 定 期 間 に わ た っ て 吹 く 風 に よ っ て 湧 昇 が 起 こ り , 下 層 か ら 表 層 へ 栄 養 塩 の 供 給 が 認 め ら れ た . こ の 湧 昇 に よ

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り植物プランクトンの比生長速度が高まると同時に動物プランクトンの摂食速度 が高まることが分かった.また,秋期は湾央部の底層部に津軽暖流水が流入する ため下層水塊が擾乱し,表層部への栄養塩供給が起こるため生産量の増加が認め られた.これらの観測調査の結果に基づき,噴火湾海域は水柱の物理・化学環境 の変化により,問けつ的に植物プランクトンの生産が高まることを明らかにした.

3.噴火湾における春季プルームの発現要因に関する過去の研究結果によると,

春季ブルームの発現時期が親潮系水の湾内流入時期とほぼ一致することから,主 に親潮系水の流入と関連付けて議論されてきた.しかしながら,親潮系水流入以 前の水塊中でも比較的高い植物プランクトン現存量が見られることもあることか ら,その違いをもたらす理由について種々の環境要因を検討した結果,日照時間 が 噴火湾にお ける春季ブ ルームの発 生要因一っ となることを明らかにした・

4.夏期の噴火湾央部底層における溶存酸素濃度の時系列分析を行い,低酸素層 の形成機構を詳細な水塊構造の解析に基づぃて明らかにした,1996年夏期の湾内 底層(海底直上10m以内)の水塊は春期から夏期にかけてに湾内底層に滞留した 親潮系水であり,その水塊中の溶存酸素は5月以降経時的な減少を示し,7月下 旬 に は1 mll・1以下とな った.一方 ,1997年の夏期 には7月 下旬に津軽 暖流 水の流入が認められ,その底層水の溶存酸素濃度が上昇し,その後再ぴ減少した.

これら2年間にわたる噴火湾内の底層水の溶存酸素濃度と水塊の時系列分析結果 から,噴火湾央部における低酸素水塊の形成は底層水における親潮系水の滞留に よるものであり,津軽暖流水との水塊交替によって解消されることを示した.

  審査委員は申請者が行った上記の研究成果は,環境変化に対して植物プランク トン群集がどのような応答を示すのかを新しい生物海洋学的手法を取り入れて行 っ た 点を 評 価し , 博 士( 水 産学 ) の学位を授 与するに値 すると判定 した.

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