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教育と学びについて : 情報系学習者の育成実践を通して学んだこと

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1.は じ め に 企業で OS の開発や CG,CAD の開発を 15 年間経験 し,その後,企業内で技術者教育・新人教育を 14 年間 体験した。その中で,企業時代に大学や高専の非常勤講 師を 10 年間体験してきた。こうした中で,社会人博士 課程を 3 年間過ごし,もう一度学ぶ立場での貴重な体験 をして博士号を取得した後,4 年間大学で教鞭を取り, 教えることの難しさを学ぶと共に,学ぶことの新鮮さも 体験した。 一方,企業の教育経験時代に情報システム教育のあり 方及びその育成にも取組み,IS (Information Science)1)3)

IT (Information Technology)4)8)に関係する技術者の育成 やカリキュラムについても考えてきた。 そこで,本稿ではこれまでの企業体験と大学に於ける 講義やゼミの運営を通して,教育と学びに9) ついて考察 し,最近の学習理論10)と照し合わせて,これらを実践的 に行うには何を行い,何に気をつけ,また,何を学んで おく必要があるのかを纏めてみたものである。 2.今までの体験から 今どきの学習者の気質はどうであろうか。やはり,真 面目で授業は休まず出るが居眠りばかりしている学習者 もいるし,一生懸命ノートに書き写してはいるが理解は 今一歩の学習者もいるし,授業にはあまり出席せず単位 をうまく取って学生生活を過ごす者もいる。 さて,今までの体験を通してわかったことは,やはり, 地道に時間を掛けて計画的にこつこつと自主的に勉強し, 積み上げていく学習者が伸びていることである。一般的 には能力にはそれ程関係せず,学習者が大学や研究室で 過ごす時間に比例して伸びて行くようである。 ここで基本的に人が持っている能力や養成すべき技術 や知識についての項目を図 1 に纏めてみた。 こうした中で,今まで学習者に講義したりゼミで指導 してきて次の項目に特に問題があることに気がづいた。 まず第一に,集中力が続かない学習者が多い。授業やゼ ミで集中力が続かず,自分の興味のある WWW 上での ネットサーフィンやゲームを行う学習者もいる。第二に, 自己表現が苦手で自分の意見を纏められず,自己主張も ない学習者が多い。また,人と議論しても忍耐がなく, 意見を聞く能力も劣っている。第三に,自主,自立/自 律ができず,スケジュールを自分で設定できず,表題や

教育と学びについて

(情報系学習者の育成実践を通して学んだこと)

吉 田 幸 二 *

On Education and Learning

(A Practical Student’s Education for Information System Course)

Kouji YOSHIDA*

This paper reports on my teaching experience at the corporate and university levels over the past four years. It is im-portant to teach course fundamentals carefully and consistently. Students learn best through classroom enthusiasm and continuity of concentration. In this effort, what can a teacher do for students? How can teacher make effective contact with students to best encourage their development? Based on recent learning theory, I have gathered my thoughts and ideas on this thesis with my own experience and practice in mind. I report that it is a very effective learning method.

Key words: learning, education, motivation, leadership, management

Vol. 40, No. 1, 2006

*情報工学科 教授

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課題を自分で決定できない学習者が多いことである。第 四に,ストレスに対する耐性が弱い。課題や過度のプ レッシャーに耐えられなく,すぐ諦めたり学校に来なく なったりするのである。 以下の問題点に対処するためには,まず,学ぶ側の意 識の持ち方と日頃の習慣が重要と考え,次の基本的事項 を身に付けさせるようにした。



学習者の意識の持ち方持たせ方 ( 1 ) 今より一歩前進を 勉強や仕事とは,毎日のルーチンワークをこなすので なく,過去の履歴や蓄積情報から新たな変化を嗅ぎ取り 一歩一歩革新していくことが大切である。その毎日の積 み重ねが 3 年後 4 年後に大きく生きてくる。 ( 2 ) 他人の良いところを取り入れる努力を 同じ話を聞いても人は十人十色で,視点は違うし理解 力も相違する。したがって,人が聞いた内容をもう一度 反復し,今まで聞いていたことが違ったり,そんなこと を考えて聞いていたのかという新たな発見があるはずで ある。それを,反復・内省させしっかり身に付ける。 ( 3 ) モデルやスキーマを多く持つこと 理解するためには,自己の中に多くのモデルやスキー マ(概念等)を持っておくと,新規なことに対して理解 する時もその応用や変形で対処可能なことが多い。ま た,新しい事柄に対しても,古いモデルに何か追加した り拡張したりしていることも多い。 ( 4 ) 一定時間にやる仕事の密度を高める 毎日の訓練と積み重ねにより,こつこつと勉強や仕事 の密度や内容を濃くしていく努力が大切である。それに より自己のコンピュータ(脳)のスピードが速まり活性 化していくのである。 ( 5 ) まねる プログラミングや英語の学習の始めは,良いものを借 りたりまねたりして,流用し使い回して自分のものとし ていくことが重要である。 ( 6 ) 文章力や表現力 自己の考えを纏めてしっかり表現する。特に文書に書 く場合は会話的な表現を避け術語(例えば,「動き」は 「動作」へ)を使用して,表現する癖をつけること。 ( 7 ) イメージ形成力 自分の思ったことを,図や絵にして構造上の違いを しっかり把握し表現することに努める。それを繰り返し ているうちにイメージ形成力が上達してくるのである。 ( 8 ) 新規性に対する理解力や柔軟性 見えないもの(ソフトウエア)や芸術等は何が重要で どのような構造になっているかを理解することが難しい 場合が多い。これをわかりやすく,構造を与えて説明す る努力をすると,学習者も徐々に構造を与えて説明する ことが旨くなっていくものである。 ( 9 ) 気配りや細かいセンスを養う 資料を配付する場合でも,目上の人には先に配るのが 普通であるが気配りが抜け,右の目上の人を無視して左 から資料を回す等,気配りのない人だと思われても仕方 がないのである。 (10) 細かい所に行き届く訓練を これは日頃からセンシビリティーを良くしておく必要 がある。例えば,決算書等でゼロ(0)が一つ抜けてい ることがあるが,これが実際に適用されると大変な事に なる。こういったケアレスミスが,大きく影響する場合 は見落としてはならないし,これを素早く探しだす能力 は重要なのである。 (11) 想像と創造力 物事をただ漫然と聞いてるのでなく,他人がどう考え 何を言おうとしているかを想像たくましく聞く努力をし ていると,新しいことでも容易に理解できるようになる し,新たな新しい発見があるものである。 (12) 最善をつくせ 現在の状態で最善をやっておれば,参考資料が出て来 た時も,素早く変更可能なはずである。中途半端な所 で,手を抜いているから,良い参考資料もうまく活用で きないのである。 (13) レベル 君のレベルはどのレベルにあるか。世界に通用するか, 日本で通用するか,大学で通用するか,ローカルなクラ 図 1 人の能力や技術・知識

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ブで通用するか? 一般的に,何処の世界でもピンからキリがいるもので ある。現在の集団で自己がどのレベルにいるか把握して おくことは重要である。本質的なことを一所懸命したこ とは,意外と世界に通用するレベルに達しているかもし れない。 (14) 集中力の問題 できない学習者は,問題に対して少し考えた(ほぼ考 えず記憶を探索するのみ)だけで終わる。そして,他の ことを考え自分の気になっていることをやりだす。これ をやめる訓練がまず必要である。やることがなく考える ことがなくなっても他のことをしない訓練をする。その 忍耐力ができてから,新たに必要なことを考える訓練に 入れるのである。 (15) 考える訓練 考えたことがない学習者が、いきなり先生から考えろ と言われても無理である。まず,自分の好きなことから はじめてみよう。趣味や自分の小さいころの思い出であ る。これを思い出し自分の心に浮かぶ考えを表現してみ る。そうしたら,他人とは違った考えや思いが浮かんで くるであろう。感情や感覚が蘇ることもある。これを表 現する機会を何回も持ち,自然とわき出てくるものを表 現する。それができたら次に易しい問題を考えてそれを 自分なりの言葉で表現してみる。これを繰り返し,レベ ルを上げていけばだんだんと難しい問題に関しても考え られるようになるであろう。 (16) アウトプット 種々やっているが,結果的に同じ所をぐるぐる回って いて必要なアウトプットがでない学習者がいる。これは, ある一定レベルの作業はしているが,それ以上のことは していない場合が多い。例えば WWW 上でプログラムを 探してきて流用してはくるのだが,それ以上のことはで きない(していない)。従って,いくら探しても同じこ とである。自分である程度何かを作るのなら改造程度の ことはできないと,新たなものは生産させられないので ある。この一歩をいつまで経っても越えられないと,所 詮前進ができないのである。そして,必要なアウトプッ トが出て来ないままで終わってしまう。富士山の周りを 何回回っても頂上には着けないのと同じことである。 (17) 学習に関して 知識が増えれば理解は深まるし,相乗効果は高まる。 こうして,体系化が頭のなかでできてきて,より理解が 進んでくるのである。そして,ある知識の構造が理解で き体系化できれば,たとえば,同じようなコマンドを 持ったアプリケーションは,同じように扱えるか習得が 容易になる。しかし,この理解をうまく体系化と応用化 できないで覚えるだけの学習者は,同一内容についても 習得ができない。 (18) 繰り返しの必要性 知識を覚えることと,体で身につけさせることがある。 自分で何回もやるしかないし,やらせないと身に付かな い。水泳をいくら口頭で教えても泳げないのと同様,パ ソコンの操作は自分でやって体で身に付けることなので ある。 さて,ここでパソコンの扱いやプログラムの使い方は, 頭で考えるより身体で何回も練習して覚えることが多い ので,表 1 の論文と英語およびテニスの比較で考えてみ る。 論文は考えや抽象的なことをうまく頭の中で考えて組 み立てることが多い。これに対して,英語の会話やヒア リングはプログラミングと同様に練習の成果が大きく影 響する。それにも増してテニスや水泳などは,いくら知 識を獲得しても,練習しないことには上手くはならない。 したがって,大脳と小脳等のバランスの良い鍛え方が重 要と思う。 3.学ぶことと教えること さて,米国の最新の学習科学でのポイントに以下の 3 つの項目が記述されている11) ( 1 ) 学習者が教室に持ち込んでくる素朴概念〔知識 を獲得する前の概念〕は,しばしば科学的理論と矛盾す 表 1 論文と英語とテニスの比較 項目 論文 英語 テニス 備考 基本 文章と定型 音,単語, 定型的なス 習うよ 習得 的な論文の フレーズか トローク, り慣れ 内容 パターンを ら文章へ, ボレー,ス 習得 定型パター マッシュを ンを覚え使 習得 いこなす 応用 自己の主張 定型パター 動きながら, 無意識 を入れなが ンから会話 崩されても にでき ら繰り返す 種々応用 繰り返しが 可能 知力



   大脳

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る。そのような場合,学校で教えられる新たな科学的概 念や知識を理解するのが難しくなる。また,仮にテスト に備えて科学的な概念や知識を学習したとしても,教室 の外で間違った先行概念を保持し続けるであろう。 ( 2 ) 学習者が探求能力を発達させるためには,(a)事 実について幅広く深い基礎知識を身につけ,(b)その事実 を概念の枠組みの文脈と関連づけて理解し,(c)スムーズ に検索・応用できるように知識を体系化しなければなら ない。 ( 3 ) メタ認知能力を促進させる教師法では,学習者 に学習目標を立てさせたり,その目標への学習過程をモ ニタリングさせることによって,自ら学習を制御して進 めていく能力を高めることができる。 こうしたことを基本に,私の今まで実施してきた授業 やゼミをレビューし整理してみる。 3.1 授業 講義は,基本的なことはプレゼンテーションを用いて 概要説明した後(プレゼンテーション資料はコピーを配 付),個々の実際例を示し学習者が自分で行うことで理 解を進めるよう指導している。その後,応用問題を解い て行き,自分が納得するような練習をさせる。この繰り 返しにより,実践を通して学習したことを身に付けるよ うにする。また,授業の最後には必ず小テストをして定 着を図っている。また,記述式の設問や感想を書かせ, 文書を書く練習をさせる。期末試験は,第一に重要なこ とを記憶していること,第二に計算問題ができること, 第三に文書で与えられた課題に自己の意見と動向がしっ かり記述できていること,この三項目を主体にテストを 行う。これらの三項目をすべてこなせる学習者は,ほぼ 伸びているように思う。 大学院の授業は,まず人に理解しやすい設計書が書け ることを重視している。次に,設計書にしたがって CGI や JAVA により自分でプログラミングができ,デバック ができることを主体に実施している。設計書がしっかり 書けない院生が意外と多く,この書き方のポイントと表 現力や記述力を養成している。また,自分で自主的に調 査して,新しい内容を自分なりに理解しプレゼンテー ションして,院生間で討論して,内容や理解を深化させ る練習も行う。 3.2 学部ゼミ 私の研究室では,3 年前期まで授業や実習で学んだ項 目と,今後ゼミで必要な項目をチェックし,3 年生のゼ ミで必要な事項を決定している。 次に,4 年生は卒論が主であるが,3 年で習得させた 文書力や仕様書作りを元に卒論作成を実践していく。ま た,スケジュール管理により自己の卒論スケジュールを 管理することも学ばせる。 ( 1 ) 学部 3 年ゼミ まず,必要な理解チェック項目を以下に記述する。自 分でプログラミングができデバックできるか。[リテラ シー操作(Windows 系における OFFICE アプリケーショ ン操作と UNIX/LINUX におけるコマンド操作),サーバー とクライアントにおけるシステムの動作理解。] 次に,学部ゼミ 3 年で学ぶ内容と項目を記述する。 [文書の表現力,ゼミ生相互のコミュニケーション力,討 議力。ソフトウエア設計からプログラムテスト及び設計 仕様書記述力。ネットワークの基本を理解すると共に, その仕組みと動作の説明能力。 Windows 及び LINUX サーバーの構築。チームによるプログラム共同開発の練 習と,そのプログラムの結合によるシステムの構築。] さて,ここでゼミの運営において,文書力やコミュニ ケーション力を高めるために,ゼミにおいては週報と議 事録作成を義務づけている。週報は,今週実施した内容 や問題点を記述する。また,今週の結果を円グラフによ りパーセント表示し,自分で今週はどの位やったかを自 己申告させる。この記述により教授と学習者との認識の ズレがわかり,今後の指導にも役立っている。また,週 報や仕様書はゼミ時に全員分を事前にコピーを配付し, それを個人個人レビューしていく。図 2 に週報のフォー マット例を示す。 図 2 週報のフォーマット例

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このレビュー時に,全員分配布していることにより教 師のコメントを聞き,自己に参考になることを取入れた り,良いことはマネをすることにより記述力等のレベル が上がっていくようである。議事録は,前もって基本 フォーマットを渡しておき,それに従って記述させ,メ ンバー全員にメールで配付し,必要時は教師がコメント を返す。これにより,文書を纏める力が養われると同時 に,記録も残り,各々の課題も記述されているので,忘 れることが少なくなる等の効果もある。 一方,各々の課題提出や夏休みなどの長期の休暇は, スケジュールを自分で作成し,それを自己管理すること により目標と期限を守る練習をする。 ( 2 ) 学部 4 年生ゼミ 卒論は,ソフトウエア開発の手順に従い,卒論仕様書 作成を行う。そして,この卒論仕様書のレビューを行い, 仕様の明確化と卒論で作るプログラム開発の規模とスケ ジュールを,教師と学習者が共同作業を通じて納得した 上で見積もる。この「お互いが納得した上で」というこ とが重要で,これがないとやらされているという状態に なり,責任感が薄れ期限に間に合わないこととなる。一 方,卒論のシステム・イメージを図で描かせるが,これ が明確に確定し表現できていないと,後までターゲット が絞りきれず作成が長引くおそれがあるので, よく チェックしておくことが大切である。 そして,全体的な見積もりと実現の可能性が見えてか ら,プログラミング,デバック,テスト設計及びテスト を行い完成していく。余裕のある学習者は夏休み前まで にプロトタイプを作り,卒論で作るシステムイメージの 確定と問題点の洗い出しができている場合が多い。 週報と議事録は 3 年生ゼミの時と同様に実施している。 3.3 修士ゼミ 基本的に研究会発表を年間 12 件/ 1 人として,主 にスケジュールを組み,2 年後の修士論文作成を目指す。 この中で,学部卒業よりもさらに修士の能力の向上とし て以下の項目を重点的に指導している。 学部では,ある程度言われたことが正確にこなせると よい。修士では自発的に問題点を見つけ出し,その問題 を自らが解決していく力の養成が大切である。これによ り,企業での企画力や開発力も生まれてくると考えてい る。また,自己の作業や学部での授業の新しいカリキュ ラムの策定練習とスケジュール管理や工程管理を手伝う ことにより,精度を高めた工程管理等の見積もりの練習 も行っている。 ここでは,論文作成に関しては,期限を限って決定し て,まず書き上げることが大切である。そして,書き上 げてプリンタなどに出力することにより,脳の記憶が今 まで考えていた内容から解放され(短期記憶が再度使え るようになるからか),新たに書き上げた内容をベース に考えられ,前よりも一歩前進できる。 実際,書いて印刷して眺めて書き足したり修正したり を繰り返すことにより,色々な面の精度が高まっていく。 また,この期限を切る方法は,論文提出で作成の期限が 決められているので,これを旨く活用することである。 そして,期限ぎりぎりになるとテンションも高まり,効 率もアップして行くようである。 また,修士学習者には日頃の実践的な学習として,学 部の学習者の出席や成績,レポートの提出状況を EXCEL で纏める練習もさせ,こうした雑務を効率的に処理する 仕方を教え,後は各自で工夫するようにさせた。雑務を 素早くこなせる能力の養成は重要と思われる。なぜなら, 会社に入ってする仕事は,2 割は企画や研究やアイデア 等の仕事があるが,後の残りの 8 割はこのような雑務で ある。しかし,この雑務を効率的にこなせないようでは, 2割の時間をこの雑務で潰してしまい,本来重要な企画 や研究の時間が作れず,能力がないと見なされる場合が 多い。例えば,論文の作成でも文書をキーボードから入 力したり,図形を貼り付けたり,レイアウトを変えたり という作業に意外と多くの時間を費やす。しかし,この 作業を効率的に進められないようでは,論文の本来の研 究やアイデアを考える時間を生み出せず,結局,成果の ある論文を出せなくなる。 4.教師は何を学び何をすれば良いか 教師は技術や知識の他に何を学んでおけばよいのであ ろう。私は,企業での教育・研修経験から種々の講習や セミナーに参加した経験から,教師もリーダーシップや マネジメント及び心理学や認知科学を学んでおく方が講 義の管理やゼミのマネジメントがやりやすいと考えてい 11)15) ( 1 ) 人材育成のポイント 「人は如何に学ぶか」9)にある通り,学習者のやる気が 一番重要である。このやる気を出させるには,何をすれ ば良いか。まず,学習者に学ぶ必要性と興味を「気づか せる」ことである。また,講義や講演等もきっかけに過 ぎないのである。そして,この学ぶ切掛けは,十人十色 で無数に場合があるのである。

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したがって,教師は種々幅広い切掛けやチャンスの場 を与える必要がある。押しつけても,所詮無駄である。 飲みたくない馬を水のみ場に連れて行っても,飲まない のと同じことで,その状態にする,なるまで気長に待つ ことが大切である。 しかし,いつまでも待っているだけでは,前に進まな いので,その代わり,その状態になるように仕掛けるこ とも重要になる。 教師は,現在の自分の状態で考えがちである。昔は, 教師自身の知識も多くなく,自分自身の出来もあまり良 くなかったことを反省した方が良いかもしれない。 ( 2 ) 教師が陥りやすい落とし穴 時代は変わっても変わることと変わらないことがある。 今の自分と学習者の時の自分との環境の変化とステータ スの相違に気をつける。また,教師も自己反省が大切で あり,「学習者の目線」を忘れがちなのである。自分の 学生時代を思い出してみるとよい。自分も学習者の時は, 楽をして卒業しようと考えていたし,理解度も今より ずっと悪かったはずである。文章力もそれ程なかったか もしれない。 ( 3 ) 指導 「スーパーエンジニアリングへの道」12)に,良い指導者 とは「素晴らしい記憶力と,それにもまして素晴らしい タイミングのセンスを持っている」とある。現在のゼミ 生に答えをすべて教えてもよいのだが,もう少し待って ここまで到達してきたら,これは教えようと指導の戦略 を考えながら指導できる教師は,学習者をうまく育てら れるであろう。やみくもに,なんでもわからなかったら 教えるのでなく,気長に学習者が手探りしながらある所 まで到達するか,到達への助言をしてやるべきである。 そのためには,教師はそこへの到達の幾通りかのプロセ スがあることを理解している必要がある。図 3 で良い リーダーのポイントを記述する。 ( 4 ) 教えるタイミング(タイミングの重要性) なんでもやみくもに教えても理解できない。学習者が その問題を理解し何がわかっていないかがわかってレ ディネスの状態にあれば,理解しやすい。そのためには, 一度わからなくても問題を考えさせる準備がいるのであ る。 「初めてリーダーとなる人のコーチング13)の“リーダー にできること”の以下記述は参考となる。 • エネルギーと意欲を生み出す。 • 創造的アイデアの源になり,ほかのメンバーの創造性 を引き出す。 • チームワークを育てる。 • 全員が意欲的に取り組める共通の目標を立てる。 • チームのメンバーが問題を解決し,障害を取り除くの を手伝う。メンバーの成功を支える。 • 意見の交換を促す。メンバーが自分たちの問題を十分 に考えるようにする。 • 基準を徹底する(メンバーが基準に従わなかった場合 は,すばやく穏やかに,しかし毅然として対応する)。 • 自己管理ができなくなったら,グループの「良心」と して機能する(穏やかなプレッシャーをかける)。 • 成果と品質と効率を高めるよう励まし続ける。 5.私が考えるミニ教育エッセイ 次に私が教育をやっていて,主に考えたことや気づい たことをミニエッセイ風に纏めたものである。様々な視 点から記述しているのですぐには教育に関係しない部分 もあるが,全体的な指導も含めて参考にはなると思う。



学教師の意識の持ち方とその方法 ( 1 ) 教育とは 教育とは熱意と継続なり。しかし,熱意は直ぐ冷める のである。学習者は,回りの環境に左右されやすく,今 やる気になっても,問題や悩みにぶつかるとすぐなくな るのである。これを継続的に教師は与え続けれなければ ならない。図 4 に熱意の持続のさせ方を提示する。 ( 2 ) 教育の本質 教育とは,学習者の生産性を高めることであり,教師 の優越感を満足させるものではないのである。したがっ て,学習者が自主的に行動して,沢山のことを自分なり 図 3 良いリーダーとは

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に身に付けるかがポイントである。 如何に教師が「立板に水のごとく」流暢に講義して も,学習者の頭に残らないような講義は生産性がゼロに 近いのである。朴訥として突っかかりながら反面教師で 難解な講義をして,学習者が,これでは駄目だ「さっぱ り判らない講義だ」と思って,自分で一生懸命勉強する 講義も,時には学習者に行動をおこさせる意味では良い 講義かもしれない。 ( 3 ) ピグマリオン効果14) できると思って教える。学習者はこれはできて当たり 前という雰囲気でやると,難しいものでもそれ程抵抗な くやり始めるものである。ここで,種々同じ練習問題を 徹底的に解かせると身に付いて,自信がついてくるもの である(要するには,マジックをかけてその雰囲気にさ せることが大事である。予備校のカリスマ講師はこれが できるのであろう!)。 頭と身体の抵抗感のあるブロックする気持や身体の抵 抗感を外してやる。これにより,自らできる体験を生み 自信になり,自分でやる喜びを見つける。ここまで来れ ば,もうしめたものである。後は学習者のフォローを教 師はしていれば,自然とやるようになるであろう。自主 的にやれるようになれば,これで第一段階はクリアした も同然である。 ( 4 ) 褒めることとプレッシャー 褒めてやらせる。また,プレッシャーをかけてやらせ る。しかし,学習者のタイプにより褒められてやる学習 者と,プレッシャーをかけないとやれないタイプがいる。 また,怒られないとやらない学習者もいるものである。 したがって,よく学習者のタイプを見抜いて種々対応す る必要がある。 ( 5 ) 地道にこつこつと 何事も「石の上にも 3 年」とはよく言ったもので,3 年同じことを継続してやればなんとかなるもので,その 後のステップの土台みたいなものが形成されていて,次 へのステップアップが容易になるのである。 ( 6 ) 努力を見せる 学習者も良く見ており,教師が「言っていることと やっていることが一致しているか」見ているものである。 したがって,努力して種々汗水たらして働いたことを見 せる必要がある。古くから言われているが,山本五十六 の「言ってみてやって聞かせてさせてみて,褒めてやら ねば人は動かじ」は,今の時代も参考になる。 ( 7 ) 演劇と演出 同じことでも,演出とタイミングは重要である。特に 相対的なギャップを利用すればさらなる効果は期待でき る。演劇においても,面白い所や悲しい場面での演出は このギャップや誇張があるから,その面白さや悲しさが 際立って見えるのである。したがって,講義においても この効果を使えば種々興味を引かせることができるので ある。 神社仏閣で,仏壇を見て見ると,匂い,鳴り物,きら びやかさ等種々幻惑される演出が多く見られる(このよ うに何事も総動員した演出が大事であり,効果大なので ある)。 ( 8 ) 効果 教室では学習者は大人数,教師は一人なのである。こ こで,効果を発揮させるには,道具を効果的に使うこと である。パソコンやプロジェクターやマイクも道具であ る。これらを効果的に自己を拡大するよう使うのである。 ( 9 ) リーダーシップ 教師が講義している時は,その教室でのリーダーなの である。したがって,教室内をうまくコントロールする のは教師の役目である。寝ている人を叱るのかそのまま 見過ごすのか? これは他の学習者に迷惑が掛かってい るかいないかが,まず目安であろう。そして,いびきを かきだしたらこれはもう迷惑な段階を通り過ぎている。 これを見過ごして講義していたら,まあリーダーシップ のない教師と学習者から見られても仕方がないのである。 (10) リズム 講義にもリズムがある。学習者とのリズムがあってい 図 4 熱意の持続のさせ方

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るとお互い理解がうまく行っているであろう。学習者の レベルと合っていなくて,さっぱりわからないような授 業だと空気が重い。これを察知できない教師は失格であ る。このセンシビリティーは最低は持たないと駄目であ る。上手く行っている講義は,学習者の誰かが授業の講 義にうなずいているはずである。これを目安に講義する とリズムも良いかもしれない。ここで,うなずいている 学習者がそうでなくなると,そこからは学習者には難し い話なので詳しく説明が必要な事項かもしれない。 (11) 双方向コミュニケーション 学習者と教師は常に双方向コミュニケーションをする ことが大切である。まず,お互いのベースを確かめてお きお互いが納得できる。環境と場を確かめておくことが 必要である。なぜなら,教師としては,学習者ならこん な基本的なことはわかっていると思いながら講義してい る。しかし,そうでないとわかってから対応するとかな りな時間ロスと手戻りが発生して,授業の進度が大きく 狂うことがあるのである。 また,アンケートなどを取り,それの意見を纏めてパ ワーポイント等を使って発表すると,教師はアンケート を良く読んでくれていると認識すると同時に,次回は自 分が書いた意見が発表されるかなという期待もあり,一 生懸命アンケートも書くようになり相乗効果も期待でき るのである。 (12) 長期計画と戦略と 全体の講義の目的とスケジュールは,大まかには計画 しておく必要はある。しかし,これに固執してはいけな い。やはり,学習者のレベルにより臨機応変に変えてい かなければマッチしないことが多い。 (13) 変化 変化は必要である。いつも同じマンネリの講義では飽 きるのである。種々,工夫をして学習者を飽きさせない 講義をすることも教師の仕事である。 6.考察と反省 6.1 教師に必要な能力 教えるためにはどのような事が重要であるか考えてみ る。年齢の変化に伴い,技術や知識が重要な比率と,人 との対応やマネージメントやコミュニケーション等の比 率に変化があるように思う。20 才代では技術や知識が 9 割を占める比率が,50 才代は逆に人との対応やマネージ メントやコミュニケーション等の割合が重要であり 8 割 位になる。企業でも専門職と管理職に別れているように, やはり,教師も主に専門的に研究する人と,主に教育を 主体とし,人を励まし,リーダーシップを発揮して,学 習者を導いていく人材が必要と思う。そのためには,最 近話題のコーチングやリーダーシップについての知識を 教師も学んだ方がより効果的に学習者の指導もできるよ うに思う9)15) 6.2 教師に向く人向かない人 今までの体験と経験から,教師に向く人と向かない人 を考えてみた。教師は企業の管理職と違い,研究室とい う一国一城の主には違いないが,一般的には,部下もい ない主である。したがって,コピーや文書作成等の雑務 もすべて効率よく片づけられる人でないと勤まらない。 企業の管理職で,指示ばかりで仕事をしてきた人の中に は,ある日突然講義とその資料作成を命じられ,戸惑い と挫折感を味わう者もいる。この時,大切なことは自分 でなんでもやるという気持ちを持ち,奮起できるかどう かである。 また,自分の息子や娘と同等の年ごろの学習者と目線 を同じ位にして,コミュニケーションができるかどうか も問われることとなる。これらをクリアできれば,第一 関門は突破できる可能性がある。そして,これから 10 年 あまりを有効に過ごすには,以下の綱目に注意して日頃 生活できるようになれば,大学生活も上手く行くことと 思われる。 ( 1 ) 教師に向く人 • 柔軟な気持ちを持ち時代の変化に対応できる人。 • 学習者等の気持ちが理解でき,また。理解できるよう に努めコミュニケーションがよくできる人。 • カリスマ性がある人(なんでも良いから,学習者にこ の教師は他の教師と能力かセンスの良さか技術等で違う という印象が与えられるか) • 好奇心旺盛な人。教えることが好きな人。人が好きな 人。人に興味がある人。 • 民主的な人。腰の低い人。学習者と対等レベルになれ る人 ( 2 ) 教師に向かない人 • 頭が固く柔軟性がない人。 • 自分の考えに懲り固まり,新しいことを受け入れよう としない人。 • 好奇心が旺盛でない人。教えることが嫌いな人。人が 嫌いな人。人に興味がない人。 • 権威主義的な人。威圧的な人。上に立っていないと気 がすまない人。

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7.ま 結局は,学習者は自ら自主的に勉強をすべきである。 それを教師は効果的に助けたり,熱意を与えたり,持続 させるよう工夫するのである。学習者により,褒めれば よい人とプレッシャーを与えないとうまくできない人も いる。したがって,教師は学習者の資質や性格をよく見 抜いて効果的に,タイミング良く指導していく必要があ る。そして,教師は教えながら学ぶということを年頭に, 日々精進していけば効果が出ると思う。 参 考 文 献 1) 吉田幸二,内田雅幸,小泉寿男:“企業から大学教 育への一取組について”,信学技報,Vol. 96, No. 75, pp. 69–76 (1995) 2) 市村 洋,鈴木雅人,小畑征二郎,吉田幸二,酒 井三四郎,水野忠則:“学習意欲の喚起を目指した マルチメディア授業支援システム”,日本工学教育 協会「工学教育」, Vol. 48, No. 2 pp. 2–8, (2000/3) 3) 吉田幸二,河野典明,市村 洋,水野忠則,酒井 三四郎:“これからの情報システム教育のあり方と 課題”,情報処理学会/情報システムと社会環境シ ンポジウム,情処研報,Vol. 2001, No. 3, pp. 17–23 (2001) 4) 吉田幸二,黒田正博,市村 洋,水野忠則,酒井 三四郎:“企業内教育による IT 技術者育成実践とそ の評価”,情報処理学会/モバイルコンピューティ ングとワイヤレス通信研究会,Vol. 2000, No. 87, pp. 93–99 (2000) 5) 仲田和宏,阿久津智則,梶浦文夫,市村 洋,吉 田幸二:“ Linux 演習の授業と携帯電話を用いた学 習支援システム”,教育システム情報学会中国支部 第 4 回研究発表会講演論文集,pp. 22–27 (2004) 6) 仲田和宏,阿久津智則,梶浦文夫,市村 洋,吉 田幸二:“ブレンディッドラーニングにおける Linux 授業の実践”,情報処理学会/マルチメディア,分 散,協調とモバイル (DICOMO 2004) シンポジウム論 文集,Vol. 2004, No. 7, pp. 245–248 (2004)

7) Kazuhiro Nakada, Tomonori Akutsu, Chris Walton, Satoru Fujii, Hiroshi Ichimura, Kunihiro Yamada, Kouji Yoshida, “Practice of Linux Lesson in Blended Learn-ing”, KES ’2004, Proceedings, Part 2, Knowledge-Based Intelligent Information and Engineering Systems, pp. 920–927 (2004) 8) 吉田幸二,仲田和宏,阿久津智則,藤井 諭,市 村 洋:“情報系学習者の育成実践を通して学んだ こと”,情報処理学会/マルチメディア,分散,協 調とモバイル (DICOMO 2005) シンポジウム論文集, Vol. 2005, No. 6, pp. 437–440 (2005) 9) 稲垣佳代子,波多野誼余夫:“人はいかに学ぶか”, 中公新書 (1989/1) 10) R · J ·スタンバーグ:“アメリカの心理学者心理学教 育を語る”,北大路書房 (2000/6) 11) 米国学術推進会議:“授業を変える―認知心理学の さらなる挑戦”,北大路書房 (2002/10) 12) G · M ·ワインバーグ:“スーパーエンジニアへの道 ( 技 術 リ ー ダ ー シ ッ プ の 人 間 学 )”, 共 立 出 版 (1991/10) 13) パトリック · J· マッケンナ/デビット · H · マイス ター:“初めてリーダーとなる人のコーチング(チー ムの力を引き出し,個人を活かす 23 章)”,日経 BP (2003/4) 14) J.スターリング・リビングストン:“ピグマリオン・ マネジメント”,ハーバードビジネスレビュー(2003/4) 15) ジョージ・エッケス:“ファシリテーションーダー シップーチーム力を最強にする技術”,ダイアモン ド社 (2004/9)

参照

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