133
日サ会誌 2013, 33(1) 〔症例報告〕 レース鳩飼育者に発症した鳥関連過敏性肺炎レース鳩飼育者に発症した急性鳥関連過敏性肺炎の1例
横尾慶紀,北田順也,錦織博貴,山田裕一 ,藤井 偉,猪股慎一郎,工藤和実,千葉弘文,白鳥正典,山田 玄, 高橋弘毅Keiki Yokoo, Junya Kitada, Hirotaka Nishikiori, Yuichi Yamada, Masaru Fujii, Sin-ichiro Inomata, Kazumi Kudo, Hirofumi Chiba, Masanori Shiratori, Gen Yamada, Hiroki Takahashi
【要旨】
症例は54歳,男性.湿性咳嗽,血痰,労作時呼吸困難が出現し,健康診断で胸部X線写真上すりガラス影を指摘され近 医を受診した.胸部CTで両側上肺優位に肺野濃度上昇を認めたため,精査目的で当院に入院となった.問診により,幼少 時から自宅でレース鳩を飼育していることが判明し,鳥関連過敏性肺炎を疑った.気管支肺胞洗浄ではリンパ球の増加と CD4/8比の低下を認め,経気管支肺生検ではリンパ球浸潤を主体とする胞隔炎を認めた.また,患者が飼育している鳩血 清および鳩糞と患者血清との間で行った沈降抗体反応は陽性であった.原因抗原からの隔離により肺病変が改善し,レー ス鳩を処分したのちに行った飼育小屋での環境誘発試験は陽性であった. 以上からレース鳩飼育により急性発症した鳥関連過敏性肺炎と診断した.一般に本症は画像で線維化像を示す慢性型の 場合が多い.本症例では,鳩の飼育数の増加によって抗原暴露量が著しく増加したことが急性型の発症を呈した原因と考 えられた. [日サ会誌 2013; 33: 133-137] キーワード:レース鳩,鳥関連過敏性肺炎,間質性肺炎,過敏性肺炎,急性発症A Case of Acute Bird-related Hypersensitivity Pneumonitis in a Pigeon
Breeder for Race
Keywords: pigeon for race, bird-related hypersensitivity pneumonitis, interstitial pneumonia, hypersensitivity pneumonitis,
acute onset 札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 著者連絡先:横尾慶紀(よこお けいき) 〒060-8543 北海道札幌市中央区南一条西16-1-293 札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 E-mail:[email protected]
Department of Respiratory Medicine and Allergology, Sapporo Medical University School of Medicine
はじめに
過敏性肺炎は,免疫学的に惹起された肺胞隔壁や細気 管支などの肺実質の炎症性変化である.感受性宿主が, 原因となる有機粉塵を反復吸入することで経気道的に感 作されて生じるアレルギー性肺疾患である1).原因となる 抗原吸入により発症し,その程度は原因となる抗原の暴 露の頻度と量,宿主側の因子が関係していると考えられ る.わが国ではTrichosporonを抗原とする夏型過敏性肺 炎がもっとも多い2). 鳥関連過敏性肺炎は,鳥類の血清蛋白や排泄物を原因 抗原とする過敏性肺炎で,臨床像から急性・亜急性発症 型と慢性発症型に分けられる.急性発症型は,抗原暴露 後の数時間から数日に症状を示し,亜急性発症型は数日 から数ヵ月間をかけて,慢性型は数ヵ月から数年余にわ たって徐々に発症するとされる.さらに,慢性発症型に は,急性症状を反復することにより慢性化する再燃症状 軽減型,急性症状を認めずに不十分な抗原回避から徐々 に進行する潜在発症型がある1).鳥関連過敏性肺炎は慢性 過敏性肺炎の潜在発症型をとる場合が多く,急性型は約 12%とされている2).診断には詳細な問診が重要であり, 治療は抗原回避が基本である. 今回,レース鳩の飼育数の倍増を契機に発症した鳥関 連過敏性肺炎の症例を経験した.長期間の鳩への暴露が あったことから,再燃症状軽減型または潜在発症型が疑 われたが,諸検査から急性型の鳥関連過敏性肺炎と診断 した症例を報告する.135
日サ会誌 2013, 33(1) レース鳩飼育者に発症した鳥関連過敏性肺炎 〔症例報告〕 沈降抗体反応検査を施行した.患者が飼育しているレー ス鳩から検体を採取し鳩血清と鳩糞の抗原物質を作成し, 寒天ゲル二重免疫拡散法による沈降抗体反応を施行した 結果,本患者の血清とレース鳩血清(Figure 4)および 鳩糞との間に沈降線が観察された.また,寒天ゲルを用 いて患者血清と他地域に生息する鳩血清との沈降抗体反 応を施行した結果,他地域の鳩血清と患者血清との間に も沈降線が観察された.すなわち,患者血清には鳩由来 蛋白に対する抗体が存在することが示された. また,環境調査を行ったところ,レース鳩飼育小屋は 患者自宅の近隣の建物で,通気性は悪く,内部は清掃さ れていないために,床に鳩の羽毛や糞が堆積していた. 患者と家族には,原因である鳩を回避することが治療に 必要であることを説明し,レース鳩の処分と飼育小屋の 清掃を指導した.経過観察中は,レース鳩からの回避に より胸部X線写真で認められたすりガラス影は徐々に減 少し消失した. 2011年1月,鳩飼育小屋に15分程度入室することで環 境誘発試験を行った.すでにレース鳩の処分と室内の清 掃後であったが,その数時間後より発熱,湿性咳嗽,喘 鳴を認め,胸部X線写真では両側肺に浸潤影が出現した (Figure 5).環境誘発試験陽性と判定した. 以上から急性鳥関連過敏性肺炎と診断した.その後は 鳩からの回避を継続し,肺病変の再発なく経過している. 2012年10月に施行した血液検査では,SP-A 13.8 ng/mL, SP-D 109 ng/mL,KL-6 151 U/mLに低下していた. Hematology WBC 5,200 /µL Neu 40.5 % Lym 48.7 % Mono 5 % Eos 5.2 % Baso 0.6 % RBC 512×104/µL Hgb 16.8 g/dL Hct 46.7 % PLT 20.8×104/µL Specific IgG Pigeon >200 mgA/L Parrot >200 mgA/L C. herbarum 69.2 mgA/L A. fumigatus 108 mgA/L C. albicans 98.9 mgA/L A. alternata 59.2 mgA/L Trichosporon asahii Ab – Biochemistry TP 9.1 g/dL Alb 4.2 g/dL T.Bil. 2.3 mg/dL AST 44 IU ALT 43 IU LDH 217 IU ALP 172 IU Ca 9.2 mEq/L BUN 17 mEq/L Cre 0.7 mEq/L Na 137 mEq/L K 4.1 mEq/L Cl 103 mEq/LBlood gas analysis (room air)
PaO2 63.8 Torr PaCO2 44.9 Torr pH 7.41 Serology CRP <0.1 mg/dL RF 65 IU/mL ANA – Aniti-CCP Ab 5.9 U/mL Aniti-Sm Ab – Anti-RNP Ab – Anti-SS-A Ab – Anti-SS-B Ab – Anti-Scl-70 Ab – Anti-Jo-1 Ab –
Serum markers for interstitial pneumonia
SP-A 55.6 ng/mL
SP-D 343 ng/mL
KL-6 1,577 U/mL
Table 1. 血液検査
Pulmonary function tests
VC 2.44 L %VC 71.6 % FVC 2.23 L %FVC 65.4 % FEV1.0 1.57 L FEV1.0% 70.4 % TLC 3.69 L %TLC 70.8 % DLco 12.59 mL/min/mmHg %DLco 54.7 % Table 2. 呼吸機能検査 Table 3. 気管支肺胞洗浄液
Bronchoalveolar lavage fluid
Toral cell count 8.871×107/mL
recovery rate 68.0 % Macrophages 29.9 % Lymphocytes 68.3 % Neutrophils 0.6 % Eoshinophils 1.2 % CD4/8 0.67 % T cell 62.3 % B cell 2 % Cytology Class Ⅱ Mycobacterium negative
Figure 3. 病理組織所見 肺胞壁の肥厚とリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認める. 明らかな類上皮細胞性肉芽腫は認めない. Figure 4. 沈降抗体反応 患者血清と鳩血清間で沈降線を認める. Figure 5. 環境誘発試験後の胸部X線写真 両肺野に浸潤影およびすりガラス影を認める.
考察
鳥関連過敏性肺炎は急性型よりも慢性型が多く3),とく に潜在発症型が約半数を占め,特発性肺線維症との鑑別 がしばしば問題となる1, 4).これまでのわが国での急性型 および慢性型の鳥関連過敏性肺炎の症例報告では,原因 として羽毛布団,インコ,鳩などの報告が多い5–7).しか し,レース鳩を長期間飼育後に急性発症した鳥関連過敏 性肺炎は検索した範囲ではみられなかった.レース鳩は, いわゆる伝書鳩として知られており,飼育者数は約10,000 人といわれている8).家族ぐるみで飼育に取り組んでいる 場合も多く,これまでに家族内発症の報告がありHLAの 関与が報告されているが9, 10),現時点では遺伝的背景との 関連は結論が出ていない.本症例では鳩飼育に携わって いる家族からの発症者はいなかったが,レース鳩飼育者 には潜在的な鳥関連過敏性肺炎の存在が示唆される. 一般に,鳥関連過敏性肺炎は慢性型が多いことと長期 間の飼育歴があることから,本症例では慢性鳥関連過敏 性肺炎が疑われた.しかし,症状の出現が急性で,過去 に同様の症状がなかったことと,胸部CTは非区域性の GGOが主体であり,線維化を示唆するような所見11)は認 めなかったことから急性型と考えられた.病理所見も胞 隔炎が主体で,線維化所見を認めなかった.急性発症を 呈した理由としては,レース鳩の飼育数を増やしたこと と,飼育小屋の清掃や換気を十分に行っていなかったこ とが推定された.すなわち,それまでの抗原量では発症 を免れていたが,レース鳩が100羽から200羽に増加した ため,抗原量が急激に増加したことが原因と考えられた. また,この年は本症例の居住区域の気候が例年に比較し て高温多湿であり,無風の日々が多かったことも,暴露 抗原量の増加につながったと考えられる. 一方,飼育小屋の状態から真菌の関与も疑われたため, 主な真菌に対する特異的IgGを測定した結果(Table 1), それらの抗体価の上昇を認めた.Trichosporon asahii抗 体は陰性であったが,真菌に対する特異的IgGが高値であ ることから,発症に真菌の関与を完全には否定できなかっ た.しかし,鳩とオウムに対する特異的IgGはきわめて高 値で,鳩関連蛋白との沈降抗体反応と環境誘発試験が陽 性であることから,最終的に鳥関連過敏性肺炎と診断し た. 本症例のように,鳥関連過敏性肺炎と夏型過敏性肺炎 などの他の過敏性肺炎との鑑別が問題になる場合,BALF 中の鳩抗体および抗真菌類抗体の測定を行うことが有用 と報告されている12).本症例ではBALF中の抗体を測定 していないが,過敏性肺炎の症例には積極的に施行する べきと思われた.吉澤ら13, 14)は,急性期はBALFにおけ るCD4/8比が低下し,IL-2の増加することを報告してい る.また,慢性期のBALF中ではサプレッサー機能の低 下に伴いCD4陽性T細胞が優位になり,IL-6の産生増加 が起こり,線維化に至ると報告している.本症例では, BALF中の総細胞数とリンパ球数の増加およびCD4/8比 の低下を認め,急性期の所見に相当すると考えられた. 鳥関連過敏性肺炎の診断において,血清のほかにBALF137
日サ会誌 2013, 33(1) レース鳩飼育者に発症した鳥関連過敏性肺炎 〔症例報告〕 中の抗体価を測定することは重要であり,非典型的な経 過を示す際にはBALF中のIL-2,IL-6などを測定すること が重要と思われた. 急性過敏性肺炎の治療は抗原暴露からの回避が基本で あるが,病変が改善しない場合はステロイド療法を検討 する1).本症例では,入院後に発熱,咳嗽,呼吸困難など の症状は比較的早期に改善し,それに続いて画像所見の 改善を認めたため,抗原回避のみで十分と考えられた. 本報告の要旨は,第32回日本サルコイドーシス/肉芽 腫性疾患学会総会(2012年10月5日,福岡市)で発表した.引用文献
1) 稲瀬直彦,大谷義夫,吉澤靖之.鳥飼病の診断と治療.日胸 2003; 62: 124-33.2) Ando M,Konishi K, Yoneda R, et al. Difference in the phenotypes of bronchoalveolar lymphocytes in patients with summer type hypersensitivity pneumonitis, farmer's lung, ventilation pneumonitis, and bird fancier's lung: report of a nationwide epidemiologic study in Japan. J Allergy Clin Immunol 1991; 87: 1002-9.
3) Yoshizawa Y, Ohtani Y, Hayakawa H, et al. Chronic hypersensitivity pneumonitis in Japan: a nationwide
epidemiologic survey. J Allergy Clin Immunol 1999; 103: 315-20. 4) 吉澤靖之,立石知也,岸 雅人 , 他.慢性過敏性肺炎と特発性肺 線維症の類似性.呼吸 2007; 26: 447-54. 5) 石黒 卓,高柳 昇,宮原庸介.酪農業者に発症した鳥関連過 敏性肺炎の1例.日呼吸会誌 2010; 48: 985-9. 6) 西川恵美子,大江美紀,峠岡康幸.羽毛布団縫製工場勤務によ り発症した急性過敏性肺炎の1例 日呼吸会誌 2011; 49: 93-6. 7) 馬島 徹,小原富士男,北村 登 , 他.インコによる鳥飼病の 2例.日胸疾患会誌 1990; 28: 756-60. 8)社団法人 日本鳩レース協会〈http://www.jrpa.or.jp/〉 9) 岡本 師,宮崎泰成,稲瀬直彦.過敏性肺炎.日胸 2010; 69: 701-8. 10)宮崎泰成.過敏性肺炎の性差.日胸 2011; 70: 1146-53.
11) Remy-Jardin M, Remy J, Wallaert B, et al. Subacute and chronic bird breeder hypersensitivity pneumonitis: sequential evaluation with CT and correlation with lung function tests and bronchoalveolar lavage. Radiology 1993; 189: 111-8. 12) 高山幸二,倉持 仁,稲瀬直彦.環境調査と誘発試験が有用で あった夏型過敏性肺炎の1例.日呼吸誌 2012; 1: 119-23. 13) 吉澤靖之,角 勇樹,久内 薫 , 他.鳥飼病におけるサイトカ インネットワーク.日サ会誌 1997; 16: 49-50. 14) 吉澤靖之, 宮崎康成, 大谷義夫, 他. 鳥飼病. 日胸 2005; 64: 583-92.