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平成22年度サービス産業イノベーション促進事業,国際医療交流調査研究事業報告書

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平成22年度 サービス産業イノベーション促進事業

(国際医療交流調査研究事業)

報告書

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平成22年度 サービス産業イノベーション促進事業(国際医療交流調査研究事業)

報告書

― 目 次 ―

第1章 本事業の趣旨および実施概要 ... 4 1-1.本事業の趣旨 ... 4 1-2.事業実施概要 ... 6 1)インバウンド事業 ... 6 2)アウトバウンド事業 ... 7 1-3.実施体制 ... 8 1)事業実施体制 ... 8 2)外国人患者の受入スキーム ... 10 第2章 国内医療機関における国際医療交流への取り組み実態 ... 11 2-1.調査目的 ... 11 2-2.調査方法 ... 11 1)アンケート調査 ... 11 2)ヒアリング調査 ... 12 2-3.調査結果 ... 13 1)国際医療交流への取り組み実態 ... 13 2)我が国における国際医療交流の可能性 ... 29 第3章 インバウンド対象国における医療需要 ... 33 3-1.調査目的 ... 33 3-2.調査内容 ... 33 1)各国の医療に関する概況調査 ... 33 2)各国における医療需要調査 ... 33 3-3.調査結果 ... 35 1)中国 ... 35 2)ロシア ... 55 3)サウジアラビア ... 72 4)UAE ... 87 第4章 海外からの外国人患者の受入実証 ... 101 4-1.外国人患者の受入実証事業の全体像 ... 101 1)実施目的 ... 101 2)事業実施内容・プロセス ... 101 3)実施主体 ... 101 4)実施期間 ... 101 4-2.外国人患者の受入実証事業で提供するサービス ... 102 1)渡航前に提供するサービス ... 102 2)滞在中に提供するサービス ... 107 3)帰国後に提供するサービス ... 108

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4-3.外国人患者受入結果および表出された問題点と解決の方向性 ... 109 1)実証事業期間中の外国人患者受入結果 ... 109 2)患者に対するアンケート調査 ... 110 3)受入医療機関の受入実施後の現場調査 ... 114 4)受入案件や各調査から明らかとなった問題点 ... 117 5)問題点の解決に向けた提言 ... 120 第5章 日本の医療に関する認知度の向上および受入環境の整備 ... 124 5-1.日本の医療に関する認知度の向上 ... 124 1)カタログの作成および配布・有用性検証 ... 124 2)Web サイトの作成・公開および有用性検証 ... 135 3)認知度向上に向けた今後の方向性 ... 144 5-2.受入環境の整備 ... 147 1)国内の医療機関に対する受入環境構築に関するコンサルテーション ... 147 2)外国人患者に対する価格設定の検討 ... 156 3)受入に伴う紛争に関する対応方策の検討 ... 174 第6章 日本の医療の海外展開に関する可能性と課題 ... 180 6-1.中国への展開に関する可能性と課題 ... 180 1)中国への医療機関の展開に関する制度・規制 ... 180 2)中国における展開可能性の検証 ... 195 6-2.ロシアへの展開に関する可能性と課題 ... 200 1)ロシアへの医療機関進出に関する制度・規制 ... 200 2)ロシアにおける展開可能性の検証 ... 211 第7章 国際医療交流の推進に向けた提言 ... 216 7-1.国際医療交流事業を通じて明らかになった事項 ... 216 1)国内医療機関における受入体制整備 ... 216 2)インバウンド対象国における医療需要への訴求 ... 217 3)外国人患者の受入実証 ... 218 7-2.国際医療交流のさらなる推進に向けた課題と取組事項 ... 220 1)インバウンド事業の推進に向けた課題と取組事項 ... 220 2)アウトバウンド事業の推進に向けた課題と取組事項 ... 222 参考資料―1.Request Form ... 224 参考資料―2.同意書 ... 225 参考資料―3.外国人患者用案内多言語サインリスト ... 226

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第1章 本事業の趣旨および実施概要

1-1.本事業の趣旨

日本は戦後、国民皆保険制度をはじめとする世界に誇れる優れた医療制度を構築してきた。し かしながら、これまでの日本の医療は、日本人を対象とした、医療行為の種類と価格を事前に設 定する制約の下で供給される社会保障政策として展開してきたため、国内外における医療サービ スに対する潜在需要の顕在化、さらにはその多様化が進む中、将来的にはそれらに応え得る供給 が実現できない可能性が生じてきている。 このような状況を打開し、新たな可能性を引き出すために、日本の医療が、優れた社会保障制 度としての側面を維持しつつ、その一部を世界に対して開くことが必要である。このような「医 療の国際化」を進めることにより、国外における医療需要に対しては、我が国で提供されている 高度医療を中心に応えることで、症例数の増加に伴う知見の蓄積や技術水準の向上が期待される。 また、国外の外国人患者を受け入れることは、国内の医療機関にとって保険診療以外の手段によ る収入の獲得に繋がる。その結果として、診療内容・診療方法など医療サービスの多様化やその 周辺サービスの市場形成と資本蓄積を通じた医療産業(医療サービス産業、医薬品産業、医療機 器産業等)の拡充をもたらし、ひいては国内の患者に対する医療サービスの向上にも資するもの となる。さらにこうした医療の国際化は、医療保険財政の負担軽減にもつながるものであると期 待される。 また、国内の様々な環境整備だけではなく、日本の医療機関の海外展開を促すことによって、 日本の医療に対する国際的な認知度を高め、グローバル水準に基づく日本の医療技術・サービス の充実が期待できる。 我が国の医療における費用対効果は国際的に見ても大きく、技術的水準も高いと評価されてい る。またそれだけでなく、食文化・生活習慣やほとんどの国民が受けるようになっている健診制 度も高く評価されている。こうした健康に関する我が国の文化やそれに立脚した医療サービスを 国外にも提供することにより、ものづくり分野以外における国際貢献と、国内における関連産業 の活性化の両方がもたらされると考えられる。 図表・ 1 国際医療交流による好循環の形成イメージ 出所)経済産業省サービス産業課提供資料

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医療の国際化については、近年、国内においても大いに注目を集めており、国や地方自治体だ けでなく、個々の医療機関レベルにおける独自の取組みも散見されるようになってきている。し かしその一方で、未だに多くの医療現場では外国人患者の受入に対する十分な体制が整っておら ず、受入を支援したり、受入環境を整備するための組織も必要とされている。 経済産業省商務情報政策局サービス産業課では、2008 年度にはサービス・ツーリズム(高度健 診医療分野)研究会、続く2009 年度には国内の医療機関及び国際医療サービス支援センターによ る外国人患者受入に関する実証実験を実施してきた。特に2009 年度事業においては、医療ツーリ ズムの継続的実施に向けて、国際医療サービス支援センターに求められる機能や、国内の各医療 機関において外国人患者を受け入れるための体制・環境に関する課題等を明らかにした。 「平成22 年度サービス産業イノベーション促進事業(国際医療交流調査研究事業)」(以下、本 事業)は、日本の医療における好循環の創出が期待できる医療の国際化に向けて、我が国が強み とする医療分野を抽出・整理するとともに、国内の医療機関における受入体制のためのマニュア ル整備、ならびに医療機関・外国人患者の双方を支援する組織の在り方の検討、我が国の医療技 術を国際的に提供するための国内外の拠点構築、人的ネットワーク作りを促進することを目的と して実施するものである。

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1-2.事業実施概要

本事業は、日本の医療機関が来日した外国人患者に対して日本の医療サービスを提供するイン バウンド事業と、日本の医療機関等が海外で医療サービスを提供することを通じて、日本のみな らず海外諸国双方にとっての発展を目指すアウトバウンド事業からなる。国際医療交流の実現に 当たっては、インバウンド事業とアウトバウンド事業の両方を進めていくことが不可欠である。 図表・ 2 国際医療交流調査研究事業の全体像 国際医療交流 インバウンド事業 日本の医療機関が、来日した外国人患者に対し て、日本の医療サービス(健診・検診、治療、リハ ビリ等)を提供すること。 アウトバウンド事業 日本の医療機関等が、海外で医療サービスを提 供することを通じ、双方にとっての発展を目指す こと。またそれに伴う、関連メーカ等の海外展開 や、医療機関同士の交流等も含まれる。 Medical Excellence JAPAN (MEJ)※ ※MEJ は、本事業のプロジェクト名であるとともに、日本の医療機関が国際的な活動を行うにあたり 必要な支援サービスを提供する組織の名称でもある。組織としては、平成22 年度は複数の企業等に よるコンソーシアムとして仮想的に運営した。 出所)野村総合研究所作成 1)インバウンド事業 インバウンド事業では、海外からの外国人患者の受入を促進することを目的として、国内の 医療機関や来日が想定される海外在住の方に関する調査を実施するとともに、実際に外国人患 者を受け入れて治療サービスを提供する受入実証事業を実施した。 (1)国内医療機関における国際医療交流への取り組み実態調査 国内の医療機関における国際医療交流の現状、特に外国人受入の実態およびその実施に伴う 課題、今後の国際医療交流に対する取り組みの意向等を把握することを目的とした調査を行っ た。具体的には、精神科病院等を除く国内の病院と診療所など、約8,000 の医療機関を対象と したアンケート調査を行った。また、既に外国人患者の受入を行っている、もしくはこれから 受入を開始する予定がある医療機関を対象としたヒアリング調査も併せて実施した。 実施内容および調査結果については、第2 章にて詳説する。 (2)インバウンド対象国における医療需要調査 自国以外で医療サービスを受けることを目的として多数の患者を送出する可能性のある、中 国、ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(以下、UAE)において、自国および他国の

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医療に対する需要を把握することを目的とした調査を実施した。 具体的には、各インバウンド対象国において所得水準が一定以上の層に対するインターネッ トアンケートを実施し、当該国における医療の実態や、日本を含む他国の医療に対する認識等 を把握した。 実施内容および調査結果については、第3 章にて詳説する。 (3)海外からの外国人患者の受入実証 国内の医療機関で外国人患者を受け入れて、治療を施した後、帰国してもらうという一連の 受入が適切かつスムーズに実施されるには、体制面や機能面等に多くの課題が存在する。そこ で、実際に外国人患者の受入を実施する中で、必要な機能や実施体制の洗い出しや受入環境を 実現するための課題を抽出し、その解決に向けた方策を検討した。 実施内容および実証の結果については、第4 章にて詳説する。 (4)日本の医療に関する認知度向上業務および受入環境の整備 昨年度実施した国際メディカルツーリズム調査事業の結果、「日本の医療」が認知されていな いということが、インバウンドの推進における1 つの大きな問題点であるとわかった。そこで 本事業では、インバウンド対象国において「日本の医療」を認知してもらうことを目的とした ツール(カタログ、Web サイト)を作成するとともに、その有用性を評価した。 認知度向上活動以外にも、外国人患者の受入に必要なインフラとして、外国人患者に対する 価格設定や受入に伴う紛争への対応策の検討、国内医療機関における受入環境(ハード面・ソ フト面)の検討も併せて実施した。 実施内容およびその結果については、第5 章にて詳説する。 2)アウトバウンド事業 アウトバウンド事業では、日本の医療機関等が海外で医療サービスを提供することを通じて、 双方が発展することを目的として、展開が想定される国における関連諸制度に関する調査を実 施した。また、実際に対象国と日本の医療機関同士、医療人同士による交流の機会を創出し、 展開の可能性を検証した。 (1)日本の医療の海外展開に関する諸制度調査 日本の医療機関が中国およびロシアにおいて医療サービスを提供することを想定し、その際 に障害となりうる制度や規制等について把握することを目的とした調査を実施した。具体的に は、医療制度や保険制度、貿易に関する規制等についての整理を行った。 (2)現地医療機関との交流を通じた展開可能性の検証 日本の医療機関が海外に展開し、そこで医療サービスを提供することの可能性を検証するた めに、中国(北京、上海、大連)およびロシア(モスクワ、サンクト・ペテルブルグ、ヤロス ラブリ、ウラジオストク)の関係機関と日本の医療機関との交流の機会を設けた。具体的には、 展開に関する計画案を策定し、実現に向けた方策や想定課題等について現地関係者と議論を行 った。

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1-3.実施体制

1)事業実施体制 本事業の推進に当たっては、株式会社野村総合研究所による事業全体の統括の下、複数の事 業体による共同体制を構築し、各種調査および実証を行った。各事業体の役割は以下のとおり である。 (1)株式会社野村総合研究所 本事業における野村総合研究所の担当業務は以下のとおりである。 ・事業全体の統括、管理(各種委員会、ワーキングの運営等を含む) ・インバウンド対象国における医療需要調査 ・日本の医療の海外展開に関する可能性と課題の検討 -中国およびロシアへの医療機関の展開に関する制度・規制 -中国およびロシアにおける展開可能性の検証 ・国際医療交流の推進に関する課題等に関するとりまとめ なお、本報告書では、第1 章、第 3 章、第 5 章 5-2(価格設定および紛争処理方策に関する 検討)、第6 章、第 7 章の執筆を担当した。 (2)株式会社日本経済研究所 本事業における日本経済研究所の担当業務は以下のとおりである。 ・国内医療機関における国際医療交流への取り組み実態調査 なお、本報告書では、第2 章の執筆を担当した。 (3)日本エマージェンシーアシスタンス株式会社 本事業における日本エマージェンシーアシスタンス(以下、EAJ)の担当業務は以下のとお りである。 ・海外からの外国人患者の受入実証 -受入体制の構築および受入の実施 -外国人患者の受入に関する課題の抽出および改善方策の検討 ・「日本の医療」に関する認知度向上業務 -「日本の医療」に関するカタログの作成、配布および有用性の検証 なお、本報告書では、第4 章、第 5 章 5-1(日本の医療に関する認知度向上業務)の一部に ついての執筆を担当した。 (4)株式会社JTB グローバルマーケティング&トラベル 本事業におけるJTB グローバルマーケティング&トラベル(以下、JTB-GMT)の担当業務は 以下のとおりである。 ・「日本の医療」に関する認知度向上業務 -Web サイトの構築、運営 -カタログおよびWeb サイトに関する有用性検証 ・外国人患者の受入に向けた医療機関向けコンサルテーション

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なお、本報告書では、第5 章 5-1(日本の医療に関する認知度向上業務)の一部、第 5 章 5 -2(医療機関向けコンサルテーション)についての執筆を担当した。 (5)財団法人日中医学協会 本事業における日中医学協会の担当業務は以下のとおりである。 ・日本の医療の海外展開に関する可能性と課題の検討 -中国およびロシアへの医療機関の展開に関する制度・規制 なお、本報告書では、第5 章 5-1(日本の医療に関する認知度向上業務)への記載内容の整 理を担当した。 図表・ 3 本事業の実施体制 株式会社 電通 (認知度向上のための ツール作成を担当) 日本エマージェンシーアシスタンス 株式会社 (外国人患者の受入実証、 認知度向上業務の有用性調査等 を担当) 株式会社JTBグローバルマーケティング &トラベル (Webサイト構築等を担当) 株式会社 日本経済研究所 (国内医療機関における 国際医療交流への取り組み 実態調査を担当) 財団法人 日中医学協会 (中国人医師アンケート、 アウトバウンド調査等を担当) 株式会社 野村総合研究所 (事業全体の統括管理、医療需要調査、アウトバウンド調査等を担当) 経済産業省 商務情報政策局 サービス産業課 出所)野村総合研究所作成

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2)外国人患者の受入スキーム 本事業では、外国人患者を誘致し、日本の医療サービス、特に治療を受けてもらう実証を行 った。本実証においては、実際に罹患している外国人患者の移動や国内医療機関における受入 をスムーズに実現することが要求されるため、次図に示すスキームを構築の上で実施した。 図表・ 4 外国人患者の受入スキーム 国内医療機関 外国人患者 高度医療情報収集サービス 情報提供 医療機関向け コンサルテ ィングサービス アサインメント 外国人患者受入支援サービス E A J コンタクト、申込 受診 外国人患者の受入支援機能 現地医療機関・ エージ ェント等 コンタクト 情報提供 J TB グループ J TB-GMT 医療機関ネットワーキング 患者向けア サインサービス サービス提供 渡航~入院手続代行 サービス提供 医療通訳手配 支払代行 リスク・ 紛争対応(保険、訴訟等) 医療相談 入院相談対応~入院先選定 帰国後フォローアップ対応 情報提供 相互連携 相互連携 E A J コンサルテ ィングマニュアル提供 コンサルテ ィングサービス提供 ノウハウ提供 カタログ・Web作成・更新 高度医療情報の継続的収集 コンタクト J TB-GMT 認知度向上サービス 現地医療機関・エージェント等との連携 認知度向上業務(カタログ配布、Web運営) J TB-GMT コンタクト E A J 出所)野村総合研究所作成

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第2章 国内医療機関における国際医療交流への取り組み実態

2-1.調査目的

本調査は、我が国の医療機関における国際医療交流の現状、特に外国人患者の受入状況につい て、網羅的に把握するとともに、各医療機関とサービス内容の詳細を整備することを目的として 実施した。 具体的には、国内約8,000 の医療機関に対するアンケート調査を実施し、我が国の医療機関に おける外国人受入実態や課題を把握した。また、アンケート調査の結果を踏まえて、外国人患者 受入を既に実施している、あるいはこれから実施する予定がある医療機関を中心としたヒアリン グ調査を行い、我が国における国際医療交流の可能性についての検討を行った。

2-2.調査方法

1)アンケート調査 (1)アンケート対象 日本全国約9,000 の病院のうち、精神科病院などを除く病院とその他受け入れ可能性がある 診療所など、約8,000 の医療機関を対象とした。具体的には、次に示す方法により抽出した。 ①病院 ・医事日報編集の全国病院リストに掲載されている8,714 機関より、精神科病院、精神系を 主な診療科目としているとみられる病院を除く7,455 機関を抽出した。 ②診療所 ・病院、病院附属の検診センター等を除く、計507 機関を対象として抽出した。 -日本人間ドック学会ホームページ掲載の1,603 機関より、「診療所」403 機関を抽出。 -厚労省のホームページに掲載される「先進医療を実施している医療機関の一覧」1,008 機 関より、「診療所」104 機関を抽出。 (2)アンケート項目 アンケート調査では、次の事項を把握することを目的とした設問を設けた。 ・医療機関における国際医療交流(外国人患者の受入)の実施状況 ・受け入れにあたっての問題点・課題 ・国際医療交流が進展した場合の可能性に関する考え、等 (3)回収状況 ①実施方法 郵送によって調査票の配布・回収を行った。ただし、先方都合により、一部機関については、 FAX、電話による回答も認めている。

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調査期間は、2010 年 11 月 26 日~同 12 月 17 日であった。 ②回答数 最終的に2,353 医療機関より回答を得た。回答率は 30%であった。 2)ヒアリング調査 (1)ヒアリング対象 アンケート調査への回答機関のうち、国際医療交流を実施している、あるいは実施予定であ るとした医療機関を中心としてヒアリング調査を実施した。ヒアリング対象としては、外国人 患者の受入に消極的な医療機関も含め、地域性・取り組み概要等を勘案し、10 機関を選定した。 各医療機関においては、国際医療交流に係る取り組みを包括的に管掌する部門長等を対象と した直接面談を実施した。 (2)ヒアリング項目 ヒアリング調査では、次の事項を把握した。 ・国際医療交流への取り組みに至る経緯や目的 ・外国人患者の受入状況および体制整備状況 ・今後の見通し、課題、等 (3)実施状況 調査期間は、2011 年 2 月 8 日~同 2 月 25 日であった。

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2-3.調査結果

1)国際医療交流への取り組み実態 (1)受入実施状況 外国人患者の受入を「既に実施している」「実施する予定で具体的な計画がある」「具体的な 計画はないが実施する予定」と回答した医療機関(積極派)は229 件(9.7%)、「実施する予定 はない」「検討中・未定」と回答した医療機関(消極派)は2,111 件(89.8%)であった。 この結果は、9 割近くの医療機関が外国人患者の受入に消極的であるものの、229 件と少なか らずの医療機関が関心を寄せていることを示すものであり、昨今の国際医療交流、メディカル ツーリズムの動向に医療機関自らが着目し、取り組みつつあるものと読み取れる。 図表・ 5 外国人患者受け入れに対する関心(N=2,352) その他, 0.5% 関心なし, 89.8% 現在すでに実 施している, 5.2% 実施する予定 で具体的な計 画がある, 0.9% 具体的な計画 はないが実施 する予定, 3.6% 関心あり 229機関 (9.7%) 出所)日本経済研究所作成 ただし、「既に実施している」と回答した医療機関の中には、日常診療の一環として在日外国 人の治療にあたっている機関も含まれていたため、次項以下では、それらの医療機関を除き、“外 国から治療等を目的に日本を訪れる患者の受け入れ”に積極的な 210 医療機関を“受入実施機 関”として絞り込んだ分析を行う。 (2)受入実施医療機関の受入状況 ①受入実施医療機関の概要 A.所在地による傾向 受入実施機関の所在地は、「首都圏」25.8%で最も多く、「関西」21.1%、「九州」16.7%と続 いている。

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図表・ 6 所在地別受入実施医療機関の割合(N=209) 25.8% 21.1% 16.7% 7.2% 6.7% 6.2% 4.8% 4.3% 4.3% 2.4% 0.5% 首都圏 関西 九州 中部 中国 北海道 北関東・甲信 東北 四国 北陸 沖縄 出所)日本経済研究所作成 首都圏や関西には医療機関が多く集積しているため、全国の医療機関(医事日報データ)の 集積割合と回答の割合を比較した。 その指標である特化係数をみると、「関西」が1.30、「首都圏」が 1.28、「九州」が 1.03 と 1.00 を上回っており、医療機関の当該地域への集積比率を超えて、この3 地域に受入実施機関が集 積していることが示された。 図表・ 7 所在地別受入実施医療機関の割合の特化係数 0.95 0.53 0.68 1.28 0.78 0.85 1.30 0.90 0.76 1.03 0.50 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 北海道 東北 北関東甲信 首都圏 北陸 中部 関西 中国 四国 九州 沖縄 出所)日本経済研究所作成

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B.開設者種別による傾向 受入実施機関の開設者は、もともと民間、特に医療法人が多い傾向があるものの、「民間(医 療法人)」「民間(その他)」を合わせた「民間」が79.3%と大多数を占める結果となった。 図表・ 8 開設者別受入実施医療機関の割合(N=207) 58.0% 21.3% 12.1% 6.3% 2.4% 民間(医療法人) 民間(その他) 自治体 国 その他公的機関 出所)日本経済研究所作成 全国の医療機関(医事日報データ)の開設者別割合と回答の割合を比較した特化係数では、 個人病院、私立大学付属の病院を含む「民間(その他)」が2.73 であり、外国人患者の受入に 関心を示す割合が相対的に高かった。これは、昨今の病院経営において収益確保を意識せざる 得ない状況が影響しているものと考えられる。一方、同じ民間病院であっても「民間(医療法 人)」は0.84 と関心を示す割合は低かった。 また、国立大学病院等を含む「国」が1.71 と 1.00 を上回っており、「自治体」も 0.97 で 1.00 に近いことから、公的機関も外国人患者の受入に消極的ではない。 「その他公的機関」の多くは社会保険関係団体であることから、その性格上、外国人患者の 受入に消極的であると考えられる。

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図表・ 9 開設者別受入実施医療機関の特化係数 1.71 0.97 0.36 0.84 2.73 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 国 自治体 その他公的機関 民間(医療法人) 民間(その他) 出所)日本経済研究所作成 C.病床数規模による傾向 許可病床数の規模別の特徴をみると、診療所に相当する「20 床未満」の医療機関が 9.1%と 一定数を占めていること、さらに50~200 床未満の中規模病院が 48.2%と約半数を占めている ことから、医療機関の規模に関わらず受入への取り組みがなされていることがわかった。 図表・ 10 病床数別受入実施医療機関の割合(N=197) 9.1% 1.0% 10.2% 17.8% 14.7% 15.7% 7.1% 11.7% 12.7% 20床未満 20~30床未満 30~50床未満 50~100床未満 100~150床未満 150~200床未満 200~300床未満 300~500床未満 500床以上 出所)日本経済研究所作成 全国の医療機関(医事日報データ等)の病床数別割合と回答の割合を比較した特化係数では、 1.00 を上回っているのは、「20 床未満」の 1.39、「30~50 床未満」の 1.40、「150~200 床未満」 の1.21、「500 床以上」の 1.85 である。 「500 床以上」の大規模病院においても、外国人患者の受入に関心を示す機関の割合が高い ことが分かる。また、「20 床未満」の診療所に加え「30~50 床未満」の病院と、比較的小規模 な医療機関においても関心を持っている機関の比率が高いことがうかがえる。

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図表・ 11 病床数別受入実施医療機関の特化係数 1.39 0.79 1.40 0.94 0.98 1.21 0.45 0.75 1.85 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 20床未満 20~30床未満 30~50床未満 50~100床未満 100~150床未満 150~200床未満 200~300床未満 300~500床未満 500床以上 出所)日本経済研究所作成 ②実施状況 A.受入目的 受入目的は、「特別な理由はない」とする回答が53.4%と最も多い。後述する受入経緯では「外 国人患者本人若しくは家族からの依頼」であるとする医療機関が多いが、“依頼があったので受 け入れた。そのため特に理由はない”という実態が読み取れる。 「地域の活性化に貢献するため」が27.0%、「基本理念として国際化・国際貢献を掲げている ため」が22.1%と続くが、「特別な理由はない」を含め、地域活性化への貢献や国際化・国際貢 献といった目的は、従来の医療活動の延長上に位置するものである。 「収入を確保し、経営を安定させるため」とする回答も19.1%あり、病院経営の収益確保を 目的に実施する医療機関も少なからずあることが見受けられる。 一方、「専門治療分野での症例数を増やすため」(15.7%)、「PET や MRI などの医療機器の稼 働率を上げるため」(11.8%)、「収入を確保し、先端医療技術の研究開発投資や高度医療機器へ の投資を増やすため」(7.8%)といった医療業界に好循環をもたらすことが期待できる項目は 劣後となっている。 図表・ 12 受入目的の割合(N=204、複数回答) 7.4% 7.8% 11.8% 15.7% 19.1% 22.1% 27.0% 53.4% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% その他 収入を確保し、先端医療技術の研究開発投資や 高度医療機器への投資を増やすため PETやMRIなどの医療機器の稼働率を上げるため 専門治療分野での症例数を増やすため 収入を確保し、経営を安定させるため 基本理念として国際化・国際貢献を掲げているため 地域の活性化に貢献するため 特別な理由はない 出所)日本経済研究所作成

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受入目的を開始時期別にみると、「特別な理由はない」が年度を追うごとに減少し、「症例数 を増やすため」「収入を確保し経営を安定させるため」「医療機器の稼働率を上げるため」が増 加傾向にある。これは、各受入実施機関が“外国人患者の受入”の価値を認識し、明確な目的意 識をもった受入を開始していることを示すものである。 図表・ 13 開始時期別受入目的の割合(複数回答) 9.1% 17.0% 3.4% 0.0% 1.1% 5.7% 58.0% 6.8% 12.5% 25.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 50.0% 12.5% 12.5% 6.3% 6.3% 0.0% 0.0% 12.5% 50.0% 12.5% 6.7% 13.3% 40.0% 6.7% 6.7% 0.0% 26.7% 0.0% 19.2% 11.5% 3.8% 3.8% 11.5% 23.1% 19.2% 7.7% 9.1% 18.2% 27.3% 0.0% 4.5% 13.6% 31.8% 4.5% 30.8% 23.1% 23.1% 0.0% 0.0% 7.7% 7.7% 7.7% 20.0% 0.0% 0.0% 0.0% 20.0% 20.0% 40.0% 0.0% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 専門治療分野での症例数を増やすため 当院の基本理念として 国際化・国際貢献を掲げているため 収入を確保し、御院経営を安定させるため 収入を確保し、先端医療技術の研究開発投資や 高度医療機器への投資を増やすため PETやMRIなどの医療機器の稼働率を上げるため 地域の活性化に貢献するため 特別な理由はない その他 2006年度以前(N=88) 2007年度(N=8) 2008年度(N=16) 2009年度(N=15) 2010年度(N=26) 2011年度(N=22) 2012年度(N=13) 2013年度以降(N=5) 出所)日本経済研究所作成 B.受入形態 受入形態は、「組織全体で実施」する医療機関が55.7%、「検診・健診において実施」する医 療機関が45.7%と多く、「特定の診療科において実施」する医療機関は 24.8%であった。後述す

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る診療分野別では、「検診・健診」に続き「診療分野を特定せず、概ね全分野」で受け入れを行 う医療機関が多いことがわかっており、この結果と符合している。 図表・ 14 受入形態の割合(N=210、複数回答) 24.8% 45.7% 55.7% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 特定の診療科において実施 検診・健診において実施 病院(診療所)組織全体で実施 出所)日本経済研究所作成 受入形態別にみた受入目的からは、次のような特徴がみられる。 「病院(診療所)組織全体で実施」する医療機関では、「特別な理由はない」が66.1%と突出 していることから、外部からの依頼等を起点とした受動的な受入が多いことが分かる。 「検診・健診において実施」する医療機関では、「地域の活性化に貢献するため」(41.5%) のほか、「収入を確保し、経営を安定させるため」(34.0%)、「基本理念として国際化・国際貢 献を掲げているため」(26.6%)等、5 つの項目において全体よりも割合が高く出ており、受入 目的が多様化していることが分かる。 「特定の診療科において実施」する医療機関では、「専門分野での症例数を増やすため」が 38.0%と高く、医療技術の向上を志向する傾向が読み取れる。 図表・ 15 受入形態別にみた受入目的(複数回答) 専 門 治 療 分 野 で の 症 例 数 を 増 や す た め 基 本 理 念 と し て 国 際 化 ・ 国 際 貢 献 を 掲 げ て い る た め 収 入 を 確 保 し 、 経 営 を 安 定 さ せ る た め 収 入 を 確 保 し 、 先 端 医 療 技 術 の 研 究 開 発 投 資 や 高 度 医 療 機 器 へ の 投 資 を 増 や す た め PE T や M R I ど の 医 療 機 器 の 稼 働 率 を 上 げ る た め 地 域 の 活 性 化 に 貢 献 す る た め 特 別 な 理 由 は な い そ の 他 患者を受け入れている 全医療機関 15.7% 22.1% 19.1% 7.8% 11.8% 27.0% 53.4% 7.4% 病院(診療所)組織全体で実施 11.6% 21.4% 15.2% 4.5% 2.7% 27.7% 66.1% 6.3% 特定の診療科において実施 38.0% 24.0% 10.0% 18.0% 10.0% 16.0% 44.0% 6.0% 検診・健診において実施 13.8% 26.6% 34.0% 12.8% 23.4% 41.5% 37.2% 7.4% ※ハッチがかかっている項目は、「患者を受け入れている全医療機関」よりも高い項目を示している。 出所)日本経済研究所作成

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C.診療分野 a)2009 年度実績 診療分野別にみた外国人患者の受入実績は、「検診・健診」が46.6%と最も多い。アジア地域 を中心とする新興国富裕層における日本の検診・健診サービスに対する需要の高さを背景とし て、検診・健診分野で受け入れを行う医療機関が多いと推察できる。加えて、検診・健診は、 検査メニューや料金体系を予め提示できることから、トラブルを回避し易く、医療機関にとっ ても取り組み易いことも背景要因として考えられる。 次は、「診療分野を特定せずに概ね全分野で受入れる」が25.7%と多い。受入経緯が「外国人 患者本人若しくは家族からの依頼」が多いことからも、多くの医療機関が診療分野を特定せず に、依頼に応じて受け入れているものと見受けられる。 「がん治療」(16.5%)以降の診療分野は先進医療の領域を含むものが多く、各分野で国際競 争力を有する医療機関は、積極的・戦略的に受け入れを行っていこうとしているものと捉えら れる。 b)2012 年度予定 2012 年までに受け入れに注力していくことを予定する診療分野については、「検診・健診」 が55.3%と最も多く、「がん治療」(22.9%)、「循環器」(17.9%)、「整形(身体機能代替等)」 (12.3%)、「内視鏡治療/鏡視下手術(がんを除く)」(10.1%)の順であった。 現在受け入れを行っている診療分野との比較では、「検診・健診」(46.6%→55.3%)、「がん治 療」(16.5%→22.9%)、「循環器」(16.5%→17.9%)分野において大幅に伸びており、今後、こ れらの分野での受入が進展する可能性が考えられる。 図表・ 16 診療分野別の受入実績値と受入予定値の比較(複数回答) 31.3% 2.8% 2.8% 2.8% 5.6% 10.1% 17.9% 12.3% 22.9% #N/A 55.3% 27.7% 1.5% 2.4% 3.4% 6.3% 10.2% 12.1% 13.6% 16.5% 25.7% 46.6% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% その他 再生医療 歯 形成 小児 内視鏡治療/鏡視下手術(がんを除く) 循環器 整形(身体機能代替等) がん治療 診療分野を特定せずに概ね全分野で受入れる 検診・健診 2009年度(実績) n=206 2012年度(予定) n=179 ※「診療分野を特定せずに概ね全分野で受入れる」は2009年度(実績)のみの選択肢 出所)日本経済研究所作成

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D.開始時期 2006 年度以前から外国人患者の受入を開始していた医療機関が 45.9%と半数近くを占めてお り、比較的早期に着手されていることが分かる。 一方、2011 年度以降に受け入れを開始するところも 20.9%を占めており、引き続き受入実施 機関は増加するものと想定される。 図表・ 17 開始時期の割合(N=196) 45.9% 4.1% 8.2% 7.7% 13.3% 11.2% 6.6% 3.1% 2006年度以前 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度(予定を含む) 2011年度(予定) 2012年度(予定) 2013年度以降(予定) 出所)日本経済研究所作成 E.実施経緯 外国人患者の受入を開始したきっかけとしては、「外国人患者本人若しくは家族からの依頼」 が57.7%と最も多く、「病院の方針として自ら開始」(35.7%)、「国内のアレンジ事業者からの 紹介」(24.0%)、「学術交流のある海外の医療機関や医師からの紹介」(23.0%)と続く。 患者本人や家族からの依頼、病院の方針、学術交流といった従来の医療活動の延長として受 入を開始した医療機関が多い一方で、国内外のアレンジ事業者の活動が、受け入れに一定の影 響をもたらしていることが明らかとなった。 図表・ 18 実施経緯の割合(N=196、複数回答) 14.8% 7.1% 7.7% 23.0% 24.0% 35.7% 57.7% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% その他 地域で行っている外国人患者の受入れに関するモ デル事業への参加 海外のアレンジ事業者からの紹介 学術交流のある海外の医療機関や医師からの紹介 国内のアレンジ事業者からの紹介 病院の方針として自ら開始 外国人患者本人若しくは家族からの依頼 出所)日本経済研究所作成

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受入経緯を開始時期別にみると、「外国人患者本人・家族からの依頼」は、過去から2010 年 度までは減少傾向である一方、「国内のアレンジ事業者からの紹介」をきっかけに受け入れを開 始している割合が増加傾向にある。また、「病院の方針として自ら開始」する医療機関が2011 年度以降増えていることから、医療機関における受入目的がより積極的なものへと変化しつつ あることがわかる。 図表・ 19 開始時期別実施経緯の割合(複数回答) 60.0% 5.6% 4.4% 0.0% 1.1% 18.9% 10.0% 37.5% 25.0% 0.0% 0.0% 0.0% 25.0% 12.5% 37.5% 12.5% 18.8% 0.0% 12.5% 6.3% 12.5% 33.3% 13.3% 26.7% 6.7% 6.7% 0.0% 13.3% 34.6% 11.5% 23.1% 3.8% 3.8% 11.5% 11.5% 19.0% 0.0% 28.6% 0.0% 9.5% 38.1% 4.8% 37.5% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 37.5% 25.0% 40.0% 20.0% 0.0% 0.0% 0.0% 40.0% 0.0% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 外国人患者本人若しくは家族からの依頼 学術交流のある海外の医療機関や医師からの紹介 国内のアレンジ事業者からの紹介 海外のアレンジ事業者からの紹介 地域で行っている外国人患者の受入れに関する モデル事業への参加 病院の方針として自ら開始 その他 2006年度以前(N=89) 2007年度(N=8) 2008年度(N=16) 2009年度(N=15) 2010年度(N=26) 2011年度(N=20) 2012年度(N=8) 2013年度以降(N=5) 出所)日本経済研究所作成

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受入形態には、外国人患者本人等からの依頼や海外医療機関からの紹介といった受動的な受 入と、医療機関自らの方針に基づいた受入やモデル事業への参加といった能動的な受入がある。 「検診・健診において実施」している医療機関では、「国内のアレンジ事業者からの紹介」 (43.3%)を受けたり、「病院の方針として自ら開始」(43.3%)するなど、能動的な受入をおこ なっているところが多い。「特定の診療科において実施」している医療機関では、「病院の方針 として自ら開始」している割合が相対的に低く、競争力を有する各診療科単位での受け入れを 行っている傾向が見て取れる。 図表・ 20 受入形態別にみた実施経緯(複数回答) 外 国 人 患 者 本 人 若 し く は 家 族 か ら の 依 頼 学 術 交 流 の あ る 海 外 の 医 療 機 関 や 医 師 か ら の 紹 介 国内 の ア レ ン ジ 事 業 者 か ら の 紹 介 海 外 の ア レ ン ジ 事 業 者 か ら の 紹 介 地 域 で 行 っ て い る 外 国 人 患 者 の 受 入 れ に 関 す る モ デ ル 事 業 へ の 参 加 の た め 病 院 の 方 針 と し て 自 ら 開 始 その 他 患者を受け入れている 全医療機関 57.7% 23.0% 24.0% 7.7% 7.1% 35.7% 14.8% 病院(診療所)組織全体で実施 64.2% 20.2% 20.2% 5.5% 5.5% 41.3% 15.6% 特定の診療科において実施 63.3% 38.8% 8.2% 2.0% 6.1% 24.5% 10.2% 検診・健診において実施 46.7% 18.9% 43.3% 14.4% 14.4% 43.3% 13.3% ※ハッチがかかっている項目は、「患者を受け入れている全医療機関」よりも高い項目を示している。 出所)日本経済研究所作成 F.受入人数 a)外来/入院別による傾向 外来/入院別の年間受入人数をみると、直近の2009 年度において、新外来患者数は「1~5 人未満」が34.6%、新入院患者数は同 30.8%となっており、外来、入院ともに「5 人未満」で の受け入れが多数を占めていることが分かった。また、受入規模が大きい医療機関は少なく、 新外来患者数が「100 人以上」なのは 1.0%、新入院患者数では「50~100 人未満」「100 人以上」 という医療機関はなかった。 受入人数の推移状況としては、新外来患者数が「0 人」とする医療機関の割合が減少してき ているとともに、受入人数が多くなってきている。新入院患者数にも同様の傾向が見られてお り、全般的に外国人患者の受入規模が増加しつつあると言える。 ただし、外来および入院のどちらについても、2011 年度以降は「未定」とする医療機関が過 半数を占めている。ここからは、受入経緯が「外国人患者本人もしくは家族からの依頼」とす る医療機関が多く、受入人数の予測が難しいと考える医療機関が多数であるほか、確実な受入 ルートや誘客の仕組みが確立されていないことも一因にある考えられる。

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図表・ 21 新外来患者数の割合の推移 11.2% 12.3% 18.3% 37.5% 48.3% 59.5% 4.7% 6.6% 22.6% 34.6% 31.5% 22.8% 4.7% 4.7% 8.7% 10.6% 7.9% 6.3% 3.7% 6.6% 8.7% 8.7% 7.9% 8.9% 6.5% 5.7% 5.2% 1.0% 0.0% 0.0% 50.5% 50.9% 22.6% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% 2012年度(予定、N=107) 2011年度(予定、N=106) 2010年度(見込、N=115) 2009年度(実績、N=104) 2008年度(実績、N= 89) 2007年度(実績、N= 79) 0人 1~5人未満 5~10人未満 10~20人未満 20~30人未満 30~50人未満 50~100人未満 100人以上 未定 出所)日本経済研究所作成 図表・ 22 新入院患者数の割合の推移 23.3% 24.4% 40.4% 61.5% 69.6% 74.2% 4.7% 8.1% 23.6% 30.8% 26.1% 21.0% 5.8% 4.7% 3.4% 1.3% 2.9% 1.6% 55.8% 54.7% 25.8% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% 2012年度(予定、N=86) 2011年度(予定、N=86) 2010年度(見込、N=89) 2009年度(実績、N=78) 2008年度(実績、N=69) 2007年度(実績、N=62) 0人 1~5人未満 5~10人未満 10~20人未満 20~30人未満 30~50人未満 50~100人未満 100人以上 未定 出所)日本経済研究所作成 b)医療機関当たりの受入規模 外国人患者の受入を「既に実施している」医療機関の中で、2009 年度の年間受入人数(実績 値)を回答した機関における合計受入人数は、新外来患者数561 人(回答のあった 65 機関計)、 新入院患者数137 人(回答のあった 30 機関計)であった。これより 1 機関あたりの単純平均受 入人数は、新外来患者で9 人、新入院患者で 5 人となる。 同様に、2012 年度の年間受入人数を回答した機関の合計受入人数をみると、新外来患者数 1,655 人(回答のあった 35 機関計)、新入院患者数 322 人(回答のあった 15 機関計)であり、1 機関あたりの単純平均受入人数は、新外来患者で42 人、新入院患者で 21 人となる。 2009 年度実績と比較すると、新外来患者数は 9 人から 42 人への増加(伸び率 366%)、新入 院患者数は5 人から 21 人への増加となり(同、320%)と、いずれも受入規模は 4 倍強拡大す ることが想定される。

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c)国別にみた受入規模 2009 年度の受入人数の割合を国別にみると、新外来患者は、「中国」が 39.0%と最も多く、 次いで「台湾」「韓国」「カザフスタン」などを含む「その他のアジア地域」が26.0%となって おり、アジア地域からの受け入れが過半数を占めている。 図表・ 23 国別新外来患者数の割合(N=68、複数回答) 2.0% 3.0% 2.0% 3.0% 4.0% 9.0% 12.0% 26.0% 39.0% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 未定 その他の地域 カナダ 中東 欧州 ロシア 米国 その他のアジア地域 中国 出所)日本経済研究所作成 2009 年度実績値と 2012 年度予定における受入実数を比較すると、新外来患者数については 最も患者数の多い「中国」や「その他のアジア地域」、「欧州」において受け入れが減少する一 方、「ロシア」、「中東」では受入増加が見込まれている。このような傾向から、医療機関が、「中 国」「その他アジア地域」には日本の医療技術に対する需要があると考えているとともに、同様 の需要が見込める「ロシア」「中東」にも着目しているものと捉えられる。 図表・ 24 国別新外来患者数の推移 6 5 0 4 2 12 13 15 35 2 3 4 3 2 12 9 26 39 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 未定 その他の地域 欧州 中東 カナダ 米国 ロシア その他のアジア地域 中国 2009年度(実績) n=68 2012年度(予定) n=52 (人) 出所)日本経済研究所作成

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新入院患者についても、2009 年度実績値では、「中国」が 32.4%、「その他のアジア地域」が 24.3%であり、アジア地域からの患者が過半数(57.7%)を占めている。 図表・ 25 国別新入院患者数の割合(N=28) 8.1% 2.7% 2.7% 8.1% 10.8% 10.8% 24.3% 32.4% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% その他の地域 中東 カナダ ロシア 欧州 米国 その他のアジア地域 中国 出所)日本経済研究所作成 新入院患者数について2009 年度実績と 2012 年度予定を比較すると、「中国」や「ロシア」に おいて受け入れが増加する一方で、「その他のアジア地域」、「欧州」からの受け入れが減少する ことが見込まれる 図表・ 26 国別新入院患者数の推移 4 2 0 1 1 4 9 7 16 0 3 4 1 1 4 3 9 12 0 5 10 15 20 未定 その他の地域 欧州 中東 カナダ 米国 ロシア その他のアジア地域 中国 2009年度(実績) n=28 2012年度(予定) n=25 (人) 出所)日本経済研究所作成

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G.年間最大受入人数 各医療機関の年間最大受入人数を外来/入院別にみると、新外来患者数は、「10~20 人未満」 が23.2%と最も多く、次いで「1~5 人未満」(19.6%)、「5~10 人未満」(12.5%)であり、「20 人未満」が55.4%を占める。新入院患者数では、「5 人未満」が 40.9%と最も多く、次いで「5 ~10 人未満」が 22.7%であり、「10 人未満」が 63.6%を占める。外国人患者の受入にあたって は、多言語に対応できる医師・看護師等のスタッフや日程調整、保険対応といった事務処理能 力、さらには病床数や検査機器等の施設・設備面において受入規模が制約を受ける。現時点で は多くの国内医療機関でそれらの制約が大きいことから、外来では年間に20 人程度、入院では 10 人程度を限度としていると想定される。 一方、「100 人以上」と回答した医療機関は、「歯科」の 1 件を除き、「検診・健診」での受け 入れであった。「検診・健診」はシステマチックにメニューを消化することが可能なため、現状 のスタッフ体制でも弾力的に対応できるものと推察される。 年間最大受入人数の推移をみると、新外来患者については、2009 年度では「20 人未満」とす る医療機関が55.4%と過半を占めていたが、2012 年度にはその比率を 31.2%に下げる一方で、 「100 人以上」を年間最大受入人数とする医療機関が 14.3%から 32.5%へと増加している。新 入院患者については、2009 年度では「10 人未満」とする医療機関が 63.6%を占めていたが、2012 年度にはその比率を32.7%に下げる一方で、「50 人以上」を年間最大受入人数とする医療機関 が0%から 15.4%へと増加している。外来、入院ともに年間最大受入人数が拡大する背景には、 受け入れを制約する状況の解消や改善、院内整備の進展が想定される。 図表・ 27 新外来患者の年間最大受入人数の比較 7.8% 19.6% 7.8% 12.5% 15.6% 23.2% 10.4% 14.3% 11.7% 7.1% 14.3% 8.9% 32.5% 14.3% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 2012年度(予定、N=77) 2009年度(実績、N=56) 1~5人未満 5~10人未満 10~20人未満 20~30人未満 30~50人未満 50~100人未満 100人以上 出所)日本経済研究所作成

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図表・ 28 新入院患者の年間最大受入人数の比較 23.1% 40.9% 9.6% 22.7% 13.5% 9.1% 25.0% 18.2% 7.7% 2.3% 5.8% 6.8% 15.4% 0.0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2012年度(予定、N=52) 2009年度(実績、N=44) 5人未満 5~10人未満 10~15人未満 15~20人未満 20~30人未満 30~50人未満 50人以上 出所)日本経済研究所作成 H.受入院内体制 外国人患者の受入に向けた院内体制の整備状況については、「外国人患者の受入のための特 別な対応はしていない」ところが40.5%と最も多い。 一方、何らかの対応を行っている医療機関においては、「他の機関(国内外の医療機関、自治 体など)との連携」(29.3%)のほか、「医療通訳を院外から必要に応じて手配」(25.9%)、「契 約書、同意書、検査内容説明書等の各種文書の多言語対応」(24.4%)、「多言語に対応した医療 従事者(医師、看護師など)の配置」(24.4%)といった多言語化への対応策を講じている医療 機関が多い。 図表・ 29 院内体制整備状況の割合(N=205、複数回答) 4.4% 6.8% 13.7% 15.6% 17.1% 19.0% 24.4% 24.4% 25.9% 29.3% 40.5% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0% 45.0% その他 外国人患者受入れに対応した診療施設、入院施設の設置 多言語に対応した院内表示 医療通訳を院内のスタッフとして配置 情報発信・プロモーション活動 外国人患者受入れ窓口(専門部署・スタッフ)の設置 多言語に対応した医療従事者(医師、看護師など)の配置 契約書、同意書、検査内容説明書等の各種文書の多言語対応 医療通訳を院外から必要に応じて手配 他の機関(国内外の医療機関、自治体など)との連携 外国人患者受入れのための特別な対応はしていない 出所)日本経済研究所作成 受入体制別に院内体制を見ると、「病院(診療所)組織全体で実施」する医療機関においては、 「外国人患者の受入のための特別な対応はしていない」とする回答が44.2%を占めるほか、他 の項目についても整備割合が相対的に低く、受入体制整備は進んでいないと言える。 「特定の診療科において実施」する医療機関でも、「外国人患者の受入のための特別な対応は していない」とする回答が43.1%を占めるものの、多言語化対応をはじめとして一定の整備が

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進んでいることがうかがえる。 また、最も院内体制の整備が進むのは、「検診・健診において実施」する医療機関であった。 図表・ 30 受入体制別にみた院内体制の整備状況(複数回答) 外 国 人 患 者 受 入 れ 窓 口 ( 専 門 部 署 ・ ス タ ッ フ ) の 設 置 多 言 語 に 対 応 し た 院 内 表 示 医療 通 訳 を 院 内 の ス タ ッ フ と し て 配 置 医 療 通 訳 を 院 外 か ら 必 要 に 応 じ て 手 配 多 言 語 に 対 応 し た 医 療 従 事 者 ( 医 師 、 看 護 師 な ど ) の 配 置 外 国 人 患 者 受 入 れ に 対 応 し た 診 療 施 設 、 入 院 施 設 の 設 置 契 約 書 、 同 意 書 、 検 査 内 容 説 明 書 等 の 各 種 文 書 の 多 言 語 対 応 情 報 発 信 ・ プ ロ モ ー シ ョ ン 活 動 他 の 機 関 と の 連 携 そ の 他 外 国 人 患 者 受 入 れ の た め の 特 別 な 対 応 は し て い な い 患者を受け入れている 全医療機関 19.0% 13.7% 15.6% 25.9% 24.4% 6.8% 24.4% 17.1% 29.3% 4.4% 40.5% 病院(診療所)組織全体 で実施 18.6% 5.3% 13.3% 17.7% 23.0% 5.3% 20.4% 15.0% 22.1% 6.2% 44.2% 特定の診療科において 実施 25.5% 19.6% 17.6% 33.3% 27.5% 11.8% 27.5% 21.6% 25.5% 2.0% 43.1% 検診・健診において実施 29.0% 24.7% 22.6% 37.6% 31.2% 8.6% 37.6% 25.8% 47.3% 2.2% 23.7% ※ハッチがかかっている項目は、「患者を受け入れている全医療機関」よりも高い項目を示している。 出所)日本経済研究所作成 2)我が国における国際医療交流の可能性 アンケート調査ならびにヒアリング調査を通じて把握された取り組み状況からは、国内の医 療機関が個々に対応できる部分もある一方、個別の機関だけで推進するには限界があることが 分かってきた。 本節では、国内医療機関が国際医療交流に取り組む上での問題点や課題を整理するとともに、 国際医療交流がもたらす効果について述べる。 (1)国際医療交流を実施する上での問題点・課題 外国人患者の受入れ実施している、あるいはその意向がある医療機関を“積極派”、それ以外 の医療機関を“消極派”とすると(以下、同じ)、積極派が考える受入実施にあたっての課題とし ては、「多言語・異文化への対応」が61.1%と突出している。次いで、「通訳の確保が困難」 (36.6%)、「診察後の対応(患者の帰国先の医療機関との連携等)体制の未整備」(36.1%)が 同程度となっている他、「外国人患者を対象とした民間保険制度の未整備」(24.5%)、「繁忙」 (21.8%)を挙げた回答も少なくない。 一方、消極派においても「多言語・異文化への対応」が63.8%と最も高い。続いては、「通訳 の確保が困難」(45.7%)、「診察後の対応(患者の帰国先の医療機関との連携等)体制の未整備」 (41.8%)が挙げられていることから、課題については、受入に対する姿勢に関わらず共通し た認識が存在することがわかった。 特徴的な点は、消極派では「医師不足」を指摘する医療機関が27.1%存在することである。 消極派の医療機関においては医師不足が課題となっており、外国人患者の受入の阻害要因とな っていることが改めて浮き彫りとなった。

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また、ヒアリング調査からは関係機関との連携に関する課題が把握された。今後、継続的に 外国人患者の受入を実施していく前提条件として安定的な患者の確保が必要となるが、そのた めにはアレンジ事業者※との連携が不可欠である。現状では、アレンジ事業者が担う業務範囲に は大きな幅があるものの、受け入れを検討している医療機関にとって、アレンジ事業者の機能 に期待している部分は大きい。 ※アンケート調査では、斡旋事業者や保険会社、旅行会社、ファシリテーター等を総じて「アレンジ事業者」 と呼称している。なお、本報告書のアンケート調査以外では「国際医療コーディネーター」と呼称する。 図表・ 31 外国人患者の受入実施にあたっての問題点・課題(複数回答) 8.8% 16.6% 1.2% 10.3% 16.6% 8.3% 27.1% 5.0% 18.1% 23.1% 41.8% 45.7% 63.8% 11.6% 1.9% 5.6% 6.5% 8.8% 8.8% 13.4% 15.7% 21.8% 24.5% 36.1% 36.6% 61.1% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% その他 診察・治療設備の不足 ビザの制約 看護師不足 院内の合意 外国人患者の確保・プロモーション機能の未整備 医師不足 受入れに伴うスケジュール調整 繁忙 外国人患者を対象とした民間保険制度の未整備 診察後の対応(患者の帰国先の医療機関との連携等)体制の未整備 通訳の確保が困難 多言語・異文化への対応 積極派(N=216) 消極派(N=1,617) 出所)日本経済研究所作成 (2)社会システムとして整備すべき課題 積極派が社会システムとして整備すべき課題と認識しているのは、「国際医療通訳の養成」 (51.3%)、「医療事故発生時の対応体制整備」(48.7%)、「契約書、同意書、検査内容説明書等 の多言語対応」(45.1%)、「アフターフォローに向けた現地医療機関との連携体制」(36.9%)、 「アレンジ事業者との連携」(34.9%)となっている。ここからは、実施にあたっての問題点と して挙がっていた「多言語・異文化への対応」「通訳の確保が困難」「診察後の対応(患者の帰 国先の医療機関との連携等)体制の未整備」等に対しては、社会システムとして整備すること で解決を望んでいることがうかがえる。 消極派の回答も積極派とほぼ同様の傾向を示しているが、「国際医療通訳の養成」(63.7%)、 「契約書、同意書、検査内容説明書等の多言語対応」(62.1%)の回答率が、積極派よりも 10 ポイント以上高い。消極派では、積極派以上に多言語対応を難題として捉えられており、それ がためにさらに消極的姿勢となっていると想定される。また、これらについては、一医療機関 での取り組みを超えて社会システムとして解決されることを期待しているものと推察される。

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図表・ 32 外国人患者の受入実施にあたっての社会システムとしての整備課題(複数回答) 4.6% 3.7% 5.9% 6.4% 20.3% 33.5% 41.9% 62.1% 47.5% 63.7% 4.1% 4.6% 12.3% 13.8% 23.6% 34.9% 36.9% 45.1% 48.7% 51.3% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% その他 医療機関の実績・サービスの見える化 海外保険会社との連携を通じた患者数の確保 医療滞在ビザ 海外での日本の医療、検診・健診のプロモーション アレンジ事業者との連携 アフターフォローに向けた現地医療機関との連携体制 契約書、同意書、検査内容説明書等の各種文書の多言語対応 医療事故発生時の対応体制整備 国際医療通訳の養成 積極派(N=195) 消極派(N=1,617) 出所)日本経済研究所作成 ヒアリング調査からは、情報提供やプロモーション等に関する課題が把握された。 これまで、国際医療交流の実態や具体的な進め方については詳細な情報が少なかった。例え ば、「先進国では国際医療交流がどのようなプロセスを経て根付いたか」、「どういう点で苦慮 したか」、「当該国政府がどのような支援を行っているか」などである。これらの情報に加えて、 診療分野や費用等についても、より具体的な情報が提供されれば、国際医療交流への取り組み を検討したいと考える医療機関のすそ野が広がる可能性がある。 また、既に外国人患者の受入を行っている医療機関にとっては、プロモーションも大きな課 題である。日本での治療を考えている潜在的な外国人患者を発掘するためには、当該国に対す るプロモーションの実施や現地医療機関との仲介機能の構築を組織的に実現することで、受け 入れの実施において超えるべきハードルを下げることが可能になるものと考えられている。 (3)国際医療交流の進展により想定される効果・影響 積極派は、「医療サービスの質を向上させ、日本人患者への治療へと還元される高度医療技術 や高度医療機器が開発され好循環をもたらす」(39.7%)、「高度医療への需要が広がり、症例数 が増加し医療技術が向上する」(37.0%)、「高度医療への需要が広がり、医療機関において付加 的な資本蓄積が可能となる」(35.3%)など、プラスの効果をもたらす可能性があると考えてい る医療機関が多い。 一方、消極派は「医師不足をより深刻化させ、日本人患者への医療サービス提供の低下を招 く」(53.4%)、「営利追求を優先する傾向が強まり、地域医療を妨げる」(46.3%)といったマイ ナス面を大きく捉えていることがわかる。

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図表・ 33 国際医療交流進展により想定される効果・影響(複数回答) 11.2% 46.3% 53.4% 17.4% 22.2% 22.5% 16.3% 14.7% 18.5% 35.3% 37.0% 39.7% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% その他 営利追求を優先する傾向が強まり、 地域医療を妨げる 医師不足をより深刻化させ、 日本人患者への医療サービス提供の低下を招く 高度医療への需要が広がり、 医療機関において付加的な資本蓄積が可能となる 高度医療への需要が広がり、 症例数が増加し医療技術が向上する 医療サービスの質を向上させ、 日本人患者への治療へと還元される高度医療技術や 高度医療機器、医薬品が開発され好循環をもたらす 積極派(N=184) 消極派(N=1,820) 出所)日本経済研究所作成

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第3章 インバウンド対象国における医療需要

3-1.調査目的

本調査は、海外諸国における自国以外の医療に対する需要を、その質と量の両面において把握 することを目的として実施した。調査対象国としては、日本の医療サービスを受けるために相対 的に多くの患者を送出することが想定される中国、ロシア、サウジアラビア、UAE を選定し、各 国における医療事情とともに、他国における医療サービスに対する評価を把握した。

3-2.調査内容

1)各国の医療に関する概況調査 調査対象とした4 カ国の経済状況や医療の状況について、WHO や世界銀行等の国際機関や 各国の統計局等が公表する統計データを基に、各国の人口や経済状況、医療に関する状況等の 整理・分析を行った。 2)各国における医療需要調査 (1)調査の概要 調査対象4 カ国に在住する一般市民を対象としたインターネットアンケート調査を実施した。 実施した内容は以下のとおりである。 なお、アンケート対象者については、日本への渡航費用、検診・健診サービスや治療サービ スを利用するための費用負担に耐えうる一定以上の所得水準にある者の中から抽出した。一方、 統計的解析を行う上で有意なサンプル数を確保するため、各対象国において年収の高い層を中 心とした200 サンプル以上の回収が可能となる年収条件を設定した。 図表・ 34 インターネットアンケート調査の実施内容 調査手法 インターネットアンケート (野村総合研究所TrueNavi を利用) 調査期間 2011 年 2 月 7 日~2 月 13 日 調査対象 ・中国、ロシア、サウジアラビア、UAE に居住しており、 以下の年収条件を満たす個人 -中国 5,500 US$以上 -ロシア : 4,000 US$以上 -サウジアラビア :15,000 US$以上 -UAE :15,000 US$以上 回収数 ・中国 260 ・ロシア :252 ・サウジアラビア 248 ・UAE :251 出所)野村総合研究所作成

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(2)調査項目 インターネットアンケート調査における調査項目を次表に示す。 図表・ 35 インターネットアンケート調査における調査項目 カテゴリー 目的 調査項目 ①フェイス項目 調査対象者の基本情報を把握す ること。 ・性別 ・年齢 ・家族構成 ・国籍、居住国、居住地域 ・職業 ・世帯年収(直近1年) ・現在罹患している疾病 ②過去の海外医療サー ビス利用経験 調査対象者の過去の海外医療サ ービス経験を把握し、その利用 傾向を分析すること。 ・過去の海外医療サービス利用経験、渡 航先 ・利用内容(治療/検診・健診) ・治療した疾病 ・医療サービス利用期間 ・医療サービス利用コスト ・医療サービスの満足度 ・満足/不満足の理由 ・今後の渡航意向 ・渡航したくない理由 ③海外医療サービス利 用時の意思決定プロ セス 海外医療サービスに関する情報 源、収集する情報の内容、品質 に関する評価を把握すること。 ・情報収集の方法 ・情報源、信頼性の高い情報源 ・収集する情報の内容 ・サービスの品質と価格との関係性(品 質が良ければ高い価格でもよいか) ④医療サービスを利用 したい国とそのイメ ージ 海外の医療サービス提供国・地 域への渡航意向とその背景を把 握すること。 ・医療サービスを利用してみたい国、利 用したいと思う理由 ・医療サービスを利用したいとは思わな い国、利用したいとは思わない理由 ⑤日本の医療サービス に対する評価 日本の医療サービス利用意向お よび、その背景、ニーズのある サービスを把握すること。 ・日本への渡航経験 ・日本の医療サービスの利用意向、その 理由 ・Web サイトや医療ビザ制度など、医療 サービス利用者に対して提供される各 種サービスの有用性 出所)野村総合研究所作成

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3-3.調査結果

1)中国 (1)対象国の概要 ①人口・寿命 中国の2009 年時点での人口は、13 億 3,474 万人であり、世界最大の人口規模を誇る。近年そ の成長率は下がってきているものの、絶対数としては漸増中である。 2008 年時点における平均寿命は 73.1 歳であり、直近の 8 年間で約 2 歳長くなっているが、そ の内訳は、15 歳以下が約 20%、65 歳以上が約 8%で、15 歳以下の人口が徐々に減少してきてお り、将来的には若年人口割合の減少、人口の高齢化が見込まれている。 図表・ 36 中国における人口および人口成長率の推移 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 人 口 成 長 率 ( % ) 総 人 口 ( 億 人 ) 総人口 人口成長率

出所)World Bank ,”World Development Indicators 2010”を基に野村総合研究所作成

図表・ 37 中国における人口構成の推移 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 ~14歳 15歳~64歳 65歳~

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