• 検索結果がありません。

一般論文 医療薬学 38(5) (2012) Infection Control Team による全入院患者を対象とした注射用抗菌薬適正使用推進実施体制の確立とアウトカム評価 *1, 丹羽隆, 篠田康孝, 鈴木昭夫, 大森智史, 太田浩敏 深尾亜由

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "一般論文 医療薬学 38(5) (2012) Infection Control Team による全入院患者を対象とした注射用抗菌薬適正使用推進実施体制の確立とアウトカム評価 *1, 丹羽隆, 篠田康孝, 鈴木昭夫, 大森智史, 太田浩敏 深尾亜由"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

緒  言

薬剤耐性菌の増加は世界中の問題となっている が1~3),その主たる原因として抗菌薬の多用が指 摘されている4~6).一方,新規抗菌薬の開発は近 年停滞しており,現存する抗菌薬の適正使用を推 進し,薬剤耐性菌の出現を低下させることが求め られている.米国では,入院患者の 30~50%に 抗菌薬が使用されていると報告されているが7) 不適切な使用が抗菌薬処方全体の 50~72%にも 達するといった報告もあり7~8),患者の予後にも 影響する9) 岐阜県岐阜市柳戸1番1 38(5) 273―281 (2012)

Infection Control Teamによる全入院患者を対象とした

注射用抗菌薬適正使用推進実施体制の確立とアウトカム評価

丹羽 隆*1, 2,篠田康孝3,鈴木昭夫1,大森智史1,太田浩敏2 深尾亜由美2,安田 満2,北市清幸1,松浦克彦1 杉山 正3,村上啓雄2,伊藤善規1 岐阜大学医学部附属病院薬剤部1,岐阜大学医学部附属病院生体支援センター2 岐阜薬科大学実践社会薬学研究室3

Outcome Measurement of the Review System for Appropriate Use of Antimicrobial

Injections in All Inpatients Established by the Infection Control Team

Takashi Niwa*1, 2, Yasutaka Shinoda3, Akio Suzuki1, Tomofumi Ohmori1, Hirotoshi Ohta2, Ayumi Fukao2, Mitsuru Yasuda2, Kiyoyuki Kitaichi1, Katsuhiko Matsuura1,

Tadashi Sugiyama3, Nobuo Murakami2 and Yoshinori Itoh1 Department of Pharmacy, Gifu University Hospital1,

The Center for Nutrition Support & Infection Control, Gifu University Hospital2, Laboratory of Pharmacy Practice and Social Science, Gifu Pharmaceutical University3

Received November 16, 2011 Accepted January 22, 2012

 Antimicrobial resistance in hospitals is increasingly becoming a major problem worldwide, thus appropriate use of antimicrobial agents should be promoted. Since August 2009, our hospital has established a review system for checking prescriptions in all patients receiving antimicrobial injections according to the intervention and feedback of antimicrobial stewardship (AMS) guideline. The antimicrobial use density (AUD), duration of administration, length of hospital stay, and antimicrobial resistance in a year were compared before and after starting the intervention into AMS. Suggestions made by members of the infection control team (ICT) to the prescribers were for the major part the choice and dose elevation of antimicrobials. Most of the proposals (91%) were accepted by the prescribers. Although AUD was not changed after AMS intervention, the proportion of prolonged antimicrobial use (over 2 weeks) was significantly reduced from 5.2% to 4.1% (p=0.007), which led to the saving of costs for antibiotics (4.48 million yen/ year). The incidence of MRSA tended to decrease after AMS intervention (p=0.074). The median length of hospital stay was ultimately shortened by 1.0 day (p=0.0005), which led to an estimated saving of medical costs by 520 million yen/year. We consider that our intervention profoundly affects this cost saving. These findings suggest that the extensive intervention into AMS is effective in reducing the frequency of inappropriate use of antimicrobials, suppressing the occurrence of antimicrobial resistance, and saving medical expenses.

(2)

Antimicrobial stewardship(AMS)は抗菌薬適正 使用推進プログラムであり,抗菌薬の適正使用を 推進することにより,耐性菌の出現防止や治療効 果の向上を目指す方法である10).2007 年に米国 感染症学会と米国医療疫学学会が合同発表した AMS ガイドラインでは,「抗菌薬の使用制限(許 可制,届出制導入)」とともに「介入とフィードバッ ク」が抗菌薬の適正使用推進の 2 大戦略とされて いる.「介入とフィードバック」とは,対象とな る抗菌薬が適正に使用されているか否かを日常的 に監視し,必要に応じて処方医に対して適切な薬 剤選択や投与法を提案する手法である11).しかし ながら,我が国の多くの施設では抗 MRSA 薬や カルバペネム系抗菌薬など,特定の抗菌薬に限定 して届出制/許可制を導入しているに過ぎない. 岐阜大学病院(以下,本院)では全国に先駆け,「介 入とフィードバック」に基づき,感染症専門医と 感染制御専門薬剤師が中心となり,注射用抗菌薬 使用全症例を対象として,抗菌薬適正使用チェッ ク体制を 2009 年 8 月に構築した.本報告では, 本介入の効果について,抗菌薬使用状況,耐性菌 の分離状況,患者の予後,および医療経済的観点 から評価した.

方  法

1.AMS 介入の概要 本院は 606 床の急性期医療を中心とした総合病 院である.注射用抗菌薬が使用開始された全入院 患者の情報を薬剤部内システムによって抽出し, 薬剤師が電子カルテを閲覧し,病原微生物や感染 臓器といった情報から判断して最適な抗菌薬選択 がなされているか,さらには肝機能,腎機能,お よび pharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)か ら最適な用法および用量が選択されているか否か について確認した(図 1).また,カルバペネム 使用症例並びに抗 MRSA 薬が処方された患者に ついては,週 2 回の頻度で de-escalation が可能か 否か,漫然とした投与がなされていないか,等に ついても確認した.さらに,同一抗菌薬の投与期 間が 2 週間を超えて継続投与されている症例で は,その後,毎週 1 回,長期使用されている旨を 電子カルテの処方医へのメッセージ欄に記載する とともに,投与期間が適切であるかを監視した. 適正使用の判定にはサンフォード感染症治療ガイ ド12),抗菌薬使用のガイドライン13)を用い,こ れらのガイドラインの推奨薬剤あるいは同等のス ペクトルを有する薬剤を適正な選択とした.これ らのチェックによって抗菌薬の使用に関して,処 方医との協議が必要であるとみなされた症例につ いては,ただちにインフェクションコントロール ドクター(infection control doctor,ICD)に報告し, ICDから直接処方医に連絡して改善提案を行っ た.本介入の評価は,AMS 介入前 1 年間(2008 年 8 月~2009 年 7 月)と AMS 介入後(2009 年 8月~2010 年 7 月)における実績を比較した. 図 1  注射用抗菌薬が処方された全入院患者を対象とした antimicrobial stewardship(AMS)の介入項目

(3)

2.抗菌薬使用量の比較

注射用抗菌薬の使用量は木村ら14)や梅村ら15) の方法に従って antimicrobial use density(AUD)を算 出した.AUD 算出に用いたdefined daily dose(DDD) は,WHO に規定された値とした(例:セファゾリ ン 3 g,メロペネム 2 g,バンコマイシン 2 g). 3. 抗菌薬使用日数,入院日数,抗菌薬薬剤費お よび全医療費の比較 注射用抗菌薬が使用された全ての入院患者を対 象として,抗菌薬使用日数および入院期間を AMS介入前後で比較した. また,医療経済効果については,抗菌薬薬剤費 および入院に要する医療費を AMS 介入前後で比 較した.抗菌薬薬剤費については,AMS 介入前 後における各注射用抗菌薬の年間使用量に薬価を 乗じて年間抗菌薬使用額を算出した.この年間抗 菌薬使用額を使用患者数で除して患者 1 人当たり の抗菌薬使用額を算出し,その差額に介入後の患 者数を乗じて年間薬剤費節減額を算出した.なお, AMS介入後の期間に薬価改定があったが,AMS 介入前の薬価に統一して算出した. 一方,入院医療費は,介入前後の平均入院期間 の差(日)に診療科毎の 1 日当たりの入院費用(診 療単価)を乗じ,その総和を算出した. 4. 薬剤耐性菌の検出状況の比較

Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) 検出率は,期間中に検出された MRSA 株および Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA) 株の総和に占める MRSA の割合として算出した. 一方,Pseudomonas aeruginosa(P. aeruginosa)の 耐性率は,期間中に検出された P. aeruginosa 分離 株について,ピペラシリン(PIPC),セフタジジ ム(CAZ),イミペネム/シラスタチン(IPM/ CS),アミカシン(AMK),レボフロキサシン (LVFX)に対する耐性株の割合として算出した.   5.統計解析

解 析 は SPSS II for Windows, ver.11(SPSS Inc) を用いて行った.AMS 介入前後の比較はカテゴ リーデータについては χ2 検定により,連続量デー タについては t 検定により統計解析を行った.入 院期間については,Kaplan-Meier plot により入院 期間中央値,平均値および 25~75 パーセンタイ ルを算出し,log-rank 検定により介入前後で比較 した.p 値が 0.05 未満を統計学的有意水準とした. 6.倫理的配慮 本研究を実施するに当たっては,岐阜大学大学 院医学系研究科倫理審査委員会の承認(承認番 号:23-16)を取得した.

結  果

1.患者背景 表 1 に注射用抗菌薬が処方された入院患者の 患者背景を示した.本研究の対象となった患者は, AMS介入前 6,251 人,介入後 6,348 人であった. 入院患者の男女差,年齢,手術の有無に介入前後 で差は見られなかった. 2.処方医との協議内容 AMS介入後において処方医と協議した件数は 102件であった(表 2).表 3 に処方医と協議し た代表例を示した.協議内容は empiric therapy に おける薬剤変更の提案,増量の提案が多くを占め ていた.前者においては処方医の提案受け入れ率 は高く,94%であった.また,TDM の提案や de-escalationに関する提案については 100%の受け入 れ率であり,全体の受け入れ率は 91%と高率で あった. 3. AMS 介入前後における抗菌薬長期投与例の 比較 同一抗菌薬による連続投与期間が 2 週間を超え る長期投与症例の割合は,AMS 介入前 5.2%(323 AMS介入前 (n=6,251) AMS介入後 (n=6,348) 性別(男/女) 3,334/2,917 3,417/2,931 年齢 〔歳,中央値(四分位範囲)〕 60(38-72) 62(41-72) 手術歴(あり/なし) 4,140/2,111 4,300/2,048 表 1 患者背景

(4)

人/6,251 人)であったのに対して介入後は 4.1% (263 人/6,348 人)(p=0.007)と有意に低下し た(図 2). 4.AMS 介入前後における抗菌薬使用量の比較 各系統の抗菌薬使用量(AUD)は AMS 介入後 にカルバペネムが減少する傾向が認められた(図 3). 総使用量は AMS 介入前後で差が認められなかった (208.5±12.4 DDD/1000 patients-days vs 208.5±18.0 DDD/1000 patients-days, p=0.997). 5. AMS 介入前後における薬剤耐性菌出現率の 比較

S. aureusに占める MRSA の割合は,AMS 介入 前 48%から AMS 介入後 41%へと低下傾向を示 した (p=0.074) (図 4A).さらに,P. aeruginosa については,PIPC,CAZ,IPM/CS 耐性率は AMS 介入後に低下する傾向が認められたが,その他の 薬剤に対する耐性率は変化なかった(図 4B). 6.AMS 介入前後における入院期間の比較 図 5A に示した Kaplan-Meier plot から求めた抗 菌薬使用患者の入院期間[中央値(25~75 パー 提案件数(件) 受け入れ件数(件) 受け入れ率(%) empiric therapyにおける薬剤変更を提案 32 30 94 増量を提案 32 28 88 投与の継続,中止を提案 12 10 83 TDMを提案 15 15 100 de-escalationを提案 6 6 100 減量を提案 4 3 75 用法変更を提案 1 1 100 合計 102 93 91 表 2 AMS 介入における提案内容,件数および提案受け入れ率 項目 症例 協議内容 結果 empiric therapyに おける薬剤変更を 提案 60歳代 女性 化学療法施行中の発熱性好中球減少症に対してセファゾリンが開始された.セファゾリンでは抗菌スペクトルが狭く, 有効性が期待できないことから,ICD を介して薬剤選択を 協議した. 抗菌薬はセフェピムに変更 となった.その後解熱し, セフェピムも中止となっ た. de-escalationを 提案 60歳代 女性 子宮全摘出術後の患者.尿路感染を疑い,メロペネムを投与されていた.その後尿培養にて E. faecalis が検出された ため,ICD を介して狭域薬剤への変更を協議した. 抗菌薬はアンピシリンへと 変更され,発熱も軽快した. 投与の継続, 中止を提案 80歳代 女性 脳炎にて入院となった患者.入院後に誤嚥性肺炎となり,タゾバクタム/ピペラシリンを投与されていた.投与 14 日目,感染は軽快しており,投与中止してよいと考えられ たことから,ICD を介して投与の継続について協議した. タゾバクタム/ピペラシリ ンは投与終了となった.そ の後感染兆候は認めなかっ た. 増量を提案 40歳代 女性 子宮頸がんにて化学療法を行っている患者.38℃台の発熱と衰弱により入院となった.発熱性好中球減少症としてセ フェピム 1 回 1 g,1 日 2 回が開始された.点滴時間は 1 回 0.5 時間であった.患者の腎機能は Ccr 154 mL/min と良好で あるため PK/PD を考慮して増量,点滴時間の延長を医師 に提案した. セフェピムは 1 回 1 g,1 日 4回,点滴時間 1 時間へと 変更された.その後,速や かな解熱を認めた. 表 3 抗菌薬使用全症例チェックによる処方医との協議内容の代表例 5 6 合 ( % ) P=0.007 3 4 与 例 の 割 2 3 薬 長 期 投 与 0 1 抗 菌 薬 (323/6,251) (263/6,348) AMS介入前 AMS介入後 図 2  AMS 介入前後における注射用抗菌薬長期(2 週間を超える)投与の割合 ( )内の数値は長期投与患者数/抗菌薬投与全患者数を示す. 統計学的検定は χ2検定により実施.

(5)

センタイル)]は,AMS 介入前は 12.0 日(7 ~23 日)であったが,AMS 介入後では 11.0 日(6 ~ 21日)であり,中央値として 1.0 日,平均として 1.1日間の有意な短縮(p=0.0005)が認められた. なお,全入院患者の平均入院期間は,介入前後で 差は認められなかった(14.7 日 vs 14.5 日) (図 5B). 7.AMS 介入の医療経済効果 ( 1)抗菌薬薬剤費節減効果 患者 1 人当たりの抗菌薬使用金額は AMS 介入 前 2.49 万円であったのに対して,介入後 2.42 万 円であり,この差額に介入した患者数(6,348 人) を乗じることにより推定した年間薬剤費節減額 は,約 448 万円であった. ( 2)入院医療費削減効果 AMS介入前後の平均入院期間の差(1.1 日)に 各診療科における入院患者数および 1 日当たりの 入院費用(診療単価)を乗じることにより推定し た年間医療費削減額は,約 5.2 億円であった(図 6). 図 3  AMS 介入前後における注射用抗菌薬使用量の比較 統計学的検定は対応のない t 検定により実施

図 4  AMS 介入前後における MRSA 検出率(A)および緑膿菌の種々の抗菌

薬に対する耐性率(B)の比較

MRSA検出率は MRSA+MSSA に対する MRSA の割合(%)を示す.統計学的検定は χ2

検定により実施.(略)PIPC: ピペラシリン, CAZ: セフタジジム,IPM/CS: イミペネム/シ ラスタチン,AMK: アミカシン,LVFX: レボフロキサシン

(6)

考  察

AMSの 2 大戦略とされている「介入とフィー ドバック」は,抗菌薬の不適正使用を減少させる のに有効な手法である10, 16~17).介入とフィード バックは処方医の負担が少なく,さらに介入は医 師への教育効果もある.一方,介入とフィードバッ クは,監視者(通常,感染症専門医または十分な 訓練を受けた薬剤師)に相当な労力を強いられる ことが欠点であり,米国では監視者はこの業務の みを専任で行っていることが多い18).しかしなが ら,本邦では欧米と比較して病院規模当たりの医 療従事者数が圧倒的に少なく,介入とフィード バックを専任で実施している施設はほとんどな い.我々は,抗菌薬適正使用の徹底と耐性菌出現 の抑制を目的として,注射用抗菌薬が処方された 全入院患者に対する介入とフィードバックの完全 実施を 2009 年 8 月から開始した. 用法・用量に関する処方医との協議内容では, 減量提案よりも増量提案が多かった.米国では介 入前の抗菌薬投与の 50%が過量投与であり,用 量調節介入によって抗菌薬の副作用も減少したと の報告があり19),我々の結果と相反するものであ る.しかし小笠原ら20)は抗菌薬投与量の適正化 に取り組んだ結果,我々同様に増量が必要であっ たことを報告している.日本では抗菌薬の用法の 多くは 1 日 2 回であったこともあり21),介入前に は 1 日 2 回という用法が多かった.しかし,PK/ PDを考慮すると 1 日 2 回という用法が適正であ る抗菌薬は少なく,増量を提案する必要があった ことが原因と考えられる. ICTからの提案は,全体として 90%を超える 高率で処方医に受け入れられ,この比率は米国で の既報と同等であった22~24).この高い受け入れ率 は,ICT からの一方的な提案ではなく,抗菌薬使 用の考え方を含めて処方医と十分な協議を心掛け た結果であると考えられる.また,介入した症例 ではその後の経過を注意深く監視し,経過が良好 であることを確認している. 英国や米国の報告では AMS の手法を用いた介

図 5  Kaplan-Meier plot による AMS 介入前後における注射用抗菌薬使用患者の入

院日数(A)および注射用抗菌薬投与患者並びに全患者の入院期間(B)の比較     統計学的検定は log-rank 検定により実施. 図 6 AMS 介入の医療経済効果 注射用抗菌薬が使用された全入院患者を対象とし,介入前後の 平均入院期間の差(1.1 日)に各診療科における 1 日当たりの 平均入院単価を乗じて,医療費削減額を診療科毎に算出し(グ ラフ内数値),その総和を年間推定医療費削減総額とした.

(7)

入により抗菌薬使用量が減少している11, 25).今回 の検討では,抗菌薬の総使用量に変化は認められ なかったが,減量を提案するよりも増量の提案が 多かったことが原因と考えられる.一方,国内で はカルバペネム等の広域抗菌薬について許可制や 届出制等の使用制限を行っている施設が多く,そ の結果,使用制限薬の使用量が減少したとの報告 があるが26~28),第 4 世代セフェム等を使用制限薬 剤としなかった場合,第 4 世代セフェム等の過剰 使用となる危険性が指摘されている29).本院では 抗 MRSA 薬のみを使用制限薬としているが , 介 入後には第 4 世代セフェムの使用量に変化はない ものの,カルバペネムの使用量が減少傾向にある. 全ての注射用抗菌薬の監視が,安易な広域抗菌薬 の使用を抑制した可能性が考えられ,各系統の抗 菌薬使用量に及ぼす影響については今後の使用動 向をさらに検討する必要がある. 抗菌薬長期投与例の割合は AMS 介入後有意に 低下した.これは,漫然とした投与が減少したこ ととともに,我々が各症例の薬剤選択や用量をき め細かに監視した結果,治療効果も向上した結果 であると評価している.また,入院日数は,全入 院患者では介入前後で差はなかったが,抗菌薬使 用症例では,有意に短縮しており,この結果も AMS介入の効果であると考えられる. AMS介入により各種細菌の薬剤感受性が改善 されることについては国内外で幾つかの報告がな されている20, 30~33).一方,鴨志田ら34)は,抗菌薬 の使用が変動した後,薬剤感受性が変化するには 時間を要すると報告していることから,薬剤感受 性への影響を真に評価するためには数年を要する と考えられる.本 AMS 介入においては 1 年間で MRSAの検出率,P. aeruginosa の耐性率にすでに 改善傾向が認められており,介入効果は得られて いると考える.抗菌薬の使用量は薬剤感受性に影 響するが,PK/PD パラメータに基づいた使用が より強力に薬剤耐性を抑制するといった報告があ る35).本介入では抗菌薬使用量に変化はなかった が,PK/PD パラメータに基づいた使用を推進し ており,その結果が薬剤感受性に影響したと考え る.今後さらに抗菌薬の適正使用を推進し,薬剤 感受性の改善に長期的に取り組む必要がある. 一方,抗菌薬の適正使用推進により,患者 1 人 当たりの抗菌薬使用額が減少し,それによる薬剤 費節減額は年間 448 万円と推測された.これは, 抗菌薬総使用量の変化はなかったものの,de-escalationの推進等により,カルバペネムの使用 量が減少し,より安価なペニシリン系の使用量が 増加した結果と考える.さらに,AMS 介入によ り入院期間が平均 1.1 日間短縮されたことは , 診 療単価による換算にて年間約 5.2 億円の入院医療 費削減に繋がると推測された.介入前後の入院期 間に全入院患者では差は認めず,抗菌薬使用患者 にのみ入院期間の短縮が認められたことから,抗 菌薬使用患者の入院期間の短縮とそれに伴う入院 医療費削減には,我々の介入効果が少なからず寄 与したものと考える. 従来から ICT は抗菌薬の使用量の動向を指標と して抗菌薬の適正使用に取り組んできた36~37).し かし,抗菌薬の使用量には,使用患者数,1 日用量, 使用日数という因子があり,本研究で示した通り, 本邦では抗菌薬の 1 日用量が少ない場合が多く, 使用量のみでは適正使用を論ずることが難しい面 もある.個々の症例を監視する我々の手法は,こ の欠点を解決するものである.室らはカルバペネ ム使用症例を対象に症例を監視し,de-escalation の推進に一定の効果を得ているが38),この結果も 抗菌薬使用量のみの監視で得られるものではな い.電子カルテが多くの施設で導入されている状 況下で個々の症例の監視は今後さらに抗菌薬の適 正使用を推進するための一手法であると考える. 本介入では全症例を監視するために感染制御専門 薬剤師は 1 日 4 時間,週 5 日の時間を要しているが, 入院日数の短縮,医療経済効果等,人員を捻出す るに十分な効果は得られると考える. なお,このような取り組みを効果的に行うには, 感染制御専門薬剤師による抗菌薬不適正使用症例 のスクリーニングのみならず,感染症専門医によ る不適正使用の評価,臨床検査技師による細菌グ ラム染色による起因菌の想定および培養結果の早 期情報収集,感染管理認定看護師による各症例の 情報収集など,チーム医療として各職種間の密な 連携が必須である. 結論として,我々は抗菌薬適正使用を推進する

(8)

ために,ICT 各職種が密に連携し,注射用抗菌薬 が処方された全入院患者を対象として注射用抗菌 薬チェック体制を確立した.その結果,抗菌薬長 期使用例の減少,入院期間の短縮とそれに基づく 医療費の削減,抗菌薬薬剤費の節減といった効果 が認められた.また,耐性菌の出現率の低下傾向 が認められた.従って,AMS 介入は抗菌薬適正 使用とともに入院期間の短縮や薬剤耐性の抑制に 繋がり,さらには医療経済効果も大きいと考えら れる.

引用文献

1) Mera RM, Miller LA, Daniels JJ, Weil JG, White AR, Increasing prevalence of multidrug-resistant Streptococcus pneumoniae in the United States over a 10-year period: Alexander Project, Diagn Microbi-ol Infect Dis, 2005, 51, 195-200.

2) Bratu S, Landman D, Haag R, Recco R, Eramo A, Alam M, Quale J, Rapid spread of carbapenem-re-sistant Klebsiella pneumoniae in New York City: a new threat to our antibiotic armamentarium, Arch Intern Med, 2005, 165, 1430-1435.

3) Oteo J, Lazaro E, de Abajo FJ, Baquero F, Campos J, Antimicrobial resistant invasive Escherichia coli, Spain, Emerg Infect Dis, 2005, 11, 546-553.

4) Gould IM, Antibiotic policies and control of resis-) Gould IM, Antibiotic policies and control of resis- Gould IM, Antibiotic policies and control of resis-tance, Curr Opin Infect Dis, 2002, 15, 395-400. 5) Neuhauser MM, Weinstein RA, Rydman R,

Danziger LH, Karam G, Quinn JP, Antibiotic resis-tance among gram-negative bacilli in US intensive care units: implications for fluoroquinolone use, JAMA, 2003, 289, 885-888.

6) Bronzwaer SL, Cars O, Buchholz U, Mölstad S, Goettsch W, Veldhuijzen IK, Kool JL, Sprenger MJ, Degener JE, European Antimicrobial Resistance Surveillance System, A European study on the rela-tionship between antimicrobial use and antimicro-bial resistance, Emerg Infect Dis, 2002, 8, 278-282. 7) Watson RL, Dowell SF, Jayaraman M, Keyserling H,

Kolczak M, Schwartz B, Antimicrobial use for pediat-ric upper respiratory infections: reported practice, actual practice, and parent beliefs, Pediatrics, 1999,

104, 1251-1257.

8) Cosgrove SE, Patel A, Song X, Miller RE, Speck K, Banowetz A, Hadler R, Sinkowitz-Cochran RL,

Cardo DM, Srinivasan A, Impact of different meth-ods of feedback to clinicians after postprescription antimicrobial review based on the Centers For Dis-ease Control and Prevention’s 12 Steps to Prevent Antimicrobial Resistance Among Hospitalized Adults, Infect Control Hosp Epidemiol, 2007, 28, 641-646.

9) Kim SH, Park WB, Lee CS, Kang CI, Bang JW, Kim HB, Kim NJ, Kim EC, Oh MD, Choe KW, Outcome of inappropriate empirical antibiotic thera-py in patients with Staphylococcus aureus bacterae-mia: analytical strategy using propensity scores, Clin Microbiol Infect, 2006, 12, 13-21.

10) Dellit TH, Owens RC, McGowan Jr JE, Gerding DN, Weinstein RA, Burke JP, Huskins WC, Paterson DL, Fishman NO, Carpenter CF, Brennan PJ, Billeter M, Hooton TM, Infectious Diseases Society of ca; Society for Healthcare Epidemiology of Ameri-ca, Infectious Diseases Society of America and the Society for Healthcare Epidemiology of America guidelines for developing an institutional program to enhance antimicrobial stewardship, Clin Infect Dis, 2007, 44, 159-177.

11) Drew RH, Antimicrobial stewardship programs: how to start and steer a successful program, J Manag Care Pharm, 2009, 15 (Suppl), S18-23.

12) 戸塚恭一, 橋本正良, “日本語版サンフォード感 染症治療ガイド2011”, ライフサイエンス出版, 東京, 2011, pp.1-346. 13) 日本感染症学会, 日本化学療法学会, “抗菌薬使 用のガイドライン”, 協和企画, 東京, 2005, pp.1-267. 14) 木村丈司, 甲斐崇文, 高橋尚子, 佐々木秀美, ICT 及び薬剤部の主導によるPK/PD理論に基づいた 抗菌薬適正使用の実践効果, 日本環境感染学会 誌, 2010, 25, 310-316. 15) 梅村拓巳, 望月敬浩, 村木優一, 片山歳也, 滝 久司, 大曲貴夫, 山岸由佳, 三鴨廣繁, 森 健, Anatomical Therapeutic Chemical Classification/ Defined Daily Dose Systemを利用した注射用抗菌 薬の使用量と緑膿菌耐性率, 日本環境感染学会誌, 2010, 25, 376-382.

16) Camins BC, King MD, Wells JB, Googe HL, Patel M, Kourbatova EV, Blumberg HM, Impact of an an-timicrobial utilization program on anan-timicrobial use at a large teaching hospital: a randomized controlled trial, Infect Control Hosp Epidemiol, 2009, 30, 931-938.

(9)

17) Kisuule F, Wright S, Barreto J, Zenilman J, Improving antibiotic utilization among hospitalists: a pilot aca-demic detailing project with a public health ap-proach, J Hosp Med, 2008, 3, 64-70.

18) McQuillen DP, Petrak RM, Wasserman RB, Nahass RG, Scull JA, Martinelli LP, The value of infectious diseases specialists: non-patient care activities, Clin Infect Dis, 2008, 47, 1051-1063.

19) Evans RS, Pestotnik SL, Classen DC, Burke JP, Evaluation of a computer-assisted antibiotic-dose monitor, Ann Pharmacother, 1999, 33, 1026-1031. 20) 小笠原康雄, 大野公一, 播野俊江, 舟原宏子, 後藤 千栄, 長崎信浩, 服部 聖, 三田尾賢, 病棟薬剤師 による「抗菌薬 PK/PDチェックシート」を活用 した抗菌薬適正使用への取り組み, 日本環境感 染学会誌, 2008, 23, 117-123. 21) 大曲貴夫, 抗菌薬の投与量・投与方法の日米比 較, 総合臨床, 2009, 58, 1352-1538.

22) Fraser GL, Stogsdill P, Dickens Jr JD, Wennberg DE, Smith Jr RP, Prato BS, Antibiotic optimization. An evaluation of patient safety and economic out-comes, Arch Intern Med, 1997, 157, 1689-1694. 23) Srinivasan A, Song X, Richards A, Sinkowitz-

Cochran R, Cardo D, Rand C, A survey of knowledge, attitudes, and beliefs of house staff physicians from various specialties concerning antimicrobial use and resistance, Arch Intern Med, 2004, 164, 1451-1456. 24) Barenfanger J, Short MA, Groesch AA, Improved

antimicrobial interventions have benefits, J Clin Mi-crobial, 2001, 39, 2823-2828.

25) Ansari F, Gray K, Nathwani D, Phillips G, Ogston S, Ramsay C, Davey P, Outcomes of an intervention to improve hospital antibiotic prescribing: interrupted time series with segmented regression analysis, J Antimicrob Chemother, 2003, 52, 842-848. 26) 酒井義朗, 井上光鋭, 有馬千代子, 久保裕子, 鶴田 美恵子, 指定抗菌薬使用届出制度の導入効果, 日 本環境感染学会誌, 2008, 23, 66-71. 27) 田中 大, 深澤鈴子, 喜古康博, 木下かおり, 坂口 みきよ, 藤江俊秀, 抗菌薬の幅広い使用届出制が 処方動向及び薬剤感受性に及ぼす効果, 日本環 境感染学会誌, 2008, 23, 361-365. 28) 村木優一, 田辺正樹, 中村明子, 松島佳子, 妹尾 昌幸, 福田みどり, 奥田真弘, 病院情報管理シス テムと連動した広域抗菌薬の使用届出制の構築 と有用性の評価, 医療薬学, 2010, 36, 316-322. 29) 飯沼由嗣, 抗菌薬のレギュレーション届出制, 許 可制, 総合臨床, 2009, 58, 1378-1381.

30) Bantar C, Sartori B, Vesco E, Heft C, Saúl M, Salamone F, Oliva ME, A hospitalwide intervention program to optimize the quality of antibiotic use: impact on prescribing practice, antibiotic consump-tion, cost savings, and bacterial resistance, Clin In-fect Dis, 2003, 37, 180-186.

31) Ding H, Yang Y, Wei J, Fan S, Yu S, Yao K, Wang A, Shen X, Influencing the use of antibiotics in a Chi-nese pediatric intensive care unit, Pharm World Sci, 2008, 30, 787-793.

32) Philmon C, Smith T, Williamson S, Goodman E, Controlling use of antimicrobials in a community teaching hospital, Infect Control Hosp Epidemiol, 2006, 27, 239-244.

33) White AC Jr, Atmar RL, Wilson J, Cate TR, Stager CE, Greenberg SB, Effects of requiring prior authorization for selected antimicrobials: expendi-tures, susceptibilities, and clinical outcomes, Clin Infect Dis, 1997, 25, 230-239.

34) 鴨 志 田 聡, 篠 原 由 憲, 和 泉 裕 一, 樗 木 智 聡, 長峯裕二, 福田光司, 菊池 充, 下村昌史, Antimi-, 福田光司, 菊池 充, 下村昌史, Antimi-福田光司, 菊池 充, 下村昌史, Antimi-, 菊池 充, 下村昌史, Antimi-菊池 充, 下村昌史, Antimi-, 下村昌史, Antimi-下村昌史, Antimi-, Antimi-crobial Use Density値変動が及ぼす薬剤感受性へ の影響の調査, 日本病院薬剤師会雑誌, 2011, 47, 553-557. 35) 今井 徹, 佐々木祐樹, 菊池憲和, 吉田善一, 矢越 美智子, 伊藤美和子, 矢内 充, Pharmacokinetics-Pharmacodynamics理論に基づくカルバペネム系 抗菌薬メロペネムの使用と緑膿菌耐性化の関 係, 日本病院薬剤師会雑誌, 2011, 47, 309-312. 36) 田中健二, 鹿角昌平, 竹内道子, 若麻績律子, 中島 恵利子, 高橋 央, 齋藤 博, ICT 活動下におけ る MRSA 検出状況と抗菌薬使用量の推移の分 析, 医療薬学, 2009, 35, 141-144. 37) 片山歳也, 感染制御及び医療安全に貢献する薬 剤師の必要性, 薬学雑誌, 2007, 127, 1789-1795. 38) 室 高広, 三好康介, 梅田勇一, 竹本伸輔, 中村 権一, 神村英利, 加留部善晴, カルバペネム系抗 菌薬のde-escalationを目的とした感染対策チー ムの教育的介入効果と問題点, 日本病院薬剤師 会雑誌, 2010, 45, 1521-1524.

参照

関連したドキュメント

Analysis of the Risk and Work Efficiency in Admixture Processes of Injectable Drugs using the Ampule Method and the Pre-filled Syringe Method Hiroyuki.. of

Hiroyuki Furukawa*2, Hitoshi Tsukamoto3, Masahiro Kuga3, Fumito Tuchiya4, Masaomi Kimura5, Noriko Ohkura5 and Ken-ichi Miyamoto2 Centerfor Clinical Trial

1年生を対象とした薬学早期体験学習を9 月に 実 施し,辰巳化 学( 株 )松 任 第 一 工 場,参天製薬(株)能登工場 ,

を,松田教授開講20周年記念論文集1)に.発表してある

 5月15日,「泌尿器疾患治療薬(尿もれ,頻尿)の正しい

The period from January to December 2015 before the guidelines were revised (“before Revision”) and the period from January to December 2017 after the guidelines were revised

免疫チェックポイント阻害薬に分類される抗PD-L1抗 体であるアテゾリズマブとVEGF阻害薬のベバシズマ

医師と薬剤師で進めるプロトコールに基づく薬物治療管理( PBPM