日集中医誌 2021;28:219-21.
-219-
短 報
The needs assessment of communication skill training for intensivists in pediatric critical care field
Mioko Kasagi*1, Yuko Kikuchi*2, Naoki Shimizu*1,3,4*1 Department of Pediatric Critical Care and Emergency Medicine, Division of Pediatric Critical Care Medicine, *2 Division of Children and Family
Sup-port, Department of Psychology and Welfare, Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center(2-8-29 Musashidai, Fuchu, Tokyo 183-8561, Japan)
*3 Fukushima Children and Women Medical Support Center, Fukushima Medical University(1 Hikarigaoka, Fukushima, Fukushima 960-1295, Japan) *4 Department of Paediatrics, St. Marianna University School of Medicine(2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki, Kanagawa 216-8511, Japan)
J Jpn Soc Intensive Care Med 2021;28:219-21.
背景と目的
集中治療現場では,終末期医療や医療事故など,患
者や患者家族との困難なコミュニケーション(difficult
communication, DC)の必要性にしばしば直面する。
こうしたコミュニケーション技術は集中治療医として
必須であるが
1),教育機会の不足が指摘されている
2)。
国内では血液腫瘍科の医師,看護師を対象としたコ
ミュニケーションスキル・トレーニングの有用性が報
告され
3),国内の複数施設で実践されているが,集中
治療領域において同様のプログラムの十分な体系化は
成人,小児ともに未だされていない。今回,小児集中
治療医のDCに関する自己評価の現状と教育の必要性
を単施設で調査した。
方 法
当院PICUに勤務する集中治療医を対象に,DC全体
および①救命不能/終末期の説明,②脳機能停止/脳
死の説明,③脳死下臓器提供オプション提示,④病理
解剖の説明,⑤医療エラーの開示説明の5つの課題に
おけるDCに関して,5段階評価のアンケート調査を
行った。
評価項目は参加者の年齢,医歴,PICU勤務年数,
PICU勤務前の基盤領域,DC教育経験の有無,各課題
におけるDC経験の有無,DC全体および各DCに対す
る備えについての自己評価とした(Table 1)。DC全
体に対する自己評価の質問項目〔Table 1(2)1〜5〕は
Meyerらによる先行研究
4)を,救命不能/終末期の説
明に関する自己評価の質問項目〔Table 1(3)1〜13〕
はJohnsonらによる先行研究
5)を参考に作成した。終
末期以外の課題に関する質問項目〔Table 1(3)14〜
22〕は,自施設で設定した教育目標に関する参加者の
自己評価を問う質問とした。
当科では,当該時間帯の診療責任を負う病棟責任医
がDCを主導している。各項目の結果につき,DCを主
導しうる病棟責任医と,専修医の2群に分け比較を
行った。統計解析にはR version 3.6.1(R Core Team
(2016), R: A language and environment for
statis-tical computing. R Foundation for Statisstatis-tical
Computing, Vienna, Austria.)を用い,有意水準0.05
としてMann-WhitneyのU検定を行った。
本研究は東京都立小児総合医療センター倫理委員会
の承認を得た(倫理委員会承認番号H30b-142)。
結 果
病棟責任医6名/ 専修医8名の計14名から回答を得
小児集中治療現場でのコミュニケーション技術に関する教育
の必要性
笠木実央子
*1菊地 祐子
*2清水 直樹
*1,3,4Key words: ①ethics, ②end-of-life care, ③communication
*1東京都立小児総合医療センター救命・集中治療部集中治療科,*2同 子ども・家族支援部心理・福祉科
(〒183-8561 東京都府中市武蔵台2-8-29)
*3福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センター(〒960-1295 福島県福島市光が丘1)
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 28 No. 3 -220-
た。年齢・医歴・PICU経験年数中央値は37歳/32歳,
13年/8.5年,4.5年/1.4年であった。PICU勤務前の基
盤領域は,小児科12名(86%),救急科1名,麻酔科1
名であった。DCに関するベッドサイド教育または講
義の経験は5名(36%),シミュレーション教育の経験
は2名(14%)であった。
DC経験および自己評価をTable 1に示した。救命
不能の説明,医療エラー開示は病棟責任医全員が経験
していたが,脳機能停止/脳死の説明,脳死下臓器提
供オプション提示,剖検の説明経験は専修医でそれぞ
れ2名(25%),0名,4名(50%)であり,病棟責任医も
全員ではなかった。DC全体および各DCに対する備
えは,病棟責任医,専修医ともに,救命不能の説明
〔Table 1(3)-1〕を除く全項目で 5 段階評価中中央値
3 点以下であった。特に,DC 全体に対する準備不全
感〔Table 1(2)1,5〕,蘇生コードの説明〔Table 1
(3)-4〕,現 状 を 受 け 入 れ ら れ な い 家 族 へ の 対 応
〔Table 1(3)-12〕,脳機能停止・脳死下臓器提供の説
明〔Table 1(3)-14,15〕,医療エラー開示に必要なス
キルの理解〔Table 1(3)-22〕に関する準備不全感は,
専修医で強い傾向にあった(P < 0.05)。
考 察
当院PICUにおいて,DCに関する教育を体系的に受
Table 1 患者や患者家族との困難なコミュニケーション(DC)への備え 病棟責任医(n=6) 専修医(n=8) (1)DC経験の有無 n(%) n(%) 1 救命不能/終末期 6(100) 6(75) 2 脳機能停止/脳死 4(67) 2(25) 3 臓器提供オプション提示 3(50) 0(0) 4 剖検 5(83) 4(50) 5 医療エラー開示 6(100) 7(88) (2)DC全体に対する備え 中央値[最小,最大] 中央値[最小,最大] P値 1 DCを行う準備は,どのくらいできていると思いますか 3.0[3.0, 4.0] 2.5[1.0, 3.0] 0.03* 2 DCを行うコミュニケーション能力はどのくらいあると思いますか 3.0[2.0, 4.0] 2.5[1.0, 3.0] 0.15 3 DCを行うスキルはどのくらいあると思いますか 3.0[2.0, 4.0] 3.0[1.0, 4.0] 0.50 4 DCを行う自信がありますか 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 3.0] 0.06 5 DCに対して不安がありますか(※) 3.0[3.0, 4.0] 4.0[4.0, 5.0] 0.009* (3)各DCに対する備え 下記に関して自分はどのくらい準備ができていると思いますか 中央値[最小,最大] 中央値[最小,最大] P値 ■救命不能/終末期 1 救命不能/終末期であることを家族へ伝える 4.0[3.0, 4.0] 2.5[1.0, 4.0] 0.06 2 緩和医療を含む治療オプションに関して話す 3.5[3.0, 4.0] 2.5[1.0, 4.0] 0.12 3 治療の差し控えに関して家族と話す 3.5[2.0, 4.0] 2.5[1.0, 4.0] 0.09 4 蘇生コードに関して話す 3.5[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 3.0] 0.03* 5 家族カンファレンスを企画実行する 3.5[2.0, 4.0] 1.5[1.0, 4.0] 0.05 6 宗教的・スピリチュアルな話題に関して家族と話す 3.0[2.0, 3.0] 2.0[1.0, 3.0] 0.23 7 患児の同胞に,患児の状態が悪いことを話す 2.5[2.0, 4.0] 1.5[1.0, 5.0] 0.23 8 患児の状態が悪いことに関する家族の心情を聞き出す 3.5[3.0, 4.0] 3.0[1.0, 5.0] 0.46 9 家族の心情に共感を示す 3.5[2.0, 4.0] 4.0[1.0, 5.0] 0.63 10 終末期医療に関する家族の不安を聞き出す 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.20 11 PICUで患児にしてあげたいことに関して話す 3.5[3.0, 4.0] 3.0[2.0, 5.0] 0.11 12 患児の状態が悪いことを受け入れられない家族に対応する 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 3.0] 0.04* 13 医療者が適切でないと思う治療を望む家族に対応する 3.0[1.0, 4.0] 1.5[1.0, 3.0] 0.12 ■脳機能停止/脳死/臓器提供 14 こどもが脳機能停止状態であることを話す 3.5[2.0, 4.0] 1.5[1.0, 4.0] 0.02* 15 臓器提供オプション提示を行う 3.0[2.0, 4.0] 1.0[1.0, 4.0] 0.03* 16 自施設の脳死判定・臓器提供に関する指針を理解している 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.31 ■剖検 17 剖検を提示し家族の意思を確認する 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.20 18 通常の剖検以外の選択肢があるか理解し,提示できる 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.12 19 病理/司法/行政解剖を区別し,警察対応が必要な症例に対応できる 3.0[1.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.26 ■医療エラー開示 20 医療エラー開示のモチベーションがある 3.5[1.0, 4.0] 2.5[1.0, 4.0] 0.20 21 医療エラー開示に際して準備すべき事項を理解している 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 4.0] 0.15 22 医療エラー開示に必要なスキルを理解している 3.0[2.0, 4.0] 2.0[1.0, 2.0] 0.01* 5段階評価のうち,一番近いものを選択。 1=全くできていない,2=それほどできていない,3=どちらともいえない,4=できている,5=十分できている。 (※) 1=全くない,2=それほどない,3=どちらともいえない,4=ある,5=非常にある。 *P<0.05 DC, difficult communication.-221- PICUコミュニケーション教育の必要性
けた経験を持つ医師は少なく,DCに対する備えは,専
修医,DCを主導している病棟責任医ともに十分では
なかった。今回調査対象となった病棟責任医はPICU
経験年数5年以内の医師が多数を占めており,経験不
足や低い自己評価の要因となった可能性がある。また,
小児では終末期や脳死症例の頻度が少なく,DCに関
する指導医からの継続的指導も不足していることが指
摘されており
6),7),背景として本調査結果に影響を与
えた可能性がある。Turnerらによる米国PICU専修
医を対象とした調査では,75%の専修医がPICUにお
けるDCおよびプロフェッショナリズム教育は「不十
分」と回答しており
2),本調査結果はこれを支持すると
考えられる。本調査は,単施設,少人数のみを対象と
した調査であり,国内全体の状況を反映していない可
能性があるため,今後,国内の他施設PICUやICUに
おいて同様の研究,調査の蓄積が望まれる。
今後DC教育を充実させる方法として,講義,ロー
ルモデリング,シミュレーションなどが挙げられるが,
コミュニケーション教育において講義やロールモデリ
ング単独での教育効果は十分でなく,シミュレーショ
ンや双方向性のフィードバックを含むことが望ましい
と報告されている
8),9)。実際に,米国では成人および
PICUにおいてDCに関するシミュレーション教育が
実施されており,医療従事者の自己評価向上
4)〜6),他
覚的なコミュニケーションスキル向上
5),7),10)などの効
果が示されている。症例経験数を増やす意味では,成
人集中治療部での研修も選択肢に挙がるが,実際の症
例におけるDCでは家族から直接フィードバックを受
けることは難しい
7)。また,成人診療を対象とした既
存のトレーニングは,DCの原則を学ぶ上では有用と
考えられる一方,疾患の違い,年齢による患者の認知
能力の違い,意思決定の主体が保護者であることなど,
小児集中治療領域においては小児特有の課題も少なく
ない。以上から,小児集中治療領域における疑似症例
を題材としたシミュレーションによる経験の補完が有
用と考えられる。
結 語
PICUにおける患者や患者家族とのDCの経験と教
育の機会は不足しており,小児集中治療医の備えは不
十分であった。経験の補完と不安の軽減を目的とした
コミュニケーション教育の必要性が示唆された。
本論文の要旨は,第46回日本集中治療医学会学術集会 (2019年,京都)にて発表した。 本稿の全ての著者に規定されたCOIはない。 文 献1) Accreditation Council for Graduate Medical Education (ACGME). ACGME Program Requirements for Graduate Medical Education in Pediatric Critical Care Medicine (Subspecialty of Pediatrics). July 1, 2020. Available from: h t t p s : / / w w w . a c g m e . o r g / P o r t a l s /0/ P F A s s e t s / ProgramRequirements/323_PediatricCriticalCare Medicine_2020.pdf?ver=2020-06-29-163401-677
2) Turner DA, Fleming GM, Winkler M, et al; Education in Pediatric Intensive Care Investigators. Professionalism and communication education in pediatric critical care medicine: the learner perspective. Acad Pediatr 2015;15:380-5.
3) Fujimori M, Shirai Y, Asai M, et al. Effect of communi-cation skills training program for oncologists based on patient preferences for communication when receiving bad news: a randomized controlled trial. J Clin Oncol 2014;32:2166-72.
4) Meyer EC, Sellers DE, Browning DM, et al. Difficult conversations: improving communication skills and relational abilities in health care. Pediatr Crit Care Med 2009;10:352-9.
5) Johnson EM, Hamilton MF, Watson RS, et al. An intensive, simulation-based communication course for pediatric critical care medicine fellows. Pediatr Crit Care Med 2017;18:e348-55.
6) Wolfe AD, Frierdich SA, Wish J, et al. Sharing life-altering information: development of pediatric hospital g u i d e l i n e s a n d t e a m t r a i n i n g . J P a l l i a t M e d . 2014;17:1011-8.
7) Brock KE, Cohen HJ, Sourkes BM, et al. Training pediatric fellows in palliative care: a pilot comparison of simulation training and didactic education. J Palliat Med 2017;20:1074-84.
8) Berkhof M, van Rijssen HJ, Schellart AJ, et al. Effective training strategies for teaching communication skills to physicians: an overview of systematic reviews. Patient Educ Couns 2011;84:152-62.
9) Davidson JE, Aslakson RA, Long AC, et al. Guidelines for Family-Centered Care in the Neonatal, Pediatric, and Adult ICU. Crit Care Med 2017;45:103-28.
10) Hope AA, Hsieh SJ, Howes JM, et al. Let’s Talk Critical. Development and evaluation of a communication skills training program for critical care fellows. Ann Am Thorac Soc 2015;12:505-11.
受付日2019年12月20日 採択日2020年 8 月17日