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Organ Biology VOL.27 NO 総説 医療的ケア児に対する小児在宅医療の現状と将来像 中村知夫 Current status and future aspects of home care medicine for children with medical co

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全文

(1)

はじめに

 国民の

5

人に一人が

75

歳以上という超高齢社 会に突入する

2025

年に対し,地域包括ケアシス テムの概念が提唱され,高齢者に対する医療・福 祉は,看取りも含めて「病院から在宅へ」という流 れが進んできている.

 もう一つの大きな社会問題である少子化の中 で,高齢出産と,周産期医療を含めた医療の進歩

の中で,生まれてくるこどもの数が減っているに もかかわらず,生まれたときから新生児集中治療 室

(以後 NICU

と略す)等での治療を必要とするこ どもの数が増えてきている.これらのこども達の なかで,

NICU

での急性期の治療後に,命と健康 の保持のために様々な医療的デバイスが必要な

「医療的ケア児」と呼ばれるこどもたちが急速に増 加してきている.また,新生児期以降の外傷,虐 待,脳炎・脳症や原病の進行によって小児集中治

総 説

医療的ケア児に対する小児在宅医療の 現状と将来像

中村知夫

Current status and future aspects of home care medicine for children with medical complexity Tomoo Nakamura

 〔Abstract〕 After the intensive care, the number of children who need medical cares and

equipments have been increasing. These children have various difficulties to establish linkages to primary health services, specialty health services, and related services, e.g., nurture, education, welfare and social services. For these children, hospitals and facilities have been the only places in their lives. Regarding the use of medical services, attention has been focused on the home care medicine, which has been mainly targeted at the elderly. In the near future, it is expected that these children will also benefit from a community-based integrated care system and a community based inclusive society.

key words : children with medical complexity, home care medicine for children, neonatal intensive care unit, community based integrated care system, community based inclusive society

 [要旨] 急性期治療の後に,医療ケアーや,医療機器を必要とする子どもが増加してい る.これらの子どもたちは,初期そして専門医療やその他の保育,教育,福祉,社会サー ビスを利用することは容易ではない.そのために,これらの子どもたちは今まで病院や施 設のみに存在すると考えられていた.しかし,今まで高齢者が主に利用していた在宅医療 を子どもたちが利用できるようになってきている.近い将来,これらの医療的ケア児も,

地域包括ケアシステムや地域共生社会の恩恵を受けることができることが期待されている.

キーワード:医療的ケア児,小児在宅医療,新生児集中治療室,地域包括ケアシステム,地域共生社会

受付:20191127日,受理:20191214

Department of General Pediatrics & Interdisciplinary Medicine, Department of Home Care Department, National Center for Child Health and Development Hospital; 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 総合診療部 在宅診療科部長 医療連携・患者支援センター 在宅医療支援室  室長Corresponding author:中村知夫

157-8535 東京都世田谷区大蔵2-10-1

E-mail:nakamura-t@ncchd.go.jp

(2)

療室

(以後 PICU

と略す)で治療を行った後に,医 療的ケア児となるこども達も増えてきている.こ れらのこども達が成人となることも珍しくなく,

地域包括ケアの概念は,単に高齢者にとどまらず,

障害児

者も含めた様々な支援を必要としている 人たちが,地域で暮らしていくための地域共生社 会の実現へと向かっている.「医療的ケア児」は,

地域共生社会の中で人として生活する代表者の一 人として捉えられている1)

 しかし,医療的ケア児が病院や施設以外の 地 域 で生活していることは,長く認知されていな かった.さらに,病気は重くても元気な医療的ケ ア児は,障害児としての様々な社会的支援の対象 とされないばかりか,学校に通うことすらかなわ ない時代もあった.平成

28

6

3

日の,「障害 者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するた めの法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」

で,医療的ケア児も障害児と定義され,「地方公 共団体は,医療的ケア児がその心身に応じた適切 な保険,医療,福祉 その他の関連分野の支援を 受けられるよう,連絡調整を行うための体制の整 備に関し,必要な措置を講ずるように努めなけれ ばならない」旨が規定された.このことをきっか けに,地域で,医療的ケア児者に対する保健,医 療,福祉その他の各関連分野の支援体制を整備す ることが求められ2),各地で少しずつ取り組みが 進んでいる.本稿では,医療的ケア児に対する小 児在宅医療の現状と将来像について概説し,読者

の方々に「医療的ケア児」について御理解いただ き,どの様な病気を持っていようとも,人として 生きてゆくことを選択できる幸福が追求できる地 域共生社会の実現に,一人でも多くの方に御賛同 いただけることを願っている.

医療的ケア児とは

 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支 援するための法律及び児童福祉法の一部を改正す る法律」では,「人工呼吸器を装着している障害児 その他の日常生活を営むために医療を要する状態 にある障害児」と定義されている.もう少し詳し く述べると,生きていくために日常的な医療的ケ アと医療機器が必要な児で,気管切開部の管理,

人工呼吸器の管理,吸引,在宅酸素療法,胃瘻・

腸瘻・胃管からの経管栄養,中心静脈栄養等を受 けている児をいう

(図 1)

.今後の医療の進歩によ り,さらにこれらの項目が増えることが予想され る3).この様に,医療的ケア児は,疾患や病態で 定義された子どもでなく,必要としている医療的 ケアと医療機器によって定義されているため,多 くの医療的ケアと医療機器が必要でも,歩けたり会 話できたりするこどもから,必要とする医療的ケ アや医療機器が少なくても,重度の知的障害と重 度の肢体不自由が重複している寝たきりの重症心身 障害児まで様々な状態のこどもたちが含まれる4). 22   Organ Biology VOL.27 NO.1 2020

図 1 医療的ケア児の概念.日本重症心身障害福祉協会医療問題検討委員会報告

(平成 29 年 5 月 19 日)より.

(3)

医療的ケア児の実態

 様々な社会福祉制度の対象となっていた重度の 知的障害と重度の肢体不自由が重複している重症 心身障害児や,運動機能は座位までの様々な医療 的ケアや医療機器を必要としている超・準重症心 身障害児に関しては,今までの先行研究等で対象 となるこどもの数はほぼ把握されてきた.しかし,

今まで定義の無かった医療的ケア児の正確な実数 把握はなされていなかった.医療的ケア児に対す る施策を考える際に,その実態を明らかにする必 要が生じ,奈倉らは,平成

28

年度厚生労働科学 研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケ ア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育 等の連携に関する研究

(田村班)

」の中で,毎年

5

月の診療報酬算定件数から算定される社会医療診 療行為別調査を利用して,

0

歳から

19

歳までの 医療的ケア児の実数把握を行った5).平成

27

5

月時点で,医療的ケア児の全国総数は

1 . 7

万人,

人工呼吸器児数は

3

千人,人口

100

万人あたり

134

人,うち人工呼吸器児数は

24

人と,医療的 ケア児の人工呼吸器比率は

18

%と高く,しかも

増加傾向にあることがわかった.最新データでは,

平成

30

年は,医療的ケア児の全国総数は

19,712

人,人工呼吸器児数は

4 , 178

人で,医療的ケア児 は過去

10

年で

2

倍,人工呼吸器児数は過去

10

年 で

10

倍以上に増加し,特に

0

歳から

4

歳までの 増加が顕著であり,乳幼児であるほど数も重症度 も高いことが明らかになった6)

(図 2)

 さらに,奈倉らは,平成

29

年度の報告で,都 道府県別の医療的ケア児数

(推計値)

及び,総人口 並びに

20

歳未満人口

1

万人当たりの値を報告し,

総数としては,東京都,神奈川県,愛知県,大阪 府などの都市部に多いが,地域差はあるものの

1

万人当たりの値では地方にも医療的ケア児は決し て少なくないことを明らかにした7)

(表 1)

医療的ケア児の背景と現状

 医療的ケア児の問題は,もともと

NICU

に長期 入院している患者が増加し,常に

NICU

が満床で あるために,緊急入院が必要な妊婦や新生児の入 院ができないことが契機となった.この問題の解 決のため,

NICU

長期入院を早く新生児病棟から 図 2 医療的ケア児・在宅人工呼吸患者の実数.平成 30 年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研

究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」

の協力のもと障害福祉課障害児・発達障害者支援室で作成

(4)

転出・退院させる動きが促進された結果,新生児 病棟から人工呼吸器を装着したまま転出する児が 急増し,これらの児の

2 / 3

は呼吸管理を続けなが ら在宅医療に移行することになった.さらに,一 旦減少した

NICU

長期入院患者が,

2009

年度以 降再び増加に転じてきている1)

(図 3)

.加えて,

新生児期以降に

PICU

で急性期の治療を受けたこ ども達も,退院後に医療的ケアが必要な状態と なっていることも明らかになってきた7)

(図 4)

. 医療的ケア児が急増する一方で,退院後のこども と家族を支援する医療・福祉のサービスは高齢者 に比して脆弱であり,医療的ケア児の在宅生活で は,十分な睡眠もとれず,こどもを短時間でも預 けることもできず,様々な問題を相談する相手も いない状況で,母親を主とした保護者の献身的な 努力によって成り立っていることが大きな問題と なっている9)

(図 5,6)

医療的ケア児の在宅生活を送る上での 問題点

 病院や施設とは異なり,在宅生活では患児は家 族との接触の機会が増え,年齢や個別の病態・性 格に合った療養・療育の環境を得られやすくなる.

また,在宅での医療は,社会的にも医療経済的に 低コストであるので医療費抑制効果が期待でき る.しかし,介護保険でカバーされない小児の在 宅医療には,過度の保護者への負担に象徴される ように,まだ解決されていない様々な問題が多い.

① 介護者負担を軽減するための病院へのレスパ イト入院は,原則として医療保険上認められ ない.

② 施設の人的・経済的資源の不足から,重症心 身障害児施設への短期入所受け入れは,人工 呼吸器装着等の医療ケアの高い児は敬遠され やすい.

③ 人工呼吸器装着等の医療ケアの高い児の急変 時の緊急入院の保証が難しい.

④ 重症度の高い小児を受ける小児科診療所・在 24   Organ Biology VOL.27 NO.1 2020

表 1 都道府県別の医療的ケア児数(推計値)及び,総人口並びに 20 歳未満人口 1 万人当たりの値.平成 28 年 10 月 1 日現在,総務省人口推計を使用.医療機関所在地からの集計結果のため,患者の住所 地とは異なる場合もあることに留意.平成 29 年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事 業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」報告 書より抜粋.

(5)

宅療養支援診療所・訪問看護ステーション・

介護施設などの医療福祉資源が乏しい.

⑤ 介護保険のケアマネジャーに相当するコー ディネーターが確立していない.行政が期待 する相談支援専門員は,福祉制度等には長け ているが,高度医療ケアには習熟していない ことが多い.その上,苦労してケアプランを 作成しても定期的なモニタリングが保障され ていないため,経済的に成り行かない.

医療的ケア児の在宅での医療支援

 様々な医療デバイスをつけた医療ケア児が,緊 急時も含め頻回の病院を受診することは容易では

ない.高齢者の場合は,通院が難しくなると,地 域の在宅医療の利用が広がってきている.同様に,

小児在宅患者にも,訪問診療や訪問看護の利用が 進められてきている.医療的ケア児への在宅医療 資源の拡大を目指して,日本小児科学会は,小児 在宅医療実技講習会を全国展開し,日本小児医療 保健協議会重症心身障害児

(者)

・在宅医療委員会 を通じた「高度医療的ケア児実態調査」を実施し た.日本小児在宅医療支援研究会は,

2011

年か ら毎年全国大会を開催し,日本小児神経学会では

「医療的ケア講師研修セミナー」を

2004

年から毎 年開催し,その内容をもとに「医療的ケア研修テ キスト」を発行している.多くの小児在宅患者を 地域に出す病院

(基幹病院)

が,少子化の中で小児 図 3 長期入院児と退院時人工呼吸管理児の推定全国推移.

図 4 医療的ケア児の状態像.平成 27 年度厚生労働省社会・援護局委託事業「在宅医療ケ アが必要な子どもに関する調査」速報値より.

(6)

入院患者が減少している地域の一次及び二次医療 機関と協力して,在宅で呼吸管理中の児の急変時 の受け入れや,

NICU

長期入院児を在宅医療へ移 行するための転院・転棟を受け入れるという中間 病床機能の強化も提言されている.さらに厚生労 働省も,医政局が中心になって,全国で小児在宅 患者を診療する医師を増やすための様々な事業を 展開してきている10)11)12).小児に対する訪問診療 は,献身的な思いのある在宅医や,一部の小児在 宅医を専門とする小児在宅診療所で行われてきて

いた.高齢者を中心とした「地域包括ケアシステ ム」や「地域共生社会の実現」が叫ばれるようにな り,日本医師会では平成

28

年に小児在宅ケア検 討委員会を立ち上げ1),高度な医療的ケアを必要 とする小児が,家族と共に家庭という本来の生活 の場において地域生活を目指すことのできる時代 の実現に向けて,患児だけでなく家族を支援する 方策を検討し,様々な提言を行っている.これら の努力により,少しずつではあるが,小児在宅患 者に対する訪問診療を行っていたける診療所が増 26   Organ Biology VOL.27 NO.1 2020

図 5 介護者の負担感.平成 27 年度厚生労働省社会・援護局委託事業「在宅医療ケアが必要な子どもに関 する調査」速報値より.

図 6 医療的ケア児の障害福祉サービス等の利用状況等.平成 27 年度厚生労働省社会・

援護局委託事業「在宅医療ケアが必要な子どもに関する調査」速報値より.

(7)

加してきている.

 その一方で,在宅診療の報酬を含めたシステム は,高齢者を主な対象者として構築されてきたこ ととのずれが生じている.小児患者は,医療的ケ ア度が高いために多くの在宅物品の提供が必要 で,発達に沿ったデバイスや,栄養方法の変更な どを常に考えないといけない.患者数が少ないこ ともあり,不効率な医療となる点を考慮すること も医療の担い手を増やすためには重要な視点であ る.訪問看護に関しても,長時間訪問を含め,小

児の需要は非常に高く,質と量の拡大が急務と なっている10)

(図 7)

医療面以外での支援の拡大

 小児の在宅患者数は,高齢者に比して圧倒的に 少ない,一方で,少子化対策として非常に重要な 意味を持っている.「障害者の日常生活及び社会 生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉 法の一部を改正する法律」に記されているように,

図 7 医療的ケア児の訪問診療.訪問看護サービスの利用状況等.上は厚生労働省社会医療診療行為別調 査,下は保険局医療課調べ.

(8)

小児在宅患者・家族への支援は高齢者とは違った 社会的支援の側面が強い.そのため,高齢者には ない,子育て,保育,就学,就労,障害福祉等の 支援が必要である.さらに,難病・小児慢性特定 疾病や,小児期発症の疾患を持った小児の成人期 移行

(トラジション)

問題とも深く関わっている.

さらに,昨今の自然災害の発生を考えた時に,電 源確保を含めた地震,台風,水害等の災害対策を 地域で考えておく必要がある.

 そこで,厚生労働省の医政局地域医療計画課,

健康局難病対策課,子ども家庭局保育課,子ども 家庭局母子保健課,社会・援護局障害保健福祉部 障害福祉課に加えて,内閣府子ども・子育て本部 参事官

(子ども・子育て支援担当)

や文部科学省初 等中等教育局特別支援教育課等も加わった包括的 な支援体制の構築が進められている10)

(図 8)

.国 のこれらの施策を利用して,各地域で医療的ケア 児とその家族を支援する総合的な体制の構築が求 められているが,まだまだ地域差が大きいのが現 状である.

海外の動向

 北米では,

1998

年の米国小児科学会雑誌で,

慢性の身体的,発達的,行動的,または感情的な 状態を発症するリスクが高く,通常のこどもが必 要とするもの以上の健康等の支援が必要な

21

歳未

満のこどもと青少年を

Children and youth with spe- cial health care needs ( CYSHCN )と定義した

13)14)

CYSHCN

の一部のグループとして,機能または

活動の損失を補償するために一時的または永続的 に技術

(人工呼吸器,車椅子,コミュニケーショ

ンツール,経管栄養チューブ)を一時的または永 続的に使用するこどもたちを

Technology depen- dent / assisted children

と捉えている14)15).さらに,

複数の臓器に影響を及ぼし,機能を制限する複数 の重大な慢性の健康上の問題があり,多くの場合,

コミュニティベースおよび病院ベースのプロバイ ダーと医療技術のケアが必要な

CYSHCN

のサブ セットを,

2011

年の米国小児科学会雑誌では,

Children With Medical Complexity (以下 CMC

と略)

と定義した16)

CMC

は,

1 )

慢性疾患を持った脆 弱な児で,

2 )

様々な機能的障害を持ち,

3 )

濃厚な 医療支援を必要とし,

4 )

こどもとその家族の生活 に対して医学,精神,生活などの点から総合的な 地域での支援が必要なこどもで,

CMC

を支援す る

10

の要素として,①基本的に必要なもの:住 まい,食糧,服,安全,②インクルーシブ教育:

教育の機会,③こどもに対する社会的差別:障害 に対するいじめ,差別,虐待,無視,④こどもの 健康に関する良好な生活支援:みなに愛され,価 値を認められている,⑤長期にわたりこどもの健 康にかかわる人:こどもの健康状態を理解し,ケ アーできる人の存在,⑥家族に対する社会的差別:

28   Organ Biology VOL.27 NO.1 2020

図 8 地域における医療的ケア児の支援体制の整備.「平成 30 年度医療的ケア児等の地域支援体制構築に 係る担当者合同会議医療的ケアが必要な子どもへの支援の充実に向けて」より引用.

(9)

親が仕事や,収入の心配なくケアできる社会から の支援,⑦地域からの支援:地域の中で生活でき る支援,⑧包括的な医療サービス:必要な医療的 ケア,デバイス,保健を含む包括的な医療サービ ス,⑨良質な患者に応じた特別な医療施設:患者 に応じた医療,医療教育などの包括的な医療サー ビス,⑩患者・家族を中心としたケア:患者自身 が病気を理解し,治療法を選択できる他者とのか かわり合い,が挙げられており15)16),わが国の医 療的ケア児と合致する点が多い.また,公的な医 療保険が脆弱な米国では,

CMC

は,こども全体 に占める割合は少ないものの,救急受診や,入院 等の医療介入が頻回に必要で,長期入院になるこ とも多く,こどもの医療経済に与える影響が大き いことが問題となっている17)18).これらのこども たちにはこれまでとは異なった医療支援システム が必要とされ19),専門的治療を含めた総合的な小 児の在宅ケアの提供は,緊急部門受診と入院頻度,お よびコストの低減に結び付くことが示されている19).  さらに,米国こども病院協会は,これらのこど もとその家族のケアを変革するために,メディケ アおよびメディケイドイノベーションセンターか

3

年間で

2,300

万ドルのヘルスケアイノベー

ションを得て,

10

か所の小児病院で,

CMC

のこ どもの転帰の改善と医療費の削減に焦点を当てた 画期的な取り組みを行っていることが報告されて いる20)

おわりに

 医療の進歩により,急性期の治療後に,生命と 健康の維持のために様々な医療ケアや医療機器を 必要とするこどもが急激に増加している.高度な 医療技術によって救命されたこれらの子どもたち が,一人のこどもとして,人間として人生を過ご すためには医療的な支援を基盤としながらも,医 療以外の様々な支援も必要としている.さらに,

筆者が関わっている肝移植後に経管栄養,気管切 開,人工呼吸管理が必要となった児も,適切な在 宅医療等の支援によって,人工呼吸器から離脱し,

気管切開カニューレも抜去できたばかりでなく,

順調な発達を見せている.さらに,胎児診断で横 隔膜ヘルニアの診断を受け,生直後に手術を受け

たものの在宅酸素療法等を必要としていた児が,

次第に呼吸不全が進行したために父親からの肺移 植を受けた後に,生まれて初めて酸素なしで生活 できるようになり,現在は元気に小学校に通学し ている.これらの症例より,高度医療と高度医療 を繋ぎ,最良の結果を子どもたちにもたらすため には,小児在宅医療の質と量を増やしてゆく必要 がある.医療的ケア児とその家族が人生を通じて,

高度な医療技術の恩恵を実感できるような支援が ある社会を作るために医療者のなすべきことは多 いと考える.

謝辞

 データの使用をご承諾いただいた埼玉医科大学 総合医療センター小児科田村正徳特任教授

(厚生

労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業

「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・

保健・教育等の連携に関する研究」研究代表者)に 心より感謝申し上げます.

文 献

1)日本医師会.平成28・29年度 小児在宅ケア検討委員 会 報 告 書,2018 http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaik- en/20180404_4.pdf

2)関係35局長・部長通知,医的ケア児の支援に関す る保健,医療,福祉,教育等の連携の一層の推進につ い て,2016 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/

law/kodomo3houan/pdf/h280603/renkei_suishin.pdf 3)前田浩利,小児在宅医療の推進のための研究 平成

26・27年度総括報告書,平成26・27年度厚生労働科

学研究費補助金 研究地域医療基盤開発推進 研究事 業,2017

4)厚生労働省社会・援護局令和元年101日難病・小 児慢性特定疾病地域共生ワーキンググループ 医療的 ケア児に関する施策について,2019

5)厚生労働省障害者政策総合研究「医療的ケア児に対す る実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関す る研究」平成28年度研究報告書,2016

6)厚生労働省障害者政策総合研究「医療的ケア児に対す る実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関す る研究」平成30年度研究報告書,2018

7)厚生労働省障害者政策総合研究「医療的ケア児に対す る実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関す る研究」平成29年度研究報告書,2017

8)厚生労働省社会・援護局 平成27年度在宅医療及び障 害福祉サービスを必要とする障害児等の地域支援体制 構築に係る医療・福祉担当者合同会議資料 平成27 年度厚生労働省社会・援護局委託事業「在宅医療ケア が必要な子どもに関する調査」速報値,2015

9)厚生労働省社会・援護局平成28年度医療的ケア児等 の地域支援体制構築に係る担当者合同会議 医療的ケ ア児について,2018

(10)

10)厚生労働省社会・援護局平成30年度医療的ケア児等 の地域支援体制構築に係る担当者合同会議 医療的ケ アが必要な子どもへの支援の充実に向けて,2018 11)中村知夫 行政と医療の連携による小児在宅の現場で

活躍できる人材育成を目的とした講習会の立案 日本 小児科学会雑誌123(4):757-766,2019 

12)厚生労働省 在宅医療の推進についてhttps://www.

mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html 13) McPherson M, Arango P, Fox H, Lauver C, McManus M,

Newacheck PW, Perrin JM, Shonkoff JP, Strickland B. A new definition of children with special health care needs. Pediatrics 102: 137-140,1998

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es Effectively Award A national three-year project to trans- form care delivery and payment for children with medical complexity. https://www.childrenshospitals.org/care 30   Organ Biology VOL.27 NO.1 2020

参照

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