ヒライソガニGaetice depressus (DE HAAN)の付属肢における組織移植と再生(予報)
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(2) 加藤一夫・鈴木. 20. 材. 料. と. 博. 方. 法. 移植実験に使用したヒライソガこは,教育学部附属理科教育実習施設の近辺で採集され た甲長20-30mmの雄の成体である。雌は産卵時期の生理状態が再生に微妙な影響を与える 可能性があるため,実験には使用しなかった。移植は,同一個体の付属肢のうちで,あら かじめ紺脚を自切させ,同じ側の第一歩脚の前節,腕節または長節の組織を自切面に植え つける方法で行われた。前節の組織を移植する場合には,第一歩脚の指節の関節部に傷を つけ,指節をまっすぐに引き抜いて,前節の組織を摘出して用いた。紺脚の自切は,鋭利 な針を関節部に刺し,神経を刺激する.ことによって起こさせたo自切面には,歯科用のメ スを用いて縦横に切り口を作り,ここに移植片を挿入した(図1)。移植片は長さ約2mm で,この中には筋肉,神経繊維及び内骨格が含まれている。移植する組織片の軸は正常な. 方向を保つようにとくに注意したが,移植後にこれらが動く可能性があるので,その固定 については,今後適切な方法を導入することが必要であろう。. 図1.組織移植の方法 ×印は移植片を示す. 組織の移植にあたっては,当初は宿主(カニ)を5℃の海水に約30分間浸すことによっ て低温麻酔を施したが,その後の研究によって,麻酔を行わず,常温で移植すると死亡率 が低く,術後の結果も良いことが判明したので,湿室内で移植を行い,直ちに18-25℃の 海水中-戻す方法をとった。移植を行ったヒライソガニは,. 200mlの塩化ビニールのパック. に多数の穴を開けたものか,あるいは長さ150mm,直径40mmのガラス管の両側にネットを張っ た容器に1個体ずつ分離して収容した。これらの飼育容器はすべてエアレーションを施した 開放海水中で管理された。餌はおもに観賞魚用の固形餌料を用い,時に冷凍アミを与えた。 対照実験としては,紺脚の前節の組織を同じ紺脚の自切面へ移植し,また移植片とほぼ 同じ大きさの塩化ビニール片の移植も試みた。. 結. 果. と. 考. 察. 移植の結果はおよそ1ケ月から2ケ月後に起こる脱皮を経て現れ,移植を受けた紺脚 の自切面に再生芽が出現する。このうちで奇形が現れると予想される再生芽は正常なもの.
(3) ヒライソガこの組識移植と再生. 21. に比べて大きく,脱皮の2週間前になると,再生芽の状態を外部から観察出来るようにな る。異常な再生によって芽が大きくなった場合には,脱皮が不可能になり,宿主が死亡す るか,紺脚が脱落することがしばしば観察された。したがって異常に大きい再生芽が現わ れた場合には,脱皮前に注意深く観察することが必要である。またこの場合には,給餌を 制限すると,再生芽が異常に大きくならないように調節することができる。. 移植に失敗した個体では,移植片Gま壊死して,体液の酸化によって黒化し,宿主の組織 から新たに再生芽が形成されて正常な紺脚が発生する。どくまれに, 生芽が現れず,. 1回目の脱皮では再. 2回目の脱皮で初めて奇形の紺脚が再生することがある。したがって,奇. 形が現われない場合でも継続して飼育することが必要である。 また飼育の際に海水の流れが十分でなかったり,海水中の酸素が不足すると,カニが死 亡する場合が多いので,飼育する容器内の水流を常に一定に保っよう,十分に注意するこ とが必要である。 再生脚は紺脚や歩脚の形態がいろいろな程度に混じり合った形で現れてくる。これらの 形態のうちで,紺脚的要素または歩脚的要素として重要なものは次のとおりであった0 紺脚的要素. 歩脚的要素. 1.校合面の鋸歯がはっきりしている. 1.先端がとがる. 2.関節部がなだらかである. 2.特有の感覚毛が列生する. 3.先端が白い. 3.表面に縦溝がある. 4.脚が全体的に太い. 4.脚が全体的に細い. 本研究で移植を行ったカニは118個体であったが,このうちの35個体が移植に成功した。 これには過剰肢を含む奇形や,再生紺脚に歩脚的要素が混じり合う奇形が含まれている。 また移植は左右の紺脚で行われたが,紺脚が左右相称的に現れたものは,そのうちの6個 体であった。歩脚の要素が現れた紺脚の数は全体で45本で,このうち7本は過剰肢をもっ ていた。移植部位と再生紺脚の数は表1と表2に示されている。 表1.歩脚的要素を持った紺脚の出現数 移植した個体数(紺脚の数) 移植に成功した個体数 歩脚的要素が現れた紺脚の数 左右とも同じ奇形が現れた数 過剰肢が現れた紺脚の数 表2.移植部位と移植に成功した数 移植部位. 個体数×. 2. (左右). 118. ×. 2. 77 12 20. × ×. 2 2. ×. 2. ×. 2. 8. 移植に成功した数(紺脚の本数). %.
(4) 加藤一夫・鈴木. 22. 博. 再生された紺脚は,移植片のちがいによって様々な形態を示すが,そのうちで典型的な ものは次の通りであった。 前節の組織を移植した場合 1. ・再生された紺脚に歩脚的要素が非常に強く現われた例は図2-A及び図3-Aに示さ れているoこの場合には,再生した紺脚が歩脚の特徴のはとんどすべてを具え,正常な 歩脚と区別がつかないはどであった。 2. ・紺脚の特徴を持ちながら不動肢の部分を欠いた脚を図2-Bに示した。この場合には, 再生した脚は図2-Aに比して全体的に紺脚に近い形態を示しているが,不動肢ははと んど再生されず,. 3. -サミとは言えないものであった。. ・不完全ではあるが,紺脚の不動肢の部分が再生された例が図2-Cに示されている. この脚は歩脚的要素をかなり持つが,紺脚に特有な校合面の鋸歯も認められる。. 4・歩脚の指節が紺脚と入れかわった例を図2-Dに示した。この場合には,紺脚の鋸歯 の代りに多数の感覚毛が列生し,縦溝もはっきり認められ,明らかに歩脚的要素をもっ 指節が再生されている。しかし基本的な形状は紺脚に近い。 5. ・紺脚中に歩脚的要素が混じり合う奇形は図2-Eに示されている。紺脚の指節には歩. 脚特有の感覚毛が列生し,形状は全体的に細い。. 図2.歩脚前節組織の移植によって生じた紺脚の奇型(説明は本文).
(5) ヒライソガニの組識移植と再生. 図3.歩肺組織の移植によって生じた紺脚の奇型 A.著しく歩脚組織の影響を受けた紺脚(前節移植) B,過剰肢を持った紺脚(前節移植) C.重複した脚が出現した紺脚(脚節移植) D.奇形が出現した第1回目の脱皮後の形態. E.第2回目の脱皮後の形態 F.第3回目の脱皮後の形態. 矢印は歩脚的要素の感覚毛を示す. 23.
(6) 加藤一夫・鈴木. 24. 博. 6.可動肢が湾曲する奇形は図2-Fに示されている。この事例では歩脚組織の影響は少 ないとみなされる。このように紺脚の可動肢に歩脚的要素が現れる個体が比較的多く認 められた。 7.過剰肢が再生した個体が図3-Bに示されている.これらの過剰肢は紺脚の形態を示 し,いずれも鏡像的な再生になっている. 腕節の組織を移植した場合 図3-Cに示されるように,本実験では,. -サミとなるべき部分には歩脚によく類似し. た構造が由れている。しかし腕節と長節の間には紺脚の指節や前節の構造が重複して再生 され,歩脚と紺脚の特徴を同程度に兼ね備えた脚が発達している。 長節の組織を移植した場合. この実験では,前節や腕節の組織を移植した場合の再生と比べて大きな差は認められな かったが,実験例が少ないため,詳細は不明である。 紺脚の前節を同じ脚の自切面へ移植した場合(対照実験Ⅰ. ). この実験は移構個体が少なかったが,すべての成功例で奇形が現れた。この場合には, 新たに再生された紺脚に歩脚的要素が現れることは全く認められなかった。この場合,再 生脚は全体的にねじれた形状を示すことが多く,関節部は膨らみ,可動性を失う場合が多 かった。. 脱皮に伴う奇形紺脚の変化 移植後第3回目の脱皮までの紺脚の形態変化について図3-D-Fに示した。再生紺脚 の形態上の特性は,通常は術後の最初の脱皮を経て現れるが,その後の脱皮では,歩脚的. 要素と紺脚的要素の特徴がさらに強められる傾向が認められる。図3-Dは,前節の組織 を移植した個体の最初の脱皮によって現れた紺脚の形態を示している.この紺脚は,不動 肢を欠き,指節の部分には鋸歯を歩脚特有の感覚毛を併せ持った紺脚が再生されている。 またこれに続く第2回脱皮後の変化を図3-Eに,第3回脱皮後の変化を図3-Fに示す. いずれの場合も,脱皮を重ねるごとに紺脚的要素と歩脚的要素が強くなる傾向が認められ た。. 異物移植の場合(対照実験Ⅱ. ). 対照実験としての異物移植は20個体で行われたが,いずれも正常な紺脚が再生され,奇 形は出現しなかった。すなわち異物はおよそ1週間後に脱落し,あらたに正常な再生芽の 成長が始まり,. 1 -2ケ月後の脱皮によって正常な紺脚が再生された。. すでに述べたように,今回の移植実験では,再生脚に紺脚的要素と歩脚的要素とがさま ざまな形で外部形態に現れたが,移植片の相違による再生脚の形態的特性について類型化 して述べることはできなかった。しかし再生脚の形態的特性は, たびに再生脚の紺脚的要素と歩脚的要素が顕著になってくること,. (1)カニが脱皮をくり返す (2)紺脚の自切面に紺脚. 組織を自家移植すると,再生脚の形状は正常な紺脚と多少異なるが,歩脚的要素はまった く認められないこと,および(3)アカテガニで,紺脚の再生芽から摘出した組織を歩脚の自 切面に自家移植すると,そこから生じる再生脚の紺脚的要素の発現は弱いこと(鈴木,未 発表)などの事実から推察すると,再生脚の形態形成には,挿入された移植片の位置関係.
(7) ヒライソガニの組識移植と再生. 25. や,移植組織と宿主の組織との癒合状態が一義的に重要な意味をもっ可能性が大きいと思 われるoこの意味から・今後は再生脚の組織学的研究を推進させる必要があると考えられ, 宿主組織と移植片との整合関係の検索を中心にして追求を進めている0. 参 FRENCH,. V・, P・. Science IlopK[NS,. 193. 163.・. MITTENTEAL,. :. J・. V・. BRYANT,. 1976. Pattern. in. regulation. Growth. and regeneration. in. patterns. the. fiddler. E・,. 1980b. J・ E・, :. On. the form. and. size. of. legs. crayfish. crab,. fields.. epimorphic. Uca. 1114.. Bull. 1981. Morphology 159. :. of. the. closer. muscles. after. regenerated. 700_713. Biol.. crayfish・. 88. S・. 献. Biol.. pugilator.. 301_319.. 159. M[TTENTHAL,. a. 文. 969-981.. :. J. E・, 1980a. M-ENT"AL. Biol.. BRYANT. P・ M・, 1982. Bull.. Bull.. J・. 考. in. normal. and. Biol.. grafting.. homoeotic. legs. of. 714_727.. Intercalary. regeneration. in. legs. of. crayfish. :. Distal. segments・. Develop..
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