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新複合ペロブスカイト酸化物

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(1)

新複合ペロブスカイト酸化物

(Ba,La)(Ti,Cr)O

3

の誘電・圧電特性

— 不均一系誘電体が示す巨大誘電緩和現象 —

Dielectric and Piezoelectric Properties of a New Complex Perovskite Oxide (Ba,La)(Ti,Cr)O

3

– Colossal Dielectric Relaxation in Heterogeneous Dielectrics –

2005 年 10 月

早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 結晶物理研究

福永 守

(2)
(3)

目次

1. 研究の背景と概要 ... 1

1.1. 研究の背景 ... 1

1.1.1. RoHS指令と鉛フリー... 1

1.1.2. リラクサーと圧電材料の応用... 2

1.1.3. 巨大誘電率と巨大誘電緩和... 2

1.2. 本論文の概要 ... 3

2. 誘電率・複素インピーダンスの測定 ... 5

2.1. 誘電率測定 ... 5

2.1.1. インピーダンスアナライザ... 5

2.1.2. 温度可変装置... 6

2.2. D-E ヒステリシスの測定 ... 8

2.3. 複素インピーダンスのコールコール表示 ... 12

2.3.1. インピーダンス(Z)と逆キャパシタンス(M)のコールコール表示... 12

2.3.2. キャパシタンス(C*)とアドミッタンス(Y)のコールコール表示... 13

2.3.3. 基本的なコールコール表示... 14

2.3.4. コールコール表示の合成... 16

2.3.5. 沈んだ・歪んだコールコール表示... 18

2.3.6. 低周波や高温における誘電率の増大... 21

3. Q-F プローブの試作と評価 ... 23

3.1. 圧電効果の測定 ... 23

3.1.1. 圧電効果と圧電定数... 23

3.1.2. 圧電定数の測定方法... 24

3.1.3. Q-Fプローブの特長... 26

3.2. ばね型 Q-F プローブ (QF-1) ... 28

3.2.1. 力の印加方法... 28

3.2.2. 力の測定方法... 29

3.2.3. 電荷の測定方法... 31

3.2.4. 装置の構成... 34

3.2.5. 力の方向と圧電定数の関係... 35

(4)

3.2.6. Q-Fプローブの校正方法... 37

3.2.7. Q-Fプローブの電荷測定の評価... 37

3.2.8. Q-Fプローブの力測定の評価... 38

3.3. ばね型 Q-F プローブの改良型 (QF-3)... 40

3.3.1. 変位センサ用コンデンサ... 40

3.3.2. 変位センサの容量測定方法... 41

3.4. 圧電型 Q-F プローブ (QF-2) ... 44

3.4.1. 圧電型Q-Fプローブの原理... 44

3.4.2. 圧電型力センサ... 45

3.4.3. 圧電型プローブによるD-Eヒステリシス測定... 46

3.5. Q-F プローブの力測定の比較 ... 49

3.6. Q-F プローブによる測定例 ... 52

3.6.1. ガラスと水晶の圧電測定結果... 52

3.6.2. 電気石(電極なし)の測定結果... 53

3.6.3. BLTC試料の圧電測定例... 54

3.6.4. BaTiO3薄膜の圧電測定結果... 56

3.7. まとめ ... 57

4. BLTC セラミックスの誘電・圧電特性... 59

4.1. Ba

1−x

La

x

Ti

1−x

Cr

x

O

3

(BLTC) 試料 ... 59

4.1.1. 結晶構造と格子定数... 59

4.1.2. BLTC試料番号と組成... 60

4.2. 誘電率などの測定結果 ... 63

4.2.1. 誘電率の温度変化1 (x = 0.01 - 0.95) ... 63

4.2.2. 誘電率の温度変化2 (x = 0.003 - 0.035) ... 69

4.2.3. リラクサー的誘電分散... 75

4.2.4. 複素インピーダンスのコールコール表示... 77

4.2.5. BLTCのD-Eヒステリシス... 83

4.2.6. BLTCの圧電定数... 86

4.3. BLTC の誘電特性のまとめ ... 88

4.3.1. 誘電率の温度変化と相図... 88

4.3.2. BLTM(M = なし, Ni, Co)との比較... 89

(5)

5. 電気的不均一構造による見かけの巨大誘電緩和... 91

5.1. 巨大誘電緩和の測定結果 ... 91

5.1.1. CaCu3Ti4O12 (CCTO)の巨大誘電緩和... 91

5.1.2. デバイ型緩和との比較... 92

5.1.3. Ba1−xLaxTi1−xCrxO3 (BLTC)の巨大誘電緩和... 94

5.1.4. SrTiO3 (STO)の巨大誘電緩和... 96

5.1.5. SrTi1−x(Mg1/3Nb2/3)xO3 (STMN)の巨大誘電緩和... 100

5.1.6. 巨大誘電緩和のデータ... 102

5.2. 電気伝導と見かけの誘電緩和 ... 103

5.2.1. 直列抵抗成分による見かけの誘電緩和... 103

5.2.2. 電気伝導率の温度変化... 104

5.2.3. 相分離構造による見かけの誘電緩和... 107

5.3. 巨大誘電緩和を与える相分離モデル ...110

5.3.1. 相分離モデルとパラメータ... 110

5.3.2. 相分離モデルによる誘電率の計算... 112

5.3.3. リラクサー風巨大誘電緩和... 113

5.4. 相分離モデルの検証 ...116

5.4.1. 本質的な巨大誘電緩和(デバイ型モデル)の可能性... 116

5.4.2. 2相構造モデルとデバイ型モデルの区別... 118

5.4.3. CCTOのDCバイアスによる影響... 119

5.4.4. BLTCのDCバイアスによる影響... 121

5.5. まとめ ... 123

6. 研究成果の総括と今後の課題 ... 125

7. 付録:製作した電子回路 ... 127

7.1. ワンチップマイコンの利用 ... 127

7.2. バルク用 D-E ヒステリシス測定装置 ... 128

7.2.1. ソーヤ・タワー回路... 128

7.2.2. A-Dコンバータボード... 129

7.3. QF-1 と専用表示器 ... 131

7.3.1. QF-1プローブ本体... 131

7.3.2. QF-1専用表示器... 131

(6)

7.4. QF-2, 3, 4 と汎用表示器 ... 132

7.4.1. QF-2プローブ本体... 133

7.4.2. QF-2拡張ユニット... 134

7.4.3. QF-3プローブ本体... 135

7.4.4. QF-2, QF-3用LCD表示器... 137

7.4.5. QF-4プローブとPCインタフェース... 138

7.5. 簡易 GP-IB コントローラ ... 139

7.5.1. GP-IBについて... 139

7.5.2. コントローラ回路... 140 謝辞

研究業績

(7)

1. 研究の背景と概要

1.1. 研究の背景

1.1.1. RoHS 指令と鉛フリー

2003年にEU(欧州連合)で制定された、電気電子機器における有害物質規制指令、通称

RoHS指令(DIRECTIVE 2002/95/EC ... on the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)1)により、2006年7月1日以降、EU諸国において販売・

使用される電気電子機器への特定有害物質の含有が禁止される。ここで「指令」とは、加 盟国がそれに従い整備する国内法によって効力を発するというものである2)。規制の対象と なる元素・物質は、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、6価クロム(Cr6+)、臭素系難燃剤(PBB:

polybrominated biphenyls, PBDE: polybrominated diphenyl ethers)である。この規制の対象とな る機器は電気電子機器廃棄物リサイクル指令、通称WEEE指令(waste electrical and electronic

equipment)に具体例が記されている3)。一部例外があるが、ほとんど全ての電気・電子機器

が対象になる。また、このRoHS指令を受けて、中国などでも同様な法規制が行われる。

この規制への適合の動きについて、特にエレクトロニクス関連では鉛が広く使われてい るため、「鉛フリー」という言葉がよく用いられる。鉛を含む要素としては、スズと鉛の合 金が用いられてきた半田iが主であるが、半田付けをしやすくするために電子部品の導線・

端子や、基板側にも半田めっきがされる場合が多い。また、圧電デバイスや強誘電体メモ リ、高誘電率のセラミックコンデンサには、後に述べるような鉛酸化物が使われている。

そのほか、難燃性電線の絶縁体の安定剤や着色剤にも含まれている。

鉛による環境汚染は子供の血中鉛濃度に現れ、それが神経障害の直接的な原因になって いるが、エレクトロニクス製品に使用された鉛による環境汚染のデータはなく、鉛汚染の 原因は有鉛ガソリン、鉛塗料、鉛弾丸、鉛配管等であり、米国ではこれらを禁止したこと により、子供の血中鉛濃度が減少した4)。鉛フリー半田は、その製造にも使用にも必要なエ ネルギーが増えるため、かえって環境負荷を大きくする可能性があるなど、最適な元素・

物質の使用を、有害であるという理由だけで禁止することによるリスクとのトレードオフ が考えられていない 4,5)というように、RoHS 指令に対して批判的な意見も一部にはある。

しかし、日本では環境への配慮として、ほとんどの電気電子部品、機器メーカーが製品の 鉛フリー化を進めている。

i 「半田」と漢字で書いても、実はその語源がわからないためか、「ハンダ」や「はんだ」

と書かれることも多い。

(8)

1.1.2. リラクサーと圧電材料の応用

誘電率の温度変化のピークで特徴的な誘電緩和を示すことから、リラクサー(relaxor)と 呼ばれる誘電体は、大きな誘電率や圧電定数などを示すために応用面で有用である。特に 圧 電 定 数 に つ い て は 、PbTiO3 と の 固 溶 体 を 形 成 し た と き に 、 モ ル フ ォ ト ロ ピ ッ ク

(morphotropic)相境界と呼ばれる、ある組成のときに非常に大きくなることが知られてい る6)。しかし、現在知られているリラクサーは、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3や Pb(Mg1/3Nb2/3)O3など、

ほとんどが鉛を含んだペロブスカイト型酸化物である。また、電気的-機械的なエネルギ ー変換に用いられる高圧電定数の圧電材料や、強誘電体のヒステリシスを応用した強誘電 体メモリにはPb(ZrxTi1−x)O3、通称PZTと呼ばれる鉛酸化物が使われている。これらの電子 セラミックスに関しては、特性的にこれらに代わる適当な物質がまだないとして、現時点 ではRoHSによる規制から免除されてはいるが、環境への配慮として、やはり鉛フリー化が 望まれている。

圧電材料の応用として、最近ではMEMS(microelectromechanical systems)に向けた研究 が盛んに行われている。これは電気を動力源として、IC(集積回路)と同様にシリコン基 板上に形成された圧電体薄膜の逆圧電効果あるいは電歪効果により、機械的な動作を行う 微小機械である。圧電体として用いる物質や薄膜の作製方法、加工方法について研究され ているが、従来からバルク圧電体の圧電定数の評価に使われてきた共振法が薄膜では使え ないため、その圧電体薄膜の評価方法が問題となっている。

1.1.3. 巨大誘電率と巨大誘電緩和

エレクトロニクス製品の小型化のために、IC の高集積化だけでなく、コンデンサなどの 電子部品の小型化も進められている。コンデンサの誘電体を薄くして多く積み重ねること がコンデンサの小型・大容量化につながるために、積層セラミックコンデンサの改良が進 み、現在ではBaTiO3系の材料で誘電体層の厚さ1 µmのコンデンサが実用化されている7)

コンデンサの小型・大容量化のために、高誘電率の物質も求められている。CaCu3Ti4O12

(CCTO)という物質の結晶構造は古くから知られていたが、2000年になって、CCTOが室温

で12000 という、BaTiO3などの強誘電体の相転移温度付近でしか見られないような非常に

大きな誘電率を示し、しかもそれが300℃までほとんど温度変化しないことが発見された8)。 誘電率の大きさの割には誘電損失はあまり大きくなく、鉛フリーであることも応用面で理 想的であることから、新しいコンデンサ材料の候補として最近注目されており、その薄膜 化についても研究されている9)

室温付近だけで見ると CCTO はそのような「巨大誘電率」を示すと称されるが、一方、

CCTOは常誘電体であるが、室温から温度を下げていくと、明確な周波数分散を伴いつつ誘 電率が100程度まで低下してほぼ一定になる10)、「巨大誘電緩和」というべき現象を示す。

(9)

強誘電体のような構造相転移なしに、そのような大きな誘電率変化を示すことは奇妙なこ とであり、理論的にも興味が持たれている。

1.2. 本論文の概要

本研究では、鉛フリーなリラクサーを目指して開発された、チタン酸バリウム(三酸化 チタン(IV)バリウム)BaTiO3ベースの(Ba1−xLax)(Ti1−xCrx)O3 (BLTC)セラミックス試料に関し て、次のような研究を行った。本論文の各章の内容を以下に要約する。

第2章では、実験方法として誘電率や、強誘電体 D-E ヒステリシスの測定装置と方法を 示し、特に試料の複素インピーダンスの周波数依存性について、RC等価回路と複素インピ ーダンスのコールコール表示の基本的な関係をまとめた。

第3章では、BLTC試料の圧電定数の測定のために、本研究で開発された「Q-Fプローブ」

という新しい種類の圧電測定器について、3本の試作プローブの製作例、特に力と電荷の 測定方法や、Q-Fプローブの評価方法、薄膜試料の圧電定数の測定例などを示した。

第4章では、BLTC試料とその格子定数、誘電率の温度変化、複素インピーダンス、D-E ヒステリシス、圧電定数の測定結果を示し、特に、ある組成におけるリラクサー的振舞い や、強誘電性発現領域の相図を示した。

第5章では、CCTO という物質で注目されている巨大誘電緩和について、同様な現象が

BLTCやSrTiO3セラミックスなど、様々な物質で見られることを示した。また、その原因に

ついて、物質の電気的な2相構造と電気伝導率の温度変化により説明し、特に本質的な誘 電緩和との区別や、DCバイアスの効果に関する考察を行った。

第6章では、本研究のまとめと、今後の課題について述べた。

第7章では、付録として本研究で用いた自作回路、特に第3章の Q-F プローブなどの回 路図とその説明を記した。

参考文献

1) Official Journal of the European Union, 13.2.2003, L.37/19-23 (EN).

(http://europa.eu.int/eur-lex/en/index.html)

2) 松浦徹也:WEEE&RoHS指令概説 (http://www.jeol.co.jp/envi/regulation/weee-rohs/) 3) Official Journal of the European Union, 13.2.2003, L.37/24-38 (EN).

4) T. J. McManus, M. Garner and T. Brady: Technology@Intel Magazine (2004) (http://www.intel.co.jp/jp/developer/update/contents/st06041.html)

5) 安井至:市民のための環境学ガイド (http://www.yasuienv.net/NonToxRoHS2003.html)

(10)

6) 上江洲由晃:日本物理学会誌 57 (2002) 646.

7) 村田製作所(編):セラミックコンデンサの基礎と応用、オーム社 (2003) p.250.

8) M. A. Subramanian, D. Li, N. Duan, B. A. Reisner and A. W. Sleight: J. Solid State Chem. 151 (2000) 323.

9) Y. L. Zhao, G. W. Pan, Q. B. Ren, Y. G. Cao, L. X. Feng and Z. K. Jiao: Thin Solid Films 445 (2003) 7.

10) A. P. Ramirez, M. A. Subramanian, M. Gardel, G. Blumberg, D. Li, T. Vogt and S. M. Shapiro:

Solid State Comm. 115 (2000) 217.

(11)

2. 誘電率・複素インピーダンスの測定

この章では、試料の誘電率または複素インピーダンスの温度変化と周波数依存性、およ び D-E ヒステリシスの測定方法について記し、特に複素インピーダンスのコールコール表 示について説明する。圧電定数の測定については次章にまとめてある。

2.1. 誘電率測定

2.1.1. インピーダンスアナライザ

本研究で誘電率測定に用いた装置は、英国ソーラトロン(Solartron)社製1255B型周波数応 答アナライザ(FRA: Frequency Response Analyzer)と、1296型誘電率測定インタフェースの組 合せである。装置の構成を図2-1に示す。この2台の装置は、1255BがGen端子に正弦波を 出力し、1296のHI, LO端子を通してその電圧Vを試料に加えたときに、1296では試料を 通りLO端子に流れる電流Iを電圧信号に変換し、それを再び1255Bに送り、V1端子の電 圧波形とV2端子の電流波形を解析するという構成になっているが、2台を併せて1台のイ ンピーダンスアナライザとみなせる。

1255B 1296

Gen V1 V2

HI LO

Sample V

I PC

GP-IB

(∝ V) (∝ I)

DMM Thermocouple

図2-1 誘電率測定装置の構成

この装置の特長は、1296の微小電流測定能力により、最低10 µHzという超低周波で、最

大100 TΩという超高インピーダンスの測定が可能なことであり、高抵抗(誘電損失の小さ

い)誘電体について、2.3節に示す複素インピーダンスの周波数依存性の測定に適した装置 となっている。そのような測定の場合、試料のインピーダンスの方がずっと大きくなるた め配線部分は無視できるとして、一般的なインピーダンスアナライザやLCRメータでよく 用いられる四端子対ではなく、二端子で試料に接続される。ただし試料への配線について

(12)

は、微小な電流を測定するためにノイズが入らないよう、電流を測定するLO端子側のシー ルドに、特に注意を払う必要がある。

周波数は低い方で 10µHz まで測定できるとはいえ、周波数が低くなると測定に時間がか かるため、温度依存性の測定は主に1 MHz ~ 1 Hz, 1 pts/deciで、温度あるいはDCバイアス 一定で、周波数依存性の測定を行うときは主に1 MHz ~ 10 mHz, 5 pts/decで、高周波側から 低周波側へスイープして測定を行った。ただし、インピーダンスアナライザから試料まで の配線の長さが、加熱装置の場合は片道50 cm程度であるが、低温装置の場合はそれが5 m 以上にもなるため、周波数は100 kHzを上限としている。印加AC電圧の振幅は通常1 Vrms

または100 mVrmsで、DCバイアスは1255B内蔵電源により最大40 Vである。

この装置(を制御するPCのプログラム)は測定結果を、試料のインピーダンスの実部(Z′) と虚部(Z′′)として出力する。誘電率の実部(ε′)と虚部(ε′′)の値は、インピーダンスから等価な 複素キャパシタンスを計算し、さらに試料の形状から換算して求めている。BLTC試料の標 準的な大きさは、直径12.6 mm、厚さ2 mmの円盤形であるが、D-Eヒステリシスの測定の 場合は厚さ1 mm以下にして用いた。電極は銀ペースト(藤倉化成・ドータイトD-500)を 両面に塗布した。

2.1.2. 温度可変装置

試料の温度可変には、室温以上の場合はジュラルミン板にセラミックヒーターを埋め込 んだ加熱装置を用いた。この装置では試料は大気中に置かれる。温度コントロールにはチ ノー製DJ1151型とSSR (Solid State Relay)を用いている。この装置の場合は、PCとは独立し た温度コントローラで温度を設定し、設定温度付近で一定温度になったとみなしたら、そ の温度における測定を開始する、という方法で行った。後述の低温装置と違って、周波数 依存性の測定のときに温度を一定にすることができる。この加熱装置による温度範囲は、

30℃から400℃までである。

室温以下の測定は、初期の測定ではオックスフォード社製 DN-1704 型液体窒素用クライ オスタットを用いた。このクライオスタットでは、試料雰囲気を乾燥窒素ガスに置換し、

液体窒素を入れて最低温度まで冷却した後、自然昇温時に温度と共に誘電率測定を行った。

使用温度範囲は77 K(液体窒素温度)から室温程度であるが、低温では温度変化が速く、

温度測定部分と試料で温度のずれが大きいと見られたため、100 K以上の温度でデータを有 効としている。後期は岩谷瓦斯製ヘリウム圧縮冷凍機(クライオミニD-310)と専用クライ オスタットを用いた。このクライオスタットの場合は試料雰囲気は真空にし、試料は冷却 面に貼り付けている。試料付近の金鉄-クロメル熱電対により温度を測定しているが、そ

i この単位は、周波数を対数的に変化させたときの、その1桁あたりの測定点の数で、例え ば10 kHz ~ 1 kHzで5 pts/decは、10, 6.310, 3.981, 2.512, 1.585, 1 kHzとなる。また、これら の値を後で用いる対数表示にすると、4.0, 3.8, 3.6, 3.4, 3.2, 3.0となる。

(13)

の温度変化を図2-2に示す。昇温時は自然上昇だが、冷却時は40 K付近までほぼ一定の速 度で温度が低下するため、冷却時にも誘電率測定を行った。温度範囲は約15 Kまでである。

0 2 4 6 8 10 12

0 50 100 150 200 250 300

Temperature /K

Time /hour

図2-2 低温装置の温度の時間変化

(14)

2.2. D-E ヒステリシスの測定

強誘電体のD-E(電束密度-電場)ヒステリシスの測定は、よく知られているソーヤ・タ ワー(Sawyer, Tower)回路1)を自作して行った。その測定方法を図2-3に示す。HVにより、試 料CXに電圧VXを印加するが、そのときに直列に基準コンデンサ(キャパシタンス C0)を 直列に入れておく。すると、(初期電荷をゼロとすれば)試料の電荷Qと同じ量の電荷が基 準コンデンサにも蓄積されるため、基準コンデンサの電圧VYを測定すれば、Q = C0VYとし て測定できる。電圧については、C0が試料のキャパシタンス CXとよりずっと大きければ、

VY << VXとなり、VXVYの基準を同じ点にしていても、試料の電圧VはほぼVXとみなせ る(オシロスコープでヒステリシスを観察する場合はそのようにみなされるが、測定結果 はVX − VYとしている)。QV、および試料の電極面積Sと厚さdから、試料の電束密度と 電場は、それぞれD = Q/S, E = V/dとなる。

しかし、試料の電気伝導性が大きい場合、それを等価抵抗RXとして考えると、RXを通し てC0に電流が流れ、Qが変化することになる。後で具体例を示すが、V/RXに比例する電流 の時間積分がQ に加わるため、この電気伝導による影響は、特にHVの周波数が低くなる

(周期が長くなる)と大きく現れる。その試料の電気伝導の影響を補正する簡単な方法と して、基準コンデンサに並列に可変抵抗 R0を入れて、測定時にそれを調整する2)。RXを通 してVYの点に流れ込む電流IX = Q/CXRXと、R0によりそこから流れ出す電流I0 = Q/C0R0の 関係を考えるとi、CXRX = C0R0ならばIX = I0となり、RXの影響をR0により相殺できる。

Sample: CX

VX

Reference capacitor: C0

Variable resistor: R0 (Sample

conductance: RX) VY

0V +Q

−Q

−Q +Q HV

IX

I0

図2-3 ソーヤ・タワー回路

実際の構成としては、試料に印加する電圧源HVは、特注品の高圧三角波発生装置であり、

±950 Vまでの電圧を出力する。安全のために、内部で5 MΩの抵抗を通して出力されている

ため、分極反転に伴い大きな電流が流れるときに、若干出力電圧の低下が見られる。三角

i RXR0があると、試料と基準コンデンサの電荷量Qが常に等しくなるとは言えないのだ が、簡単のためにそうなっていると考える。

(15)

波の周波数は最大0.28 Hzであり、測定はすべてこの周波数で行った。また、VYは±12 V以 内を想定しているが、その電圧の測定に抵抗分圧を用いると、それが固定のR0として作用 して影響を及ぼすため、VYの測定にはオペアンプによるバッファを入れている。C0は最大 1 µFなので、Qの測定範囲は±12 µCである。R0は10 MΩの可変抵抗であるが、RXが小さい

試料では10 MΩでも小さすぎる場合があるため、R0はスイッチで切り離せるようにしてあ

る。製作した回路の詳細は付録に記す。

製作した装置による測定例を図2-4に示す。これは試料として、基準コンデンサに用いた ものと同種で、耐電圧が高く絶縁抵抗が大きい、ポリプロピレンフィルムコンデンサの電 荷と電圧の関係を測定した結果である。この場合はR0は不要である。電荷が電圧に比例し、

直線の傾きがそのコンデンサのキャパシタンスに等しいという結果が得られている。

-900 -600 -300 0 300 600 900

-12 -9 -6 -3 0 3 6 9 12

33nF

10nF

Charge /µC

Voltage /V

図2-4 ポリプロピレンコンデンサの電荷-電圧関係

また、R0によるRXの補正の例を図2-5に示す。試料はBLTC204 (x = 0.014)で、常誘電相

にある 150℃のときである。(a)の曲線は回路に R0を入れないときであり、ヒステリシスが

あるように見えるが、R0を入れて調整すると、(b)のようにほぼ直線になる。(b)のときの傾 きdD/dEが誘電率(の実部)を意味するが、E = 0付近でそれを求めると、比誘電率として

ε′ = 2500である。端で少し曲がり、わずかにヒステリシスが見えるが、それはEが大きい

ために非線形性が現れたものと考えられる。

なお、強誘電体のヒステリシス曲線であれば、E = 0のときのDの値が残留分極であるが、

(a)の場合の Dの値の意味を考えると、試料を流れる電流密度σEの時間積分がDの変化に

対応するため、それは電気伝導率σの大きさに関係することになる。ここで、その曲線のふ くらみの大きさ(E = 0におけるDの変化幅)を評価してみると、Eが正の範囲で考えれば、

(16)

(σがEによらず一定とすれば)ここではEの波形が三角波であるため、周波数fEの最 大値Emaxを使って、∆D = σEmax/4fと書ける。この式からσ = 3.0 × 10−8 S/mが得られ、σに相 当する誘電率の虚部はε′′ = 2∆D/πε0Emax = σ/2πfε0 = 1900となるi。ここで図2-5から求めたε′

とε′′の値は、周波数の違いを踏まえれば、第4章に示した通常の誘電率測定の結果とおおよ

そ一致している。

-900 -600 -300 0 300 600 900

-2 -1 0 1 2

(b)

-2 D / µC·cm (a)

E / V·mm-1

図2-5 D-E測定における電気伝導補正の例

実際のヒステリシス測定におけるR0の調整方法について、先に試料のインピーダンス測 定によりCXRXを求めておけばR0が決まることになるが、特に強誘電体の場合のCXは、

小さな電圧によるインピーダンス測定と一致するとは限らないため、測定中に曲線の変化 を見ながらR0を調整する。図2-5の(a)の曲線の切れ目は、1周期の測定の始点と終点を示 しているが、強誘電体としてのヒステリシスを考えても、電気伝導によるヒステリシスを 考えても、R0を接続しないとき(R0が大きいとき)は矢印で示すように、曲線は常に反時 計回りに描かれる(Eが等しい2点では、Eが増加するときより減少するときの方がDが大 きい)が、R0を小さくしていくと、次第に逆回りになる部分が生じてくるii。そのため、全 体として逆回りの部分が生じない状態で、R0が最小になるように調整する。

強誘電体のヒステリシスの場合、|E|が大きく、|D|も大きくなる両端でその逆回りが生じ やすいため、(自発分極が飽和すると考えられる)両端で逆回りにならないように調整して

i 同様に考えると、印加電圧に三角波ではなく正弦波を用いた場合は、ε′′ = ∆D/2ε0Emax =

∆D/ε0∆E(∆EはEの振幅の2倍)という、わかりやすい形になる。つまり、常誘電体でR0

を用いない場合は、グラフで|E|が最大のときの∆Dと、Eがゼロのときの∆Dが、それぞれ

ε′とε′′に比例することになり、それらの値が直感的に得られる。

ii 先に述べた補正の条件はCXRX = C0R0であるが、この状態よりR0を小さくすると、RXに よるDの増加より、R0によるDの減少の方が大きくなるため、逆回りが生じる。また、CXRX

が一定とは限らないために、部分的な逆回りが生じる。

(17)

いる。常誘電体の場合、(|E|が大きいとCXRXが小さくなり、R0が一定ではそのときに補 正が不充分になると考えられるため)図 2-5(b)のように両端にヒステリシスが残りやすく、

図の状態からさらにR0を小さくするとE = 0付近で逆回りになる。それを避けるとE = 0の ときにD = 0となるので、残留分極がないことがはっきりする。

(18)

2.3. 複素インピーダンスのコールコール表示

複素インピーダンスiの周波数依存性から、試料の等価回路を得ることをインピーダンス スペクトロスコピー(Impedance spectroscopy)と呼ぶ3)。複素誘電率のコールコール(Cole-Cole) 表示がよく知られているが、それに相当する試料のキャパシタンスだけでなく、インピー ダンスやアドミッタンス、さらには逆キャパシタンス(キャパシタンスの逆数)でも、周 波数をパラメータにして複素平面上に図示すると円弧が描かれる場合がある。それらの場 合も複素誘電率と同様に、コールコール表示と呼ぶことにする。

2.3.1. インピーダンス (Z) と逆キャパシタンス (M) のコールコール表示

誘電率(比誘電率の実部)ε、抵抗率ρ(または電気伝導率σ = 1/ρ)、面積S、厚さdの物 質をコンデンサとしたとき、それを図2-6のように、キャパシタンスC = ε0εS/dと電気抵抗 R = ρd/Sの並列接続とみなして、それぞれのインピーダンスZC = (iωC)−1(iは虚数単位、ω は 角周波数ii)とZR = Rの合成を考えるiii。この場合の合成アドミッタンスは、RとCそれぞ れのアドミッタンスの和になるため、実部は R−1、虚部はωC という単純な式になるが、合 成インピーダンスはそれとは大きく異なる式になる。それを計算すると、式(2-1)になる。

C R

図2-6 RC並列等価回路

(2-1)

i 単なる「インピーダンス」ではなく、「複素インピーダンス」と書いている場合は、それ は複素キャパシタンスなどもすべて含めた総称とする。

ii 計算で用いる角周波数ω と、測定で用いる(単位Hzで表される)周波数fの関係はω = 2πf であるが、以下では角周波数のことも単に周波数と書く。

iii 抵抗器やコンデンサの回路記号を使っているが、正確に言えば、記号が表しているのは 理想的な抵抗器やコンデンサのインピーダンス成分であり、ここで考えているのは抵抗器 (resistor)とコンデンサ(capacitor)の接続ではなく、電気抵抗(resistance)と電気容量(キャパシタ ンス:capacitance)の合成である。

( )

( )

2

1 1 1

1 1

RC RC i R RC i Z R C R i

Z ω

ω ω ω

+

= −

= +

⇔ +

=

( ) ( RC ) R

Z RC Z

R RC Z

Z

2 2

1 ) Im(

, 1

) 1

Re( ω

ω

ω ′′ = = − +

= +

′ =

(19)

この式から、周波数ω = (RC)−1を境にして、実部Z′は ω → 0のときにRに近づくが、こ れは低周波ではRとみなせることを意味する。逆にω → ∞のときに0に近づくが、これは 高周波ではRを無視できることを意味する。また、虚部Z′′はその境ω = (RC)−1で最大値R/2 となり、高周波や低周波の極限でゼロになる。

ω をパラメータとしたとき、Z′とZ′′が複素平面上に描く軌跡を求めるには、|Z|2 = Z′2 + Z′′2 を計算すると、その一部をZ′に書き戻すことによりω を消去できて、

(2-2)

となる。この式は、(R/2, 0)を中心として、半径R/2(直径R)の円を意味するが、式(2-1) からZ′′ < 0であるので、虚部が負の範囲だけの半円となるi

また、式(2-1)から、Zと等価な逆キャパシタンスii M = 1/C* = iωZ を計算すると、

(2-3)

となる。分母、分子を(ωRC)2で割ることにより、ZとMで対称的な形となり、式(2-1)に おけるωRCRが、式(2-3)ではそれぞれ(ωRC)−1C−1になる。これはZMの周波数依存 性が、ωRC = 1となるω に対して対称になり、複素平面におけるMの半円の直径(幅)が C−1になることを意味する。つまり、図2-6は高周波ではCとみなせるが、低周波ではCを 無視できる、という意味になる。

2.3.2. キャパシタンス (C*) とアドミッタンス (Y) のコールコール表示

今度は図2-7のように、抵抗 RとキャパシタンスCが直列にある場合を考える。この形 は図2-6と違って、RCが1つの試料の誘電率と抵抗率に対応するわけではないが、後で 示す図2-10のような場合に、ある条件のもとで近似的にそのような形になるものとして考 える。ここでは2.3.1とは逆に、合成アドミッタンスYを考えて、それと等価なキャパシタ

i インピーダンスアナライザによる測定結果も(インダクタンスの影響が現れない周波数で は)常にZ′′ < 0になっているが、どのコールコール表示でも、上半分の半円で表されるよ うに、この論文では、縦軸Z′′ を正として表示することにする。

ii 誘電率の逆数(dielectric modulus)をMと書くのが一般的であるようだが、この論文ではキ ャパシタンスの逆数1/CをMと書く。また、合成複素キャパシタンスをC*と書く。

( )

{ } { ( ) } ( ) '

1 1

1

2

2 2

2 2 2 2

2

RZ

RC RC R

RC Z R

Z =

= + + +

′′ =

′ +

ω ω ω

2 2

2

2

2 ⎟

⎜ ⎞

=⎛ + ′′

⎟⎠

⎜ ⎞

⎛ ′− R

R Z Z

( ) ( )

( ) ( )

( )

2 1

1 2

1 2 2

1 ) 1

Im(

1 1 ) 1

Re(

= +

= +

= ′

′′ =

= +

= +

− ′′

=

′ =

RC C R RC

Z RC M

M

RC C RC R

Z RC M

M

ω ω ω

ω ω

ω ω ω

ω ω

(20)

ンスC* = C′ + iC′′ を計算すると、式(2-4)になる。

C R

図2-7 RC直列等価回路

(2-4)

この式は、式(2-1)でRCを入れ替えたのと同じであり、RC並列の場合のZと同様な半 円が、RC直列の場合はC*について描かれることを意味する。

また、ZからMの場合と同様に、Y = iωC* を求めると、

(2-5)

となり、Yの式(2-5)は、Mの式(2-3)でRCを入れ替えたのと同じ形になる。

なお、Yの場合、RC直列にさらにインダクタンス成分ZL = iωLが直列に存在するときを 考えると、計算は省略するがω > (LC)−1/2のときにY′′ < 0になり、コールコール表示が円を描 く。高い周波数で測定結果が Y′′ < 0になった場合、それは試料の C と配線のインダクタン ス成分Lの影響によるものと考えられる場合がある。

2.3.3. 基本的なコールコール表示

以上のインピーダンスZ、逆キャパシタンスM、キャパシタンス C*、アドミッタンス Y のコールコール表示をまとめると、図2-8 になる。この図では、Z とC*が上側の半円にな るように虚軸の方向を決めているため、M と Yが下側に描かれる。半円の矢印は、周波数 を高周波側から低周波側に変化させていったときに、描かれる方向を示す。そして半円の 直径からRCの値が得られる。しかし、理想的なRC回路に相当して完全な半円になる 場合はそれで問題ないが、後で示すように、実際の測定結果は虚部の最大値(弧の高さ)

が幅(弧が実軸を切り取る長さ)の半分よりも短くなる場合、つまり完全な半円ではない

* 1 1

1 1

C i C i

RC i C R i

Y ω ω

ω

ω =

= + +

=

( ) ( RC ) C

C RC C

C RC C

C

2 2

1

*) Im(

, 1

*) 1

Re( ω

ω

ω ′′ = = − +

= +

′ =

( RC ) C

RC C i

RC

C i

2

1 1 1

* 1

ω ω

ω +

= −

= +

( ) ( )

( ) ( )

( )

2 1

1 2

1 2 2

1 1

) Im(

1 1 1

) Re(

= +

= +

= ′

′′ =

= +

= +

− ′′

=

′ =

R RC C RC

RC C

Y Y

R RC C

RC C RC

Y Y

ω ω ω

ω ω

ω ω ω

ω ω

(21)

場合が多いので、直径というよりも、弧の幅として考えた方がよい。

Im

Re

ωτ = 1 ωτ = 1

ω → 0 ω → ∞

ω → 0 ω → ∞

Z, C*

M, Y

( τ = RC)

R

0

C R

C RC parallel

Z → R M → C−1

RC series C* → C Y → R−1

図2-8 複素インピーダンスの複素平面表示

理想的な複素インピーダンスの半円の場合に、特徴的な点に対応するω を考える(Zの場 合で考えるがCも同様で、MとYの場合は ωτ = 1に関して左右対称になる)。まず、半円 の頂点(実軸となす角が90度)となるω は、式(2-2)からZ′ = −Z′′ = R/2のときで、そのと き式(2-1)からω = ω0 = 1/τ = 1/RCである。また、実部がZ′ = R/2 ± R/4で、なす角が60度の ときはω = 3ω0, (1/ 3)ω0、虚部が−Z′′ = R/4で、なす角が30度のときはω =(2± 3)ω0 で ある。これを図示すると、図2-9になる。なす角が30度のときのω の値から、横軸をlogω 、 縦軸を Z′′としたときの、Z′′のピークの半値全幅に対応するが、その値は 2log(2+ 3) =

1.1439 となる。したがって、ピーク周波数を中心に約 1 桁の周波数幅があれば、ほぼ半円

の形が得られることになる。ただし、後述の沈んだコールコール表示の場合は、この関係 がずれてくる。

Im

Re

ωτ = 1

ω → 0 ω → ∞

(τ = RC)

0

0.5774

0.2679 1.732

3.732

R/2 R

R/2

30°

図2-9 周波数ωτと半円上の点の対応(Zの場合)

(22)

2.3.4. コールコール表示の合成

前節までは、RC並列または直列の要素が1つだけのときを考えているが、それらの要素 が複数ある場合、例えば図2-10のように、RC並列要素が2つ直列にある場合を考える。Z やMは直列の場合単純に加算されるため、R1, C1R2, C2のそれぞれの要素のZMの合 成となる。図の場合、ピーク周波数ω1 = 1/R1C1 とω2 = 1/R2C2が大きく離れている場合、一 方の虚部(Z′′またはM′′)がゼロに近いとき、もう一方の虚部もゼロに近く、そのときの実 部は0またはRn (Cn)であるため、2つの半円が実軸上に並んだ形となる。ω1とω2があまり 離れていない場合は、周波数依存性が重なって半円にはならなくなるが、2つの要素の周 波数依存性が一致する場合、すなわちR1C1 = R2C2でω1 = ω2のときは、図2-10はR = R1 + R2C−1 = C1−1 + C2−1の並列となる。

ω1とω2の関係がどのようであっても、低周波の極限ではZ′ = R1 + R2, Z′′ = 0、高周波の極 限ではM′ = C1−1 + C2−1, M′′ = 0になるため、ZやMのコールコール表示の幅は、それぞれ合 成したRCに対応する。それに対して、合成したピークの高さが最も大きくなるのはω1 = ω2のときであるため、RC並列要素を直列に合成した場合、ZMのコールコール表示の全 体の幅に対して、高さが幅の半分より大きくなることはない。

R1 R2

C1 C2

図2-10 2つのRC並列等価回路

図2-10の場合の、ZMのコールコール表示の計算結果を図2-11に示す。計算は(c)以外 は全てR1 = R2として、C2/C1の比を変えたときの形の変化を示している。同じ計算結果につ いての、(a)はZの、(b)はMのコールコール表示で、(c)は(b)の|M| = 0付近を拡大した図で あるが、グラフのスケールが(b)ではC1を、(c)ではC2を基準にしていることに注意してお く。図2-11(a)を見ると、C2/C1 = 1のときは幅が2R1の1つの半円であるが、その比が10, 100 と大きくなるにつれて2つに分かれていき、C2/C1 = 1000ではほぼ分離していることがわか る。グラフの点は周波数間隔 5pts/dec であるが、点の数を数えると、ピーク周波数がほぼ C2/C1 の比で離れていることもわかる。一方(b)では、ここでは C2/C1を変えているために、

全体の幅はC2が大きくなるにつれて小さくなり、R1C1に対応する大きな半円の左端に、

R2C2に対応する部分が現れている。(c)はその部分を拡大しているのであるが、(a)のZ

(23)

コールコール表示では半円が分離して見えている場合でも、このMの方は、それぞれの半 円の大きさの違いのために、はっきりと分離していないことがわかる。そこで(c)ではC2/C1 だけでなく、さらにR2/R1も変えた場合を付け加えてあるのだが、C2/C1 = 1000かつR2/R1 = 100(ω21 = 105)になってようやく、はっきりと分離して現れている。

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

0.0 0.5 1.0 R2/R1 = 1

C2/C1 = 1 C2/C1 = 10 C2/C1 = 100 C2/C1 = 1000

(a)

Z" / R1

Z' / R1

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

0.0 0.5 1.0 (b)

M" / C1

-1

M' / C1-1 0.0 0.5 1.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

(c)

M" / C2

-1

M' / C2-1 C2/C1 = 1000

R2/R1 = 1 R2/R1 = 10 R2/R1 = 100

図2-11 (a) Zと(b), (c) Mのコールコール表示の合成

(24)

2.3.5. 沈んだ・歪んだコールコール表示

実際のZMのコールコール表示の測定結果は、中心が実軸より下にあって、半円が沈 んだような形で現れることが多い。そのような場合の複素インピーダンスは、Cではなく、

CPE (Constant Phase Element)4)という要素Z = X−1(iω)−p (0 ≤ p ≤ 1)と、Rを並列にしたときに得 られる。その合成インピーダンスを計算すると式(2-6)になり、それからコールコール表示 の式(2-7)を得ると、確かに中心が実軸の下に沈んだ円弧となり、緩和時間の分布を考えた 場合の複素誘電率のコールコール表示のような形になる。

(2-6)

(2-7)

Z ′ ωτ = 1, τ = (RX)

1/p

ω → 0 ω → ∞

0

Z ′′

R/2 θ = pπ/2 R

図2-12 沈んだZのコールコール表示

しかし、(iω)−pという式は経験的な形であり、CPEでp = 0Rのインピーダンスに対応 し、p = 1Cに対応するとしても、pがその中間の値であるときの意味はよくわからない。

そこで、要素が均一ではなく分布した場合のモデルとして、例えば図2-13のように、試料 を半分ずつに繰り返し分割していき、分割するごとにその部分のCk (~ 1)倍になったり、

RX R p

RX

p Z RX

RX R p

RX

p Z RX

i R Z RX

p p

p

p p

p p

2 2

) (

) 2 / cos(

2 1

) 2 / sin(

) (

) 2 / cos(

2 1

) 2 / cos(

1 ) ( 1

1

ω π

ω

π ω

ω π

ω

π ω

ω

+

− +

′′ =

+ +

= +

= +

2 2 2

) 2 / sin(

2 )

2 / tan(

2 ⎟⎟

⎜⎜ ⎞

= ⎛

⎟⎟ ⎠

⎜⎜ ⎞

⎛ ′′ −

⎟ +

⎜ ⎞

⎛ ′ −

π

π p

R p

Z R

Z R

(25)

1/kになったりするとしたモデルを考える。実際的には、試料物質の電気伝導率が一様とし たとき、試料を体積比で分割していった部分ごとに誘電率が異なっている場合となる。

R/8 8Ck−1

R/16 16Ck−2

R/8

8Ck

R/16 16Ck2 R/4

4C

R/4 4C

n = 0 n = 1 2 n = 0

n = −1

−2

図2-13 C要素が分布している場合のモデル

この場合の、各部分ごとのコールコール表示を考えれば、Zのコールコール表示の全体の 幅はRになるが、各部分のピーク周波数はω = 1/RCknでずれているため、全体の高さは分割 しないときのR/2より低くなる。だが、nが正の部分と負の部分では、Z′もZ′′もω = 1/RCに 関して対称であるため、Zのコールコール表示は、全体のピーク周波数ω = 1/RCに関して対 称になる。それに対してMのコールコール表示は、各部分の幅が1/2|n|+2Cknで違っているた め、全体の幅はもとの1/Cよりも大きくなる。(k < 2のときは)ピーク周波数がω = 1/RCよ りも高い部分(図2-13では左側)の方が合計の幅が大きくなるため、全体としてのピーク 周波数は1/RCより少し高周波側にずれ、全体として右側の方が横に広がり、非対称で歪ん だ形になる。このモデルで計算した、ZMのコールコール表示を図2-14に示す。(a)では、

式(2-6)から計算した結果も示してある。図2-13ではRが一様でCが分布している場合を考 えているが、同様に考えると、Cが一様でRが分布している場合はZが非対称な歪んだ、M が対称な沈んだコールコール表示になる。また、どちらの場合でも、コールコール表示の ピーク周波数は、ZよりMの方が常に高くなる。

実際に、沈んだZと歪んだMのコールコール表示が見られた例を図2-15に示す。試料は 適当な大きさのガラスで、測定周波数は1 MHz ~ 10 mHzである。Zのコールコール表示は、

温度による大きさの変化(つまり R の温度変化)が非常に大きいために、温度ごとにスケ ールを変えている。それに対してMのコールコール表示の形はほとんど変わらずに、ピー ク周波数が温度により変化している。図2-14と比較すると、Zではk = 2.5程度、Mではk = 1.7 程度とずれているが、計算結果と似た形になっている。また、ピーク周波数について、

ZよりMの方が常に高いという結果になっている。

(26)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.0

0.2 0.4 0.6

p = 0.4

p = 1.0, 0.9, 0.8... k = 1.0 1.5 2.0 2.5 4.0

(a)

Z"

Z'

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 0.0

0.2 0.4 0.6

1.2 1.4 1.6

k = 2.0 1.8

k = 1.0 (b)

M"

M'

図2-14 誘電率に分布がある場合のコールコール表示(ωτ = 0.01 ~ 100)

(a)記号は図2-13のモデルによる、実線は式(2-6)(RX = 1)によるインピーダンスの計算結果

(b)図2-13のモデルによる、逆キャパシタンスの計算結果

0 200

0 200 400 600

80°C 40°C (a)

Z" /G

Z' /G

0 10 20 30 40 50 60 70

0 10 20

40°C 80°C (-1.0) 120°C (0.6) 160°C (1.8)

(d)

M" / nF-1

M' / nF-1 0 20 40 60 80 100 120 0

20 40 60

80°C (-1.4) (b)

Z" /G

Z' /G

0 1 2 3 4 5

0 1 2

160°C (1.2) 120°C (0.0) (c)

Z" /G

Z' /G

図2-15 ガラス試料の(a),(b),(c) Zと(d) Mのコールコール表示 括弧内の値は、各温度におけるHz単位のピーク周波数の対数

(27)

2.3.6. 低周波や高温における誘電率の増大

図2-6のような単純なRC並列の形では、そのときの複素キャパシタンス(複素誘電率)

の虚部はω に反比例し、実部はω によらず一定となる。しかし、実際の物質の誘電率測定 では、周波数を下げていくか温度を上げていき、誘電率の虚部が増大すると、それが実部 と同程度の値になった辺りから実部も増大する、という現象もよく見られる。そのような 現象も、図2-13のモデルで説明できる。それは、コールコール表示の円弧が2つにはっき り分かれるか、あるいは沈んだ形になるかどうかの違いで、結局は第5章で説明する巨大 誘電緩和と同様に考えることができる。つまり、試料が不均一な場合は、低周波や高温で 電気伝導の効果が現れてくると、コンデンサが試料本来よりも薄くなったようになるため、

測定されるキャパシタンスが大きくなり、それが実部の増大となって現れる。見方を変え れば、試料が均一でZMのコールコール表示が完全な半円になる場合は、誘電率の実部 の周波数依存性はないが、試料が不均一でコールコール表示が沈んだり歪んだりする場合 は、周波数依存性が現れることになる。ただし、このような現象で誘電率が大きくなる場 合、巨大誘電緩和のような明確な誘電緩和には見えないほか、誘電損失は1より大きくな るために、実用的にもあまり意味はない。

図2-15と同じデータを、それぞれの温度における複素キャパシタンス(C′, C′′)の周波数依 存性という形にしたグラフと、図2-13のモデルで計算した、分布のパラメータを変えたと きの複素キャパシタンスの周波数依存性のグラフを、図2-16に示す。

(28)

10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 106 10-1

100 101 102 103 104 105

C"

C'

C' C"

160°C 120°C 80°C 40°C

(a)

C', C" /pF

Frequency /Hz

10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 106 10-6

10-4 10-2 100 102

C"

C'

C' C"

k = 3.0 k = 2.2 k = 1.8 k = 1.0

(b)

C', C"

ωτ

図2-16 (a)ガラス試料の複素キャパシタンスの周波数依存性

(b)図2-13のモデルから計算した複素キャパシタンスの周波数依存性

参考文献

1) C. B. Sawyer and C. H. Tower: Phys. Rev. 35 (1930) 269.

2) 高重正明:物質構造と誘電体入門、裳華房 (2003) p.131.

3) J. T. S. Irvine, D. C. Sinclair and A. R. West: Adv. Mater. 2 (1990) 132.

4) ZView for Windows Operating Manual Version 2.1, Scribner Associates (1999).

(29)

3. Q-F プローブの試作と評価

この章では、BLTC 試料の圧電性の測定のために、本研究で新しい手法として開発した Q-Fプローブについて述べる。最初に簡単に説明すると、Q-Fプローブとは図3-1に示すよ うに、ペン程度の大きさのプローブであり、それを手で試料に押し付けたときに、試料に 印加されている力の大きさ(F)と、圧電効果により試料に生じた電荷量(Q)を同時に測定し、

QFの関係から試料の圧電定数(d33)を直接得ることができる測定器である。

図3-1 Q-Fプローブ

3.1. 圧電効果の測定

3.1.1. 圧電効果と圧電定数

物質に応力を加えることにより分極が生じる効果を(正、順)圧電効果といい、電場を 加えることにより歪みが生じる効果を逆圧電効果という。その効果の大きさを示す圧電定 数には複数の表記方法があるが、ここではd定数(圧電歪み定数)を用いる。d定数による 電気機械結合の基本式は式(3-1), (3-2)で表される1)

(3-1)

(3-2)

ここで、Dは電束密度、εXは応力がないとき(X = 0)の比誘電率、Eは電場、Xは応力、S は歪み、sEは電場がないとき(E = 0)の弾性定数であり、添字i, j = 1, 2, 3 はその量の方向、k,

+

=

k

k ik j

j X ij

i

E d X

D ε

0

ε

+

=

i i ik l

l E kl

k

s X d E

S

QF-1 QF-3 QF-2 (Pen)

参照

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