骨髄 間質細 胞 の老 化 に関す る研 究
第2編
高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 の 増 殖 動 態 並 び に
造 血 支 持 能 に 及 ぼ す 抗 白 血 病 剤 の 影 響
岡山大学医学部第二内科学教室(指 導:木 村郁郎教授)
出
口
静
吾
(平成5年3月18日 受稿)
Key words: Human marrow stromal cells, Aging, Chemotherapy, Growing dynamics, Ability to sustain hemopoiesis
緒 言 人 口 の 高 齢 化 が 進 み,さ ま ざ ま な 疾 患 分 野 で 高 齢 者 の 治 療 が 見 直 さ れ つ つ あ る.一 般 的 に 高 齢 者 は60歳 以 下 の 成 人 に 比 べ 薬 物 反 応 に敏 感 で, そ れ に 伴 う 副 作 用 発 現 率 も高 い.ま た,加 齢 に 伴 う各 種 の 生 理 的 変 化 や 合 併 す る疾 患 に よ り異 な っ た薬 物 動 態 を と るこ と も知 られ てい る.Kohn1) は,70歳 の 基 礎 代 謝 率,心 拍 出 量,糸 球 体 濾 過 率,腎 血 漿 流 量 な どは30歳 に お け る平 均 的 な 生 理 機 能 の60∼80%と 低 下 して い る こ と を報 告 し て い る.そ の た め 高 齢 者 の 薬 物 動 態 の 特 徴 の 一 つ に様 々 な 臓 器 の 機 能 低 下 に 起 因 す る 血 中 濃 度 の 上 昇 が あ げ ら れ,重 篤 な 副 作 用 発 現 率 の 高 い 薬 剤 の 投 与 に 際 し て は 細 心 の 注 意 が 必 要 と な る が,悪 性 腫 瘍 に 対 す る化 学 療 法,即 ち抗 癌 剤 投 与 は,特 に 注 意 を要 す る療 法 と考 え られ る2)34)56). 抗 腫 瘍 剤 投 与 に よ る 注 意 す べ き 副 作 用 の 一 つ は 骨 髄 抑 制 に よ る好 中球 減 少 で あ り,高 齢 者 で は そ の 期 間 が 遷 延 しや す く,そ れ に 伴 う感 染 症 も 若 年 者 に 比 し重 症 化 しや す い.老 人 で 若 年 者 に 比 し骨 髄 抑 制 が 遷 延 す る原 因 と し て,血 中 濃 度 の 問 題 以 外 に,既 に 骨 髄 に お い て 造 血 幹 細 胞 量 の 減 少 が あ る こ と7,8)9),さら に 間 質 も含 め た そ れ ら細 胞 の 抗 癌 剤 に 対 す る 不 耐 性 が 問題 とな る. 既 に 松 崎 ら10)は,長 期 の 骨 髄 抑 制 の 機 序 と して 骨 髄 間 質 細 胞 の 機 能 的 不 可 逆 的 障 害 を推 定 し て い る.既 に 本 稿 第1編 で 著 者 は 骨 髄 間 質 細 胞 に 及 ぼ す 加 齢 の 影 響 を検 討 し,高 齢 者 で は 間 質 細 胞 の 増 殖 動 態 は 良 好 に 保 た れ て お り,そ の 細 胞 構 成 に お い て 単 球/マ ク ロ フ ァ ー ジ,脂 肪 細 胞 及 び Tリ ンパ 球 の 比 率 が 若 年 者 に 比 し有 意 に 増 加 し て い る こ と を 明 ら か に し た.今 回 著 者 は 骨 髄 間 質 細 胞 に 対 す る こ れ ら加 齢 の 影 響 が 高 齢 者 に お い て よ り骨 髄 抑 制 を来 しや す い 原 因 と な り得 る か ど うか を明 らか に し,高 齢 者 に お け る抗 腫 瘍 性 化 学 療 法 の 治 療 体 系 確 立 の 一 助 とす るた め, 抗 白血 病 剤 に よ る 高 齢 者 の 間 質 細 胞 障 害 を検 討 した. 研 究 対 象 並 び に 方 法 1. 骨 髄 血 イ ン フ ォ ー ム ドコ ン セ ン トを得 た 後,血 液 学 的 に 正 常 な7名 の 高 齢 者(69∼82歳:中 央 値73 歳)及 び4名 の 健 常 若 年 者(27∼29歳:中 央 値 28歳)の 胸 骨 も し くは 腸 骨 よ り穿 刺 吸 引 法 に て, ヘ パ リ ン加 で無 菌 的 に 採 取 し た 骨 髄 血 を使 用 し た. 2. 骨 髄 間 質 細 胞 の 培 養 法 Dexter培 養 法11)に従 い,細 胞 培 養 を行 っ た. ま ず,ヒ ト 骨 髄 血 よ りFicoll-Hypaque (HISTOPAQUE-1077; 1.077g/μl, Sigma, St. Louis, MO)を 用 い,比 重 遠 心 法(450g, 15分 間)に て骨 髄 単 核 球 を 分 離 した.こ の 単 核 601
602 出 口 静 吾
図1 各 種 抗 白 血 病 剤 の 治 療 域 血 中 濃 度
Ara-C及 びMTXはhigh dose療 法 (ara-C: 3g/m3, MTX: 250mg/m2)時 の 血 中 濃 度 の 推 移 を 示 す.こ れ よ り,DNR濃 度10-4 M∼10-9M, ara-C 濃 度10-3M∼10-8M, MTX濃 度10-3M∼10-8Mに 設 定 し た.
球 を37℃,5%CO2の 条 件 下 で 液 体 培 養 し た. 培 養 液 は, alfa-minimal essential media (α-MEM; GIBCO, Gland Island, NY)に15%牛 胎 児 血 清(fetal calf serum; FCS, Flow gen eral company, McLean, VA), 2×10-6Mメ チ ル プ レ ドニ ゾ ロ ン(Solu-Medrol: Upjohn, 東 京),40U/mlペ ニ シ リ ン(明 治 製 菓,東 京), 40μg/mlス ト レ プ トマ イ シ ン(明 治 製 菓,東 京) を 加 え た も の を 使 用 し た.造 血 細 胞 の コ ロ ニ ー ア ッ セ イ を 必 要 と し な い た め 変 法 と し て,培 養 液 は 週 に1回 全 量 を 新 鮮 な 培 養 液 と 交 換 し,骨 髄 間 質 細 胞 が 培 養 容 器 底 に ほ ぼ100% confluent に な る ま で 培 養 し た. 3. 抗 白 血 病 剤 抗 白 血 病 剤 と し て は,抗 癌 性 抗 生 物 質 で あ る daunorubicin (DNR),代 謝 拮 抗 剤 で あ る cytosine arabinoside (ara-C)お よ びmethotrex
ate (MTX)を 用 い た.各 薬 剤 の 濃 度 勾 配 の 設 定 は,そ れ ぞ れ の 臨 床 上 の 大 量 療 法 時 の 血 中 濃 度 も考 慮 し,図1に 示 す よ う に 治 療 域 濃 度 を含 む 範 囲 で 行 っ た結 果,DNRは10-4M∼10-9M, ara-C・MTXは10-3M∼10-8Mと し た.ま た, ara-Cはin vivoで は 速 や か に不 活 性 化 さ れ る と言 わ れ て い る が,松 崎 ら10)の同 様 の 実 験 系 で, radiofmmunoassay (RIA)法 に よ る培 養 液 中 の ara-C活 性 測 定 を行 っ た と こ ろ,7日 後 の 活 性 は投 与 初 日の1/10以 下 に は 低 下 しな い こ とが確 認 され て い る.も し1/10に 低 下 して も,10-4M 以 上 の レベ ル が 維 持 で き た こ と は, High-dose ara-C療 法 の 血 中 濃 度 を持 続 的 に1週 間 維 持 で き た こ とに な り濃 度 的 に は 問 題 が な い と考 え ら れ た.な お,各 薬 剤 は 濃 度 勾 配 作 成 後,速 や か に 実 験 に 使 用 した. 1) 骨 髄 間 質 細 胞 の 増 殖 動 態 に 及 ぼ す 抗 白 血 病 剤 の 影 響 (1) 骨 髄 間 質 細 胞 の 抗 白 血 病 剤 へ の 暴 露 骨 髄 間 質 細 胞 がconfluent(培 養3∼4週)に な っ た 時 点 で,フ ラ ス コ 底 に 付 着 し て い る 細 胞 を,そ の ま まphosphate buffered saline (PBS) に て2回 洗 浄 し た 後, 0.05% ethylenediamine-tetraacetic acid (EDTA)加0.25%ト リプ シ ン 液(千 葉 県 血 清 研 究 所)を5ml加 え,充 分 に ピ ペ ッ テ ィ ン グ し,骨 髄 間 質 細 胞 を個 々 に 剥 離 し た(ト リプ シ ン処 理).こ れ ら の 骨 髄 間 質 細 胞 を α-MEMに て2回 洗 浄 後,前 述 の よ うに 設 定 し た 薬 剤 濃 度 の 抗 白 血 病 剤 を 添 加 した 培 養 液8ml 当 た り6×106個 の 細 胞 を 浮 遊 させ,37℃, 5% CO2の 条 件 下 で25cm2フ ラ ス コに て 培 養 し た.抗 白 血 病 剤 暴 露 時 間 は,DNRが3時 間, ara-C, MTXは 共 に7日 間 と した. (2) 骨 髄 間 質 細 胞 の 増 殖 動 態 抗 白 血 病 剤 に暴 露 後,暴 露 培 養 液 中 及 び フ ラ ス コ壁 付 着 の 骨 髄 間 質 細 胞 を ト リプ シ ン処 理 に て剥 離,回 収 し た.回 収 し た 骨 髄 間 質 細 胞 表 面 に 抗 白 血 病 剤 が 残 存 し な い よ う骨 髄 間 質 細 胞 を PBSで3回 洗 浄 し た後,細 胞 数 を5×105個 に 調 整 し,培 養 液1.5mlで35mm培 養 皿(Costar, Cam bridge, MA)に て37℃, 5%CO2の 条 件 下 で 培 養 した(2次 培 養).1週 毎 の 培 養 液 交 換 時, 暴 露 濃 度 別 に一 部 の 培 養 皿 を ト リプ シン処 理 し,
図2 DNRの 骨 髄 間質 細 胞 に 対 す る増 殖 抑 制 効 果 骨髄 間質 細 胞 を10-4Mか ら10-9Mの 濃度 の DNRに3時 間暴 露 後,2次 培 養 を行 った とこ ろ,10-5M以 上 の 濃 度 で抑 制 が 認 め られ たが, 10-6M以 下 の 濃 度 では 骨髄 間質 細 胞 の増 殖抑 制効 果 は 認め られ なか った. 培 養 皿 底 に 付 着 増 殖 した 骨 髄 間 質 細 胞 を個 々 に 剥 離 回 収 後 算 定 し,増 殖 細 胞 数 の 経 時 的 変 化 を 増 殖 動 態 と した. 2) 骨 髄 間 質 細 胞 の 造 血 支 持 能 に 及 ぼ す 抗 白 血 病 剤 の 影 響 (1) 骨 髄 間 質 細 胞 の 抗 白 血 病 剤 へ の 暴 露 35mm培 養 皿 にconfluentに な っ た 時 点(培 養 3∼4週)で,培 養 皿 底 に 付 着 して い る骨 髄 間 質 細 胞 を そ の ま ま,DNR 3時 間, ara-C, MTX 7日 間,そ れ ぞ れ 設 定 薬 剤 濃 度 に 暴 露 し た.抗 白血 病 剤 へ の 暴 露 終 了 後,骨 髄 間 質 細 胞 をPBS に て3回 洗 浄 した 後,抗 白 血 病 剤 を含 ま な い 培 養 液 に よ る3時 間 の 中 間 培 養 を行 い,そ の 後 さ らにPBSに て3回 洗 浄 し,骨 髄 間 質 細 胞 上 の 抗 白血 病 剤 を 充 分 に 除 去 し,抗 白血 病 剤 へ の 暴 露 後 の100% confluentヒ ト骨 髄 間 質 細 胞(以 下, 抗 白血 病 剤 暴 露 後 間 質 細 胞)を 作 成 し た. (2) 正 常 造 血 幹 細 胞(骨 髄T細 胞 除 去 非 付 着 単 核 球)の 採 取 前 述 の 方 法 に よ り,健 常 若 年 者 の 骨 髄 血 よ り 分 離 し た 単 核 球 か ら,E-ロ ゼ ッ ト形 成 法 に てT 細 胞 を除 去 後,25cm2フ ラス コに培 養 液 と共 に37℃, 5%CO2の 条 件 下 で1時 間incubateし た.そ の 後,培 養 液 中 の 非 付 着 細 胞 分 画 の み を 回 収 し た. な お,非 付 着 細 胞 分 画 の 回収 に 関 して,T細 胞 除 去 後1時 間 培 養 の み で 付 着 細 胞 分 画 が 除 去 で き た か 否 か に つ い て, Castro-Malaspinaら12)の 報 告 を参 照 す れ ば,10分 間 培 養 で は 十 分 に 容 器 底 に 細 胞 が 付 着 せ ず,60分 間 培 養 で は 十 分 な 細 胞 付 着 が み られ 非 付 着 細 胞 分 画 も十 分 回 収 可 能 で あ り,90分 間 培 養 で は60分 間 培 養 と有 意 差 は な か っ た と して お り,1時 間 培 養 後 の 上 清 回 収 で 付 着 細 胞 は ほ ぼ 除 去 さ れ て い る と考 え た. (3) コ ロ ニ ー ア ッセ イ 抗 白血 病 剤 暴 露 後 間 質 細 胞 上 で,そ の 骨 髄 間 質 細 胞 と骨 髄T細 胞 除 去 非 付 着 単 核 球(5×105 個/培 養 皿)と を 液 体 共 培 養 した.植 木 ら13)の方 法 に 従 い,培 養 は,前 述 の 培 養 液1.5mlを 用 い, 37℃, 5%CO2の 条 件 下 で1週 間 行 っ た.1週 間 後,培 養 上 清 を静 か に 除 去 し,乾 燥 後,ペ ル オ キ シ ダー ゼ と ギ ム ザ の 二 重 染 色 を行 い,抗 白 血 病 剤 暴 露 後 間 質 細 胞 上 に 形 成 され た 造 血 細 胞 コ ロニ ー 数 を算 定 した .な お,コ ロニー は20個 以 上 の 細 胞 集 団 と した. 成 績 1. 抗 白 血 病 剤 暴 露 後 の 高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 の 増 殖 動 態 増 殖 動 態 を検 討 す る に あ た り,実 験 系 の 各 所 で 短 時 間 で あ る もの の ト リプ シ ン処 理 を す る必 要 が あ る.ト リプ シ ン処 理 に よ る骨 髄 間 質 細 胞 のviability低 下 に つ い て は,松 崎 ら10)の検 討 で trypan blue dye exclusion testに よ り ト リプ シ
ン処 理 後 の 骨 髄 間 質 細 胞 のviabilityは80∼85% で あ っ た と し て お り,著 者 の 検 討 に お い て も同 様 で あ り, viabilityに 関 して は 問 題 な か っ た. 増 殖 動 態 は,抗 白 血 病 剤 暴 露 終 了 後 の2次 培 養 で 骨 髄 間 質 細 胞 数 を1週 後 か ら4週 後 の1週 毎 に 算 定 す る こ と で 検 討 し た.2次 培 養 開 始 時 の 実 細 胞 数 に 対 す る 各 週 毎 の 細 胞 数 の 割 合(%)
604 出 口 静 吾 図3 Ara-Cの 骨 髄 間質 細 胞 に対 す る増 殖 抑制 効 果 骨 髄 間質 細 胞 を10-3Mか ら10-8Mの 濃 度 の ara-Cに1週 間暴 露 後,2次 培 養 を行 った が, 骨 髄 間 質細 胞 の増 殖 抑制 効 果 は 認め られ なか った. を 片 対 数 グ ラ フ で 表 示 し た. 図2に はDNRの 骨 髄 間 質 細 胞 増 殖 抑 制 効 果 を 示 す が,10-5M以 上 の 濃 度 で 増 殖 が 抑 制 さ れ た.図3, 4に はara-C及 びMTXの 骨 髄 間 質 細 胞 増 殖 抑 制 効 果 を示 す が,DNRと は 異 な り共 に す べ て の 薬 剤 濃 度 で ほ とん ど増 殖 抑 制 効 果 は 認 め ら れ な か っ た. 2. 抗 白 血 病 剤 暴 露 後 の 高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 の 造 血 支 持 能 抗 白 血 病 剤 暴 露 後 間 質 細 胞 は,当 実 験 終 了 ま で,培 養 皿 底 よ り剥 離 す るこ と な く100% conflu entを 維 持 した ま ま で あ り,形 態 的 に 変 化 を認 め な か っ た. 高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 の 造 血 支 持 能 を コ ロニ ー ア ッセ イ で検 討 し た.抗 白血 病 剤 暴 露 後 間 質 細 胞 上 に 形 成 さ れ た コ ロ ニ ー を,ペ ル オ キ シ ダー ゼ 反 応 陽 性 と陰 性 とに 分 類 して 検 討 し た.ペ ル オ キ シ ダー ゼ 陽性 コロニー は,形 態 的 にはmyeloid 系 細 胞 の 集 団 に 見 え,ペ ル オ キ シ ダー ゼ 陰 性 コ ロ ニ ー は,前 者 に 比 べ 細 胞 自体 は や や 小 型 でN/ C比 の 大 きいlymphoid系 細 胞 集 団 に 見 え た(図 5).し か し酵 素 抗 体 法 に よ る表 面 マ ー カ ー の 検 索(CD 3, CD 7, CD 13, CD 14, CD 19, CD 34, CD 45, HLA-DR)で は,両 者 ともmyeloid 系 の マ ー カー を有 し て い た.グ ラ フ は,各 薬 剤 と も濃 度 別 に,縦 軸 をペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 染 色 に よ る コ ロ ニ ー の 種 類,横 軸 を培 養 皿1個 当 た り に 形 成 さ れ た コ ロ ニ ー 数 と し て 表 した. 図4 MTXの 骨 髄 間 質細 胞 に対 す る増 殖 抑 制効 果 骨 髄 間質 細 胞 を10-3Mか ら10-8Mの 濃度 の MTXに1週 間 暴 露後,2次 培 養 を行 った が, ara-C同 様,骨 髄 間質 細 胞 の 増殖 抑 制 効 果 は 認 め られ なか っ た. DNR暴 露 後 の 骨 髄 間 質 細 胞 の コ ロニ ー 形 成 支 持 能 は,10-9M及 び10-8Mで は コ ン トロ ー ル群 と比 べ 差 は 認 め ら れ な か っ た が,10-7Mで は 若 干 の 抑 制 を受 け,10-6M以 上 で 著 明 に 抑 制 さ れ た(図6).一 方, ara-C及 びMTX暴 露 後 の 骨 髄 間 質 細 胞 の コ ロニ ー 形 成 支 持 能 は,対 照 群 に 比 し大 差 は 認 め られ な い ま で も,MTXに お い て は 濃 度 依 存 性 に 若 干 の 抑 制 傾 向 が み ら れ た (図7, 8). な お,図6, 7, 8の 各 最 下 段 に 示 し
たen-図5 抗 白血 病 剤 に 暴 露 後 の骨 髄 間 質 細 胞上 に形 成 され たペ ル オキ シ ダー ゼ(POX)陽 性 及 び 陰性 造 血 細 胞コ
ロ ニ ー
POX陽 性 コ ロニ ー 構成 細 胞は 形 態 学 的 にmyeloid様 で あ った.POX陰 性 コ ロニ ー構 成 細 胞 はや や 小 型 の 胞体 でN/C比 の 大 きい細 胞 が 中心 だが,酵 素 抗 体 法 に よ る検 討 で はmyeloid系 の マ ー カー を保 持 して い た. dogenous colonyの 検 討 で は,い ず れ の 薬 剤 の 場 合 で も コ ロ ニ ー は 形 成 さ れ ず,当 実 験 系 で 形 成 さ れ た コ ロ ニ ー は,高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 由 来 で は な く,共 培 養 さ れ た 若 年 者 非 付 着 細 胞 由 来 の も の で あ っ た . 考 察 骨 髄 間 質 細 胞 は,造 血 系 の 維 持,調 節 に 深 く 関 与 して い る が,臨 床 上 しば しば 経 験 す る 高 齢 者 に お け る 抗 腫 瘍 剤 に よ る骨 髄 抑 制 が 遷 延 す る 理 由 を 骨 髄 間 質 細 胞 側 よ り検 討 した .な お,抗 癌 剤 と してDNR, ara-C, MTXを 用 い た が, DNRはanthracycline系 のDNA合 成 阻 害 剤 で あ り,細 胞 周 期 に 比 較 的 非 依 存 性 の 抗 癌 性 抗 生 物 質 で あ る14)15).一 方, ara-C及 びMTXな ど の代 謝 拮 抗 剤 は 一 次 的 な 作 用 点 はDNA合 成 阻 害 で あ るが,S期 の 細 胞 に 対 す る 抑 制 効 果 が 主 で あ る の で,同 じ薬 剤 濃 度 で も作 用 時 間 が 長 い と殺 細 胞 効 果 が 強 いtime dependentの 薬 剤 で あ る.ま た,MTXはcell cycleのS期 以 外 に も作 用 し,S期 に 細 胞 が 入 る こ と を遅 らせ た り,RNA・ 蛋 白合 成 に も影 響 を 持 つ と言 わ れ て い る16)17)18). 抗 白 血 病 剤 暴 露 に よ る 高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 増 殖 動 態 の 検 討 は,臨 床 上 で の 抗 癌 剤 投 与 後 に 障 害 を 受 け た骨 髄 間 質 の修 復 過 程 をin vitroの 実 験 系 で 再 現 す る こ と を 目的 と して い る が ,結 果 と して,DNRで は10-5M以 上 の 濃 度 で 著 明 な 抑 制 効 果 が 認 め ら れ,10-6M以 下 の 濃 度 で は DNR非 暴 露 群 と差 が な か っ た .こ れ に対 して, ara-C及 びMTXで はDNRと は 異 な り共 に す べ て の 薬 剤 濃 度 で ほ とん ど増 殖 抑 制 効 果 は 認 め
606 出 口 静 吾 図6 骨 髄 間 質細 胞 の 造 血支 持 能 に 及ぼ すDNRの 影響 10-5Mか ら10-9Mの 濃度 のDNRに3時 間 暴 露 した高 齢 者骨 髄 間 質 細 胞 をT細 胞 及 び付 着 細 胞 分 画 を除 去 した若 年者 骨 髄 単核 球 と共 培 養 した 結果,骨 髄 間 質 細胞 上 での 造 血 細胞 コロニ ー 形成 は,10-7Mで 若 干 の 抑制 を 受 け,特 に10-6M以 上 でペ ル オ キ シ ダー ゼ 陽 性 ・陰 性 コ ロニー 共 に 著 明 に抑 制 され た. られ な か っ た.DNRで 抑 制 を受 け,細 胞 周 期 依 存 性 の代 謝 拮 抗 剤 で 抑 制 を受 け な か っ た こ とは, confluentに な っ た 直 後 の 骨 髄 間 質 細 胞 を用 い た た め,休 止 期 に 入 っ て い る 細 胞 が 多 い可 能 性 が あ り,骨 髄 間 質 細 胞 自体 のS期 に あ る細 胞 比 率 が低 い ため 長 期 暴 露 に 対 して もara-C及 びMTX で 抑 制 さ れ な か っ た こ とが 推 定 され た.一 方, 抗 白 血 病 剤 暴 露 に よ る若 年 者 骨 髄 間 質 細 胞 増 殖 動 態 へ の 影 響 は,松 崎 ら19)10)によ れ ば,DNRで は10-5M以 上 の 濃 度 で 著 明 な抑 制 効 果 が 認 め ら れ,10-6Mで 軽 度 抑 制 が み ら れ,10-7M以 下 の 濃 度 で はDNR非 暴 露群 と有 意 差 が な く,ま た ara-C及 びMTXで は 共 に す べ て の 薬 剤 濃 度 で 増 殖 抑 制 効 果 は 認 め られ な か っ た と報 告 して お り,DNR, ara-C, MTXと もに 高 齢 者 と若 年 者 で は 大 差 が な い と考 え ら れ,抗 腫 瘍 剤 に よ り そ の 構 築 を破 壊 さ れ た骨 髄 問 質 細 胞 が 修 復 さ れ る に あ た っ て若 年 者 との差 は な い と考 え られ た . 図7 骨 髄 間 質細 胞 の 造 血支 持 能 に 及ぼ すara-Cの 影 響 10-3Mか ら10-8Mの 濃度 のara-Cに1週 間暴 露 した高 齢 者骨 髄 間 質 細 胞 をT細 胞 及 び付着 細 胞 分 画 を除 去 した若年 者骨 髄 単核 球 と共培 養 した結 果,骨 髄 間 質細 胞上 での 造 血 細 胞 コロニ ー 形成 に 及 ぼ すara-Cの 影響 は, コン トロー ル に比 し差 を認 め なか った.
図8 骨 髄 間 質細 胞の 造 血支 持 能 に 及ぼすMTXの 影 響 10-3Mか ら10-8Mの 濃 度 のMTXに1週 間 暴 露 した高 齢 者 骨 髄 間質 細 胞 をT細 胞 及 び 付 着細 胞 分 画 を除 去 した 若年 者 骨 髄単 核 球 と共 培養 した結 果,骨 髄 間質 細 胞 上 で の造 血 細 胞 コロ ニー 形 成 に 及 ぼすMTXの 影響 は, ara-C同 様 コン トロー ル に 比 し大 差 を認 め な い もの の,10-5M以 上 で 濃度 依 存 性 に若 干 の 抑制 傾 向が み られ た. 支 持 能 の 検 討 は 臨 床 上 抗 腫 瘍 剤 に暴 露 さ れ る こ とに よ り破 壊 され な い ま で も機 能 的 障 害 を 受 け る程 度 を 明 らか に す る こ と を 目 的 と して い る. DNR暴 露 後 の 高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 が 支 持 形 成 した コ ロ ニ ー 数 は,10-9M及 び10-8Mで は コ ン トロー ル 群 と比 べ 差 は 認 め られ なか っ た が,10-7 Mで は 軽 度 減 少 して お り,10-6Mで 著 明 に 減 少 し,10-5Mで は コ ロ ニ ー 形 成 は 全 くで き な か っ た.一 方, ara-C及 びMTX暴 露 後 の コ ロ ニ ー 形 成 数 は,対 照 群 に 比 し大 差 は 認 め ら れ な か っ た が,MTXに お い て 濃 度 依 存 性 に10-5M以 上 で若 干 の 抑 制 が み ら れ た.抗 白血 病 剤 の 種 類 に よ り反 応 性 の 差 が で て お り,DNRで は 機 能 的 に 障 害 を受 け た と考 え られ るが,代 謝 拮 抗 剤 で あ るara-C, MTXで は 造 血 支 持 能 が ほ と ん ど抑 制 を 受 け て お ら ず,機 能 的 に も障 害 を受 け て い な い も の と考 え られ た.し か し,MTXに お い て10-5M以 上 で 若 干 の 抑 制 が み られ た の は,同 じ代 謝 拮 抗 剤 で もara-Cと 違 い,MTXの 場 合 はS期 以 外 の 細 胞 に 作 用 す る他,DNAの み な らずRNA及 び 蛋 白合 成 を 阻 害 す る こ とに 起 因 し た 可 能 性 が 推 定 され た.一 方,松 崎 ら20)10)の報 告 して い る若 年 者 骨 髄 間 質 細 胞 にお い ては,DNR で は 低 濃 度 で抑 制 は な い もの の,10-7Mよ りペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陽 性 細 胞 コ ロニ ー 形 成 が 抑 制 さ れ,10-6M以 上 でペ ル オ キ シ ダー ゼ 陰 性 コ ロ ニ ー の 形 成 も抑 制 され 始 め る傾 向 に あ り, ara-Cで は 高 齢 者 と同 様 に すべ て の 濃 度 で 抑 制 が 認 め ら れ ず,MTXで は10-6Mで 軽 度 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陽 性 細 胞 コ ロニ ー 形 成 が 抑 制 さ れ 始 め,10-4M 以 上 で 著 明 に 抑 制 を受 け る もペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陰 性 コ ロ ニ ー の 形 成 は 抑 制 を 受 け な い と い う も の で あ っ た.MTXの 抑 制 機 序 に 関 して は 蛋 白 合 成 阻 害 に よ る 造 血 因 子 等 の 合 成 障 害 を推 定 し て い る.高 齢 者 骨 髄 間 質 細 胞 と比 較 す る と,若 年 者 で は ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陽 性 細 胞 コ ロニ ー 形 成 能 が 障 害 され や す い 傾 向 に あ っ た が,ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陰 性 コ ロニ ー 中 の 細 胞 もmyeloid系 の マ ー カ ー を持 っ て お りペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 陽 性 細 胞 よ り形 態 的 に 未 分 化 な 細 胞 集 団 で あ り,若 年 者 間 質 細 胞 に お い て は 造 血 細 胞 の 分 化 に 関 与 す る 支 持 能 が 障 害 さ れ や す い とい う こ とか も知 れ な い.い ず れ に し て も若 年 者 と若 干 の 違 い は あ る が,高 齢 者 に お い て 当 初 予 想 され た 加 齢 に よ る 影 響 か ら,骨 髄 間 質 細 胞 が 抗 腫 瘍 剤 に,よ り不 耐 性 で あ る可 能 性 は 否 定 的 と な っ た.し た が っ て,当 初 の 疑 問 点 で あ っ た 抗 白血 病 剤 に よ る骨 髄 抑 制 が 高 齢 者 で 強 く現 れ る 原 因 が 造 血 幹 細 胞 障 害 に よ る もの か 骨 髄 間 質 細 胞 に よ る も の
608 出 口 静 吾
なの か とい う点 につ い ては,造 血幹 細胞 側 の加
齢 に よ る影響 に起 因す る もの であ ろ う と推定 さ
れ る.
以上,高 齢 者 骨髄 間質 細 胞 に及 ぼす抗 白血病
剤 の 影響 を若年 者 との 比較 で検 討 したが,特 に
差 は認 め られ なか っ た.し か し,抗 癌性 抗 生物
質 に よ る通 常 治療 域濃 度 での 骨髄 間質 細 胞障害
が認 め られ た こ とは,既 に造 血幹 細胞 の減 少 し
て い る高齢 者 に おい て骨 髄抑 制が遷 延 す る原 因
とな る と考 え られ た.一 方,代 謝 拮抗 剤 では骨
髄 間質 細 胞 に対す る抑 制 が比 較的 軽 く,こ れ ら
の こ とは,高齢 者 に お いては薬 剤 量の み でな く,
薬 剤 の選 択 につ い て も考 慮す る必 要性 が 示 され
た.こ れ らの検討 は,今 後 の高齢 者 にお け る化
学 療法 につ い ての有 力 な情報 を提 供 す る もの と
考 え られた.
結
論
抗 白血病 剤 に よ るヒ ト骨 髄 間質細 胞 の増殖 動
態及 び その 造血 支持 能 に及 ぼす加 齢 の影 響 を検
討 した結 果,
1. 増 殖 動 態 に お い て,DNR暴 露 後 で は 濃 度 依 存 性 に 抑 制 さ れ た が, ara-C及 びMTX暴 露 後 で は 全 く抑 制 を受 け なか っ た. 2. 造 血 支 持 能 に お い て,DNR暴 露 後 で は 濃 度 依 存 性 に 抑 制 さ れ,MTX暴 露 後 で は 高 濃 度 で 若 干 の 抑 制 を受 け た が, ara-C暴 露 後 で は全 く抑 制 を受 け な か っ た. 以 上 の 結 果 は,若 年 者 に お け る検 討 と差 は な く,若 年 者 に 比 し高 齢 者 で 化 学 療 法 に 骨 髄 抑 制 が 顕 著 とな る 原 因 が,主 に 造 血 幹 細 胞 に あ る と 考 え られ た.し か し,DNRで は10-6Mと い う 通 常 治 療 域 濃 度 で 骨 髄 間 質 細 胞 が 機 能 障 害 を受 け る こ とか ら,骨 髄 間 質 細 胞 障 害 が 骨 髄 抑 制 の 遷 延 す る 原 因 と な る可 能 性 が 示 さ れ た.以 上 の 検 討 は 高 齢 者 に お け る化 学 療 法 論 を考 え る 上 で 重 要 な 情 報 を 提 供 す る と考 え られ た. 稿 を終 える に あ た り御 指 導 な らび に御 校 閲 を賜 っ た恩 師 木 村 郁郎 教 授 に 深甚 な る謝 意 を表 す る と とも に,終 始 懇 切 な る御 指 導 を頂 い た大 本 英 次郎 助 手 に 感謝 す る.文
献
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