第 660 回健康教育講座
「整形外科的腰痛疾患∼高齢者を中心に∼」
開催日 平成19年4月4日(水) 講 師 公立陶生病院 整形外科部長 櫻 井 公 也 腰痛を来す疾患につき特に高齢者を中心に概説したいと思います。 腰痛の分類として 1977 年 Ian Macnab の分類が一般的に用いられております。 ①内臓由来、②血管由来、③神経性由来、④心因性、⑤脊椎性 となります。 腰痛の病態別分類として、 Ⅰ.器質的要因による腰痛、Ⅱ.非器質的要因による腰痛 に分かれます。 その中で器質的要因による腰痛のうち (1)脊柱とその周辺組織に由来する腰痛が主に整形外科的腰痛疾患に含まれます。 (2)脊椎以外の臓器に由来する腰痛として泌尿器科による尿管結石、婦人科による子宮筋腫・ 卵巣腫瘍、血管起因の解離性大動脈瘤、消化器の膵疾患・胆道疾患・十二指腸潰瘍等があ ります。なかでも急性大動脈解離・瘤破裂は最も緊急を要し注意する必要があります。 腰痛の有病率には性差があり 50 代より女性が多くなります。診療上の問題として、高齢者、 骨粗鬆症、高い罹患率、プライマリケアでは診断の困難等があります。疾患別頻度では、外来は 変形性脊椎症、筋筋膜性腰痛症、椎間板ヘルニア等が主です。 当院での 2006 年の入院患者(937 例)のうち、中高齢者は 383 例(40.9%)であり、そのうち 腰痛疾患は 122 例(31.9%)でした。その内訳は脊椎骨折 46%、脊柱管狭窄症 28%、椎間板ヘル ニア 8%、その他 18%となります。治療は EBM データ中心から患者さん中心の NBM(narrative based medicine)といわれる概念が 広まりつつあります。患者さんとのコミュニケーションは art であり第 3 者の知恵を science とす る、患者さんとの対話を重視した治療体系です。 高齢者腰痛疾患のうち代表疾患を示します。 (1)骨粗鬆症は低骨量と骨の微細構造の劣化が特徴的で、その結果骨の脆弱性が増加し、骨折 を起こしやすい全身性の骨疾患です。骨量は 50 歳前後より経年的に漸減します。そのた め骨折率が増加していきます。骨粗鬆症診断指針は、脆弱性骨折がなければ BMD(骨密 度)が YAM(若年成人平均値)の 70%未満、脆弱性骨折があれば 80%以下となっており ます。予防・治療には理学療法、食事療法、薬物療法があります。一般的な腰痛体操を示 します。 (2)脊椎骨折は、当院にて 1991 年から 2006 年の間に入院治療を要した高齢者胸椎腰椎仙椎椎 体損傷は 552 例、65∼97 歳で平均 78.1 歳、受傷レベルは第 6 胸椎から仙椎まであり第 12 胸椎・第 1 腰椎・第 2 腰椎の胸腰椎レベルが 71.2%を占めております。治療は安静臥床、
体幹ギプス、コルセット、リハビリテーションです。脊髄麻痺を合併したり不安定性の著 明な 11 例(2.0%)で手術的治療が行われました。 (3)腰部脊柱管狭窄症は、1954 年 Verbiest が脊柱管前後径の狭小化を認め、脊髄造影にて停 止像を呈した患者が、起立・歩行にて症状が増悪し、安静にて緩解する症状を有する馬尾 症候群の報告を嚆矢とし、1976 年の国際分類が一般的に用いられています。変性に伴う 症例が殆どです。臨床症状は歩行にて症状が増悪し腰椎を屈曲(前かがみ)することによ り緩解する間欠性跛行、自転車はいくらでも乗れる(自転車テスト)、下肢のしびれが上 向したり下行したりする(sensory march)等が特徴です。鑑別には閉塞性動脈硬化症が重 要です。治療には薬物療法、コルセット、リハビリテーション、ブロック療法があります が症状によっては手術的治療の適応になります。当院での 1991 年から 2006 年まで高齢者 腰部脊柱管狭窄症にて入院治療した患者さんは計 220 例、65∼92 歳で平均 73.4 歳、保存 的治療が 177 例(80.5%)、手術的治療が 43 例(19.5%)でした。手術的治療を行った患 者さんは 65∼88 歳で平均 72.6 歳であり、近年は椎弓形成術を施行しております。 高齢者腰痛疾患のうち代表疾患を述べましたが、今後も高齢者が増加するとともに腰痛で悩ま れる患者さんも増加すると思われます。他の合併症を持っておられる患者さんが殆どであり、よ り良い QOL(生活の質)の向上を目指し、その人個人に即した医療に取り組んでいきたいと思い ます。 愛知県医師会 〒460-0008 名古屋市中区栄 4-14-28 TEL 052-241-4143