93
未就学児を持つ家庭に対する
地域における子育て支援のあり方について
94
目次
はじめに 1.子育てを取り巻く環境・社会 1.1 子育てを取り巻く環境の推移 1.2 育児負担感の増加 1.2.1 育児不安とは 1.2.2 三歳児神話 1.2.3 母親の孤独の危険性 1.3 現代の子育て家族が抱える問題とニーズ 2.行政による子育て支援の取組 2.1 これまでの子育て支援政策 2.2 子ども・子育て支援新制度の効果と課題 3.地域における子育て支援の実情 3.1 「地域」で子育てを行う意義 3.2 地域子育て支援の変遷 3.2.1 地域子育て支援が政策に至るまで 3.2.2 地域子育て支援拠点事業 3.2.3 利用者支援事業 3.3 フィンランドの事例から 4. 地域子育て支援のあり方について 4.1 利用者目線の望ましい支援のあり方について 4.2 地域で支えるために私たちができること おわりに 参考・引用文献95
はじめに
私は大学生活において、保育園でのアルバイトや子どもと遊ぶボランティアサークルを 通して、未就学児やその保護者と関わる機会が多かった。その中で、保護者は子育てに楽し さを感じている反面、やはり負担や不安を感じる部分も多いということを痛感し、私自身が 将来子育てをすることに不安を覚えることもあった。これらの経験から、「子育て支援」と いう分野に興味を抱き、そのような講義を大学で多数受けてきた。家族構成や居住地域、仕 事との両立など各家庭が抱える悩みや問題も多様である中、少しでも子育ての負担を軽減 させ、やりがいや楽しさを向上できるようにするためにはどうしたらよいのかより深く考 えたいと思い、子育て支援を研究のテーマとすることにした。そして、すべての家庭への支 援を手厚くしていくためには、「地域」という身近な資源を活用していく必要があるのでは ないかという考えにたどり着いたため、本論文では「地域子育て支援」について取り上げた いと思う。 また、未就学児に対する虐待件数が全体の 43.5%1を占めるという事実を踏まえ、子育て を家庭で抱え込みがちになり、子育てへの不安が高まりやすくなってしまうであろう、「未 就学児」という世代を持つ家庭に対する子育て支援についての研究に絞ることにした。 まず 1 章では、現代の子育てを取り巻く社会的環境や、母親の心理的側面に注目すること によって、現代の子育て家族が抱える問題について明らかにする。2 章では、子育て支援が 政策として行われるようになった歴史を振り返り、「地域子育て支援」の必要性が唱えられ るようになった経緯を確認する。3 章では、地域子育て支援の意義を明確にするとともに、 現状の問題点を把握し、また解決への糸口を得るために海外の事例も紹介する。4 章では、 地域子育て支援がより拡充していくための政策のあり方や、地域で生活する私たちにでき ることについての見解を述べていきたい。1.子育てを取り巻く環境・社会
1.1 子育てを取り巻く環境の推移
現在、日本は深刻な少子高齢化に陥っており、それはとどまるところを知らない。2016 年の出生数は 98 万人となっており、増減はあるものの減少傾向にあると言える。また、 合計特殊出生率(15 歳から 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女 1 厚生労働省『平成 26 年度 児童虐待の現状』https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000108127_1.pdf (2018.12.14)96 性が一生の間に生む子どもの数に相当する値のこと)は 2016 年には 1.442であり、「第一 次ベビーブーム」のさなかであった 1947 年には 4.54 という数値であったことを考える と、この減少率は恐ろしいものである。少子化によって出産年齢の女性が減っていること に加え、一人の女性が一生の間に生む子どもの数も減っているため、負のスパイラルに陥 っており少子化は深刻化する一方であるのだ。 これまでの少子化の経緯を見てみると、まず 1947~1949 年にかけて「第一次ベビーブ ーム」が起こり、1949 年には約 269 万人もの赤ちゃんが生まれた。戦後最高の出生率とな ったが、その後出生率は急速に減少し始める。生産年齢の増加による失業問題や人口抑制 の必要性が叫ばれたことが影響したと考えられる。このころすでに少子化の兆候は始まっ ていたと言えよう。しかし、1960 年代の高度経済成長期には、若い労働力の不足が問題視 され、さらに団塊世代の出産ラッシュも始まったため、1971~74 年には「第二次ベビーブ ームが」起こったのである。残念ながらこの時のような高い出生率が続くことはなく、そ の後は低下の一途をたどった。そしてついに 1990 年には出生率 1.57 にまで減少してしま ったのだ。「ひのえうま」の年の出生率 1.58 を下回ってしまったこの 1990 年の現象は 「1.57 ショック」と叫ばれ、少子化への注目が高まるきっかけとなった。しかしながら、 その後も今に至るまで出生率は減少傾向であり、「第三次ベビーブーム」が訪れる気配も ない。 では、これほどまでに少子化が進行してしまったのはどうしてだろうか。1997 年に厚生 労働省の人口問題審議会は少子化の要因について、「未婚率上昇・晩婚化の進行」と「平 均出生児数と平均理想子ども数の開き」を挙げた上で、その背景について以下の 4 つに分 類した。①育児の負担感・仕事との両立の負担感、②個人の結婚観・価値観の変化、③親 から自立して結婚生活を営むことへのためらい、④経済的負担などにより理想の子どもの 数を持たないこと、である3。 ①や③といった少子化の背景は、特に晩婚化を進行させてしまっている。晩婚化につい て見てみると人口動態調査2によれば、昭和 47 年頃までは妻の婚姻年齢が 20 歳代前半の 割合が非常に高かったのに対し、近年は 30 代前半の割合が増加しているのが現状であ る。さらに、晩婚化に伴って増加すると考えられる高齢出産に注目してみると、第一子出 産平均年齢は、母親においては 1975 年に 25.7 歳であったのに対し 2016 年には 30.7 歳、 父親においては 1975 年に 28.3 歳であったが 2016 年には 32.8 歳と、父・母共に上昇傾向 である。年齢と共に妊娠するための体の状態が変化していくことを考えると、その後生む 子どもの人数や、出産後の精神的・体力的負担にも影響が出てしまうことが懸念される。 さらに、職場と自宅が離れている「職住分離」が一般的となっている現代においては、 通勤時間が長くなり、自由な時間がより少なくなってしまうのも現状である。また、実家 と離れている場合も多く、祖父母からの支援が容易に受けられないということや、近隣関 係の希薄化によりに身近に頼ることのできる人がいないといった現代的な負担も、出産を 2 厚生労働省『平成 30 年 我が国の人口動態』https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf (2018.11.5) 3 厚生労働省『少子化に関する基本的な考え方について-人口減少社会、未来への責任と 選択』https://www.mhlw.go.jp/www1/shingi/s1027-1.html (2018.11.5)
97 妨げる不安要素となっていると考えられる。 また、②の結婚観・価値観の変化について、女性の高学歴化や社会進出に伴い、結婚・ 出産を先延ばしにしたり、出産後の負担を考え出産人数を少なくしたりするなど個人の価 値観が多様になっていることが考えられる。近年では「女性の自立」も叫ばれ、女性の就 業が増加することで、育児に対して「負担・束縛・疎外感」といったような印象のみを与 えるようになっていることも、出産・育児への不安につながっていると考えられる。さら に、これまでの社会観念や社会政策の中では、「男性が外で働き、女性が家のことをす る」という「性別役割分業」が確立されてきたが、それが崩れ始めた今、新しい価値観に 対応しきれていない現状があると考える。例えば、女性が社会進出している一方、男性は 「家事進出」できていると言えるだろうか。男性の育休取得率は平成 27 年度においては 2.65%である4。女性が 81.5%であることと比較すると、結局母親が育児をせざるを得な い状況が想像される。また、長時間労働などの劣悪な労働問題により、育児に関与するゆ とりを確保できない父親も多いはずだ。性別役割分業が人々の心理に植え付けられてきた 従来とは違い、現代においては個人の多様な生き方が尊重されるべきであるが、そのよう な環境において、子育てにかかる負担をいかに軽減し、いかに生みやすい・生みたくなる 社会にするかが大切であろう。 そして、④については、高学歴化により一人の子育てにかかる費用が大幅に増加してき たことや、非正規雇用の増加により十分な収入が得られないことといった様々な経済社会 の動きが大きく関連していると言える。また、収入を得るために働くには保育園などの施 設を利用せざるを得なくなり、子どもを持つことで経済的負担は増えてしまう。 このように戦後から現代にかけて、子育てを取り巻く環境は大きく変化してきた。その 背景には、経済社会との関連や労働問題・女性の社会進出、価値観の変化など、様々な要 因が複雑に絡み合っていることが考えられる。そのため、少子化の兆候が表れた戦後から 半世紀以上が経過した今においても、その傾向は改善しようとはせず、むしろ悪化してい る。このように育児がしにくくなっている環境の中、母親の精神的負担も大きくなってい ることが叫ばれてきている。この負担を軽減するにはどうすればよいか考えるために、現 代における「育児負担感」について深堀していきたい。
1.2 育児負担感の増加
1.2.1 育児不安とは これまでに見てきたように育児がしづらい環境の中で、精神的負担を軽減させるための 糸口を見つけるために、育児不安などの「母親の心理的側面」について注目してみたい。 住田(2014:137)によれば、育児不安とは、「育児ないし育児行為から喚起される漠然 とした恐れの感情」であるとし、「育児についての不快感情」、「子どもの成長・発達につ いての不安」、「母親自身の育児能力に対する不安」、「育児負担感・育児束縛感から生じる 不安」の4 つに分類している。 4厚生労働省『平成27 年度雇用均等基本調査』 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-27-07.pdf (2018.11.5)98 核家族化の進行により、身近に子育て家族もおらず、子どもとの関わり方や子育てのノ ウハウを全く知ることのないまま「母親」にならざるを得なくなってしまう人々も少なく ない。そのような母親にとって、言葉を発することのできない乳幼児と常に向き合い続け なければならないという、「育児そのもの」への負担感・不快感は大きいに違いない。ま た、人口や仕事の都市への一極集中などにより、自分の両親と離れて暮らしており、両親 の力を借りることができない母親も多いはずだ。三世代世帯が多かった昔と比べると、子 育てに関する日常的な小さな悩みを相談することができる人がいないことは、「子どもの 成長」への不安を募らせる。また、育児をする中で身近に手助けを求めることができず育 児に負担感を抱くことで、自分の”母親力“が足りないのではないか、という「育児能力」 への不安も招くことになってしまう。しかし、たとえそのような不安や疲れを感じてしま っても、子どもからは常に目を離すことができない。それにより、無力感や重圧感、束縛 感に陥り、育児不安はさらに深くなっていってしまうのだ。このように、一口に「育児不 安」と言ってもその内容は人それぞれであり、ある親にとっては負担だと感じないような ことであっても、別の人にとっては大きな負担に感じてしまうこともあるのだ。そのため 支援のアプローチも多様である必要があると考えられる。 また、平成21 年度の厚生労働省の全国家庭児童調査5によると、子育てについての不安 や悩みに関する質問において、「しつけや子育てに自信がない」と回答する親が21.4%で あり、未就学児を持つ親に関しては27.0%にものぼる。平成元年度においては、項目が変 わっているため正確な比較ができないものの、12.4%であったことから、しつけや子育て に自信のない親が増えていると考えられる。また、子育てについての不安や悩みの種類別 の相談相手の構成割合について見てみると、「自分で解決する」が27.0%、「相談相手がい ない」が9.1%、「家族に相談する」が 55.4%、「専門家や公的機関に相談する」が 7.0%、 「保育園や幼稚園などに相談する」が14.4%となっている。このように、相談相手がいな い場合や、自分で解決しようとする人も多く、不安や悩みに関して間違った判断をしてし まう可能性や、一人で抱え込んでしまう可能性が懸念される。また、保育園や幼稚園とい った施設を利用している家庭は、日々の施設の利用の中で、専門的な知識を有する人に対 してや、同じように施設を利用する親に対して、気軽に相談できる機会が多いかもしれな いが、そのような施設を利用していない親、つまり保育を必要とせず家庭のみで育児を行 う親にとっては、そのような機会は自ら探し求める必要がある。育児の忙しさの中で、自 分が必要な支援は何か、またそれをどのように受けられるのか調べることにはなかなかた どり着けないかもしれない。また、公的機関の利用状況をみると、「利用したことはな い」という世帯は49.8%とおよそ半数に及ぶ。子育てに関する事業などの利用状況におい ては、「つどいの広場や子育て支援センター」が地域にあると答えた人が54.0%であり、 その中で利用したことがあると答えた人はたったの25.3%である。施設の立地には地域差 が大きく、およそ半数の家庭の近くにこのような施設があるとは一概には言い切れないと 考えられる。さらに、地域にこのような施設があると答えている場合であっても、利用率 が低いことは、見過ごしてはならないだろう。 5 厚生労働省『平成 21 年度 全国家庭児童調査』https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/72-16.html (2018.11.12)
99 1.2.2 三歳児神話 ここまで、母親の育児不安について見てきたが、それではなぜ母親だけがこれほどの不 安感情を一人で抱え込まざるを得ないのだろうか。そこには、「三歳児神話」が今なお 人々の考えの中に染み付いているということも原因の一つとして考えられる。 三歳児までは母親が子育てに専念すべきであり、それは子どもの成長に大きく影響する とされる、いわゆる「三歳児神話」は長らく母親たちを苦しめてきた。母親が母乳を与え ることで、母と子にかけがえのない”絆“が生まれ、子どもの成長に不可欠であるとされた のである。また、三歳までに形成された性質は、一生変わりにくく取り返しのつかないも のであるとされ、その育児の責任は母親に押し付けられてきた。1984 年に高橋により書か れた著書には、当時主流であったこれらの風潮を危惧し、以下のようなことが記されてい る。「“母原病”などという言葉をはやらせ、さまざまな子供の問題行動を母親だけが原因で あるかのような印象を与えるのも、許されないことである」。非行などの子どもの問題 は、すべて母親の育て方の悪さが原因であると取りざたされていたことがうかがえる。 しかし、今日の医学や心理学の発達により、このような「幼児期決定説」は誤りである ことが明らかになってきている(高橋1984)。三歳児以降の成長の中で、子どもは様々な ことを学び、変化していくのである。これらの研究成果もあり、近年では三歳児神話は誤 りであることが強調され、母親たちに育児を一人で抱え込まず、周りの支援を頼ることを 進める動きもみられてきた。しかしながら、残念なことに、三歳児神話が誤りであること を知る機会のなく、育児に過度な責任を感じてしまう母親もいまだに多くいることが想定 される。また、“母原病”などといった誤った言葉が流行した 1980 年代に子育てをしてい た世代が、現在では祖父母世代となっている。三歳児神話を信じ、育児について誤解をし たままである祖父母らの目を気にしてしまい、公的な支援に頼ることを避け、一人で抱え 込んでしまう母親も多いに違いない。さらに、出産後も働き続ける母親の中にも、祖父母 やまわりの社員らによる「子どもがかわいそうだ」といった声に悩む人もいるだろう。母 親としての責任を過度に感じ、適度なリフレッシュを取れずに、不安定な感情で子育てを していては、子どもにも影響しかねない。子育て世代に対してはもちろん、すべての人々 に対して、三歳児神話が誤りであることを理解してもらうことが、効果的に子育て支援を 実践する上で必要であると考える。 また、三歳児神話には及ばないものの、「母親はこうあるべきである」という母親像の 押し付けが、子育て支援の支援者によって行われてしまう危険もある。子どもの保護者と して自覚を感じてもらえるように支援者として促すことは大切であるものの、母親に過度 に責任を押し付けるような抑圧的で一方的な支援では母親の不安をあおり、母親が支援を 通して新たな悩みを持つことにつながってしまうだろう。特に、子育ては“経験”が大きな 差を生むことも多いため、経験豊富な支援者が、上から目線の助言を行うことは母親が不 快感を抱きかねない。母親が自信をもてるように、母親に寄り添う支援が求められている のである。
100 1.2.3 母親の孤独の危険性 母親が育児不安や子育てへの責任を感じてしまうことに加え、母親がそれらを一人で抱 え込んでしまうのはさらに深刻である。先ほど述べたように育児の不安のタイプは人それ ぞれであるが、それらの感情を抱え込み続けると、「育児ノイローゼ」を引き起こし母親 の心をむしばんでいくだけではなく、育児放棄や虐待といった深刻な事態を引き起こし、 子どもの安全や健全な成長にまで影響を及ぼしてしまう危険性もはらんでいるからだ。近 年ではメンタルヘルスケアが必要とされる妊産婦はおよそ4 万人いるとされている6。より 深刻な事態につながる前に、母親が抱える不安に気づかなければならないのだ。 また、子育ての負担感について、働いている女性と専業主婦家庭の女性とで比較した調 査によると、「育児に自信がなくなる」と答えたのが、働く女性が50.0%、専業主婦が 70.0%と、専業主婦家庭の方がより不安を感じていることがわかった7。この調査結果は驚 くべきものであり、「子育てと仕事の両立」への負担だけでなく、「子育てそのもの」への 負担が母親たちを苦しめてきたことが明らかになったと言える。共働き世帯では子どもを 保育園に預けるため一日中子育てに束縛されることもなく、また、仕事の中で社会とのつ ながりを持ち続けることもでき、仕事と子育てを両立する中で心のバランスを保つことが できるということも考えられる。また、育児の相談を保育士という専門的な立場の人に日 常的に行うことができるほか、子どものしつけを自分だけで抱え込まず保育士と共に解決 していくことができるという面で、子どもの成長に関する不安は和らぐ可能性もある。一 方で専業主婦が抱える孤独は危険である。「働かずに、子育てだけやっているのだから頑 張らなくては」というプレッシャーから、誰にも相談できずに抱え込んでしまう人も多い はずだ。働く女性が増えているものの、三歳未満の子どもで保育所に入所している割合は たったの約2割である8。つまり、三歳未満の子どもを持つ家庭の約8割が専業主婦家庭で あると言われ、育児不安に悩む専業主婦家庭はいまだ多く存在するという現状を見過ごし てはならないのである。 また、虐待との関連を見てみると、虐待による死亡事例のうち、0 歳児の割合が約4割 と乳児の割合が非常に高く、また実母の育児不安またはうつ状態が約4割に該当した。さ らに約7割が地域社会との接触が乏しいという結果も出ており9、乳幼児をもつ母親の育児 不安が虐待につながる危険性や、密室育児によって、育児の支援者や外部とのつながりを 持てずに子どもへの虐待を招いてしまうケースが多いという実態が浮き彫りとなってき た。 たとえ普段保育園を利用している場合であっても、仕事が休みの日には家庭保育を促す 6 日本生活習慣病予防協会『メンタルヘルスケアが必要な妊産婦は 4 万人』 http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2016/009116.php(2018.11.12) 7 内閣府 『平成 9 年度国民生活選好度調査』 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10361265/www5.cao.go.jp/seikatsu/senkoudo/98/1 9980219c-senkoudo.html (2018.12.6) 8 全国保育士養成協議会『就学前教育・保育の実施状況』 www.hoyokyo.or.jp/nursing_hyk/reference/27-2s7-10.pdf (2018.12.6) 9 厚生労働省『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について 第三次報告』 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/06/h0622-5.html (2018.12.6)
101 保育園が多く、子どもから離れることはできない。自分の子どもを愛していても、育児に よるこのような息苦しさ・閉塞感が虐待につながってしまう可能性も大いにあるのだ。身 近に親族や地縁が得られにくくなってきた中で、現代は母親の孤独がピークに達した危険 な時代と言えるだろう。
1.3 現代の子育て家族が抱える問題とニーズ
1 章を通して、現代の子育て家族が、戦後間もないころに比べると、育児の中で大変大 きな負担を抱えていることが推測された。ここでは、これまでに見えてきた現代の子育て 家族が抱える問題についてまとめたい。 子育てにかかる費用は増加しているにも関わらず、非正規雇用による不安定な収入に悩 まされる家族も多い。また、戦後の福祉政策は「性別役割分業」を前提としたものであっ たため、女性の社会進出が急速に進む一方で、現代の女性は、仕事も育児も両方を強いら れるようになってしまっている。それに伴い、晩婚化が進み出産年齢も高くなる中で、精 神的・肉体的負担はさらに大きなものとなってしまっている。にもかかわらず、「職住分 離」の傾向や、実家から離れて都市部で働く人が多い中で、身近に頼ることのできる人は 得られにくくなってしまった。また、長時間労働や、父親への育児休暇取得がなかなか進 まないといった労働環境も問題である。このように、ジェンダーや労働、経済、地域の疎 遠化など様々なジャンルの問題が複雑に絡み合いながら、子育てを行いにくい環境を生み 出してしまってきたということが言える。 これらの社会的環境の推移に加え、いまだに残る「三歳児神話」への誤解や母親への過 度な責任転嫁は、母親の育児負担感を助長させてきた。このような周囲による母親への目 線は、母親が育児からリフレッシュすることや、外部の支援を利用することに後ろめたさ を感じてしまう要因ともなってしまっている。これにより、育児不安を一人で抱え込んで しまうことは、楽しく子育てをすることができなくなるほか、育児放棄や虐待など、子ど もの健全な成長に悪影響を及ぼすような深刻な事態にもつながりかねないのだ。 これらの問題を踏まえ、子育ての悩みをいつでも安心して相談できるような身近な支援 が必要であると考えられる。また、母親の育児負担感が軽減され、楽しく育児ができるよ うな環境が必要であろう。 このような子育て家族の状況を危惧し、行政の中で近年、「子育て支援政策」の実現が 頻繁にマニュフェストに掲げられ、政策としてとり行われてきた。2 章ではその歴史を振 り返り、現状について注目していきたい。2. 行政による子育て支援の取組
2.1 これまでの子育て支援政策
日本において子育て支援に注目が集まるまでには長い年月がかかってしまった。「夫は102 仕事、妻は家庭」という性別役割分業を基盤とした福祉政策が進められてきたからであ る。乳幼児保育については、ニーズがあるにも関わらず、母親の規範意識や三歳児神話を 大義名分として、未整備な状態にあった(中谷2008:35)。支援の欠如により、1980 年 代には民間の劣悪な保育により多くの保育事故が起こった“ベビーホテル問題”が社会問題 として発展していく。これにより、ようやく保育対策が政府によって進められ始めるが、 これらの対象は、保育に欠ける“特別な”乳幼児のみであった。これによって働く女性は 「仕事も家庭」も両方とも行っていくことを強いられたのである。 その後、政府による子育て支援への対策の動きが本格化したのは、1990 年の「1.57 シ ョック」がきっかけである。出生数は戦後直後の半分以下にまで落ち込んでおり、また当 時の史上最低の出生率を記録したことで、今まで放置してきた少子化問題を見過ごすわけ にはいかなくなったのである。止まらない少子化の流れの中で、社会保障費用に係る現役 世代の負担の増大や、若い労働力の減少などによる社会の活力の低下に対して危機感を覚 えた政府は、1994 年に「エンゼルプラン」を開始した。これは今後 10 年間に取り組むべ き基本的方向と重点的な施策を取りまとめたものである。このプランでは、少子化の背景 として、女性の社会進出による晩婚化や、子どもを生まない方が経済的・精神的に自由で あるといった価値観が挙げられ、「仕事と子育ての両立支援」をベースとした子どもを生 み育てやすい環境づくりがうたわれた。重点施策としては、育児休暇や労働時間の短縮、 多様な保育サービスの充実母子保健医療体制の充実などが盛り込まれた。 1999 年には少子化対策推進関係閣僚会議において「少子化対策推進基本方針」が決定さ れ、2004 年までの 5 か年計画として「新エンゼルプラン」が策定される。2001 年にはい わゆる「待機児童ゼロ作戦」が閣議決定され待機児童対策が本格化し始める。また、2002 年には厚生労働省によって「少子化対策プラスワン」をまとめ、固定的な性別役割分業の 是正を目指し、企業風土などの見直しが求められたほか、保育サービスや地域子育て支援 のセンターの量的拡充も図られたのである。 その後、2003 年の次世代育成支援対策推進法、少子化社会対策基本法の制定を経て、ワ ークライフバランスへの注目が集まり、仕事と子育ての両立の実現に向けての支援が重点 化されていく。そして2010 年には「子ども・子育てビジョン」が閣議決定され「“みんな の”少子化対策」として、社会全体で子育てを支えていくことが明言された。潜在的な保育 ニーズへの対応や、一人親家庭・障害のある子どもなどへの支援の強化が盛り込まれ、支 援の対象が徐々に広がりを見せるようになる。 そして、現在取り行われているのは、2015 年度に創設された、「子ども・子育て支援新制 度」である。これは、子ども・子育て支援分野に充当する財源を増やし、子育てに関する さまざまな社会資源をできる限り一元化された仕組みにまとめ、保育・子育て支援サービ スを中心に給付を行う仕組みを創設するものである(柏女2017:30) 大きな違いは3 つある。1つは、認定こども園・幼稚園・保育所を通じた共通の給付 (施設型給付)と小規模保育への給付(地域型保育給付)の創設により、都市部における 待機児童解消することや、子どもの少ない地域においても保育機能が確保できるようにし たことである。2 つ目は、「市町村」が実施主体となり、地域のニーズに基づき計画を策定 し、給付・事業を行うようになったことである。3 つ目は、「地域子育て支援事業」とし て、13 事業が法的に位置づけられたことである。
103 これまで見てきたように、日本において子育て支援政策が本格的に行われるようになっ てから比較的日は浅い。しかしながら1990 年の 1.57 ショックを境に、短い期間で随時、 目標や施策を見直しながら、支援の充実さを増してきているといえる。大まかな流れをま とめてみると、深刻な少子化への危惧を発端として始まった日本の子育て支援政策は、エ ンゼルプランが始まったころの“子育て支援政策の初期”の段階においては、少子化の原因 として、「女性の社会進出による、晩婚化や仕事との両立の困難」を第一に捉え、仕事と 子育ての両立ができるようにするための対策が重要視されてきた。そして2000 年前後に は性別役割分業などのこれまでの固定的な観念への見直しが行われたり、ワークライフバ ランスへの注目が集ったりするなど、ジェンダーの問題や労働の問題など、他の領域を巻 き込みながら対策を行うことが図られていく。それは、子育てを従来のように“母親だけ” に押し付けるのではなく、“みんなで”行うべきであるという発想につながっていった。ま た、およそ四半世紀にわたり、政策が行われてきたにもかかわらず、いまだに少子化の波 が収まらない現状がある中で、共働きの子育て家族への支援はもちろん、専業主婦の家庭 など、“保育を必要としない”すべての子育て家族への支援を手厚くしていくことの必要性 が求められるようになってきたのである。これはつまり「子育てそのもの」への支援の必 要性が明らかとなったことがいえる。そして、このような支援への糸口として「地域での 支援」に注目が集まり、新エンゼルプランにおいては、「地域における子育て支援」が施 策の1つとして組み込まれた。さらに2015 年の子ども・子育て支援新制度においては、 「地域の実用に応じた子ども・子育て支援」が大きなポイントとして掲げられているので ある。このように、現在においては、「仕事と子育ての両立への支援」と「子育て自体へ の支援」というものが並列して行われるようになってきたのだ。
2.2 子ども・子育て支援新制度の効果と課題
ここでは現在行われている子ども・子育て支援新制度について深堀りしていきたい。 内閣府は平成30 年度の予算として、子ども・子育て支援新制度に 2 兆 5,885 億円を充 てている。そのうち、子どものための教育・保育給付に9,031 億円、地域子ども・子育て 支援事業に1,356 億円を割り当ている。10すべての子ども・子育て家庭を対象に、市町村 主体で、幼児期の学校教育、保育、地域の支援の量と質の向上を図ることを目的に、大き な予算がかけられ、前年度よりも1000 億円ほど増額されている。消費税の引き上げによ る税収の確保もあり、予算の面からは政府が本格的に子育て支援に乗り出そうとしている ことがうかがえる。 また、市町村が事業の主体であり、市町村の子ども・子育て支援事業計画を5 か年計画 で作成させることも意義のあることであると考える。「量の見込み」(現在の利用状況と地 用希望の合計)と「確保方策」(確保の内容と実施時期)を明記させ、実際の確保状況と 量の見込みとの差がある場合には、事業整備を促すものである。市町村という、より小さ 10 内閣府 HP『子ども・子育て支援新制度』 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/(2018.11.15)104 な単位による細かな計画の作成により、増加の大きさに幅はあるものの、全国で子育て支 援の量的拡充は進みつつある。 しかし、この制度において「保育政策」に、より一層注目が集まっていることに私は問 題を感じる。待機児童問題が強く叫ばれる中で、保育の量的拡充は大幅に進んでいる。そ れに対して質的なカバーを「地域」で行っていく必要があるのだ。それにもかかわらず、 本制度において「地域子ども・子育て支援」が重要な柱として掲げられていることを知ら ない人は多いのではないだろうか。メディアに取り上げられるのも待機児童問題ばかりで ある。地域子育て支援の必要性についても理解していない人も多いだろう。そのような状 況では、「地域子育て支援を利用することは特別な問題のある家庭のみである」という誤 った認識が染み付いたままであり、支援の利用を控える人がいる現状はなかなか変わらな い。子育て支援政策の長い歴史の中でようやく、地域子育て支援が本格的に政策として始 動したのだから、地域子育て支援への知識・理解の拡充を全世代が行うべきである。メデ ィアに加え、役所や病院・職場など様々な場所でこれらに触れる機会が必要だと考える。
3. 地域における子育て支援の実情
3.1 「地域」で子育てを行う意義
このように近年日本では「地域子育て支援」が大きな柱として政策に掲げられるように なってきている。今後地域における子育て支援がよりよいものになっていくためにはどう すればよいか考えるために、現代において「地域」で子育てを行う意義についてここでま とめたい。 1 章で見てきたように、子育てを取り巻く環境は戦後から現代にかけて大きく変化して きた。非正規雇用や長時間労働といった労働問題、核家族化・三世代世帯の減少や晩婚化 などの家族形態の変化、性別役割分業や女性の社会進出といったジェンダーの問題など、 様々な分野の問題が複雑に絡み合い、子育ての負担感を増加させる要因となっている。ま た、子育ての担い手が家庭や地域などの身近な環境の中で減少し、子育てを母親一人に押 し付けるという構図が確立してしまったのである。もはや子育ての問題を家庭内で解決さ せることには限界が来ていると考えられる。 このような「子育てを母親のみが行う」という構図から脱出するために「地域」という 資源を利用する必要があるのだ。これまで見過ごされてきた「子育てそのもの」への支援 を地域で担うのである。それは、「保育に欠ける」子どもだけではなく、家庭で生活する 親子を含む「すべての親子」を対象とする支援である。「地域」での支援を手厚くするこ とはそれを実現しやすくするだろうと私は考える。その理由として以下の3 つを挙げた い。 一つ目は、「地域」という親子の最も身近な生活圏内に支援の輪が広がっていること は、母親にとって大いに安心できることであると考えるからである。小さな子どもを抱え ての移動は大変であり、遠方への移動は困難なため、家に引きこもってしまう母親も多い105 と考えられる。より身近な場所に、「頼りたい」と思えるような支援の場があることはと ても重要であるのだ。身近な地域という環境における支援によって、利用者との物理的な 距離を縮めると共に、精神的距離も縮めることができるのではないかと考える。私自身、 保育園でアルバイトをする中で、保護者との連絡帳に、毎日のように食事やトイレ、子ど もの反抗についてなど様々な悩みが書かれていることを目の当たりにしてきた。子どもに 関する悩みは日々生まれ、日々向き合わざるを得ないという状況の中で、利用したいと思 った時にすぐに利用できる身近さが大切なのである。 また、以前、子育て支援広場の活動をしているNPO の方にお話を伺った際、「かれこれ 一週間くらい、自分の子ども以外の人と話をしていない。大人と話したいという息苦しさ から電話をかけてきた」という悩みを抱える母親からの電話を前日に受けたという話を聞 き、私は衝撃を受けた。このような相談は少なくないそうだ。家庭での「密室育児」の恐 ろしさを目の当たりにしたとともに、子育てを地域に開放し、だれかの支えを感じながら 楽しく子育てをできるようにする必要性を感じた。また、その広場では、母親同士の交流 も多く見られた。残念ながら自分の家の周りにはこのような施設がないから、という理由 で、ベビーカーを押しながら、散歩がてら片道1 時間ほどかけてわざわざ利用しに来てい る母親の姿もあった。このように地域に開放された交流・相談の場を求める母親は多いに 違いない。しかし、身近にこのような施設がなく、また施設があってもその存在を知る機 会がないために、子どもと自分だけの空間に閉じ込められたままの母親がいることは深刻 な問題といえる。 二つ目は、「多種多様なニーズ」に対応するために、「地域」という単位が適していると 考えるからである。1 章 2 節で見てきたように、母親の育児不安の要因は様々であるた め、求める支援も人それぞれであり、また時と場合によっても違いが生じるものである。 さらに、子育て家族の多い都市部と、少ない地方とでも求められる支援は変わってくると 考えられる。地域特有のニーズを把握しながら、よりきめ細やかに利用者の声に耳を傾け られるような規模の中での支援でなければ、「ニーズと支援とのズレ」につながってしま う可能性があるのだ。また、近年、保育の「量的拡充」が急速に進められている中で、 質・量的カバーを地域で行っていく必要があるともされている(柏女2017)。国や都道府 県による一括された統括ではなく、市町村管轄による、より小さな区分の中で、真のニー ズを見つけやすくし、手厚くサポートをしていく体制が必要であろう。 三つ目は、「みんなで育てる」という認識を地域で育んでいくことで、社会の“子育て力” を高めていくことができると考えるからである。「三歳児神話」や「性別役割分業」とい った固定観念のもとに生じてしまった「母親だけが育児をする」という呪縛を解き、様々 な子育ての“担い手”を生むことで、「子育てしやすい町」を作るのである。「自分でも子育 てができそうだ」とか「子どもをもう一人生みたい」、と思えるような町、たとえ引っ越 してきても孤独や不安を感じないような町をみんなで作っていくことは、長い目で見れば 少子化の解消にも役立っていくと考える。また、ここで言う「みんなで育てる」とは、子 どもを育てることだけではなく、「親育ち」も含まれると考える。三世代世帯の減少や仕 事との両立、地域の人間関係の希薄化が進む中で、“親”としての自覚やあり方について十 分に考える機会のないままに子育てを始めた人も多いだろう。地域の支援者と自分の子ど もがかかわる姿を見て、自分自身と子どもとの関わり方についてのヒントを得られるかも
106 しれない。また時には子どもから離れてリフレッシュすることで、より冷静に子どもに向 き合えるようになるはずだ。地域の様々な担い手により支援することは、「親育ち」を助 け、それは子どもの幸福にも大きくつながるに違いない。 このように地域で子育てを支援していくことは、すべての子育て家庭を支援し、それぞ れの細かなニーズに対応していくための手段として有効であると考える。また、地域全体 で支えることで、親・子ども双方の健全な育ちを助けるとともに、子育て力の高い町づく りにつながっていく可能性を持つのである。
3.2 地域子育て支援の変遷
3.2.1 地域子育て支援が政策に至るまで これまで見てきたように、子育て支援は「少子化対策」を目的として始まり、はじめは 「子育てと仕事の両立」を支援することが重視されてきた。しかし、一向に改善されない 少子化の進行や、子育てへの不安の声が高まる中で、「地域子育て支援」に注目が集めら れてきたのは1990 年代後半以降であると言える。地域子育て支援の変遷について、3 つ の転換の時期に分けて見ていきたい。 一つ目は、1997 年に児童福祉法が改正されたころである。この改正では、保育所が地域 の家庭に対して子育ての相談に応じることが規定され、保育所が有する資源が地域に開放 されることとなった。そのため、地域子育て支援の担い手は「保育所」が大半を占めるこ ととなったのである。その他、専業主婦家庭への一時保育なども拡充した。しかしこれら は一時的に育児を肩代わりしたりするだけのものであったため、中谷は、これらについ て、『「教える」支援、「預かる」支援が拡充した時代』であると表現した(中谷 2008:55)。 2 つ目の転換期は、2002 年に「少子化対策プラスワン」が発表されたころである。3 歳 未満児の多くが、保育所などに通わずに家庭で過ごしているという現状や、専業主婦の方 が育児負担感が大きいという統計から、すべての家庭への子育て支援の必要性が高まって きたのである。ここでは、これまでの子育てと仕事の両立支援に加え、「子育てそのも の」への支援が並列して掲げられた(橋本 2015)。これは地域子育て支援における大きな進 歩と言えるだろう。事業として「つどいの広場事業」や「家庭訪問支援事業」も開始さ れ、子育て親子の「地域の居場所」や「交流・相談の場」の必要性が政策的に合意され始 めたのもこのころである。 そして3 つ目の転換期として、2007 年以降、「地域子育て支援拠点事業」が再編・法定 化された時期をあげたい。これによって、拠点事業が保育所の保育事業の延長上には位置 しない、地域の子育て支援の固有の領域を有する事業であることが明らかとなった(橋元 2015:16)。そして 2012 年の子ども・子育て支援法制定により、「地域の子ども・子育て支 援の充実」が要点としてあげられたことにより、地域子育て支援はようやく、確固たる法 的位置づけを得たのである。この法律に基づき、2015 年からは「子ども・子育て支援新制 度」が行われている。その中に含まれる13 の地域子育て支援事業のうち、目玉である 「地域子育て支援拠点事業」と「利用者支援事業」について詳しく見てみたい。107 3.2.2 地域子育て支援拠点事業 地域子育て支援拠点事業は、地域の子育て中の親子の交流促進や育児相談、子育て関連 情報の提供や講習などを実施することで、子育ての孤立感、負担感の解消を図るものとさ れている。常設の地域子育て拠点を設け、地域の子育て支援機能の充実を図る取組として の「一般型」と、児童福祉施設など多様な子育て支援に関する施設に親子が集う場所を設 ける「連携型」の二つに分けられる。実施主体は市町村であるが、社会福祉法人・NPO 法人・民間福祉施設への委託により行われているところも多い。私が以前見学させていた だいた市の施設でも、社会福祉法人が運営を任されており、保育士が常駐していた。支援 のノウハウを分かっている人たちが主体となっていることでニーズに目が届きやすいと感 じ、「公民協働」の必要性を目の当たりにした。 また、事業の実施数は平成29 年度に 7,259 か所となっており、5 年間でおよそ 1,000 か 所増加している11。政策として注力されてきていることがうかがえるが、数に満足しては ならない。例えば私の出身である鹿児島県においては約86%の市町村に設置されてはいる が、面積の大きい市町村であるにもかかわらず一か所しかないところも多いため、量的拡 充はとても十分とは言えない。交通の便も整っていないため、利用できる範囲に住んでい る人は限られているだろう。常設が厳しいのであれば、ショッピングモールなど近所の身 近な場所に「出張型」として定期的に開設することから始めていく、といったように、少 しでも早く少しでも多く、このような機会を利用できるようにしていくべきだと考える。 さらに、たとえ施設があったとしても平日しか開所していないといった現状も問題であ る。これでは、共働き家庭が利用することは困難であることはもちろん、「父親」が利用 する機会も得られなくなってしまう。開所時間に工夫が必要であることに加え、人手不足 にならないように、支援者のさらなる育成が求められる。 さらに、質の面でも改善の余地があると考える。例えば、利用にあったって、「初めの 一歩」に勇気がいることである。「すでにママ友のコミュニティができているのではない か」といった不安も考えられる。施設の量的拡充が進んでいる中で、利用率が増えなけれ ば意味がない。利用への精神的ハードルをなくすためには、まず、妊娠が分かった時か ら、積極的にこのような施設の利用を促していくことで施設を周知させるとともに、利用 する習慣をつけてもらうことが大切だろう。また、イベントを数多く実施することで、利 用のきっかけを与えることができるし、様々な親子と出会う機会が得られるはずだ。親子 同士が円滑に交流することができるよう見守っていくことも支援者の重要な役割だろう。 例えば、育児満足感が高く育児不安の低い母親は、「積極的に人と関わりを持つような支 援」の形態を求めている一方、育児満足感が低く育児不安が高い母親は「育児から荷を下 ろす支援」を求める傾向があることが明らかとなっている(中谷2008)。積極的な交流を 望む人ばかりではないことをしっかりとわきまえた上で、どのような交流がそれぞれの親 子にとって望ましいのか支援者が歩み寄り一緒に考えていく道のりが大切であると考え る。 11 厚生労働省 HP『地域子育て支援拠点事業平成 29 年度実施状況』 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/kosodate/i ndex.html(2018.12.7)
108 また、「地域ぐるみ」での子育てを行うためにはいろいろな立場にある人々が担い手と なり参加することが欠かせない。例えば高齢者や子育て経験者といった他の世代とのかか わりが持てるような機会を提供するなど、様々な主体を巻き込みながら、多種多様なプロ グラムを用意するといった工夫が求められると考える。このような豊富なプログラムによ り、利用にあたってマンネリ化してしまうことを防ぎ、継続的な利用が期待できるだろ う。様々な立場の人との「協働」は目標として掲げられているものの、現段階ではなかな か事例は見受けられない。各市町村の工夫をこらした支援の形に期待したい。 また、たとえ相談したいことがあっても、「自分の子育てについて怒られるかもしれな い」といった不安を抱き、支援を受けることを恐れる可能性も考えられる。「支援する 側・される側」の構図が生み出す新たな抑圧の危険性もはらんでいるのだ(中谷 2008)。支 援にあたっては、親が自己肯定感を持ちながら自信をもって楽しく子育てをできるように していくことを目標とするべきだと考える。また、単に「与える」だけの支援ではなく、 親たちが当事者として自主的に「与えていく」ことができるようにするための支援も重要 である。例えば、私が見学させていただいた子育て支援センターでは、多子家庭の子育て サークルや障害児をもつ家庭の子育てサークルなどを作り、定期的に活動する取り組みも 見られた。このような取り組みは、同じような境遇の仲間と悩みを共有できるという役割 を担うほか、自分自身も「支援者」としての役割を発揮することにつながる。これはきっ と親たちの“子育て力”を高めていくことにも結び付くだろう。 3.2.3 利用者支援事業 利用者支援事業は、「保育施設や地域子ども・子育て支援事業、保健、医療・福祉など の関係機関を円滑に利用できるように身近な場所での相談や情報提供、助言等必要な支援 を行うと共に、関係機関との連絡調整・協働の体制づくりを行う」ことが目的とされてい る。子どもや保護者が置かれている環境や状況に応じて、多様な施設や事業を紹介し、保 護者の選択に基づいて実施されるため、それぞれの家庭への柔軟で「切れ目のない」支援 が期待される。具体的な相談内容例として、突発的な事情による子どもの預かり、発達状 況の悩み、日常的な悩みなどがあり、「どこに、どのように相談すればよいのかわからな い悩み」を相談できるプラットホームとしての機能が目標とされているため画期的な事業 であるとうかがえる。悩みが生まれた時に、子育てをしながら解決策を親自ら調べるのは 負担が大きく、また子どもを連れて様々な機関に相談しに赴くのも大変困難であるため、 一つの窓口から解決策をコーディネートしてもらえることは、よりスムーズで適切な問題 解決につながることが考えられる。 しかし、課題もいまだ多い。まず、この事業への認知が低いことだ。そもそも事業の存 在を知らないということに加え、「なんでも相談していいのだ」ということが知られてい ないために、「特別に困難を抱えている人しか利用しないものであろう」という認識が広 まってしまうのは大変危険である。悩みができたら「とりあえず行ってみよう」と思える ように、身近な場所に窓口が必要である。また、産婦人科などにおいて、妊娠中などの早 い段階から、このような事業について妊婦によく知らせることも重要であろう。 また、いざ相談してもその後の支援体制がいまだ不十分な部分があるという問題もあ る。子育てに関しては関係省庁が数多くあり、連携が困難である状況はなかなか改善され
109 ない。また、転勤を繰り返す家族や、精神疾患により子育てが困難な保護者など、「制度 の狭間」にあると考えられるケースに対しては、特に体制が未整備であると考える(柏女 2017)。子育て家族の様々な悩みやニーズに対して、どのようなケースであっても柔軟に 対応できるようなシステムが大切である。そのためには公民協働による、さらなる連携が 求められるだろう。また、支援者側が想像もつかなかった潜在的なニーズにいち早く気づ くためにも、なんでも話せるような信頼関係の構築や、「気になる」家族への積極的なア ウトリーチを行っていく必要があると考える。
3.3 フィンランドの事例から
ここではフィンランドの「ネウボラ」という取り組みについて紹介していきたい。「ネ ウボラ」はフィンランド語を直訳すると「相談の場」を意味する。 ネウボラの特徴は、妊娠の初期から専門職との個別・対面での対話を積み重ね、「妊婦 全員」1 人ひとり丁寧に寄り添うことにある。本人(妊婦・親と子ども、家族全体)たち にとっては、ネウボラは、妊娠から就学前までの子育てについて、自分や家族のストーリ ーを切れ目なく知っていて、疑問や不安に応えサポートしてくれる専門職がいるワンスト ップの場所である(高橋2015:12)。私も 2016 年 9 月に実際にフィンランドのネウボラを 訪れたことがある。子どもの遊び場や交流の場も併設されており、温かで親しみやすい北 欧デザインの施された施設となっているため、「何度でも足を運びたくなるような楽しい 施設だ」という印象を抱いたのを覚えている。また、施設の職員の話によると、この地域 は中級所得層が多いが、ほぼ100%の検診率であるそうだ。ネウボラの利用は義務ではな いため強制することはできないが、途中で来なくなったりした場合などは連絡をとるなど の対策を行っている。トイレトレーニングや偏食、兄弟間のやきもちのことなど相談分野 は様々であり、支援者にはそれぞれの専門知識が必要となってくるそうだ。 ネウボラについて日本において参考にしていくべきであると私が考える点が3 つある。 1 つ目は、「予防的アプローチ」の理念である。日本においては、何か事が起きてしまっ てから、相談・支援機関を利用するのが主流であり、「自分が困っている」ということに 気づいてからでは手遅れになってしまうことも多い。そもそも本当に困っている人は、困 っていると名乗り出ることもできず、どうすれば良いかもわからないまま閉じこもってい るかもしれない。また、日本においては「特定の人のみ利用するものである」という概念 が定着してしまっており、それらの利用に対して精神的ハードルが高いと感じてしまう人 も少なくないだろう。一方、ネウボラにおいては、だれもが必ず通う場所であるため、利 用することに後ろめたさは全く起こらない。また、問題が起きてからでなく、専門職との 対話の中で、リスクの予兆をつかみ取り問題を予防しやすくなり、また早期発見によりス ムーズで効果的な立ち直りを行うことが期待できるだろう。しかし残念ながら、フィンラ ンドよりも人口の多い日本においては、質の高い専門職の確保に難しさが生じる可能性が ある。それでも長い目で見れば、予防的アプローチを今よりも充実させることができれ ば、リスクを回避する可能性も高くなるだろう。そうすることで、現在、「事後アプロー チ」に充てられている人材や資金を削減することが期待できるはずである。日本において も、「予防的アプローチ」にもっと重点を置くべきなのである。110 2 つ目は「ワンストップの切れ目ないサポート」である。日本においては妊娠が発覚し たら市町村の窓口で妊娠届を提出し、母子健康手帳が交付されたのち、各自妊婦健診を受 診しに行く。一方フィンランドでは、ネウボラにおいて母子健康手帳が手渡され、そこか ら子どもが就学するまでの間、母子と専門家との長い関係性が始まるのである。出産後の 健診についても、例えば新宿区においては1 歳未満のときに年 3 回の健診、その後 1 歳児 健診と3 歳児健診を 1 回ずつ行うのみである12。しかし、フィンランドのヘルシンキ市を 例に見てみると、就学するまでの間、毎年10 回以上、健診を受けることが最低限の目安 とされている(高橋 2015)。日々の成長の変化が大きい乳幼児期においては、日々新たな悩 みが生じるため、小さな質問でもこまめに専門家に相談できる機会が与えられることは、 保護者にとって心強いに違いない。また、病気などの疑いがある場合には、医療機関を紹 介する窓口としての役割を担い、幼稚園・保育園への入園や小学校入学に際してもスムー ズに行えるようなサポートが施されているという。さらに、定期的に、少なくとも年一 回、保育園からネウボラ担当保健師に子どもの様子について連絡が入る仕組みとなってい るのだ(高橋 2015)。医療や保育・学校に加え、虐待・DV が見受けられる際にはソーシャ ルワーカーとの協力体制が取れるように整えられており、ネウボラは、問題を発見する役 割に加え、問題解決に際して、関係領域の中心としての重要な役割を担うのだ。 産前・産後・乳幼児期にかけてのすべての悩みを相談できる場が一点に集中しているた め保護者の負担が軽減されると共に、これまでの母子の経過をすべてわかってくれている 専門家がいるということはどれほど安心できるだろうか。また、妊娠が分かったらすべて の人が利用するため、日本の支援事業のように、利用への「はじめの一歩」に勇気がいら ないということにも大変意義があると思う。 しかしネウボラのような施設に何十回も通い続けられるためには「利便性」がまず大切 になってくるはずだ。地域の身近な場所になければ、小さな子どもを抱えての利用は大変 負担である。交通の便はもちろん、ベビーカーでの利用がしやすいつくりであるか、車の 利用ができるか、そうした一つ一つの配慮が、保護者の心理的な壁をなくすことにつなが るだろう。子どもの遊び場を併設したり、病院や保育園などの密集地など利便性の高いと ころにネウボラのような施設が作られたりすることが理想であると考えるが、まずは「相 談の場」を身近に増やすことを重要視していくべきであると私は考える。 3 つ目は「対話による信頼関係の構築」である。一対一でじっくりと話すことができる 個別健診を、妊娠期から継続して積み重ねることで、「この人になら安心して何でも相談 できる」という関係性を構築できるに違いない。子育てについて何か悩みがあっても、 「自分の母親としての力が不足していると怒られてしまうのではないか」といった母親の 心配があれば、悩みを相談することはおろか、支援を利用することも怖くなってしまうだ ろう。しかし「毎回同じ担当者」が真摯に悩みに向き合ってくれることで、なんでも話せ る雰囲気が作り上げられるはずだ。 人手不足が叫ばれる日本においては、質の高い専門職を常に確保し続けることは困難を 極めるかもしれない。しかし、たとえ一人の担当者が固定ではなく、2・3 人が交代でもい 12 新宿区 HP『子どもの健診』 http://www.city.shinjuku.lg.jp/soshiki/ushigome-h01_001009.html(2018/12/15)
111 いので、定期的に、自分たちの経過を分かっている人たちに話を聞いてもらえる機会を確 保する必要性があると私は考える。
4.地域子育て支援のあり方について
4.1 利用者目線の望ましい支援のあり方について
1 章において、子育てにおいては日々悩みや困難が絶えない中、身近に安心して頼りに できる存在が必要であること、また母親の育児負担感を軽減していく必要があることが考 えられた。しかしながら、現在の政策では地域差があり、質の面でも欠けている部分があ ることを2 章と 3 章で明らかにした。さらに 3 章においては、現状の課題を深堀りすると 共に、福祉の先進国と言われるフィンランドのネウボラの事例から、より良い支援のため のヒントを探してきた。 それらを踏まえて、この章では今後ますます地域子育て支援を発展させていくために、 支援の形がどのようであるべきかということについてまとめていきたい。 まず、運営体制について見ていく。エンゼルプランをはじめとするこれまでの支援は、 国によるトップダウンの政策であり、押し付け型の支援であった。一方、現行の子ども・ 子育て支援新制度においては、市町村単位で行われるため、より柔軟な歩み寄り型の支援 が期待されている。都市部や山間部など、それぞれの地域によって子育てのニーズは大き く異なっているため、そのニーズの特徴をわきまえ、それぞれの解決策を見つけていく必 要があるのだ。さらに、これまで“制度の狭間”にあったニーズや、いまだ気づかれていな い潜在的なニーズ、“ズレ”のあった支援についても、各市町村で柔軟に対応していくこと を重視していくことで、地域子育て支援の役割がより一層果たされることとなるだろう。 また、市町村という比較的小さなくくりによって、各市町村が責任を持って支援を拡充し ていくことが考えられるが、単なる量的拡充に満足してはならない。一つ一つの施設や支 援の利用に、物理的に負担を感じてしまう人がいなくなるように気を配る必要がある。例 えば、自分の住む市町村内に施設があっても、公共交通機関が整っていなかったり、自分 の家からは遠く継続的に利用することができないようなものであったりしたら意味がない のである。細かい“地域差”までをもなくしていくことが、すべての子育て家庭を救うため には必要であると考える。しかし、数を拡充していくうえで付き物なのが、人手不足の問 題である。これを克服するためには、NPO などの多様な主体とのさらなる協働や、全国 における子育て従事者の育成に関する講習の積極的な開催など、人材育成に力を入れてい くことが大切であろう。特に、子育てを経験し、自分の子育てがひと段落した母親などは 大きな力となるはずだ。子育ては多くの人が経験するため、支援者として役割を果たすこ とができる人は数多く潜在しているはずなのである。このように地域の資源を活用してい くことで”地域の子育て力“を高めていくことは、子育てしやすい町づくりにつながるし、 長い目で見れば少子化の緩和にも貢献する可能性をもつのである。 さらに、このように地域の子育て力が高まれば、支援の幅が広がっていくことも期待で112 きる。例えば、母親が買い物や美容院などを利用するために、育児から少し解放されるこ とを目的として子どもを一時的に預けたりするといった、“リフレッシュ効果”を生み出す 支援などだ。適度なリフレッシュによって、子どもに対してもゆとりをもって向き合える ようになるはずである。しかしながら、このようなリフレッシュのための支援に対して、 政策として税金を投与することへの理解がなかなか得られていなかったり、母親が支援に 依存することへの懸念を持つ人がいたりすることも事実である。それでも、“育児そのもの の負担”を軽減させていくためには、適度なリフレッシュも必要であると私は思う。政策と して実行が難しいのであれば、NPO 活動による一時預かりなどの支援が活発化すること に期待したい。また、預ける際に“理由を問われない”ということは時に母親にとって心理 的な負担を軽減させることができると考えられるが、利用回数が頻繁であるなどの問題の 予兆を見過ごしてはならないと思う。利用者に寄り添い、相談機能も十分に発揮させなが ら、子どもとの時間とリフレッシュの時間を適切に持てるように促すことが必要であろ う。 次に、支援者に求められる姿について考えていきたい。人手不足を恐れて支援者のあり 方を軽視していては、質の高い支援は施されない。特に、地域子育て支援は悩みがあった 時に真っ先に相談できる相手としての役割を果たすため、“地域における支援者”が最初に 相談を受ける最も身近な窓口となる重要なポジションにあるのだ。3 章でも述べたよう に、支援は時に「支援する側―される側」の二項対立を生み、それは利用者に新たな悩み を与えてしまう危険性があるのである。育児不安を抱えている母親にとって、一方的に教 えられたり、与えられたりするだけの支援では、育児への自信をなくしてしまうだけでな く自己肯定感まで下げてしまう可能性がある。子育てを、やって当たり前だと社会的に押 し付けられている母親にとって、母親としてよく頑張っている、と認めてくれる存在が必 要なのである。そして親が潜在的に持つ子育て力を引き出し、自信をもって楽しく子ども と向き合えるように働きかけることが大切であろう。支援を受けることで、より不安が高 まってしまったり、今後の利用をやめてしまったりするようなことがあってはならないの である。だから支援者は、自分がもし子育て中の親であったら、どのような立ち位置で、 どのような支援を受けたいかということを考えながら、利用者に歩み寄っていく支援が必 要なのである。さらに、遊び相手を見つけたり、情報提供をし合ったりする上で親子同士 の交流も大切であるが、そのようなコミュニティにうまくなじむことができるか不安に思 い、交流施設の利用を拒んでしまう人がいることも問題である。イベントを実施すること で利用のきっかけを作ったり、親子同士の交流が円滑になるように見守ったりといった支 援の工夫が求められると考える。さらに、親たちによる、自主的な子育てサークルの形成 やイベント計画を支えていくことも大変重要であると考える。親たちが単に「支援される 側」にとどまるのではなく、新たな「支援者」としての役割を担うことができるからだ。 親としての役割以外の役割を担うことによって、社会とのつながりを持つことができ孤独 な育児から解放されるほか、活動を通してみずからの“子育て力”を高めていくことにもつ ながるだろう。 最後に、支援と利用者の関係性について考えたい。拠点事業や利用者支援事業、NPO 活動をはじめとする地域子育て支援は、量的に拡大傾向にあるものの、利用へのはじめの 一歩をなかなか踏み出せなかったり、そもそも存在を知る機会を得られなかったりすると