小野道風の美 : 本阿弥切 巻12における文字選択に ついて
著者 藤田 菖畔
雑誌名 金沢大学教育学部紀要.人文科学・社会科学・教育
科学編
巻 23
ページ 15‑24
発行年 1974‑12‑20
URL http://hdl.handle.net/2297/47677
15
小野道風の美祈
一 本阿弥切 巻12における文字選択について一 藤 田 菖 畔
〔序〕
芸術とは人なりとも又,生の表現であるとも 言われている。それは書に限定すれぽ,現在で は芸術的価値作品に重点を置いて言う場合書と 言い,人間,つまり作家の人生観,思想性,生 に対する心構えを重点に置いて言う場合書道と いう言葉で表現されている。このどちらの呼び 方にしても,技術を持って社会に対する自己の 表現が芸であって,その為になされる行為自体 は術だと言える。又両者共に,筆を持して自己 の人間を客観的対象物として表現し,誰の眼に も,明確に促える事の出来ないもの,これを人 間性と呼び,又,個性とも言って高く評価され,
芸術の芸術たるゆえんである。この眼で見えな い部分,つまり不可視的要素と,眼で促える事 の出来る可視的要素とを持っている。
書にもこの両要素があり,可視的要素として,
造形,墨量,墨色,墨継等が挙げられる。この 中,墨量,墨色,墨継等は平面芸術をより立体 的に見せる働きを有し,造形は,その立体性を お面白く見せる素材として存在している。しか し,素人にはこの造形が,活字体に近いかどう かの基準に従ってのみ,上手,下手が論じられ,
この上手な者,つまり活字体に近い物に対して 書がうまいという。
これに対し,不可視的要素としては,リズム,
線質,筆圧(筆力ともいう)線における間合,
緩急等,なかなか見抜く眼力の有し難いものを 言うのである。これらをどのように使うかは,
その作家個人に課せられているのであり,これ ら全体を総称して個性と言う事が出来る。
しかし,そのうち特にリズム,呼吸から来る 間合い,これを基本として拡散されて行くもの を考えてよろしかろうと思う。
その拡散された状態の中に,造形による組合 せ,字間距離,行にも個が存在していると考え る。即ち,今ここでは,どの行,どの字間にど の文字の字形を使用するかは,その作家の意識 の働きで選別され使われているところに個があ ると考えて,造形を取り挙げ,その造形から,
作家の美を探ろうとした。
文字にも種々の字形があるが,一応基本形と して,多くの諸先輩の先生方が述べられておら れますように三つの形がある。一一つは正三角形 であり,二つ目は逆三角形,他の一つは横三角 形(左,右二種)で∴連続の仕方にも,三つの 型がある。一つは正三角形の連続形,これを短 歌の型で言えば五七調に属する五七調型で,視 覚者に重厚にして,荘重な感じを与える形,二 つ目は逆三角形の連続形で,七五調型の新古今 に見られる軽快なリズムと流れを感じさせる近 代的な型に大別出来る。三つ目は,正三角形と 逆三角形を交互に持って来る折中型である。
以上三つを基本形としながらも,その字形と 字形の中に台形とか,二等辺三角形,三角形,
四角形,五角形,六角形と種々の形を計算しな がら混入して組合せ,多用しながらも計算を計 算として見せない,自然さ,ここにその作家の 個が存在している。
その観点から見て,同一組合せの多用が約50
〜 60%あり,それを中心として(つまり柱とし て)他の種々の組合せが30%,および20%と用
*昭和49年9月17日受理
いる事によって,どれだけ変化と味付けを加味 したかという事が,その作家の美意識と範囲で あると考えた。
従って,ここでは種々の組合せとその割合を 調査して,道風においてはどうであったかを明
らかにしたい。
道風を選んだ理由として日本人の能書家の中 で中国風のねばっこい味を出した三筆から日本 風の書に成した三蹟の一人である事,二番目に 中世の細字として三蹟の中で最も芸術的価値が 高く,近代的であると考えた事,三番目に非常 に丁寧に一字一字書かれている事からである。
今,この論を進めて行く順序として,文字使 用上から,大字,中字,小字に分け,その頻度 数と,大,中,小字となる要素を探り,それが 集団としてどのように組合さっているかをみる
ことにした。この集団を便宣的に短歌一・首,詞 書,作者,そして二字,および,三字,四字の 集団の四つに分け,大,中,小字の使用され方 を調査しその特色を探ってみた。ここまでを,
〔1〕とし,以下,文字と文字との組合せの上 で,字粒の組合せと,組合せ上の中で特に変化 のある組合せを選び,組合上の普遍的な美の類 型を探り,その中から道風の特殊型を捜し出す 方法を取った。
〔1〕
本阿弥切,巻十二
古今和歌集を書写した「から紙」の巻子本で ある。もとは二十巻揃っていたのであろうが,
今は巻十,巻十二,巻十四,巻十六,十七,十 八が見られる。この巻十二は戦後酒井家から発 見され,現在文化財委員会の保管になっている。
料紙は,中国よりわたって来た紙で胡粉引きの 上に唐草,雲鶴,桃竹などの型文様を刷ってあ る唐紙と呼ばれているものである。具の色は白,
藍,茶等が見られ型文様を摺る雲母は,白,黄 の二種がある。
その中,この巻は,具は白色,文様は桃竹で,
白雲母のものである。この本阿弥切の様式の中
で注目を要するものとして,歌を一首つつ別行 にしないで,一首終った後に,空間をあけてそ の下に,作者名,詞書,和歌を書き出している。
追込み式の書式を持っている。平安朝の巻子本 の中で和歌を二行,ないし三行,四行書きをし ているものが多いのにこの巻は一行書きに書か れている。これも特色の一つである。
従って行書きでありながら追込み式に書かれ ている為に,全体として見た時に散らし書き形 式を取っているように見える。このように散ら し書き形式の気分を出しているのもこの巻の特 色である。
このような特色を持った平安朝のものとして は,異例のものを扱おうとする意図のあった事 もここで重ねて列記しておく。
〔II〕
文字使用の際,作家が,どの文字を選び,ど の字形をどのように使用するかという選択決定 権は作家の意志に依存されている。例えば「ひ」
という文字なら,平仮名の「ひ」と萬葉仮名の
「日」,「悲」,「非」,「飛」,「避」,「火」,「比」
のどの文字を使用するかという事,字形なら,
例えば「飛」という字なら,4♪主む2グ診 え〉芳菊という中から左右 前後の関係に よりどの字形を使用するかという事である。
又使用の際,和歌の意味とその萬葉仮名の 文字,字源に関係して使用されたかどうかは 明確ではないが,文字使用上,限定されて使わ れている上から恐らく作家の意識の中に何らか の意識が働いたものと考えられ,何らかの関係 があったと見られるが,現在の段階では断定し
難い。
今ここでは,文字使用という造形上の相違で 文学的,意味的な関係からの相違ではなく,従っ て文字を大字,中字,小字に分け,同一文字の 使用回数から各々の字粒がそうなる文字の性格 を有する要素と相違,使用の仕方の特色を見る と次の表のようになった。
〔A〕大字として使用されている大字(字粒
藤田:小野道風の美
17の大きさ,三分位のもの)下記の数字は使用回 数を示す。(アイウエオ順)102ケ
あ14,い12,工(意)9,伊1,う7,う(有)
2・え6,寿(盈)2,お5,オミ(於)18,か 6,き3,竃(支)8,箸(幾)12,痴(起)
1,く13,け3,ノ5(介)21,亨(希)1,芝
(遣)1,こ1,さ9,t†・(佐)4,し65,あ
(志)2,す6,弓(春)8,寸(寸)2,ぬ
(数)1,せ11,そ3,ろ(曾)9,♂ノ(所)
10,た4,d(多)6,あ(多)9,ち2,峯
(遅)11,つ6,ぽ(徒)1,て20,φ(帝)
4,((天)2,但(度)3,な41,4)1(那)
23,在(奈)5,に14,▲(爾)6,η(耳)
1,ぬ23,ね3,箪(年)14,の63,べ(能)
2,鴨儂)4,は16,・・(八)8,元(者)
14,兎(盤)3,ひ11,ち(悲)3,⑲(日)
1,ジ(飛)2,ふ3,ち(不)11,絢(婦)
5,ち(布)3,へ3,毫(遍)3,ほ4,有、
(本)5,万(万)7,み38,え(見)6,ミ
(三)1,む7,ゼ(無)1,め2,乏(免)
21,も34,4(裳)2,や・αゆ9,趣(遊)
10,よ3,担(夜)1,ら5,り1,わ(利)
18,る1,{δ、(流)7,れ22,き(連)18,ろ 8,わ10,ゐ2,を11,ぴ(越)9,1克 (衛)
2・ん10・亨(牟)1・
漢 字
人・7,! i(朝)1,我17凌(寛)1,平1,
Dη(御)1,了(宮)1,−2,7乏(覧)1,
褐(君)3,1部(風)2,亀(露)2芝(光)
1,轍(葉)1,逐(花)2,ll(月)3,春 2,秋2,山2,心1
〔B〕中学として使用されているもの,全66 ケ中新出11ケ
あ10,い1,う7,え2,お1,む1,6(可)
3,辻26,〈11,久5,タ5,こ17,た1,九 2,IW 1,さ15,し16,す6,寸1,妻(世)
2,せ3,610,砺2,」28,ち5,&2,つ 21,て17,《惇1,と36,る3,な2,込24,に
3,ね4,奪1,の31,は1,】〜35,ハ5,b 17,ふ6,》ら1,へ7,ち2,や1,万17,み
6,ミ4,Z1,め2,も30,亀(毛)4,や 5,ゆ3,よ13,ら26,あ22,る21,れ2,
ろ5,わ6,ん3,心2,山1,我1,N(繰
り返し文字)1,
〔C〕小字使用,字粒の大きさ(一分五厘)
全25ケ中新出1,
ふ(々)34,Jb 17,こ39,よ12,る28,ら 61,つ4,▲10,わ1,ろ3,万8,と23,5 19,へ5,寸6,の1,く4,さ3,二1,ら 12,て1,し3,ち1,]も1,も2,
以上の結果になった。その中で特徴を捜して 見ると先ず,小字から見て大字の使用が多いも の,大字,小字が同程度のもの,中字,小字が,
ほぼ同程度のもの,小字が多いもの,小字のみ 使用のものの五つに分けられ,それをまとめて みると次のようになった。
(イ)圧倒的に大字の使用が多いもの の,て,し,も,わ,る,(,さ (ロ)大字,小字がほぼ同程度使用のもの 万,つ,d,1,わ(利),
㌣う中字,小字がほぼ同程度のもの よ,る
←).小字が多いもの へ,ら,b
困 小字のみ使用のもの 6,こ,う,と
この小字の中で大字にも両用される(イ)(ロ)と,
◎←)困のように小字の使用の多いもの,および 絶対小字になるものとに分けられ,後者は画数
が少ない事,大字になりうる可能性を有してい るが横幅,縦長の関係で容易に小字になり易い 事が解る。
大字だけに使用される文字は,①画数が多い 事,②扁と妾の関係に分れるような文字,③上・
下に分けられるような文字,④画数少でも縦長 な文字,⑤画数少の中,横に広がりを有する文 字である。以上の性格を有する文字は大字とし て使用されることが解る。従って萬葉仮名およ び漢字は全てこの範疇に含まれる事は当然であ
る。
このように大字を有する性格をもった文字の 中で前表(イ)(ロ)の小字を見ると大字の性格を有し ながらも画数が少ない事が解る。
しかし,(イ)のように画数が少なくても,本来 横幅を有する「の」「わ」,および縦長の文字,
「て」「1」「く」「ち」のうち,「し」「不」は小 さくしにくい文字である。
「て」「く」は上・下・右・左とも短く出来や すいし,又「「』」にいたって省略体を使用する 事により小字になりやすいものである。
又,「さ」は横幅にも,縦長にもなりやすく,
横幅を持った時は大字として,縦長くした時に は小字となりやすい性格を内包していることも 見過ごしてはならない。
又,(ロ)は,文字の画数,複雑性から見て小字 になりうるのも当然である。但し,ミが同数使 用されているのが不思議でよく見ると最大中字 に近い大字の字粒で中字と入れて差しつかえな い。しかし,線の交又から見て細字仮名では大 字として使用されても,空間が広過ぎて間が抜 けるという感じは与えない。従ってこの「式」
だけは細字仮名に限るという事を付記してお
く。
内←)は,(ロ)に準じて見ていけば,同様の事が 言える。
従って細字仮名では大字になる性格を有する もので画数がやや少ない場合に限定されるが,
使用場所によりどのようにでも,作家の意図に よって,小字に出来る事を示している。
以上のような文字の性格を頭中に入れ作家の 意図によって計算された美が創造されている事 が明らかである。その計算の美を自然に見せる 意味からも大字の性格の強いものを小字にごく 少数ではあるが使用されている事も理解出来
る。
又,文字使用が意外に少ない事も特徴の一つ である。それは仮名文字のうち,平仮名,萬葉 仮名を含め,約37%で三分の一強,使用されて いる事でも解る。その37%のうちでも萬葉仮名 の使用回数を見ても解るように非常に少ない点
にも特色が見られる。これはあまり画数の多い 萬葉仮名は料理として中味のこい中華料理的美 味であってこの萬葉仮名使用が多用であると全 て同一料理的になってその味が目立ってこない 事になり,中華的な美味を目立たせる為に日本 的なさらっとした部分があってはじめて両者の 味が生きてくる結果になる。この日本的な味が 多くなり,つまりさらっとした部分が多いと全 体が疎に見えて来る事になるから,この単純な 一 本の線の中に内容の持った線を書ける技術が 要求される。この技術を持って書いているとこ ろに道風の能書家であった事が自然に裏付けせ られている。
〔III〕
字形の相違
無抽出に拾い挙げても良いのだけれども,一 字しかないのも困るし,出来るだけ使用回数の 多い方が,それだけ多用な造形が出て来ると考 え,先ず三十回以上使用の文字を選んだ。その
中,「φt」,「ぬ」,「竃」,「れ」のように画数多く,
方向性に豊んだものは種々変化も出しやすいと 考え,変化の出しにくい「し」「な」「の」「み」
「も」を選んだ。しかし,又逆に使用回数が少 なけれぽ造形は同一だとも考えられるので使用 回数の少ない文字を選んだ。少ないと言っても あまり少ないと相違も見られないので,出来る だけ変化の出しにくいと思われる文字を選ん
だ。
又,(2)で前述した文字性格の上から,大小同 数使用の文字も重ねて見る事にした。
これらの字形を表にすると次のようになっ
た。
(イ)三十回以上使用の文字をアイウエオ順に
従って,「し」「な」「の」「み」「も」の順シこなら
べた。藤田:小野道風の美
19φの卯の恒φゆ鋤紗ち け
∂1〜ーi〜ー1〜
ーー−〜ー▲のーθ しーーし611←1
㌃{撰6
㌘み移
考み
(ロ)大字使用の多いものから,「乏」「ち」を 選んだ。
顯
ム ︑う〜﹂うムとミ〜
内 全体で無抽出に選んだ。
「t」「加「る」「お」「る」「燭」「存・、
︺ 吻礼Yうり︾︶− >ちうb﹃?つ 戸㌻ろ2
{iii鑓
・ヲ6;b・ rn亨曳.? ← いゆ〜・ つり9b−o 弍 ー︾ロVクリb ゆ星橡勘う σ h▽L7カb▽い▼ ちち5参望 へ ︶ ム︐︑フあ入芦ち﹁よよ6﹄うち 8今〜︑ζ苔 ヂへおー拐ダ
←)大字と小字が同程度使用のもの「あ」
あわくわ吻わわあわbわわ その杓bるわわわわわわわ
わわク〃めりカ6ρわめ ・わ−りわ
わあわわわ〆わわわわ
三十回以上使用の文字を選んだが,いつれも 形の変化が出し難い文字になったが,その変化 の出し難い文字でも,多少何らかの変化を見せ ている事が分る。「の」の字形を見ると,全体の 形としては四角形か三角形の二つであるが,中 心が左へ傾斜している「の」と真直ぐ立ってい る「の」,つまり右への流れを見せている二つ,
それに中心線で左と右に囲まれた空間の部分で 右側の大きいものと左側の大きいもの,つまり
「勾」と「●」に分けられる。これら各々二つ に分けられた字形の中で線の太細線の方向の変 化により多字形を造り出している事が分る。又,
「み」の文字も四角形を基本としながらも,背 の低い幅広い字形と左に重量感を持たせた横三 角形を作り出し,重量関係,方向,傾斜により 多字形を生み出している事も「の」と同様理解 出来ると思う。又,最も変化の出しにくい,「し」
を見ると,「し」という文字自体の持っている左 へふくらんだ「し」普通で,又大部分であるが,
使用場所,つまり,一行目使用等に見られるよ
藤田:小野道風の美
21うに右にふくらんだ「し」の使用も稀に見られ る。特に「し」は前述の「の」「み」とは違って,
より変化が出しにくいところから同じ字形使用 が何回か繰り返されていることが表でも理解し ていただけると思うが,ほんの少しの長短の変 化,太細の変化,方向の相違,傾斜により多用 の変化を持たせている事も理解出来ると思う。
その他,「な」「も」にしても,線で包む空間の 多少,どの線の強調により,又横画や縦画の長 さ,方向,傾きにより多字形を造り挙げている 事がうかがえる。
これらの事が大字,小字ほぼ同数使用のもの,
全体で無抽出のものにも同様の事がいえる。
但,大字使用の多いもののうち「不」という 文字を見ると,第一画の横画の傾きが右上りに なるか右下りになるかで,次からの横画に変化 が出て来るが,全体から見て,同字形で中心の傾
きが右坑つまり「4・か「書・℃他↓よ正 直ぐな「3」という形を取っている。
これを全体から見ると,あまり変化を取って いないように見えるが,細かく見ると,横画だ けでも第一の横画に対し,次の横画の長さ,傾 きへの方向性,線の太細,強弱関係にも変化が 見られ,一字一字の造形に細心の注意を払って いることがうなづける。
この多字形で注意しなければならないのは,
細かく見た場合は多字形に造形されているが,
全体形が,一つか二つで多くて稀に三つ位の形 が使用されている。いずれにしても,一つの全 体形が中心になってこれで大部分を占め,二つ 目,三つ目の字形が少し使用されている程度で ある。又,細かい部分での字形も表を見れば分 るように,ほぼ似た線の方向,傾斜を取ってお り,線の太細長短での少しの変化を見せている だけである。これは全て,一つ一つ比較して,
誰の目にも見える,いわゆる極端な変化を取っ た場合には文字がばらぽらになり,分裂性気味 のまとまりのないものになる可能性を含んでい る事を証明している。従って全体形では変化を 見せないで細かい部分で変化を見せながら,常
に全体というまとまりを考えていた事が明白で ある。こういう計算も,道風の頭中にあったと 考えてよろしいかと思う。
以上から見て,種々の文字の字形にも全体形 として統一を持たせながら,細かい部分での変 化に細心の注意を払い,同一に見えて同一でな い。これは彼の感覚によるものか,計算による ものかは分らないが,いずれにしても常に美的 感覚を磨きながら頭中は鋭敏であった事がうか がえる。こういう鋭利さが道風をして能書家た るゆえんが存在していると考える。
〔IV〕
集団における字粒使用
文字の大,小使用頻度数から文字使用の特徴 を見たが,それらの文字が,行中どのような使 用をされているかを各行についてまとめ,それ らを集団として見た場合,ここでは和歌,詞書,
二,三字ないし四字をまとまりとしてまとめ,
その特徴を見る事にした。
但し,図表1では,詞書,作者名など空間が あっても一行としてみた。
〔表1〕
各行 大字 中字 小字 詞書,作者名,和歌
12345678910111213141516 912111182113512831104 −1りOり09白CU 4ρ0 23107874
1 詞書,作者名
1
〕和歌 0
;〕和歌
和歌2字 1〕和歌 作者名
;〕和歌
;〕詞書
;〕詞書
2 作者
字5645102610975477394710833H954897810971073107
各 11122222222223333333333444444444455555 行 78901234567890123456789012345678901234 大
中字 小字
97893333364155356255855561523534834344 詞書,作者名,和歌
3 〕和歌
O
l〕和歌
;〕1叉字
1作者
: 〕和歌
i〕霞
1〕和歌
1〕篇 1詞書
;〕和歌
1〕詞書
;〕和歌
;竃
;〕和歌
2 和歌四字,作者 1〕和歌
3 〕和歌
14
〕和歌
2
1 作者 i〕和歌
字584712411 大 98438778594784981179961310810741171087
行555657585960616263646566676869707172737475767778798081828384858687888990919293 各
中字 5562135431365123332613143353 7526303445
小字 詞書,作者名,和歌 1〕和歌
0 作者 3 〕和歌 0 1 作者 3 〕和歌 1 4 〕和歌 5 作者
;〕和歌
4 〕和歌 4 1 作者
1〕和歌
;〕詞書
4 作者 1〕和歌 1 詞書
1 作者,詞書2字 0 〕和歌
3
0 詞書,作者
;〕和歌
4
3〕詞書
4 1 詞書 0 〕和歌 3
2 詞書,作者 3 〕和歌
1
藤田:小野道風の美
23舗
94 95 96 97 98 99
皿
… … 皿
… …
……
皿 晒
… … 皿
㎜
……
m m
……
……
田 孤
…
… 田
m…
皿 m
辺 鵬 四 ぴ ぴ m
田
㎜
……
皿
大字 中字 小字
8882950684636742869116941161078599581212 00﹂4 05213405585
11 96623453462333466538422436
詞書,作者名,和歌 1 作者
3 〕和歌 4
1 作者
2
〕和歌 6
4{作者 1〕和歌
4
〕和歌
2 1
〕和歌 2 4 〕和歌 4 作者
1〕和歌
;〕和歌
i〕和歌 3字作者
;〕微
;〕和歌
1〕和歌
;〕和歌
1〕和歌 1〕和歌 0 作者
6 〕和歌 4
23456789012345678
行 33333333444444444各11111111111111111 大字
8
11
3 1 10 4 3 8 5
8713621111
中字 小字 詞書,作者名,和歌
42063245335738122 ;〕和歌
1 作者
2
2〕和歌
1
1 詞書
3 〕和歌 9 作者
1〕和歌 i〕和歌 1 作者
3 〕和歌 0
これを詞書,作者名,和歌,それに二字,三 字,四字,五字の四つに分けて字粒の使用を見 た。但し二字,三,四,五字使用は和歌の一部 を詞書の一部で和歌と詞書の合計と重複してい る。いずれにしても二字がニケ,三字が一ケ,
四字が一ケ,五字が一ケと数字の上からそう特 別な事が出てこないので重複して使用した。
次にこの各行に現われた数字を詞書,作者名,
和歌,その他の四つに分けてまとめると次のII 表のようになった。
〔表II〕
者 名歌他字字字字
の
詞 作和そ二三四五 書全17行大字97 26
106 5 2
1 1 1となった。
89 730 8 4
1 12
中字53 小字41
35 26
463 230 14 1 7 0 2 0
2 1 3 0
この表でもわかるように,大字の使用が中字
の約二倍に,中字の使用が小字の約二倍となっ
て圧倒的に大字使用が多い。これは大字を主体 としながら,中字,小字を入れて大字がより引 き立ってくるように見せ,変化の多用を生んで いる事が明白である。
和歌は,二行,および三行で構成されていて 一 行を大字中心にすれば他の行はそれに添わせ る従の行として第二,三行を行として構成され ている。その為,この数字として現われたと考 えられる。この表で特に注意しなければならな いのは詞書と作者,および二,三,四,五字で の行として見た場合,詞書では中字が大字と同 程度の数字を示しているのでも解るように,他 の和歌め行よりも大字と中字を中心としてほぼ 同程度の字粒が連続して並んでいることが分 る。それに対し作者は大字が圧倒的に多く,これ は作者名を大きく書いて行った事が分る。二字,
三字,四字,五字での行構成は,二字では大字連 続,三,四,五字では,中字が中心として,従 の行として構成する意識のあった為と思われる。
これをまとめると,全体として大字を中心と して中,小字の使用をしている。これは大字を 中心としながらも大字の連続では引き立たず,
〔参考文献〕
本阿弥切 巻12 伝小野道風筆 発行 書芸文化新社
中,小字を使用することの相互作用により,大 字をより大字に目立たせ,小字もより小字とし て目立って来るという効果を持たせる働きを使 用していると言える。
結 論
以上,〔1〕〔II〕〔III〕〔IV〕をまとめ,結論 として,道風は,文字の種類の多用を避け,ご く限られた字数の中で字粒を,大,中,小字と 種々の粒を用い,種々の字形を用いて多用して いるように見せ,変化の妙に秀れた作家であっ たと言える。又,一つには,なかなか眼には見 えないけれども,単純な線の中に複雑な味を持 たせ,内容のある線を書ける力量も兼ね備えた 能書家であった。
いずれにしてもそれだけの線を書ける力量を 備えてこそ能書家であり,能書家であれぽある ほど,文字の多用を避け,単純な字形でより多
くの変化と効果を生み出す,計算された美が計 算された美と見せない感覚的調和した世界を生 み出したのだと考えられる。
以上
THE BEAUTY IN TOFU ONO
On the selection of characters in Honnamigiri Vol.12.
Shohan Fujita
How did Tofu choose one character among many letters〜 Through his sence of
difference in using characters as a formative art and his sence of taking the size of eachcharacter in one line.11earned to know Tofu s sence of beauty.
(1)Explanation of Honnamigire
(2)Great and small size of characters
(3) Difference of the type
(4) The character s size in each line