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(1)

血液浄化用中空糸膜の構造・滅菌方法・素材の違い における血液適合性の比較

著者 東郷 好美

著者別名 TOGO Konomi

ページ 1‑91

発行年 2020‑03‑24

学位授与番号 32675甲第487号 学位授与年月日 2020‑03‑24

学位名 博士(理工学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00022977

(2)

法政大学審査学位論文

血液浄化用中空糸膜の構造・滅菌方法・素材の違い における血液適合性の比較

東郷 好美

(3)

1

目次

第1章 緒言 ... 1

腎臓の構造 ... 1

腎臓の肉眼的構造 ... 1

腎臓の組織構造 ... 1

1.1.2.1 腎小体 ... 1

1.1.2.2 尿細管 ... 1

腎臓の機能 ... 2

尿の生成... 2

酸塩基平衡の調節 ... 2

内分泌機能の調節 ... 2

1.2.3.1 レニン ... 2

1.2.3.2 エリスロポエチン ... 2

1.2.3.3 活性型ビタミンD3 ... 2

腎不全とその治療 ... 3

(4)

II

腎不全の症状 ... 3

腎不全の臨床経過 ... 3

1.3.2.1 急性腎不全 ... 3

1.3.2.2 慢性腎不全 ... 3

血液透析とは ... 4

血液透析の原理 ... 4

1.4.1.1 拡散 ... 4

1.4.1.2 限外濾過 ... 5

血液透析の種類 ... 6

1.4.2.1 CRRTの適応疾患 ... 7

1.4.2.1.1 適応:Renal Indication ... 7

1.4.2.1.2 適応:Non-Renal Indication ... 7

1.4.2.2 CRRTの病態とその治療 ... 7

血液透析の構成 ... 8

ダイアライザおよびヘモフィルタ ... 9

透析膜に求められる機能:生体適合性 ... 10

(5)

III

透析膜の種類と特徴 ... 11

セルロース系膜 ... 11

1.8.1.1 再生セルロース ... 11

1.8.1.2 酢酸セルロース ... 11

合成高分子系膜 ... 14

1.8.2.1 ポリメチルメタクリレート(PMMA) ... 14

1.8.2.2 PVP配合透析膜(PSf, PES, PEPA) ... 15

1.8.2.3 ポリビニルピロリドン(PVP) ... 18

1.8.2.3.1 PVPの化学構造 ... 18

1.8.2.3.2 PVPの排泄と体内への蓄積 ... 18

1.8.2.3.3 PSfにおけるPVP ... 19

ダイアライザおよびヘモフィルタの滅菌 ... 20

ホルマリン滅菌 ... 20

1.9.1.1 ホルマリン滅菌の歴史 ... 20

1.9.1.2 ホルマリン滅菌の原理 ... 20

1.9.1.3 ホルマリン滅菌の短所 ... 20

(6)

IV

EOG滅菌 ... 21

1.9.2.1 EOG滅菌の歴史 ... 21

1.9.2.2 EOG滅菌の原理 ... 21

1.9.2.3 EOG滅菌の利点 ... 21

1.9.2.4 EOG滅菌の短所 ... 21

高圧蒸気滅菌 ... 22

1.9.3.1 高圧蒸気滅菌の原理 ... 22

1.9.3.2 高圧蒸気滅菌の長所 ... 22

1.9.3.3 高圧蒸気滅菌の短所 ... 22

1.9.3.4 高圧蒸気滅菌がダイアライザに及ぼす影響 ... 22

γ線滅菌 ... 23

1.9.4.1 γ線滅菌の原理... 23

1.9.4.2 γ線滅菌の長所... 23

1.9.4.3 γ線滅菌の短所... 23

1.9.4.4 γ線滅菌がダイアライザに及ぼす影響 ... 24

電子線滅菌 ... 24

(7)

V

1.9.5.1 電子線滅菌の原理 ... 24

1.9.5.2 電子線滅菌の長所 ... 24

1.9.5.3 電子線滅菌の短所 ... 24

滅菌の定量的な考え方 ... 25

有効期限・洗浄方法 ... 26

血液透析と血小板の活性化のメカニズム ... 27

体外循環と凝固のメカニズム ... 27

血小板 ... 27

1.10.2.1 血小板 ... 27

1.10.2.2 血小板の構造 ... 27

透析患者の血小板 ... 28

血小板の活性化 ... 28

血小板の粘着 ... 29

血小板の凝集 ... 31

血小板に関連する血液検査 ... 32

血小板の活性に影響を与える透析膜の因子 ... 35

(8)

VI

過去に行われた透析膜に関する研究 ... 35

本研究の目的 ... 37

第2章 方法 ... 38

材料:ダイアライザ・ヘモフィルタ ... 38

中空糸膜の構造の違いによる血液適合性の検証 ... 38

中空糸膜の滅菌方法の違いによる血液適合性の検証... 39

中空糸膜の素材の違いによる血液適合性の検証 ... 40

実験方法 ... 41

ダイアライザまたはヘモフィルタと血液回路の洗浄と充填 ... 41

採血と回路への血液充填 ... 42

実験手順... 43

検査項目... 44

血液検査... 44

走査型顕微鏡を用いた中空糸内部の観察手順 ... 45

統計学的処理 ... 45

第3章 結果 ... 46

(9)

VII

中空糸膜素材の構造の違いによる血液適合性の検討 ... 47

血小板数の経時的変化 ... 47

血小板表面マーカ(CD41とCD42b)の発現率 ... 48

3.1.2.1 血小板表面マーカ(CD41) ... 48

3.1.2.2 血小板表面マーカ(CD42b) ... 49

血小板放出因子(β-TG、PF4)の実験前後における変化 ... 50

3.1.3.1 血小板放出(β-TG)の実験前後における変化 ... 50

3.1.3.2 血小板放出(PF4)の実験前後における変化... 51

FE-SEMによる中空糸内部の観察 ... 52

3.1.4.1 FE-SEMによる中空糸内部の観察(ATA®) ... 52

3.1.4.2 FE-SEMによる中空糸内部の観察(CTA) ... 52

中空糸膜の滅菌の違いによる血液適合性の検討 ... 53

血小板数の経時的変化 ... 53

血小板表面マーカ(CD41とCD42b)の発現率 ... 54

3.2.2.1 血小板表面マーカ(CD41) ... 54

3.2.2.2 血小板表面マーカ(CD42b) ... 55

(10)

VIII

血小板放出因子(β-TG、PF4)の実験前後における変化 ... 56

3.2.3.1 血小板放出(β-TG)の実験前後における変化 ... 56

3.2.3.2 血小板放出(PF4)の実験前後における変化... 57

FE-SEMによる中空糸内部の観察 ... 58

3.2.4.1 FE-SEMによる中空糸内部の観察(PSf_γ線) ... 58

3.2.4.2 FE-SEMによる中空糸内部の観察(PSf_AC) ... 58

中空糸膜の素材の違いによる血液適合性の検討 ... 59

血小板数の経時的変化 ... 59

血小板表面マーカ(CD41とCD42b)の発現率 ... 60

3.3.2.1 血小板表面マーカ(CD41) ... 60

3.3.2.2 血小板表面マーカ(CD42b) ... 61

血小板放出因子(β-TG、PF4)の実験前後における変化 ... 62

3.3.3.1 血小板放出(β-TG)の実験前後における変化 ... 62

3.3.3.2 血小板放出(PF4)の実験前後における変化... 63

FE-SEMによる中空糸内部の観察 ... 64

3.3.4.1 FE-SEMによる中空糸内部の観察(PSf_CRRT_AEF) ... 64

(11)

IX

3.3.4.2 FE-SEMによる中空糸内部の観察(PSf_CRRT_SHG) ... 64

3.3.4.3 FE-SEMによる中空糸内部の観察(PMMA_CRRT_CH) ... 65

第4章 考察 ... 66

中空糸膜の構造の違いによる血液適合性の検証 ... 66

血小板数の変化 ... 67

血小板表面マーカ(CD41, Cd42b) ... 67

血小板放出因子(β-TG, PF4) ... 68

FE-SEMにおける中空糸内部の観察 ... 69

中空糸膜の構造の違いによる血液適合性の検証:小括 ... 69

中空糸膜の滅菌方法の違いによる血液適合性の検証 ... 69

血小板数の変化 ... 70

血小板表面マーカ(CD41, Cd42b) ... 71

血小板放出因子(β-TG, PF4) ... 71

FE-SEMにおける中空糸内部の観察 ... 71

滅菌方法が異なる中空糸膜における血液適合性の検証:小括 ... 71

中空糸膜の素材の違いによる血液適合性の検証 ... 72

(12)

X

血小板数の変化 ... 74

血小板表面マーカ(CD41, CD42b) ... 76

血小板放出因子(β-TG, PF41) ... 76

FE-SEMにおける中空糸内部の観察 ... 77

中空糸膜の素材の違いによる血液適合性の検証:小括 ... 78

本研究のリミテーション ... 79

第5章 結語 ... 80

参照文献 ... 81

(13)

第 1 章 緒 言

(14)

1

第 1 章 緒言

腎臓の構造

物質を代謝することによって生じた不要物質や体内に入った有害物質の体外への排泄は 主に泌尿器系によって行われる。泌尿器系には、腎臓、尿管、膀胱および尿道が属する。腎 臓は尿の生成、血液中の不要物質の除去、体液の量と浸透圧、および血液のpHを一定に調 節する重要な役割を果たすほか、ホルモンの分泌を行っている。

腎臓の肉眼的構造

腎臓は脊柱の両側に存在する左右一対の臓器である。成人の腎臓の大きさは、長径約 10

~12cm、短径約5 cm、厚さ3~4 cm、重さ120~150g、赤褐色を帯びており、そら豆状で ある [1]。第11~12胸椎から第3腰椎の高さに位置し、右腎は肝臓が存在するために左腎 よりやや低い位置にある [1]。内側中央の凹部を腎門といい、腎静脈、腎動脈、尿管、リン パ管、神経が出入りする [1]。腎臓の内部は表層の皮質と深層の髄質に区分される。皮質に は、糸球体、ボーマン嚢、近位および遠位尿細管が存在する。髄質には、ヘンレ係蹄と集合 管が存在する。これらは尿細管と呼ばれ、最終的に尿管へ移行する。

腎臓の組織構造

糸球体とボーマン嚢を合わせて腎小体という。腎小体とこれに続く尿細管はネフロンと 呼ばれる。片側の腎臓に約100万個のネフロンがある。

1.1.2.1 腎小体

腎小体は直径約0.2 nmの器官であり、糸球体とこれを包む糸球体嚢(ボーマン嚢)から なる [1]。糸球体は毛細血管の集まりであり、糸球体に入る動脈は輸入細動脈、糸球体から 出る動脈は輸出細動脈と呼ばれる。輸入および輸出細動脈は糸球体の血管極から出入りす る [1]。ボーマン嚢は内葉と外葉からなる。内葉は血管極で反転して外葉となり、外葉は血 管極と反対側の尿細管極から近位尿細管へ続く [1]。内葉と外葉の間の空間をボーマン腔と いい、糸球体から濾過された濾液が溜まり、この濾液は原尿と呼ばれる [1]。

1.1.2.2 尿細管

尿細管は約20 cmの管である。ボーマン嚢の底部から近位尿細管が出て髄質内に向かい、

Uターンして再び上行し、遠位尿細管に移行する [1]。Uターンするループ部分をヘンレ係 蹄という。遠位尿細管は、何本も集まって集合管となる [1]。

(15)

2

腎臓の機能

腎臓は、尿の生成(水分の調節、電解質の調節、代謝産物の排泄)、酸塩基平行の調節、

内分泌機能の調節などを行っている。

尿の生成

血液が糸球体で濾過されることによって原尿ができる。原尿が尿細管を通過するとき、原 尿に含まれている身体にとって必要な物質は血液へ再吸収される。身体にとって不要な物 質は、血液から尿細管中へ分泌され、尿が生成される [1]。

酸塩基平衡の調節

体液のpHは、糸球体で濾過された重炭酸イオンの再吸収量と尿細管からの水素イオン分 泌量を調節することによって、一定範囲に保たれており、健常者のpHは7.40±0.04、また 生存可能なpHの範囲は7.4±0.6程度といわれている [1]。

内分泌機能の調節

腎臓から分泌されるホルモンには、レニン、エリスロポエチン、活性型ビタミンD3の3 つがある。

1.2.3.1 レニン

腎血液量の減少によって、腎臓の血管極付近に存在する輸入細動脈の傍糸球体細胞から レニンが分泌される。レニンは、肝臓にて産生されたアンジオテンシノーゲンをアンジオテ ンシンⅠに分解する。アンジオテンシンⅠは、肺にて産生されたアンジオテンシン変換酵素 によって、アンジオテンシンⅡに変換される [1]。アンジオテンシンⅡは副腎皮質に作用し て、アルドステロンの分泌を促進させる。アルドステロンは遠位尿細管と集合管に作用して、

ナトリウムイオンの再吸収を促進する [1]。ナトリウムイオンの再吸収に伴い、血液の浸透 圧が上昇することによって、血管内の水分量が増加し、全身の血圧が上昇する。

1.2.3.2 エリスロポエチン

貧血や呼吸機能の低下によって低酸素状態になると、腎臓を流れる血液内の酸素量が低 下する。それに伴い、尿細管の線維芽細胞からエリスロポエチンが分泌される。エリスロポ エチンは骨髄に作用し、赤血球の産生を促進させる [1]。

1.2.3.3 活性型ビタミン D

3

ビタミン D3は肝臓と腎臓の近位尿細管で活性型ビタミン D3となり、腸管でのカルシウ ムイオンの吸収と尿細管でのカルシウムイオンの再吸収を促進する [1]。

(16)

3

腎不全とその治療

腎不全の症状

腎不全はさまざまな原疾患によって、腎臓の糸球体や尿細管、あるいは血管系などの広範 な腎機能障害を生じる。尿の産生、排泄が障害されたための症状と、腎機能障害により体内 の恒常性を保つことができなくなったことによる症状がみられる [2]。腎臓には腎臓が病変 の主体である原発性腎疾患と全身性の疾患に付随する続発性腎疾患がある [2]。

腎不全は徐々に腎機能が低下し、最終的には腎臓の働きが廃絶する腎臓の機能不全であ る [2]。病態生理は、水分と血液尿素窒素や血清クレアチニンといったタンパク代謝産物の 蓄積、血清電解質異常、血液の酸性化(代謝性アシドーシス)、活性化ビタミン Dの低下、

エリスロポエチンの欠乏などである [2]。その結果、水分が体外に排泄されないことにより、

循環血液量が増大し、高血圧や浮腫・心肥大・肺うっ血などが起こる。代謝産物の蓄積によ り、血液尿素窒素・血清クレアチニン・血清尿酸が高値になる。さらに、高カリウム血症、

高リン血症、低カルシウム血症、血漿重炭酸イオンの低下を伴う代謝性アシドーシス(動脈 血pH低下)、腎性貧血などが認められる [2]。これらの症状に対して、まず投薬治療(利尿 薬、降圧薬、赤血球造血刺激薬など)が行われるが、効果がない場合や腎不全が悪化する場 合には透析療法が導入される [2]。

腎不全の臨床経過

腎不全は臨床経過により、急性と慢性に分けられる。

1.3.2.1 急性腎不全

急速に糸球体における濾過量が減少し、タンパク代謝産物である血清尿素窒素や血清ク レアチニンが上昇する。急性腎不全は、原因の病態が治療により回復した場合には腎機能は 改善する。しかし、腎機能の回復に時間がかかる場合には、回復するまで血液浄化法により 腎機能を代替する [2]。急性腎不全の治療は、原因の除去と合併症の治療である。透析は重 要な治療手段であり、透析のタイミングを逃すと死亡する。治療効果が低い場合には、腎不 全が不可逆的となり、慢性腎不全へと移行し、維持透析療法が必要となる [2]。

1.3.2.2 慢性腎不全

慢性腎不全は、何らかの原因により最終的には腎臓の組織が破壊されるために起きる腎 機能低下である。原則、不可逆的に進行し、維持透析療法(血液透析や腹膜透析)や腎移植 が必要となる。これらのうち血液透析はほとんどの国において、腎不全患者に対する最も一 般的な治療である [3]。維持透析療法に導入される患者の原疾患は、わが国では糖尿病性腎 症が最も多く、慢性糸球体腎炎、腎硬化症がこれに続く。現在、維持透析療法を行っている 患者数は我が国全体で約33万人に及び、年々、数千人程度増加傾向にある [4]。

(17)

4

血液透析とは

血液透析の原理

血液透析療法では、人工腎臓であるダイアライザに体外循環させた患者の血液を、半透膜 である透析膜を介して透析液と接触させる。その際、透析膜の片側に血液を、反対側に透析 液を灌流し、拡散と濾過によって、溶質および水を除去する。

1.4.1.1 拡散

一般に、溶液中で溶質が不均一な状態にあるとき、溶質は濃度の高い方から低い方へ、濃 度が均一になるように自発的に移動する。これが拡散(diffusion)とよばれる [5]。拡散は 溶媒が膜で多層に隔てられている場合にも生じる(図1.1)。このとき、膜の持つ細孔(pore)

が篩として働く。すなわち小さな溶質分子は膜の細孔を容易に透過できるが、溶質の分子量 の増大とともに透過の抵抗も増大し、あるサイズ以上の分子は膜を透過できなくなる。

図 1.1 膜を介した拡散現象

溶質は化学ポテンシャル差(濃度差)に基づき 移動する。2つの溶媒間に膜が存在する場合に は、膜の持つ細孔の大きさに応じた分離が行 われる。

(18)

5

1.4.1.2 限外濾過

膜と溶液が接触しているとき、着目溶液側に陽圧をかけるか、非着目側の流体(液体また は気体)に陰圧をかけることで、高圧側から低圧側に向かって着目溶液を透過させることが できる。このとき移動する溶媒(水)は膜の細孔より小さい溶質を同伴する、膜の細孔より 大きい溶質は膜を通過できず、高圧側の膜近傍に蓄積する。このような分離操作を濾過とい

う(図1.2)。濾過は、泥水中の砂と小石を布によって分離するような、目視できるサイズで

も利用されているが、これらの濾過は一般濾過という。これに対して分子レベルでの濾過を 限外濾過(ultrafiltration)という。

図 1.2 限外濾過による水分および溶質の移動現象 着目溶液(膜の左)側に陽圧をかける方式と、

非着目流体(膜の右)側に陰圧をかける方式 とがある。現在、臨床で利用されている濾過 の方式は陰圧方式が多い。

(19)

6

血液透析の種類

慢性腎不全に対する血液透析療法は、週3回、1回4時間程度、病院等で行われる。この 治療は永続的に繰り返す必要があるため、維持透析(maintenance hemodialysis)と呼ば れることも多い。これに対して、循環動態の不良な急性腎不全患者では、24 時間、持続的 に血液浄化を行うことが多く、これを持続的血液浄化療法(Continuous Renal Replacement Therapy: CRRT)という。表1.1に両者の特徴を対照して示す [6]。

表 1.1 血液透析の種類

一般的な血液透析療法 持続的血液浄化療法

治療条件

血流量 200 mL/min 80~120 mL/min

治療時間 4時間・週3回 24時間

透析液流量 500 mL/min 500~2000 mL/hr

使用する人工腎臓 ダイアライザ ヘモフィルタ

利点 拘束時間が短い 循環動態に影響を与えにくい

欠点 循環動態に影響を与えやすい 拘束時間が長い

(20)

7

1.4.2.1 CRRT の適応疾患

1.4.2.1.1 適応: Renal Indication

循環動態の不良な急性腎不全(または慢性腎不全)に対して、小型(小面積)の血液浄化 デバイスを用いて、循環動態になるべく影響を与えないように、持続的に血液浄化治療を行 って、腎機能(尿毒素の除去と電解質・酸塩基平衡・体水分量の是正)を代行する治療を Renal Indicationと呼んでいる [6]。

1.4.2.1.2 適応: Non-Renal Indication

敗血症 1ショックや急性呼吸窮迫症候群 2(臨床的に重症の状態の患者に起こる呼吸不全 の一種)に対してCRRTを施行することによって、呼吸(血液の酸素化)・循環動態が改善 することが報告されている。そのため、集中治療や救急治療において適応の拡大が期待され ている [6]。同じ血液浄化療法でありながら、この場合には、腎機能の代替を主たる目的と してはしていないため、Non-Renal Indicationの名称が用いられることも多い。

1.4.2.2 CRRT の病態とその治療

敗血症に伴うショック症状や臓器障害では、免疫炎症反応が重要な役割を果たしており、

体内で過剰に産生されるメディエータが症状の悪化に関与していると考えられている [6]。

炎症性メディエータが放出されると、極度の末梢血管拡張をきたし、多量の昇圧剤や輸液を 投与しても循環不全は改善しない状態に陥り、予後不良となる [6]。予後不良になる前に CRRT を適応すると呼吸や循環動態が改善することから、なんらかの炎症性メディエータ が除去されたために、極度の末梢血管拡張が改善すると考えられている [6]。このような炎 症性メディエータの候補として、中分子領域に属する分子量が20 kDa程度のサイトカイン が注目されており、この分子量領域の溶質除去に優れるCRRTのモードが用いられること が多い。体内に細菌が侵入すると、まず、マクロファージがその細菌を貪食する。その結果、

サイトカインが産生され、サイトカインは細菌の侵入を情報として伝達し、周囲組織に炎症 を生じさせる役割を持つ。

CRRTは持続的に体外循環を行うことにより、血液中の水、電解質、尿毒物質、多臓器不 全惹起物質などの有毒物質を、時間をかけて除去する [7]。循環動態が不良な腎不全・肝不 全・呼吸不全・多臓器不全・敗血症・術後・外傷・熱傷などの患者にCRRTを行い、救命 が図られている [7]。

1 敗血症:「血液中に病原微生物が入り増殖することを菌血症という。菌血症により増殖し た菌の毒素によって全身に重篤な症状を示すことを敗血症という」 [112]。

2 急性呼吸窮迫症候群:「臨床的に重症の患者の状態に起こる呼吸不全の一種である。敗血 症、大量輸血、重症肺炎、胸部外傷、肺塞栓、人工呼吸等で重症の患者に突然起こる」

[6]。

(21)

8

血液透析の構成

血液透析は、人工腎臓である血液浄化デバイス(維持透析ではダイアライザ、CRRTでは ヘモフィルタ)、血液回路、血液ポンプ、透析液を血液浄化デバイスに供給する監視装置な どを用いて施行される(図 1.3)。透析患者の動静脈吻合部または血液透析用カニューレか らローラポンプを用いて、血液流量を維持透析では約 200 mL/min、CRRT では約 100

mL/minで引き出し、抗凝固薬を加え、血液浄化デバイスに送る。血液浄化デバイスでは、

拡散および限外濾過により血液中の老廃物や過剰な水分が除去され、電解質濃度とpHが補 正される。浄化された血液は、患者の動静脈吻合部または血液透析用カニューレに戻る [5]

(図1.4)。

図 1.3 血液透析の構成

図 1.4 透析膜による物質除去

(22)

9

ダイアライザおよびヘモフィルタ

歴史的には、血液浄化デバイスの構造は、コイル型、積層型、中空糸型へと順に改良が行 われてきた [5]。現在は、積層型も一部使用されているが、単位体積あたりの膜面積を大き くすることができ、血液側および透析液側の物質移動抵抗を小さくできる透析効率や操作 性に優れた中空糸型が主流である [5]。中空糸型ダイアライザおよびヘモフィルタでは、直

径175~250μm(200μmが主流)で膜厚が15~30μmの中空糸膜が10,000本程度、直

径4~5 cm、長さ20 cm程度の円筒形のハウジングにセットされ、両端部を血液側と透析

液側の漏れがないようにポリウレタンで固定されている [5]。また、血液が流入または流出 する部分はヘッダと呼ばれ、外部への血液リークが生じないように、中空糸束を固定してい るポリウレタンは、同時にハウジングに固定されている。

この血液透析の場合、ダイアライザの中空糸外側に透析液とよばれる電解質水溶液を流 す。その組成は血漿の電解質組成に準じるが、カリウムとリンを除去する必要があるので、

カリウム濃度は2.0 mEq/Lと低く、リンは含まれない。また代謝性アシドーシスを補正す るために、緩衝剤として重炭酸(および少量の酢酸)が含まれている。

血液は動脈ヘッダより入り、中空糸内に分配され、反対側の静脈ヘッダより流出する。一 方、透析液は血液側の出口近傍にある透析液入口より入り、中空糸束に均等に分配され、灌 流し、血液側の入口近傍にある透析液出口より流出する [5]。

ダイアライザおよびヘモフィルタに求められる性能を下記に示す。特に、ヘモフィルタ は長時間かつ低流速で体外循環を行うことから、性能の経時的な低下や血液凝固を起こし にくい膜素材であることが要求される [8]。

 高い生体適合性

 高い抗血栓性

 高い溶質除去能

 限外濾過率が継時的に変化しないこと

 透析終了後に残血が少ないこと

 生体に影響の少ない滅菌法

 プライミングボリュームが少ないこと

 経時劣化が少ないこと

 高い機械的強度

 使用後の廃棄処分が容易であること

 寒冷地での凍結の心配がないこと

 透析患者の年齢、体重、体質などに対応した膜面積があること

(23)

10

透析膜に求められる機能:生体適合性

生体適合性(biocompatibility)とは、医療用人工材料と生体の適合性を示す。人工材料 は生体にとって非自己であるため、何らかの生体反応を惹起するものである。そのため、本 来、生体非適合性である。しかし、実際には人工材料のうち、生体反応が少ないものを相対 的に生体適合性が高いという。つまり、生体適合性とは、「生体が異物としての医療材料と 接触した場合に、自己以外の異物を防ぐための反応を起こさせない機能」である [9]。

血液透析療法では、透析膜を介して血液と透析液が接触することによって、老廃物などを 除去するので、血液と透析膜との接触は絶対的である。そのため、血液には種々の反応が惹 起され、生体非適合な条件下で使用されている [9]。血液浄化療法における生体適合性は血 液に接するすべての材料(血管内留置針、血液回路、透析膜など)で問題になる。このうち 血液浄化膜はもっとも接触面積が大きいため、生体適合性の重要な規定因子である。血液が 透析膜と接触すると、血球成分、補体系、血液凝固系が活性化される。血液透析患者では合 併症が頻繁に観察され、血液非適合性に関連するものが多いと考えられている [3]。代表的 なものが、補体の活性化を受けて生じる一過性の白血球減少や血小板凝集である [9]。生体 適合性の良い透析膜では、急性腎不全における治療成績の改善や、維持透析における長期予 後の改善が報告されている。

通常、血液透析治療は一回あたり4時間ほどであるが、この治療時間内だけでなく、長期 にわたって透析治療を受けても合併症が生じないような生体適合性が必要である [9]。血液 浄化療法における材料に対する生体の異物反応を次に列挙する。

材料に対する生体の異物反応

 血小板凝集

 凝固・線溶系活性化

 補体の活性化

 白血球活性化

特に血小板凝集反応が激しい場合、中空糸内部が血栓閉塞することによって、中空糸の側 孔が詰まり効率的な血液透析が行えなくなる。完全に血栓閉塞した場合には、血液透析の続 行は困難であり、使用中のダイアライザおよびヘモフィルタを破棄して、新しいものに交換 する必要がある。それによって、患者の貧血が進行する可能性があり、さらには、医療経済 にも影響する可能性もある。

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透析膜の種類と特徴

血液透析に用いる体外循環構成要素のうち、血液との接触面積が最も大きいのは透析膜 である。透析膜は、多くの天然および合成高分子を素材にして、種々の製法によって製造さ れており、孔径や膜面開孔率といった透水性能や病因物質除去性能に直接かかわる因子が 調節されている。また、膜表面の特性は生体適合性を支配する重要な因子であるが、これに ついてもそれぞれに性質が異なる透析膜が実用化されている。現在では透水性能や溶質除 去性能が高いポリスルホン系(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルエーテル スルホン、ポリエステルポリマーアロイ)透析膜が主流となっており、国内シェアの 70%

を占めている [10]。

透析膜を素材で大別すると、セルロース系と合成高分子系に分別される。一般的にポリス ルホン系透析膜は生体適合性に優れていることが知られているが、患者によっては副作用 が生じることが報告されており、臨床的には色々な透析膜の性質をよく知り、患者に応じた 透析膜を選択する必要がある [9]。特に生体適合性と関係が深いのは、血液と直接的に接触 して様々な生体防御反応がおこる中空糸内表面の物理化学的な特性である。その厳密な評 価は、長年にわたり難しい課題とされてきた。これは、血液と接触する表面が中空糸の内側 にあるという物理的な観察のしにくさに加え、そこに存在するナノサイズの細孔が、熱や乾 燥に大きな影響を受けるためである [9] [11]。

セルロース系膜 1.8.1.1 再生セルロース

最初に開発された透析膜素材が再生セルロースである [9]。機械的強度が高く菲薄化が可 能である。厚み方向の物理構造は均質で、膨潤した膜厚が透水性・物質透過性の抵抗となる ため高い性能は望めないが、透析液側に存在するエンドトキシンなどの細菌の侵入の可能 性は少ない。再生セルロースを用いると、セルロース骨格に存在する3つのヒドロキシ基(- OH基)が補体系を活性化し、一過性の白血球減少を引き起こす [11]。このような生体不適 合反応のために、現在では用いられていない。

1.8.1.2 酢酸セルロース

上述のように、再生セルロース膜の生体不適合反応はセルロースの基本骨格のヒドロキ シ基(-OH)による。酢酸セルロース膜はこのヒドロキシ基をアセチル基(-COCH3)に置 換したものである。ヒドロキシ基が多いほど、親水性が高い [12]。アセチル基の置換度の 増加とともに、Cellulose acetate (CA)、Cellulose diacetate (CDA)、Cellulose triacetate (CTA)と呼ばれる [9]。

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酢酸セルロース膜は再生セルロース膜に比べて親水性は低くなるが、一過性の白血球減 少や補体の活性化は抑制される。また、アセチル基の置換度が高いほど疎水性が高く、水に よって膨潤しにくくなるので、浸潤時の膜厚を再生セルロース膜に比べて薄く保つことが できる [9]。膜が薄いことによって、血液透析の原理である拡散における溶質透過性や透水 性能を向上させることができる。

CTA の中空糸形状の製法は、CTA・有機溶媒・非溶媒を混合溶解したポリマー溶液と、

中空部分となる芯液をチューブインオリフィスノズルから一緒に吐出して、中空糸形状を 成形する [13]。その後、水洗して脱溶媒し、グリセリンを付与した後に乾燥して巻き取ら れる [13]。

また、近年の紡糸技術の向上により、内表面が平滑化された非対称構造の CTA 膜

(Asymmetric Triacetate (ATA)膜(ニプロ株式会社、日本、大阪))が開発され、販売が 開始された。

再生セルロース、CDA、CTAの化学構造式を下記に示す(図1.5-1.7)。

図 1.5 再生セルロースの化学構造式

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図 1.6 CDAの化学構造式

図 1.7 CTAの化学構造式

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合成高分子系膜

合成高分子系膜として、ポリメチルメタクリレート膜(Poly(methyl)methacrylate、

PMMA)、ポリアクリロニトリル膜(Polyacrylonitrile、PAN)、エチレンビニルアルコール

共重合体膜(ethylene vinylalcohol copolymer、EVAL)、ポリアミド(Polyamide、PA)、ポ リスルホン膜(Polysulfone、PSf)、ポリエーテルスルホン(Polyethersulfone、PES)ポリ エステル系ポリマーアロイ膜(Polyester polymer alloy、PEPA)が開発されている。

1.8.2.1 ポリメチルメタクリレート( PMMA )

PMMA は汎用プラスチックとして広く使用されている [9]。汎用プラスチックがラジカ ル重合で作られるのに対し、透析膜のPMMAはメチルエステル基(-COOCH3)が主鎖炭 素鎖の片側にだけついたアイソタクティック型(iso-PMMA、螺旋状鎖)とメチルエステル 基が主鎖炭素鎖に交互についたシンジオタクティック型(syn-PMMA)とを混合して製膜 することで、透水性能や溶質透過性が調節されている [9]。これらを混合して湿式で凝固さ せると、PMMA鎖がステレオコンプレックスを作り、湿潤時の力学的強度の大きい血液透 析用の膜が得られる [14]。これは錯体を形成した PMMA 鎖がポリマー鎖をお互いに補強 しあうためである [14]。

PMMAは疎水性であるが、細孔を形成するために、中空糸膜に製膜する際に水を含ませ ている [9]。PMMA 膜は均質構造であるため、中空糸膜の内側から外側まで水や溶質の透 過抵抗となる [9]。そのため、細孔径をさらに大きくする必要があるといわれてきた [9]。

PMMA膜は蛋白付着量が多く、他の合成高分子膜に比べてβ2ミクログロブリンの吸着量 が多い。β2ミクログロブリンは分子量が11,800のタンパク質で、透析患者では血中濃度 が健常人の数十倍の50ppm程度であるが、この中分子量タンパク質は1980年代の中ごろ までは、血液透析では効率よく除去できず、体内に次第に蓄積されていた [9]。β2ミクロ グロブリンが重合して関節部に沈着しアミロイドを形成すると、手根管症候群とよばれる 疼痛の原因となる。1974年にPMMA膜が開発され、その後、1980年代の後半にPMMA 膜によってβ2ミクログロブリンを吸着で除去できることが報告された。

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iso- PMMAおよびsyn-PMMAの化学構造式を図1.8-1.9に示す。

図 1.8 iso-PMMAの化学構造式

図 1.9 syn-PMMAの化学構造式

1.8.2.2 PVP 配合透析膜( PSf, PES, PEPA )

セルロース系膜や EVAL 膜や PMMA膜などの合成高分子系膜では、主たる高分子素材 のみが使用されている。ところがPSf、PES、PEPAといった合成高分子系透析膜では、材 料の親水化ならびに細孔形成を目的に、親水化剤が使用されている。代表的な親水化剤はポ リビニルピロリドン(Poly(vinylpyrrolidone), PVP)がある。上述のようにPVPを添加す る目的は、疎水性材料を親水化することで生体適合性の向上を図ること、並びに細孔径の制 御という2つである。上記の材料はいずれも疎水性であるが、PEPAにはPVPを使用しな い膜もある [9]。世界的に見ても、最も使用されている膜素材は PSf である [9]。透水性、

溶質除去性能、生体適合性が高いことから、PSfは1980年代に製品化され、30年ほどの使 用実績がある [15]。

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16

PSf、PES、PEPA膜は、いずれも膜厚が30~50μmである。中空糸の内側に存在する

緻密層は1~2μmほど(膜透過性を規定)で、その他は機械的強度を維持するための支持

層である。つまり、PSf系透析膜は緻密層と支持層を持つ非対称構造となっている。非対称 構造の透析膜は透水性や溶質透過性を広い範囲で制御することが容易である。加えて、細孔 径分布もシャープにできるため、分子量分画特性が制御しやすい [9]。PSf膜は血液と直接 接触する内側表面にのみ緻密層を持つため、物質移動や水分移動の抵抗は小さい。この特性 を利用して、小分子溶質からβ2ミクログロブリンを超える大きな分子まで高い溶質透過性 を持たすことができるため、透析膜のみならず、濾過膜にも用いられている。

図1.10に示すように、同心円状に配置された口金より、溶媒を溶かしたポリマー溶液が 吐出され、その内側に非溶媒である水を含む液体を流し、界面から相分離が進行する [9]

[16]。その後、凝固・水洗浴にて溶媒および親水性のPVPの大半が洗い流され、中空糸膜

が形成される [9] [16]。

図 1.10 中空糸膜形成の模式図

(30)

17

PSf、PES、PEPAの化学構造式を、図1.11-1.13に示す。

図 1.11 PSfの化学構造式

図 1.12 PESの化学構造式

ポリエーテルスルホン(PES) ポリアリエート(polyarylate, PAR)

図 1.13 PEPAの化学構造式

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1.8.2.3 ポリビニルピロリドン( PVP )

膜の加工において、PVP は孔の形成と材料に対して親水性を付与するために用いられて いる [17]。したがって、膜の主たる材料にPVPを含有させることにより、透析膜表面への タンパク質の吸着は著しく減少する [18] [19]。そのため、血球の付着も少なく抑えられる。

1.8.2.3.1 PVP の化学構造

PVP は側鎖にピロリドン環を持つ水溶性高分子であり、水溶性、吸湿性、耐熱性、有機 溶剤や各種ポリマーとの相溶性、接着性に優れている [9]。PVPは第二次世界大戦中の1940 年に多く必要とされた輸血の代用品の体液補給物質の研究の中で開発され、その後、血漿増 量剤、利尿薬、解毒薬としても使用された [9]。PVPの化学構造式を図1.14に示す。

図 1.14 PVPの化学構造式

1.8.2.3.2 PVP の排泄と体内への蓄積

PVP自体は化学的に中性で、皮下、筋肉内、静脈内、髄腔内で刺激作用を示さない [9]。

水溶液の半数致死量(LD50)は12~40 g/kg(マウスやラットなどへの経口および静脈内投 与)であるが [9] [20]、日本薬局方には腫瘍活性に関する記述が認められる。生体内のPVP が排泄されるか、残留するかは、PVP の分子量、投与量、個体の抵抗性などに関係してい る [9]。生体内に投与されたPVPは、低分子量PVP(分子量60,000 以下)では短期間に 主に尿中より体外に排出される [9]。しかしながら、分子量が24,000 以上では抗原性があ るという報告もある [21]。一部は体内に一時蓄積されるが、静脈内への投与であれば、24 時間以内に90%が排泄される [9]。PVPはまず血管内壁に付着し、次に、組織間隙やリン パ腔に移行し、その後、細網内皮系に取り込まれる [9]。その後は、数日~1週間で消失す る [9]。比較的大きな分子量である平均分子量80,000~90,000のPVP溶液では、投与量の

50~75%が尿中に検出され、残りは体内に残留する [9]。動物実験では、分子量80,000以

上のPVPを多量に投与した場合には沈着現象が認められたことが報告されている [9]。ほ かにも、補体活性、抗体産生など、PVPが生体に及ぼす影響は依然懸念されている [9] [22]。

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1.8.2.3.3 PSf における PVP

PSf膜の最内表面は非常に緻密であり、透過型電子顕微鏡にて最内層には約10 nmの孔 が開いていることが直接観察でき、このことから製膜時にはPSf濃厚層と溶媒とPVPの濃 厚層に分かれて、膜を構成する粒子が成長していくものと考えられている [9]。PSf膜では、

PSfとPVP高分子が絡み合うようにして存在し、PSfの周囲をPVPが覆っている [9] [15]。

親水化剤であるPVPは水和し、水和層を形成している [9] [15]。これによって柔軟性が増 加する。膜内表面に水分を多く含んだ薄い層が形成されるが、この状態や分子運動性が膜内 表面の親水性、柔軟性、厚みに影響し、結果として、血小板、補体、凝固因子などの生体適 合性に影響を与えている [9] [15]。PVP を含有する透析膜を使用することにより、透析中 の血圧低下や血小板数減少を起こすことがある。その場合はPVP非含有のCTA膜やPAN 膜などのダイアライザ使用により透析中の血圧低下の消失が期待できる。

また、PSf膜ダイアライザのPVP溶出量や溶出時期など、いわゆるPVP溶出特性はPSf へのPVP配合量、ダイアライザの滅菌法や保管形態の違いにより、PSfダイアライザの銘 柄間で異なり、同一銘柄のダイアライザであっても保管期間の違いによりPVP溶出特性が 異なることが明らかとなっているため注意が必要である [23]。PVPは透析膜の生体適合性 に重要な役割を果たす親水性高分子であるが水溶性であるため、血液中に溶出する可能性 もある [23]。PVPは網内系に蓄積しやすく、肝臓障害を引き起こす可能性も指摘されてい る [21]。さらに、γ線滅菌PSf膜ダイアライザは滅菌時にPVPが架橋されることから溶出 量が低減されるが、架橋反応後のPVPは保管期間中に生じる酸化反応によって徐々に分解 され、保管期間の長期化に伴い充填液中の PVP 溶出量が増加することが報告されている [23] [24]。

ダイアライザにより抗血栓性に差があり、ヘパリンなどの抗凝固薬を増加しても残血が 著しい場合は、抗血栓性が高いPVP含有のダイアライザを選択することも考慮される。

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ダイアライザおよびヘモフィルタの滅菌

材料には、細菌類などの微生物が付着している可能性があり、そのまま人体に利用すると 感染するなど、人体に影響を及ぼすことがある。そのため、ダイアライザおよびヘモフィル タは滅菌して販売されている。滅菌の類語として、「消毒」と「殺菌」がある。厳密には、

「消毒」とは人に有害な微生物(病原微生物)を殺すこと、「殺菌」とは微生物を殺すこと、

「滅菌」とは病原性・非病原性を問わず、完全に微生物を死滅させるか、または、除外する ことと定義されている [26]。つまり、消毒と殺菌は一部の微生物を死滅させることを指す が、「滅菌」はすべての細菌を死滅させる必要がある [26]。滅菌は、ウィルスに対しては明 確になっていないが、問題となるのは、細菌と芽胞である [26]。芽胞は様々な因子に高い 抵抗性がある [26]。例えば、高温または乾燥に強く、そして、抗生剤に代表されるように 種々の薬剤に耐性がある [26]。微生物の数は、滅菌によって指数関数的に減少する [26]。

滅菌の効果は、滅菌方法、滅菌条件、細菌の種類によって異なる。ダイアライザおよびヘモ フィルタは、過去には、ホルマリン滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌が行われて いた。種々の問題があるために、現在はこれらの滅菌方法に代わって、高圧蒸気滅菌、ガン マ(γ)線滅菌、電子線により滅菌が行われている [26]。

ホルマリン滅菌

1.9.1.1 ホルマリン滅菌の歴史

ホルマリン滅菌はかつて使用されていたコイル型ダイアライザの滅菌用いられていた [27]。本邦では、後述する短所のために、ほとんど用いられていない。現在では、中国を除 くアジア諸国や米国におけるダイアライザの再使用のための滅菌法として使われている [27]。

1.9.1.2 ホルマリン滅菌の原理

ホルマリンは1%以上のホルムアルデヒドを含有する水溶液である。蒸気との混合気体が 芽胞形成菌外膜へ吸着および浸透することにより細菌の芽胞を死滅させる [28]。

1.9.1.3 ホルマリン滅菌の短所

ホルマリン滅菌の短所は、ホルマリンが体内に入ると、溶血、ヘマトクリットの低下、好 酸球増多症、肝障害などを起こす [29]。血液透析療法に関しては、ダイアライザの滅菌に ホルマリンを用いた場合、ダイアライザに残留したホルマリンが血中に移行し蓄積する [27]。100Lの蒸留水による洗浄後であっても、14C-formaldehydeを洗浄しきれなかったこ とが報告されている [27]。これらの副作用のため、ホルマリンはダイアライザの滅菌に用 いられることがなくなった [27]。

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EOG 滅菌

1.9.2.1 EOG 滅菌の歴史

エチレンオキシド(EO)には引火性・可燃性があるが、炭酸ガスと混合することによっ て引火性が低下するため、EOG滅菌がおこなわれるようになった [27]。現在ダイアライザ の滅菌にはほとんど使用されていないが、血液回路を含むその他の人工臓器(人工肺、補助 人工心臓、人工鼻など)の滅菌には頻繁に用いられている。

1.9.2.2 EOG 滅菌の原理

微生物における細胞内のタンパク質や核酸の酵素分子の末端基(アミノ基-MH2, カルボ キシル基-COOH, 水酸基-OH, スルホン基-SH)に、EOが化学結合することによって、EO の環状構造が開裂し、ヒドロキシメチル化する。これにより、代謝、増殖を抑制または不活 化して死滅させる方法である [27] [30]。

1.9.2.3 EOG 滅菌の利点

EOG滅菌は、特にダイアライザおよびヘモフィルタにとって、熱や湿度に弱い物質の滅 菌が可能であることが最大の利点である。そのほか、滅菌期間が長いこと、水蒸気に弱い乾 燥材料にも浸透しやすいことがある。高圧蒸気滅菌による方法(121℃以上)に比べ、低温

(60℃以下)で作用できるため、耐熱性の少ないゴム製品、プラスチック類、光学器械など の滅菌に用いられる [27]。

1.9.2.4 EOG 滅菌の短所

EOGの短所は、特にダイアライザおよびヘモフィルタにとって、材質によっては性能の 変性を起こす可能性が挙げられる [27]。さらに、人体に対する毒性が強く、特に目などへ の粘膜に対して刺激が強い。他にも、EOGの毒性を除去する目的でエアレーション(空気 にさらすこと)が必要であるため、滅菌処理時間が長い(約24時間程度必要)ことも短所 である。それ以外にも、残留したEOGによって、好中球増多症、高IgE血症、呼吸困難、

吐き気、血圧低下を起こすことがある [27]。またEOGは、血液透析用の血液回路としてよ く用いられている材料でもある軟質塩化ビニルに吸着しやすい特性があり、血中で溶血(赤 血球が壊れて、赤血球の内容物が血中に流出すること)を起こす [31]。高濃度でなくても、

EOGの蓄積により発がん性があるなど様々な生体反応をひき起こす [32]。

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高圧蒸気滅菌

1.9.3.1 高圧蒸気滅菌の原理

高温および高圧の飽和水蒸気の熱作用により、タンパク質や核酸を凝固変性させること で、微生物を死滅させる [26]。国際標準化機構(ISO)に高圧蒸気における滅菌条件は、

121 ℃ 15分、126 ℃ 10分、134 ℃ 3分と規定されている。

1.9.3.2 高圧蒸気滅菌の長所

高圧蒸気を用いる利点は、安価である水を用いること、無臭であること、熱を放出するこ とにより蒸気は水に戻るため無害であること、蒸気は微細な空間に浸透すること、および、

滅菌に必要な時間は、エアレーションが必要なEOG滅菌に比べて、高圧蒸気滅菌は10分 程度と短いことが挙げられる [33]。

1.9.3.3 高圧蒸気滅菌の短所

高温による変形や溶出、滅菌後の性能変化がダイアライザおよびヘモフィルタには大き な問題となる。それ以外に、乾燥に時間がかかり、完全に乾燥させないと滅菌効果が低下す ること、一度に大量の滅菌ができないことが短所である [27]。ダイアライザは中空糸内腔 がつぶれないように、中空糸が滅菌蒸留水にて満たされた状態で出荷されるウエットタイ プとニトログリセリンが塗布されたドライタイプのダイアライザがあるが、高圧蒸気滅菌 はドライタイプのダイアライザには適応できない。

1.9.3.4 高圧蒸気滅菌がダイアライザに及ぼす影響

過去の調査として、高木らは、ホルマリン滅菌、EOG滅菌、高圧蒸気滅菌、γ線滅菌の ダイアライザそれぞれの尿素、クレアチニン、vitamin B12などのクリアランスを比較し、

滅菌方法によって、これらの溶質クリアランスに差がないことを報告している [34]。一方 で、赤阪らは、アルブミンの篩係数の結果から、高圧蒸気滅菌では、高温高圧の蒸気によっ て細孔の拡大の可能性を報告している [35]。また、荘野らは、Hemophan®膜ダイアライザ を用いて、EOG滅菌、高圧蒸気滅菌、γ線滅菌における滅菌方法の違いによる検証を行っ た。白血球数、血小板数、血小板第4因子、β-トロンボグロブリン、活性化凝固時間は滅 菌法による差はなかったが、高圧蒸気滅菌において、補体(C3a)が高値だったことから、

高圧蒸気滅菌において何らかの変性が生じた可能性があると考察している [36]。

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γ線滅菌

1.9.4.1 γ線滅菌の原理

γ線滅菌は、放射性同位元素(コバルト 60)を含む線源からγ線を照射することによっ て微生物を死滅させる方法である [27]。電離放射線におけるγ線は、自ら放射線を放出す る能力を持つ放射性同位元素であるコバルト60が崩壊する際に放出される [37]。γ線の滅 菌の原理は、γ線を物質に照射すると、まず、γ線が照射された物質の原子の電子にエネル ギーを与える [38]。電子が原子から放出されることを電離作用という [38]。電離作用によ って放出された電子が他の原子に衝突することによって、微生物などの細胞に影響を与え る。特に、遺伝情報を担うdeoxyribonucleic acid(DNA)は細胞の核の中に存在し、核は 生体の細胞の中でも比較的大きいため、電子が衝突しやすい。そのため、電離作用により放 出された電子が細胞内のDNAを損傷させることによって、微生物は死滅する [38]。

1.9.4.2 γ線滅菌の長所

ダイアライザおよびヘモフィルタの滅菌にとっての最大の長所は、γ線の物質透過性が 高いことにより、最終包装の状態にて滅菌できる [27]。そのため、滅菌後は外部の包装を 開けるまで無菌状態を維持できる。市販品の多くは、ダイアライザを袋で包装し、それを段 ボールに梱包した状態で滅菌されている。さらに、ウエットタイプおよびドライタイプのダ イアライザの滅菌が可能である。他にも、滅菌力が強い、高圧蒸気滅菌と異なり、一度に大 量の滅菌が可能、EOGのように残留がないことなどがある [27]。

1.9.4.3 γ線滅菌の短所

一方で、γ線滅菌ではエネルギーの大きな放射線(25kGy)を照射するため、ダイアライ ザおよびヘモフィルタにとって、過剰な照射は素材の劣化を招くおそれがあることが最大 の短所である。ただし、γ線自体が材料を劣化させるのではない [38]。まず、γ線が物質 に照射されると、その物質の原子の中から電子が放出される。その放出された電子が材料に 衝突する際に材料を劣化させると考えられている [38]。なお、Gy(グレイ)とは、放射線 を照射したときにどのくらいのエネルギーを吸収したかを表す単位である [39]。1 Gy程度 の放射線が人体に照射されると、造血系の機能低下や、水晶体の白濁が認められることがあ る [39]。さらに、物質透過性が高いコバルト60のγ線を使用するため、γ線を照射する施 設は放射線安全管理のために、放射線が外に漏れないための厚さ 2m のコンクリートなど での遮蔽、インターロック(ある一定の条件が整わないと他の動作ができなくなるような安 全機能のこと)などの設備や装置の費用がかかる [27]。

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24

1.9.4.4 γ線滅菌がダイアライザに及ぼす影響

高分子に放射線を照射すると、分子内から電子が放出され、これらの電子が高分子に衝突 することによって、架橋(高分子と高分子が化学結合によって結合すること)または分子が 崩壊する [27]。架橋を起こすと分子が互いに結合することにより、分子量は大きくなり、

分子が崩壊すると分子量は小さくなる [27]。高分子は分子が大きいために、架橋または分 子崩壊を起こすと、高分子の性質は変化する [27]。高分子が架橋されると、機械的な強度 は増強する [27]。しかし、架橋は照射の条件だけではなく、PVPなどの添加剤の配合割合 によっても影響を受ける [27]。荘野らは、EOG、高圧蒸気、γ線によって滅菌された

Hemophan 膜ダイアライザにて透水性の調査を行った結果、γ線滅菌のダイアライザにお

いて透水性能の低下を認め、軽度ではあるもののγ線が膜構造に変化を与えた可能性を報 告している [36]。

電子線滅菌

1.9.5.1 電子線滅菌の原理

電子加速装置を使用して人工的に放出される電子が微生物へ衝突することにより、電子 が微生物の細胞内のDNA を損傷させることによって、微生物は死滅する [28] [38]。γ線 と異なり、電子加速装置から放出された電子自体が他の原子へ衝突することで微生物を死 滅させることができる [38]。

1.9.5.2 電子線滅菌の長所

γ線滅菌は放射性物質であるコバルト60の取り扱いに注意が必要であるが、電子線滅菌 は電子加速装置から人工的な電子線を放出させるため安全である [38]。γ線滅菌の照射時 間は数時間であるのに対し、電子線滅菌では高線量(単位時間当たりの照射量はγ線の1万 倍程度)を照射することができるため、数秒程度の照射時間で滅菌が可能であり、その照射 時間の短さが透析膜の劣化を抑えている [27] [38]。

1.9.5.3 電子線滅菌の短所

γ線は物質透過性が大きいことが長所であったが、電子線はγ線よりも物質透過性が小 さいために、電子線を均等に照射することが難しい。電子線滅菌では、照射位置によって線 量が異なる。そのため、電子線の照射が最小の位置で滅菌が可能だったとしても、電子線の 照射量が最大の位置では素材が劣化する可能性がある [27]。電子線滅菌は、電子加速装置 から電子を照射するために、その電子によって滅菌ができるが、同時に物性が変化する [38]。

現在、日本では電子線滅菌のダイアライザやヘモフィルタは販売されていない。

現在の主流の滅菌方法である、高圧蒸気滅菌とγ線滅菌の特性を表1.2とに示す [27]。

(38)

25 表 1.2 各種滅菌法の利点と短所

考慮すべき項目 高圧蒸気滅菌 γ線滅菌

対象となる素材 熱および蒸気に強い素材の 選定が必要

放射線に強い素材の選定が 必要

滅菌工程で設定が 必要な項目

圧力(約2気圧)温度(主に 121℃ 、 ほ か に 126℃ と 134℃)

線源の強さ(約25kGy)

滅菌時間 15~20分 数時間

滅菌後に必要な処理 乾燥 なし

性能の変化 大 小

設備・装置にかかる費用 小 大

滅菌の定量的な考え方

任意の時間 tに生存している菌数をN、滅菌操作開始後の菌の死滅速度定数をkとする と、Nの減少速度をNの1次式で表現できる。すなわち、

−𝑑𝑑𝑑𝑑

𝑑𝑑𝑑𝑑 =𝑘𝑘𝑑𝑑 (1.1) である。これを積分すると、

ln𝑑𝑑=−𝑘𝑘𝑑𝑑+ ln𝑑𝑑0 (1.2)

となる。初期条件(t = 0)として与えられる菌数N0は、滅菌開始直前の菌数なので、こ れは生菌数に等しい。この関係を対数的死滅則という。kは滅菌時間に対して、そのとき の生存菌数をプロットすることで、式(1.2)から求める。しかし、kからは菌の抵抗性の具 体的な意味がわかりにくいので、滅菌状態においては、kの逆数で定義されるD値が用い られることがある。

(39)

26 𝐷𝐷=1

𝑘𝑘 (1.3)

D値は菌を滅菌処理した場合、それが対数的死滅則に従うのであれば、その処理条件で、与 えられた菌数を1/10(90%死滅)にするのに必要な時間を表す。

有効期限・洗浄方法

各種滅菌法による有効期限は、滅菌対象物によって異なるが、3年とされていることが多 い。

またダイアライザおよびヘモフィルタは使用前に、十分な洗浄および気泡の除去が必要 である。この洗浄および気泡の除去のことをプライミングという。プライミング方法はそれ ぞれの添付文書に記載されている。手順はそれぞれのダイアライザおよびヘモフィルタに よって多少異なるが、生理食塩液1.0 Lを100~150 mL/minくらいの流量で血液側回路と ダイアライザ内にシングルパスで流すことで洗浄する。透析液側はおよそ 500 mL/minの 流量で透析液を 5 分以上流して洗浄する。中空糸内の気泡の除去が不十分な場合は、生理 食塩液の追加により血液側に限外濾過をかけながら洗浄を行う。最近は、生理食塩水ではな く、透析液を用いてプライミングを行う施設もある。

(40)

27

血液透析と血小板の活性化のメカニズム

体外循環と凝固のメカニズム

通常、生体内において、血管内を流れている血液は凝固しない [40]。血管壁に損傷が起 こった場合、血管外に血液が出た場合、異物と血液が接触した場合などには血液は凝固する [40]。血液が凝固する際には、凝固因子が活性化し、最終的にフィブリンが形成されること で、血液は凝固する [40]。

血液は、気泡を含めたすべての非内皮細胞表面において反応する。血液透析中に患者の血 液は、穿刺針、血液透析回路、透析膜と接触する [40]。これらの表面はいずれも血液凝固 を引き起こして、血液回路の閉塞をおこす可能性がある [40]。そこで、体外循環時にはヘ パリンを代表とする凝固を予防する抗凝固剤を使用するが、血液適合性に劣る医療材料の 場合、血液は一次止血、二次止血へと進み、最終的には凝固する。一次止血には血小板が、

二次止血には凝固因子が関与する。血液適合性の改良は透析治療に関連した合併症の予防 につながり、微小炎症の緩和により疾病の進行を遅らせることが期待できる。微小炎症は、

動脈硬化症、血管石灰化、アミロイドーシスなどの透析に関連した合併症を発生させる可能 性があり、これらは予後を短くする因子でもある [41]。血液非適合性は、栄養失調、アテ ローム性動脈硬化症の促進、血栓などの合併症の原因となる [42]。

血小板 1.10.2.1 血小板

血小板は、造血骨髄幹細胞前駆体に由来する [43]。一旦循環中に放出されると、成熟血 小板は7~10日の寿命を有する。その後、主に脾臓で処理される。血小板数の正常値は15 万~40 万個/μL である。血小板数が減少すると、血栓を形成する一次止血が行われにくく なる。このため、皮下出血や皮膚の点状出血、斑状出血、口腔内の出血、鼻血、黒便、血尿 など様々な症状が認められる。

1.10.2.2 血小板の構造

静止時の血小板は直径2~4μmの円盤状で、無核の微小細胞である。しかし、その内部 のα顆粒には、β-トロンボグロブリン(β- thromboglobulin, β-TG)、血小板第 4 因子

(platelet factor 4, PF4)、von Willbrand因子(vWF)、濃染顆粒にはADP、ATP、セロト ニンなど様々な物質を含んでいる。また血小板膜表面にはフィブリノーゲンと結合する受 容体である膜糖蛋白(Glycoprotein、GP)のGPIbやGPⅡb/ⅢaなどのGPが存在してい る。

(41)

28

透析患者の血小板

透析患者の血小板数は、健常人よりも減少していることが多い。その理由は、ヘパリン(抗 凝固剤)の投与、尿毒素、敗血症、除水による血液減少、骨髄抑制などによる [44]。血小板 の寿命が短くなると、骨髄での血小板産生が増加し、未成熟および巨大血小板の分泌が増加 する。過剰反応性の血小板は冠状動脈内血栓の形成を促進し、急性冠症候群のような一連の 臨床事象をもたらす [45]。巨大血小板は血栓形成促進性のサイトカインを含み、周囲の細 胞に影響を与える可能性がある [46]。

血小板の活性化

中空糸膜と血液を繰り返し接触させると、白血球、血小板、赤血球などの血球を直接活性 化するか、あるいは血小板を含む炎症性カスケードを活性化することに加えて、凝固カスケ ードおよび補体経路を活性化する。補体の活性の結果、血小板の活性化がおこり、血小板凝 集をもたらす。血小板の凝集は、透析開始直後における血小板数の潜在的な減少に関係する。

さらには、好中球が活性化すると、血小板活性化因子を放出する [47]。これらの生物学的 応答は互いに影響を与えるだけでなく、血流条件および濾過速度、ならびに血液中への透析 液の流れの量によっても変化する。従って、生物学的応答は血液透析中に様々な要因によっ て影響を受ける。

透析膜との接触により血小板が活性化し、透析膜や血液回路表面に粘着・凝集し血栓を形 成する。血小板の活性化は、β-TG、PF4、血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor, PDGF)などの産生および放出を促す [48]。血小板は陰性荷電を帯びているために、

陽性荷電膜において血小板の活性化は強く表れる。また透析膜との接触により血小板が活 性化し、顆粒球内の P-セレクチンが血小板の表面に移動することによって発現し、好中球

表面のP-セレクチンリガンドと結合する [48]。こうして、血小板-好中球複合体が形成さ

れ、この複合体が活性酸素やサイトカインなどを誘導する [48]。

血球は活性化および阻害を介して互いに調節する。血小板は透析膜表面で活性化され、血 小板同士で凝集塊を作る場合や、顆粒球や単球などと凝集塊を作ることがある [49]。一方 で、血小板と白血球は互いに活性化または阻害する。活性化した血小板は白血球に結合し、

それによって白血球を活性化することがある。血液透析療法中に形成される血小板-白血 球微小凝集塊は、活性酸素の産生を含む好中球活性化を引き起こすことも示されている [50]。これによって、血小板数が一過性に減少する [49]。一方、活性化白血球から放出され た活性酸素種も血小板を活性化する [51]。活性酸素の生成は、トロンビンを活性化し、血 小板の凝集を誘発する [52]。長期にわたる反復血液透析療法中の活性酸素による血管内皮 へのわずかな損傷の蓄積は、血液透析関連合併症を引き起こし得る [50]。

(42)

29

血小板の粘着

血液は体外循環によって、血球成分は損傷を受ける。血球が損傷する原因は、血液回路内 の高い圧力、ローラポンプによって生じるずり応力、血液回路表面などの異物との接触など がある [53]。血液透析膜などの人工材料表面への血液の曝露により(図1.15)、血漿タンパ ク質はほぼ瞬間的に層を形成する(図1.16) [42]。この血漿タンパク質はvWF も含まれ るが、多くはフィブリノーゲンである。

図 1.15 血中に含まれる血小板と異物の接触

図 1.16 異物へフィブリノーゲンが付着

フィブリノーゲンと血小板が接触することにより、血小板は形状を変化させ、偽足を出す

(図1.17)。

(43)

30

図 1.17 フィブリノーゲンと血小板の接触および血小板の形状変化

活性化した血小板はGPⅠb(図1.18)を介して異物に付着したフィブリノーゲンと結合 する。

図 1.18 血小板の受容体GPⅠbの発現

そして、血流により生じる力で血小板はフィブリノーゲンの上を揺れるようにローリン グ(rolling)する。血小板のローリングが続くとさらに強固な粘着が起こり、GPⅡb/Ⅲaが 関与する(図1.19)。このとき、血小板は平たく広がった形状に変化する(スプレッティン グ、spreading)。

(44)

31

図 1.19 血小板受容体GPⅡb/Ⅲaの発現と血小板のスプレッティング

GPⅡb/Ⅲa が関与する血小板のスプレッディングは、強く粘着し、血流による剪断応力

に抗するのに重要であり、また次の血小板がさらに粘着を起こすために必要である。

血小板の凝集

活性化した血小板上に多数存在する活性化 GPⅡb/Ⅲaは、フィブリノーゲンを介して他 の血小板のGPⅡb/Ⅲaとも結合する(図1.20)。

図 1.20 血小板同士の粘着と血小板内容物の放出

図  1.5  再生セルロースの化学構造式
図  1.7  CTA の化学構造式
図  1.8  iso-PMMA の化学構造式  図  1.9  syn-PMMA の化学構造式  1.8.2.2 PVP 配合透析膜( PSf, PES, PEPA ) セルロース系膜や EVAL 膜や PMMA 膜などの合成高分子系膜では、主たる高分子素材 のみが使用されている。ところが PSf、PES、PEPA といった合成高分子系透析膜では、材 料の親水化ならびに細孔形成を目的に、親水化剤が使用されている。代表的な親水化剤はポ リビニルピロリドン(Poly(vinylpyrrolidone), PV
図  1.11  PSf の化学構造式
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参照

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