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考察

ドキュメント内 著者 東郷 好美 (ページ 81-96)

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第 4 章 考察

中空糸膜の構造の違いによる血液適合性の検証

中空糸膜の表面構造が血液適合性に与える影響を検証するために本研究をおこなった。

その結果、実験終了時には、ATA®膜とCTA膜における血小板数と血小板表面マーカ(CD41、

CD42b)はともに低下し、血小板放出因子(β-TG、PF4)は増加した。しかしながら、ATA®

膜とCTA膜におけるこれらの値に有意な差は認められなかった。

血液透析患者は血液透析を導入する段階で尿毒症症状を併発しており、その尿毒症症状 により血小板機能の異常が起こりうる [80]。また、血液透析治療を行った場合、血小板、

凝固および線溶系の機能が乱される可能性があり、血栓性または出血性の合併症の一因と なる [81]。さらに、透析膜の血液非適合性は、生存率の低下、死亡率の増加、quality of life

(QOL)の低下、血小板機能低下 [76]、慢性的な血小板活性化 [56]、巨大血小板の産生 [45]、

アテローム性動脈硬化症の発症および進行 [82]、プラーク不安定化による循環器系疾患

(cardiovascular disease; CVD)のリスクの増加 [45]に影響を与えるといわれており、透 析膜の改良が行われてきた。

セルロースベースの材料は、歴史的に最も古くから透析膜として使用されており、今日も なお一般的に使用されている膜素材の1つである [77]。そのうちでも最古の素材は綿花を 煮だして製膜した再生セルロース膜である。再生セルロース膜の表面には、セルロース骨格 が有するアルコール性のヒドロキシ(OH)基が露出しており、これが生体内タンパク質の 一つである補体を活性化し、さらにこれが一過性の白血球減少(transient leukopenia)を 引き起こす。そのため、OH基はアセチル基でマスクされ、生体適合性は劇的に改善された。

一つの骨格内にある一つのOH基を置換したものがCellulose acetate (CA)、二つのOH 基を置換したものが Cellulose diacetate (CDA)、三つとも置換したものが Cellulose triacetate (CTA)である。

近年、透析膜の物理的な改良の一つとして、透析膜表面の粗さ(粗度)の改善が進められ てきた。この目的のために、新しい紡績技術によって、CTA膜を改良したATA®膜が開発さ れた。従来のCTA 膜は膜全体が均一な均質構造を有するが、この新たに開発されたATA® 膜は非対称構造を有し、血液と接触する中空糸の内側平表面に緻密層を持ち、半径方向に次 第に粗となる。CTA膜は、タンパク質の吸着容量が少ないことが特徴とされてきたが、ATA® 膜では膜の内側表面が高密度で、次第に粗となる構造によって、結果的に中空糸内面が滑ら かになり、CTA膜よりもタンパク質の付着がさらに少なくなることが期待されている。

過去に、膜表面粗さの異なる再生セルロース膜の比較において、膜表面の粗さは血小板の 活性と粘着に影響することが報告されている [83]。そのため、CTA膜よりも、膜表面が滑 らかなATA®膜において、血小板の活性や付着が少ないという仮説を立てたが、両者間にお いて血小板数の減少や血小板の活性に有意な差は認められなかった。この一つの理由とし

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て、CTA膜自体が既に優れた生体適合性を有しており、今回の改良(ATA®膜)に伴う更な る変化の観察が困難だったものと思われる。

血小板数の変化

今回の検討では、図3.1より、ATA®膜とCTA膜における血小板数の変化はほぼ同じであ った。血小板の活性化は血液透析の過程で起こり得ることが報告されている [56]。血小板 は透析膜表面で活性化されると、単独あるいは顆粒球や単球など他の血液成分と凝集塊を 作る。そのため一過性の血小板数の減少が生じる [84]。また、中空糸膜の内側表面への血 小板接着も、血小板数の減少の原因であるとも考えられている [85]。しかしFE-SEMで行 った実験後の膜表面の観察によると、膜表面に付着している細胞成分は両膜ともに極め僅 かであった。このことから、血小板数減少の主な成因は、膜表面への直接的な付着ではなく、

他の血液成分との凝集塊の生成にあると考えられる。

血小板数減少の程度については、ほとんどの血液透析後において、血小板数は5~15%低 下することが報告されている [56]。また、透析中に血小板数の著しい減少(50%以上)が おこり、軽度の血小板減少症をもたらす慢性血液透析患者の症例が多く報告されているこ とや、健常人の血小板数が約25万個であるのに対し、血液透析導入直前の腎不全患者や血 液透析患者の血小板数は17.5~18 万個と減少傾向にあること、そして、臨床的に有意な血 小板減少症(出血リスクの上昇)は、約2万個未満の場合に起こることなど [56]から、血 液透析中の血小板数の変化には注意しなければならない。本研究におけるin vitroの検証で は、僅かな量のヒト全血(400 mL)を4時間再循環しているので、血液中の成分が膜表面 に暴露される頻度は、4000 mLの血液が循環する臨床の条件に比較して、およそ10 倍(=

4000 mL/400 mL)過酷である。そのため、ここで得られた血小板減少率は大きな数値(お

よそ44 % = 1-14万個/25万個)を示したが、この低下率を医学的な根拠で議論すること

はできない。逆に、このように過酷な実験系で評価を行えば、デバイスの安全性の担保に有 効と考えられる。

タンパク質は一般に界面活性を有するため、疎水性相互作用により、疎水性表面にタンパ ク質が吸着する。親水性の透析膜よりも疎水性の透析膜へ血小板の粘着と活性が多いこと が報告されている [86] [50]。今回の検討では、ATA®膜およびCTA膜はともに親水性であ るため、疎水性・親水性の観点から、血小板数の減少に有意差が認められなかったと推測し た。

血小板表面マーカ( CD41, Cd42b )

今回の検討では、図3.2と3.3の結果より、血小板表面マーカであるCD41とCD42bの 循環開始前に対する実験終了時の平均減少率は、ATA®膜において16.4%と15.3%、CTA膜

において15.5%と15.4%であり、有意な差は認められなかった。CD41は活性化依存性受容

体GPⅡb /Ⅲaに対するマーカであり、CD42bはGPⅠbαに対するマーカである [56]。中

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空糸の膜素材などによって異なるが、血液透析中のほとんどの場合、血小板が中空糸に付着 する。その理由は、以下の通り考えられている。まず、血液が中空糸内を通る間にフィブリ ノーゲンが中空糸膜表面に結合する。次に、中空糸に結合したフィブリノーゲンは血小板上

の GPⅠbαに粘着する。さらに強固な粘着がおこると GPⅡb/Ⅲa が発現する [56]。最終

的に、血小板が中空糸に吸着する。

川端は、活性化された血小板の膜表面では膜表面の受容体の発現量が変化すると報告し ている [87]。さらに、MascelliらはCD41が50 %以上減少した場合には、体外循環後、

凝集障害の危険性が有意に高まると報告している [88]。前述のように、今回の in vitroの 検証は、臨床に比べ10倍以上過酷な条件で行われているにもかかわらず、ATA®膜とCTA 膜における血小板マーカの低下率は、いずれも50 %未満であった。その理由として、いず れの膜を用いた場合にも中空糸の内部が血栓閉塞してしまう程の強力な凝固にまでは至ら なかったことが考えられる。

血小板放出因子(β -TG, PF4 )

血小板は透析膜と接触することで活性化され、活性化された血小板はさまざまな因子を 放出する [89]。β-TGとPF4、およびP-セレクチンは血小板の顆粒中に含まれる血小板固 有タンパク質である。静止している血小板において、β-TG、PF4 および P-セレクチンは 血小板内のα-顆粒に貯蔵されている。血液中で凝固亢進が起こり、トロンビンなどが生成 されると、血小板は活性化されて、P-セレクチンは細胞表面に転位し、β-TG および PF4 は血小板から放出される。β-TGとPF4レベルの変化は、透析中の血小板脱顆粒および血 小板活性化の有用な指標であるとされている [56]。つまり、β-TGとPF4は数値が高いほ ど、血小板の活性が強いことを示している。

川西は、血小板と透析膜との接触により活性化された血小板はβ-TG の産生と放出を促 すと報告している [90]。また、疎水性の強い透析膜では接触直後から、β-TG が上昇する と報告されている [89]。また、β-TG の血中での増加はセルロース系膜で高く、合成高分 子系膜で少ないことも知られている。同様に、PF4 は血小板の顆粒中に含まれる血小板固 有タンパク質で、抗ヘパリン作用を有する。血液中で凝固亢進が起こり、トロンビンなどが 生成されると、血小板は活性化されてPF4が血小板から放出される。

つまり、β-TGもPF4も数値が高いほど、血小板の活性が強いことを示している。今回の 検討では、図3.4と3.5の結果より、循環開始時に対する実験終了時のβ-TGとPF4の平 均増加率はそれぞれ、ATA®膜において7.9倍と16.0倍、CTA膜において12.8倍と21.8 倍であり、ATA®膜とCTA膜におけるβ-TGとPF4に有意差は認められなかった。ただ し、ATA®膜はCTA膜よりもこれらの値が低い傾向にあったため、血小板の活性がより少 なかった可能性も考えられる。

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FE-SEM における中空糸内部の観察

今回の検討では、FE-SEM によるATA®膜とCTA 膜の中空糸内表面の観察を行ったが、

中空糸表面における血小板の付着は、図3.6と図3.7より、ほとんど認められなかった。

CTA 膜の表面はATA®膜よりも凹凸が目立つことが報告されている [91]。また、内表面 が平滑であるほど、膜表面近傍の血液が流れやすくなり、血小板の活性が抑制されることを 明らかにされている [86]。ATA®膜、CTA膜、PSf膜の表面の粗さを原子間力顕微鏡を用い て計測した結果、それぞれ4.5, 5.5, 9.2 nmという報告がある [72]。PSf膜と比較し、ATA® 膜とCTA膜の膜表面の粗さは約半分であり、十分に滑らかであり、さらに、血小板の大き

さが2~4μmと膜の粗さに対し十分に大きいことから [92]、血小板の粘着は両者間に有意

な差が認められなかったものと考えられる。

中空糸膜の構造の違いによる血液適合性の検証:小括

ATA®膜はCTA膜よりも血小板数の減少と血小板放出因子(β-TG、PF4)が少ない傾向 にあったが、有意差は認められなかった。また、血小板表面マーカ(CD41、CD42b)の発 現率はATA®膜とCTA 膜において90 %以上を保っていた。血液透析患者は抗凝固剤を使 用するため、出血のリスクが高まる可能性がある。しかしながら、ATA®膜やCTA膜を用い ることによって、血小板数が保持され、出血のリスクが回避できる可能性が期待できる。

血小板の活性化は、膜材料および膜の表面粗さに応じて強く生じる。さらに、透析中の患 者では血小板の反応性が高まるため、より滑らかな表面の膜から成るダイアライザを使用 することが望ましい。

中空糸膜の滅菌方法の違いによる血液適合性の検証

中空糸膜の滅菌の違いが血液適合性に与える影響を明らかにする目的で、本検討を行っ た。結果として、γ線滅菌のPSf_γ線(商品名:APS-11SA)と高圧蒸気(autoclave;AC)

滅菌のPSf_AC(商品名:RENAK PS-1.0)において血小板数の変化、血小板表面マーカ、

血小板放出因子に差がないことを明らかにした。

近年の血液透析療法では溶質除去能の高さから、PSf膜のダイアライザが最も広く使用さ れている [82]。医療用具であるダイアライザは、製造工程で滅菌されて出荷、販売されて いる。また、現在の滅菌方法はγ線滅菌と高圧蒸気滅菌が主流である。そこで本検討では膜 素材および製造工程が同一の PSf 膜を使用して、滅菌法が生体適合性に及ぼす影響を検討 した。膜素材が同じであっても、滅菌方法は生体適合性に影響を及ぼし得るとの報告がある

[56]。国外では、電子線滅菌のPSf膜ダイアライザが市販されており、これを使用した際の

血栓塞栓症の報告がある [47]。しかしながら、本邦では電子線滅菌のダイアライザは市販 されていない。そのため、今回の研究では、γ線および高圧蒸気で滅菌された PSf 膜ダイ アライザの生体適合性を比較した。

ドキュメント内 著者 東郷 好美 (ページ 81-96)

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