第 1 章 緒言
1.9.5.3 電子線滅菌の短所
γ線は物質透過性が大きいことが長所であったが、電子線はγ線よりも物質透過性が小 さいために、電子線を均等に照射することが難しい。電子線滅菌では、照射位置によって線 量が異なる。そのため、電子線の照射が最小の位置で滅菌が可能だったとしても、電子線の 照射量が最大の位置では素材が劣化する可能性がある [27]。電子線滅菌は、電子加速装置 から電子を照射するために、その電子によって滅菌ができるが、同時に物性が変化する [38]。
現在、日本では電子線滅菌のダイアライザやヘモフィルタは販売されていない。
現在の主流の滅菌方法である、高圧蒸気滅菌とγ線滅菌の特性を表1.2とに示す [27]。
25 表 1.2 各種滅菌法の利点と短所
考慮すべき項目 高圧蒸気滅菌 γ線滅菌
対象となる素材 熱および蒸気に強い素材の 選定が必要
放射線に強い素材の選定が 必要
滅菌工程で設定が 必要な項目
圧力(約2気圧)温度(主に 121℃ 、 ほ か に 126℃ と 134℃)
線源の強さ(約25kGy)
滅菌時間 15~20分 数時間
滅菌後に必要な処理 乾燥 なし
性能の変化 大 小
設備・装置にかかる費用 小 大
滅菌の定量的な考え方
任意の時間 tに生存している菌数をN、滅菌操作開始後の菌の死滅速度定数をkとする と、Nの減少速度をNの1次式で表現できる。すなわち、
−𝑑𝑑𝑑𝑑
𝑑𝑑𝑑𝑑 =𝑘𝑘𝑑𝑑 (1.1) である。これを積分すると、
ln𝑑𝑑=−𝑘𝑘𝑑𝑑+ ln𝑑𝑑0 (1.2)
となる。初期条件(t = 0)として与えられる菌数N0は、滅菌開始直前の菌数なので、こ れは生菌数に等しい。この関係を対数的死滅則という。kは滅菌時間に対して、そのとき の生存菌数をプロットすることで、式(1.2)から求める。しかし、kからは菌の抵抗性の具 体的な意味がわかりにくいので、滅菌状態においては、kの逆数で定義されるD値が用い られることがある。
26 𝐷𝐷=1
𝑘𝑘 (1.3)
D値は菌を滅菌処理した場合、それが対数的死滅則に従うのであれば、その処理条件で、与 えられた菌数を1/10(90%死滅)にするのに必要な時間を表す。
有効期限・洗浄方法
各種滅菌法による有効期限は、滅菌対象物によって異なるが、3年とされていることが多 い。
またダイアライザおよびヘモフィルタは使用前に、十分な洗浄および気泡の除去が必要 である。この洗浄および気泡の除去のことをプライミングという。プライミング方法はそれ ぞれの添付文書に記載されている。手順はそれぞれのダイアライザおよびヘモフィルタに よって多少異なるが、生理食塩液1.0 Lを100~150 mL/minくらいの流量で血液側回路と ダイアライザ内にシングルパスで流すことで洗浄する。透析液側はおよそ 500 mL/minの 流量で透析液を 5 分以上流して洗浄する。中空糸内の気泡の除去が不十分な場合は、生理 食塩液の追加により血液側に限外濾過をかけながら洗浄を行う。最近は、生理食塩水ではな く、透析液を用いてプライミングを行う施設もある。
27
血液透析と血小板の活性化のメカニズム
体外循環と凝固のメカニズム
通常、生体内において、血管内を流れている血液は凝固しない [40]。血管壁に損傷が起 こった場合、血管外に血液が出た場合、異物と血液が接触した場合などには血液は凝固する [40]。血液が凝固する際には、凝固因子が活性化し、最終的にフィブリンが形成されること で、血液は凝固する [40]。
血液は、気泡を含めたすべての非内皮細胞表面において反応する。血液透析中に患者の血 液は、穿刺針、血液透析回路、透析膜と接触する [40]。これらの表面はいずれも血液凝固 を引き起こして、血液回路の閉塞をおこす可能性がある [40]。そこで、体外循環時にはヘ パリンを代表とする凝固を予防する抗凝固剤を使用するが、血液適合性に劣る医療材料の 場合、血液は一次止血、二次止血へと進み、最終的には凝固する。一次止血には血小板が、
二次止血には凝固因子が関与する。血液適合性の改良は透析治療に関連した合併症の予防 につながり、微小炎症の緩和により疾病の進行を遅らせることが期待できる。微小炎症は、
動脈硬化症、血管石灰化、アミロイドーシスなどの透析に関連した合併症を発生させる可能 性があり、これらは予後を短くする因子でもある [41]。血液非適合性は、栄養失調、アテ ローム性動脈硬化症の促進、血栓などの合併症の原因となる [42]。