イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展 とソーシャルワーク : 「選択とコントロール」の 拡大とソーシャルワークの役割
著者 永田 祐
雑誌名 評論・社会科学
号 109
ページ 13‑34
発行年 2014‑07‑20
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013700
要約:イングランドでは,クライエントの「選択とコントロール」を拡大することを目的 としたパーソナリゼーションと総称される成人社会サービスの改革が推進されている。本 研究の目的は,こうした改革においてソーシャルワークにどのような役割が期待されてい るかを整理し,ソーシャルワーカー自身の認識を質的に分析することで,「選択とコントロ ール」が拡大する中で求められるソーシャルワークの役割を検討することである。調査の 結果,多くのワーカーは,政府が提案したプランニングや仲介,コミュニティディベロッ プメントといったクライエントの「選択とコントロール」を拡大するための創造的な役割 ではなく,需給資格基準の審査やリスクの査定,「選択とコントロール」が難しい人の保護 を自らの役割として認識していた。このことから,パーソナリゼーションの進展によって ソーシャルワークが管理的な業務から解放されるというよりは,いっそうそうした役割に 限定されるようになっていることが示唆された。
キーワード:パーソナリゼーション,選択とコントロール,本人主導の支援
目次 1.はじめに
2.イングランドにおけるソーシャルワーカーの役割の変遷 2−1.パーソナリゼーション以前のソーシャルワーカーの役割 2−2.「本人主導の支援」(self-directed support)への転換 2−3.「本人主導の支援」におけるソーシャルワークの役割 3.分析枠組みと研究方法
3−1.ソーシャルワークの役割 分析枠組み 3−2.方法
4.結果
4−1.アセスメント 4−2.プランニング・仲介 4−3.権利擁護
4−4.コミュニティディベロップメント 4−5.困難ケース
5.考察
────────────
†同志社大学社会学部准教授
*2014年5月8日受付,2014年5月8日掲載決定
論文
イングランドにおけるパーソナリゼーションの 進展とソーシャルワーク
──「選択とコントロール」の拡大とソーシャルワークの役割──
永田 祐
†13
1.はじめに
イギリス(以下特に断りのない場合,本稿ではイングランドの例を取り上げる)は,
パーソナリゼーション(personalisation)と総称される「過去
60
年間でもっとも大きな 成人社会サービスに対する改革」(The Law Commission, 2011)のさなかにある。この 方向性は,労働党政権によって強力に推進されてきたが,保守党と自由民主党の連立政 権成立以後も大きく変化しておらず,党派の違いを超えた合意事項となっているといっ てよい(Lymbery, 2012 : 784)。パーソナリゼーションとは,サポートが個別のニーズ や希望に沿った形で提供されるという意味合いのほかに,どのようなサポートが必要か を自ら選択し,そのための予算を自らコントロールしていくという意味で使われている(HM Governemnt, 2007)。これをソーシャルワークの支援プロセスに則していえば,ア セスメントからプランニングのプロセスを専門職が主導するケアマネジメントシステム から,本人がコントロールする「本人主導の支援」(self-directed support)システムへと 改革していくことを意味しており(Duffy, 2007),こうした改革がソーシャルワーカ ー(1)の役割に大きな影響を及ぼすことは間違いない。そこで,本研究では,こうした改 革において成人を対象としたソーシャルワークにどのような役割が期待されているのか を整理し,それを社会サービス部のソーシャルワーカーがどのように認識しているのか を明らかにすることで,本人の「選択とコントロール」が拡大される中で求められるソ ーシャルワークの役割を検討することを目的とする。自己決定はソーシャルワークが重 視してきた価値の一つである一方,本人の選択とコントロールの拡大は,これまでのソ ーシャルワークのあり方への批判も含んでおり,こうした変化を実践者の視点から検討 することは,今後のソーシャルワークのあり方を考える上でも有益であると思われる。
以下では,まず,本研究の背景としてイングランドにおける社会サービスとソーシャ ルワークがどのように変化しようとしているのか,先行研究をまとめる(2)。次に,そ れに基づいて本研究の分析枠組みと方法を提示し(3),調査の結果を示す(4)。最後に 結果を踏まえ,「選択とコントロール」の拡大とソーシャルワーカーの役割について考 察し,まとめとする(5)。
2.イングランドにおけるソーシャルワークの役割の変遷
2−1.パーソナリゼーション以前のソーシャルワーク
イギリスの戦後のソーシャルワークは,1968年に提出されたシーボーム報告とその 勧告を受けて実施に移された
1970
年の地方自治体社会サービス法(Local Authorityイングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 14
Social Services Act 1970)によって確立された体制を基礎としている。それ以前の社会
サービスの推進体制は,地方自治体内で利用対象者ごとに異なった部局に分かれ,相互 の連携を欠いており,児童分野を除き専門的な訓練を受けたソーシャルワーカーもほと んど登用されていなかった。こうした「小国分立的」な体制(Titmuss, 1968)から,ソ ーシャルワーカーを一つの部署に統合し,あらゆるコミュニティのニーズに対応できる ジェネリックなソーシャルワーク体制に再編することがシーボーム報告の要諦であった(Seeborm Report, 1968)。こうした意図のもとに成立した地方自治体社会サービス部
(Social Services Department,以下社会サービス部と略)は,現在も成人を対象としたソ ーシャルワークの第一線機関である。
こうした社会サービスの供給体制が大きく動揺するのは,1990年に成立した「国民 保健サービス及びコミュニティケア法」(National Health Services and Community Care
Act)によってである。この法改正(コミュニティケア改革)によって社会サービス部
はシーボーム改革以来の大規模な機構変革を迫られ,ソーシャルワーカーの役割は大き く変化した。本研究の関心から重要なことは,社会サービス部の役割がサービスの直接 的な供給者から,営利・非営利の様々なサービスの競争を促しつつクライエントに最適 なサービスを契約に基づいて購入し,手配する条件整備の役割へと変化したことであ る。この役割を果たすために導入されたのがケアマネジメントであり,ソーシャルワー カーやそれに準ずる職員がこの役割を果たすことになった。こうした改革によって,一 人ひとりのニーズに基づいたケアプランが作成され,実施するサービスを外部から購入 すること(サービスの提供者と供給者の分離)で,クライエントの選択が拡大するだけ でなく,サービスの質や効率が改善されることが期待されていた。しかし,実際のコミュニティケアの運用には以下のような批判があった。第
1
に,ケ アマネジャーが一人ひとりのニーズに合わせてサービスを購入するというよりは,地方 自治体がサービスを一括して購入し(ブロックコントラクトと呼ばれる),それをクラ イエントに割り当てるという方式が広がり,クライエントの選択は広がらず,事業者が サービスの質を改善するインセンティブもなかったこと(Baxter et. al., 2013 : 402),第2
に,ケアマネジメントのプロセスに本人が参加することは広がらず,専門職主導のシ ステムになっていること(Duffy, 2007 : 5)である。そしてその結果,ルールに基づい た手続きやサービスの購入といった管理的な業務が増大し,ソーシャルワーカーが,ク ライエントやその介護者などに接する時間が減少していること(Lewis and Glennerster,1996),予算の範囲内でサービスを割り当てる「ゲートキーパー」として「ルーティン
化された,非創造的で官僚的な」役割しか果たせていないことが指摘されるようになっ ていた(Lymbery, 1998 : 875)。イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 15
2−2.「本人主導の支援」(self-directed support)への転換
上記のようなプロセスに最初に風穴を開けたのは,1996年コミュニティケア法(The
1996 Community Care(Direct Payment)Act,施行は 1997
年)で認められたダイレクト ペイメントである。この制度は,社会サービスの対象と認定された人に対する現金給付 であり,アセスメントによって明らかになったニーズを満たすために必要と判断された 金額が本人に対して給付される(2)(DH, 2009 a)。ただし,ダイレクトペイメントは主 流であるコミュニティケアサービスに例外を作ったにすぎず,社会サービス全体を転換 することを意図したものではなかった。1997年に政権復帰した労働党も,保守党が導 入したダイレクトペイメントの対象を拡大し,自治体の成果指標としてダイレクトペイ メントの利用率を取り入れるなど,ダイレクトペイメントの拡大に力を入れたが,必ず しもクライエント本人の選択とコントロールを政策の中心に据えていたわけではなかっ た(3)。しかし,政権の後半,特に2005
年以降は,ダイレクトペイメントの拡大にとど まらず,「選択とコントロール」を社会サービス全体へと拡大することを意図した改革 を進めるようになった。以下ではその概要を確認しておこう。まず,政府は
2005
年の緑書および2006
年に発表された白書で「個!人!予算」(individualbudgets
(4))のモデル事業を進めることを表明し(DH, 2005 ; 2006),13の自治体がモデ ル事業に取り組んだ。さらに,モデル事業を受け,2007年にはPutting People First
と 題する6
省庁と保健,社会サービス,地方自治体の関連団体との合意文書を発表して,今後の社会サービスを「本人主導の支援」(self-directed support)という新たな概念のも とで推進することを明確にし,2012年までに個!別!予算(personal budget,個人予算との 違いは注
3
を参照)をすべてのクライエントに拡大するという目標を掲げた(HMGovernment, 2007)。 こうした一連の改革はこの文章以降,「パーソナリゼーション」
(personalisation)と総称されて推進されることになった。また,2010年に成立した保守 党と自由民主党の連立政権もこうした方向性を基本的に継承し,2012年発表された白 書(DH, 2012)で法律に位置づけられていない個別予算の法制化を約束し,現在その 準備が進められている。
それではこうした一連の改革が,どうして「過去
60
年間でもっとも大きな成人社会 サービスに対する改革」(The Law Commission, 2011)なのか。また,コミュニティケ ア改革以降の社会サービスの実施体制をどのように変化させようとしているのか,以下 では,新たな社会サービスの仕組みとして提案されている「本人主導の支援」の要諦を 示す(5)。第
1
に,これまで専門職主導で行っていたニーズアセスメントに本人が参加し,自分 自身の生活をどうしていきたいかを反映させることである。セルフアセスメントと呼ば れる本人が記入するアセスメントシートが使われる場合もある。第2
に,これまで専門イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 16
職の裁量で行われてきた資源の割り当てを,アセスメントの結果をポイントで示し,予 算の割り当ての過程を資源配分システム(Resource Allocation System=RASと呼ばれ る(6))によって透明化することである。第
3
に,割り当てるサービスではなく,本人が 利用できる資源を「個別予算」として本人に提示することである。第4
に,本人がこの 予算を「どのようにコントロールしたいか」を決定できるようにすることである。ここ でいう「コントロール」は支援の内容だけでなく,予算の管理の方法を決めることがで きるようにするということである。その方法には後述するようにダイレクトペイメント から自治体のソーシャルワーカーによる管理まで様々な方法がある。第5
に,本人がこ の予算を使ってどのようにサポートを組み立てるか,既存のサービスにとらわれずに決 めることができるようにすること(そのため,サービスではなくサポートと呼ばれ る),その際,プランニングを自治体のソーシャルワーカーだけでなく,外部の当事者 団体や支援仲介者(support broker)に依頼できるようにすることである。本人主導の支 援では,本人が何を達成したいのか,そのためにどのように予算を活用するか支援する 役割を「サポートブローカレッジ」(support brokerage,以下では仲介とする)といい,そのための計画を作成するプロセスを「サポートプランニング」(support planning以下 では,プランニングとする)という(7)。自治体以外の外部の支援仲介者にこの役割を依 頼した場合,サポートプランは,外部の支援仲介者と本人が作成し,それに自治体が合 意して予算の執行が認められる。また,このプロセスは本人や家族が行ってもかまわな いとされている。最後に,プランニングやモニタリングにおいては,どのようなサービ スが提供されたかではなく本人が望む生活(「アウトカム」)が実現されたかどうかに焦 点を当てることである。
このように,本人主導の支援とは,専門家がニーズをアセスメントし,それに基づい て予算を決定し,サービスを割り当てるという従来の方式から,本人も参加したアセス メントの結果を踏まえ,客観化された方法に基づいて予算を算定し,それを個別予算と して本人に示した上で本人がそれをどう「コントロール」するか,そして自分自身の望 む生活(アウトカム)を実現するためにどのようにサポートを活用するかを「選択」で きるようにしていくことで,専門職主導のプロセスを転換することを意図したものとい える(Daffy, 2007 : 8)。
2−3.「本人主導の支援」におけるソーシャルワークの役割
以上のような本人主導の支援の中でソーシャルワークはどのような役割を果たすこと が想定されているのだろうか。当初は,本人および外部の支援仲介者の役割が大きくな ることで,成人分野におけるソーシャルワークは不要になるのではないかという懸念も 広がった(Lymbery and Postle, 2010 : 316 ; Lymbery, 2012 : 784)。以下では,いくつか
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 17
の政府や専門職団体が発表した主要な文章の中から,そこで想定されているソーシャル ワーカーの役割について検討し,パーソナリゼーションにおけるソーシャルワークの役 割について検討する枠組みを示したい。
まず,社会サービスの方向性として公式にパーソナリゼーションを打ち出した政府の 緑書(DH, 2005)でのソーシャルワークの役割を見ておこう。緑書はソーシャルワー カーが,コミュニティケア体制の下で「ゲートキーパー」「予算を割り当てる専門職」
とみなされてきたと指摘し,改革の目的は,個人の自己決定や選択を支援するというソ ーシャルワーク本来の価値を発揮できるような環境を作り出すことだという(DH,
2005 : 10)。具体的な役割については,これまで主にソーシャルワーカーが担ってきた
アセスメントについて,ソーシャルワーカーがすべてを行う必要がないとしたうえで,有資格のソーシャルワーカーは,より複雑で困難ケースのアセスメントに集中すべきで あると述べている(ibid, 30−32)。また,政府の各省庁及び関係団体との間で合意され た今後の社会サービスに関する方針(HM Governemnt, 2007)では,セルフアセスメン トの重要性を強調した上で,ソーシャルワーカーのアセスメントにかける時間を減ら し,より多くの時間を仲介やアドボカシーにかけるべきだと強調された。このフレーズ は,保健省の地方自治体向けの通知(circular)でも繰り返されている(DH, 2009 b)。
以上のように,政府は当初,本人によるアセスメント(self-assessment)が拡大する ことでソーシャルワーカーのアセスメントにおける役割は小さくなり,一方でアドボカ シーやサービスの仲介の役割が大きくなると謳っていた。しかしながら,コミュニティ ケア法では,アセスメントは地方自治体の義務と規定されており,現実的には受給資格 基準の決定や資源の割り当てを本人によるアセスメントのみで決定できない。結果とし て,セルフアセスメントは,本人のみがアセスメントを行うという意味ではなく,アセ スメントの過程に本人が参加すること,こうした過程を専門職ではなく本人が主導して 行うことと理解されている(Gardner, 2011 : 43)。ただし,ここでいう専門職が,有資 格のソーシャルワーカーであるかどうかはわからない(Lymbery and Morley, 2012 :
320)。
また,当初政府がソーシャルワーカーの役割として強調していたプランニングと仲介 が効果的に機能するためには,仲介者が支援する個人に対してのみアカウンタビリティ を持つ独立性が必要であると考えられており,自治体に雇用されたソーシャルワーカー には難しいという指摘がある(Scourfield, 2010)。さらに,資源をコントロールする役 割と支援計画を立てる役割は両立しないという指摘もある(Lymbery and Morley, 2012 :
320)。特に,障害者などの当事者はソーシャルワーカーが仲介者の役割を果たすことに
否定的である(Leece and Leece, 2011 : 206)。とはいえ,実際の運用上は,誰が仲介の 役割を果たすのか,つまり予算をどうコントロールするかは本人が選択することが想定イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 18
されており,本人が地方自治体にその役割を依頼した場合は,自治体の職員がこうした 役割を果たすことになる。しかし,すでにみたように自治体のソーシャルワーカーが中 心的な役割を果たすというよりは,独立した外部の団体の役割のほうが強調されてい る。また,自治体の職員がこの役割を担う場合も,有資格のソーシャルワーカーである かどうかは分からない。
一方,パーソナリゼーションを推進するためのソーシャルケア従事者に関する戦略
(「イングランドにおける成人ソーシャルケア従事者の戦略」,DH, 2009 c)では,上記 の役割に加え,権利擁護(safeguarding)(8)が常に有資格のソーシャルワーカーによって 担われるべき役割であることが確認されている(DH, 2009 c : 34)。イングランドでは,
2005
年の意思能力法(Mental Capacity Act 2005)によって,判断能力がある場合には,本人の決定は,たとえそれが「愚かな選択」(unwise choice)にみえる場合でもあって も本人の権利であることが明確に規定されている。しかし他方で,クライエントの人権 や安全を確保することも地方自治体の義務であり,政府のガイドラインでは,人権侵害 や虐待に対して社会サ ー ビ ス 部 が 中 心 的 な 役 割 を 果 た す こ と を 求 め て い る(DH,
2000)。こうした一連の権利擁護や保護のための活動が,「成人の保護のための手続き」
(safeguarding adult procedure)であり(ADSS, 2005),クライエントがより大きな責任を 持つパーソナリゼーションと権利擁護は,「コインの裏表」(Pitt, 2010)といえる。特 に,本人がダイレクトペイメントを通じて家族を含めた介助者を直接雇用する場合,従 来ケアワーカーに求められてきた犯罪履歴のチェック(criminal record bureau checks)
は義務づけられておらず,虐待のリスクが高まる可能性がある(Manthorpe et. al.,
2010 : 425)。また,特に家族介護者の場合,サポートの内実が可視化されにくい点も
指摘されている(ibid)。このように,ソーシャルワーカーには,リスクと権利擁護の バランスをとりながら,本人主導の支援を進めていくという難しい役割が求められてい る。さらに,保守党と自由民主党の連立政権以後に出された白書においては,こうしたソ ーシャルワーカーの役割を踏襲しつつ,コミュニティディベロットメントの役割が強調 された。白書は「ソーシャルワーカーをケアマネジメントから解放」し,コミュニティ やコミュニティグループと協働しながら地域の力を引き出し,孤立を解消し,住民をエ ンパワーしていく役割を将来のソーシャルワークの役割として打ち出している(DH,
2012 : 23)。シーボーム報告やバークレー報告でも強調されてきたコミュニティアプロ
ーチを具体的にどのように推進するかについては具体的に示されてはおらず,現在,い くつかの自治体でモデル事業が実施されているところである(9)。イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 19
3.分析枠組みと研究方法
3−1.ソーシャルワークの役割 分析枠組み
以上の検討から,本人主導の支援におけるソーシャルワーカーの役割を以下の
4
点に 整理した。第1
に,アセスメントである。アセスメントにおいては当事者がアセスメン トに参加することが強調されている。ただし,受給資格基準の認定は自治体の義務であ り,かつ予算の割り当てへの自治体の関与はなくならない。したがって,少なくともソ ーシャルワーカー(もしくはそれに準ずる職員)は,受給資格基準やニーズのアセスメ ントにおいて一定の役割を果たすことになる。第2
に,プランニングと仲介である。ニ ーズに基づいて支援計画を立て,サービスをコーディネートする役割は,本人もしくは 外部の団体が行うことも可能になる。ただし,こうした役割を自治体に依頼することも 可能であることから,その場合は,自治体のソーシャルワーカー(もしくはそれに準ず る職員)がこうした役割を果すことになる。第3
に,権利擁護である。本人主導モデル に移行しても,虐待などの危険にさらされている場合の権利擁護は有資格のソーシャル ワーカーが中心的な役割を果すことが想定されている。最後に,コミュニティディベロ ップメントである。コミュニティケア改革以降,重視されなくなっていたコミュニティ アプローチが,連立政権が発表した社会サービスの白書で強調された。白書では,ソー シャルワーカーが,コミュニティ組織と連携し,コミュニティの活動やネットワークを 構築していく役割を果たすことを想定している。3−2.研究方法
本研究では,分析枠組みとして
3.1
で検討した4
点をパーソナリゼーションで想定さ れるソーシャルワーカーの役割とし,これらの役割を地方自治体の社会サービス部のソ ーシャルワーカー自身がどのように認識しているのか検討することを通じて,本研究の 目的である本人の「選択とコントロール」が強調される中で求められるソーシャルワー クの役割を考察する。調査の対象は,以下のように選定した。まず,パーソナリゼーションにおけるソーシ ャルワーカーの役割を検討するという本研究の目的から,パーソナリゼーションに熱心 に取り組んでいると考えられる自治体を抽出するために,個人予算のモデル事業に取り 組んだ地方自治体の中でも,障害者だけではなく高齢者も含めて包括的に取り組んだ
8
つの自治体を対象とすることにした(DH, 2007)。そのうちひとつの自治体は,調査へ の協力が得られなかったため,合計7
つの自治体を対象とした。調査に参加することに 同意した自治体に対しては,調査の概要と目的を示したパンフレットを作成,送付し,イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 20
有資格のソーシャルワーカー
2
名のリクルートを依 頼した。そのため,サンプルは調査に参加すること に自発的に合意した有資格のソーシャルワーカー14
名である。参加者の概要は表1
のとおりである。イングランドでは,制度の運用に対する自治体の 裁量が大きく,今回調査を行った自治体の中でも,
本人主導の支援の運用には大きな差があった。ただ し,共通しているのは,在宅(コミュニティ)を担 当するワーカーは,地域を分割したチームの一つに 属しており,そこで一連の本人主導の支援が展開さ れるという点である。本研究は,自治体間の実施体 制の差を分析することが目的ではないが,制度の運 用がソーシャルワーカーの認識に影響を与えている
場合もあり,表
1
にはインタビューイーの所属自治体が分かるようにA〜G
で示した。参加者に対しては,インタビューガイドに基づいた半構造化インタビューを
2013
年10
月から11
月の間に行った。各インタビューはおおむね1
時間であり,すべてのイン タビューの内容は合意の上で録音し,逐語録を作成した。インタビューガイドは,①想 定されている4
つの役割とソーシャルワーカーの将来の役割,②「選択とコントロー ル」を実現するために必要な支援,③パーソナリゼーションにおいて必要とされる規制 の3
つの大きなテーマで構成した。本研究では主に①の部分のデータを分析する。分析 は,分析枠組みである4
つのソーシャルワーカーの想定される役割についてソーシャル ワーカーがどのように考えているか,その認識を演繹的および帰納的に分析した。すな わち,繰り返し逐語録を読み,コーディングを行い,4つの想定される役割を当初の大 まかなフレームワークとしつつ,新たなコードを追加し,最終的なコードリスト(図1)を作成した。インタビューイーの発言を直接引用する場合には,(対象者の番号,逐
語録の行数)で示す。分析にはMaxqda 2010
を用いた。4.結 果
ソーシャルワーカーの役割についてのワーカーの認識を分析した結果,図
1
の通り想 定されている4
つの役割(カテゴリー)に加え,「困難ケース」という新たなカテゴリ ーを追加した。以下,それぞれについて説明する。表1 インタビュー対象者の概要
対象者 自治体
1 A
2 A
3 B
4 B
5 C
6 C
7 D
8 D
9 E
10 E
11 F
12 F
13 G
14 G
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 21
4−1.アセスメント
アセスメントは,コミュニティケアの受給資格基準の認定が地方自治体の義務とされ ていることから,社会サービス部の重要な業務の一つである。ただし,必ず有資格のソ ーシャルワーカーがこれを行わなければならないということではない。このような中で すべてのソーシャルワーカーは,アセスメントがソーシャルワーカーの重要な役割であ ると考えており,なかでも「ニーズのアセスメント」と「リスクのアセスメント」が重 要であると考えていた。
まず,ニーズのアセスメントについて検討しよう。クライエントのニーズが社会サー ビスの対象になるかどうかはこのアセスメントに基づいているため,たとえ資源配分の 基準としてセルフアセスメントが導入されるとしても,専門職の役割が小さくなるとは
図1 ソーシャルワーカーによるソーシャルワークの役割の認識 イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 22
考えられていなかった。イングランドの受給資格基準は,日本のように必要な介護量に よって決まるわけではなく,「自律へのリスク」の程度によって包括的に判断される。
いいかえれば,決定における裁量が大きい。セルフアセスメントが導入されている自治 体でも,それは受給資格基準を決めるものではなく,受給資格がある人の予算配分の目 安の算出に用いられており,前者における役割は減少するわけではないのである。
とにもかくにも,実際にはニーズが受給資格基準を満たしており,サービスを提供できるの かを判断しなければならず,われわれがその役割を果たさなければならないのです(9,13−
14)。
(アセスメントは)単にどのくらいのケアが必要かを判断するのではなく,もっと包括的な ものなのです(2,14)。
もちろん,こうした包括性や裁量は,資源の割り当てにおいてソーシャルワーカーが ゲートキーパーとしての役割を果たしていることを意味している。イングランドにおけ る一連の改革は,受給資格基準の決定には何ら変更を加えておらず,むしろ財政難にと もなって厳格化する中で,その恣意性の根拠としてソーシャルワークという専門性が必 要とされているともいえる。
次に,ソーシャルワーカーの多くは,ニーズのアセスメントに加え,アセスメントの 際にリスクをアセスメントすることが重要だと捉えていた。これは,後でも述べるよう にクライエントが介護者を自ら雇用できるようになるなかで,アセスメントにおいてリ スクを見極めておくことが,権利擁護との関連で重要であると考えられているためであ る。
いまやリスクの問題は,もっとも大きな問題です。クライエントが「愚かな選択」を望んで いたとしても,それを違う角度からみることができるようにすること,そうすることで安全 にそれを可能にするような方法を考えていくことが必要です。アセスメントにはリスクのセ クションがあって,あらゆるリスクについて検討します。何をしたいのか,どのようにそれ を安全に達成できるのかを考えます。「そうしたいなら勝手にどうぞ」ということではない のです(12,292−3)。
このように,ソーシャルワーカーは,アセスメントにおける自らの役割をニーズとリ スクを見極めることと考えており,特に後者はパーソナリゼーションの進展によってむ しろ重要になっていると認識していた。受給資格基準の認定は,依然として地方自治体 の義務であり,本人の選択とコントロールの拡大によってむしろリスクへの関心が高ま る中で,ソーシャルワーカーは,アセスメントにおけるソーシャルワーカーの役割が不 要になるとは考えてなかった。
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 23
4−2.プランニング・仲介
プランニングと仲介は,すでにみたように個別予算やダイレクトペイメントを選択し たクライエントの利用可能な資源に基づいて,支援をコーディネートすること,また予 算の管理に伴う責任や義務などについてアドバイスすることなどを含む役割である。当 初,政府が提案したパーソナリゼーションの文章では,こうした役割がソーシャルワー カーの役割として位置づけられていたことはすでに指摘した。しかし,現実にはプラン ニングと仲介は,本人や家族,もしくは外部の団体が行うことも可能であり,アセスメ ントや権利擁護に比べてソーシャルワーカーの役割であると認識している人は少なかっ た(「ソーシャルワーカーでなくてもできる役割」)。
つまり,サポートプランの作成や合意されたサポートの手配は,ソーシャルワーカー でなくてもできる役割,さらにはできるだけ本人がやることが望ましく,そうでなけれ ば本人やコミュニティの資源をよく知っている当事者団体や外部の支援仲介者が行うこ とが望ましい役割として認識されていた。
私たちは必要であればその役割(プランニングと仲介)を果たすことはできますが,私たち の将来の役割は何かといわれれば,それはアセスメントや権利擁護なのです(10,5)。
これは間違いなくほかの人にでもできる役割で,ソーシャルワーカーでなければならないと は思いません(1,30)
(自治体内のソーシャルワーカーではない)支援仲介者がサポートプランを策定します。(中 略)彼らはそのことに長けているので,私たち(ソーシャルワーカー)はあまりサポートプ ランの策定にはかかわっていません。そして,もし(クライエントが)自分自身でサポート プランを立てられるのであれば,間違いなく私たちはそれを推奨します(6,43−44)。
こうした認識は,それぞれの自治体で仲介機能がどのように運用されているかにも影 響されていた。調査対象の自治体の中で,外部の支援仲介者を認めていない,すなわち すべてのプロセスを自治体内で行っている自治体は
3
つあったが,例えば,自治体E
ではソーシャルワークチーム内で,アセスメントは有資格のソーシャルワーカーが行 い,プランニングは資格のない「サポートプランナー」と呼ばれる職員が行うという分 担をしていた。つまり,ソーシャルワーカーはニーズを見極め,どのようなサポートが 必要かを判断するが,具体的にサポートをアレンジする仕事は専門職の仕事とみなされ ていなかった。サポートプランナーは,ニーズと予算に基づいて,例えば,ダイレクト ペイメントとして予算を受け取り本人が介助者を雇用するのか,それとも自治体が契約 している事業者の中からホームヘルプを利用するのか,といったことを「プランニン グ」することになる。もちろん,これらはばらばらに行われているわけではなく,アセイングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 24
スメントにプランニングを担う職員も同行し,話し合いながらプランニングも行ってい るという。自治体
E
のソーシャルワーカーは,ソーシャルワーカーと連携するという 前提のもとでサポートのプランニングと仲介は資格のない職員の仕事であるとみなして いた(10,51)。外部の支援仲介者を活用することを認めている場合でも,特に高齢者の場合はこうし た支援を活用する割合は極めて少なく,ほとんどの自治体で大多数の高齢者が,ダイレ クトペイメントではなく自治体にサポートプランの作成と支援の仲介を依頼していると いう(例えば,5,123)。そうした場合であっても,こうした役割はソーシャルワーカー というよりは,資格のない職員の役割として認識されていることが多かった。つまり,
ソーシャルワーカーがアセスメントを行いリスクが低いと判断されると,無資格の職員 がプランニングと仲介を担当することになっている自治体が多かった(10)。こうした実 際の運用が,ソーシャルワーカーの認識に影響を与えていると思われる(「プランニン グと仲介の自治体における運用」)。ニーズのアセスメントと比較して,明らかになった ニーズにどのようなサポートをコーディネートするか,という役割は自治体内であって も専門的な役割とは認識されていない場合が多かった。
4−3.権利擁護
権利擁護は,14人のインタビューイーすべてが例外なく,有資格のソーシャルワー カーの役割として認識していた。これは,すでにみたように,社会サービス部が中心に なって政府のガイドラインに沿った手続きに従うことが求められており,有資格のソー シャルワーカーが,調査の中心となり他の専門職をまとめる役割を期待されているとい う実態に基づいているといえるだろう。あるワーカーは,仕事の「50% は権利擁護で ある」(10,5)と述べ,他のワーカーも例外なく有資格のソーシャルワーカーに期待さ れる役割は,このプロセスをリードしていくことだと答えていた。
すでに見たように,成人の権利擁護は
2005
年意思決定能力法の基本的な考え方に基 づいているが,クラエントが虐待などによって人権を脅かされているような場合には,地方自治体が介入しなくてはならない。ソーシャルワーカーの多くは,選択とコントロ ールを高め,同時にリスクを最小限にするというバランスを追求していく難しさについ て語っていた(「選択とリスクのバランス」)。
私たちは,基本的にできるだけ初期のうちにリスクを認識し,サポートプランにおいてリス クを見極め,それを軽減できる方法を考えます。とはいえ,リスクというのは常にあるもの で,それをなくすことはできないのです。なぜなら,自律と選択を追求しているわけですか ら(4,571)。
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ニーズを満たすためにふさわしいサービスを提供するというパーソナリゼーションの意図の 中には,権利擁護(保護)の側面があって,もし,クライエントが(自治体が提供するので はない外部の)事業者や介助者のサポートを活用している場合には,権利擁護(保護)につ いても注意を払う必要があるのです(8,17)。
いま私たちがやっていることは,ベストインタレスト(最善の利益)に関連しており,常に ある種の危機管理の側面があるのです。例えば,私たちは彼ら(クライエント)を鍵のかか った部屋に閉じ込めて24時間監視することはできないのです(7,221)。
すでにみたようにアセスメントやプランニングの段階でもこうしたリスクが考慮され るが,すべてのリスクがカバーできるわけではない。特に,先行研究でも指摘されてい たように,本人もしくは家族が,ダイレクトペイメントを選択し,家族を含む介護者を 自ら選択し雇用した場合や,認知症高齢者や知的障害者の場合のように,家族が個別予 算の管理をすることになった場合は,虐待などのリスクが高まる可能性がある。なかで も,本人が直接雇用した介助者からの虐待や本人に代わってダイレクトペイメントを受 領している人による経済的な虐待といった事案は,数は多くないものの「ソーシャルワ ーカーが簡単に見逃してしまう恐れがあり」,「気づかないままになってしまう」(1,363
−364)ことで,「虐待の可能性を高める」(1,373)と懸念されていた(「ダイレクトペイ
メントと虐待の発見」)。もちろん,ダイレクトペイメントにおいて,本人の権利侵害に当たると考えられるよ うな事案の場合,支援はいったん凍結され,自治体が予算を管理することになる。ソー シャルワーカーの多くは,こうした本人の権利擁護が「優先的に取り組むべきことのひ とつ」であり,「ほかの専門職に虐待に対する理解を伝えていくこと」が,ソーシャル ワーカーの重要な役割であると認識していた。なぜなら「このプロセスをリードするの がソーシャルワーカー」の役割だからであり,「それを行うほかの専門職はいない」
(2,10)からである(「他の専門職をリードする役割」)。
以上のように,パーソナリゼーションは,たとえ愚かな選択にみえる場合であっても 本人の選択を重視するという点は一貫しており,同時にそれに伴うリスクを見極め,必 要な場合には本人を保護することがソーシャルワーカーの役割として求められている。
特に,ダイレクトペイメントの場合は,問題自体を発見することが難しく,多くのソー シャルワーカーは,本人の決定とリスクのバランスをとることの難しさに言及してい た。しかし,いったん保護が必要だと判断された場合,そのプロセスをリードするのは 有資格のソーシャルワーカーの役割であり,多くのソーシャルワーカーそれをソーシャ ルワーカーの重要な役割の一つとして認識していた。
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 26
4−4.コミュニティディベロップメント
2012
年に発表された白書の中でソーシャルワーカーの役割として強調されていたコ ミュニティディベロップメントをこれからのソーシャルワーカーの役割であると認識し ているインタビューイーは少なかった。しかし,一方でディセンターなどの地方自治体 が直接提供するサービスが縮小する中で,地域の社会資源を活用することが重要である ことは多くのワーカーが認識していた(「地域の社会資源の重要性」)。パーソナリゼーションでは,これまでにないアイディアを考えなければなりません。高齢者 には,伝統的なサービスを当てはめれば十分だという考えは安易なのです。それぞれ個別で あり,みんな違う。コミュニティの中で利用できる資源を発見することが大切です(8,19)。
(自治体が提供してきたサービスが)次々閉鎖され,民間のサービスはわずかです。ソー シャルワーカーとして,コミュニティの資源を発見することの難しさに直面しています
(3,42)。
しかし,その資源を開発することをソーシャルワーカーの役割と考えているワーカー は少なかった(「ソーシャルワーカーとして関与していない」)。その理由としては,「優 先順位が低い」もしくはそれを「役割として認識してない」という点があげられる。
(ソーシャルワーカーの役割として想定されている4つの役割のなかで)優先順位の中の最 後であるように思います。クライエントへの支援がうまくいっているか,それが第一で他に 何ができるかというのはそれからです(2,149)。
コミュニティディベロップメントは,ソーシャルワーカーの役割としてみなされていませ ん。そうであったらいいとは思いますが,そうなってはいません。学位の一部であったこと は覚えていますが,実践したことはありません(14,4)。
新しいものをゼロから作り出していくような時間や予算はありません(13,73)。
つまり,多くのワーカーは,個別支援に多く時の時間を割いており,後で見るように 困難ケースや保護が必要なケースに集中している。こうした中で,コミュニティディベ ロップメントの役割を理解はしていても,現実には優先順位が低い,時間がない,もし くは予算がないといった意見が多かった。
一方,コミュニティディベロップメントの内容としては,「社会資源開発」と「ネッ トワーキング」があげられたが,今回のインタビューでは,自らコミュニティの社会資 源開発にかかわっているとしたワーカーは一人だけで,「ネットワーキング」について も別な一人が指摘しただけだった(「コミュニティディベロップメントの内容」)。また,
時間がなくても他機関と連携することでコミュニティディベロップメントの機能を果た
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 27
していくことを意識しているワーカーもいたが,これも一人が指摘しただけだった
(「他機関との連携」)。
このように,コミュニティディベロップメントをソーシャルワークの役割と認識して いる人は少なく,また認識していたとしても,個別支援が業務の大半を占めており,ソ ーシャルワーカーの業務としてはほとんど行われていなかった。
4−5.困難ケース
以上のような政府が想定するソーシャルワーカーの役割に基づいて,それぞれの役割 を検討してきたが,調査の結果,支援のプロセスで必要とされる機能にソーシャルワー カーの役割を当てはめるのではなく,ケースの性格によってソーシャルワーカーの役割 が考えられている場合が多いことが分かった。ソーシャルワーカーが担当するケース は,例外なく
complex case
と呼ばれていたが,その内容から「困難ケース」と訳すの が妥当だと考えられるため,以後困難ケースと表記する。例えば,自治体
C
は,クライエントを最初に振り分ける「コンタクトセンター」を 設置して,そこで困難ケースとそうでないケースを振り分け,前者を有資格のソーシャ ルワーカーが担当するという仕組みを採用していた。つまり,ソーシャルワーカーは,アセスメントからプランニングに至る一連のプロセスを担当するが,それらはすべて困 難とみなされたケースであるということである(11)。自治体
F
やG
もほぼそのような体 制を取っていた。ソーシャルワーカーが担当するのはいわゆる困難で難しいケースです。判断能力に問題があ るケース,裁判沙汰になっているようなケース,こうしたケースは常に有資格のソーシャル ワーカーが担当します。(6,111)
(自治体は)ソーシャルワーカーはソーシャルケアの領域で徐々に不要になっていくと認識 しているはずです。彼らは,(無資格の職員である)コミュニティケアオフィサーが(有資 格のソーシャルワーカーと)同じ仕事ができると考えています。ただし,困難ケースについ ては,有資格のソーシャルワーカーのスーパービジョンなしには担当できないことになって います(11,67)。
なぜならこうしたケースは,治療的な関わりやアドボカシー,長期的に信頼関係を構 築していくことが必要なケースであり,適切なタイミングで介入する用意が常に必要な ケースなのである(6,128)。具体的には,サービスの受給を一切拒否しているが,権利 擁護が必要であると判断されているケースなどがあげられる。
ほとんどの自治体では,明確な分担をしていなくても,ソーシャルワークチーム内で 有資格のソーシャルワーカーがクライエントの年齢にかかわりなく困難ケースを担当
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 28
し,資格のない職員がそれ以外のケースを担当していた。このことは,パーソナリゼー ションが想定するクライエント像とは異なるクライエントやその恩恵を受けることが難 しいクライエントが常に一定程度存在しており,そうしたクライエントの場合,ソーシ ャルワーカーによる専門的な介入が必要になることを意味している(「選択やコントロ ールが難しいケース」)。この場合,一連のプロセスは,すべてソーシャルワーカーの役 割といえるが,それが困難ケースである場合に限ってそうであるということである。逆 にいえば,パーソナリゼーションが想定するような「選択とコントロール」が可能なク ライエントに対しては,有資格のソーシャルワーカーがかかわる必要がないと考えられ ているとも言える。
5.考 察
イングランドでは,社会サービスにおけるパーソナリゼーション,すなわち個人の選 択とコントロールが強調され,「本人主導の支援」というコンセプトが提唱されている。
本研究の目的は,こうした変化の中でソーシャルワーカー自身が,自らの役割をどのよ うに認識しているのかを明らかにすることを通じて,「選択とコントロール」が拡大す る中でのソーシャルワークの役割を検討することであった。
調査の結果,ほとんどのソーシャルワーカーが有資格のソーシャルワーカーの役割と して認識していたのは,アセスメントと権利擁護,そして困難ケースを担当することだ った。アセスメントでは,地方自治体の義務である受給資格基準の判定やその後の権利 擁護を見据えて本人のニーズとリスクをアセスメントすることが,専門職としての重要 な役割であると認識されていた。権利擁護については,特に虐待などからの保護におい て,ソーシャルワーカーがこうしたプロセスをリードすることがガイドラインで定めら れていることからも,強い自負を持って取り組んでいるワーカーが多かった。さらに,
ソーシャルワーカーが担当するケースは,パーソナリゼーションが想定するような選択 とコントロールが難しい,いわゆる困難ケースが多い。いいかえれば,有資格のソーシ ャルワーカーの役割は,受給資格基準とリスクのアセスメント,虐待や困難ケースに対 する危機介入や対応が中心になっているといえるかもしれない。
一方で,当初政府が新たなソーシャルワーカーの役割として強調していたプランニン グと仲介をソーシャルワーカーの将来の役割として認識しているワーカーは少なかっ た。その理由として,第
1
に,実際に本人及び家族,または外部のブローカーなど,ソ ーシャルワーカー以外の人が関与できること,もしくはそれが推奨されていること,第2
に,外部の支援仲介者を導入していない場合であっても,プランニングと仲介を担う のはソーシャルワーカー以外の職員である場合が多いこと,といった運用上の実態があイングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 29
るように思われる。既存のサービスにとらわれず,多様なサポートを組み合わせ,本人 の希望に沿った生活をどのように実現するかという役割はむしろ外部のボランタリー組 織や当事者団体,もしくは資格のない職員の役割と考えられていた。
また,保守党と自由民主党の連立政権の白書で強調されたコミュニティディベロップ メントというアイディアについては,多くのソーシャルワーカーにとって理解はできて も現実的に取り組むことが難しい役割として認識されていた。ほとんどのソーシャルワ ーカーは,個別支援,特に困難ケースの支援を担当しており,公的サービスが削減され る中で地域での資源開発の重要性を理解しながらも,自分たちがその役割を果たしてい くことになるとは考えていなかった。こうした結果は,コミュニティケア改革によって 後退したといわれるシーボーム改革以降のコミュニティソーシャルワークという自治体 のソーシャルワーカーの位置づけが,パーソナリゼーションのもとでいっそう形骸化し ていることを示唆している。
もちろんこうした結果は,ソーシャルワーカーが直面する環境も考慮に入れて考える 必要がある。すなわち,厳しい財政的な締めつけがパーソナリゼーションと同時に進展 しており,実際に無資格の職員が増加しているという環境の中でソーシャルワーカーは 自らの役割を判断している(12)。ここでの結果は,必ずしもクライエントの「選択とコ ントロール」が進展するなかでのソーシャルワーカーの役割を明らかにしたのではな く,むしろ大幅な歳出削減が進展するなかでのソーシャルワーカーの役割を示したもの なのかもしれない。いずれにしても,イングランドのソーシャルワークは,本人の選択 を深化させる政策と,同時に進行する財政難という環境の中で,ゲートキーパーやリス クアセッサー,政策的に求められる権利擁護,そしてその中でも特に「選択とコントロ ール」が困難なケース(困難ケース)に特化していくことにその役割を見出そうとして いるように思われる。パーソナリゼーションに警鐘を鳴らす論者たちは,ソーシャルワ ークの脱専門化を警告していたが(例えば,Ferguson, 2007),皮肉にも,パーソナリゼ ーションと財政難によって,ソーシャルワークは資源をコントロールし,リスクを査定 し,選択とコントロールが難しい人を支援する「専門職」として依然として必要とされ ているといえるかもしれない。さらに,イングランドではそもそも社会サービスの受給 資格基準が厳格で,成人ソーシャルワークの対象は非常に狭かったが,パーソナリゼー ションと同時に進展する財政難の中で,その対象はますます狭まり,社会の中の一部の 限定された人に対するサービスになりつつある。これらは,自治体ソーシャルワークの 中核的な役割であるともいえるが,改革当初の意図と異なるだけでなく,ソーシャルワ ークが果たすべき機能のすべてでもない。コミュニティケア改革以降のソーシャルワー クの「管理主義への移行」(Lymbery, 1998)は,パーソナリゼーションの下で一層強化 されているといえるかもしれない。
イングランドにおけるパーソナリゼーションの進展とソーシャルワーク 30
注
⑴ イングランドでは有資格のソーシャルワーカーの約半数は地方自治体に雇用されており,ここでいう ソーシャルワーカーも,地方自治体の社会サービス部のソーシャルワーカーのことである。また,ソ ーシャルワークの養成はジェネリックなソーシャルワーカー像に基づいているが,制度や所轄庁が異 なる子どもの分野と成人の分野とは別々に論じられることが多い。本稿で考察するのは,成人分野の ソーシャルワークについての議論である。
⑵ ダイレクトペイメントは,使途に制限のない現金給付と異なり,地方自治体にクライエントのニーズ を満たし,公的な資金がそのニーズを満たすために適切に活用されていることを確保する義務がある。
そのため,地方自治体によるレビューなどは他のクライエント同様に実施される。いわば「規制され た現金給付」といえる。
⑶ 例えば,2007年の時点でダイレクトペイメントを受給している高齢者はコミュニティケアサービスを 受給している高齢者の約1.7% に過ぎなかった
⑷ 個人予算は,様々な財源を統合し,個人のニーズに合わせて柔軟に使えるようにしようという試みで あった。それに対して,自治体の社会サービス予算に限定する場合に個別予算と呼ぶ。すなわち,両 者の違いは財源の違いである。
⑸ ここで示すプロセスはひとつのモデルであり,法律で義務づけられているわけではない。すなわち,
これまでのコミュニティケアのプロセスを本人主導の支援に沿って「運用」していくことが求められ ているということである。したがって,すべての自治体がここで述べたような支援を実際に行ってい るということではなく,あくまで政府やモデル事業,関連する団体などが求めている本人主導の支援 のエッセンスをまとめたものである。
⑹ 簡潔にいえば,アセスメントを点数化し,必要なサポートに必要な金額を算出する仕組みである。た だし,RASは法律で定められた全国統一の仕組みではなく,自治体によって様々な方法が用いられて いる。
⑺ 政府はこうした支援を個別予算やダイレクトペイメントを持つ本人の選択に基づいて,利用可能な資 源を提示し,支援をコーディネートすること,また予算の管理に伴う責任や義務などについてアドバ イスすることなどを含む役割と位置づけている(DH, 2008 : 7)。
⑻ Safeguardingは,「権利を守ることと同時に選択することを尊重する」活動であり,「エンパワメント,
保護,正義」に関連すると定義されていることから,ここでは単なる保護よりも積極的な意味で権利 擁護と訳す。
⑼ 政府はソーシャルワーク実践パイロット(Social Work Practice Pilot)という試行事業を実施している。
この事業は,ソーシャルワーカーが社会的企業を設立し,自治体が一部の業務を委託するというもの である。
⑽ 自治体によっては,サポートプランに合意した後で,そのサービスを手配する役割を「ブローカレッ ジ」と呼んで社会サービス部とは別な部署が行っている場合があった。
⑾ ただし,この自治体でもサービス事業者と契約する業務は,社会サービス部とは異なる部署が担当し ていた。
⑿ 連立政権による財政赤字への取り組みで最も大きな影響を受けたのは,地方自治体であるといわれて いる(Lowndes and Pratchett, 2012 : 23)。それに伴って,地方自治体は深刻な財政危機に陥り,社会サ ービスに対する予算の大幅カット,自治体職員,ソーシャルワーカーを含めた専門職の解雇,受給資 格基準の引き上げなどが多くの自治体で行われている(Dunning, 2010 ; Lombard, 2011)。
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付記
本研究は,科学研究費助成事業,若手研究(B)(課題番号23730557)「社会福祉サービスへの高齢者本 人の参加 イギリスにおける個人予算の検討を通じて」及び同志社大学在外研究費による研究の成果の一 部である。
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