九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
高速道路の盛土のり面樹林の生物多様性に配慮した 管理計画に関する研究
川原田, 圭介
http://hdl.handle.net/2324/4110416
出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
高速道路の盛土のり面樹林の生物多様性に配慮した 管理計画に関する研究
Forest management theory for biodiversity on man-made filled slopes along expressway
川原田 圭介 Keisuke Kawaharada
2020 年 6 月
1
高速道路の盛土のり面樹林の生物多様性に配慮した管理計画に関する研究
(Forest management theory for biodiversity on man-made filled slopes along expressway)
目次
緒言 ... 4
本論文中で用いた語句の定義および説明 ... 14
第1章 研究の背景及び目的 ... 18
1-1 研究の背景 ... 18
1-1-1 高速道路における緑地整備の発展 ... 19
1-1-2 高速道路樹林の特徴とこれまでの研究 ... 26
1-2 研究目的 ... 32
1-3 研究の構成 ... 33
第2章 研究方法 ... 36
2-1 樹林化後25~30年経過した高速道路樹林の植生調査・光環境調査 ... 36
2-1-1 調査路線の概要 ... 36
2-1-2 調査地の設定および調査期間 ... 39
2-1-3 植生調査 ... 48
2-1-4 光環境調査 ... 50
2-2 樹林作業を実施した高速道路樹林の植生調査・光環境調査 ... 52
2-2-1 調査路線の概要 ... 52
2-2-2 調査地の設定および調査期間 ... 54
2-2-3 植生調査 ... 58
2-2-4 光環境調査 ... 59
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2-3 地域住民の高速道路樹林に対する認識特性に関するアンケート調査 ... 60
2-3-1 調査対象の概要 ... 60
2-3-2 アンケート調査項目 ... 61
2-3-3 調査地の設定および調査期間 ... 63
第3章 樹林化による高速道路樹林の整備効果 ... 65
3-1 調査対象の高速道路樹林の建設・管理に関する履歴の整理 ... 65
3-2 高速道路樹林と周辺林の樹林タイプの区分整理 ... 67
3-3 樹林タイプ毎の植生と光環境の調査結果 ... 68
3-3-1 出現種数と出現種数比率 ... 68
3-3-2 帯状調査区のコドラート内種数 ... 71
3-3-3 出現種 ... 74
3-3-4 木本類の植物種の出現由来と平均優占度 ... 77
3-3-5 開空率および相対照度 ... 81
3-4 考察結果 ... 83
3-4-1 樹林化した高速道路樹林の植物種数・階層構造 ... 83
3-4-2 樹林化した高速道路樹林の光環境と植物種の優占度... 85
3-4-3 樹林化による高速道路樹林の整備効果 ... 89
第4章 樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性 ... 90
4-1 調査対象の高速道路樹林の建設・管理に関する履歴の整理 ... 90
4-2 樹林作業の条件整理 ... 93
4-3 樹林作業後の植生と光環境の調査結果 ... 97
4-3-1 階層構造と群落高さ ... 97
4-3-2 出現種数と出現種数比率 ... 99
4-3-3 階層別の出現種 ... 102
4-3-4 階層別の累積優占度 ... 108
3
4-3-5 開空率および相対照度 ... 111
4-4 考察結果 ... 113
4-4-1 樹林作業による高速道路樹林の階層構造への影響 ... 113
4-4-2 樹林作業による高速道路樹林の出現種数への影響 ... 114
4-4-3 樹林作業による高速道路樹林の出現種への影響 ... 116
4-4-4 樹林作業による高速道路樹林の光環境と出現種の関係 ... 117
4-4-5 樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性 ... 121
第5章 地域住民の高速道路樹林に対する認識特性 ... 122
5-1 調査回答者の属性 ... 122
5-2 高速道路の利用状況および視認状況 ... 126
5-3 高速道路樹林の認識状況と印象評価 ... 129
5-4 高速道路樹林の機能に対する評価 ... 133
5-5 一般緑地と高速道路樹林に対する関心事項 ... 135
5-6 高速道路樹林を活用した地域活動への関心と参加意欲 ... 138
第6章 生物多様性保全を踏まえた高速道路樹林の管理計画 ... 141
6-1 生物多様性に関する評価対象の整理 ... 141
6-2 高速道路樹林の特性を踏まえた管理計画の条件整理 ... 143
6-2-1 樹林整備方法による管理計画の条件の整理 ... 143
6-2-2 樹林作業方法による管理計画の条件の整理 ... 146
6-3 地域住民の認識特性を踏まえた管理計画の設定 ... 152
補注および引用文献 ... 156
資料リスト ... 161
謝辞 ... 325
4
緒言
今日の世界的な環境意識の高まりを背景に,国は,1990年4月以降に整備された高速道路 の盛土のり面上にある樹林(以下,「高速道路樹林」という)を,温室効果ガスの吸収源 の一つとして登録し,2012年に閣議決定した「生物多様性国家戦略」では,生態系に配慮 した道路の整備を目標に掲げた。
日本の高速道路整備は,高度経済成長期の1960年代から進めるとともに,沿道環境の保 全を目的に,盛土のり面を主な対象に樹木等を植栽(以下,「樹林化」という)し,高速 道路樹林を整備してきた。この樹林化によって整備された高速道路樹林の総面積は,2014 年度末時点で8,000 haを上回る1-3)。
一方,高速道路樹林を含むすべての緑地管理費用は,2018年度で高速道路の維持管理費 の1割を上回り4-6),より適切な管理計画の確立が重要な課題となる。
このような状況の中で,国の掲げる目標や高速道路樹林の整備目的を踏まえると,高速 道路沿いに居住する沿道住民(以下,「地域住民」という)の要望や道路交通の安全確保 のために行われる緑地の管理作業においても,生態系に配慮した道路整備の視点を加え,
新たな管理計画の枠組みを構築する必要があるといえる。
そこで本論文は,高速道路樹林の生物多様性に配慮した管理計画に関わる条件を明らか にすることを主要な研究目的とした。
研究計画は,まず,検討課題を明確化するため,これまでの高速道路樹林に関する整備 の発展と,既往研究を整理・検討した。そのうえで,①樹林化による高速道路樹林の整備 効果,②間伐や高伐などの管理作業(以下,「樹林作業」という)による高速道路樹林の 植生回復特性,③地域住民の高速道路樹林に対する認識特性,の3点を重要な検討課題とし た。
なお,本論文は6章からなり,各章ごとの要旨を以下に述べる。
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第1章 研究の背景及び目的
本章では,検討課題を明確化するため,高速道路における緑地整備の発展,高速道路樹 林の特徴とこれまでの研究を確認し,研究の背景,研究目的を明らかにした。
高速道路は,自動車の高速交通の用に供する道路(高速自動車国道)として,全体計画
11,520 kmの網として構成され,基本計画10,623 km,整備計画9,428 kmを策定し,平成
30年4月1日時点の供用延長は8,346 kmである7)。
構造は他の道路,鉄道との平面交差を避け立体交差するため,約 7 割が盛土及び切土か らなる土工で構成される8)。高速道路の整備初期には,盛土及び切土ののり面の浸食防止の ため,主にノシバを材料に,盛土のり面に筋芝工,切土のり面に張芝工を施工していたが,
土木工事の機械化・大規模化に対応するため,現在の主流である外国産牧草類の使用を前 提とした急速緑化工として植生工の技術が確立した9,43)。
一方,樹林化は,主に住宅地や病院,学校などの隣接地を対象に,高速道路を走行する 自動車から発生する騒音や煤塵等の影響の緩和を目的として,高木性の常緑広葉樹を主体 とする高速道路樹林の整備を始めた。1960年代の高度経済成長期には,鉱工業等の経済活 動による環境影響が社会問題となり,道路に対しても沿道環境に対する影響が懸念される ようになった。そのため1974年に,環境施設帯を設置可能とする法律が施行され,道路敷 地に距離減衰による環境改善を目的とする用地確保が認められ,植栽帯等を設けた環境施 設帯の整備が可能となった10)。
これらの動きに合せ,日本道路公団(現在の高速道路会社,以下「高速道路会社」とい う)は,1976年に設計要領を改訂し,高速道路の緑化の目的に,沿道環境に応じた植栽計 画を定義づけた11)。
さらに,1992年に開催した国連地球サミット「環境と開発に関する国際連合会議」では,
社会の持続的な発展を実現するため,「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」を採択し,
我が国でも緑地の量と質の維持・向上について議論するようになった。これらの世界的な
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環境意識の高まりを背景に,1994年4月以降,高速道路会社は,高速道路の盛土のり面を 対象に原則として樹林化を行うこととした 12)。使用樹種,材料規格,配植密度などの仕様 は,生活環境地域,農耕環境地域,自然環境地域など沿道環境に対応して地域区分し,常 緑広葉樹と落葉広葉樹の混植により,沿道の自然環境や地域特性に配慮した自然景観に近 い高速道路樹林を整備するようになった。また,この頃より,樹高0.5~1.5 mの苗木規格 の材料のみを用いた樹林化,いわゆる「苗木植栽方式」による樹林化を導入した。
これらの取り組みにより, 1990年4月以降に樹林化された高速道路樹林約6,000 haを,
国は温室効果ガスの吸収源の一つとして登録した 13)。また,「生物多様性国家戦略(2012 年閣議決定)」において,生態系に配慮した取組を進めるため,道路事業において具体的施 策を定めた14)。
このように,我が国の高速道路樹林は,沿道環境保全,地球環境保全,並びに生物多様 性の維持・向上を図るうえで重要な社会基盤に位置づけられている。
一方,高速道路会社は,高速道路樹林の管理計画において,樹林化後の数年間,植栽し た樹木の育成のために下草刈を行う。その後の草刈,剪定,伐採など日常的な管理は,地 域住民の要望や円滑な道路交通の確保に対応するため,必要最小限の範囲で行うが,林業 で行う除伐や間伐などの計画的な育成・管理の作業は一般的に行っていない。
しかし,樹木枯損に伴う倒木事象のリスク発生や,樹木の生長に伴う管理コスト増加を,
高速道路会社は解決すべき課題と認識している。そのため高速道路樹林の管理計画の策定 を急いでおり,いくつかの路線では管理モデルを設定し,樹林作業の試験施工を行ってい る 15)。この樹林作業の高速道路樹林に及ぼす影響の把握は,沿道環境保全のみならず地球 環境保全や生物多様性の維持・向上を図るうえでも,重要な手掛かりになるといえる。
そこで本論文は,これまで整備された高速道路樹林を対象に,①樹林化による高速道路 樹林の整備効果と,②樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性を明らかにするととも に,③地域住民の高速道路樹林に対する認識特性を明らかにし,生物多様性と沿道環境に 配慮した新たな管理計画の枠組みを探求することを3つの主な目的として設定した。
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第2章 研究方法
本章では,第1章で述べた3つの研究目的に対応する研究方法を設定した。
まず,樹林化による高速道路樹林の整備効果を明らかにするため,供用後約30年を経過 し,林冠のうっ閉した長崎自動車道の高速道路樹林を対象に,植物社会学的な植生調査,
並びに下層植生の光環境調査を実施した。また,調査対象区間から6.0 km以内に隣接する 常緑広葉樹の二次林,並びにスギ・ヒノキなどの人工林(以下,「周辺林」という)を対照 調査地に設定し比較を行った。
次に,樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性を明らかにするため,高速道路会社 が試行的に樹林作業を実施し約 2 年経過した大分自動車道の高速道路樹林を対象に,植物 社会学的な植生調査,並びに下層植生の光環境調査を行った。樹林作業は,樹林作業後の 樹林としての形態を維持しつつ,作業性や倒木時の影響範囲を少なくすることを踏まえ,
間伐率30 %または50 %の2種類の間伐作業と,樹林作業後の目標樹高を5.0 mとする異 なる4つの高伐作業を組合せた。
第 5 章では,地域住民の高速道路樹林に対する認識特性を把握するため,長崎自動車道 と国道34号の間に位置し,佐賀大和ICから約7.0 km以内にある佐賀市内14,000世帯を 対象に,ポスティングによるアンケート調査を実施した。調査内容は,①高速道路樹林に 対する認識,②高速道路樹林に対する関心,③高速道路樹林の管理計画に対する,評価・
関心,参加意欲などを調査した。
最後に,第 6 章では,高速道路樹林の管理計画を策定するにあたり,樹林化による高速 道路樹林の整備効果と,樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性,並びに地域住民の 高速道路樹林に対する認識特性を踏まえ,生態系に配慮した道路の整備を実現するための,
管理計画のあり方について考察を行った。
以下に各章の概要を述べる。
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第3章 樹林化による高速道路樹林の整備効果
本章では,供用後約30年経過した長崎自動車道の高速道路樹林に関して,出現種の特徴,
階層構造,種数,被度,光環境の特性を明らかにした。
高速道路樹林の単位面積当たりの出現種数は,周辺林の林内環境と同程度であった。樹 林タイプ別の総出現種数は,高速道路樹林が周辺林より多く,木本類,草本類,ツル性植 物,シダ類,タケ類,ヤシ類に類別区分した,類別植物種による出現種数の比率は,周辺 林の林縁環境と同程度であった。
調査地は,高速道路建設時に樹木等の植栽による樹林化を実施し25~30年経過した高速 道路樹林と,補植による樹林化を実施し10年程度経過した高速道路樹林が存在した。
高速道路樹林の階層構造は,高速道路樹林を整備したことにより植栽種を主体とする樹 林を形成することが明らかになった。また,樹林化実施後の10年目には一般的に低木層に 位置付けられる第3階層, 25~30 年目では同様に亜高木層に位置付けられる第2階層が 主体となることを示した。また,高速道路樹林は,林冠より下の階層に植栽種の実生由来 と考えられる個体が出現し,次の更新時にも植栽種を主体とする樹林構成を維持する可能 性を示唆した。
高速道路樹林の平均相対照度は,周辺林の林内タイプの樹林より高く,木本類を除く草 本等植物種,並びにツル性植物種の優占度に対する相関関係が見られた。
以上,高速道路樹林は意図した樹種構成によって,計画的に樹林を成立させられる可能 性を示した。加えて,高速道路樹林の平均相対照度は,周辺林の林内タイプの樹林より高 いため,間伐等の樹林作業によって単位面積当たりの出現種数が増加する可能性を示唆し た。
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第4章 樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性
本章では,樹林作業を実施し約 2 年経過した大分自動車道の高速道路樹林に関して,出 現種の特徴,階層構造,種数,被度,光環境の特性を明らかにした。
目標樹高を設定した樹林作業によって,第 1階層及び第 2階層の被度は回復せず,第 3 階層主体の階層構造となった。樹林作業の強度の高い高速道路樹林は,樹林作業の約 2 年 後も,対照調査地より平均相対照度が高い傾向を示した。
調査地別の総出現種数は,第 3 章における長崎自動車道の樹林タイプ別の総出現種数を 含め解析した。対象面積に対する相関関係は高く,高速道路樹林の植物種の総出現種数は,
周辺林の林縁環境と同様の傾向を示し,樹林タイプや樹林作業に影響しないことが明らか になった。また,樹林作業方法の違いは類別植物種による出現種数の比率に影響しなかっ た。
第 4階層は,全体的にテイカカズラ(Trachelospermum asiaticum (Siebold et Zucc.)
Nakai)の優占する調査地であった。木本類の出現種は,樹林作業前に第1階層に成立して
い た と 考 え ら れ る サ ン ゴ ジ ュ (Viburnum odoratissimum Ker Gawl. var. awabuki (K.Koch) Zabel)やマテバシイ(Lithocarpus edulis (Makino) Nakai)は優占せず,第1 階層の下層に成立していたと考えられるイロハモミジや(Acer palmatum Thunb.)やトウ ネズミモチ(Ligustrum lucidum Ation)など,比較的樹高生長の低い樹種が主体であった。
侵入種は,全伐採したアカメガシワ(Mallotus japonics (L.f.) Müll.Arg.)や,ハゼノキ
(Toxicodendron succedaneum (L.) Kuntze)などの先駆性樹種は,再萌芽等により優占度 が高かった。再萌芽個体は実生苗よりも将来的に優占する可能性が高いため 16),次の更新 時に高速道路樹林の主体的な構成種になる可能性が考えられた。
また,一般的に草本層とみなされる第 4 階層において,季節毎の調査地の優占度を用い
たTWINSPAN分析(二元指標種分析)を実施し,平均相対照度が約17.0 %以上となる春
季の調査地をグループ化することができた。この結果は,同様の優占度による類似度解析
10
においてもグループ化することを確認できた。したがって,樹林作業の強度の高い調査地 は,春季の第4階層に,ネザサ(Pleioblastus argenteostriatus (Regel) Nakai f. glaber (Makino) Murata)など明るい草地を好む植物種の優占する植生になることを示唆した。
以上,樹林作業の作業方法の違いは,作業後の出現種の特性に影響する手掛かりを得た。
11
第5章 地域住民の高速道路樹林に対する認識特性
本章では,第 3 章で調査対象となった長崎自動車道の高速道路樹林沿線において,地域 住民の高速道路樹林に対する認識特性を明らかにした。有効回答は 1,016 世帯(回収率 7.4 %)から得られた。
はじめに,高速道路等の認識及び印象について整理した。外部景観に対して認識する構 造物は,盛土のり面は橋梁・高架橋に次いで高く,高速道路樹林の認識度は,「知ってい る」と「知っているが見たことはない」の回答が合せて約70.0 %あり,高速道路樹林は広 く認知されていた。
現在の高速道路樹林の印象は,高速道路樹林に対する,安心感,清潔感,明るさの3項目 に対する印象を,5段階のSD評価法によって調査した。各項目とも肯定側の回答(選択肢1
及び2:35.0~40.0 %)は,否定側の回答(選択肢4及び5:14.0~22.0 %)より高かった。
また,印象度の両端(選択肢1または5)を選択した回答は,肯定側(選択肢1:12.0~14.0 %)
は,否定側(選択肢5:2.0~3.0 %)より高かった。
次に,高速道路樹林の果たす機能について,沿道環境に及ぼすと考えられる影響を,「景 観」,「文化」,「教育」,「自然環境・生物多様性保全」,「農耕地の病害虫の蔓延防止に対す る効果」,「居住環境」の 6 項目を設定し評価調査を行った。各項目において「良い」と評 価した回答割合は,「悪い」と評価した回答割合を上回った。
また,今後,生物多様性の保全を前提に,高速道路樹林に対して実施すべき樹林整備や 管理作業の調査を行った。植樹,草刈,剪定は,回答の過半数が実施すべきと回答した。
一方,自然に任せた管理や全伐採といった極端な管理計画は,実施すべき作業として評価 されないことが明らかになった。
続いて,一般緑地と高速道路樹林に対する関心事項を調査した。関心事項は「季節変化」,
「緑のある景色」,「野鳥の声」,「虫の声」,「枝葉のざわめき」,「緑陰」に「特になし」を 加え 7 項目を設定した。偏相関行列によって,一般緑地と高速道路樹林の同じ項目間で正
12 の相関関係を示した。
ただし,一般緑地の各項目において関心を示したどの選択者も,高速道路樹林に対する 関心は,視覚的内容である「季節変化」及び「緑のある景色」を選択する傾向を示した。
一方,高速道路樹林の各項目において関心を示した選択者は,一般緑地に対しても高速道 路樹林で関心を示した項目と同じ項目を選択する傾向を示した。したがって,一般的な緑 地に関心を示す地域住民は,高速道路樹林に対しては視覚的な関心項目に偏る特性を示す ことが明らかになった。
最後に,高速道路樹林を通した地域連携のあり方を探求するため,高速道路樹林に対す る鑑賞や散策などのレクリエーション活動(以下,「地域活動」という)に対する関心を調 査した。また,高速道路会社の実施する管理作業や,地域活動に対する回答者の参加意欲 について調査を行った。地域活動への関心は,約41.8 %の回答者が,いずれかの項目に関 心を示した。複数選択した回答の単純集計において,全回答世帯数に対する各項目の関心 割合は鑑賞(44.8 %),散策(32.6 %),工作(28.4 %),学習(26.0 %)の関心は比較 的高く,昆虫採集(8.1 %)や山菜採り(19.6 %)など,生物の採取活動は比較的関心が 低かった。
参加意欲は,約34.0 %の回答者が,いずれかの項目に参加意欲を示した。複数選択した 回答の単純集計において,全回答世帯数に対する各項目の参加意欲割合は,関心割合より 相対的に低く,最大でも鑑賞の12.0 %であった。
以上,高速道路樹林に対する認識状況並びに印象特性,高速道路樹林の機能,及び実施 すべき樹林整備や管理作業に対する評価,管理作業や地域活動への関心並びに参加意欲の 特性を把握できた。
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第6章 生物多様性保全を踏まえた高速道路樹林の管理計画
本章では,樹林化による高速道路樹林の整備効果と,樹林作業による高速道路樹林の植 生回復特性を踏まえ,生物多様性に配慮した高速道路樹林の管理計画について考察した。
また,管理計画に対して地域住民との地域連携の可能性について検討を行った。
生物多様性保全の視点を踏まえると,高速道路樹林の単位面積当たりの出現種数増加は 生物多様性の維持・向上につながると考えられる。しかしながら,樹林タイプや,樹林作 業の短期的な視点では,単位面積当たりの総出現種数の増加に影響しないことが明らかに なった。
一方,高速道路樹林は,樹林化によって植栽種を主な構成種とする樹林を形成し,林縁 環境に近い種組成と総出現種数の傾向を示した。また,樹林作業は,作業方法の違いによっ て,作業後の出現種の特性に影響することを示唆した。
地域住民の高速道路樹林に対する認識特性は,視覚的関心が高く日常生活の景観として 捉えていることが明らかになった。また,多くの地域住民は,現状の高速道路樹林の沿道 環境に与える影響に対して比較的肯定的な評価を示し,皆伐や自然に任せた管理手法以外 の管理計画を望んでいた。
そこで,限られた労力やコストの効率的な配分を踏まえ,樹林整備と樹林作業方法の条 件を整理し,沿道から視認性の高い地域と,周辺が二次林等の自然林で囲まれ視認性の低 い地域など,沿道環境に対応した地域区分を設定することにより,「モザイク型高速道路樹 林」による管理計画を考えた。また,地域住民との協働による管理計画を通して沿道環境 に配慮した新たな管理計画の枠組みを考えた。
このような「モザイク型高速道路樹林」による管理計画は,質の異なる高速道路樹林の 連続的配置を可能とし,高速道路による生態ネットワークによって,生物多様性に配慮し た高速道路樹林の管理計画の発展に繋がると同時に,高速道路樹林と地域住民の新たな関 わり方の発展の可能性を示す手掛かりを得ることができたと考える。
14
本論文中で用いた語句の定義および説明
本論文中で多用し,定義および説明の必要な語句について以下にまとめた。
・うっ閉(鬱閉) 林冠部の閉鎖した状態。
・開空率 樹冠に被覆されていない林冠部の面積比率。カメラ(Nikon D40),
魚眼レンズ(SIGMA 4.5mmF2.8 EX DC CIRCULAR FISHEYE)
により全天空写真を撮影し測定。撮影は,曇天時もしくは太陽の写 りこまない時間帯(朝方または,夕方)に行い,カメラを1.3mの 高さに水平に設置し,カメラの上部が北を向くように撮影。
・階層 各調査地の群落構造について,目視による樹冠の高さを目安に,
林冠を形成する最上層を第1階層,第1階層に達しない樹高5.0 m 以上のみで構成する群落を第2階層,樹高1.5 m以上~5.0 m未満 を主体とする群落を第3階層,樹高1.5 m未満で構成する最下層を 第4階層とし,4つの階層群落に整理区分した(図-1)。
・外来植物(在来植物)外来植物の判断は,(株)全国農村教育協会の出版する「日本帰化植 物写真図鑑 Plant invader 600種」,「増補改訂 日本帰化植物写真 図鑑 第2巻: Plant invader 500種」を参考に判断した。
・供用 道路(高速自動車国道)を,自動車の高速交通の用に供することを いう。
・高速道路樹林 高速道路に造成した盛土のり面を植樹帯として活用し,樹木等の植 栽による樹林化を行い整備した樹林。本論文では,植生遷移によっ て植物種が自然侵入し成立した樹林も,高速道路樹林として扱った。
・高伐(コウバツ) 樹木を目標樹高に切戻す作業。本論文では樹林作業の効果を把握す るため,目標樹高を5.0 mに設定したうえで,高伐方法を設定した。
「高切り(タカギリ)」ともいう。
・高伐強度 樹林作業の試験施工において設定した高伐方法において,自然樹形
15
より目標樹高を優占する手法ほど高伐強度の強い作業と整理した。
・下草刈 樹木等の植栽後に樹木等の育成を目的に行う草刈。樹林内の林床管 理を目的に実施する場合は「下刈り」ともいう。
・樹林化 樹林を整備するため樹木等を植栽する行為。
・樹林作業 高速道路樹林の群落管理のため行う間伐または高伐作業。
・しゅん功 工事が完成することをいう。
・常緑広葉樹林 本論文では,目視にて第1階層の林冠の7割以上を常緑広葉樹が優 占する場合を常緑広葉樹林とした。本研究では,落葉広葉樹が7割 以上を占めるケースはなかったため,それ以下を「混交林」とした。
・植栽種 樹林化のために植栽した植物種。
・植栽実生種 植栽種の実生から発生したと考えられる稚苗等の植物種。
・植生調査 J.Braun-Blanquetが,植物社会学的な植生単位を把握するため整 理した調査手法 17)。出現植物種の種組成を種名,種数,群度,被 度,階層などによって整理する。
・植物相(フロラ) 地域内に生育する植物種のリスト。
・侵入種 自然由来で高速道路敷地内に侵入した,植栽種または植栽実生種以 外の植物種。
・草本等植生 木本類を除く類別植物種の植生の総称。
・稚苗 草本層に出現する木本類の実生苗。
・追加植栽 高速道路の供用後に,うっ閉した高速道路樹林を形成していないの り面を対象に,追加的に実施した樹林化。
・当初植栽 高速道路の建設時に実施した樹林化。
・のり肩/のり尻 盛土のり面の高速道路本線路肩側を「のり肩」,盛土のり面最下部 の民地または側道との境界部を「のり尻」という。
・被度 植物社会学的な調査 17)により調査した。季節単位の分析や断りの
16
ない限り,同一種が同一階層で各季に出現した場合,調査期間中最 大となる被度を用いた。階層を区分しない場合は,全ての階層間で 最大の被度を用いた。
・ベルトトランセクト 高速道路の線形に対し直角方向に,のり尻からのり肩まで一定幅で 調査地を設定し実施する調査。本論文で実施したベルトトランセク トは,道路縦断方向に幅5.0 mでのり尻からのり肩まで設定した。
・ボックスカルバート 主に高速道路の盛土の下を横断するため構築した暗渠。「カルバー トボックス(C-Box)」ともいう。
・実生種 高速道路樹林内で,種子から発芽したと考えられる植物種。
・優占度 被度を6階級の優占度階級で判定し,平均被度の中央値(+:0.1 %,
1:5.0 %,2:17.5 %,3:37.5 %,4:62.5 %,5:87.5 %)に換 算した値17)。
・類別植物種 植物種を生活型の違いに基づき整理した区分の総称。本論文では,
木本類,草本類,ツル性植物,シダ類,タケ類,ヤシ類に区分した。
・路傍植栽 高速道路の盛土のり面及び切土のり面を対象とした植栽。
17
10.0m
5.0m
第4階層 第3階層
上層が無い場合は第1階層 第1階層
第2階層 1.5m
図-1 樹林の階層構造に関する定義 Fig.1 Definition with structure of a forest layers
階層の高さ(m)
第1階層:高さ5.0 m以上の群落で構成する林冠に達する階層群落 第2階層:高さ5.0 m以上のみの群落で構成する林冠に達しない階層群落 第3階層:高さ1.5 m以上5.0 m未満を主体とする階層群落
第4階層:高さ1.5 m未満の階層群落
18
第1章 研究の背景及び目的
本章では,検討課題を明確化するため,高速道路樹林に関する整備の発展と,研究目的 を明らかにした。
1-1 研究の背景
日本の高速道路におけるのり面の整備は,浸食防止を目的として,土工による造成の後 に,外国産の牧草類を用いた植生工が行われる9,10)。盛土のり面には,沿道環境の保全を目 的に,樹林化による高速道路樹林を整備し,その総面積は2014年度末時点で8,000 haを超 えた1-3)。
今日の世界的な環境意識の高まりを背景に,国は,1990年4月以降に樹林化した約6,000ha の高速道路樹林を,温室効果ガスの吸収源の一つとして登録したほか13),2012年に閣議決 定した「生物多様性国家戦略2012-2020」において,生態系に配慮した道路の整備を目標に 掲げた14)。
一方,高速道路樹林の管理計画では,樹木等の生長により,地域住民の要望による草刈 や剪定,並びに道路交通の安全確保を目的とする管理作業が発生する。高速道路樹林以外 を含むすべての緑地管理費用は2018年度で高速道路の維持管理費の1割を上回る4-6)。主 な維持管理作業である清掃・植栽・雪氷・その他修繕における植栽に要する費用の内訳は
23.5~38.6 %を占めており,より適切な管理計画の確立が重要な課題となる。
このような状況の中で,高速道路樹林の整備効果と,樹林作業がのり面植生に及ぼす影 響を明らかにし,生態系に配慮した高速道路樹林の新たな管理計画の枠組みを探る必要が あると考えた。
そこで,本節では,高速道路における緑地整備の発展経緯と,高速道路樹林に関する特 徴,並びにこれまでの研究を確認し,本論で対象とする高速道路樹林に求められる姿を明 らかにした。
19 1-1-1 高速道路における緑地整備の発展
高速道路は,自動車の高速交通の用に供する道路(高速自動車国道)として,全体計画
11,520 kmの網として構成され,基本計画10,623 km,整備計画9,428 kmを策定し,平成
30年4月1日時点の供用延長は8,346 kmである7)。
構造は他の道路,鉄道との平面交差を避け立体交差するため,約 7 割が盛土及び切土か らなる土工で構成される8)。盛土及び切土ののり面の造成において,高速道路会社は,浸食 防止のため,高速道路の整備初期から植生工の技術開発に取り組んだ。植生工の技術が確 立する経緯は,既往文献を基に星子 44)や楠木 9)などによりまとめられ,始めはノシバを材 料として,盛土のり面に筋芝工,切土のり面に張芝工を主に施工していたものの,土木工 事の機械化・大規模化に対応するため,現在の主流である外国産牧草類の使用を前提とし た急速緑化工法を開発したと報告している。
一方,本論文で対象とする高速道路樹林は,高速道路建設時に造成する盛土のり面を対 象に,植樹帯として活用し,樹木等の植栽により樹林化し整備した樹林である。盛土のり 面は,数m~数十mののり長で帯状の敷地形状であり,土配計画に基づいて造成されるた め,高速道路樹林は高速道路の建設以前に樹林のなかった都市や農地の沿線にも整備され る(図-1-1)。樹種構成は常緑や落葉の広葉樹が主体であり,整備目的や種組成の点におい て工場緑地として整備された緑地に類似する(表-1-1)。高速道路敷地内への立ち入りは原 則禁止であるため,高速道路樹林内の環境は,人間の活動による影響が少ないと考えられ る。そのため,高速道路樹林は生物の生息空間を兼ねた生態ネットワークとしての機能も 期待されている10)。
高速道路整備初期の緑化について,大泉18)は「本線内部環境の修景緑化に重点を置いた ものだった」と報告している。名神高速道路の建設に携わった片谷 19)は,建設当時をふり かえり「初期の段階のフロンティアに戻って,地域の自然をいかに道路の中に生かしてゆ くか,現在,再び考える必要がある」と語っていることからも,当時の高速道路の建設思 想が高速道路を利用する側からみて高速道路が日本の国土に馴染むことを重視していた結
20 果であると推察できる。
一方,高度経済成長期である1960年代には,鉱工業等の経済活動による環境影響が社会 問題となる。1970 年 11 月に開催された臨時国会は公害国会と呼ばれるほど,国内の環境 問題に対する意識は高まりをみせた。高速道路においても走行する車両の煤塵や騒音の影 響を理由に「道路=公害」とみなす一部の声もあり18),道路公害を旗印とする道路建設反対 運動があいついで起こり 20),環境問題への対処方法は高速道路の建設において大きな課題 となった。このような状況なかで,国は1974年4月,都市局,道路局,二局通達の「道路 環境保全のための道路用地の取得,及び管理に関する基準について」を発出した 21)。この 通達により原則として植樹帯と遮音壁等を設置する環境施設帯が道路用地として認められ,
1974年10月に環境施設帯の設置基準が定められた10,21-23)。
本格的な高速道路樹林の整備は,環境施設帯の整備が制度化されたのちの,1976 年 10 月の設計要領改訂11)からである。この要領改訂において大泉18)は「旧設計要領では道路内 部環境の修景緑化に重点を置いたものであったが,改訂にあたっては道路外部環境との調 和ある道路緑化を行うようにした。」と報告した。
具体的には,植栽の機能と分類を,交通安全機能,景観造成機能,環境保全機能の大き く 3 つの機能に分類し,沿道環境に対応する植栽計画の定義を示したことを報告した。環 境保全機能を目的とする生活環境調和植栽では,病院や学校など静寂な環境を必要とする 地域を対象に,視覚的遮蔽による心理的効果を期待するとともに,走行車両から発生する 騒音や煤塵による環境負荷を軽減するため,常緑広葉樹を主体とする樹林化を計画するこ ととした。
なお,高速道路樹林には,地吹雪防止を目的とする防雪林や飛砂防止林もある。これら は歴史的に高速道路よりも古くから整備されてきた鉄道林 24-26)を範として整備している。
樹種構成は,一般的にドイツトウヒ(Picea abies (L.) Karst.)等の針葉樹による一斉林を 整備するものである。本論文では,広葉樹を主体とする高速道路樹林を対象とし,これら の樹林は研究対象外とした。
21
1990年代になると,国連は国連地球サミット「環境と開発に関する国際連合会議(1992)」 を開催し,「生物多様性保全条約」,「気候変動枠組条約」を採択した。その後「生物多様性 保全条約(1993 ナイロビ)」,「京都議定書(1997 京都)」を発効し,我が国も批准した。
この世界的な環境意識の高まりを背景に,1994 年 4 月以降,高速道路会社は,「盛土の り面は原則として地球温暖化防止等を目的に樹林化を図る 12)」こととした。高速道路樹林 の機能は,道路植栽の機能として「環境保全機能(地球温暖化防止・大気浄化・騒音緩和 など)」,「景観向上機能(遮蔽・景観調和など)」,「安全向上機能(視線誘導・遮光・浸食 防止など)」に改められた。樹林化の区分は,生活環境保全植栽(沿道の騒音緩和・快適性 向上),自然環境保全植栽(周辺植生との調和・植生遷移の促進)に,農耕環境保全植栽(雑 草・雑木・害虫の抑制・樹高抑制)も追加し,うっ閉した高速道路樹林を完成することに よって多様な機能への対応を図ることを,高速道路会社独自の取り組みとして確立した。
使用樹種は,生活環境を保全する地区では花木,農耕環境を保全する地区では日照や病 害虫に影響の少ない高木性以外の樹種,自然環境を保全する箇所では周辺植生に調和する 樹種など,それぞれの目的とする機能に応じて,より最適な樹種選定を行うようになった。
また,この頃より,樹高0.5~1.5 mの苗木規格の材料のみを用いた樹林化,いわゆる「苗 木植栽方式」による樹林化を導入した。
樹林化の取り組みは,「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(2005年公布及 び告示)」を踏まえ, 1990年4月以降に樹林化した高速道路樹林約6,000haを,国は温室 効果ガスの吸収源の一つとして登録した13)。
生物多様性保全条約の第 6 条では,各国政府(締約国)は生物の多様性の保全及び持続 可能な利用を目的とする国家戦略を策定することが求められることとなった。この生物多 様性保全条約の発効後にこれを批准した各国政府は行動計画を策定した。行動計画の基本 的な考え方は「社会の持続的発展のため,生物多様性を構成する資源の持続可能な利用を 推進する」こと,および「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な分配」である。
この行動計画において,我が国の道路事業は,生態系に配慮した取組を進めるため,「地
22
域によっては,道路整備にあたって周辺の自然環境の現状に配慮しながら,植栽の樹種な どを工夫すること」や,「道路事業に伴い発生した盛土のり面などについては,既存ストッ クも含めて,地域の気候や土壌などの自然条件に最も調和した植生の活用などにより再緑 化を行い,できる限り自然に近い状態に復元」などの具体的施策を掲げた(図-1-2)14)。
1996年に開発された「地域性苗木」は,高速道路建設予定路線の周辺地域に生育する植 物の種子等を育成した苗木であり 27),自然環境復元の要求水準の高い地域において,行動 計画に対応する具体的施策に資する緑化技術であると考えられる。
高速道路樹林の管理計画は,樹木育成のため下草刈等の育成作業を樹林化直後から 5 年 程度行う。それ以降は,地域住民の要望や,円滑な道路交通の確保のため,草刈や剪定・
伐採を必要最小限の範囲で行う。しかしながら,高速道路樹林の目標形は明確でなく,林 業で行う除伐や間伐などの計画的な作業は行っていない。また,これらの履歴は,工事完 成図や管理台帳によって,高速道路樹林の整備及び管理記録を整理した場所もあるが,樹 木の生長や侵入植物種の記録など植生の変化に関する記録は十分でない。
高速道路樹林は,大きくなりすぎると苦情対象として伐採や高伐する事例が多い。一方,
温暖湿潤な日本の気候下では,樹林化を行っていないのり面や,高速道路樹林を伐採撤去 したのり面は,継続的な管理作業を行わないと藪化し,更なる草刈等の要望の要因となる。
また,草刈や除草剤散布は,小面積であれば軽作業であるが,高速道路樹林の無い盛土の り面は広大であり,草本類の繁茂する酷暑期に作業を要するため労務環境も良いとはいえ ない。また,防草対策として防草シートを設置する事例もあるが,防草シートは設置コス トが高く景観的な課題もある。
近年は,道路構造物等の老朽化や,気象災害の激甚化が,円滑な道路交通の運用を行う うえで課題となっている。高速道路樹林においても,樹木枯損等による倒木リスクや,管 理コストの増加を抑制する必要性が高まっている。高速道路会社は,それらの課題に対応 するため管理計画策定を急いでおり,いくつかの路線では高速道路樹林の管理モデルを設 定し,樹林作業の試験施工を行っている15)。
23
図-1-1 盛土のり面の樹種別植栽可能範囲28)
Fig.1-1 Area available on man-made filled slopes for planting tree species
路傍(外部) 路傍(内部)
環 境 保 全 の た め に 樹 林 化 を 図 る 範 囲
H=4700 (1000)
H=4500
遮音壁
のり尻・のり肩 からの距離
樹種特性別
樹種 高木性
1.0 2.0 3.5
単位:m 成木,未成木及び苗木 成 木 , 未 成 木 備 考
中木性
( 用 地 境 界 側 )
走行景観・交通 安 全 の 向 上 を 図る範囲
3.5 2.0 1.5
植栽可能範囲
2m 低木性
地被類 2m 1m
:植栽可能範囲
※ 路 傍 ( 内 部 ) の 上 段 は 遮 音 壁 な し , 下 段 は 遮 音 壁 あ り の 場 合
※ 水 平 距 離 と す る
3800
(700) 建築限界 施工限界高
( 本 線 側 )
3.5m
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表-1-1 主な緑地の特徴と管理計画の特性
Table1-1. Principal characteristics of green space and management theory 高速道路
樹林
工場
緑地 街路樹 都市
公園
自然 公園
農地
(果樹園)
造林地
(人工林)
整備に関する
関係法令 道路法 工場
立地法 道路法 都市 公園法
自然
公園法 農地法 森林法
主な 整備目的
沿道環境
の保全 環境保全
良 好 な 道 路 交 通環境・良好な 生 活 環 境 保 全 の確保
公共の 福祉増進
自然
保護 営農 営林
規模/箇所※1
数~数十 m (のり長) 数十~数百 m
(延長)
緑地は敷地 の 20 %以上
1.5 m
(標準幅員)
数十~数百 m (延長)
0.25 ha 以上
数百 ha 以上
10 a 以上
1 ha 以上
登録面積※2 5,865 ha
(263.9ha) 15,213 ha
62,293.3 ha
1,062 千 ha
280 千 ha
10,070.6 千 ha 緑地の
敷地形状 帯状 工場敷地外周 帯状 面状 面状 面状 面状
緑地の 敷地管理
敷地境界 のみ
敷地境界
のみ ○ ○
登山道等 の立入箇 所のみ
○ ×
管理者以外の
立ち入り × × ○ ○ ○ × ○
主な植栽種
(高木性木本類)
複数種の 広葉樹
複数種の 広葉樹
区間ごとに ほぼ単一種
複数種の 広葉樹
自然林 単一 果樹
単一 針葉樹
植物の侵入 あり あり なし 部分的に
あり あり
営農に影 響ない範 囲であり
営林に影 響ない範 囲であり 樹木等の
計画的管理 × × ○ ○ × ○ 〇
※1.自然公園は統計上の最小規模,農地,林地の規模は統計上の最小単位を参照
※2.日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2019年13) における登録面積。工場緑地面積は登録がないた め,経済産業省の統計データ(工場立地動向調査 平成30年 個別表リスト29))の合計敷地面積を20%で 試算した面積。
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[生物多様性国家戦略 2012-2020]
第3部 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する行動計画 第1章 国土空間的施策 【広域連携施策】
第4節 環境影響評価など
2.環境影響の軽減に関するその他の主な取組(具体的施策)
○ 道路事業の実施にあたっては,次の点に配慮しつつ,引き続き生態系に配慮した取 組を進めます。(国土交通省)
①自然環境に関する詳細な調査,データの集積に取り組むとともに,それを踏まえた 上で,必要に応じて,豊かな自然を保全できるような路線の選定や,地形・植生の大 きな改変を避けるための構造形式の採用に努めます。
②動物の生息域分断の防止や,植物の生育環境の保全を図る観点から,動物の道路横 断構造物や,動物注意の標識を設置するなど,生態系に配慮した道路の整備に努めま す。
③道路事業に伴い発生した盛土法面などについては,既存ストックも含めて,地域の 気候や土壌などの自然条件に最も調和した植生の活用などにより再緑化を行い,でき る限り自然に近い状態に復元します。
④地域によっては,道路整備にあたって周辺の自然環境の現状に配慮しながら,植栽 の樹種などを工夫することにより,動植物の生息・生育環境の形成に積極的に取り組 みます。評価に反映させるよう努めていきます。
図-1-2 「生物多様性国家戦略 2012-2020 ~豊かな自然共生社会の実現に向けたロード マップ~(平成24年9月28日),pp.135-136」(道路事業に関する具体的施策抜粋)14) Fig.1-2 “The National Biodiversity Strategy of Japan 2012-2020”
Roadmap towards the Establishment of an Enriching Society in Harmony with Nature (28th September, 2012), pp.135-136(excerpts from “the implementation of road projects”)
26 1-1-2 高速道路樹林の特徴とこれまでの研究 1.高速道路樹林の整備に関する研究
これまで,高速道路樹林の整備効果は,樹林化を伴わない植生回復の事例として吉田
30-33)・亀山34)-40)らが,植生工の施工後18~19年まで追跡調査を行い,植生工後ののり面
植生の遷移モデルについて明らかにした。これら一連の研究により,植生工のみ実施した 場合は,その後の自然遷移によって,一次植生→ススキ群落→アカマツ群落又はヤシャブ シ群落という進行遷移の系統と,遷移の途中段階でニセアカシア(Robinia pseudoacacia
L.),クズ(Pueraria lobata (Willd.) Ohwi)が優占する偏向遷移系統があることを指摘し
た。
その後,星子41-44)は,植生工の施工後32~33年の吉田・亀山の調査地において,アカ マツ(Pinus densiflora Siebold et Zucc.)とヤシャブシ類の混交する樹林は,植生工の施 工後30年を超えても混在するものの,ヤシャブシ類が次第に衰退する樹林があることを 示唆した。また,自然侵入種は一次植生→風散布木本種侵入期→風散布木本種優占期→鳥 散布木本種侵入期と変化することを推察し,植物種の自然侵入による樹林成立メカニズム を明らかにした。
一方,樹林化を伴う高速道路樹林の調査報告事例については,三沢ら 45)が樹林化から 9 年経過した日光宇都宮道路の高速道路樹林を対象とする植生状況の報告を行った。報告内 容は,①林床植生に植栽由来の植物種が多く侵入すること,②植栽木を休憩場所とする鳥 類が種子供給すること,③盛土のり面ののり尻側の出現植物数が多くなることなど,樹林 化の植生回復に及ぼす影響の可能性を指摘した。また,高速道路樹林の温室効果ガスの吸 収効果について,増田らの報告 46)があるほか,温室効果ガスの吸収量の試算は,国によっ て算定式が構築されている13)。
このように,高速道路樹林については植生工後からの植生遷移を研究した事例は多くあ るものの,樹林化を伴う植生に関する研究は少なく,三沢らの事例も調査対象範囲が限ら れ,かつ9年目までの追跡調査にとどまっている。
27 2.高速道路樹林の管理計画に関する研究
高速道路樹林の管理計画は,一般的に樹木育成のため下草刈を樹林化後数年間行うもの の,それ以降の管理作業は,敷地境界の草刈や剪定を除き,育成・管理の作業計画はない。
しかし,倒木事象の増加や,肥大化した樹木の管理コスト増加を抑制するため,高速道路 会社は高速道路樹林の管理計画策定を急いでおり,いくつかの路線では管理モデルを策定 し,樹林作業の試験施工も行っている15)。
これまで,高速道路樹林の管理計画については,管理計画の取り組み状況に関する報告 があるほか 15,23,47-48),自然侵入により成立した実生林(1979)49),植栽種によって成立し た高速道路樹林(1991)50)を対象として,密度管理手法を検討し試行的な間伐を行った高 速道路会社の報告書はある。ただし,いずれも樹木の健全性確保を目的とした管理計画で あり,種の多様性など生物多様性の視点をもった管理計画に関する研究は乏しいのが現状 である。
高速道路樹林に類似したフィールドでの研究は,薪炭林などの里山(以下,「里山」とい う),工場緑地,社寺林などを対象とする広葉樹二次林等を対象に,管理計画の植生に及ぼ す影響を研究した事例がある16,51-57)。
里山を対象とした研究では,里山の再生を試みる作業として,里山を代表する落葉広葉 樹林に誘導するために,植栽管理を実施した研究がある。
山瀬 16,54-55)は,松枯れの被害を受けたアカマツ林における適切な植生管理方法の確立を
目的とする研究において,樹種による萌芽再生の特徴を明らかにした。また,夏緑型環境 高林の再生を目指した研究において,光環境の改善によって,目的とする樹種の樹高成長 が大きくなることや,伐採前の種組成が,萌芽再生によって種組成に影響することを指摘 した。同様に,山崎ら56)らは,里山を対象とした研究において,アカマツ・コナラ(Quercus
serrata Murray)等の優占する二次林では,常緑広葉樹の伐採後に,光環境の改善によっ
て,種数の明瞭な増加が認められることを指摘した。真鍋ら57)は,二次林の伐採に対する,
28
植生変化を調査し,ヒサカキ(Eurya japonica Thunb. var. japonica)の萌芽特性に関して,
5~20年生までの個体の再生力が高いことを明らかにした。
これらの研究の多くは,特定樹種の伐採により期待する樹種等の萌芽再生の特性を述べ たものであり,樹種を問わず間伐したものではない。また,高速道路樹林の樹林作業で行 う高伐は行っていない。
樹林作業後の林床植生の種組成では,散策等のレクリエーションの可能な明るい里山の 樹林再生を目指し,下刈りによって望ましい種組成に誘導する研究がある。重松 51)は,林 床植生の光環境が林床植生の管理計画をたてるうえで重要な要素であり,下刈りの必要性 を指摘した。このことからも,樹林作業による光環境の変化は,林床植生に対しても影響 を与えるといえる。
しかし,これらの研究は,いずれも高速道路樹林のような,常緑広葉樹と落葉広葉樹の 混交林の成立を目標としていないため,樹種を問わない樹林作業の状況を再現できるもの とはいえない。また,高速道路樹林で実施するような高伐による樹高抑制に関する知見は ない。
3.地域住民の緑地に関する認識に関する研究
井出 58)は,道路には建設者・利用者・周辺住民の三者が係わっているが,建設・計画や 管理に利用者や地域住民の意思が反映されるシステムができていないと指摘した。高速道 路樹林は,高速道路建設時に地元説明等を通じて,ある程度の意思は反映されるものの,
地域住民の意思を管理計画に反映するシステムは,不定期に発生する苦情対応等を通じて しかない。したがって,計画的で効率的な管理計画を実現するためには,現在の高速道路 樹林に対する地域住民の要望を正しく認識し,沿道環境の保全機能を最大限発揮させる必 要がある。
高速道路を対象とした認識に関する既往研究は,篠原ら 59-61)は,視点場と主対象の関係 から高速道路景観を外部景観と内部景観を分け,それぞれの景観の操作論として把握を行
29
い,評価構造や評価規定要因を分析した。この報告により,高速道路樹林のある盛土のり 面を外部景観として捉えると,盛土のり面は地域景観の1つの構成要素であり,日常空間・
観光レクリエーション空間,通過空間,多様な利用形態(被目的的利用)と定義した。ま た,その構造特性から,景観場の調和性の獲得,公共的視点への直接的影響力の軽減を求 められると指摘した。また,森ら 62)は高速道路の外部構築物の代表として外部景観として 高架橋の景観評価を行い,評価者の属性によって構造物の外観や細かなデザインなど着眼 点に違いがあることを示した。
高速道路の緑地に関しては,三沢・豊田63),石川ら64)などが,内部景観として景観評価 を行った研究事例がある。一方,外部景観として評価した事例は,三沢・宮下 65)は,環境 施設帯や道路のり面を利用した植樹帯の計画において,植栽は沿道の現在及び将来の土地 利用状況を十分に調査したうえで,植栽の規模および型式を決定する必要性を指摘し,時 間的な対応や景観との対応を踏まえたいくつかの事例を紹介した。三沢・伊藤 66)は,環境 施設帯における「緑地帯」は,大気浄化,遮音,遮蔽などの物理的な植栽機能を第 1 義的 目的として考慮しつつも,緑地帯の有する心理的・審美的な効用,公園的な利用,あるい は微気象緩和など道路側からの環境インパクトに対して,別の環境質の向上によって代償 的に対応させる必要があることを指摘した。また,高速道路会社は,樹林化後10~20年経 過した高速道路樹林に対する沿道住民の意識を把握し,機能評価や道路構造との関連性を 報告するとともに,3つの管理区分(のり肩,中腹,のり尻)を設定した管理方針の提案を 行った67)。
このように,これまで高速道路樹林を対象とした研究は,設計計画において認識特性を 把握した研究はあるものの,経年的に生長した高速道路樹林に対する地域住民の認識特性 を学術的に把握した例は少ない。
一般的な緑地の認識に関しては,街路樹や生垣の道路緑地や公園などの都市緑地を対象 に,これまで多くの研究がなされている68-72)。増田ら69)は,主婦の日常的な生活行動にお いて,緑は移動といった行動を通じて認識する特性があること,公園や社寺林といった面
30
的な緑地よりも,生垣や街路樹といった線的な緑地に対する認識度が高いこと,並びに行 動圏域が広がり遠方になるほど公共的な緑地に対する認識が高まることを明らかにした。
高橋ら70)は,緑のレクリエーション効果に着目し,住民の2人に1人は,日常的な行動圏 域において日常的に親しみのある緑地をもっていることを指摘した。井上ら 71)は,道路ラ ンクが大きくなるほど,地形的に高くなるほど,緑地が「見られる」対象として認識され ることを明らかにした。
以上の既往の文献および研究から,居住地域を中心とした緑地に対する認識は,規模が 大きいほど認識度が高まり,かつ日常生活の中で親しみのある緑地を持っていることが明 らかとなっている。
満足する緑地の規模について,緑地があることによる住民の意識調査において,浅川 72) は,緑地を含むオープンスペースの割合が高くなり最大29.0~33.0 %の樹木地があると,
住民の満足度が80.0 %になることを明らかにした。また,亀野・八田73)は,街路樹の樹高
(H)の評価は,道路幅員(D)に対する比率(D/H)が高まると評価が上がり,0.6 で最 も望ましい評価傾向になり,さらに樹高が高まると評価は下がることを明らかにした。こ れらの指摘は,住民が満足する緑地の最適な規模があることを指摘しているといえる。
以上のことから,本論文では,高速道路樹林の管理計画を策定するうえで,樹林化した 高速道路樹林を対象に,現状の地域住民の認識特性を把握し,沿道環境に対して高速道路 樹林の機能を最大限発揮できる手掛かりを得る必要がある。